あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

罪深い使い魔-12

俺達の間には主従の契約しかない。つまり友人でも仲間でもない、赤の他人だ。
少なくともルイズはそう考えていると思っていた。何せ俺は所謂『ハズレ』の使い魔だ。
当然、向こうは俺の存在を快くは思っていないだろう……そう思っていた。
なのに、ルイズは俺がゴーレムにやられたことを怒り、悲しみ、シエスタの言葉によれば医務室で看病までしてくれたらしい。
信じられなかった。今でも信じられない。少しは良いところもあると思ってはいたが、まさかそんな一面まであるなんて……
けれど、それを素直に喜ぶことはできない。
ルイズの良い面を知れば知るほど、それだけこの世界に未練が残る。
ルイズとの別れが、辛くなる。



「タツヤさん、あの……」

達哉とシエスタは今、共に学院の廊下を歩いている。
先ほど達哉に請われて案内した、学院長室から漏れ聞こえた会話はシエスタにも理解できた。
これからフーケを捕縛しに行き、宝を取り戻すということらしい。
達哉の態度が豹変したのは、そうした会話の一部始終を聞いた直後だった。

「まさか、ついて行くつもりじゃありませんよね?」
「…………」

達哉は何も答えない。ただ足早に廊下を歩き続けるだけだった。
怪我は大したことないのか、足取りはしっかりとしているが、その表情は沈んでいる。
そんな達哉を見ていると、どうしても悪い予感が拭えない。
シエスタは感極まって叫んだ。

「無茶です! 今度こそ本当に殺されちゃいます! 所詮平民はメイジ相手に勝てないんです!」
「……心配してくれるのはありがたいが、これだけは譲れないんだ。済まない」

達哉はさらに問い詰めようとするシエスタを強引に振り切り、学院内を駆けだした。
悪いとは思ったが、これ以上話しかけられてはたまらなかった。
頭が痛い。なぜかその原因が、覚えてすらいない先ほどの夢だと感じる。
一体どんな内容の夢だったのか。とても大事なことのような気がするのだが。

「……考えても仕方がないか」

実際、今は夢のことなどどうでもいい。現実に横たわっている悪夢の方がはるかに問題だ。
もし予想通り、あの場に『ジョーカー』がいたのなら、その時は……

「その時は……俺が『特異点』になってしまったということになる」

達哉の顔が歪む。それは、最悪の可能性である。
もしそれが現実になっていたとするなら、『あの日ルイズが言った解決法』も本気で考えなければならない。
達哉は腹の底でその覚悟を固めつつ、たどり着いた一室のドアに手をかけた。
鍵はかかっていない。不用心なのか、よほど慌てていたのか。
短い付き合いだがおそらく後者だと考えながら、達哉はその部屋――ルイズの部屋に侵入した。

「よう、相棒。なんだか死人みてーな顔してるぜ。大丈夫か?」
「ああ……」

医務室になかったのだから、ここに運ばれたのだろう。達哉の考えが当たる。
部屋の床には、乱暴に鞘に突っ込まれたデルフリンガーが無造作に転がされていた。
しっかりと鞘に収まっていないため、デルフリンガーも口がきけるようだ。

「昨日は、情けない姿を晒したな」
「何、生きてりゃ上等さ」

デルフリンガーはカタカタと身を震わせて笑う。
達哉は自嘲気味な笑みを浮かべながら、デルフリンガーを背に回した。

「お、どうした? 昨日の仕返しに行くのか?」
「まあ、そんなところだ」
「そうかい。で、俺を持って行くってことは、ちゃんと俺『も』使うつもりなんだな?」
「……あれは、ルイズにはまだ黙っていてくれ。俺が自分で打ち明ける」
「隠し事はやめにするのか?」
「ああ……」

これが最後の機会になるかもしれないからな。
その言葉はすんでの所で飲み込んだ。



昨夜のメイジ――フーケの元へは馬車で行くらしい。
達哉が学院の門に向かうと、そこには既に馬車が用意されていた。
馬は二頭。荷車は貴族を乗せることを前提に作られているらしく、それなりの椅子が備えつけられていた。
しかしほろはない。これでは雨風を凌げないが、ゴーレムに襲われた時のことを考えればこの方がいいだろう。すぐに脱出できる。

馬車の元には三人の人物が集まっていた。
ルイズがやたらと毛嫌いしていた、キュルケというメイジ。そして――なんとなく見覚えのある青髪の子供。
さらにまったく記憶にない妙齢の女性。
それらのメンバーを見て、達哉は首をかしげた。

……ルイズがいない?

