あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第四部 第二話 休暇の終わり、戦の前



 トリステイン王宮会議室。
 既に正午だが、誰も昼食だと言って席を立とうとはしない。
 居並ぶ大臣・将軍・高級官僚達の前に、次々と情報が送られてくる。
 様々ある情報だが、そのなかに一つの共通する要素があった。

「アルブレヒト三世、正式に婚約破棄を通告してきました。同盟の件も、白紙と…」
「レコン・キスタ軍総司令官オリヴァー・クロムウェル、非公式ながら神聖アルビオン共
和国樹立を宣言。正式な宣言と初代皇帝への即位式は、一週間後の予定です」
「アルビオンより本日正午、つまり現時刻をもって宣戦布告すると、書簡が送られてきま
した。同時に、ウェールズ皇太子の身柄返還要求も」
「ガリアは沈黙。あらゆる要請、質問書を黙殺しています」
「ロマリアより、今回の件について遺憾の意を表す、とのことです。それだけです。援軍
はおろか、講和会議設置の件についてすら、何も」

 それは、トリステインが孤立無援だという要素。

 トリステイン王国太后マリアンヌ、マザリーニ枢機卿、ド・ポワチエ大将、財務卿デム
リ、高等法院長リッシュモン、ド・グラモン元帥、魔法衛士マンティコア隊ド・ゼッサー
ル隊長、トリステイン艦隊司令長官ラ・ラメー伯爵、モット伯爵、etc...
 会議室に並ぶ面々は、皆この国を動かす重鎮達。だが、彼等の顔に余裕はない。沈痛な
面持ちで、国内各所からの報告に目を通していた。

  城下では、既に避難する民が街道を埋め尽くし…
  周辺国は国境を封…流民化すれば治安が…
  物価は早くも上…長期化すれば、経済への影響は…
  ラ・ロシェー…敵艦隊についての情報はまだ…国境での監視をさらに強…
  …ビオンからの亡命…続々と城へ…

 重鎮達の叫びに、部下も走り回り、大声で報告し、伝令に飛び出していく。
 ラ・ラメー伯爵が叫ぶ。
「艦隊は!我が艦隊は動けるのか!?」
「現在、トリステイン艦隊は弾薬、風石、糧食の積み込みを急がせています。ですが、全
艦艇を完璧に稼働するには、練兵が足りません。どうしても今しばらく時間が…」
「どうせ国内での戦いになる、糧食は後にしろ!足りなきゃ現地徴収だ!!練兵を急がせ
よ!」
 ド・ポワチエ大将の怒号も飛ぶ。
「王軍だけでは足らんぞ!!諸侯はどうしている!?」
「諸侯への招集のふれは送りました。現在、ラ・ヴァリエール公爵初め、続々と参戦の返
答が届いております」
「ふっ!当然だ。諸侯に伝えろ。『この一戦に杖を並べぬ者は、レコン・キスタに与する
逆賊とみなす』とな!」
 ド・ゼッサール隊長が首を傾げる。
「たしか、ヴァリエール公爵は軍務を退かれたはずだが」
「『王国存亡の危機に、老骨を鞭打ち一命を賭して参戦つかまつる』との事です。なお、
我が妻も戦列に並ぶ、と」
「おお!?カリーヌ隊長が!」
ヴァリエール伯爵夫人――先代マンティコア隊隊長。通称「烈風カリン」として恐れら
れた、風のスクウェア。


 マザリーニ枢機卿が、重々しく口を開く。
「アルビオンの最新の戦力を」
 下級士官が靴を鳴らして進み出て、報告書を広げる。
「アルビオン艦隊は、旗艦『ロイヤル・ソヴリン』…失礼、現在は『レキシントン』号旗
下、戦列艦18隻。兵数5万。竜騎兵は、総数は未確認ながら、少なくとも100騎以上
が確認されております!」
「100…竜騎兵だけで、か。天下無双だけある。戦列艦も内戦を経たというのに、未だ
我が方の9隻に対し、倍だ」
「ですが現在、アルビオン艦隊は首都ロンディニウム郊外、ロサイスの空軍工廠にて補給
中との事であります!また、一般兵士には三日間の休暇が与えられています!」
「ふむ…では、それが済めば、こちらへ来るというワケか。恐らくは、即位式典に合わせ
て出撃だろうな。ラ・ラメー伯爵、全艦艇を急ぎ飛ばせ。なんとしても一週間後に間に合
わせよ」
「はっ!陣頭指揮に参りますっ!」
 伯爵は会議室を飛び出していった。

 大后マリアンヌが静かに、だが威厳ある声を上げる。
「アンリエッタとウェールズ皇太子は、いずこに?」

 この一言に、会議室は一瞬で静まりかえった。
 臣下達にとり、今アンリエッタの名を口にする事は、はばかられる。『アンリエッタ姫
のせいでゲルマニアとの同盟は為し得ず、開戦の口実も与えてしまった』など、王家への
忠誠を誓ったはずの彼等には、少なくともこの場では言えなかった。

「モット伯爵」
 マリアンヌは、王宮の勅使として学院と連絡を取る伯爵に目を向けた。
 一瞬息を止めた伯爵は、一筋の汗を流しながら部下を呼んだ。
「おほんっ!…今朝、部下より報告を受けた所によりますと、姫殿下も皇太子も学院にて
ご無事との事です」
「よろしい、すぐに迎えを送りなさい。それと、今回の件について詳細な報告を」
「ははっ」

