あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

宵闇の使い魔 第弐拾弐話

姫様――陛下からの極秘の呼び出しを受けて、王宮へと向かった私達。
そこで陛下と色々な話をしたのだけれど――――
何故か! ミス・ロングビルの為に虎蔵が余計な任務を託されてしまった。
まぁ、陛下の頼みでもあるなら仕方がないのだけど――


宵闇の使い魔
第弐拾弐話:銃士隊の女


「まったく、妙な事になったもんだよ――このアタシが王族の手助けするなんてね」

マチルダがぼやく。
此処は城下街の外れ、裏通りにある宿の二階。その一室。
戦勝ムードに華やぐブルドンネ街からは離れているため、窓を開けて通りを見下ろしても人通りは殆どない。

虎蔵は窓枠に寄り掛かりながら、ふぅと煙を吐き出した。
来る途中に露店で買った葉巻だ。
元はアルビオン将校の物だったのだろうか。
ただの分捕り品にしては、質が良い。
値もそこそこはしたが。

ルイズ達には意地が悪そうなどと言われる笑みを口元に浮かべながら、
粗末なベッドに腰掛けて不満たらたらなマチルダへと視線を向けた。

「ほとんど自業自得だろ?」
「わかってるさ。アンタにも感謝してる。借りばっか溜まってくのは、少し気に食わないけどね」

虎蔵にそう言われれば、彼女は拗ねた様に口を尖らせて明後日の方向を向いた。
年甲斐もないとマチルダ自身は思うのだが、虎蔵と二人でいると自然とこういった仕草をしてしまう事がある。
もしあの赤毛の娘にでも見られようものなら、それこそ烈火の如くからかわれるだろう。
気をつけねばなるまい。

「しかし、わざわざ城の外の宿でなんてね。簡単なお仕事にしちゃ、随分と用心深いことだよ」
「ま、どこぞの隊長の前例があるからな。ほれ、付き添いもメイドだったろ」
「あぁ――そういや、確かに」

自分への照れ隠しのようにマチルダが呟く。
虎蔵がくくっと肩を揺らしてそれに答えると、彼女も城での事を思い返した。
そう確かに、アンリエッタに付き従っていたのは衛士隊のメイジではなくメイドだった。
杖を持っていた様子もなかったことを考えれば、メイジですらない可能性は高い。

「衛士隊が信用できなくなった?」
「かもな。ま、単純に人手不足の可能性もある。こないだので、結構やられたんだろ?
 それと俺らに回ってくる雑用が関係してるかどうかは分からんがね」

ふぅ、っと煙と共に吐き捨てる虎蔵。
マチルダはなるほど、と腕を組んで考え込む。
確かに、それならば自分と虎蔵を使いたがる理由も多少は分かるというものだ。
外部で、それなりに信用の置ける存在。
もっとも、どう考えてもメインは虎蔵で自分が餌だというのは気に食わないのだが。

「ま、仕方がないか――――」

そう、呟き視線を虎蔵に戻した。
彼は相変わらず葉巻を吹かしてはやる気なさげに空を眺めている。
本当に気楽で気侭なことだ。
もしかしたら、自分は餌であると同時に手綱代わりなのではなかろうかとすら思い始めてきた。

――妙な事になったよ。ほんとに―――



数時間ほど、時を遡る。

タルブ平原での大規模な戦闘から数日。
王宮へと召喚されていたルイズ達が面会したのはアンリエッタとマザリーニのみ。
その場で、女王となったアンリエッタ自らの礼と幾許かの報奨金こそ受け取ったが、
またしても正式な褒美を取らせることは出来ないと言う事が告げられた。
理由は当然、ルイズの《虚無》のためだ。

アンリエッタはこの数日のうちに、王宮の情報部門を駆使してあの日の事を徹底的に調査していたため、
ルイズの《虚無》も、虎蔵の"変身"のことも知りえていた。
そしてもし公式にあの戦果の褒美を取らせ、ルイズが《虚無》の使い手であることを知らしめた場合、
どういった事が起きるかも、当然よく理解していた。
敵に狙われるだけではない。味方からも要らぬ関心を集めては、利用されかねない。
女王として以上に、ルイズの友人として、それだけは承服できなかった。
だから、このことは忘れるべきだとルイズを諭したのだ。
マザリーニも、幾つかの政治的な思惑もあり、それを支持していた。