達哉が盗み聞きした内容では、ルイズは真っ先に捜索隊に志願し、受諾されたはずだった。
それがなぜいないのか。

「もう歩いても平気なの?」

達哉に気がついたキュルケが声をかける。

「こんなところに何の用……って、もしかしてもう知ってるのかしら? 私達が何をしに行くのか」

キュルケの視線が達哉の背――デルフリンガーに注がれる。

「……ああ」
「あらあら、どこで情報が漏れちゃったのかしら。それで今は主人の元へと駆けつけたってわけ? だとしたら入れ違いになっちゃったわね」
「どういうことだ?」
「ルイズならさっき――」
「タツヤーッ!!」
「――貴方の様子を見に、医務室へ行ったところだったから」

達哉が振り返ると、そこには鬼の形相でこちらへと駆けてくるルイズの姿があった。
マズイ。
このパターンだとまた脛を蹴られるか、とすぐに身構えた達哉だったが、
ルイズは達哉の予想を裏切り、思いがけない行動に出た。

「何いなくなってるのよ、バカァ!! 目が覚めたんなら、そう言いなさいよ……!」

達哉の側まで駆け寄ったルイズは、そこでへにゃっと顔を歪ませて、抱きつくようにして達哉にしがみついた。
達哉の胸に顔を埋め、震えるルイズ。その姿を見て、先ほど盗み聞きしたルイズの言葉を思い出した達哉は狼狽する。

「おい、ルイズ……!」
「大体、なんでこんなところにいるのよ! まだ寝てなきゃダメでしょ!?」
「あなたに会いにきたんですってよ、ルイズ」
「……へ?」

キュルケが意味ありげな口調で言う。
ルイズはがばっと、達哉の胸元から顔を上げてキュルケを見、そして周囲を見回した。
そこでようやく、この場にいるのが自分達だけではないことを思い出したルイズは、
顔を真っ赤に染めて、達哉を突き飛ばすようにして離れた。
さらに腰に手を当てるお決まりのポーズをとってそっぽを向く。

「……そ、そう。あんたにしては殊勝な態度ね。でも、もういいわ。今日はあんたに休暇を与えるから、
すぐに医務室に戻ってなさい。はい、行ってよし」
「…………」

しっしっ、と手で追い払うジェスチャーをするルイズ。もの凄い変わり身だった。
しかし、そんなルイズの本音がいかなるものなのかは、達哉の胸元にしっかりと残されている。
そこには、真新しい二つの染みができていた。

「……ルイズ」

こんな状況になってしまうと、非常に切り出しにくい。それでも達哉はなんとか口を開いた。

「いや……俺も連れて行ってほしい。今日はそれを言いに来た」
「べ、別にあんたの敵討ちじゃないのよ。ただ貴族の名誉を守るために……は?」
「フーケを捕まえに行くんだろ? 俺にも手伝わせてくれ」
「…………」

ぽかん、と口を開けるルイズ。しかしすぐに我に返ると達哉を睨み、大きく息を吸いこんだ。
ああ、やっぱり。達哉は次に訪れるであろう衝撃に備える。
そして――

「ダメに決まってるでしょ! あんた昨日何されたか忘れちゃったの!?
ゴーレムに殴られて、記憶が吹っ飛んだんじゃないでしょうね!?」
「――――ッ!」

比喩なしに、空気が激しく振動した。その大音量をなんとか受け流し、達哉はさらに言葉を重ねる。

「……いや、記憶はある。昨夜は不覚を取ったが、もう油断はしない」
「ダメよダメ! 平民なんて連れて行っても足手まといよ!」
「俺はどうしてもフーケに会わなければいけないんだ。頼む」
「絶対ダメ! ダメったらだーめ!!」

