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鬼哭街 > Zero-5 X-XI

X/
 上と思えば下。下と思えば横。重力の頚木から外れたかのように駆ける濤羅を前にして、
空を飛ぶ術を持たぬ傭兵たちはなす術もなく一人、また一人と倒れていく。
 いや、例え彼らが空飛ぶ翼を持とうと変わりはあるまい。メイジでもない彼らに、空を
飛んだ経験などないのだから。
 まして彼らには油断があった。例えメイジ相手だろうとこの人数ならばと。その小さな
間隙を縫うのが内家の技だ。剣を握るのを抜き打ちの一瞬に限れば、濤羅は未だ達人だ。
 黒い影が通り過ぎるたび傭兵は糸の切れた人形のように崩れていく。だが、真に濤羅が
抜き出ているのは一撃で傭兵を倒すその技ではない。
 最も相手からの攻撃を受けず、かつこちらは最も攻撃に適した位置へ。瞬間の判断だけ
でその綱渡りのような所業をこなすその様は、それだけで絶技と呼べるほど。
 才能だけで届く境地ではない。積み重ねた功夫のみがそれを可能とする。そこはもはや
想像すら及ばぬ領域である。
 だが、濤羅の戦う様を見て、なおかつその修練の過激さを理解できないことを理解して
なお、タバサが胸に抱いたのは恐怖でも感歎でもなく、憐憫にも似た何かだった。
 一対多数という絶望的な状況をどれほど繰り返せばあの境地にたどり着けるのだろうか。
 そう、あれほど見事に磨き上げられた技を持ちながら、それが発揮されたのは卑しい暗
殺の場面だったのだ。
 実戦を知らぬ者にはわかるまい。経験豊富なだけでも駄目だろう。
 だがしかし、同じ暗がりに住むタバサにはわかる。あまつさえ、その先さえも。

「……あれは、死にたがりの戦い方」

 笑いと宣言とともに放ったキュルケの炎が――ラ・ローシェルは石の街だ。建物に燃え
移る恐れはほとんどない――暗い路地裏を照らしあげる。その明るい光に照らされてしか
し、タバサの瞳には翳りが差していた。赤い炎を映す眼鏡のその奥にあるのは、友達と共
にいる時には忘れられたはずの、復讐者の瞳だった。
 冷徹な思考に後押しされたタバサがルーンを唱える。ワンドから放たれた風の魔法が、
炎をいっそう猛らせる。明日に満月を控えた二つの月と燃え盛る炎に照らされたこの場は
一時だけ夜を忘れる。
 そう。この場にて夜の闇に包まれるのは、タバサの心ただ一つだけだった。

XI/

「なるほど。傭兵程度では彼に手出しはできないだろう。並みのメイジでも同様だ。
 囲まれていると言われたときは撤退も考えていたが。これなら確かに追い返せそうだ。
 いやしかし、名にし負う以上の手錬れだな、彼は。これは昼間の手合わせも加減された
と見るべきか。まさか剣もほとんど抜かずにここまでできるとは」

 周りに、そして自分に言い聞かせるようにワルドは呟いた。飄々とした口調だったが、
その中には隠し切れぬ激情が聞いて取れる。だが、体に染み付いた経験は、思考とは別に
ワルドにルーンを唱えさせていた。
 炎に焼かれまいと飛び出してきた傭兵にエア・ニードルが襲い掛かる。
 いくつもの苦悶の声が鳴り響く。傷を負ったとて意識がある者が大半なのだろう。だが、
そこから更に反撃を許すほどワルドの魔法は甘くない。もはや彼らは戦力の体をなさない。
 濤羅の必殺には劣るが、こと集団戦においてはワルドとて負けてはいなかった。戦場で
最も味方の足を引っ張るのは負傷兵だ。本来戦えるはずの人間の手までも煩わせる。
 まして彼らは魔法が使えぬ傭兵たち。撤退するにしろ、ゴーレムの力を借りることすら
できない。死者と、それに倍する負傷兵が増えるほど、自然、引く決断は早くなる。その
見極めができぬようでは傭兵失格だ。
 もはや趨勢は決した。あとは追い詰めすぎない程度に攻め続ければ、混乱を立て直して
撤退していくだろう。ならばドット一人とトライアングが二人いれば十二分に事足りる。
事実、もはや多くの傭兵たちは及び腰だ。逃げ出す者も少なくない。
 更に数度エア・ニードルと唱えると、これ以上の精神力の浪費はまずいと判断し、周り
を警戒しながらもワルドは構えていた杖を下ろした。これから先の困難を思い空を仰ぐ。
 その折、今まさに空を駆けていく濤羅の姿を認めた。
 吹き荒れる風、巻き起こる爆発。それらを受けて、濤羅の疾走はさらなる飛翔へ。未だ
戦意のある傭兵たちを、まるで花を手折るかのような手早さで打ち据えていく。
 はためく外套は彼の翼か。ワルドをしてそう夢想させるほど、濤羅の動きは彼の理解を
超えていた。震えが沸き起こるほどの渇望が胸の内をついて出る。

 ――欲しい。

 さらに新たな巨大な人影が現れたことにも気付かぬほど、ワルドの視線は熱く濤羅に注
がれたままだった。

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