しかし、それを良しとしなかったのが当のルイズ本人である。
《ゼロ》と蔑まれ続けた自分がようやく手にした力。
これで誰かを守ることが出来るのだ。
現に、あの勝利でトリステインの発言力は大きく増し、
ゲルマニアとの同盟のためにアンリエッタが嫁ぐ必要はなくなったのだ。
そのことを知ったルイズは、《虚無》の力で大切なアンリエッタを助けられるということに確信を持ち、
そして誇りを持ちはじめていた。
それを無かったことにしろなどと言われて、「ハイ分かりました」とは頷けない。
そもそも、虎蔵の言う馬呑吐なる超人が敵方に組しているのであれば、対抗できるのは恐らく虎蔵のみだ。
そして虎蔵だけを戦場に立たせるということもまた、ルイズは承服できない。したくない。

結果として、本当にいざと言う時までは《虚無》の力を隠しながら、
アンリエッタを助ける事の出来る方法を考えると言うことで話は落ち着いた。
ルイズの熱心な説得に、アンリエッタの心が動いてしまったのだ。
虎蔵の口から語られた馬呑吐の存在と、タルブ村から譲渡された《ゼロ戦》なる兵器を持ち出したことも大きい。

そしてその後、タバサとキュルケが国にはルイズの事を報告しないという確約をした。
彼女らとしても、悪戯に不信の種を母国に撒く事を良しとはしなかったのだろう。
あっさりと同意した。
虎蔵とキュルケだけには、タバサの反応がやや鈍かったようにも見えたのだが。

さて、此処で話が終わっていれば美談であっただろう。
だが、そうは行かなかったのだ。

アンリエッタが逡巡を見せると、マザリーニが先に口を開いた。

「さて、次は貴女の件についてです。ミス・ロングビル。いえ、《土くれ》のフーケ」

はぁ、とため息をついてマチルダは額を押さえた。
ある程度、覚悟はしていたのだ。
《虚無》の使い手たるルイズに近しい人物の過去を洗い直さない訳がない。
そうなれば、たいした偽装工作も出来ていない自分の過去など、簡単に明かされてしまうと。

それでも此処まで付いてきてしまったのは、何故だろう。
そんなことを考えながら、マチルダは肩をすくめ、口を開いた。

「ま、隠し通せるものでもないね。
 どうする? 打ち首か縛り首か――――それとも牢屋にぶち込まれる程度で許してもらえたりするのかい?」

席を立つ様子もなく、投げやりに肩をすくめるマチルダ。
皆の視線が彼女に集まる。
ルイズにいたっては、マチルダの口から出てきた打ち首や縛り首と言った言葉に動揺したのか、
顔色を悪くしてしまっている。
だが――――

「まぁ、落ち着けよ。こんな状況でそのカードを切ってくるってことは、なんだ。取引があんだろ?」
「お話が早くて助かりますな。まぁ、そう言う事です。こちらを」

虎蔵の言葉にハッとした様子でマザリーニに視線を向ける一行。
マザリーニは一同の視線を集めても表情一つ変えることなく、咳払いを一つ。
そして先ほど渡した報告書と同じような羊皮紙を一枚、マチルダへと渡した。
彼女はそれに目を通して、表情を渋いものへと変えていく。

「――――――ほんとに良く調べてあるね」
「それが仕事ですからな」

舌打ちをして羊皮紙から視線を上げるマチルダに、マザリーニは表情一つ変えずに言い切った。
アンリエッタは多少済まなそう目を伏せがちにしてはいるが、マチルダに向けての物ではないだろう。
ちらちらとルイズを見ている。
もっとも、マチルダの――フーケのやってきた事を考えれば当然ではあるが。

「で、取引ってのはどんなんだい」
「ある任務を引き受けて欲しいのです。使い魔さん――いえ、トラゾウさんと一緒に」
「えッ――トラゾウも、ですか?」

マチルダが羊皮紙をマザリーニへと返却しながら、問いを投げかける。
マザリーニが続けて口を開こうとするのだが、今度はアンリエッタがそれを制して自ら話し始めた。
突然虎蔵の名が出てきたことにルイズが口を挟むが、アンリエッタは落ち着いた様子で頷く。

「えぇ。彼の力が必要になる可能性があるのです。それに、ミス・ロングビルを一人で行かせるよりは安心でしょう」
「うぅ――じゃ、じゃあ私も!」

アンリエッタの言葉を受けて、ルイズは自らも志願を言い出す。
だが、アンリエッタはゆっくりと、諭すように首を横に振った。

「ルイズ――使い魔と主を引き離すことは気が引けますが、今回は堪えてください」
「アタシらだけの方がやりやすい仕事か――或いは、こいつらには見せたくない仕事、か?」
「後者です。決して綺麗な仕事とは言えませんが。余り目立たない方が良い内容だという事で理解してください」

口を噤むルイズ。
確かに、自分は二人と比べればまだ子供で、連れて歩くには違和感があるのは否めない。
虎蔵の主である事を強引に主張することは可能ではあるが、相手はアンリエッタ――女王陛下である。
それに、本心では虎蔵をただの使い魔として扱う事に、それなりの抵抗があることもあった。
故に、わかりました――と承諾するしかないのだった。

