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夏休みの使い魔-2

ハルケギニアで最大の人口を誇るガリア王国の首都、リュティス。
先刻までの晴天が嘘であったとでも言うように、闇色に輝く緞帳が天を覆っていた。
市民は唐突な凶事に眉を顰め、信仰深き者は思わず始祖ブリミルへの祈りを奉げて天を仰いだが、
その中でたった一人、歓喜に打ち震えて闇に語りかける者が居た。
気まぐれに召喚の儀式を行い、この闇を召喚した『無能王』ガリア王ジョゼフその人である。
「どうだ、シャルル……一目見てわかるだろう?おれの使い魔は漆黒の闇だ……。
くくく……はははははははははは!闇だ!闇だと!?そうか、そうだったのか、始祖ブリミルよ!
貴様の望み通り、おれはこの世界を手のひらに載せて遊んでやろう!
あらゆる力と欲望を利用して、人の美徳と理想に唾を吐きかけてやる!
心優しいシャルル!お前の言った通り、おれは目覚めたぞ!虚無だ!伝説だ!
お前をこの手にかけた時より心が痛む日まで、おれは世界を慰み者にして、蔑んでやろう!」
ジョゼフの狂態に呼応するかのように、天に広がった闇が凝り、一つの形を成してゆく。
黒い緞帳は取り除かれ、空は本来の蒼を取り戻した。
その代わり……ジョゼフの目の前に、黒い髪、黒い服―――闇色の瞳を纏った少女が姿を現す。
「―――ああ……」
重たげに開いた口が吐いたのは、意外に普通の人間の言語だった。
真冬の雪山のような寒気を漂わすその容貌に満足したのか、ジョゼフは愉悦の色を浮かべて言い放つ。
「さあ!おれと契約しろ、虚無の使い魔よ!おれが創る盤上遊戯に、その闇色の彩を加えるのだ!」
その少女は、余計な手間を取らせたと言わんばかりに憂鬱そうに呟いて、ジョゼフの手を取った。
「わたしは―――観測する。わたしは―――」

「……―――周防―――九曜―――」
あまり優しくない『ご主人様』と契約し、固い床の寝床でどうにかこうにか休息を取った俺は、
ご主人様に依頼された任務を遂行すべく朝の洗い場に向かっているわけだが。
一度ぐらいはその手の商売やコスプレではない、メイドとしての業務を忠実にこなすメイドさんを観察してみたい。
俺がそんな期待を胸に洗い場に向かったとしても、誰がそれを責められるというのだろう。
本物のメイドさんが見たいなどと口に出すほどアホではないが、
若くて可愛い女の子がメイド服を着て、かいがいしく業務をこなすさまに心をときめかせるのは、
健全な男子高校生としては至極全うな願望というものではないだろうか。
いや、どうせお年を召したベテランメイドさんが井戸端会議に耽っているのが関の山だ、
などと判った様なことを言ってしまうのは簡単だ。
だが、その中にたった一人でもいい、オアシスとでも言うべき見目麗しい御方がいらっしゃれば。
自称貴族のご主人様の理不尽な仕打ちに耐え、この場所で生き抜く希望を得られるというものだと俺は思う。
これが……この事態がいつものようにハルヒが絡んだ超常現象というべきものであるのならば、
せめてそれぐらいの役得はあってもいいんじゃないか?SOS団員として。

そんなことを考えながら洗い場に向かった俺は、目に飛び込んできた光景に心奪われる事になる。
そこで洗い物に精を出し、たわいもない会話に夢中になっているメイドさん全員が、俺と同年代の少女達だったのだ。
この先の生活に何の根拠もない希望を抱きつつ、俺はそのうちの一人に声を掛ける。
何の気なしに声を掛けただけのその行動が、その後の運命を大きく左右することになろうとは。
いやはや全くもって人生とは実に面白いというか不思議なものである。
「すいません」
「はい、なんでしょうか……」
見覚えのあるその顔を見て、俺は驚き―――あの超能力者が赤い玉になる所を初めて見た時ぐらいには驚き、
思わず相手を指差して「お……お前……」などと意味不明瞭な単語を呟いてしまう。
相手もそれは同じようで、つい先ほどまで会話していた相手を完全に放置して、この俺を驚愕の眼差しで見つめ返す。
たっぷり数分間の静寂の後、俺達はようやくのことで言葉をひねり出して、凍りついた場をほんの少し前に進めた。