ルイズの怒声は凄まじい。耳がおかしくなりそうだった。
そして、やはり手強い。達哉は必死で考えを巡らせ、説得に用いるべき言葉を捻り出そうとする。

「待ちなさい、ルイズ」

と、ここで声がかかる。
声の主は、先ほどから二人のやり取りをニヤニヤと眺めていたキュルケだった。
キュルケは達哉とルイズの間に割って入り、達哉のことを値踏みするような目で見据える。
その美貌で見つめられるだけで、並の男は正常でいられなくなってしまうのだが、達哉は眉一つ動かさない。
キュルケに正面から向き合う。

「……貴方、名前なんて言ったかしら?」
「達哉だ」

やはりというか、キュルケは自分の名前を覚えていなかった。

「そう……ねぇタツヤ。私達、これから行楽に行こうって言ってるわけじゃないのだけれど、それはわかってる?」
「もちろんだ」
「今日は狩りに行くのよ。獲物は昨夜、貴方をギタギタにのした『土くれ』のフーケ。
正直に言って、貴方のお守りをする余裕はございませんの」

はっきりとした戦力外通告。しかしゴーレム相手に見せた失態を思えばこれも当然だろう。
達哉は淡々とした口調で切り返した。

「邪魔をするつもりはない。俺が足手まといになった時は、いつでも切り捨ててくれ」
「な……!」

ルイズが何事か言いかけるが、キュルケがそれを遮る。
そして急に真顔になると、声を低くして言った。

「もし邪魔になるようだったら、本当に見捨てるわよ」
「ああ」
「ふーん……」

キュルケは顔を近づけて、じっと達哉の目を見つめる。口元には笑みが浮かんだが、目は真剣そのものだった。
しかしその目元もすぐに緩む。

「そう、わかったわ。なら一緒に来なさい」
「キュルケ!」

ルイズの非難めいた声に、やれやれと肩をすくめて見せるキュルケ。

「だってタツヤったら、貴方並に頑固なんですもの。これじゃ言っても無駄よ。
それに聞いた話だと彼、一人でゴーレムと戦って片腕を切り落としたらしいじゃない」

あれは切り落としたんじゃなくて、フーケが自分でやったんだが。
そう思いつつも、あえて訂正する必要はないので、達哉はつっこまない。むしろ勘違いされていた方が好都合だ。

「見たところ怪我も問題ないみたいだし、少しは役に立ちそうだと思わない?」
「思わない! 全然おーもーわーなーいー!」

両腕をぶんぶんと振り回して、全力で否定するルイズ。

「それに、平民がいたらみんな迷惑でしょ!?」
「どうかしら。ねぇ、タバサはどう? 反対?」

キュルケはここまで一言も口を挟まなかったタバサの方を見る。
最初から我関せずの態度を貫いていたタバサは、ここでようやく言葉を発した。

「好きにすればいい」
「ミス・ロングビルは?」
「賛成ですわ。馬車にはまだ余裕がありますし、男手があれば何かと便利ですもの」

これらの返答に、キュルケはにっこりと笑う。

「3対1よ。これでもまだごねるの、ルイズ?」
「うー……」

ルイズはしばしの間、その場にいる全員を睨みつけていたが、やがてフンと鼻を鳴らすと一人で馬車に乗り込んでしまった。
そして達哉を見下ろす。

「もう勝手にしなさい! ゴーレムに踏み潰されたって、責任取らないんだからね!!」

不謹慎だと思いつつも、達哉は苦笑を堪えきれなかった。



達哉を加え、人数を五人に増やした捜索隊は、その後すぐに学院から出発した。
学院を出た馬車は現在、整備されたなだらかな道の上を移動している。
天気は晴れ。周りは丈の低い草原で、日が高いこともあり危険はほとんどない。
そのためか、一行の間にはどことなくのんびりとした空気が流れていた。

「ミス・ロングビル……手綱なんて、付き人にやらせればよかったのに」

自ら御者を買って出、今は一人馬を操っているロングビルにキュルケが声をかける。
ロングビルは軽く首を振った。

「いいのです。私は、貴族の名をなくした者ですから」
「え? だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ、でも、オスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方です」
「差しつかえなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」