マチルダはそれを見て何度目かの溜息をつく。
ルイズが虎蔵を"貸して"くれることに承諾した以上、自分が断る訳にも行かない。
いや、状況から言えば断れる訳もないのだ。

「分かった、分かった。その取引、乗るよ。あんまりこいつらに迷惑かける訳にも行かないしね。
 落とし所としちゃ、上等すぎる。――――付き合ってくれるんだろ?」
「まぁ、しゃあねぇな」

互いに肩を竦め合い、立ち上がるマチルダと虎蔵。
ルイズはそのやり取りが、長く連れ添った相棒同士のようにすら見えて悔しく思ってしまうが、
今はただ見送り、無事を祈るしかない。
一方アンリエッタは二人の様子を見て、やはりこの二人ならば――と僅かに表情を緩めた。

「ありがとうございます。何度もご迷惑をおかけして――」
「なに。今回に限って言えば、こいつの尻拭いでもあるからな」
「し、尻――」

虎蔵の何気ない一言に、同時にボッと顔を赤くするルイズとアンリエッタ。
キュルケも軽く吹いている。タバサは何時も通り――に見えるが。
どうやら上手く意図が伝わっていないようだ。

「――後片付けを手伝うって事だよ」
「最初からそう言え!」

面倒臭そうに肩をすくめながら自分で解説すると、マチルダに頭を軽く叩かれた。
マチルダすら僅かに顔が赤い。
変な想像でもしたのかもしれない。
流石に異文化コミュニケーションは楽ではないようだ。

「そういう言い回しをすんだ。仕方あるめぇよ――んで、詳しい事は何処で聞けばいいんだ? 此処じゃ困んだろ」
「あ、はい。まずは外に居るメイドに声を掛けて下さい。その後は、その指示に」

叩かれた所を掻きながらアンリエッタに問えば、まだ僅かに上ずりながら返事をする。
蝶よ華よと育てられた――と思われるアンリエッタには、よほど刺激が強かったのかもしれない。

「んじゃ、ま――さっさと片してくらぁ」
「悪いね、嬢ちゃん。借りてくよ」

虎蔵は場を仕切りなおすかのようにルイズ達に声を掛けるとドアへと向かう。
マチルダも、ルイズに軽く手を上げて僅かながらの謝意を示すと、後を追った。

「トラゾウ――」
「気をつけて」
「何、たいした仕事でもねーだろ」

心配そうに見送るルイズやキュルケにひらひらと後ろ手を振る虎蔵。
タバサの短い一言を背に、二人は部屋から出て行った。



そしてその後、部屋の外に控えていたメイドからの指示通りにやって来たのがこの宿と言うわけである。
尾行は無かったし、何者かの手が加わっている様子も無い。
仮にあったとしても、この二人の組み合わせを欺くのは至難の業であることは間違いないのだが。

「しっかし、遅いね――――昼寝でもしてろってのかね」

マチルダが安物の枕を叩くと、埃が舞う。
王都でも裏路地の安宿ともなればこんなものかと、ぱたぱたと手で仰いで埃をちらしていると、
ようやくドアがノックされた。

「んー、開いてんぜ」
「あぁ」

虎蔵の言葉に、必要最低限で答えてドアが開けられる。
入ってきたのは、何処にでもいそうな街娘の格好をした金髪の女性。
しいて言えば、パッツンに切りそろえた前髪が目を引くだろうか。
もっとも、虎蔵とマチルダ、二人の目には隠しようのない体術の心得が見て取れる訳だが。

「またせた」
「――あら、やっぱり貴女なのね」
「気付いていたか」

つかつかと遠慮も無く部屋に入ってきたその女性は二人に指示を出したメイドだった。
が、最初から二人の目にはただのメイドにしては身体つきやら、歩き方やらに疑問があったため、特に驚くことは無い。
つまりは、メイドに偽装したアンリエッタの護衛――或いはそれに準ずる何かという事だったのだろう、と。

「そりゃね。あんな歩き方するメイドなんて聞いたことが無いし――」
「そもそも愛想と目付きが宜しくねえな」
「――あれは臨時の措置だ。大目に見ろ」
「ま、アレはアレで似合ってはいたけどな」

脳内にシエスタを思い浮かべながら、意地悪く笑う二人。
女性はその様子に対し、何かを堪える要に手をぐっと握り締める。
あの格好は本意ではないようだ。
だが、直ぐに落ち着きを取り戻すと、ふんっと鼻を鳴らして二人をそれぞれ一瞥する。

「アニエスだ。陛下付きの女中、という事になっている。今の所はな」
「暫くの後は?」
「――銃士隊という、新たに創設される部隊の隊長として、シュヴァリエを名乗ることになる」
「銃士隊? なんだい、そいつは」