 モット伯とその部下は、学院での調査報告を読み上げた。

『 三年前、ラグドリアン湖での園遊会で、アンリエッタはウェールズに恋文を送った。
  その恋文は、始祖ブリミルの名において永遠の愛を誓う文面が含まれていた。
  ゲルマニアとの婚約成立のため、ヴァリエール家三女ルイズへ回収を依頼。
  グリフォン隊隊長ワルド子爵、及び学生三名を加え、アルビオンへ潜入。
  手紙は回収成功、ウェールズと共に学院へ帰還。
  本日明朝、王子と姫は面会。再会を喜び合い、抱擁と共に永遠の愛を誓い合う。
  同時刻、ゲルマニア高官の使い魔を連れたアルビオンの傭兵が、フリゲート艦にて学
 院を襲撃。使い魔を通じゲルマニアへ王子と王女の姿を送る。
  回収班及びオスマンがこれを迎撃。フリゲート艦を撃沈、隊長を除き全て討ち取る。
  傭兵隊長らしき人物は、外見の特徴から『白炎』のメンヌヴィル。現在逃走中。
  その後、ワルドは行方不明。

  事情聴取対象者
   トリステイン魔法学院学長   オールド・オスマン
   同学院生徒   ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
   同生徒 及び回収班員    ギーシュ・ド・グラモン
   同上 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー
   同上               タバサ
     以上  敬称略』

「ギーシュ、あのバカめ…何故この父に相談せんのだ…」
 グラモン元帥がこめかみを押さえて呻く。
「報告によると、姫殿下の依頼から出立まで、僅か数時間。恐らくは、時間がなかったも
のと」
 モット伯が元帥を慰めるように、ギーシュを擁護する。
「そなたの子息は全力をもって、王家への忠義を示したのです。感謝致します」
「も、もったいなきお言葉にございます。愚息も喜ぶことでしょう」
 マリアンヌの言葉に、ようやく元帥は顔を上げた。

 太后は横に座るマザリーニを見やる。
「ところでマザリーニよ。この件でワルドから事前の報告は?」
「…いえ。私にも内密にしていました」
「そうですか…。それで、今朝以降の連絡は」
「ありませぬ。恐らくは、メンヌヴィルを追ったのでは。最悪、討ち取られたやも」
「引き続き両名の捜索を」
「御意」

「皇太子の処遇、いかが致しましょう?」
 リッシュモンが立ち上がり、居並ぶ面々に尋ねた。だが、その事に誰も触れたがらない
事は、顔を見れば明らかだ。

 沈黙の後、誰からと無くささやき声が上がる。
「王権は、始祖ブリミルより授けられし、神聖なもの。そして皇太子は今や、アルビオン
王家最後の一人・・・」
「同じ王家として、トリステイン王家の権威を守るためにも、始祖ブリミルへの信仰から
も、皇太子の亡命を受け入れざるをえない、が…」
「アルビオンからは、身柄引き渡しを求めてきておりますが」
「ふんっ!王家に弓引く恥知らずどもめ。いっそ首級を上げてこいとでも言えば良かろう
が!」
「今さら引き渡した所で、戦争を回避出来るわけでも無かろうて・・・」
「最初から攻め入る気だったんでしょうな…残念ながら」
「だろうな。でなければ、王子の身柄返還についての返事を聞く前に、宣戦布告などする
ものか」
「ハルケギニアの統一と、聖地奪還。聞こえはいいがのぉ。あのエルフ共と正面切って戦
うじゃと!?」
「狂気の沙汰です。統一したくらいで奪還出来るなら、とうの昔に奪還しています」
「同感だ。それに、姫殿下とは永久の愛を誓われた仲。引き離すなど、王家への反逆に等
しい」
「むしろ、トリステイン=アルビオン二重王国を目指す、と言う手もありますぞ!」
「おお!それはいい!」
「ですが、現実として、どうすればアルビオンに勝てますかなぁ?」

 リッシュモンが、まるで他人事のように問いかけた。皆が、一番考えたくない問を。
 沈黙が広がる。

「あの…この場に沿う議題か否か分かりませんが、一つモット伯に伺いたい事が」
 デムリ財務卿が、おずおずと手を挙げた。モット伯が眉間にシワを寄せたまま、顔を上
げる。
「先ほどの報告で、フリゲート艦を撃沈、とあったのですが、真ですか?」
「いかにも。学院周辺に爆発し落下した残骸が確認されています。加えて、傭兵達の死体
も」
「その…私は武人ではありませんので、よく分かりませんが…戦艦というのは、人の力で
撃墜出来るのでしょうか?」
「え?いや、それは、恐らく…無理かと」
「では、なぜその艦は撃墜されたのでしょうか?」
 モット伯は慌てて部下を睨むが、部下も慌てて首を横に振り、恐縮してしまった。