興味津々、といった様子のキュルケに対するロングビルの返答は、微笑だった。
キュルケはさらに詰め寄る。

「いいじゃないの。教えてくださいな」
「よしなさいよ」

それを、見かねたルイズがたしなめる。

「昔のことを根掘り葉掘り聞くなんて、慎み深いトリステイン貴族の間じゃ不作法よ」
「あいにく、私はゲルマニアの人間よ」

キュルケが髪をかき上げる。二人の間に火花が散った。

「トリステインにいる間はトリステインのルールに従いなさい」
「ただ暇だからおしゃべりしようと思っただけじゃないの」
「暇なら見張りでもしていたら?」
「そんな端役はトリステイン貴族の淑女の方がお似合いよ……ねぇタツヤ?」

キュルケは、珍しげに周りの景色を眺めていた達哉に目を向ける。新たな会話相手にするつもりのようだ。
「私の使い魔に話しかけないで!」という誰かの声は、当然のように無視された。

「『風車の鎧』なんて盗んで、フーケはどうするつもりなのかしらね?」
「風車の……鎧?」

達哉が怪訝な表情を浮かべる。
キュルケは得心した。

「ああ、貴方は知らなかったのね。『風車の鎧』というのは、学院の宝物庫から盗まれたお宝の名前よ。
『そのまんま』な姿なんだけどあれ、はっきり言って鎧としては三流なのよね。
ミス・ロングビルはご覧になったことがございまして?」

これにはロングビルも答えた。

「いえ……ただ、とても変わった形をしている、という話は聞いたことがあります」
「そうなのよ。変わった形。風車もなんの役に立つのかわからないし、あんな鎧に価値なんてあるのかしら?」
「その、『風車の鎧』というやつは……」

なぜか、落ち着かない様子の達哉が口を開く。

「もしかして、『槍』を持っていないか?」
「さあ、どうだったかしら?」
「鎧には『風車』、両手には『杖』と『槍』が握られている。というのが私の聞いた情報です」

ロングビルの証言が達哉の予想を裏付けた。
これによりルイズとキュルケが色めき立つ。

「なんであんたがそんなこと知ってるのよ!?」
「え? もしかしてタツヤ、『風車の鎧』が何か知ってるの!?」

二人が身を乗り出す。ロングビルも興味があるのか、こちらに耳を傾けているのが伺えたが、
達哉はあっさりと答えを返した。

「いや……昨夜フーケが槍を持っている姿を見たから、それを言っただけだ。
風車の鎧とやらについては、実際に見てみないとわからないな」
「あら、そうなの」
「なによ、ビックリさせないでよね」

途端にテンションの下がる二人。それでなし崩し的に会話は途切れた。
一方で達哉は、思わぬところから出てきた情報に心がざわめくのを感じる。
どうなってる?
『槍』は『やつ』が渡した物じゃなかったのか?
一人動揺する達哉を余所に、馬車は順調に目的地へと進んでいった。

やがて、馬車はフーケが潜むという森の中へと入りこんだ。
深い森だった。太陽の光が遮られ、辺りは薄暗い。おまけに不気味なほど静かで、動物の鳴き声一つしない。
その薄気味悪い様子に、誰ともなく周囲を警戒し始める。

「ここから先は、徒歩で行きましょう」

やがて道が細くなり、馬車が進めなくなった。ロングビルの声に従い、全員が馬車から降りる。
森の中を走る細い道を、躊躇なく進んでいくロングビル。
これだけの森だ。ほんの少し道を間違えただけでも遭難するだろうというのに、大した度胸だった。
それからおよそ一時間。一体どこまで歩けばいいのかと、誰ともなくそう思い始めた時に森の木々は途切れた。
一行の前に現れる、開けた空間。人の手によって切り開かれた、学院の中庭ほどもある空き地だった。
その中央に、廃屋と思われる小屋がひとつ、ぽつんと建っている。
怪しい。全員が小屋の中から死角となる場所に潜む。

