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KNIGHT-ZERO ep12


 「なぜなら私が深海で手に入れる物は 人類の未来に対する永遠の希望なのです」


                         かわぐちかいじ著「沈黙の艦隊」より




ルイズは眠るシエスタを置いてKITTから出た、かつてアルビオン皇太子だった男に駆け寄る

着の身着のままニューカッスルから脱したウェールズの姿は、見るも無残なものになっていた
裂けたズボンとシャツの下に覗く青白い肌は痩せ衰え、それをボロ布と化した王家のマントで隠していた
美しかったと聞く金髪は伸び放題で、顎鬚に覆われた頬は削げ、白目の黄ばんだ瞳だけが爛々と輝いている

KITTはルイズだけに聞こえる声で目の前に現れた人間を生体モニターで診断した結果を淡々と伝える
「彼は栄養失調の状態にあります、果実と木の実を主食にしていて、動物蛋白を殆ど摂ってないようです」

変わり果てた姿のウェールズにルイズは絶句した、テューダー王家の継承者、動乱の渦中にある人物
ルイズは昔、アンリエッタに彼へ寄せる想いを打ち明けられていた、そして・・・今、最も救いが必要な人間

痩せ衰えたウェールズは体中傷まみれで、悪化した傷口が放つ膿の匂いは、彼の健康状態を物語っていた
若く壮健な王子として知られた彼でさえこの有様なら、高齢と聞く国王の状態は推して知るべしだろう

ウェールズはマントの下、血で汚れたシャツの上から襷掛けした平民の猟師が身につける様な布袋を探り
二通の封筒を大事そうに取り出した、一通は変色して生成りに近い色で、もう一通は真新しい王室の便箋
彼の今の姿には不似合いな封書には、トリスティン王室とテューダー王家の花押が捺されていた

「・・・多くを話す時間が無い事を許して欲しい・・・この森に君が来てくれたのは・・・きっと始祖ブリミルが
私に授けた最後の救いだ・・・君にお願いがある・・・アンリエッタにこの手紙を渡してはくれないか…ルイズ」

何か言おうとしたルイズを赤黒く変色した手を振って遮り、ウェールズは二通の手紙をルイズに押し付ける
その手は震え、眼窩の目立つ瞳はルイズを見ながらも数秒に一回、周囲の森を落ち着き無く見回していた


かつてアンリエッタがウェールズに送った恋文が存在する事は、アンリエッタ自身から聞いていた
彼女は婚姻の直前に、それを妨げる物として、密かな回収任務をルイズに頼ろうとも思っていたが
婚姻話が消滅した今となっては政治的な価値の薄い手紙、将来のそれへの影響力もそう大きくはなかった

始祖ブリミルへの結婚の誓い、少女の頃の恋文など発表されたところで政治的な縁戚は揺るぐ物ではない
それが神への裏切りになるというアンリエッタの憂いは、結局のところ何の意味もないものだった


   何の意味も無くなってから、その本当の意味を取り戻す物も存在する




妙に迷いの無いウェールズの瞳を見たルイズは微かに歯噛みした・・・男って奴はいつも・・・女の事なんて・・・

「皇太子様は学業を怠りこんな所に遊びに来ている不逞の者に、姫様への手紙を託そうというのですか?」

腹を探るようなルイズの礼を失した物言い、しかしウェールズは少年が英雄譚を語るように瞳を輝かせた

「我々は情報に重きを置いている、貴国のタルブ村奪還に君と使い魔の力が関与してる事は知ってるよ」


ウェールズは海賊や行商人、密輸屋の間に敷いた独自の情報収集ルートで、タルブでの戦闘についての
様々な風評を集め続けていた、それは皮肉にも彼らが活動し続ける意義を再考させる情報をももたらした

