あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第四部 第3話 『北花壇騎士、再び 下』


 妙に水没した家が多い湖を越え、韻竜はタバサの実家―オルレアン家に到着した。

「まさか、タバサの実家って・・・王弟家だったの・・・」
「な!?紋章に、ふめい…ゴホンおほん!」
 キュルケは屋敷の入り口に刻まれたガリア王家の紋章を見て絶句していた。ルイズは王
家の紋章『二本の交差する杖』の上に書かれた、バッテン印の傷~不名誉印を見て、タバ
サの前でそれを口にしそうになって咳払いして誤魔化す。


「お嬢様、お帰りなさいませ」
 屋敷の入り口に降り立った一行は、老僕に出迎えられ、客間へ案内された。
 邸内は手入れは行き届いているが、しんと静まりかえっている。

 まずお父上に挨拶したい、というキュルケとルイズの申し出に、タバサは「ここで待っ
てて」とだけ言い残し、客間を出て行った。
 キュルケとルイズは、というよりジュン以外はソファーで大人しく待っていた。ジュン
だけはどうにも落ち着かない。何しろ王族の大邸宅など、庶民の彼に落ち着いてくつろぐ
雰囲気ではない。傍らのデルフリンガーに「どっしりかまえとけよ、なめられんぞ」と、
たしなめられている。

 ほどなく、先ほどの老僕がワインと紅茶とお菓子を持って、テーブルに並べていく。老
僕は恭しく礼をした。
「このオルレアン家の執事を務めておりまするペルスランでございます。おそれながら、
シャルロットお嬢様のお友達でございますか?」
 キュルケは頷いて自己紹介した。
「ゲルマニアのフォン・ツェルプストー」
 ルイズは、ちょっとためらった後に自己紹介した。
「トリステインのラ・ヴァリエール。
 え~と、実は私達、タバサに連れてこられたの。でも、シャルロットって、タバサの本
名?」
「それに、どうして不名誉印を掲げてるの?あの子、何も話してくれないのよ」
 ルイズとキュルケの質問に、老僕は切なげにため息を漏らし、語り始めた。


 本名、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。
 ガリアの王族で、謀殺された王弟オルレアン公の娘。また、母親も毒で心を狂わされ拘
束された。
 「タバサ」と言う名は、母がまだ心を狂わされる前、シャルロットに送った人形の名。
 心を狂わされた母は、人形を『シャルロット』と思い込んでしまう。だからタバサは自
分の名を『タバサ』と名乗っている。
 母が目の前で狂って以来、快活だったシャルロットは言葉と表情を失う。
 その後は、伯父王ジョゼフ派によりトリステイン魔法学院へ厄介払いに留学。
 今も、何か厄介事が起こる度に呼び戻されては、服務中の死を目的として危険な任務に
従事させられる・・・

「今、お嬢様は、奥様に会っておられます…心狂わされ、人形を娘と思いこみ、実の娘を
王宮からの刺客と恐れ罵る、奥様に…」

 『雪風』、それはタバサことシャルロットの二つ名。
 皆は、その名の意味を、重さを、あの小さな体に背負わされた過酷な運命を知った。
 彼女の胸に吹きすさぶ、吹雪を。


 執事の話が終わり、皆が黙って顔を伏せていると、客間の扉が開いた。タバサが入って
くる。狂った母に会ったばかりのタバサが。
 その顔は、僅かに額に傷があるが、さっきと何も変わらない無表情な真顔だ。そう、何
も変わらない、いつものタバサ。だが、今の彼等には、その当たり前な顔が痛ましい。
 翠星石と真紅が、何も言わずトコトコとタバサへ歩み寄る。
 その後を追うように立ち上がったルイズとキュルケを、ジュンが腕を上げて制した。哀
しげな二人の少女を、少年の瞳が押しとどめる。

「翠星石、真紅も・・・頼む」
「頑張るです。でもまずは、様子を見てくるです」
「もし、今の私達の力だけで足りなかったら」
「分かってる…僕も、行くよ」
 人形達は、タバサに連れられて客間を出て行った。


