あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ディセプティコン・ゼロ-16

『始めまして―――――君達はトムの友人かな? 紳士淑女諸君』



その機械音声が寺院内に響くや否や、ルイズらは即座に杖を構えた。
タバサが先頭に着き、ルイズは周囲を警戒。
ギーシュがルイズの横でワルキューレを錬金し、キュルケは後方でシエスタを庇う。
そしてデルフは逸早く銃口を展開、薄闇の先に潜む存在をスキャンしていた。
そんな彼等の反応にも慌てる事無く、音声の主は流暢に続く言葉を紡いだ。

『ああ、待ってくれ。怖がらないで欲しい。恐怖、その他の感情による束縛から自由である事は、全ての知的生命が有するべき権利だ』

直後、薄闇の中に光が点り、濃緑に彩られた鉄塊の全貌が浮かび上がる。
忽ち、5人の目がそれに引き寄せられた。
ルイズらが息を呑む傍ら、シエスタが密やかに呟く。

「あれ……『竜の羽衣』です」

その言葉を聞くまでもなく、彼等にはそれが目的のものだと理解出来た。
出立の前日にデルフからの説明で、『竜の羽衣』が『飛行機』である可能性が高いという事を聞いていたのだ。
そして目前の物体は、映像で見たものとは若干異なるものの、正しく『飛行機』そのものと分かる造形をしていた。
ブラックアウト以外では始めて目にするそれへと、興奮気味に視線を向ける4人。
しかし、デルフだけはその更に奥―――――『竜の羽衣』を照らし出す光源へと注意を向けていた。
展開した銃口もそのままに、音声による警告を発する。

「ライトを消して前に出ろ。ハルケギニア標準語による音声を用いたコンタクト以外は許可しない」
『賢明な判断だ』

その返答に、ルイズらが我に返る。
状況の異常性に気付き、杖を構え直して消えゆく光源の向こうを睨む4人。
そして完全に光が消えるや否や、寺院内に甲高い機械音が轟き始めた。
同時に、砂を踏みしめる耳障りな音。



数秒後、背後から射し込む薄明かりの中に浮かび上がった異形の姿に、デルフを含む全員が驚愕した。





「『X-File』じゃねぇんだから」
「なに?」

ジャズの車体に寄り掛かりStG44の弾倉をチェックしていた才人の呟きに、同じくボンネットに腰掛けぼんやりとしていたテファが反応した。
長い耳を覆い隠す帽子を弄りながら、少々眠たげな視線を才人へと向ける。

「宇宙人が居たってだけでも、俺達からすりゃとんでもない事なんだ。寄生して胸を食い破るとか、頭蓋骨を取り出してトロフィーにするとかじゃなかっただけマシだけど」

そこで才人は、ルイズらの入っていった寺院へと視線を投げ掛け、顔を顰めた。
その様子をどう見たのか、ジャズがからかう様な調子で言葉を発する。

『そっちの方がマシだったかもな。機械に擬態する事も、馬鹿みたいな威力の兵器をやたらめったら撃つ事も無かっただろう』
「冗談、言葉が通じる方が良いに決まってる。大体そんな奴ら、実際には居ないだろ」
『はっきりとは思い出せないが、似た様な生命体のデータなら31件在るぞ』


沈黙。
才人とテファの顔が僅かに引き攣り、ジャズは合いの手を誤った事に思い至り黙り込む。
何とも言えない静寂が10秒ほど続いた後、その空気を打ち破る様に才人が話し始めた。

「……とにかく、『アメリカ』が宇宙人とのコンタクトを済ませていて、その技術を使って宇宙船を造ってしかも打ち上げまで済ませてました―――――なんてのは、出来の悪い三文SF小説みたいな話なんだ」
『まあ……そうかもな』
「ふぅん……」

才人の言葉に同調するジャズ、良く解らないとばかりに曖昧な返事を返すテファ。
それらの反応を横目に、才人は言葉を繋げる。

「なあ、ジャズ。あの宇宙船……『ゴースト1号』が『セイバートロン』の技術を使ってるってんなら、『アメリカ』は何時『ディセプティコンズ』……それとも『オートボッツ』とコンタクトしたんだと思う?」

