あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

殺し屋さん【0】

フーケは暗闇の中をひた走っていた。
息が荒く、呼吸がしにくい。
口にたまった唾液を嚥下するが、それも何か大きなものを飲み込んだような感触がして胸につかえる。
それらが肺と胃からせり上がる空気を引き出すような形となり、嘔吐感をもたらした。
つんのめって唾液が口から漏れるが、しかしそんな事をしている暇はない。
ただひたすらに走り続けた。
だがしかし、追っ手は早い。
元々なれぬ山道を駆け上がるように逃げていたために、とうとう足を小石に躓かせ、転んでしまった。
追いつかれた、追いつかれた――
フーケの脳裏を恐怖が支配する。
転んだ拍子に杖を手放してしまった。
メイジたる自分が優位に立つには最早魔法しかないというのに、これではどうしようもない。
今のフーケは、貴族相手に悠々と盗みを行う『土くれ』のトライアングルメイジではなく
一介の、恐怖に怯える女性でしかなかった。
そんな中、暗闇からヌルリと抜け出すかのように、黒い服に身を包んだ茶髪の男が顔を現した。

「……っく、今まで盗みを行った奴らの復讐かい!
してやられるとはね……!
ハン、このフーケも落ちぶれたもんだ!」

精一杯強がっては見るが、しかし相手は冷徹そのものの顔を崩さず、じっとりと顔を見つめてくる。
フーケは今度こそ覚悟した。
これは、そんじょそこらの凡百の殺し屋などではない。
今までに情け容赦なく、それこそ幼い頃から何かを殺し、しかし、それを仕事として自覚していた人間だ。
杖をなくした自分では最早敵う事はないだろう。
故郷に残した妹たちの顔を思い出しながら、しかし、フーケは最後の望みを伝えるかのようにつぶやいた。

「……わかったよ。
でも、私も土くれとまで呼ばれたメイジだ。せめて、魔法で殺しておくれ……」
「お前は錬金を使うそうだな」

男の声の意外な若さにフーケは驚いたが、ああ、と答えた。
錬金でどんな壁も土くれに変えてしまうからこそついた二つ名であり
その事に誇りを持っている。
成る程、錬金で岩を作り、押しつぶして殺そうというのだろうか。
それならばそれでいい、自分がやってきた事で死ぬというのも、因果応報というものだろう。

「そこで用意しました。蓮根」
「ちょ、まっ。
それっ、ただ、名前、にてるだっ、せめ、てっ、もっと、かたっ」

ガスガスガスガスガス



――殺し屋さん・1






 ルイズの召喚した、殺し屋を名乗る平民は、基本的に気のいい男であった。
 凶々しい呼び名にも関わらず、やる事なす事ボランティア活動が常だというのだ。
 ルイズにとっても一応は便利な男なのだが、今ひとつ納得出来ないのが実情だった。
 「殺す」という名目とその依頼さえあれば、ゴミや雑草なども殺すのである。おかげで今では貴族連中のみならず、厨房の面子やメイド、果てには衛士にまで様々な「殺し」の依頼を受けている。主に、雑用的な意味の「殺し」だ。
 っていうか、殺し屋って言うより便利屋じゃない。ベッドの上に腰掛け、ルイズはじと目で失敗魔法の爆発によってほつれた自身の服をちくちくと修繕する男を眺めた。

「そんなもの捨てたらいいのに」
「依頼も無しで殺すわけにはいかないからな」

 しれっと言ってのける男の手つきは、まるで職人芸の域に達している。
 誰が知ろう。殺し屋としてまるで死角だらけに見えるこの男が、元の世界ではありとあらゆる類の資格を取得していたなどと。
 素直に感心しながらも、ルイズは常より抱いていた疑問を口に出す事にした。

「どうでもいいけど、あんたの“殺す”の概念って、おかしくない?」

 それに対し、ふっとニヒルな笑みを浮かべて針を置いてルイズに向き直った。その眼光は鋭い。
 黒の上下に身を纏いその様な笑顔をすれば、成る程、殺し屋と言われて納得せぬ事もなかろう。
 最も、現状で修繕しかけの衣服を膝にかけ、口で切った糸を咥えたままの姿である以上、滑稽以外の何物にも映らない。