 二人の少女は、何も語らず俯いている。ジュンも同じだ。
「なぁ、ジュンよ…治療とやらに、どれくらい時間かかるんだ?」
 おずおずと、デルフリンガーが尋ねる。
「ミーディアム、つまりエネルギー源の僕無しでは、nのフィールドで活動出来るのは、
せいぜい30分なんだ。だから、そんなに時間はかからないよ」
「そっか・・・」
 それ以後、デルフリンガーすら、何もしゃべらなかった。30分には満たない時間が、
彼等には何時間にも思える。


 ほどなくして、タバサは人形達を連れて戻ってきた。結果は、聞くまでもなかった。翠
星石も真紅も、暗い顔で俯いたまま、ジュンを呼んだから。
 彼は立ち上がり、剣を持たず、ベルトに付けていた短剣も置いて歩いていく。
「一応、武器は何か持っておかないと・・・」
 武器がないとルーンが発動しないんじゃないの?と言いたげなルイズに、胸元から金属
のネックレスを取り出して示した。
「これがあるから大丈夫」
「何それ?指輪・・・が横に並んでるだけに見えるけど」
「そう見えるでしょ?だからいいんだよ。手につけてても、ハルケギニアでは変な指輪と
しか思われないから、多分タバサさんのおばさんを刺激しない」
 ネックレスから外した小さなメリケンサックをポケットにしまって、タバサの後をつい
ていった。


 タバサは屋敷の一番奥の部屋をノックした。返事はない。
 タバサは扉を開けた。
 殺風景な部屋だった。ベッドと椅子とテーブル以外、他には何もない。開け放した窓か
らは爽やかな風が吹いてカーテンをそよがせている。
 そこには、女性がいた。おそらくは30代であるはずの、痩せた女性が。

「おのれ!また来たのか無礼者!何度来ても、可愛い我が子を渡しはせぬ!」
 やつれきった50代に見える女性。のばし放題の髪から、らんらんと目を光らせタバサ
達を睨み付ける。

「下がりなさい!下がれ無礼者!!下がらぬか!!」
 女は人形を抱きしめている。人形の顔はすり切れ、綿がはみ出している。

「ああ、ごめんなさいシャルロット。せっかく寝ていたのに、起こしてしまったね。大丈
夫、母があなたを守って見せます・・・」
 母が、いとおしげに人形に語りかける。わが子の名を呼びながら、人形に何度も頬ずり
をする。
 見れば、床にはグラスの破片が散らばっている。恐らく、先ほどタバサの額に投げつけ
たのだろう。

 タバサは、何も言わず立ち続けていた。娘の代わりに人形を愛する母を、見つめ続けな
がら。
 翠星石も、真紅も、ジュンも、視線を床に落としている。直視出来ない。

 翠星石は手から緑の光り――スィドリームを放つ。
「ひぃいっ!くっ来るな!来るなぁ!!」
 怯え叫ぶ母の上を緑の光りが飛びまわる。とたんに、母は意識を失い倒れ込んだ。

 倒れた母の上には、雲とも穴ともつかない、もやもやとした『何か』が現れた。精神世
界『nのフィールド』、意識を失う女の夢への入り口だ。
 非常にあやふやで見つけにくい、夢への扉。それを容易く見つける事が出来るのが、翠
星石と蒼星石『夢の庭師』としての力の一つだ。

「ジュン、先に言っておくです。無理だと思ったら、すぐ言うです」
「これは、恐らく、とても辛いものよ。悪くすれば、あなたまで・・・」
 扉の真下に浮く人形達が、心配げにジュンを見る。
「大丈夫、連れて行ってくれ」
 夢の扉へ歩み寄るジュンの後を、タバサもついていこうとする。
「タバサさん…あなたは、ダメですぅ」
「あなたが来ても、苦しむだけよ」
 ジュンだけを連れて、人形達はnのフィールドに入っていった。



 そこは、黒かった。
 薄暗いとか、暗いのではない。黒い。
 空にも、どこにも、まったく光が見えない。あるのは墨汁を塗ったくったような、いい
加減でデタラメな、黒。