返事は無かった。
それ自体は半ば予想していた為、才人も問い質しはしない。
しかし、数瞬遅れて放たれた言葉は、才人に予想外の驚きを齎した。



『分からない。だが……俺は、あれを見た事が在る』



その言葉に、才人とテファは反射的にジャズを見遣る。
ジャズに変化は無い。
車両形態のまま、エンジンを切って其処に在る。

「ジャズ……記憶が?」
『いや、まだだ。だが、画像がデータとして残っている。『地球』圏ではない様だが、何処かしらの恒星系で俺はあれと遭遇した事が在るらしい』
「何処かしらって……じゃあ、あの船は『太陽系』を突破したってのか?」

今度こそ声を上げ、才人は驚愕を露にした。
その様子を訝しんだテファが、小首を傾げつつ疑問を投げ掛ける。

「それって、凄い事なの?」
「凄いも何も……表向き、『地球』の人間が到達したのは月までなんだ。今は一番近い惑星、『火星』を目指してる。それなのに、あれは『太陽系』の脱出まで果たしてるんだぜ? とんでもない話だよ」
「良く解らないけど……サイトの知ってるものより、あれは遥かに進んだ技術が使われてるって事?」
「ああ」

言いつつ、才人は興奮した様子で『ゴースト1号』残骸の方角を見遣った。
しかし直後、背後から響いた甲高い音に、素早く振り返り銃を構える。
音の発生源は、寺院内部だった。

「何だ……?」
『テファ、サイトの陰へ。こいつは……』

テファへと指示を出しつつ、ジャズが変形する。
そして、右腕の砲身を展開するや否や、鋭く警告を飛ばした。



『こいつは……ターボファン・エンジンの音だ!』




半壊した寺院の扉がゆっくりと開かれ、鋼鉄の異形が薄闇の奥から姿を現す。
徐々に、徐々に日の光の下へと進み出るその鉄塊の全貌が明らかになった瞬間、才人はこの日最大の驚愕と戦慄に襲われた。

「マジかよ……」

彼等の眼前に現れた、その異形の名は―――――

「『ラプター』……!?」



ロッキード・マーティン、F-22。
通称『Raptor』。



少なくとも才人の知る限り、地球最強の戦闘機が其処に在った。
そして、ラプターから音声が発せられる。

『何故お前が此処に居る? ジャズ』

瞬間、擬似視界へと表示されたエンブレムに、ジャズはラプターの正体を悟った。



―――――『ディセプティコン』。



砲口を向け、躊躇う事無く砲弾を発射せんとするジャズ。
しかしその直前、デルフからの通信が飛び込む。

『止せ、ジャズ! そいつは敵じゃない!』

辛うじて、ジャズは攻撃を思い止まった。
しかし、その砲口がラプターから逸らされる事は無い。
相手もそれは承知しているのか、特に反撃の素振りを見せる事は無かった。
沈黙のままに砲口を翳すジャズの隣で、サイトが呻く。

「マジで『ディセプティコン』かよ……!」
『そうとも、《地球》の友人よ。君や彼と同じ、このハルケギニアに迷い込んだ異邦人さ。まあ、人ではないが』

穏やかな調子で言葉を紡ぐ、ラプターに擬態した『ディセプティコン』。
灰色の巨体が進み出た後の寺院内から、ルイズらが歩み出る。
その姿を見止めた才人が、幾分棘の在る声を掛けた。

「よお、デカい収穫だったな。『竜の羽衣』が『ディセプティコン』とは、嬉しい誤算だったろ」

忌々しそうに吐かれたその言葉に、ルイズは黙って背後を指す。

「あん?」
「『竜の羽衣』は中よ。『彼』が居たのは予想外だったわ」
「……はぁ?」
「だから『彼』は『竜の羽衣』じゃないのよ」


呆気に取られてラプターを見詰める才人、テファ。
その眼前、鋼鉄の猛禽から、三度言葉が紡がれた。



『改めて名乗らせて貰おう。《スタースクリーム》。君達の言語基体に準えて表現するならば、それが私の名だ』





『1969年7月16日。ケープカナベラル、アポロ11号打ち上げと時を同じくして、ゴースト1号はアラスカ、《セクター7》アルファ基地[SSAB]より、その名の通り亡霊の如く密やかに打ち上げられた。
我々クルー一同に課せられた任務は、ゴーストに用いられた種々の技術の有用性確認、そして太陽系内に於ける《アイスマン》の類似構造体捜索、この2つであった―――――』