 デムリの素朴な問に、室内の全員が首を傾げる。

「ワルド殿はグリフォン隊隊長で、確か風のスクウェアですが…」
「騎乗しているのはグリフォンだ。風竜ならともかく、グリフォンでは弾幕を避けられん
よ」
「学院は貴族の生徒達で一杯だが、遙か上空に浮く戦艦を破壊するなど…どんな魔法も届
かんわい」
「傭兵共が、よほどのマヌケだったとか?」
「こんな重要任務に就くのにマヌケ…ありえんわい。それに、メンヌヴィルは名うての傭
兵だ」
「…待て!確か報告では、ヴァリエール家三女に依頼した、とあったな!?」
「ふむ、確かに…まさか、あの噂の平民使い魔がか?」
「何ぃ!?エルフのガーゴイルを所有するという、例の少年か!?」
「噂では最近、風竜に匹敵する飛翔用マジックアイテムを手に入れたとか…まさか、真実
だったのか…」
「あー…失礼ながら、よもや貴殿等は、魔法も使えぬ平民が戦艦を撃墜した、とでも言う
つもりかのぉ?」
「そういうわけではない。わけではない、が…やはり、例の使い魔には、何かある」
「この際、使えるなら何でも良い!」
「確かアカデミーには、ヴァリエール家の長女が…」
「アカデミーに使いを出すのです。エレオノールを呼びなさい」

 会議は踊り続ける。




 トリステイン魔法学院は朝から大騒ぎだ。
 王子の亡命。戦艦襲来。アルビオン傭兵侵入。そして戦艦墜落。
 ルイズの使い魔が、学院の秘宝『破壊の杖』を用い、戦艦を撃墜。侵入した傭兵達も倒
してしまった事は、即座に学院中に広まった。
 だからといって、もう今は勝利を喜ぶ者などいない。貴族も平民も、もはや学校どころ
ではないのだ。


 お昼もとうに過ぎ、太陽が少し傾いた頃。
 ルイズの部屋にはトランク二つ。ベッドの上には少年少女
 少年はボロボロで泥に汚れた服のままで、少女は下着のままで、突っ伏していた。
 二人とも大イビキをかいて熟睡している。
 デルフリンガーは、床に抜き身のまま放り出されていた。


  …ぐぅ、ぐうううう…
 お腹の音で目が覚めたのはルイズ。
「…ふぅうわあぁあぁ…」
 周りを見て、下着姿の自分のすぐ隣にジュンが寝ているのに気がついた。
 一瞬、真っ赤になってしまう。

 や!やだ、そか、戦艦倒した後、部屋に戻ったとたんにジュンが倒れたんだったわ。
 まったくもう!ジュン相手に、何赤くなってるのよっ!ワルド様がいるのに!
 そういえば、ワルド様は結局、どこへ行かれたのかしら…。
 え~っと、あの後、シンクとスイと、みんなでジュンをベッドに運び上げて…
 …あ、あたしも濡れた服脱いだら、そのまま寝ちゃったんだ。徹夜だったもんね。
 あ~あ、ベッドがドロドロだわぁ。やだ、あたしの服ももうメチャクチャね
 というか、臭うわね…ラ・ロシェール以来、お風呂入ってないんだった…
 やーね。これじゃ姫さまの所にもいけないわ
 お風呂、行ってこよっと
 着替えて、そんで、何かご飯を…

 ルイズはもそもそと服を着て、ノロノロと風呂へ向かった。



 ルイズが部屋を出てしばらくの後、真紅と翠星石も目を覚ました
 だらだらと力なく開けられたトランクから、ヨロヨロと二人が起きあがる。
「ふぅわぁ~~おはよう、ですぅ」
「はふぅ~おはよう、翠星石。よく眠れたようね」
 小さな少女達は、ベッドにうつぶせで熟睡したままのジュンを見た。
 しぃ~っと人差し指を口に当て、デルフリンガーに手を振り、抜き足差し足で部屋を出
て行った。

「…この5日間、馬やグリフォンで走り続けたり、海賊船と戦ったり、ニューカッスル脱
出に、学院への襲撃…もう、ヘトヘトでしたよねぇ」
「そうね、今日はスキなだけ寝させてあげましょう。私達は、食堂でも行こうかしら?」
「良いですねぇ!もう、おなかペコペコですぅ…」
 二人は食堂へトコトコ歩いていった。


 寮塔から本塔へ向かう間、人影は全くなかった。食堂にも、だーれもいなかった。当然
食べ物も無い。二人は肩を落とし、隣の厨房へ向かう。

「もしもーしですぅ!マルトーのおやっさんはいるですかぁ?さっさと食い物出さないと
呪うですよー!」
「…誰もいないわねぇ。ヘンねぇ」

 厨房にも、誰もいなかった。いくら食事の合間の中途半端な時間とはいえ、下ごしらえ
をする者すらいないのは珍しい。というより、学院自体に人の気配がない。

「う~、なぁんて使えんヤツらですかぁ!?たすけてやった恩を仇で返すですねぇ!」
「そんなワケないでしょ?シエスタさんを探しましょう」
「うぐぅ、あの女、スキじゃないですぅ…ジュンにベタベタしやがるしぃ」
「そういう事を言うものではないわ。それに、今はとにかく何か食べないと…もう、倒れ
そうだわ」
「…です、ねぇ…」
 二人はスズリの広場へ、なんだかフラフラと歩いていった。今の二人には、石畳の小さ
な溝すら越えられそうにない。


 スズリの広場には、煉瓦造りのこぢんまりした建物、女子使用人宿舎がある。中には厨
房もある。
 真紅は思いっきり背を伸ばし、ステッキで扉をノックした。
 …返事はない。二人は顔を見合わせる。
 もう一度、今度はステッキと如雨露で、二人でエイエイと叩いてみた。

 少しして、扉が少しだけ開けられた。外をのぞくのは、金髪がまぶしいローラだ。
 ローラは外をキョロキョロとのぞき見て、溜息とともに扉を閉
「こらこらーっ!あたし達を無視するなですぅ!」
「下よ、下」
 閉めようとしたら足下から声がした。
 下を見たとたんに、陰鬱そうだったローラの顔がパァッと明るくなった。