「ホーリエ!」「スィドリーム!」
 二つの光りが輝いた。輝いたハズだ。だが、それでもぼんやりとした紅と緑が、黒い中
にぼんやりと浮いただけ。その周囲の黒を払う事はおろか、人形達の姿すら見えない。
「ジュン、お願いするです」
「ああ」
 真っ黒な世界の中、ジュンは右手にメリケンサックを着けた。彼の左手の包帯と指輪が
輝く…もし見えるのなら、だが。ルーンの力を指輪を通して薔薇乙女に送る。

「ホーリエ!もっと強く瞬いて!」「スィドリーム!周りを照らすですぅ!」

 二つの光りが、強く強く輝いた。真昼の太陽のように、強く。
 ・・・輝かなかった方が、よかったかもしれない。
 ジュンは、自分がどこに立っているのか、見てしまった。

「・・・?…ぅ、ううあ・・・ぎゃあああああああああああああっっっ!!!」

 靴は、汚泥の中に半分埋まっている。どす黒い汚泥に。
 足下の汚泥の上には、虫がいた。
 地面一面をビッシリと、小さく真っ黒い虫がはいずり回っている。ダニともムカデとも
つかない、意味不明の形をした虫が。いや、上だけではない。汚泥が絶え間なく細かく波
打っている。汚泥の中にも数え切れないほどの虫が蠢いている。
 その中に、靴が半分埋まっていた。そして、その虫たちが足に這い上がろうと

「ジュン!つかまって!!」
「ひぃぃいっ!ひぃ!!」
 紅く輝く真紅に宙へ引っ張り上げられたジュンは、必至で足を振り回し、黒い泥と小さ
な虫を振り落とす。
 虫たちは、光りに追われて汚泥の中に潜っていった。

「こ・・・これは・・・うぷっ」
 ジュンは、人工精霊達に照らされた世界を見て、二の句が継げなかった。吐き気すら催
してくる。

 汚泥の中に沈みゆく、壊れかけのオモチャの家。
 家の中には人形の住人達。どれも朽ち果て、崩れかけている。
 まるで子供の落書きのような影の塊が、家の間をずりずりと歩き回る。
 汚泥のあちこちに、何故か裂け目がある。底の見えない黒い裂け目が。
 耳を澄ますと、何かが聞こえる。耳障りな、呟くような、罵るような、何かの声が。周
囲の黒い世界全てから、呪詛の如く響いてくる。…虫の鳴き声だ。
 その世界自体も不安定だ。そこかしこで歪んだり、傾いたり、伸びたり縮んだりしてい
る。自分の上下すら分からなくなり、平衡感覚が狂いだす。

「ジュン、大丈夫です?無理なら引き返しても」
「だ、大丈夫だよ。翠星石、この人の『樹』を探そう。精神の樹を」
 口を拭いながらも、ジュンは逃げようとはしない。
「強くなったわね、ジュン。それじゃ、行きましょう」
 3人は、黒い世界を飛び回る。どこかにある樹を、人の精神を象徴する樹を探して。



「・・・これ、です・・・」
 翠星石が、一本の樹の前に浮いた。それが、まだ樹と呼べるなら、だ。
「まだ、生きてるのか?この有様でも」
「ええ・・・こんな姿でも、ちゃんと生きているわ。いえ、恐らくは…苦しめるためだけ
に、あえて生かされているのよ」
 二人とも、その樹を見つめていた。かなり背の高い樹を。

 それは、朽ちかけていた。いや、既に倒れかけていた。
 あちこちが腐り、カビのようなものが覆っている。
 枝は、ほとんどが枯れて折れている。
 葉は、さっきの小さな黒い虫がまとわりつき、食い尽くそうとしている。
 根は、汚泥の中に伸びている。どうみても何の養分も得られそうにない、汚泥の中に。
 幹は、太いツタのような巻き付き、締め上げている。皮肉にも、そのツタが汚泥の地面
まで伸び、支えとなって樹が倒れるのを防いでいた。より長く、苦しめるために。

「出来るだけのこと、するです・・・」
「そうね…たとえ気休めでも、一時的にはなんとか出来るかもしれないわ」
「だな。このままじゃ、とても帰れない」
 二人は如雨露とステッキを手にする。ジュンはさらに指輪を輝かせ、二人に力を送る。