タルブ村の一画、シエスタの生家。
夕食として振舞われた村の名物、『ヨシェナヴェ』―――――才人曰く、正式な発音は『ヨセナベ』らしい―――――を賑やかに平らげた後、一同はデルフから数枚の紙を配られた。
其処に記されていたのは、『ジェイコブ・トンプソン』の手記。
生前の彼の家に残されていたものを、シエスタの父が預かっていたらしい。
村の誰も読む事の出来ない言語で書かれたそれをデルフが翻訳、その一部を抜粋し人数分の紙へと写したものを、夕食後に一同へと配ったのだ。
ご丁寧にも、才人の分は日本語で書かれていた。
更にはシエスタまでもが、最早無関係ではないとのデルフの判断によって、翻訳の記された紙を受け取っている。
かくして夕食後のテーブルは、無言のままに文字の羅列を目で追う7人の少年少女によって占拠される事となった。

『―――――太陽でのスイングバイ中に、突如として発生したワームホールへと突入した我々は未知の恒星系へと飛ばされ、其処で《アイスマン》と同属の無機生命体による戦闘を目撃した。
我々はSSABへと報告を行い、更に双方の勢力とのコンタクトに成功、ある程度の情報を入手した―――――』

時折、テーブル上で湯気を立てるカップへと手が伸び、続いてそれを置く音が響く。
その微かな音以外は、まるで無音。
僅かな虫の音、風の音すら立ちはしない。

『―――――協議の結果、我々は地球への帰還を放棄した。彼等を地球へと連れ帰った場合に起こり得る、各種のリスクを考慮した上での結論だった。
我々はその旨をSSABへと伝え、ディセプティコンズ司令官に対する多目的ミサイルによる攻撃を実行、反撃を受けた―――――』

読み進める内、誰もが驚きに目を瞠った。
手記の前半でさえ、既に想像を絶する内容であったが、後半はこの世界を舞台としたものであり、彼等にとってより現実感に満ちた内容だったのだ。
特にシエスタにとっては、自身の曽祖父の名が記されていた事も在り、驚愕と共に湧き上がる興奮を抑える事に苦労していた。

『―――――意識を取り戻した時には、既にゴースト1号は地表への不時着を終えていた。私は操縦席を離れ、外部冷却システムの故障を知り、クルーを順に外へと運び出した。
しかし、周囲の火勢は衰える事を知らず、私は熱と渇きに意識を失った。次に目覚めた時、既にクルーの中で命を留めているのは、私独りとなっていた―――――』

不意に、才人が文面から視線を上げ、シエスタを見遣った。
その黒髪と目を視界に捉え、何やら納得すると、再び紙面へと目を落とす。

『―――――私を救ったのは、旧日本海軍少尉、佐々木武雄と名乗る人物だった。彼は私の置かれた状況を事細かに説明し、記憶を失った商隊の一員としてこの村に住む事を勧めてくれた。
私は佐々木に大戦の終結、ゴースト1号、私の任務を明かし、その全てを闇へと葬る事にした―――――』

読み終えたのか、ギーシュが紙面から顔を上げ、目を揉み解す。

『―――――村人へと有益な技術を伝え、子供達に知識を与え、時にジークの整備を手伝う。穏やかに過ぎる日々の中、私は佐々木の協力を得てクルーの墓を建て、更にゴースト内部への侵入を試みた。
エイリアン式の通信機が使用出来ないかと考えたのだ。しかし、それは叶わなかった。扉は私が出た後に完全に破壊され、既に開閉機構は機能していなかった。
非常脱出口からの侵入も試みたが、其方は回線の切断によりびくともしない―――――』

続いてキュルケが紙片を置き、小さく伸びをする。
溜息を吐いてカップへと手を伸ばし、中身を啜った。

『―――――帰還の望みは断たれた。しかし、私の心は驚くほど平静だった。それが任務を果たした達成感によるものか、この村への愛着からくるものかは分からない。
しかしあの時、ワームホールを潜らなかった選択を後悔した事は、一度として無い。それだけは確かだ。例えそれが、彼等が地球へと降り立つまでの、僅かながらの時間稼ぎに過ぎないとしても。
彼等はいずれ、必ず、地球へと辿り着くだろう。彼等の首領を、敵を求めて。《アイスマン》―――――《メガトロン》へと』

