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新約・使い魔くん千年王国 第九章 世界劇場

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気絶したモットは数日間休養をとらされ、起き上がるとリッシュモンに心からの感謝と忠節を誓う。
自分の『杖』まで、悪徳金融機関から取り返してくれたのだ。命の恩人以上の存在、救世主であった。
相当腹黒いものの、あの恐ろしい異能児よりも、よほどまともだ。カネの使い方もはっきりしている。

「……さて、歩けるようにはなったかな。では、従者をつけてやるから、マツシタのところへ行ってくれ。
 諜報用の暗号で書いた手紙も渡しておく。あいつなら解読可能だろう」


その頃、マツシタは『平民』の富豪の御曹子として、高級ホテルに泊まっていた。
貧民窟のチュレンヌを介して、いろいろな情報が日々もたらされる。その他にも王都での情報網は整備した。
例の『治安維持法』で城内に引き篭もっている女王より、よっぽど下情に通ずるようになったはずだ。

「ああ、平民も結構気楽でいいわね。貴族は規則や礼儀作法がとっても厳しいから」
「公爵家ぐらいになればな。下級貴族はその限りでもない。それに、どこでも平民の上流層は貴族並みだぞ。
 あまりはしたない真似はせんことだな、ゼロのルイズ」
「ご主人様を敬いなさい、この精神的奇形児」
ぎりり、と険悪な空気が漂うが、いつもの事だ。アニエスは気にも留めない。

『地獄の妖怪亭』はしばらく営業停止させたが、スカロンの娘でマネージャーのジェシカが、
あのシエスタの母方の従姉妹であることが判明。確かに巨乳黒髪だったが、父親があれって、遺伝子なにやってんの。

「へぇ、シエスタの『ご主人様』なんだ。しかも伯爵様? 本当かしら」
「少々わけありでね。今は平民として、王都の情勢を探っている。きみも協力してくれないか」
「面白そうじゃない、私たちのご意見が女王陛下や『鳥の骨』の枢機卿に伝わるんでしょ?
 是非とも言いたい事がたっくさんあるわ。どしどし聞いて頂戴」
「感謝するわ。でも、あんたが店に出て客引きした方が、よっぽど繁盛するわよ。潰れてもいいけど」
「いやー、この店はこう見えても、400年の歴史を誇る老舗なのよ。しかも『漢』専門の。
 私もこんな店とっとと潰して、金持ちの男をひっかけて遊んで暮らしたいのはやまやまなんだけどさぁ」

スカロンが娘に反論する。
「何てこと言うの、ジェシカ! 400年前、時のトリステインの君主・アンリ3世魅了王陛下から下賜された、
 この魅了の魔法がかかった家宝『魅惑の妖精の半ズボン』がある限り、
 わが『魅惑の妖精亭』は潰させないわよ! 常連さんだって悲しむわ」
半ズボンって。つまりあれか、当時は美少年の給仕がいたわけか。そっちはそっちでどうかと思うが。

「……言っておくが、ぼくは履かないからな」
「分かっているわよ。あんたが美少年だなんて、きっと誰も思ってないから」

そんな感じで、情報は着々と集まっていた。


「……なるほど、分かりました。しっかり目を通しておきます」
ルイズとアニエスから報告書を受け取り、女王は肯く。1週間分のリアルニュースが詰まった、貴重な資料だ。
いずれ『新聞』が出来れば、こうした情報は知識人や、文盲でない庶民にも伝えられるだろう。玉石混交ではあろうが。

「それと、リッシュモン高等法院長が何か企んでいるとも、聞きましたが?」
「調査中です。ただ、破産して行方知れずになっていたチュレンヌとモットが、マツシタにコンタクトしてきました。
 チュレンヌは貧民窟に棲んでいますが、モットの方は分かりません。身なりはそこそこでしたし」
「なるほど、ではモットの方を調べて下さい。何かつながりがあるのかも」


モットは用心深くマツシタにのみ情報を伝え、あとはリッシュモンが用意した平民住宅で、護衛付きで静養している。
マツシタはひとり、リッシュモンとカッフェで密談する。ルイズのお守りはアニエスに任せた。
「……すると、リッシュモン閣下。『薔薇十字団』との連絡法は……」
「ロマリアの教皇が代替わりして、やや疎遠にはなりました。
 ただ、現教皇の側近のひとりと目されておる、あるゲルマニアの伯爵が、今は仮に代表を務めておるらしいのです」
「その伯爵とは……?」
「ブラウナウ伯爵の、アドルフ・ヒードラーという男です。歳は50そこらです」