「私の聞いた情報ですと、あの中にフーケと思われる人物が出入りしているらしいのです」

ロングビルが小屋を指差して言う。

「あれがフーケの隠れ家というわけか」
「こんな森の奥まで来る人間、そうそういないもの。たしかに隠れ家にはうってつけよね」
「それよりも、これからどうするのよ?」
「考えがある」

タバサの言葉に、全員が耳を傾けた。

タバサの提示した作戦は、以下のようなものだった。
まず誰かが偵察兼囮として小屋の中に入り、フーケの所在を確かめる。
もし中にフーケがいて、かつ寝ているなどして無防備な状態であったなら、そのまま捕縛。
起きていて、侵入に気づかれたら外に逃げる。
小屋の中には土がないため、フーケは侵入者を始末するゴーレムを作るため、必ず外に出る。
フーケが外に出たら、ゴーレムを作られる前に全員で袋叩きにして倒すというのだ。

「もし中にフーケがいなかったらどうする?」

達哉は真っ先に生じた疑問を投げかける。
その場合、フーケは物陰から小屋を監視しているかもしれない。のこのこと現れた追跡者を片付けるために。

「なら、私が偵察に行きましょう。いざ戦いとなれば、私の出る幕はありませんし」

そう言ってロングビルが立ち上がる。

「一人で行くのは危険じゃないですか?」
「私もドットとは言えメイジ。見つかっても逃げるくらいのことはやってみせます」

身を案じるキュルケに、ロングビルは妙に自信ありげな笑みを残してその場を去った。

「案内だけでなく偵察まで引き受けるなんてね、随分な働き者だこと。……それじゃ、囮は誰がやる?」
「…………」

キュルケの言葉に達哉がすっくと立ち上がり、背中に差していたデルフリンガーを抜き放つ。

「タツヤ!」
「他に適任者がいない」

ルイズの非難めいた声に、達哉はそう答える。
これには誰も反論しなかった。

「ようやく出番みたいだな」
「静かにしろ」
「へいへい……」

早速しゃべり出すデルフリンガーを黙らせ、達哉は音を立てずに小屋の側まで移動する。
そして窓から中を覗きこもうとするが、窓が曇っていてはっきりと見えない。
ただ、人の気配は感じられなかった。

「行くのか?」
「ここでもたついてる暇はない」

意を決した達哉は、小屋の正面に回り込んでゆっくりとドアを開けた。
ギギギ、とドアが軋む。もし中に誰かがいれば、この音で気づくだろう。
慎重に小屋の中へと足を踏み入れる。

小屋は外見もボロだが、中はそれに輪をかけて酷かった。机や棚などの家具は埃で真っ白になっており、
そこかしこに蜘蛛の巣がこびりついている。
ただ足下を見ると、そこには自分のものではない足跡がいくつも残っていた。
フーケかどうかはわからないが、少なくともここ最近何者かが出入りしていたのは事実のようだ。

「なんだ、誰もいねえな」
「…………」

しかしざっと小屋の中を見回しても、デルフリンガーの言うとおり人の姿は見られない。
もう逃げてしまったのかもしれない。そう考えた時、部屋の一つで『それ』を発見する。
達哉は言葉に詰まった。

「なんだこりゃ?」

デルフリンガーは素っ頓狂な声を上げる。

「もしかしてこいつが、馬車で話してた『風車の鎧』か? 見ろよ、背中に風車みてーな羽がくっついてるぜ」
「…………」

予想はしていたが、やはり『風車の鎧』はかつて『向こう側』で目にしたものだった。
ジョーカーらしき『共鳴』に、この『風車の鎧』。偶然とは考えられない。
これで『這い寄る混沌』がこの世界に干渉している可能性がますます高まる。
ただ今は、そのことに対する不安よりも、戸惑いの方が大きい。
この鎧は一体、どのようにしてこの世界に持ち込まれたのか。
キュルケとの会話から察するに、この『風車の鎧』は達哉がこの世界に来るよりも前からこの世界に存在していた。
つまりこの鎧に関しては、達哉とは無関係な要因でこの場にあることになる。
その意味するところが、達哉にはわからない。あるいは、フーケは何か知っているのだろうか?
達哉は辺りに注意しながら、そっと鎧に手を触れる。