才人、シエスタ、ルイズが紙片を下ろし、各々が異なる方法で疲労を掃う。
続いてタバサ、テファが顔を上げ、ぐったりと背凭れに体重を預けた。

『―――――果たして、地球の軍事力が彼等に通用するのか。鋼の体躯を持ち、無尽蔵の力と英知を誇る、あの機械生命体に。最早、それを知る術は無い。私には、祈るより他無い。
だが、絶望はしていない。我々が最後に発した警告は、間違いなくSSABへと届いている。彼等なら、必ず有効な手段を見付けるだろう。私に出来る事は、英雄達の遺した功績を此処に記す事だけだ。
最後に……私が知り得たメカノイドの名を記す事で、この回想の結びとしよう―――――人類、そしてあなた方の未来に、祝福の在らん事を―――――《ジェイコブ・トンプソン》』



誰も、何ひとつ言葉を発しようとはしない。
キュルケがカップを戻す音が、やけに大きく響く。
やがて、沈黙を打ち破り、デルフが会話を切り出した。

「スタースクリームの言葉を信じるなら、トンプソンって『地球人』を殺したのはオーク鬼らしい。群れ自体は、直後に奴が森ごと吹き飛ばしたと言っている。嬢ちゃん、本当か?」

寺院でのコンタクト直後に聞き出した情報をもう一度反芻し、デルフはシエスタへと問い掛ける。
シエスタはぎこちなく頷き、答えた。

「はい、父に確認しました。8年前、トム爺さんが殺された直後に、森の一画が消し飛んだそうです。死体も何も残っていなかったから、それがオーク鬼の居た跡だとは分からなかったそうですが」

再び、室内に沈黙が降りる。
7人が互いに視線を交わし、ルイズを除く6人が示し合わせたかの様に席を立った。
そして、各々に割り当てられた部屋、家へと向かう為に部屋を後にすべく、扉へと歩き出す。
その背に向かって、デルフの声が飛んだ。

「明日、『ゴースト1号』内部を調査する。もしかすると、まだシステムが生きてるかもしれねえ」

一旦歩みを止め、再び歩を進める6人。
彼等の姿が完全に扉の向こうへと消えた頃、腰掛けたままのルイズは7枚の紙片を束ね、予め用意されていた鉄の盆の上にそれを置くと、デルフに合図を送った。

「デルフ」

すぐさまデルフがトーチを展開し、紙片の束を焼く。
燃えゆくそれを見詰めながら、ルイズはぽつりと呟いた。

「信用出来るの?」

答えは、殊更無機質な音声だった。

「するさ。あいつも『ディセプティコン』だ」

それだけ言うと、デルフは剣へと姿を変え、床に転がる。
デルフを拾い上げ膝の上に置き、ルイズは未だ明るく燃え続ける紙片へと目を向けた。
徐々に面積を減らしゆくその紙片の上には、本来の文面からは掛け離れた一文が記されている。



『盗聴されている。相棒に関する一切を伏せろ』



そして、本文の末尾。
幾つかの名称、そして文章が、炎に炙られ煤と化す。
静かに、ただ静かに。
真実は、7人と1体の脳裏へと秘められ、その痕跡を炎の中へと沈め去った。



『―――――この回想の結びとしよう。我らを助け、その生命を賭して知的生命体の尊厳を護らんとする者―――――オートボッツ司令官、《オプティマス・プライム》。
我らを貶め、全生命の支配権を掌握せんとする者―――――ディセプティコンズ副司令官、《スタースクリーム》。
彼等の名を此処に記し、この手記を解読するであろう者への警鐘と為す―――――人類、そしてあなた方の未来に、祝福の在らん事を―――――《ジェイコブ・トンプソン》』





集落から全ての灯が消えた事を確認し、スタースクリームは思考を更に加速させる。

集音した会話からは目ぼしい情報は得られなかったが、同時にセルロースを主成分とするハードコピーの摩擦音、それに続く燃焼音が検出された。
即ち、文字媒体を用いた情報交換が為されていたと推測出来る。
しかも、直後にハードコピーを消去する程の念の入り様。
余程此方に知られたくない内容だったらしい。
では、その内容とは?

