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マジシャン ザ ルイズ 3章 (26)

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マジシャン ザ ルイズ 3章 (26)ゲット・ア・チャンス

「どうやらお疲れのようですな」
そう彼女にねぎらいの声をかけたのは痩せ過ぎの体型に頭髪も髭も真白な男であった。
聖職の身であることを示す教会のローブに袖を通しているその男は、その実四十路であったのだが老け込んだその容姿も合わさって、ときに人々から「鳥の骨」と呼ばれることもあった。
彼の名前はマザリーニ、ロマリアの教皇より任命された枢機卿であり、先王の崩御以来政務の多くを担っているトリステインの事実上の宰相にあたる立場の人間である。
一方マザリーニのその言葉に答えたのは、張りのある透き通った美しいガラス細工のような美声。
「いいえ、このくらい何でもありません」
彼女こそは城下でその二つ名を知らぬ者がいないこの国の王、誓約の女王アンリエッタ。
トリステインの真珠と称えられた美貌は人々を率いる王として即位してなお損なわれることは無く、むしろより一層の輝きを放っているようだった。
その女王がマザリーニに向かって柔らかく微笑んだ。国民を安心させる暖かな笑みだ。
けれどその微笑みの中に混じる小さな陰りを彼は見逃さない。
長くその傍に仕え、その苦楽を見てきたマザリーニにとってアンリエッタは娘にも等しい、彼女が悩みを抱えていることが分からぬほどに彼は人肌を失ってはいなかった。
「まだ、モット伯爵の報告のことを気にしておられるのですかな?」
はっとした顔でマザリーニを見上げるアンリエッタ、その反応こそが彼の言葉を何よりも雄弁に肯定していた。
「あなたには敵いませんね」
「いえ……、長い付き合いに、なりますからな」
ため息を一つ吐き出して、胸の前で腕を組むアンリエッタ。
「これで、良かったのでしょうか」
「他に方法はありませんでした。何より結果的にも最上策であったと思われます」



あの日、夜明け近くに王城への帰還を果たしたアンリエッタ達を迎えたのは、覚悟していた敵の矢ではなく、勝利を称える人々の発する歓喜の声であった。
側近達の反対を押し切り、特に足の速い数隻のフネで編隊を組んで王城へと急いだアンリエッタは、正直なところ既に王城は陥落し敵の手に落ちていることを半ば以上覚悟していた。
だがしかし、タラップから降りた彼女を出迎えたのは涙を流して「トリステイン万歳」「ブリミル万歳」と叫ぶ貴族、兵士、そして王都の住民達。
理解が追いつかずに呆然とするアンリエッタであったが、その横に立っていたマザリーニはとっさに状況を判断し、人々に向かって大声でこう宣言した。
「皆の者!始祖の加護により危機は去った! 我々は勝利したのだ!」
あの時の大歓声を、アンリエッタは生涯忘れることはないだろう。

入場したアンリエッタ達は表面上は落ち着き払った態度を貫き、自分たちは事態の全てを掌握しているというふうを装いながら、全力で状況を把握するために情報を収集した。
そうして上がってきた膨大な報告の一つが、モット伯爵の報告書であった。
あまりに荒唐無稽として、分析担当によって重要度低しと判断されたそれを偶然マザリーニが発見し、直ちにアンリエッタに報告された。
南部戦線においてモット伯の報告がアルビオン出現の最初の一報となったことを知っていたアンリエッタとマザリーニは直ぐに彼を王城へ招集し、彼自身の口からことの顛末を報告させたのであった。
そうして彼女らは飛翔艦ウェザーライトⅡ、アルビオンの不死者の軍団、祖国を救った聖なる光、始祖の生まれ変わりである少女の存在を知ったのだ。

今、アンリエッタが思い悩んでいるのはその中の一つ『始祖の生まれ変わりの少女』についてである。
モット伯爵はそれがヴァリエール公爵家の末娘であると興奮を隠さずに報告した。
ヴァリエール公爵家の末娘、つまりはルイズである。
普段であれば一笑に付して取り合わないような報告であったが、それ以外の独自に集められた情報と照らし合わせるに、モット伯爵の報告は信用するに足るものであると判断が下された。

