あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無界行-8

決闘騒ぎから少し時間をさかのぼり、ここは本塔の最上階にある学院長室。
学院長であるオールド・オスマンの部屋である。
長い白髪と美髯をたくわえた、絵本に出てきそうな『魔法使い』のイメージそのままの老人である。
年齢は百歳とも、もっと生きているとも噂されている。本人も知らないかもしれない。

さて、そのオスマン老は昼下がりのこの時間、何をしているのだろう?

「―――――オールド・オスマン。暇だからといって、私のお尻を揉むのは止めてください」
「減るものではないし、良いではないか」

自分の秘書へのセクハラに精を出していた。とんでもないじじいである。

「減ります。私の中の何かが。アッ・・・」
「かかか、そんなことを言いつつも本音は違うんじゃないかの、ミス・ロングビル。
 遠慮はいらんぞ」

答えつつも理知的な顔立ちが凛々しい秘書―――――ミス・ロングビルへとセクハラを続けるオスマン。
指をたわわな尻肉に喰いこませ、揉む。揉みしだく。
執拗な動きに、ロングビルの口から微かな吐息が漏れる。

「のう、ミス・ロングビル。真実とはどこにあるのじゃろう?
 決して忘れてはならない物は、果たして人の手に掴める物なのか?

 ―――――いや、弱気になってはいかん。わしは必ず掴んでみせる!」

唐突に、力強く宣言するオスマン。
ここだけ聞けば、世の深淵を探求せんとする崇高なメイジに見えなくもない。

(うむむ、この感触・・・下着を着けていないっ!?
 いやいや落ち着けワシ、それぐらい布面積の小さい下着ということかっ・・・。
 い、いけない秘書じゃミス・ロングビル・・・こんなモノでワシをまた挑発して・・・1
 本当は襲われ願望があるんじゃないのかっ・・・!)

まぁ、彼の今の脳内と行動を見れば、正体は明らかであるが。

と、ロングビルは息を一つ吐き、
「ふんっ!」
ドゴォッ
「げふっ」
次の瞬間、見事な回し蹴りがオスマンにヒットした。
倒れ付したオスマンの腰の辺りへと、さらに追撃の蹴りを見舞うロングビル。

「腰の調子が悪いと先日おっしゃっていましたねオールド・オスマン?」
ゲシゲシッ
「マッサージをしてあげましょう」
ドスッドスッ
「自己流でよろしければ、ですが」
ガンッ!ガンッ! 蹴りは、だんだんと強くなっていく。

「ふぐぉぉぉおおお、おふぅっ!はっ!ごっ!むっ!
 や、止め・・・・いや、やっぱりもうちょっと・・・・!」

息を荒くしながら制裁を続けるロングビルとそれを抵抗もせずに受け続けるオスマン。
2人とも新しい世界を垣間見始めていた。この世の真実などではなく、一言で言うとSとMの世界を。
何なのだろう、この学院長室は。

そのとき、扉の外からバタバタとせわしない足音が近づいてきた。ハッとする室内の2人。
直後、ガタンと扉を開けて室内に飛び込んできたのは教師のコルベール。
『炎蛇』の2つ名を持つ炎系統のメイジである。昨日の使い魔召喚の儀式を監督していた教師でもある。
「オールド・オスマン!」
「何じゃね、ノックも無しで。騒々しいぞミスタ・ヘルモーズ。
 頭からレギオン・イレイザーでも撃てるようになったのか?」
「あ、これは失礼・・・ってコルベールです!何をわけの分からない事を!」

応じたオスマンは、一瞬前までの嬌態がまるで幻だったかのごとく、
重厚なセコイアのテーブルに座って腕を組んでいた。ロングビルも同様である。
早業・・・いや、神業であった。

「それよりも、大変なことが分かったんです!これを見てください!」
「大変な事など、あるものか。全ては小事じゃ・・・これは『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。
 こんな古い文献がどうしたというんじゃ?」
「私は、ちょっと失礼いたしますわ・・・」
詳しい話が始まる前に、ロングビルは自分から退室していった。
なにやら込み入った話らしい、と感じ取ったのもあるし、オスマンの執拗なセクハラでズレた
下着の位置を直したくもあったのである。

ロングビルが退室して十数分後。
一通りの話を聞いたオスマンの顔は、幾分緊張に引き締まっていた。
「―――――つまり、噂の『人間の使い魔』に刻まれたルーンが気になったので
 一晩かけて調べてみた結果・・・・始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に行き着いたと」
オスマンは、コルベールが書いたルーンのスケッチと、文献とを交互に見比べる。
「そうです!あの男性の左手に刻まれたルーンは、伝説の使い魔『ガンダールヴ』のものと全く同じ・・・。
 つまりあの男性は、『ガンダールヴ』だということですよ!これが大事でなくて何なんですかオールド・オスマン!」
「そう興奮するんじゃないわい、さっきから唾が飛んできてかなわん。

 ふむ・・・・確かに同じルーンじゃが、それだけで決め付ける訳にもいくまい。
 元々が伝説や御伽噺に等しい大昔の話じゃ。ここに書かれとるルーンが本当に正しいのかも確認はできんし、
 単に『ルーンの空似』という事も考えられるじゃろう」
「それは確かにそうですが―――――」
その時、扉が控えめにノックされた。
「誰じゃ?」と問うオスマンに答えたのはロングビルであった。
ヴェストリの広場で生徒が決闘騒ぎを起こしているのを聞きつけ、急ぎ報告に来たのである。
オスマンはあまり気のない様子で報告を聞いていたが、決闘をしている一人が
まさに今話題にしていた『人間の使い魔』だと聞いて、コルベールと顔を見合わせた。