スタースクリームのプロセッサに、僅かな信号が走る。
嘲笑、侮蔑の感情が込められたそれは、外部へと出力される事無く、内へと秘められたままに消え去った。

決まっている。
『誰があのエイリアン船を撃墜したか』だ。
恐らく連中は、その実行者がこの自分であると気付いたのだろう。

其処まで思考し、しかしスタースクリームは、取り乱す事など一切無かった。
ただ静かに、草原の片隅にその身を留めている。

だから何だというのだ。
連中がそれを隠し通すというのなら、それこそ好都合ではないか。
自身としては、人間どもの注意が砂漠に向けばそれで良い。
原始的ではあるが堅実な科学技術を保有する『エルフ』とやらに、この世界の人間どもが太刀打ち出来るとは到底思えないが、良い『デコイ』にはなるだろう。
自身はその隙に、『エルフ』が有するシステムの制御権を奪取すれば良いのだ。
都合の良い事に、ハルケギニア南方の宗教国家は『聖地奪還』を謳っている。
この国家を運営する上層部の人間を扇動し、ロマリアの主張に同調させれば、自然と砂漠地帯への侵攻と相成るだろう。
それこそが自身の目的であり、逆にいえばそれさえ達成されるのなら、人間どもが自身と敵対しようがしまいが、大した問題ではない。
どの道、小柄なメカノイド1体と、システムに障害を起こした『オートボット』1体、始末するのは容易い。
それが少しばかり速くなるか、遅くなるかの違いでしかないのだから。

スタースクリームは集落の端、月明かりに浮かび上がる銀の車体を拡大、疑似視界へと表示する。
先程まで風竜と呼ばれる原生生物に絡まれ、苦情を吐き散らしていた元『オートボッツ』副司令官は、今はその原生生物に寄り掛かられたまま鉄の寝床と化している。
寝息を立てる原生生物に対し、遂に諦めたのか今は完全に口を閉ざしたそれは、自身が憎むべき敵の名も、またあれ程までに敬意を払っていた司令官の名すら覚えてはいないという。
そもそも、『メガトロン』直々に引き裂かれたあのオートボットが何故、五体満足でこの世界に存在しているのか、その理由すらも定かではない。
解らない事だらけだが、ひとつだけ、スタースクリームには確信が在った。



俺は、全て覚えている。
『オールスパーク』の崩壊も、貴様が引き裂かれた瞬間の心地良い音も、『メガトロン』が死んだ事も。
そして―――――俺自身が見事逃げおうせた事も。
全て覚えているぞ。
貴様の忘れてしまった事も、全て。

貴様には何が在る?
ジャズ、貴様の救いとなるものが、ひとつでもこのハルケギニアに存在するのか?
汚らわしい、死に損ないの『オートボット』よ。



空の支配者たる『ディセプティコン』の思考中枢に、数多の謀略が浮かんでは消えてゆく。
享楽的感覚と共にそれらを取捨選択してゆくスタースクリームは、常ならば決して見落としなどしない、ある種の経験からくる違和感に気付きもしなかった。



二色の月光に照らし出されるラプター。
その姿を静かに窺う、7対の有機的光学視認装置。
中には感情を宿らせたものも在れば、いっそ無機的とも思えるものすら在る。

謀を廻らせる事に長けているのは、何も機械生命体だけではない。

東より押し寄せる白光に闇が拭い去られるまでの、僅かな時間。
謀略と欺瞞の夜は8年前と同様、季節外れの冷たい空気と、鉄の匂いに満ち満ちていた。






微かなモーター音、そして金属の擦れ合う耳障りな音。
一条の光が闇の中へと差し込み、やがて空間を埋め尽くす。
40と数年振りに外部の光を取り入れたその空間は、無数の計器と淀んだ空気に支配されていた。
白光の射し込む外部から、機械音声の声が響く。

「待ってろ」

直後、内部へと滑り込む小柄なメカノイド。
デルフは迷う事無くコンソールのひとつへと歩み寄り、その下の床をスキャン。
2秒と経たずにスキャンは終了。
トーチ展開、床の一点に2サント四方の穴を開ける。
次にデルフは、細く鋭い端子を展開し、それを床に開けた穴へと差し込んだ。

『……』

僅か1秒、否、それ以下の刹那、デルフから電子音が発せられる。
次の瞬間、低く重い起動音と共に、ジェネレータが再始動した。
緊急換気系が作動、数瞬後には新鮮な外気が空間を満たす。
同時にライトが点灯、しかし数度瞬くと機能を停止。
空間は種々の計器、警告灯、そしてノイズの走るモニターから放たれる明かりによって、辛うじて視界を確保出来る程度の環境を保っていた。

