あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの教師-02

 長い歴史を持つトリステイン魔法学院でも前例のない、幻獣でも、ただの獣でも、ましてや亜人でもない、人間が召喚されるという事態に、ルイズのコントラクト・サーヴァントによる契約は、禿頭の教師、コルベールによって一時的に中止となった。
 中止の言葉を聴いた際、ルイズはこれ以上ない程に不安な顔を見せたが、サモン・サーヴァントは、結果はどうあれ成功した事に変わりがない。と、ただコントラクト・サーヴァントの契約は、コルベールの名前の元で預かる形にすると言葉に、安堵の余り、その場で腰を下ろしてしまった。
 しかし、ここからが問題だ。
 生徒達よりも長く魔法使いとして生き、教師としての生活も長いコルベールにも、この目の前に立つ女性の処遇について、個人では決めかねる問題だ。

「ミス・アティ。でよろしいかな」
「あ、はい」

 生徒達に見せる、穏やかな視線に若干の困惑を混ぜ、アティに向き直る。
 未だ素性の分からない女性ではあるが、万が一にも高貴な身分の人間であるとしたら、魔法学院はおろか、トリステインという国家規模の問題にまで発展しかねない不祥事なのだ。
 教師生活が長いとはいえ、このような問題に直面した事のないコルベールは、しかし柔軟な思考を以って、この問題は自分だけではどうにもならない事だと判断した。

「私は当トリステイン魔法学院で教鞭を執っている"炎蛇"のコルベールと申します。
 失礼ですが、現在の貴女の状況を詳しくお教えする為に、一度場所を変えてお話したいと思うのですが、よろしいでしょうか」

 場所を変え、トリステイン魔法学院の学院長室へ向かう道すがら。

 校舎に入るまでの間、三者の間で交えた言葉はコルベールにとってはいたく興味深く、ルイズにとっては救いであると同時に、絶望で、アティにとっては、現在の自分の立場を理解する上でとても貴重なものであったようだ。
 曰く、アティというこの女性は、貴族ではないらしい。これにはコルベールもルイズも驚くと同時に安堵のため息を漏らした。彼女が貴族でない以上、少なくとも外交問題に発展する危険性はなくなったのだから。
 これに対して、ルイズは持ち前の強気さを取り戻し、それならば、コントラクト・サーヴァントをこの場で実行してしまえば良い、とコルベールに進言したが、それはコルベールが却下した。貴人でない事はアティ自身の進言ではっきりとしたが、会話の端々に、何か自分達の使わない言葉や地名が表れた事から、遥か遠い土地から召喚されてしまった可能性があり、安易かつ一方的に契約を許可する訳にはいかないと判断した為だ。
 コルベールのこの対応に、ルイズは大層不満を抱いた。何せ、召喚と契約の儀式のセットをこなさなければ、進級が危うくなるのだから。

 しかし、アティの方としても、突然先ほどまで居た、名もない島の田舎道から急にこのトリステインと呼ばれる土地に飛ばされ、未だに自身の状況も分からないままに契約(おそらくは護衛獣のそれと同じだろうと当たりを付けたが)されるのは、温厚な彼女としても遠慮したい事態だ。
 更に、トリステインと言うこの国の名前を、アティは自身の記憶している範囲には存在していない。教師という職業柄、さすがに世界の国や主要都市の名前は記憶しているが、その中にトリステインという地名はない。そもそも、国名と言ったところで、現在リィンバウムに存在する国家はたったの三つだ。
 それならば、或いは未だ知らない、最近では冒険屋稼業がすっかり板についてきた、海賊の青年の目指す、新天地の国なのだろうか。とも思ったが、後者に向かう途中、自分達三人を追い越して校舎へと向かう生徒達は、何と空を飛んでいたのだ。召喚獣に乗っている訳でもなく、何か特殊な憑依召喚を行っている気配もない。つまり、自分のような、エルゴの王を祖とした召喚術とは異なる系統の何かが、この国、あるいは世界には存在しているのだ。
 しかし、アティの知る限りでリィンバウムと同じような、亜人や獣人、鬼人ではない通常人類を主とした世界は、リィンバウムの他に"名も無き世界"として存在だけは確認されているが、名も無き世界出身の老人から聞いたその世界と、この場所には大きな隔たりがあるように感じられた。
 それならば、ここは4界と1つの世界とは更に別の、未発見の世界なのかもしれない。

 その事を説明したのが、学院長室に入り、学院の代表者であるオールド・オスマンと対峙した時だ。

「では、アティと言ったかの。おぬしは自分がハルケギニアではない、違う世界からやって来たと言うのかな」
「はい。道すがら、コルベール先生やルイズさんと話していた際の見知らぬ単語や、召喚獣を用いず空を飛ぶ生徒の姿を見て不思議でしたけれど…」