「助かったですぅ!ホントに美味しいですよぉ」
「本当ね。これで生き返ったわ。皆さん感謝するわ」
「いえいえ!こちらこそ気がつかずに申し訳ありませんでした」
「ミス・ヴァリエールとジュンさんの分も作っておきますわね」
 テーブルの上で二人は、小さな口でサンドイッチと紅茶をもぐもぐと頬張ってる。
 宿舎の厨房には、学院のメイド達が集まっていた。皆で食事する人形をニコニコと眺め
ている。だが、その中にシエスタの姿はなかった。それに、その人数も妙に少ないのに真
紅が気付いた。
「ねぇ、シエスタさんはいないのかしら?」
 真紅の何気ない問に、メイド達は急に暗くなった。

「ああ、あの子ならトリスタニアへ行ってるわ」
「ジェシカっていう、従姉妹がいてね。避難を勧めにいってるのよ」
「他に何人も、メイド長と一緒に街や近くの村へ行ってるわ。今のウチに食べ物とか買い
だめとこうって。男共はみんな狩り出されてるよ」
「それと、姫さまとアルビオンの王子様の方へも行ってるよ。なにせ王族が二人もだなん
て、前代未聞だからねぇ」
「あたしら平民だけじゃあない。教師も生徒も、貴族共だってみんな買い物さ。戦争に備
えてね」
「王宮へ向かった者も多いよ。呼び出されたり、軍へ志願しにいったり」
「明日の朝、学院の全員が食堂に集まるよう、オールド・オスマンに言われてる。今日は
休校さね」
「一週間後の、アルビオン襲来に備えて、ね。その事はもう、近くの村の子供まで知って
るよ」

「そう、ですか。戦争が、始まるですか…」
 翠星石も、表情を曇らせる。真紅も心配そうだ。
「あの王子と姫、大丈夫かしらね」

「まぁ、せめてもの救いは、学院を去るヤツが少ないってことかねぇ」
「んだねぇ!田舎より、かえってこっちの方が安全だわ!」
「この辺は学院以外なーんもないんだもん。王子様とお姫様が城に帰ったら、襲ってくる
理由がないよ」
「おまけに、今朝は戦艦ですら、あっという間に墜としちまった!ほんと、あんたら凄い
よぉ!!」
 いきなりメイド達に持ち上げられ、翠星石は鼻高々にテーブルの上でふんぞり返る。
「おーほっほっほっほ!このくらい、あたし達ローゼンメイデンには、朝飯前でーす!任
しておくですよー」
 真紅はクールに、人間用カップを両手で抱えて、紅茶を飲んでいた。

「ところでねぇ…えっと、スイセイセキさん、だっけ?」
「はいです、なんですかぁ?」
 なにやらローラが、机の上で胸を張る翠星石に、じわじわとにじり寄ってくる。
 よく見ると、他のメイド達も、真紅達に微笑みながら寄ってくる。
「いっつも、ミス・ヴァリエールやジュンさんに抱かれて歩いてるじゃない?飛んだ方が
早いのに」
「飛ぶと、余計な力を使うですから…な、なんでみんな寄ってくるですか?」

 人形達はなんだか、すっかり囲まれた。

「え?…え~っと、ねぇ。ほら、あたしら平民でしょ?だから、ねぇ?あなた達みたいな
貴族向けの人形なんて、見た事なかったのよ」
「そうなのよぉ!だからぁ、あなた達を抱いてるのを見て、いつもみんなで『うらやまし
いなぁ~』って、話してたの!」
「そうそう!スイセイセキさんの月目、特にルビー色の右目とかぁ、茶色のロングへアと
かぁ、スッゴイ綺麗よねぇ!」
「あたしはぁ、シンクさんのその金髪!もう、キラキラ輝いてさぁ!」
「でも、何と言っても小さなお手々が可愛いよねぇ!」

 口々に褒められて、二人とも悪い気はしない。ツンとすましつつも、頬は赤い。

「と、いうわけでぇ…」
 ローラが、顔を翠星石の真ん前にずずぃと近づける。
「あの、ねぇ…ちょっとだけ!ちょっとでいいから、抱かせて欲しいの!他に何にもしな
いから、お願い!」
「わ、私はその、シンクさんを…その」
「私も!私もーっ!」
 もう、メイド達全員が目を輝かせてにじり寄ってくる。

 人形達は顔を見合わせ、諦めたように溜息をついた。
「しょうがないですねぇ…いつもご飯作ってもらってるですし」
「少しだけよ。余り気安く触らないでちょうだい」

 スズリの広場に、しばし少女達の黄色い歓声が響いた。




「…う、うぅ…。…イタタタタ…」
 ルイズのベッドで、ようやくジュンが体を起こしたのは、もう空が朱く染まる夕暮れ時
だった。部屋には誰もいない。いるのは壁に立てかけられたデルフリンガーだけだ。
「よー!おはようさん!ようやく目が覚めたか」
「…デル公…おはよぉ~。っ!つぅーイテテテ、打ち身捻挫に筋肉痛か。火傷も、か。こ
りゃしばらく、まともに動けないなぁ」
「この5日間、暴れまくったもんなぁ。大きな怪我が無いのは奇跡だぜ。ま、まずは腹ご
しらえでもしな」
 鏡台の上には、ジュンのメガネと山盛りサンドイッチが置いてあった。


