あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Bullet Servants-05



――ちゅんちゅん、ちちちち……。

「はわ、わ、ぁわわ……」


暁の風景。
白み始める空に、それに照らされて輝く緑。


「い、い、いや、あ、ああああ、え、エル、エ、エエエ、エルっ」


大きく息を吸い、深呼吸。まずはこの空気で落ち着こう。
早朝の澄んだ冷たさが、この心地よさに清涼感を添える。

「いや、嘘、こんな、新人さんが、なんで、あぅ、わわわわ……」

小鳥の鳴き声も実に小気味良い。
ゴルトロックから遠く離れた異郷の地ではあるが、なかなかこのトリステインはよい環境のようだ――。



「……『早起きは三ルードの得』を実体験してるところ悪いけどね、リック。
 それで――――どうするのよ、この状況」

…………せめてもう少しばかり落ち着く時間が欲しかったりするのですが、ルダ。

「現実逃避の間違いでしょ」
「……人の思考を読まないで下さい」

溜息をつきつつ、逃避していた現実――
恐慌状態に陥ったメイドの少女に、重い腰を上げて向き直る。


「エルフ怖いエルフ怖いエルフ怖いエルフ怖いエルフ怖いエルフ怖いエルフ怖いエルフ怖いエルフ怖いエルフ怖い」


目の端に涙を浮かべてへたり込み、壁に背をこすり付けるかのようにぷるぷる震える、黒髪のメイド。
いっそ芝居の教本にでも掲載したくなるくらいに見事な、『怪物に襲われて怯える少女』の図である。
……どうしたものか。

怖がっているのは向こうなのだが、むしろ私のほうがおっかなびっくりである。
とにもかくにも、彼女を落ち着かせようとして一歩を踏み出し――

「あ、あの、ちょ――――」
「いやあああああああああああ近寄らないでっ!」
「―――ぶフぅッ!!?」

顔面への、洗濯籠の投擲による歓迎。
中には洗濯物が一杯に詰まっていたのか、網籠の分際でけっこう重い。
……というかぶっちゃけ、かなり痛いのですが。
ずれた眼鏡をかけなおし、ダメージに顔を引きつらせながら、それでも声をかけ直す。

「……すみません、もしもし?」
「いや、わぁ、きゃあ! 怒った!?
 ああごめんなさいごめんなさい、で、ででででもわたしなんか食べてもおいしくないですよぉ!?」
「……いや、ですから、ちょっと落ち着いて――」
「みんな、もう遊んであげられなくなっちゃうけどごめんね!? お姉ちゃんエルフに襲われて食べられちゃうの!
 ああ、お父さんお母さん、シエスタの先立つ不幸をお許し下さい!
 っていうか始祖ブリミルよ後生ですからその不幸の前に助けてくださいぃぃぃぃ!」
「――――ああもう、ですから襲いませんし食べたり不幸にしたりはしないですって!?
 というかいい加減人の話を聞いてください! 私は、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール様の召喚した使い魔です!」

「……へ?」


――ぴたり、と。
流石に埒が開かなくなり、つい荒らげてしまった声に、少女の狂騒がようやく止まる。……やれやれ。

「そ、そういえば確か昨日の使い魔召喚で、エルフを召喚した貴族の方がいたって話が……」
「……たぶんその『召喚されたエルフ』、私のことで間違いないかと。
 ただ私は正確には、ハーフエルフなのですが」
「そ、そうだったんですか……。でも半分は、エルフなんですよね?」

先ほどに比して、かなり――少なくとも私と会話のキャッチボールができるくらいには落ち着いてくれたメイド。
ただ流石にまだ、その目から警戒の色は拭い切れていないが。
少し引っかかる物言いではあったが――仕方あるまいと、問いに応じる。

「ええ。父は人間、母がエルフでしたが――それが何か?」
「……食べませんよね?」
「食べませんてば」

ドきっぱりと断言。……というか本気でこの世界の人々のエルフ観はどうなっているのやら。
ヴァレリア様に詳細聞かせたら泣くと思う。多分。



「……そうだったんですか。
 ごめんなさい、わたし、てっきり襲われて食べられちゃうものかと……」

ツッコミを経て彼女の感情がフラットに戻ったところで、私がルイズ様の使い魔になったことと、命じられて洗濯に来たことを説明した。
ようやく相好を崩し、まともに会話ができる段階に至ったことを確認し、安堵する。
互いに仕事のある身ということもあり――水場に並んで世間話がてら、洗濯をしつつ、挨拶をやり直すこととした。