アンリエッタは南部戦線で受けたアルビオン奇襲の急報よりも衝撃を受けることはあり得ないと思っていたのだが、これはあっさりと覆された。
一体誰が自分の幼なじみが一晩で救国の英雄になっていたなどという事態を予想できるであろうか。
そして更にはアカデミーに運び込まれたルイズが原因不明の昏睡状態に陥っているという事実は更なる動揺を彼女与えた。
次々と明らかになる真実に衝撃を受け、顔色を失うアンリエッタに、マザリーニは更なる決断を迫った。
それはアンリエッタの女王即位、そしてルイズではなくアンリエッタ自身が、始祖の祝福と加護を受けたと発表するというものだった。
当然、幼なじみの功績を自分が横取りするような真似は出来ない、アンリエッタは進言の後者を退けようとした。
だが、マザリーニは新女王が始祖の加護を持って奇跡を起こしアルビオンを撃退したとすることの政治的な重要な価値と、
そうすることで他国の諜報員や国内の不穏分子の目から、ルイズへと向かう注意を逸らし、それが結果として彼女の身の安全に繋がると説得した。
そして、アンリエッタは悩み抜いた末にマザリーニの意見を受け容れた。
女王の承認が降りてからは城下や国外に向けて表から裏から、総力を挙げての情報操作が行わた。
こうして行われた女王即位式典とパレード、国中が浮かれていた裏では、関係者達の血を吐くような情報戦が繰り広げられていたのであった。



「まだヴァリエール家のご息女の功績を奪ってしまったことをお気になされているのですか?あれは彼女の為でもあったのです」
そう言ってアンリエッタの背負う重責を、少しでも軽くなるように気をまわすマザリーニ枢機卿。
アンリエッタは彼のそんな気遣いを理解しながらも、顔を曇らせたままだった。
俯くアンリエッタ、それを見ても何も言わないマザリーニ。
「……」
「……」
両者の間にしばしの沈黙が流れた。
マザリーニは、この若く新しい女王が真に悩んでいることを推し量るため。
アンリエッタは、これから自分が口にする、口にしなくてはならないことの、あまりに重い責任を感じて。
「私は……」
「はい」
「私はルイズに、戦争に加わって戦地に赴くようにと、……そんなことを彼女に言わなくてはならないのでしょうか」
答えようとして口ごもるマザリーニ。
彼の中の聖職者としての部分、人間としての部分、そして政治家としての部分、それぞれがせめぎ合った一瞬の沈黙。
そうして出た結論。十代の娘に背負わせるには余りに重いそれを伝えようとしている自分の残酷さに、彼は吐き気をもよおした。 
「はい、その通りです。陛下」




――ケチがついたのはいつの頃だっただろうか。

執務室でアンリエッタが暗澹たる思いにかられていた時、別の場所でも深く消沈している者がいた。

城下を騒がした罪人、女盗賊『土くれ』のフーケがしっかりとした実務的な作りの椅子に腰掛けている。
場所はトリスタニアの王城、その一室。
その広く奥行きのある部屋には赤いカーペットが敷かれ、その上には十人以上が座れる円卓が据えられている。
普段から少人数での会議が行われている部屋なのだろう。他の部屋のような華美は装飾は控えられている。
卓についているのは魔法学院長オールド・オスマン、教師コルベール、男子生徒のギーシュ、女子生徒のモンモランシー、タバサ、ルイズ、ウルザ、フーケ、モット伯爵、エレオノール。

フーケにとって天敵とも呼べる、貴族達の主人の居城のその一室。
彼女は一体どこからやり直せば今よりマシになっていたのかを考えていた。
間違いを犯したのはどこだったか。

そもそもトリステインに来たことだろうか?
それとも学院に潜り込んでロングビルを名乗ったことか?
『禁断の剣』なんてうさんくさいものに目をつけたことか?
首尾良く盗み出したのに、欲をかいて使い方まで探ろうとしたことか?
チェルノボーグでワルドに荷担すると決めたことか?
ワルドの消息が分からなくなったのに姿を眩まさず、律儀にアルビオンに留まったことか?
さっさとテファを連れて逃げれば良かったものを、決断を先延ばしにしてそうしなかったことか?
気色悪い使い魔のルーンとやらの移植を拒んだことか?
踏ん切りをつけてテファを逃がしたついでに、ガリア王弟の娘も逃がしてやろうとか、色気をだしたことか?
それとも、あのフネの中で気味の悪い髭メイジとの取引に応じて『破壊の杖』を使ったことか?