「もう良いぞ」

デルフが合図を送ると、桃色の髪を靡かせた頭が恐る恐る内部を覗き込む。

「大丈夫なの?」
「換気は問題無い。他にこれといった損傷も無ぇな」

ルイズが内部へと乗り込み、続いてタバサ、才人、テファが侵入、物珍しげに周囲を見回す。
やがて、才人がぽつりと呟いた。

「凄ぇ……まだ動くのかよ」
「ジェネレータは無事だからな。『セイバートロン』のものと比べりゃ大分劣化してるが、それでも理論上じゃあ500年は稼動する筈だ」

端子を抜き、コンソールを操作していたデルフが答える。
6つの視覚装置が其々別の計器を捉え、20を超える指が忙しくコンソール上を滑る傍ら、そのセンサーは外部の様子を探っていた。

「飛べるの?」
「いや、エンジンは完全にイッちまってる。補助ブースターもだ。だが……」

再び端子を展開、コンソール脇のジャックに突き刺したデルフは、幾つかの情報をモニターへと表示してみせる。

「AIは生きてるぜ。外部識別装置、サーモスキャン、レーダー、近接防御火器システム、全て正常だ。問題が在るのは推進系と外殻の一部、サンプル採取用のマニピュレーター位か」

アラート。
『MPSM』の表示が赤く点滅している。
デルフが信号を消去、アラート停止。

「ミサイルはネタ切れだが、試作30mmと障害物除去用のレーザー触媒はたんまり残ってる」
「だったら何で、この船のクルー達は死んだんだ?」

その問いに、デルフは換気システムの一部を指した。
次いで緊急防御シャッターの下りた正面の窓を指し、無感動に答えを示す。

「この船の外殻が耐えられない程の高熱に曝されたんだ。システムの構造自体は細部まで保護されていたから無事だったかもしれないが、中の人間は一溜まりも無かっただろうよ。まるで鳥のローストだ」

気負う事も無く恐ろしい事実を指摘し、システムの解析作業に戻るデルフ。
才人はもう一度船内を見回し、微かに身震いした。

異星の技術を用いた外殻装甲を溶かす程の高熱?
それは一体、どれ程の威力を秘めた兵器によるものなのだろう。
少なくとも、既知の兵器とは一線を画すものである事には違い無い。
あのヘリが持つプラズマ砲の様な恐るべき兵器を、スタースクリームとかいうラプターの化け物も備えているのだろうか。

そんな事を思考する才人の傍ら、タバサがデルフへと歩み寄り、声を出さずに何かしら確認を交わした。
彼女が己の耳に手を当てると、デルフは解析の手を止めないままにセンサー出力を最大限に上げ、確認を終えると微かに頷く。
するとタバサが杖を降り、空間は不自然な静寂に包まれた。
ジェネレータの稼動音、点滅する警告灯の微かな音、その全てが消え失せる。
しかし、互いの息遣いだけは確かに耳に届くという、異常な環境。
コモンマジック、『サイレンス』の応用である。
タバサが、静かに宣言した。

「半径2メイル内の音を外部から切り離した。もう大丈夫」

その言葉と同時、4人と1体が一箇所に寄り集まる。
テファが、心配そうに言葉を発した。

「本当に大丈夫なの? 音が消えた事に感付かれないかしら」
「ジェネレータ出力を過剰に引き上げた。雑音でそれどころじゃあない筈だ。おまけにジェネレータのエネルギーは膨大だ。『サイレンス』程度のエネルギー変動なんざ検出出来っこ無ぇ」

答えを返し、続いてデルフは本題を切り出した。

「それで、どう思う」
「信用出来ないわ。出来っこ無い」
「オーク鬼の仕業というのは多分、嘘。殺したのは彼」
「彼は……はっきりとは言えないけれど、ジャズを邪魔に感じてる気がする。何か、嫌な事を企んでる」