「……ッ!?」

すると、頭の中に様々な情報が飛び込んで来た。
突然のことに、思わず手を引っ込める。

「どうした、相棒?」

その問いに答える前に、外から悲鳴が上がる。
達哉は軽く舌打ちして、小屋の入り口へと駆け戻って行った。

小屋から飛び出すのとほぼ同時に、小屋の屋根部分が丸ごと吹き飛んだ。
達哉が見上げたその先には、昨夜一戦交えた巨大な土の塊がそびえ立っていた。フーケのゴーレムだ。
夜空から青空へと背景を変えたその姿を、今ははっきりと見渡すことが出来る。
全高は約30メートル。完全な人型ではなく、頭が潰れており短足、そして長い腕を持つ。
しかし、昨夜とは違う箇所がひとつだけあった。ゴーレムの肩に人影はない。

……どこかに隠れて操っているのか。

達哉がそう判断したところで、すでに臨戦態勢へと移行していたキュルケとタバサが、それぞれ『火』と『風』の魔法を放った。
キュルケの『火』がゴーレムの胸部を炎で覆い、タバサの『風』は突風となってゴーレムを押し倒そうとする。
しかし火はゴーレムの表面をわずかに焦がすだけに留まり、風はゴーレムを一歩引かせることすらできない。
その圧倒的な巨体が、トライアングルメイジ二人の魔法を完全に無力化していた。

「ファイヤーボール!」

遅れてルイズも魔法を唱えるが、結果はゴーレムの爪先で軽い爆発が起こっただけだった。
お返しとばかりに踏み出されるゴーレムの足を避け、四人は一カ所に集う。

「無理よこんなの!」
「退却」
「いや、まだだ」

即座に不利と判断して、逃げ出そうとする二人を達哉が制する。

「ゴーレムがここにいるなら、フーケもこの近くにいる。隠れて、俺達を見ているはずだ。そちらを叩く」

ゴーレムなど無視して本体のメイジを直接倒せばいい。
昨夜デルフリンガーから聞いた『土』メイジ攻略の常套手段だが、二人はいい顔をしない。
すぐに反論が出る。

「そりゃフーケを直接やれるなら、それに越したことはないけど、向こうだって考えてるはずよ。
簡単に見つかるとは思えないわ」
「フーケを捜す私達を、ゴーレムは見逃さない。ゴーレムの攻撃を躱しながらフーケを見つけるのは、困難」
「でも逃げるなんてできないわ!」

ここで、ルイズが達哉の味方に加わる。考えあってのことではなく、多分に感情的なものだったが。
ともあれこれで意見は真っ二つとなる。なおも言い合おうとする四人の元にゴーレムの拳が落ち、慌てて散開する。
散り際に、達哉が指示を飛ばす。

「また俺が囮になる。あいつの足止めをするから、その間にお前らがフーケを見つけ出してくれ!」
「無理。私達が森を捜索すれば、ゴーレムは貴方を無視する」
「今度も運良く片腕を落とせるとは限らないわよ。仮に落とせても、ゴーレムは止まらないわ」
「いや、必ず止める」

達哉は一瞬だけ顔を曇らせた後、きっとゴーレムを見据えて前へと進み出る。何かを決意かのしたように。
「何やってんの!」とルイズが咎めようとした次の瞬間、達哉の足下から青白い光が沸き上がった。
突然のことにタバサを除く全員が驚く中で、達哉は一同を振り返らずに言う。

「皆、今だけでいい……俺を信じろ!」

この機は逃せない。フーケはなんとしても捕まえる。
しかしフーケを相手に、こいつを隠しながら戦うことなんて不可能だ。
あるいは、この戦いを最後にルイズとは別れることになるかもしれない。
それでも――退くことはできない!
様々な思いを飲み込みながら、達哉ははっきりとした声で叫んだ。

「ペルソナッ!!」


光が爆ぜ、達哉が纏っていた『平民』の仮面が剥がれ落ちる。
その下から現れたのは別の仮面。
光の象徴。生命の父。即ち、『太陽』の化身とも言える仮面だった。

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