「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めていますが」
「アホか、たかが子供の喧嘩を止めるのに秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい」
わかりました、と答えロングビルは立ち去っていった。
―――――コルベールは唾を飲み込むと、オスマンを促す。
「オールド・オスマン・・・」
「うむ」
オスマンは頷き、杖を振って壁にかかった大きな鏡に、ヴェストリ広場の様子を映し出した。

ちょうど、南雲が6体のワルキューレを前にナイフを引き抜いた所であった。

ヴェストリの広場―――――戦闘中の南雲に、『奇妙』な事態が起こっていた。
ナイフを手にした瞬間、南雲の脳裏にいくつもの映像が浮かび上がったのである。
―――――ナイフを使った、ありとあらゆる戦闘法が。

無数の斬撃と、刺突と―――――それらのモーションが、まるで数多の戦場から
場面を切り取って繋ぎ合わせたかのように再生されている。

(これは・・・何だ?)
無論こんな事は南雲にとっても初めての経験である。
かといって『これ』が南雲にとって邪魔なものかと言えば、そんな事も無い。
戦闘の思考を妨げることもなく、全てを違和感無く理解できる。
把握しつくしたはずの動きの一つ一つが、今一度脳裏に刻み込まれ―――――
手に馴染んだ刃物の感覚が、より鋭敏になったような気がした。
ワルキューレを見やる。 

遅い―――――南雲の目には、敵の動きが非常にスローモーに見えていた。
神経も、筋肉も、骨格も・・・・その身を支える全てが、常人とは根本的に異なるのである。

そして、ワルキューレ達の向こうに立つギーシュ・ド・グラモンを視界へ入れた瞬間。
南雲の脳は、奇妙なこの事態への思考を中断させた。

そうだ―――――『これ』の事は、後で考えても良い。
今は・・・・『敵』を倒せ。

南雲は走った。
―――――いや、後に薄く残像を生じて走るそれを『走る』とだけ表現してよいものか。
黒髪と、黒で揃えた衣服のせいもあろうか・・・彼の移動は、黒い光の一閃であった。

一体目のワルキューレ。反応し構える事すら出来なかったそれの首―――――最も細くなっている部分に刃を差し込む。
何の抵抗も無くそれは切り裂かれた。
首が宙を舞う。

二体目。斜め下から刃を切り上げる、さっきと同じく首へ―――――。
結果は同じく。首が宙を舞う。

三体目・・・四・・・五・・・・六体目。
詳細を書くまでも無い、その全ては・・・・同じく首を断たれたのだから。

南雲が動きを止めた直後。
ガンガンガンッ、と重いものが地面に落ちる音が、連続して響く。
最初のワルキューレが首を断たれ、それが地面に落ちるまでの時間。
南雲が、残る全てのワルキューレを屠るまでに要した時間であった。

ゴーレムであるワルキューレ達の顔が、苦痛に歪む事など無い。転がる頭の表情は、どれも変わることなく穏やかであった。
―――――これが人間だったらどうか?
喜び、悲しみ、怒り・・・・それらの表情を留めたままの頭が、同じように転がるのではないか?
―――――首を断たれたと感じるよりも早く、苦痛無きまま死ぬが故に。

南雲は、頭部を失い崩れ落ちるワルキューレ達の方を見ようともしない。
驚愕を通り越して、呆けたような顔を連ねる周囲の生徒達の方を見るのでもない。

見据えるのは、ただ一人―――――ギーシュ・ド・グラモン。

ギーシュは顔が蒼白となり、過呼吸だというのに息ができないような錯覚を感じていた。
「あっ、ああっ・・・・ひぃっ・・・はっ・・・あ、あ・・・」
ありえない。こんな事。  これは、夢か?悪い夢なのか?
だってあの男は、ただの平民。自分はメイジだ。

いや、違う・・・・・『現実』だ。
この平民の男が、ワルキューレ達を倒したのも。
その男・・・南雲が、再び動き出し―――――自分の目の前までやってきているのも。

ギーシュは混乱の最中にありながらも、自分が口にすべき言葉を正しく選択し、口にしようとした。
すなわち『参った』と。そうすればこの戦いは終わる―――――終わってくれる。

しかし―――――その喉に南雲の手が伸び、ギーシュは喉に、刺すような鋭い痛みを感じた。
思わず喉を押さえ、そして愕然とする。
(こ、声がっ・・・・!?)
声が―――――出ない。宣言が、出来ない。

それはすなわち『続きがある』事を意味した。
この戦いが―――――もはや戦いにもならぬ戦いが。

次の瞬間。
ギーシュは己の体が宙にある事を理解した。あたかも先程のワルキューレの首の運命をなぞるがごとく。
南雲がギーシュの上着を掴み、片手のみで上へと投げ上げ、そして―――――
ズダンッ!
「・・・・・・っ!!!」
地面へと、叩きつけられた。土埃が舞い、上等な衣服が汚れ・・・・どこかの骨が、折れた。
そのギーシュの脇に、彼の薔薇の造花が落ち―――――南雲に、いとも容易く踏み潰された。



新着情報

取得中です。