3人の少女は、口々にスタースクリームへの不信を口にする。
デルフはその内容が的を射ていると判断、ただひとり沈黙を保っている才人の様子を伺った。

「何か言ったらどうだ、『使い手』」

3対の目が、才人へと向けられる。
全員の視線が集まる中、才人はゆっくりと口を開いた。

「バレる事なんか解ってたんだろ、アイツは。問題はそれを承知の上で、何を企んでんのかって事だ」

其処で才人は微かに視線を動かし、より潜めた声を続ける。

「俺たちが此処で何を話してるか、それだって見通されてるのかもしれない」

その言葉に、デルフは含む様な笑いを漏らす。

「んなこたぁ承知の上だぁね。此処で俺達が決めるべき事は、あの空飛ぶ屑鉄をどう利用して、どう始末するかだ」
「利用出来る様な相手なら良いけどな」

ふん、と鼻を鳴らす才人。
その横から、テファが口を挿んだ。

「彼、砂漠に行きたいと言ってたわ。『地球』に戻る為に、『エルフ』達の持つ技術が必要だって」

テファの言葉に対する反応は様々だった。
ルイズは何を言っているのか、とでも言いたげに眉を顰め、タバサは小さく首を振る。
才人は深刻そうに何事か考え込み、デルフは無言。
奇妙な空気が、場を満たした。

「あんなの嘘っぱちに決まってるじゃない。『エルフ』が地球と同等の科学技術を持ってる? 砂漠で撃ち墜とされそうになった? 巨大な電子的ネットワークを持ってる? 人を馬鹿にするにも程が在るわ」
「常識的に考えて、在り得ない。『エルフ』は『先住魔法』を持ってる。彼等の文明に科学技術の発展が起こるとは思えない」
「でも、ジャズはその話に興味が在るって言ってるわ。話を全て信用してはいないだろうけれど、いずれ調べてみる価値は在るって」

スタースクリームの言葉を頭から否定するルイズ。
冷静に可能性を検討し、その上で在り得ないとの結論を下すタバサ。
しかしテファは、同じメカノイドのジャズが興味を示している事が、それがスタースクリームの目的であるとの根拠になっていると主張する。

「もしかしたら、私達を砂漠に向かわせようとしているんじゃ……」
「そうなったとして、砂漠に何が在るっていうの? あいつが『地球』に戻る為の出入り口が在るとでも? もしそうだとしても、私達が砂漠に向かう必要なんて無いじゃない。勝手に潜って帰れば良いんだから」
「それが不可能だから、俺達に『エルフ』を何とかさせようとしてんだろ」
「幾ら『先住魔法』が強力でも、彼の敵になり得るとは思えない。『エルフ』がそれ以上の力を宿しているとも考えられない。本当に『科学技術』で武装でもしていない限り……」
「それが目的かもな」

突如割り入ったデルフの言葉に、一同は金属特有の光を放つ小柄な体躯へと視線を向けた。
ルイズが、一同を代表して疑問をぶつける。

「『それ』って?」
「『科学技術』だよ。正確に言やぁ『ネットワーク』の事だが」

一旦間を置き、続ける。

「それを乗っ取るつもりかもしれねぇ」
「アンタまで! そんなもの在る訳無いじゃない。此処は『地球』じゃないのよ!」
「だが少なくとも、6000年前には確かに存在したぜ」



その瞬間、場の空気が凍り付く。
驚愕に見開かれる4対の目。
それらを無感動に眺め回し、デルフは次の言葉を待つ。
最初に口を開いたのは、タバサだった。

「どういう、事?」
「6000年前、『地球』と同等の『科学技術』を持つ文明が、このハルケギニアに栄えていたって事だ。だが、ある『事件』でそれが崩壊しちまってな。僅かに残った生産施設と殆どの『科学技術』を、全種族を代表して『エルフ』が管理する事になったんだ」
「『事件』?」

続くルイズの疑問に、デルフは一言、特定の存在を指す単語を口にした。
忌まわしい単語、呪われし存在の名称を。





「『メガトロン』」





『メガトロン』。
『ジェイコブ・トンプソン』の手記にも記されていたその響きに、4人は凍り付く。

『ディセプティコンズ』首領。
コードネーム『アイスマン』。
嘗て『地球』へと堕ち、原生生物によって解析されし鋼鉄の巨人。

そしてタバサが、ある事に気付いた。

「『火竜の息吹』……」
「何だ?」

その呟きを聴き留めた才人が、訝しげに訊き返す。

「あのランチャーがどうしたって?」
「オールド・オスマンの命の恩人。確か、アメリカの軍人。彼も『アイスマン』と言っていた筈」

デルフが頷き、更に言葉を付け加える。

「こうも言っていたな。『ラプターの編隊に敵が紛れ込んでいる』、と」

今度こそ、全員が口を噤む。
膨らむ疑念。
それはスタースクリームに対してのものであり、『メガトロン』に対するものであり、それらを記憶するデルフに対するものでもあった。
そしてルイズは躊躇う事無く、その疑問を口にする。