 もしゃもしゃとサンドイッチを頬張りながら、ぼ~っと外を眺める。
 沈みゆく太陽が、夕焼け空を星空へと姿を変え始める。
 外には人影が増えている。皆、大荷物を抱え、次々と倉庫や本塔へ運び入れている。
 あ~そうだ鏡の出入りを外から見られちゃまずいな~、とぼんやりと思いつき、のろの
ろとカーテンを閉め、再び鏡台の前に座る。


「なぁ、みんなどこ行ったんだ?」
「nのフィールドさ」
「ルイズさんを連れてか?」
「おう。この鏡以外の出口が、ハルケギニアのどこにつながっているのか、調べに行くっ
てよ。さっきまで何度も鏡を出入りしてたぜ」
「そっか。タルブやラ・ロシェールへのルートが見つかると良いな。でも城下町へのルー
トが一番先か」
「アルビオンもいいな。嬢ちゃんは、実家につながってないかな~、ていってたぜ」
「げー、それは勘弁。めんどくさそーだ」

 と話してる間に、目の前の鏡台が輝きだした…と思ったら、人影がいきなり飛び出して
きた。
「うわぁ!」「きゃっ!」
 ルイズはジュンにのしかかったまま、二人は床に倒れ込んでしまった。
「あつつ…ジュン!ちゃんと避けなさいよっ!」
「な、なに言ってンだよ!?そっちがいきなり!」
  ぎゅむ
 さらにその上に、真紅と翠星石も降り立った。
「ケンカはまた今度にしてちょうだいな」「にひひぃ~二人ともラブラブですね~?」
 翠星石に冷やかされ、慌てて二人は顔を赤くしながら飛び退く。

 コンコンと扉がノックされた。来たのはローラ。
「失礼します、ミス・ヴァリエール。先ほど、王宮より姫殿下とウェールズ皇太子をお迎
えする馬車が参りました。ミス・ヴァリエールも共に王宮へ上がるように、と太后様から
の命です」
「そう…分かったわ。すぐ行くから、そう伝えてちょうだい」
「承知致しました」

 ルイズは、真剣な顔で皆を見つめる。
「んじゃ、行ってくるわ」
「ルイズさん、一人で大丈夫?よければ、僕らも」
「大丈夫よ、ジュン。任せてちょうだい。もしかしたら、ワルド様が戻っていらっしゃる
かもしれないし」
「そう、だね」
 ジュンの胸にチクリと痛みが走る。人形達も、複雑な面持ちで顔を見合わせる。

「それなら、ルイズさん。僕らは一旦日本に帰るよ」
「おーい、いい加減今日こそ俺をチキュウに連れてけー!」
「今からなら、丁度向こうは朝だわ。ホーリエ、ルイズをよろしくね」
「んじゃ、また明日ですー。王宮の腹黒オヤジどもなんかに、まけるなですよぉー!」
「もちろんよ!んじゃねー」

 ホーリエとスィドリームを連れて、ルイズは部屋を後にした。
 ジュン達もデルフリンガーと共に、鏡の中へ消えていった。




「…では、今君の言った事が、全て真実だというのだね?」
 マザリーニが目を見開く。
「はい。誓って嘘偽りはありません」

 ルイズは会議室で、以前オスマンやキュルケ達に語った『ジュンはロバ・アル・カリイ
エ出身で、薔薇乙女はローゼン作7体の人形で…』、加えて今朝までの事実経過を報告していた。
 無論、nのフィールド、ローザ・ミスティカ、ガンダールヴなどは除いている。

 おお…、という声が会議室を満たす。
 昼からずっと会議を続けていた重鎮達が、部屋の後ろに座るルイズの報告を、最初は小
馬鹿にしたように、今は真剣な顔で聞いていた。
 全ての報告と、目の前の赤と緑の光玉を連れた少女の言葉が一致するという事実に、元
帥も大将も枢機卿も、太后も真実と認めざるを得なかった。

「ルイズ、大儀であった。明日、学院へ送らせましょう」
 マリアンヌの言葉を受け、最大限の礼をもって会議室を退室した。


 ふぅ、と大きく息を吐き、ルイズは廊下の壁にもたれかかった。
「ルイズ、お疲れ様でした」
「あ、姫さま…」
 声をかけたのはアンリエッタだ。剣を帯びた、護衛らしき女性騎士を連れている。
「会議が終わったのでしたら、後で共にお茶を飲みませんか?」
「は、はい。私などでよければ、お供致します」
「では、アニエス。この者を私の部屋へ。私は会議後、すぐに向かいますわ」
「かしこまりました。ミス・ヴァリエール、こちらへ」



 アンリエッタの部屋は、王族に相応しいものだった。
 豪華な天蓋つきベッド。精巧なレリーフが施された椅子。何百年、何千年と王家を見守
り続けたであろう始祖像。壁一面の装飾も、非常に細やかで華麗だ。
 香り立つ紅茶を挟み、二人は椅子に座る。

「本日はご苦労様でした。大臣や将軍に囲まれて、さぞや居心地が悪かった事でしょう」
「いえ、そんな事は」
「あらあら!ルイズは強いわねぇ。私はもう、それはそれは居心地が悪かったわ♪」
「でも、とてもご機嫌麗しゅうございますね」
「ええ、あなたのおかげよ、ルイズ。愛しのウェールズ様と、私…。わたくし、本当に、
何とお礼を言えばいいか…」
「姫さま…」
 アンリエッタは、瞳を涙で一杯にしている。心からの、輝くような笑顔で満たされてい
る。