 違う国、というよりは違う世界と考えた方が理解し易いと思いました。というアティの弁に3人は驚いていたが、これは自分の住む世界の他に、4つの異世界の存在が既知のものとなっている、リィンバウムの人間独特のものだろう。
 教師である2人は、アティの言葉に腕を組んで沈思したが、ルイズはそんなアティに即座に噛み付いた。

「異世界って、何バカみたいな事言ってるのよ! 別にマントを着ていたからって即座に捕まるような場所じゃないんだから、正直に本当の事を言った方が身の為よ」
「信じられない話かもしれませんが、本当なんですよルイズさん。
 私も最初は混乱してましたけれど、召喚術で違う世界に呼ばれたと考えるのが一番自然なんです」
「だから、それが何で自然になるよ!!」
「でしたら」

 とアティは腰に下げた杖を手に取り、更にマントのポケットから緑色の少し濁った石を取り出し、証拠をお見せします。と宣言した。

「契約の元に希う…召喚!」

 召喚術が成功する事に不安は何もなかった。
 自身が異世界に来てしまったのかもしれない、と思い至った際に不安になり、それとなく周囲を伺う素振りで"剣"との接続を確認したが、若干量の魔力集中による接続は確立されていた。ならば、召喚術も行使は可能な筈である。
 緑色の光が学院長室を優しく照らし、魔力の奔流が微風となって逆巻く。
 そして光が収まると、果たしてそこには、青黒い皮膚を持った、小さな蜥蜴のような生物が、腕を組みながら、胸を張って仁王立ちしていた。
 頭に眼鏡付きの、変わった帽子を被った蜥蜴はアティに近寄ると、小さな身体から信じられないような跳躍で、アティの腕の中に納まり、威嚇するようにオスマンら3人を睥睨した。

「ありがとうテテ。でも心配ないですよ。皆さん、良い人ですから」
「何よそんなの、ただのサモン・サーヴァントじゃない」

 私にだって、一応できたんだから、とつい先程の出来事を思い返し、悔しげに目を吊り上げるルイズに対し、やはり2人の教師は終始冷静に、アティの召喚術を観察していた。
 しかし、始めに持った感想は、やはりルイズと同じだったようだ。

「失礼ながら、私もミス・ヴァリエールと同じ意見です。珍しい種類の獣のようですが、その獣が異世界からやって来たという、確たる証拠はありませんか?」
「それなら、この子というより、これからお見せする術で、信用を得られると思います。
 先程、歩いている際に言っていましたが、この世界には召喚術は存在しても、送還術は存在しないのですよね」
「はい。召喚術によって呼び出されるのはハルケギニアに存在する、人以外の生物。というのが基本ですね。同じ世界にいる生物を呼ぶという点からでしょう。過去に送還術が存在したという記述もありませんし、研究もされていないのが現状です」

 コルベールの弁に、テテを腕に抱えるアティは苦笑いを浮かべた。
 リィンバウムでは、はぐれ召喚獣の存在は世界共通の問題であるというのに、このハルケギニアという世界では、召喚されたものに対しての処遇が、リィンバウム以下である可能性がとても高いようだ。
 コルベールは使い魔を召喚する儀式は、神聖なものであり、召喚されたものを一生のパートナーとするのが通例としている、と言っていたが、そこには召喚された側の事情など一切配慮の内に入っていない。
 確かに、リィンバウムのそれと異なり、同じ世界に存在する生物を召喚しているのだから、極端な話元居た場所を突き止め、そこに連れ戻せば、なるほどそれは送還と言えるかもしれないが、既知の生物ではない何かが現れたり、人跡未踏の地からやってきた生物であるとしたら、やはり同じ世界でも送還は難しいのではないだろうか。
 現に、リィンバウムから召喚された自分は、どうやらこのままでは自分が死ぬか、召喚したルイズが死なない限り、永遠に帰れないと、この世界の魔法の頂であるトリステイン魔法学院の教師直々に言っているのだ。
 これには、温厚で知られるアティも閉口してしまった。
 しかし、ずっとそんな事を言っている場合ではない。先ずは己の立場を明確にしなければ、帰るための手段は愚か、只の法螺吹きの狂人扱いされても仕方のない状態なのだ。
 ぎゅ、と手にしていたテテを抱きしめる。
 テテ自体は幻獣界メイトルパに住む獣だが、この召喚石から呼ばれるテテとは随分長い付き合いだ。
 抱きしめると、それだけで安心した。