 真紅は人工精霊の光で、虫を追い払った。
 翠星石は、慎重に慎重に樹へ水をまいた。ツタをよけて、樹にだけに養分を送るよう。
 ジュンは、せめて樹に取り付く虫を減らそうと、汚泥の中に足を浸し、必至で虫を踏み
つぶす。


「・・・これ以上は、蒼星石でないと、無理ですぅ・・・」
「悔しいわ。庭師の鋏さえあれば、ツタや枯れた枝を落とせるのに」
「今は、これが限界なのか・・・しょうがない、戻ろう」
 3人は、母の樹を後にした。少しだけ見栄えが良くなり、取り付く虫が減った樹を。




 扉から3人が出てくると、タバサは相変わらず無表情に立っていた。だが、その手は白
く色を失うほど、強く杖を握りしめていた。
 ジュンは、扉から降り立つと同時に、部屋を飛び出した。廊下で膝をつき、激しく嘔吐
する。
 呼吸を落ち着け、再び部屋に入った時、ちょうど痩せこけた母が目を覚ました。
 ぼんやりと周囲を見渡している。そして床に落とした人形を見つけると、慌てて駆け寄
り抱き上げた。

 ―――ダメだった―――

 彼等の脳裏に諦めの言葉が浮かんだ瞬間、母は少女達に向き直った。
「―――・・・あら、そなた達は…誰です?何用ですか?」
 最初の剣幕は、消えていた。落ち着いて、見知らぬ少女達に問いかけてくる。

 タバサは、杖を落とした。




 館では、小さな宴が開かれていた。
 牢獄である館の主と、老いた使用人達が、精一杯に作った夕食。
 タバサの母は、正気を取り戻したわけではない。そんな事は皆分かってる。それでも屋
敷の人々は、穏やかに話が出来るようになった姿に歓喜した。たとえそれが一時的なもの
でしかなくても、5年ぶりに彼女の在りし日の姿を見れたのだから。
 客人をもてなさないといけないというのに、客間の壁際に慎ましく控える事も出来ず、
老僕達はじめ使用人達は、肩をたたき合い喜び合っていた。
 ささやかながら、心をこめてもてなされる少女達。だがジュンの姿はない。nのフィー
ルド内で、余りにも力を使いすぎ、倒れてしまった。彼は来客用の貴賓室に運ばれ、巨大
なベッドの上で寝込んでいた。


「大手柄だな、ジュンよ。おでれーたぜ、まさかローゼンメイデンって、こんなことまで
できるたぁよ!」
「僕は、何にもしてないさ。みんな翠星石と真紅と、ルイズさんのルーンの力だよ。
 ・・・ローゼンメイデンは本当は、こういう事のために生まれてきたんだと思う。戦う
ための力なんて、おまけみたいなもんなんだよ。きっと」
「かもしれねぇな。ホント凄すぎるわ、あいつら。おでれーたぜ、ホント!」
 ベッドの横に立てかけられたデルフリンガーと、のんびりとおしゃべりしていた。

 コンコン
「開いてるよー」
「調子はどう?」
「うん、もう大丈夫だよ。起きれる」

 入ってきたのはルイズだ。手に持ったお盆には食事が乗っている。ベッドサイドのテー
ブルに盆を置いて、椅子に座る。

「あ、わざわざ持ってきてくれたんだ。ありがと」
「持ってきたっていうかさぁ、キュルケから、う、ううう、奪い取ったのよ!あぁんの女
狐ぇっ!下心丸見えだっつーの!
 ジュン、やっぱりあの女、殺っちゃいなさい!」
「あははは・・・まぁまぁ、キュルケさんだって、悪い人じゃないんだし。きっとルイズ
さんの良い友達に」
「ならないわよ!」
 プイと顔をそむけるルイズを見て、ジュンは苦笑いを浮かべた。
 よっこらせ、と体を起こす。
「あのさ、ルイズさん。実は真紅と翠星石とで、決めた事があるんだ。これは、ねえちゃ
んも知ってる」
「シンクとスイと、一緒に…?」
 ジュンは真っ直ぐルイズの赤い瞳を見つめる。ルイズは不安げに、彼の次の言葉を黙っ
て待っている。