考えれば考えるほど、どれもこれもどつぼに嵌る選択ばかりだったような気がしてきた。

頭をふるって頭を冷やす。ついでにテーブルに置かれていたカップを手に取り口元に導いた。
生ぬるくなった液体を嚥下するが、こんな時に味なんて分かるはずが無い。
最悪に最悪を塗り重ねて、自分は今ここに座っている。
いつ逮捕されて暗く湿ったあの牢獄に放り込まれてもおかしくはない。
変な動きを見せればすぐにでも兵士達が駆けつけて取り押さえる算段くらいはつけてあるだろう。
華やかなこの王城だって、一皮剥けば醜く汚らしい面が顔を出すに違いない。

面倒も厄介もご免被りたがったが、そういったたちの悪い連中に限って、頼んでもいないのに勝手にやってくるのだ。
何も自分の不運を嘆いているのではない。人生とはそうした糞食らえなものだってことを、フーケは人一倍知っている。
口を潤した液体が美味だったのか、もしくはそうでなかったかは分からない。ただその渋みは思考を切り替える契機にはなってくれた。

自分は生きている、このどうしようもなく腐った世界でまだ生きている。
世の中はろくでもなくて、泥と糞で出来ている。そんなことは百も承知だったはずだ。
それを、何をめそめそと泣き言ばかり唄ってたのか、そんなものは家畜の餌だ、くれてやれ。
自分は泣いて助けを求めるお嬢さんなんかじゃない、土くれのフーケなのだ。
だから考えよう、これからのことを。
出し抜いて、足をすくって生き残る。
最低最悪のこの世界、サイコロを振るのは自分という部分だけは気に入っているのだ。




両開きの会議室の扉が開き、そこから一組の男女が部屋に足を踏み入れた。
片や、光を浴びて朝露を反射させる白百合の風情、女王アンリエッタ。
片や、羽を閉じて縮こまった痩せこけたフクロウの風情、マザリーニ枢機卿。
この国の『政治』の頂点に立つ二人が現れると同時、部屋の空気がきりりと引き締まった。
席から立ち上がって臣下の礼を取ろうとするフーケを除いた出席者達を、片手を上げることでアンリエッタは留めた。
「そのままで構いません。煩わしい手続は省略して早速始めましょう」
言って自身も席に着く女王、そう言われては腰を浮かせかけた者達も、倣って着席する他になかった。
女王が円卓につく一方、彼女と共に現れたマザリーニは手にした書類を出席者全員の前に置いて回る。
そうして円卓を一回りした後に、マザリーニは女王にも同じものを手渡して、その隣の席に座った。
「皆さん、お手元に渡りました書類は宣誓書となります」
確かにそこには宣誓書と書かれており、その下にはびっしりと誓いの文言と、国家の法とが記載さていた。
「これから行われる諮問に対して、嘘偽り無く真実を語ることを始祖ブリミルに誓う形で書面にして頂きます。
 この文章の正当性はトリステインとロマリア両政府がこれを保証し、枢機卿であるわたくしが立会人となります。皆さん文面を確認してから、本名にてサインをお願いします」
『本名で』という言葉をいう際にタバサとフーケを見やるマザリーニ枢機卿だったが、当の二人はどこ吹く風といった様子で顔色一つ変えていなかった。
「なお、この場での発言は全て自動筆記による記録が行われます。全員のサインが確認されましたら、私の方で自動筆記の魔法を発動させて頂きます」
とどのつまり、嘘は許さない、記録は全て残す、彼はそう言っているのである。

事前に円卓に準備されていたペンを用いて全員がサインしたのを見届けた後、マザリーニは再び円卓を一回りして宣誓書を集めた。
そのうちの三枚を特に注視する。
それぞれは末尾にウルザ、シャルロット・エレーヌ・オルレアン、マチルダ・オブ・サウスゴータと署名されていた。
タバサは兎も角、フーケの本名である『マチルダ・オブ・サウスゴータ』は国家であるアルビオンの保証を確認することができない。
確認がとれない以上この場でのフーケの本名についての追求は不可能である。
フーケがそのことに気づいていないとも考えにくい、ならばなぜわざわざ自分の弱点を晒してまで本名による署名を行ったのか?そんなことを考えて、この後の諮問が一筋縄ではいかない予感を抱きつつ、マザリーニは自動筆記の魔法を唱えた。

自動筆記が始まったことを確かめて、アンリエッタは宣言する。
「これより女王アンリエッタの名の下に、第三十一諮問会を開会します」
マチルダにとって、その運命を占う諮問会が幕を開けた。


                     賭けるチップは命と未来。イカサマ、はったり、何でもあり。
                               ―――マチルダ・オブ・サウスゴータ


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