「また何かあったら、お願いします、テテ……送還!」

 召喚された時とは逆に、テテの姿はアティの小さな言葉と共に、まるで風に吹かれた花びらのように、魔力の粒子を僅かに光らせると、アティの腕の中から消失していた。

 アティにとっては珍しくない、召喚獣の送還だったが、どうやらそれが己の身を証明するには充分なものであったらしい。
 初めて会った頃から、終始硬い表情を保ち続けていたコルベールは、光の粒子が消え去るよりも早く、アティの送還術に驚きの声を上げ、そのままぶつぶつと独り言を繰り、沈思し始めた。
 ルイズはコルベールほどの驚きは持たなかったが、先程までの勢いは削がれてしまったらしく、先程までテテの居た、アティの腕を、奇術師に注目する子供のような瞳で見つめていた。
 先程から黙っていたオールドオスマンもまた、豊かな顎鬚に手をやり、鋭い瞳をアティに向けている。

「成るほど、確かにあの生き物に対して説明を入れるより、分かりやすい証明じゃったな…。 魔力の残滓も完全に消えたとなっては、どこかに隠したという可能性もないしの。
 ふむ。
 ミスタ・コルベール」
「……はっ、何でしょう学院長」
「ミス・ヴァリエールのサモン・サーヴァントじゃが、特例として2度目の機会を与える事としよう。
 貴族でないとは言え、この世界の住民ではないと言え、我々と異なる術を使う者じゃとしても、既に生徒達が目にしておるからのう…。おそらく、明日には学院中に噂話として伝播するじゃろ。それを払拭すればアティ殿の風当たりも強くなるじゃろうし、あまり好ましい事ではないからのう。
 ならば、いっそ生徒達には勘違いをそのまま信じて貰う事としよう。
 そして、アティ殿が貴族であるなら、ミス・ヴァリエールが2度目のサモン・サーヴァントを行ったとしても、非難は少ないはずじゃ。
 まあ、色々疑問や不満もあるじゃろうが、一切認めん。速やかにミス・ヴァリエールの再試験を行いなさい」

 普段はひょうきん者で、助平な印象ばかりの学院長のこの真面目な台詞に、コルベールは普段であれば当然上げる疑問の声を噤み、胸に手を当て一礼をすると、未だ何事かと呆然としているルイズを連れて、学院長室を後にした。

 そうして、学院長室には、アティとオールド・オスマンの二人が残された。

「さて、色々あって遅れてしまったが、礼儀を欠いていたようじゃな。
 先ずは、召喚事故とでも呼ぶべき事態に巻き込んでしまった事を、生徒と教師に代わりお詫びしよう」

 コルベールに向けていた、上に立つ者として威厳ある風体を崩すと、オスマンはアティに向き直り、頭を深々と下げた。
 驚いたアティだったが、オスマンの態度が真摯だったからか、その態度に不安は覚えなかった。似ても似つかない容姿だが、どこか自分の教師としての師匠に似た影を見たからだろうか。

「お気になさらないで下さい、オスマンさん。
 事故と病気は予測できないものと言いますし、それに、こう言っては何ですが、事故には免疫があるんです!」

 拳を握り、慰めにもならない事を言うアティに、オスマンは初めて、学内外にも広く伝わっている、ひょうきん者として名高いオールド・オスマンとしての表情を浮かべ、声に出して大きく笑った。

「はっはっは、面白い女子じゃのぅ。我々にとっては恐らく史上初めての大問題だというのに、そんな風に構えられては適わんの!」
「それは、多分召喚に対するリィンバウムとハルケギニアのスタンスの違いだと思います。こちらでは魔法が生活に根ざしているように、私達の世界では、召喚術が当然のものとして存在していますから、自然と召喚事故は…確かに珍しい事ですが、誤召喚程度は、事故にすら思われないのが実情だと思います」
「ふむ、儂らで言う所の魔力の暴走事故や、魔術の行使失敗のようなものかの。だとしたら、確かにさほど珍しい事ではないのかもしれんが、やはり……問題は問題じゃな」

 何せ、我々には送還する術を持たん。
 と、オスマン。

「はい。でも、コルベール先生の先程の言葉の通りなら、これからでも研究を始めれば良いと思いますし…。私自身は送還術を心得ていますから、多分きっと、成せばなる筈です…!」
「うむ。元はと言えば、こちら側の過失があった故の事故じゃったからな。儂らとしても、協力は惜しまぬよ。
 と、先程からどうにもいかんのぅ。
 儂自身が自己紹介するのを忘れておったわい。
 儂の名はオールド・オスマン。このトリステイン魔法学院の学院長をしておる…ジジイじゃ」
「はい。オスマンさんよろしくお願いします。
 では、」

 すうっと、大きく息を吸い、イメージする。
 名も無き島の、青空教室でのワンシーン。初めての授業で、子供達の前でそうやったように、けれどもその時以上の誇りと、確信を持って。

「わたしは、アティと言います。
 職業は……教師ですっ」

 そんな宣言をした。

 余談になるが、その後2度目の召喚儀式による試験で、ルイズは再び人間を召喚してしまった。
 呼び出された人間は、変わった服装をした平民の男の子で、名を平賀才人と言った。

続く。

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