松下がその名を聞いて、眉根を寄せる。それは、かの第三帝国総統の名前に酷似している。
「彼とも今、連絡が取れなくなっています。伯爵領にもあまり帰らず、大陸中の団員のもとを渡り歩いておるようで。
 その下には国内有数の銀行や鉱山も抱えており、いまや皇帝や大公・大司教連中に次ぐ富豪だとか」
「ふむ。では、別のルートから探ってみるか。
 ……で、このビラを誰が張り付けているか、目星は付いていますか?」
「部下をやって密かに調べさせてはいますが……貧民窟の住民かも知れませんし」
「そっちの方でも、情報はなかったんです。まぁよろしい、協力しましょう」
「感謝します。どちらも枢機卿からは、警戒されておりますしなぁ。共存共栄です」

「……ただ、残念ながらアルビオンとの戦争は避けられません。ぼくもタルブで、軍港を調えているし。
 『レコン・キスタ』の背後にガリアが付いているであろうとは、推測が成り立つのですが……」
「わしは穏健派ですが……ま、仕方ない。やりたい者が戦争すればいいのです。
 それこそ王党派のいる『薔薇十字団』からも、資金援助があるやも」

松下が再び眉をしかめる。
「まさか、そのために王党派がビラを撒いているんじゃありませんかね。可能性はありそうですが」
「ううむ、その線もありそうですな。だとすると、女王に伝えてもよいのかも。
 何でも例のウェールズ皇太子は、密かに女王と恋仲だったとも聞きますからな……」


リッシュモンとの密談も、数回に渡ったが、あまりこれといった情報はない。
タルブ伯領も、平穏そのものだ。たまにシエスタが『魔女のホウキ』で飛来して、情勢を伝えている。
従姉妹のジェシカは、彼女がマツシタの狂信者になっているのを、面白がって見ていたが。
今日は週半ばのラーグの曜日。松下のもとに、また手紙が来た。

「……今度の密談は、劇場『タニアリージュ・ロワイヤル座』の客席か。チケットも送ってきた。
 金持ちのじじいとデートするのも、そろそろ嫌になって来たが……」
「気味の悪い事を言わないで。彼と密談していること、アニエスや女王陛下には、黙っておくからね。
 今のところ秘密の情報源としては最大のものよ、パトロンとしても」
珍しく、ルイズが空気を読んでくれた。きっと今日は雹まじりの夕立だ。

「『薔薇十字団』の中でのポストは、微妙なものらしいがな。じゃあ、きみもたまには同席してくれ。
 16歳の少女や8歳の少年と、劇場で密談する初老の男か。逮捕されそうだな」
「親戚の娘か孫世代を連れてきたって感じじゃないの? 年齢的には」


その頃、アンリエッタ女王陛下は、密かに宮中を抜け出していた。
激務を頑張ってこなし、1日だけ休日をねだり取ったのだ。腹黒女王も休みたい。
身代わりの銃士隊員はベッドに寝かせて、1日部屋に篭らせた。
「政務もあるけれど、私だって羽を伸ばしたいわ。ルイズのところでも行こうかしら」
私服にさせたお付きの女子銃士隊を数人引き連れ、女王はラフな恰好と化粧で王都を歩いていた。
誰も、こんなところを女王が歩いているとは思うまい。

中央広場の噴水の近くで、男たちが客の呼び込みとビラ配りをしている。
「我らが『タニアリージュ・ロワイヤル座』にて、悲喜劇『トリスタニアの休日』絶賛公演中!
 同時公演の冒険活劇『バルバロイ』とともに、コルネイユ氏の名作だよ! 是非いらっしゃい!」

おお、劇場か。ひとつ見てみたい、王宮でも人気のコルネイユだ。
10年ほど前、劇の内容が不道徳で、古典劇の鉄則から外れているだのなんだのと批判を受けたが、
彼の作品の人気は変わらない。いつの世も、上からの規制より下からの人気が強いのだ。

「よっし、行ってみましょう! 女ばかりというのも、なんですけれど」
銃士隊がさざめくように笑う。


サン・レミの寺院の鐘が、11時を打った。
松下とルイズは、珍しくも二人で中央広場の噴水のそばにいた。アニエスは留守番だ。
ルイズは一応おめかしをしていた。最近街娘の間で流行りの、胸のあいた黒いワンピースに黒いベレー帽だ。
松下は、いつもの黄色と黒の縞模様の服に加え、裕福そうな装飾をしている。