「そうですわ。姫さま、これ、お返しします」
 そう言ってポケットから取り出したのは、水のルビー。
「とんでもない!これほどの功績に報いるに、水のルビーなど全く足りません!さぁ、受
け取って下さい」
 アンリエッタはルイズの手を押しとどめる。
「し…しかし、私は姫さまのそのお言葉だけで、胸が一杯でございます」
「ですが、ルイズには申し訳ないのですが、実は…まだ行っていただきたいことがあるの
です」
 そういって、アンリエッタは一冊の書を取り出した。

 それは、古びた皮の装丁がなされた本だ。表紙はボロボロで、羊皮紙のページは色がく
すんでる。
 手に取ったルイズが開けてみると、中身は白紙だった。

「それは、王家に伝わる『始祖の祈祷書』です」
「…始祖の、祈祷書…でございますか?」
「6000年前、始祖ブリミルが神に祈りを捧げた際に詠み上げた呪文が記されている…
と、伝承では語られています」
「…なっ!?」

 ルイズは慌ててページを進める。しかし、約300ページ、全部白紙だった。

「…白紙、ですね」
 ガッカリ、と顔に書いてあるかのようだ。
「はい、白紙ですわ。
 王室の伝統ですの。王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女に、その書を渡して式
の詔を詠み上げるのです」
「…巫女?も、もしや…」

 ルイズの血の気が引いていく。

「はい。ルイズ、お願いしますわ」
「そ!そんな私など!もったいない、過ぎる大役にございます!」
 首も手もブンブン振ってしまうルイズ。
「いえ、実はこれは、ルイズにしか頼めないのです」
「そのようなことは…他に私より」
「いいえ、ダメなのです。何故なら、これは、今夜ここにいるあなたにしか頼めないので
すから」
「今夜?どういうことでしょうか」

 アンリエッタは、哀しげに天井を見上げた。

「簡単な事ですわ。此度のアルビオンとの戦争、勝てる見込みがほとんど無いからです。
負けた場合、例え講和に持ち込んだとしても、アルビオンは必ずウェールズ様の身柄を要
求します」
「あ…い、いえ!勝てば良いのです!」
「無論、そのための努力は惜しみません。ですが、やはり分は悪いのです。ですから、今
できる事を全て行いたいのです。もう、後悔をしないために…」
「姫さま…」
 憂いを秘めつつも、王女の目には力があった。意思の力が。

「ふふふ、このような事、母様にもマザリーニにも言えませんわ。何しろ先ほどの軍議で
さんざん叱られましたもの!
 大臣達も、国民も皆、こう思っているでしょう。『為政者の器に非ず』と。私もそう思
います。王家を見放しレコン・キスタに付く貴族が現れるやもしれません。それも無理か
らぬ事でしょう。
 だから、よいのです。私は姫でもなんでもありません。愛に目がくらんだ、ただの女で
す。ただウェールズ様への愛に殉じます。今宵こそ、夢にまで見たウェールズ様との婚儀
を行う刻なのです」

 王女は、真剣な目で幼なじみを見つめる。その想いにルイズは、とても断れないと覚悟
した。

「・・・承知致しました。私などでよろしければ、巫女の大任を拝命いたします」
「あなたなら、そう答えてくれると信じていました。さぁ、共にウェールズ様の部屋へ参
りましょう」
 二人は部屋の前に控えるアニエスも連れて、ウェールズの部屋へ向かった。

 ウェールズが与えられた部屋の前にも警備の騎士はいる。
 彼は軟禁されているわけではない。非公式ながら、既に亡命を認められている。だが本
来なら、未婚の王女と亡国の王子が夜更けに面会しようとすれば、上官が飛んでくるだろ
う。
 しかし、二人が将来を誓い合った仲なのは、既に国中に知られている。今さら王女の面
会を止める理由は無かった。
 無論ウェールズも、思い人の来室を待ち焦がれていた。


「…私からもよろしくお願いする。もはや国も失い、ただの一人のメイジに成り下がった
身だが。それでも私を必要としてくれる愛しのアンリエッタのために、この命、全てを捧
げよう」
「ウェールズ様…」
「で、では…コホンッ」

 ルイズは手を取り合う二人の前に立ち、祈祷書を持った。
 持ったはいいが、何を言えばいいのか分からない。
 緊張でダラダラと冷や汗が出る。

「そ、その…実は私、こう言う時に巫女が何を言うのか、よく存じません…」
「あらあらいいのよ!ここには母様もマザリーニもいないのだから。必要な事を思いつく
だけ言ってくれればいいのよ」
「ああ、だから硬くならなくていい。楽にしてくれたらいい」

 そうは言われても、もうルイズはカチコチ。
 少しでも緊張を和らげれようと、無意識に手が服を直したりポケットを探ったり。
 そのうちに、ポケットの中にある水のルビーに触れた。
 せめて貫禄を出そうかと、それを指にはめた。
 そして、脂汗でじっとり濡れた手で、祈祷書を開いた。

 瞬間、三人の前で祈祷書とルビーは光を放った。





―――次の日  夜のヴェルサルテイル宮殿  ~アルビオン戦七日前~

  薄桃色の小宮殿『プチ・トロワ』では、王女イザベラがタバサの前で、報告書に目を
通していた。

「つ…追加報告を、命じて見れば…ますますメチャクチャね。あんた、マジ?」
 光るおでこが眩しい王女に至近距離で睨まれても、タバサの表情は全く変化がない。
 しばし睨むが、やっぱり何の反応も示さない。
「これだけは答えなさい…この報告書に、嘘偽りはないんだね!?」