「いえ、そんなに気に病まないでください。
 自分の種族やこの地の常識を気にしなかった私にも、非がないわけではありませんし。
 ……ええと、シエスタさん、でよろしかったでしょうか?」
「あ、はい。そうですっ!
 ……そ、そういえばまだお名前、ちゃんと、聞いてませんでした……よね」

私の確認に応じ――そこで、先刻の騒動を思い出し、顔を赤らめて口ごもるシエスタさん。

「ええ。ですから、改めて自己紹介をさせて頂こうかと。

 ――フォルテンマイヤー家執事、リック・アロースミスと申します。
 今は故あって、ルイズ様の使い魔をさせていただいております。以後、お見知り置きを」

「はい……じゃあリックさん、って呼ばせてもらいますね! 
 ……って、あれっ?」
「どうしました?」

私の自己紹介を聞いたとたん、首をかしげるメイドの少女。

「リックさん……家名があるのに、執事で、使い魔?
 それに――ミス・ヴァリエールの使い魔さんなのに、『フォルテンマイヤー家』って……?」
「……そのこと、ですか」

……来たか。
私がこう名乗る上では、当然といえば当然ぶつけられる疑問。
もっと混乱を招かない言い方もあったかもしれないが――それでも、私が『執事としての私』であり続けるために、譲れぬ一線でもある。
どう話したものか、少し迷ったが――


「……単に私の住んでいた地では、貴族にも庶民にも等しく、家名があっただけの話ですよ。
 それと、私の立場のことですが――私も事ここに至るまでの間に、いろいろと紆余曲折がありまして。
 話せば長くなりますので、当座はこの辺でご勘弁を」
「は、はぁ……そう、なんですか」

とりあえず、大雑把な説明でお茶を濁すだけにとどめておいた。
元々私の今の立場など、ややこしいことこの上ない。異世界であるゴルトロックから召喚された身とあらば、尚更である。
まして私の仕えるフォルテンマイヤー家のことまで含めて話し出せば、どこまで話せばいいかなど見当もつかない。

「リックさんもその様子だと、色々大変そうだったみたいですね……。
 でも、わたしたちみたいな平民でも家名を名乗れるなんて……ちょっと、うらやましいかも。
 トリステインやガリアじゃあそういう風習はないんですけど――もしかしてリックさん、ゲルマニア出身だったりとか?
 あそこなら、平民も貴族になって家名を名乗ったりするそうですし……
 あ、ハーフエルフだからむしろロバ・アル・カリイエとか」
「それは、その……そこらの事情も、話せば結構長くなりますので。
 ただ――そのゲルマニアや、ロバ・アル・カリイエとか言われるところよりずっと遠く、というのは確かですね」

そう、ずっと遠く。
下手をすればこのハルケギニアのどの地よりもずっと遠く――
たった一日でそんな彼岸の地になってしまったオセロットシティと仲間達、そしてお嬢様の顔を思い浮かべ、帰還への意識を再確認する。
そこまで来たところで、ようやく最後に残していたマントを洗い終えたことに気がついた。

「……と、どうやら私の洗濯物はここまでのようですね。
 物干し台は、あちらでよろしかったでしょうか?」
「え? ええ……そっちで合ってます」
「では、私は先に失礼します。また何かあればよろしくお願いします、シエスタさん」
「あ……はい、よろしくお願いします、リックさん! 
 また何かあれば、わたしでよければ、相談に乗りますから!」


洗い物を続けるシエスタさんに会釈すると、立ち上がる。
見れば、わりと日も昇ってしまっている。早く洗濯物を干してルイズ様を起こさねば。
身支度を整え、洗濯籠を抱えると、私は洗い場を辞することにした。


「――上手く切り抜けたじゃない、リック」
「何がですか、ルダ?」

寮へ戻り、ルイズ様の部屋に続く廊下を歩く――――不意に、ルダが声をかけてきた。

「さっきの娘のことよ」
「……皮肉なら結構です」
「あらそう……残念ね、皮肉だったのに」
「結局そうなんですか!?」

私の愛銃の、『先代』とはまた違う性格の悪さに、顔をしかめたところで――
ルダの声が、急に厳しいものに変わった。

「でもね、この世界でやっていく上で――この先、あんな調子じゃもっとキツくなるわよ。
 この世界の人間は、この様子だとあのお嬢ちゃんの言う通り――大なり小なりエルフ恐怖症が染み付いてるようだし」
「神話の時代からの言い伝えらしいですからね……流石に、無理もないことかと」
「それに何より――私達は“この世界においては、秘密や曰くが多すぎる”」
「…………ええ」