「ほら、行くわよ。お芝居が始まっちゃうじゃない」
「別に芝居を見に行くわけではないが……ま、いいか。リッシュモンは向こうで待っているそうだし」

『タニアリージュ・ロワイヤル座』は、豪華な石造りの立派な劇場である。
円柱が立ち並び、まるでどこかの神殿を思わせるような重厚な建築だ。
おめかしした紳士淑女が階段を上り、続々と劇場の中へと吸い込まれていく。
松下は招待券を見せ、ルイズの分のチケットを買ってやった。

舞台には緞帳が下りて、辺りは薄暗く、神秘的な雰囲気。
なにせ、『シェイクスピアやセルバンテスが半世紀前まで生きていた時代』風な世界だ。
史実の17世紀、フランスではシラノ、モリエール、コルネイユ、スカロン、遅れてラシーヌといった劇作家が活躍した。
諷刺劇も多く、古代や中世の歴史・神話伝説に取材しており、いろいろと秘教的な装飾も施されていたとか。興味深い。

リッシュモンは、すでに隣席に座っていた。
「いやいや、お呼び出しして済みません。お待ちしておりました」
「やあ、お待たせしました閣下。……ところでこれは、なんていう劇なんです?」
「『トリスタニアの休日』よ。今流行しているの。この後でやる『バルバロイ』は活劇ね」
「どんな話だい? ぼくは知らないんだが」

ルイズが説明する。こういうことは、女性の方が詳しいのだろうか。
「とある国のお姫さまと、とある国の王子さまが、身分を隠してこのトリスタニアにやってくるの。
 二人は身分を隠したまま出会い、恋に落ちるんだけど……
 お互い身分がわかると、離れ離れになっちゃうの。悲しいお話よ」
そんなわけで、若い女の子に人気とのことだった。なるほど、客席には若い女性があふれている。
口上も終わり、いよいよ開演である。音楽が奏でられ、美しく劇場内に響いた。


《この世は舞台なり。人は男も女もみな役者なのだ。誰もがそこでは一役演じなくてはならぬ》
 (シェイクスピアの喜劇『お気に召すまま』より)


なかなかの名演だが、芝居を見ていない客が結構いた。その中にいるのは、密談に励む松下とリッシュモンである。
密談の内容は……トリステインの将軍たちが聞いたら、ひっくりかえってしまうような話だった。
そこでは、非常に高度なトリステインの軍事機密が、まるで世間話のように交わされていた。

「で、国内の艦隊の建設状況は? アルビオンも多くの艦隊を失いましたが……」
「タルブの人民を督励してやっておりますが、本格的侵攻までには、少なくともあと半年はかかるでしょう。
 アルビオンには優秀な技術者がいて、結構なスピードで艦隊を増設しているそうです。
 ひょっとしたら、『悪魔』かも知れません。奴らはこういう事には非常な才能を発揮するのですよ」
リッシュモンが苦笑する。それなら、この異能児だってそうだろう。

「しかし閣下、劇場での接触とは考えましたな」
「なに、木を隠すには森の中。密談をするには、人ごみの中に限ります。
 ましてやここではひそひそ話をするのが当たり前。芝居小屋ですから」
「考えてみれば、カッフェの密室で膝をつき合わせて密談していれば、やはり怪しまれますからね。
 いかに閣下の息のかかった場所とは言っても。ここもやはり、そうなのですか?」
「怪しいのか妖しいのか、分かりませんが……まぁ、他人のひそひそ話に紛れていいかも知れませんわね……」

「しかし、マツシタ殿の説いておられる『千年王国』ですか?
 あれは、新教とは何か関係がおありで? 『東方』出身と言うなら、我らともつながりがあるのでしょうか」
「はは、『東方』の宗教にも、いろいろと宗派対立があるのですよ。『千年王国』はその一つ、
 神の降す大災害と大戦争のあとに救世主が現れ、選ばれた人民を至福の王国に導くというものです。
 なに、いずれこの国もその名前で呼ばれることになりましょう。あなたの協力のおかげで……」

すっ、といきなり松下が立ち上がる。リッシュモンはまあまあと引き止めた。
「まだ、何か? ぼくは少々忙しくなりそうなので」
「なに、カーテンコール(終幕)はそろそろです。どうせなら、最後まで見ていきませんか?」
「この王国の? それとも、閣下のですか?」

「そこまでです、反逆者諸君」
後ろの席から、低い女の声がした。……そう、我らが腹黒女王、アンリエッタ陛下だった。

(つづく)

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