「日本一の殺し屋に殺しの概念を問うとはな……」
「だから前から言ってるニホンイチってのも何? ニホン? イチ? 意味が分かんないわよ」
「二本…………一本……」

 ルイズの言葉を聞いた途端、どこか上気した様な顔で鼻を押さえる男。押さえた手の隙間からは絶え間なく血があふれ出して、修繕していた服を朱に染めている。
 分からないと言えば、この時折人の言葉をオウム返しにしながら鼻血を垂らす男の癖も良く分からない。今の様に血を垂らすだけならばいいが、酷い時には鼻血で水溜りが出来るくらいに噴出す事もある。
 何もかもが台無しであった。
 やはりこいつが殺し屋と言うのは理解出来ない。そう思いながら、ルイズはいつもの如く着替えをする為、男を追い出すことにした。
 鼻血を必死に布で拭いながら男はしずしずと部屋の外へ退散して行く。
 これに関しても、男の鼻血が関係している。男を召喚したその日、自身が彼の目の前で着替えをして寝巻きになった途端、噴水の様に噴出した鼻血で部屋を血の海に沈めたのは苦々しい思い出だ。

「む」

 部屋の外でルイズが着替え終わるのを待っている殺し屋は、不意に扉の隙間からかさかさと這い出てきた物に目をやった。
 嫌な予感がする。殺し屋としてのセンサーが、それを注視するなと全身に信号を送る。
 だが、しかし。

「――――――ッ!」

 羽を広げたそれが、不快な音を立てる黒い羽を震わせて殺し屋の目の前に飛んでくる。これが依頼の標的ならまだしも、今の状態では殺す事など……!
 Gの名を冠する虫から逃れようと、かぶりを振って殺し屋はそのままルイズの部屋の前から走り去った。
 そして、逃亡先に厨房を選び、そこに潜り込んだ彼は、丁度明日の仕込を終えたマルトー親方の歓迎を受け、互いに酒を酌み交わしていた。

「……貴族のお嬢ちゃんと何かあったのかい? 殺し屋さんよ」
「厄介なお客さんに追い払われちゃって……近づけないんですよ」
「?」



――殺し屋さん・2






ラ・ロシェールの港町。
そこにあるのは古びた街に似合う、古びた決闘場であった。
今そこにいるのは殺し屋とルイズ、そして、風のスクウェアメイジたるワルド子爵だけである。
裏切り者の殺害依頼。単純な話だった。
しかしながら、殺し屋が眼前に現れたというのに、ワルド子爵の顔からは余裕という物が消えていなかった。
既にトリステイン、いや、ハルケギニア一と名高い殺し屋を相手取っても、正面からであれば倒せるという自信なのか。
一体どのような事からか、ルイズには少しわかるような気がした。
スクウェアメイジである、という事もそうだろう。
トリステインの魔法衛士隊、隊長まで上り詰めた実力は伊達ではないのだ。
だがしかし、風が最強といわれる所以である魔法を得意としているからでもあった。
まるで講釈するかのように、ワルドが杖を殺し屋に向ける。

「何故風が最強の属性と言われるか教えてあげようか」
「フッ……何を言うかと思えば」

殺し屋は動じず、冷静に状況を判断する。
当然だ。その程度の脅しであれば、今までに何度も受けてきた。
かつては日本一、しかし、今はハルケギニア一と名高い殺し屋であるこの男にとって、最早そのようなものは赤子の泣き声にも等しいのだ。
要するに、少しだけ怖い。

「ユビキタス・デル・ウィンデ……」

ワルドが呪文を唱える。
次の瞬間、ワルドが五体に増えていた。
驚くルイズ。
風の遍在――卓越した技術であれば一対一、どちらに転ぶかはわからない。
だが、それが多対一となれば話は別である。
どのような熟練であれ、数で押されれば疲労はするし、付け入る隙が出来てしまう。
魔法を放とうにも、どれが本体かわからなければ勘で放つしかない。
これこそが、風の魔法の本領発揮という奴であろうか。

「風は遍在する……わかるかな?」

(風は……変態、する?)

脳裏に浮かんだのは、強風により衣服が剥ぎ取られ、下着がボロボロになるキュルケやシエスタをじっくりねっとりと五人のワルドが舐る様子。

「ちょ、ちょっと、リュウイチ!? 凄い鼻血よ!? ねぇ、ちょっと!?
起きなさいよ、ねぇ!?」



――殺し屋さん・終わり

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