ルイズはウェールズの手を手紙ごと両手で包む、こちらの背筋が寒くなるほど冷たく、痛んだ皇太子の手

「ウェールズ様、一応お聞きします、この使い魔には貴方を姫様の元までお連れする事が可能ですが」

ウェールズはルイズの手をそっと解き、森の汚れが染み付いた自分のマントを摘みながら寂しげに笑った

「私は国を追われ、尾羽打ち枯らしたお尋ね者に過ぎない、それでも私はアルビオンの皇太子なのだ
自分のすべきことはわかってる積もりだよ・・・アンリエッタに伝えたい事は、全てその手紙に書いてある」

ウェールズが指を鳴らすと、周囲の藪から音もなく四人の貴族が現れた、五人はこちらに深く一礼すると
襤褸のマントを翻し、赤外線モニターの目に気づいているかのように悠然と森の奥へと歩き去って行った


ウェールズが渡した二通の封書を握りしめたまま、ルイズはKITTの操縦席で黙りこんでいたが
ずっと寝息をたてていたシエスタの「もう寝たふりはやめていいですか?」の声に我に返った彼女は
KITTのセレクターをDに入れると、帰路を表示するジャイロ式カーナビも見ずに森から走り出した

私がこの使い魔と虚無系統によって得た力、空と大地を繋ぐ魔法と、距離と空間を飛び越えるKITT
それは歴史を動かす波の前にはあまりにも小さく無力で、出来るのはといえばただの使い走りに過ぎない
王と呼ばれる者達もまた同じような物なんだろう、そんな事を考えながらKITTのアクセルを踏み込んだ



夕方


丸一日の学院滞在で少し疲れた表情のアンリエッタ姫が、王宮に戻る馬車に乗り込もうとした時
黒い影が地平線の彼方から土煙を上げて突っ込んで来た、お忍び訪問を護衛する精鋭の近衛兵が身構える
彼らが警戒していたのはそのスピード、そして近づいてくるキャロルの「紫のハイウェイ」のリズムだった

アンリエッタだけは瞳を輝かせた、彼女が生来持っていた周囲が華やぐような笑顔をその機械に向ける

「・・・あれは・・・わたくしの・・・皆さん、あれはわたくしの・・・騎士です・・・どうか失礼の無いように願います」


KITTは馬車の前でスキーのパラレルターンのように急停止する、操縦席にはシエスタが乗っていた

「ほらごらんなさいミス・ヴァリエール!わたしとKITTさんなら湖から学院まで88分ですわ!」

「あんたズルしてんじゃないわよ!ターボジャンプで近道なんて反則よ!次の虚無の曜日にやり直しだわ!」

近衛隊や学院の教師が咎めるような目で見る中、KITTはフロントサスペンションの車高を落とし
リアを車高を上げる、ウォルト・ディズニーの映画に出てくる擬人化された車のように姫に頭を垂れた

「見目麗しき姫様のお姿を拝謁できることを光栄に存じます、タルブでのご英断には感服いたしました」

あの時コミュニケーター・リンクから聞いて以来忘れられぬ声、アンリエッタは少女のようにはしゃぐ

ルイズはKITTから出て、少し不機嫌な顔でKITTのフロントフェンダーに肘撃ちを入れ黙らせると
アンリエッタに籐のボックスを渡した、献上品はお付きの者が受け取るという慣習は知らないフリをする

「姫様、品評会の欠席、誠に失礼をしました、替わりといっては何ですがお土産をお納めくださいませ」

桃りんごの香り漂うランチボックス、アンリエッタも何かに感づき、随行の女官を制して手づから受け取る

アンリエッタは好物の桃りんごが詰まったランチボックスよりもKITTの方をチラチラと見ていた

ルイズはアンリエッタに渡したランチボックスの蓋を、他の人間には見えない角度でパっと開ける
「ほら!アルデンの森で取れたての桃りんごです、……姫様の……とっても好きなものです・・・・・」