「ルイズさんが軍へ志願するなら、僕らもこの戦争に参加する」
「なっ!?」
 ルイズは、驚いて口がポカンと開いてしまった。
「・・・で、でも!あなた達は…その…」

 目を伏せて、言いにくそうにつぶやく。使い魔でも、ないのに…と。


「もしかして、この前の学院襲撃とか、気にしてる?」
「うっうっさいわね。…そうよ、あたしのせいで、あんた達がアルビオンに狙われたよう
なもんなんだから。これ以上は、あんた達に迷惑かけられないでしょ?」
「だから、ルイズさんが戦争で危ない目に遭うのものも構わず、地球へ逃げろ…て言う
の?」
「う、うん・・・だって、あなた達には、どうでもいいじゃないの。トリステインも王家
も」
「そうだよ。そんなの関係ない。
 僕らにとって大事なのは、ローザ・ミスティカを探す事と、蒼星石・雛苺を蘇らせる手
段さ。
 でもさ、ルイズさん…」

 掛け布団をのけて、ベッドの端に腰掛ける。ルイズと真正面に向き合う。

「友達が困ってるのを、死にそうになるのを見過ごすなんて、絶対にしない。もう僕は、
戦いから逃げない。大事な人たちと一緒に、生きるためにね」
「ジュン…」

 ルイズの頬が、朱く染まる。その瞳には涙が浮かぶ。

「召喚される直前まで、僕らは、いや、薔薇乙女は命がけの戦いをしていたんだ。その最
中、僕は敵にトドメを刺そうとした真紅に、『もう止めよう』と言ってしまった。そのせ
いで敵の反撃を受け、真紅は一度、死んだんだ。いや、本当は翠星石も、他のドールも、
みんな、死んだ。
 ・・・ウジウジと言い訳ばかりして、戦いから目を逸らし続けた、僕のせいだ。
 今、たまたまローゼンが来てくれたおかげで、あいつらは蘇れた。でも、ルイズさんは
蘇れない。この戦争で死ぬかも知れない。
 だったら、僕らはルイズさんを守るよ。そのために、戦う」
「あ・・・ありがとう、ありがとう…ジュン」

 ルイズは、ぽろぽろと涙を流していた。肩を震わせ、スカートを握りしめて。

「そ、そんな、泣かないでよ。だって、その戦うって言っても、そりゃ、死にたくないか
ら、ホントに危なくなったら、逃げるつもり、だし・・・。ついでにルイズさんも連れて
帰れば、絶対安全なんだし…その、だから、大したことじゃ、ないから…」
 雄々しく戦いを宣言したジュンだったが、涙には弱かった。とたんにオロオロしてし
まう。
「いいの、出来るだけで、いいの・・・あんたも、シンクも、スイも、みんな大事な、友
達よ。死んじゃダメ。死ぬくらいなら、逃げなさいよね。
 …いい?あんたが、あんた達の誰かが死んだりしたら・・・殺すわよ」
「へ??」
「死んだら許さないからね!あんた達が死んでも、あたしが死んでも、あんたを殺すんだ
から!」
「む、無茶言うなぁ~」
「無茶でもよっ!」

 ルイズは両手でジュンの頭を捕まえ、自分の目の前にグイと引き寄せる。
「命令よ、これは命令。偽りの主からの、ただ一つの命令・・・死んじゃダメ、あたしを
一人にしちゃ、ダメ・・・」

 少女の潤んだ瞳が、少年を見る。
 至近距離から見つめ合ううち、だんだんと二人の頬が赤く染まる。
 わずかに、ゆっくりと、二人の距離が縮まり―――・・・


 コンコンコン!
 扉がノックされたとたん、ルイズはジュンを突き飛ばした。
「あ、あぶななああかった!あたしったら、いったい、こんな、オコチャマなヤツ、なん
で、あうあうあううう」
「・・・こんなん、ばっか・・・」
 ベッドにひっくり返ったジュンは、なーんとなく涙目。


 客間にいた残り全員がジュンの寝室に入ってきた。
 入るやいなや、タバサがルイズ達に深々と頭を下げる。
「ありがとう」
 語る言葉は、相変わらず一言。だが、心からの力を込めた一言。
「お礼に、全部話す。北花壇騎士としての、全てを」

