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オッツ・キイムの使い魔-01

 吟遊詩人は歌い伝える。
 この大陸の伝説を―――――





 煙が晴れてまず目に入ったのは、青空に浮かぶ二つの月だった。
 次に見えたのは、辺りを取り囲むように立つ、たくさんの少年少女たち。その隣にいる魔物や獣たち。なんだか大きくて立派な建物。
 座り込んだまま、うまく働かない頭で考える。
 何がどうなってるの? 私たちは確か、宿屋にいて…。
 ワケがわからない。わかるのは、何故か少年少女たちが揃って笑ってるってコトだけ。
 そして、見渡す限り、唯一笑っていない子…目の前にいるピンクの髪をした女の子が、あからさまなくらい機嫌悪そうに、コチラを睨みつけていた。


 私、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、これ以上ないと言ってもいいほど不機嫌だった。
 幾度かの失敗の後、ようやく何かを呼び出せた…と思えば、それは人間だったのだから。
 しかも、だ。ぼさぼさの黒髪、ボロボロで質素な服、貧乏くさい顔立ち。
 上下左右斜め逆立ち、どこからどう見てもまごうこと無き平民である。
 後ろから罵る声がする。流石はゼロのルイズ!平民を召喚するなんて!
 黙れ下級貴族どもめ。
 悔しさを込めてその平民を睨みつける。
 しかし平民はこの騒ぎにも気付かず、間抜けな顔で寝こけていて、それがまた癪に障った。
 召喚されたのに寝てるって、どういう神経してるのよ!
「…う~…」
 平民が小さな声で呻いた。ようやっと起きるのか、と見守っていると、
「…おなか、いっぱぁい…もぉオムライス食べれないよぉ…」
 口の端から涎がたれている。
 ………。駄目だ。こいつは駄目だ、駄目駄目だ。
 こんなのと契約するなんて嫌。断じて嫌。

「ミスタ・コルベール! どうか、どうかやり直しをさせてください!」
 必死になってお願いするも、コルベールは首を横に振る。
「これは神聖なる儀式だよ、ミス・ヴァリエール。どんな者が召喚されたとしても、例外はない」
「ですがこんな、平民を使い魔にするなんて!」
 平民に指をつきつけて、コルベールに訴え続ける。
「確かに、平民を使い魔にするというのは前代未聞だが…」
「そうです! それに、こんな高貴さの欠片もない、貧乏そうな、平民の中でも下の下みたいな平民なんて…!」

『…ちょっとぉ!! そこのピンク頭! 人が黙って聞いてれば、ナニ失礼なコト言ってるのよ!!』

 突然の声に、弾かれたように平民を見た。起きた!?
 しかし、平民は相変わらずぐーすか寝ている。
 そもそも、この平民は男だ。さっきのは明らかに女言葉。ならば、一体誰の声だったのか?
 その答えはすぐに出た。平民の影から、小さな何かが飛び出したのだ。
 それは空中をひらひら飛び回り、人の手に乗るほど小さく、女の子の姿で、そして背中には薄い羽が生えている。
『なんなの、さっきから平民とか貧乏とか! 召喚とか使い魔ってナニよ! っていうかココはドコなのよー!?』
 私の目が、飛び出すんじゃないかってくらいまで開いた。
「よ…妖精!?」
 そう。それは、お伽噺にのみ存在するはずの、伝説上の存在、妖精だった。
 周囲がざわつく。驚いたのは私だけではなかった。
 平民を呼び出したと思ってバカにしていたら、まさか妖精がいるなんて。あのゼロのルイズが。有り得ない、絶対有り得ない。そもそも妖精って実在するのか? あれは良く出来た人形じゃないのか? ていうかどっちが使い魔? 囁き合う少年少女たち。
『ちょっとー! 人の話を聞きなさいっ!!』
 妖精は叫ぶも、それを聞き入れる者はいなかった。誰もが動揺していて、それどころではなかったからだ。
 特に私は、ただの平民を召喚したという落胆から、伝説の妖精を召喚したという奇跡、その急展開っぷりに意識が半分飛んでいた。
「ミス・ヴァリエール。大丈夫ですか?」
 …はっ!
 コルベールに揺さぶられ、ようやく正気に戻る。それと同時に、理解した脳のテンションがエベレストの10倍くらい高くなる。
 よ、妖精を! ででで伝説上の存在を! ゼロといわれ続けたこの私が!
 平民? あんなのオマケよオマケ! どうでもいいわ!
「先ほどの話ですが、やり直しは」
「しません! 絶対しません!」
「…よろしい。では、契約の儀式を。二人と言うのも例外中の例外ですが、どちらと」
「妖精! 妖精とします!」
「……では、急いで」
「はい!!」


 ようやくコチラを振り返った少女。
 やっと話を聞く気になったのかと思いきや、なんだか様子がおかしい。
 私を見る目がキラキラ、いや、ものすごーくギラギラしている。
 ていうか手が怪しい。なにワキワキさせてるのよ! なんか怖い! 怖すぎる!
 少女が叫んだ。いや、それは呪文だったのだが、そのあまりのテンションの高さは、もはやシャウトの粋だった。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!
 五つの力を司るペンタゴン! この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」
 本能が警告する。ヤバイ。この子ヤバイ。この呪文はヤバイ!
 少女がジリジリこちらに近づいてくる。私もジリジリ後ずさって逃げる。
 少女が近づく。私が逃げる。近づく。逃げる。近づく。逃げる。
 このコが何をする気なのかはわからないケド、とにかく逃げよう。もう少し様子を見て、どうしても止める気がないようなら、一気に飛び去って―――そこまで考えた時だった。

 少女が視界から消えた。

 何が起こったのか、その瞬間は、まったく理解できなかった。
 わかったのは、唇に何かが当たっているってことと、全身が痛いってことだけ。
 この時、私の身に何が起こったのかを、平たく解説するとこうなる。

 ”寝ていた平民に気付かずつまづいて転んだら、その平民の唇と私の唇が合わさった”

 たっぷり10秒ほど唇を合わせてから、慌てて起き上がって唇を拭った。
 上がっていた血が全部下がった。サーッという音が本気で聞こえた。私の顔は見事な青色だったろう。
 …まさか、まさかまさかまさかっ! 嘘でしょ!?
 私の言葉を否定するように、平民の全身が輝き出した。
 平民の目がやっと開いた。大きな黒い瞳だった。
「…うわぁっ! な、なに!? 熱い熱い、痛いっ!?」
『ウリック!? ちょっとアンタ、何したのよっ!』
 妖精が私を睨み付ける。けれど、茫然自失の私が、そんな質問に答えられるはずもなかった。
 やがて平民の手の甲にルーンが刻まれた。刻まれてしまった。私の使い魔の証が。
 ようやく落ち着いたのか、平民は辺りをきょろきょろと見渡す。
「…ん~…レム、おはよー……ココ、どこ?」
 口の端についていた涎を拭っている。
 私と目が合う。不思議そうな顔をしてから、ほわんと笑った。
「…ええと、こんにちは~」
 間の抜けた声。
 その声と仕草を見ながら、私はぶるぶると肩を震わせ、杖を握り締め―――

「…いやああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!」

 悲痛な絶叫が、学園中に響き渡った。





 これは、後に語り継がれる偉大なる伝説と、誰も知らない小さな少女の物語。

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