ボックスの中、桃りんごの詰まった上に載せられた手紙、かつてウェールズに送った恋文と、もう一通


ランチボックスの中を見つめていたアンリエッタは潤んだ瞳をルイズに向け、その手を両手で握りしめた

「あぁ・・・・・ルイズ・・・・・やっぱりあなたはわたしの一番のおともだち・・・・・・ありがとう、本当にありがとう」

柔らかく温かい手、ルイズは一瞬ウェールズの手を思い出した、きっと、彼はこの綺麗な手を守るため・・・

シエスタが横からひょこっと顔を出し、奇跡的に一本残ってたワインの瓶をアンリエッタに差し出す

「桃りんごをご賞味の折りには、是非タルブのワインをご一緒にどうぞ!ご注文はいつでも承ります」

シエスタがアンリエッタに渡したタルブ特産のワイン、曽祖父による製法改良の結果、その白ワインは
辛口の、日本酒に近い風味を有していた、桃りんごとの相性も既にルイズとシエスタが帰路で確めている

「メイドさん、あなたにも心から感謝します、タルブの産品を我が王宮のご用達にして頂けますか?」

シエスタは飛び上がって喜んだ、戦乱での作物被害で苦しかった今年の税も無事、皆済できそうだ

ルイズとシエスタの頬に唇を軽く当てるガリア式のキスをしたアンリエッタは、KITTに近づき跪く


「KITT殿、あなたに会いたくてここまでやってきました…わたくしの心を受け取ってくださいまし…」

アンリエッタはKITTのフロント・ノーズに覆い被さると、往復する赤い光の中心に深々と唇を合わせた


いつの間にか学院の門前まで見物に来ていたキュルケが「さすが私のKITTクン!」と口笛を吹く
一緒に居たタバサは、結構気に入ってたらしい品評会優勝の冠を頭から外し「優勝はあれ」と呟いた



夕陽の沈む中、王都の方角へと走り去っていくアンリエッタの馬車、KITTはそれを眺めながら
今、自分にげしげしと蹴りを食らわせているルイズとシエスタの怒りをどう鎮めようか、と考えていた



アルビオン王家亡命政権の存在と、ただアルデンの森から健在を表明し続けるだけの活動はその後も
レコンキスタの内部にあった不協和音を日増しに拡大し続け、新生アルビオン政権は迷走を重ねた


国を超えて集まった貴族達、当初は聖地奪還の手段だった政権奪取、それが元より目的だった貴族や
エルフの資源から生まれる利権が目当ての者、ただ他国よりも高価な報酬に釣られてきた食い詰め者
様々な思惑の絡み合った集団の温度差は大きく、それは諸々の外的な不安要因で容易に揺らいだ
出身国や新政権内での立場から複雑な派閥を形成し始めた貴族達は、衝突と離散を繰り返した


あの王族達が、いつかガリアの艦隊やトリスティンの未知の魔法兵器を従え自分達の頭上にやってくる
王族帰国の誤報が幾度も流れ、その度に幻影に怯えた上層部は醜態を晒し、下位の者達は見切りをつけた


そして、混乱を続ける新生アルビオンにトリスティン、ゲルマニア、ガリアが共同で発した宣戦布告の前に
レコンキスタ政権は、戦わずして事実上の降伏である委任統治の提案を発表し、それは即日受諾された


アルビオンは新国家への第一歩を踏み出し、森の奥で耐える事で戦ってきた王族の最後の役目は終わった


アルデンの森で奇跡的な逃亡を続けていたウェールズと亡命政権のメンバーの消息はその後、途絶えた
ロマリアで修道士になった、森の奥深くで自刃した、また異世界に連れ去られた等の憶測が流れたが
アンリエッタだけはその行く末について知っていた、彼らがただ静かに消え去る道を選ぶ事はわかってた
ウェールズからの手紙には、今までの厚意への礼と誰か愛する人と幸せになって欲しい旨が綴られていた
彼の遺書を手に一生分の涙を流したアンリエッタはほどなく、トリスティン女王としての戴冠を了承した

きっと、母マリアンヌから王位の継承を求められるずっと前からその覚悟は出来ていたのかもしれない
アンリエッタは心の中でどんどん大きくなるKITTの姿を意識しながら、人知れずその手紙を焼いた

もう涙は出なかった、決して流し去ることのできない記憶を残し、少女は祖国トリスティンと結婚した


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