 青髪の少女はゆっくりと、不器用に、言葉に詰まりながらも語り出した。
 彼女がガリア王家の汚れ仕事を請け負う北花壇騎士であること
 王女イザベラへ、ルイズの使い魔達の調査報告書を提出したこと
 そして、『トリステイン~アルビオン戦争が始まる前に、ヴァリエール家三女ルイズの
使い魔達をヴェルサルテイル宮殿へ連行せよ。殺してはならない』という命令を受けてい
る事を―――

「やれやれ、アルビオンの次はガリアかぁ、忙しいなぁ」
 ジュンはため息が漏れてしまう。キュルケは腕組みして頭をひねる。
「ガリアは、トリステインに負けて欲しいようねぇ。もしかしてぇ、裏でつながってたり
してねえ~」
 ルイズもキュルケの言葉に頷く。
「あり得るわ。我が国の敗北は今のところ決定的よ。けど、ジュン達ならひっくり返せる
かもしれない、そう恐れているのかも。なにしろ、戦艦まで一瞬で沈めてしまったんだも
の」
「へへ、おでれーた!どーやらこの戦争では、俺たちがジョーカーみたいに思われてるら
しいぜぇ」
 デルフリンガーの言葉に、真紅は首を横に振った。
「憶測に過ぎないわね。それに、フーケ逮捕やアルビオンからの脱出を知ったら、ガリア
だけじゃなく、どの国でもあたし達を狙うわ」
「もしかしてぇ~きゅうるけさんもですかぁー!?」
「ちょ!ちょっと待ってよ!あたし知らないわよ!スパイなんかしてないわよぉ。まった
く、そんな目で見ないでよねー」
「ま、ともかく、その嬢ちゃんの命令の件、どうするかだわなぁ」
「なんとかする。だから、これからもお願い。ソウセイセキのローザミスティカも、必ず
探しだす」
「なんとかするって言ってもタバサさん、そう簡単じゃないでしょ」
「そうよ、アカデミーの姉さまも王宮も気になるわ。ガリアだけじゃないの。
 この戦争、どうやらあたしが開戦まで、ジュンとシンクとスイを守りきれるかどうか、
が鍵のようだわね」

 皆でわいのわいのとあれこれ話していると、ジュンがだんだんフラフラとし始める。そ
して、ぽてっとベッドの上に倒れた。
 皆が顔を覗き込むと、彼はすーすーと、寝息を立ててた。疲れ果てて寝てしまったよう
だ。
 ジュンの体に布団をかけ、一同は静かに部屋を後にした。




~アルビオン戦五日前~

 オルレアン家を朝日が照らす。    
 使用人達に見送られ、一行を乗せたシルフィードは飛び立った。

 朝日を受け、一行は雲の間を学院へ向けて飛ぶ。
 ジュンが、うにぃ~っと伸びをする。
「んーっ!…さーて、それじゃ本格的に、準備しようかな」
「ねぇねぇジュンちゃぁん、どんな事するつもりい?」
「え?えと、その…なんで、しなだれかかってくるんですか」
「きぃいいっ!どさくさに紛れてジュンにベタベタするなー!」
 ルイズがグイグイと、ジュンにしなだれかかるキュルケの間に体をこじいれる。

「はぅう~…やる事が多すぎて、何からやればいいですかぁ~?」
「そうねぇ、まずはタバサさんとキュルケさんに、色々手伝ってもらおうかしら?」
「頑張る」
 タバサはやっぱり無表情ながら、グッとガッツポーズする。
「あらら~!やぁっぱりあたしの力も必要よねー!分かってるわねぇ~」
「何言ってンのよ!?こんな女なんか!」
 ルイズは、やっぱりキュルケとケンカしっぱなし。

「きゅいきゅい!みんな仲良しになったのね!戦わなくて済んで良かったのね!」
「う~ん…俺の出番がねえんだけど」
 デルフリンガーは、不満そうだ。

 眼下に、朝日に照らされた学院が見えてきた。


     第3話    北花壇騎士、再び   END



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