 タバサは、無表情なままコクリと頷いた。
 忌々しげに歯ぎしりする王女も、ついには根負けして顔を逸らした。
「アルビオンでは手紙に加え、王子まで保護して帰還。
 学院を襲撃したフリゲート艦を、一瞬で破壊。傭兵共の隊長も撃退。
 ワルドとかいうのが相当の手練れだったとしても…信じられないねぇ」

 イザベラはにんまりと笑い、机の上の書簡を手に取った。それでタバサの頭をポコポコ叩く。
「しかし、これが真実だってんなら、あんたも終わりだねぇ。なにせ次の任務は、アルビ
オンとの戦争が始まるまでに、その使い魔達を、生きたままここへ連れてこいってんだか
らねぇ!」

 夜空へ向けて、タバサを乗せたシルフィードは学院へ向けて飛んだ。


「きゅいきゅい…お姉さま、大変な事になっちゃったのね」
 夜空を飛ぶシルフィードは、毛布にくるまるタバサに心配げな声をかける。
「あの使い魔達、一人でも無茶苦茶強いのね…しかも、三人なのね。勝つのは大変、なの
ね…きゅい」
 毛布にくるまりながら、タバサは本を読んでいた。
「さっきも話したけど、わたし見てたの。昨日、ジュン達とワルドって人が、森で戦って
たの。もう、グッスリ寝てたのに、ねぐらのすぐそばで戦い始めるんだものぉ!飛び起き
ちゃった!
 ワルドが兵隊達をぜーんぶ倒した後に、あの子達が来たの!信じられないのね!あの子
の剣さばき、見えなかった!それでそれで、緑の、スイセイセキって言ったかな?そのお
人形が、如雨露から何かこう、細い水かな?すっごい勢いでだしたの!きゅい!そしたら
森の木々が、スッパリきれーに切れちゃったのね!!信じられない魔法なの!!」

 タバサが、本を閉じた。
「何故、戦ったの?」
 シルフィードは、首を捻る。

「それは、わかんないのね。危なくて近寄れないから、話は聞こえなかったの。きゅい。
でも、ルイズが来たとたんに、二人とも」
「戦いを、止めた」
「きゅい!そうなのね」
 以後、タバサは学院に着くまで、何も言わなかった。シルフィードがいくらおなかすい
たと訴えても、本も開かず黙って夜の闇を見つめていた。




―――その頃、日本

 放課後の帰り道、ジュンは三人の上級生に囲まれていた。
「お前よぉ、ひっさしぶりにガッコ出てきたんだってぇ?」
「ヒッキーのくせに、意外と良い根性してんのなぁ?見てるこっちが恥ずかしくてしょう
がないぜ」
「ウゼぇダニ見て、気分悪くなって昼飯吐いちまったぜ、チビ。どうしてくれんだ?弁償
しろや」

「あは、あはは、あはははは・・・」
 ジュンはズボンのポケットに両手を入れたまま、もう苦笑いするしかなかった。
 薔薇乙女達、巨大ゴーレム、ゼロ戦、空飛ぶ海賊船、天を覆う竜騎兵達、ロケットラン
チャー…。
 そんな、非現実的としか言いようのない夏を過ごした彼にとって、目の前の『不良にカ
ツアゲされる』という現実の方が、よっぽどファンタジーに思える。
 両手をポケットに突っ込んだまま、『あ~、やっぱ日本って平和なんだなぁ~』と感心
してしまった。

 だが、その余裕な態度が、上級生達のプライドを傷つけた。
「なぁにニヤニヤわらッてんだぁ!?だっせぇメガネしやがって!」
 と叫んだ一人が、メガネを取ろうと手を伸ばす。

 ひょいっと、ジュンは避けた。

 くそっこのっ、とつぶやきながら、何度も手を出す。だが、全て紙一重でかわされた。
彼はポケットから手を出す事もなく、上体を上下左右にそらすだけで見事に避け続ける。
「こっ!この野郎!!」
 軽くかわされ続けてあっさり切れ、ブロック塀を背にしたジュンに向け、思いっきり右
拳をぶん回した。
  ゴキッ
「…ぃぃいいぎゃあああっ!!」
 拳は、ブロック塀を殴っていた。しかも、小指の付け根で。骨折したのだろう、みるみ
る真っ赤に腫れていく。
 ジュンは左足を軸に、軽く半回転しただけで避けていた。手もポケットに入れたまま、
汗もかいていない。

「てめぇ!?」
 と叫んだもう一人がが、ジュンの足にタックルをかけようと低空で突っ込んだ。
  ドゴォッ!
 派手な音を響かせて、壁に顔から激突した。そのまま鼻血を吹き出しながら、ズルズル
崩れていく。
 ふわりと跳ねてタックルをかわしていた。ポケットから手を出さないまま。
 すぅっと、最後の一人の前に舞い降りる。着地した音すらしない。