聞きなれない部隊名に首を傾げるマチルダに、アニエスは何処か誇らしげに説明を始めた。

銃士隊。
アンリエッタとマザリーニが進めている新設の近衛隊計画である。
近衛隊――魔法衛士隊は元来、グリフォン・ヒポグリフ・マンティコアの3隊で機能していた。
だが、グリフォン隊隊長ワルドの裏切りによりグリフォン隊は一時的に解体され、
その影響で指揮系統が混乱している所にレコン・キスタの襲来が重なり、
決して少ないとは言えない被害を受けてその能力を著しく低下させてしまっている。
そこで、同盟国となったゲルマニアのように優秀な者は平民であっても登用しようと言う事になったのである。

また、アンリエッタにはワルドの裏切りやレコン・キスタの件、そして別の"ある懸案"のせいで、
メイジ――貴族にたいして僅かながら不信感を抱き始めていた。
ワルドのように、自分達が知らないうちに敵方と繋がっているのではないかと考えてしまうのだ。
だがその点、平民を登用するのであれば比較的過去も洗いやすく、
信用の置ける者だけを手元に置いておくことが出来ると考えた。
もっとも、平民であるが故に買収などの懸念もあり、人員の発掘に手間取っているようではあるが。

「なるほどね――まぁ、分からなくも無いか――」

貴族不信という点では、マチルダはアンリエッタに負けず劣らずである。
サウスゴータ時代の件や、フーケとして様々な汚い貴族たちを見てきたためだ。
故に、アンリエッタの考え方には不本意ながら同調できる物がある。
最近はルイズ達の影響もあり、貴族全員が汚いという考え方は改めるようになって来たのだが。

「ま、その辺りは俺らが口を出すことじゃねぇな。
 その"ある懸案"って奴が俺らの仕事なんだろ? そっちを説明してくれや」
「あぁ。と、先に確認しておく。トラゾウにロングビルで良かったな?」
「その通りだ。こっちも名前で呼ぶぜ」

虎蔵、マチルダと視線を向けて確認してくるアニエスに、虎蔵の方が答えた。
マチルダは虎蔵からの問い返しに好きにしろと答えると、任務の説明を始めた。

内容はこうだ。
王宮の高官達による会議では、タルブ平原で多数の艦艇を失ったレコン・キスタは正攻法による侵攻を諦め、
不正規戦を仕掛けてくる可能性が高いと結論が出たという。
そこで現在、少なくない数の軍人が情報収集任務に従事して、レコンキスタの動きに備えているのだが、
その一方でマザリーニがある危険性をアンリエッタに告げてきたのだという。

――――裏切り者。
そう。ワルドの時の様に、内部にレコンキスタと繋がる何者かが居て、
彼らがレコン・キスタの手助け――不正規戦の手引きをする可能性があるというのだ。
マザリーニは既に、ワルドの件で致命的な大失態を犯している。
そのため、こういった点についてはかなり慎重になっているようだ。
だが、確かに彼のいう通りではある。
絶対に、といえる訳ではないが、裏切り者が一人であるという保証は何処にも無い。

そこで考えられたのが、既に銃士隊の隊長候補として極秘に登用し、
アンリエッタ付きのメイドとして身辺警護をしていたアニエスに身内の内偵させると言うものだ。
彼女は銃士隊の隊長となるべくマザリーニから多くの貴族について知識を叩き込まれている。
そこに快盗としての知識・技術を持つマチルダと単身で多数のメイジとすら渡り合える虎蔵を加えることで、
即席ながら十分な実行力を持つ内偵チームを作り上げようという訳だ。

「あー、ま、理には適ってるか?」
「チームワークに致命的な難がありそうだけどね」

かったるそうながら内容は肯定する虎蔵に、マチルダは刺々しさを隠そうともしないアニエスを一瞥して肩を竦めてみせる。
とはいえ、既に引き受けた仕事だ。
何とか上手くやるしかない。
虎蔵もそうだが、マチルダも引き受けた仕事はキッチリとこなすタイプである。
ベッドから立ち上がり、アニエスへと向けて手を差し出す。

「ま、仕方が無いね――――よろしく頼むよ、アニエス」
「あぁ。こちらこそ」

アニエスはその手を握り返して答えるが、余り好意的な様子は無い。
マチルダ=フーケという事を聞いているのは間違いないので、その事で嫌悪感でもあるのかもしれない。

虎蔵はその様子を眺めながら、自分と関わる女は大概"碌な性格"をしていないということを思い出しては、
面倒臭そうに煙を吐き出すのだった。

「結局、何処の世界に居ても面倒を運んでくるのは女か――――」




新着情報

取得中です。