「…………キョン」
「……佐々木か?」

俺は思わず佐々木の顔を穴の開くほど見つめる。こいつは何の冗談だ?
一度言葉を発したきり、もう一度沈黙を続ける俺達を不可解に思ったのか、
佐々木と会話していたメイドさんが不思議そうに俺たちを覗き込んで言った。
「どうしたの?」
「ああ、ローラ。この人はキョン。私の……親友なの」
「ふぅん?」
ローラとかいうメイドさんは、疑問符を浮かべたままたっぷりと俺たちを見比べ、意味深に呟く。
「ふぅん?シエスタの親友、ねぇ……」
どうやら例に漏れず、俺と佐々木の何かを誤解してしまったようだ。
俺達を見る奴見る奴、揃いも揃って妙な誤解をしてしまうのはなぜだろうか。
「そう、親友。使い魔召喚の儀式で人が召喚された、という話は聞いたけど、君だったのか」
「どうしてお前がこんな所に居るんだ?それに何だ、シエスタ?」
「いや、それは正に僕のほうでも聞きたいことなんだが……僕にも何が何だかわからない。
僕の主観としては数日前突然この世界に『居た』という事実しか認識できないんだけど、
この世界で産まれ育った記憶も頑として存在する。まるで、何かに上書きされたような……」
「ちょっと待て。この世界と言ったか?」
「ああ、そうだね。この場所には月が二つ存在する。少なくとも僕らの生きていた場所ではありえない」
俺が何となく感じ、それでいて認めたくなかったことをズバリと言い当てられた。
そうだ。今の俺にとっては、こんな事態も十分起こりうる可能性ではないか。
「この僕の『記憶』によると……佐々木武雄、僕の曽祖父にあたる人がこの世界にやってきて、
結局帰る方法を見つけられずにこの世界に定住したということになっているらしい。
僕の記憶が、そして気が確かならば、僕らの世界でも曽祖父の墓碑銘を確認した覚えがある。なのに……」
曽祖父がこの世界で死んだ記憶もあるし、俺達の世界で死んでいた記憶もあるってことか?
「そう。だから奇妙なんだ。二つの世界の記憶が矛盾しながら、しかし整然と整理されて頭の中にある……
君にはないかな?矛盾しながらも確固とした記憶、自分以外の記憶があるような奇妙な感覚が……」
いや、俺には特にそんな変わったような感覚はないが。
「召喚……その特殊な状況下なら……上書きでなくすり替え?……」
俺の答えに何を見出したのか、佐々木は腕を組んでなにやら呟き、
自らの思考の世界へと心を漂わせた。
どうやら調子を取り戻した佐々木に微かな安堵を感じた俺は、
興味深そうに俺達の話を聞いていたローラとかいうメイドに視線を遊ばせる。
彼女は仕方ないとばかりに肩をすくめ、佐々木を指して俺に促した。
俺は話をまとめ、当初の目的を果たすべく佐々木との交渉に移ることにする。
「とりあえずは、だ。佐々木、協力して欲しい事があるんだが」
「ああ、なんだい?」
「あわれな使い魔である俺はだな、ご主人様に洗濯などを仰せつかってきたわけなんだが……」
「男子高校生という身分の君にとってはとんだ試練になるだろうね。いいよ、ついでだ。洗ってあげよう」
俺はうっかり洗濯物をそのまま無造作に見せてしまった。
間の悪い事に一迅の風が吹き、表面を覆っていたマントの裏から威勢よく下着がこんにちわしてしまう。
瞬間、辺りに気まずい空気が流れた。
「あ、ああいや、これはあれだ……」
「くっくっ、僕は言い訳も聞かずに親友の性癖を否定する程狭量ではないつもりだよ?それをどうするつもりだい?」
だからこれは洗濯物として押し付けられただけであって、俺の性癖がどうという話とは全く関係がない。
そう弁解する俺を至極愉快そうに俯瞰した後、佐々木はふっと気を抜いて言った。
「何、冗談さ。貴族という人種の中には、使用人を人間として見ない傾向のある者が存在する事は知っているからね。
……あのルイズという女の子はそれ程ひどいものだとも思えなかったが、見方を変える必要があるのかな?」
まあ、俺も正直そんなに性質の悪い奴にも見えなかったが、俺達の世界とは違う、
見渡す限りの階級社会にどっぷり漬かって育ってきたというのなら仕方ない面もあるのだろう。
それは俺達の世界にも存在する社会の宿唖というもので、全てを個人の責任に帰してしまうのは酷というものだからな。
そんな言葉を吐いた俺に、佐々木はほんの少し驚きを露にする。
「おや、見違えたよ。君はもう少し何というか……いや、少しは進化しているんだねと賞賛の言葉でも贈るべきかな」
「男子三日会わざれば剋目して見よ、とでも返したらいいか?まあ、短い間にも色々あったって事だな」
そう返した俺を、何故か佐々木は物珍しそうに見て、「君、本当にキョンかい?」などと無礼千万な感想を述べる。
失礼な奴め。いかに俺とはいえ、小難しい理屈が専売特許のニヤケ面や、対人能力に乏しい宇宙人に対して
それこそ毎日乏しい俺のボキャブラリーから言葉をひねり出し、なおかつ特殊な人達に大人気の神様や、
部室に舞い降りた天使(エンジェル)に悪い印象を与えないようにしなければならない、
場合によっては世界が大変な事になるなどというハレ晴レユカイな日常に飛び込むことになれば変わらざるをえんさ。
「へえ、何だか楽しそうだね」
お前こそどうなんだ、と問うまでもなく、佐々木は何がしかの羨望のようなものを俺に浮かべ、そして、遠い空を見た。
「……正直、途方にくれていた所なんだ。始めて会った『異世界人』が君でいてくれて良かった、キョン」
「ああ、そうだな。一人じゃないってのはそれだけで心強いもんだ」
この久しぶりに再会した親友に、北高で俺の陥った奇妙奇天烈な部活の事を話すべきか。話すとして、どう話したらいいのか。
「キョン?」
「ああ、悪い……」
そんな内心の迷いをひとまず保留して、俺は渡しそびれていた洗濯物を佐々木に手渡した。
佐々木が順調に洗濯をこなす様を見学し、洗濯という技能の修得に思考を向ける。

大幅に時間を超過し、ご主人様が寝坊したことに気づくのは、昼近くになってからのことであった。



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