確かにこの点において、ルダの言を否定する要素は何もない。
このハルケギニアに召喚された異世界人――しかも、“この世界では恐怖の代名詞となっている”エルフと人間のハーフであること。
さらに私個人の身の上や、ルダの素性なども含め、人に話すのに考慮を必要とする事柄は山ほどある。
シエスタさんはまだ、あの程度で済みはしたもの、今後はもっと気を配らねば――――

「はい、反省会の時間はそこまで。
 “他の連中とは別の意味で”コミュニケーション考えなきゃいけないお相手よ、リック」
「また大袈裟な……とも言ってられませんか、こればかりは」

シエスタさんから聞き出した、学院の生徒の一日のスケジュールを反芻する。
まだハルケギニアの時刻が分からないので正確なことは言えないが、朝食や始業の時間を考えると、もう起こさねばならない頃合だろう。
当座の我々の拠点たるルイズ様の部屋に戻ると、その主――ベッドで寝息を立てる少女を、起こしにかかる。

「すぅ、むにゃ……ちい、ねえさま……」
「ルイズ様。……ルイズ様。
 朝ですよ、お起きになってください」
「ぅうん、あと、ちょっとだけ……」
「そうは仰いますが、そろそろ朝食の時間では? それにその後は授業もお有りだと伺っております。
 畏れながら仮にも貴族を名乗るお方が寝坊で遅刻というのも、いささか格好がつかないかと存じます。さぁ……!」

説得と平行して、布団を力いっぱい、“優しく”引き剥がすことも忘れない。
お嬢様の幼少のみぎりに培った、私の目覚まし必勝法である。

「んぅ~~~~~~……わかった、わかったわよ……起きるってばぁ……」

伊達に十年分の経験に裏打ちされてはおらず、その効果も実証済みである。
流石に観念したのか、ルイズ様が寝ぼけ眼で上体を起こした。


「水……」
「畏まりました」

要求に応じ、あらかじめ用意しておいた、洗面器に張った水を差し出す。
のろのろと作業的に、洗面器に手と顔を突っ込み、顔を洗うルイズ様。

「タオル」
「どうぞ」

差し出された片手に、手際よくタオルを差し出す。
ごしごしと手を動かし、顔の水気を拭うルイズ様。

「髪、とかして」
「……は、はい」

最後のこれは予想外――流石にお嬢様相手でもしてさしあげた事など、数えるほどしかないが、致し方ない。
鏡台に置いてあったブラシを取り、桃色がかったブロンドの、波打つような長髪を梳いていく。
幸いにもその少しウェーブがかった髪質は、お嬢様ほどクセが強い訳でもなく、髪を引っ掛けることもなく終了する。

「ん――もういいわ。
 ようやく頭がしゃっきりして来たかも……。ありがと、ジェローム……」
「それはようございました……………………って、ちょっとお待ちください。
 私の名前はジェロームではございません、リックです」
「……えぇ? でもわたしが生まれる前からヴァリエール家の執、事、は――――」


そこまで来て、不意にルイズ様の動きが止まる。

……先刻の悪い予感、再び私の背中に嫌過ぎる凱旋。
ぎぎぎぃっ、と。
錆びて動作不良を起こした機械のように、たどたどしく首をこちらに向けて、その目を大きく見開くと――


「いやぁあああああちょっと待って何これやだなんでエルフがわたしの部屋でしかも執事を!!?」
「ワンテンポ遅いですよ!?
 というかまた、この展開なのですか……」


今朝の水場の光景・リターンズ。……せめて昨夜の使い魔契約の一件ぐらい覚えておいてください契約主様。
ベッドの上で、パニックに陥るルイズ様を見つつ――
私はガックリと肩を落とし、何度目か数えるのも嫌になった、ため息をついた。