「ひ、ひぃぃ!た、助けてっ!!」
「・・・あのさ、その二人、早く病院連れて行ってやりなよ」
 息も服も乱さずに、ジュンは何事もなく歩いていった。



「お見事ね。それがルーンの力?」
 脇道から出てきたのは、巴だ。剣道用具を肩に乗せている。
「ああ。どうやら『武器』ならなんでも良いらしい。通販で買っといてよかったよ」
 ジュンが右手をポケットから出す。手には小さな十徳ナイフを乗せていた。
「他にも、こんなのも着けてるんだ」
 といって、シャツからネックレスを取り出した。地味な金属製のネックレスには、やっ
ぱり地味な金属製品が飾りとして下がっていた。
「用意周到ね・・・でも、ちょっとそれは見つかると良くないかも。あんまり目だったら
ダメよ。気をつけなきゃ」
「そだな、ちょっとやりすぎたか。これはハルケギニアでだけ着けるとしようか」
 ジュンはネックレスを外してポケットにしまう。
 二人は、並んで歩き出した。


 桜田家の門に立つと、なにやらぶつかり合う金属音が聞こえていた。
 また派手にやってるなぁ~っと思いつつ、二人は扉を開ける。

  カキンカンキンカカカカキンッ!
「そぉらそらぁっ!いくわよぉっ!」「なんの!こぉれでもくらいやがれぇですぅ!」

 リビングでは、デルフリンガーを振り回す水銀燈が、如雨露を構える翠星石とチャンバ
ラしていた。

『おでれーたなぁ!姐さんのちっこい体でここまで使いこなすとはよ!』「良いわねぇ、
この剣!あたしずっとこれ使おうかしらぁ?」「ダメですぅ!さっさとジュンに返しやが
れですぅ!!」
 二人がチャンチャンバラバラやってる間に、ソファーやカーテンがどんどん切られてボ
ロボロになっていく。

 キッチンでは草笛みつと、のりと、金糸雀が札束を数えていた。
「…うひひひひぃ、これでカードローンともおさらばよぉ!すごいわぁ、エキュー金貨が
あんな高値で売れるなんてぇ~」
「ジュンから頼まれてたモノ全部買っても、こんなに余ったのかしら♪」
「よーっし!カナの新作ドレスも買っちゃおー!」
「なっ!?みっちゃんダメです!それは、ジュンくんの参考書代にしますから!」

「ちょっとみんな、静かにしてちょうだい。落ち着いて見れないじゃないの!」
 ソファーに座った真紅は、ハルケギニアに行ってる間撮り貯めていた『くんくん探偵』
を見ていた。
「あー!カナも見たいかしらー!」
「く!水銀燈、ここは引き分けにしておくですっ!」
「水銀燈、あなたも一緒に見てはどう?」
「な!?な…バ、バカ言ってンじゃないわよぉ、なんであたしがそんな、下らないモノ」
 と言ってそっぽを向きつつも、黒い翼が嬉しげにパタパタと羽ばたく。

 ぐだぐだの桜田家を見て、ジュンは諦めのため息をつく。巴はクスクス笑っていた。





―――そして、トリステイン魔法学院 ~アルビオン戦六日前~

 カーテンが開け放たれた窓から朝日が差し込む。
 鏡台の鏡も光りを放ち、部屋を照らす。
 とたんにベッドからネグリジェのルイズがガバッと起きた。

「ルイズさーん、戻ったよー」
 ジュン達が鏡から、にゅっと顔を出すと、
「おっかえりぃーっ!待ってたのよぉ!」
 と、ルイズが思い切り抱きついてきた。
「うわったた!どうしたのルイズさん!」
「聞いて!聞いてよ!あたし、とうとう見つけたのよっ!」
 鏡から上半身だけ出したジュンに抱きつきながら、興奮して叫び続けている。
「見つけたって、何を…まさか!?ローザ・ミスティカを!?」
「ブブー!ざぁんねんでしたぁ。でも、もうスッゴイ物みつけちゃったんだからぁっ!」

 ジュンはワケも分からず抱きしめられて、鏡から出るに出れない。隙間から真紅と翠星
石も顔を出した。

「な、なんだか妙に上機嫌ですねぇ?」
「ともかく、鏡から出させてちょうだい!荷物が重くて大変なのよ」
「あらやだ、ごめんなさい」

 ジュン達は、ようやく鏡から出れた。ジュンは背のデルフリンガーに加え、手に大きな
ボストンバッグを持っている。
「ねぇ、これなんなの?」
「へっへー!今回は色々もってきたんだぁ~」

  ツンツン

「ルイズさんがくれた金貨のおかげで、スッゴイの沢山買えたんだ!」
  ツンツンツンツン
「まずこれ!インカムとトランシーバー!ゼロ戦に乗ってる時、話をするのが楽に…なん
だよ真紅」
 真紅が背中をツンツンつついていた。
  ドカッ!
 さらに翠星石が尻を蹴り飛ばした。
「さっさと気付けですっ!」
「気付いてンじゃねーかっ!あにすんだよっ!?」
 真紅が、窓の外を指さした。

 カーテンが開けっ放しの外には、シルフィードがいた。
 『プチ・トロワ』から帰ってきたばかりのタバサを背に乗せて飛んでいた。
 ジュンは、タバサと目があった。
 シルフィードも、鏡から出てきた一行を、じぃ~っと見ていた。

「…えっと」「みら…れた、です?」「の、よう…ね」「お、おでれーた?」「か、かーて
ん、しめ、忘れたぁ…かなぁ?あははは…は」

「きゅいいいいいいいいいいっっっ!!!鏡から人なのねぇええええっっ!!」
 シルフィードの悲鳴が学院中に響き渡った。

                第二話   休暇の終わり、戦の前 END



新着情報

取得中です。