「デルフ、アンタは何者なの?」
「……」

答えは無い。
それに構わず、ルイズは更に続ける。

「『虚無』の事といい、その『メガトロン』の事といい。ただ自立行動が可能になっただけのインテリジェンスソードには在り得ない知識を持ってる。でも、ブラックアウトは、この世界に関する事を殆ど知らない。
アンタは、初めからその知識を持っていた事になる」

そうして、ルイズは研ぎ澄まされた視線をデルフへと向ける。
その目は、一切の偽りを許さないと雄弁に語っていた。

「答えなさい、『デルフリンガー』」

誰もが息を呑み、デルフの答えを待つ。
四肢持つインテリジェンスソードは沈黙を保っていたが、やがて無造作に音声を発した。



「『神の左手』『ガンダールヴ』。勇猛果敢な『神の盾』。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる」



唐突に発せられた、歌詞の一節。
テファが語った、『始祖のオルゴール』から聴こえてきたと言う歌、その一部だった。
やがて、4人はその意味を悟ったのか、心底からの驚愕に目を瞠る。
その様を愉快そうに眺め、デルフは芝居掛かった動作で一礼。
そしてこれまた愉快そうに、笑いすら含んだ音声を発する。





「申し遅れました。『ガンダールヴの左腕』、『先住魔法』と『科学』の融合によって生まれし至高の一振り、『デルフリンガー』と申します。以後、お見知りおきを」





唖然とする4人の目前、メカノイドは片側3つの視覚装置から光を消し、すぐさま再点灯する。
それが彼なりのウィンクだと4人が理解した所で、更に砕けた言葉が続いた。



「……ってなトコかな?」





「船の音声識別機能と言語基体を弄っておいた。オメーら7人なら誰の声にでも反応する。命令内容の差分は、ある程度ならAIが処理するから心配すんな。これだけ覚えとけよ。さあ行け」

その言葉を聞きつつ疲れた様に船外へと向かう3人を見送り、デルフは傍らに立つルイズへと語り掛ける。

「済まなかったな、ルイズ。もっと早く言っておくべきだった」

その言葉にルイズは肩を竦め、溜息を吐く。
悪戯を咎められた子供の、反省の言葉に苦笑いを零す母親の様に。

「でも、ちゃんと言ってくれたしね。私だけが最初じゃないってのは、ちょっと面白くないけど」

そしてルイズは、小さな出入り口から覗く外部の光景―――――離れ行く才人とテファ、『サイレント』保持の為に待機するタバサの背、村の外れでスタースクリームと偽りの談笑をするキュルケとギーシュ、シエスタとジャズの姿を見遣る。

「ねえ、デルフ」
「あん?」

そして、其方へと視線を向けたまま、今度はルイズから語り掛ける。

「何時か―――――話すべき時が来たら……『話しても良い』って思えたら―――――聞かせて頂戴。6000年前に、何が在ったのか」

軽く息を吸い、続ける。

「私が……私達が、それに相応しい力を持ったなら。『メガトロン』なんか敵じゃないって思える様になったら、ね」

その言葉に、デルフの思考が一瞬、ほんの一瞬だが停止した。
数秒後、彼は無言で変形、その場へと転がる。



―――――気付かれていた。
自身にとって、6000年前の事件を思い出す事が苦痛である事に。
『メガトロン』の名を口に出す程度の事でさえ、無限の恐怖を伴っている事に。
この少女は自身が思うより遥かに、此方の事を理解していた―――――



何時だったか、彼女を名前で呼び始めた事に気付かれた時の様な―――――否、それ以上の気恥ずかしさに襲われ、デルフは沈黙を保つ事以外の策を見出す事が出来なかった。
それを見る横の少女が可愛らしい忍び笑いを漏らしている事に気付きつつも、デルフはそれに抗議する言葉を持たない。

しかし、ただひとつ―――――



「ルイズ」



打って変わって真剣な声色に、ルイズは改めてデルフを見詰める。
彼女にとって最強の護衛であり、最高の導き手でもある存在は、仮初めの姿を保ったまま、不吉な警告を発した。





「相棒の前で『メガトロン』の名を口にするな。決して。決してだ」





夕日に照らされ、茜色に燃え上がるタルブの草原。
遠方より響く重々しいローター音と共に、『宝探し』は終わりを告げた。



新着情報

取得中です。