「んく、んくっ、んくっ……くはぁ……!」
「……落ち着かれましたか?」
「ま、まぁ……一応は、ね」

私が備え付けの水注しから注いだコップの水を、一気に飲み干すルイズ様。
息をつくのを見計らって、声をかける。


結局あの後、ほぼシエスタさんのときと同じプロセス――早い話が宥めてからの説得――を経て、
昨日の、私が召喚されてからの事を思い出してもらい、現在に至る。
……どうやらこのルイズ様、(起き抜けの様子を見れば丸分かりだったが)かなりの低血圧らしい。

「あー、まったく……ようやく思い出したわよ。
 このわたしともあろう者が、とんだ失態だわ。 寝起きで頭が動いてなかったこともあるけど――自分の使い魔のことも忘れちゃうなんて」
「昨日は何から何まで、前代未聞尽くしという状態でしたから…………お互いに。
 流石に少々の混乱は、致し方無きことかと」

言葉を引き取り、すかさずフォロー。
それならそれでインパクトはあったのだから、覚えておいてもバチは当たらないのではないでしょうか――
などという考えは、おくびにも出さない。

「……それはそうと、もう朝食の時間まで間がないのではありませんか?」
「うー、そうね……もうこんな時間じゃない。
 じゃあ急ぐから、服の用意してちょうだい」
「畏まりました」

ルイズ様が起きるまでに、部屋と物の配置はある程度把握してある。
クローゼットからブラウスとスカート、そして五芒星(ペンタグラム)の刻まれた留め金の、黒いマントを取ると、ルイズ様に差し出した。

「どうぞ。お召し物でございます」
「ん、……ってちょっと、下着がないじゃないの!」

――しまった。
そういえば昨日の就寝前に脱ぎ渡された服にも、下着が……。

「……申し訳ございません。
 まだ昨日の今日で、下着がどこにあるのか存じておりませんので」
「まったくもう……しょうがないわね。
 ほら、キャミソールはクローゼット下の右。パンツは左の引き出しに入ってるから」
「畏まり、ました……」

流石にモノがモノだけに、表情が引きつるのを自覚する。
言われた場所で下着を確認し、ルイズ様に差し出すと――私は回れ右をしてまっすぐに、出入口へ向かう。
十歩分の距離が、一歩、また一歩と狭まっていく。
ドアまであと三モール――そこまで来たところで、背後から怪訝そうな声がかかった。

「……どこ行くのよ?」

背中に、たらりと一筋の冷汗が流れる。

「い、いえ……お召し替えされるようですので、外でお待ちしようかと」
「はぁ? 何バカな事言ってるの。さっさと着せなさいよ」
「ぇ……ぅえぇっ!?」

驚きに、反射的に振り返ると――視界に映るのは、ネグリジェからキャミソールに着替えたルイズ様。
下着まで着せろという要求ではなかったようで、一安心…………いや、問題はそこではない。
強張った眉間を揉み解しながら、契約主の少女に確認する。

「……失礼ですがルイズ様。 もう眠気は、醒めておいでですよね?」
「あんたこそ、寝言言ってるんじゃないわよ……ほら、服。
 時間ないってあんたも分かってるでしょ? 急ぎなさいよ」
「いえ、それは承知してはおりますが…………ご自分で着たり、などは?」
「……やっぱり、あんたのほうが寝ぼけてるんじゃないの。
 下僕がいるときは、貴族の服は下僕が着せるものよ? 常識じゃない」

――ふと執事としての座学中に読んだ、教本の内容を思い出す。
そういえば政治上の貴族制が廃止される前のゴルトロックでも、そんな風習があったようななかったような――
だがそのケースももう、私にとっては百年以上昔の話である。

「……申し訳ありません。
 私のいたゴルトロックでは、もうそのような慣習がなかったものでして」

仮にそうした慣わしが残っていても、私の仕えるフォルテンマイヤー家――
セルマお嬢様や、その先代のランド様だったら、まず間違いなく断っていたと思う。
……お嬢様は羞恥プレイの一環として、私に命じかねないのが怖いところだが。

「そっちはそっちでしょ? このハルケギニアには、あるの!
 無駄口叩いてないでさっさとやりなさいよ。 あんた、それでも執事?」
「ッ…………!!」

流石にこういう言われ方をしては、執事としてはぐうの音も出ない。

「か、畏まりました……」

渋い顔をしつつも、私はベッドの上に投げ出された、白いブラウスを手に取った――。


新着情報

取得中です。