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Mr.0の使い魔 第三十一話

 入った部屋は、予想と違って無骨な武器倉庫であった。壁に据え付け
られた木枠や床に置かれた樽の中に、雑多な武器が並んでいる。流麗な
ランスからさびだらけの戦斧まで、まさしく玉石混淆だ。
 はずれかと落胆したクロコダイルは、部屋の奥を見てすぐさま機嫌を
持ち直した。奪われたデルフリンガーと二本の杖が、個別の台座の上に
安置されていたのだ。元々載っていたらしい古めかしい剣が三本、すぐ
傍らの壁に立て掛けてある。
 そのバカ丁寧な台に鎮座する魔法の剣殿は、持ち主の来訪に気づいて
口を開いた。

「ようよう、旦那。随分遅いお迎えじゃねーか」
「やかましい。拾いに来ただけありがたいと思え」

 相変わらずの軽口を鼻で笑い飛ばして、クロコダイルは黒塗りの鞘を
手に取った。特に傷もなく、奪われた時そのままだ。こんな見目の悪い
ボロ剣、普通の海賊なら見向きもせずに放り出しそうなものだが。敵も、
デルフリンガーの特殊性に気づいているのだろうか。あるいは単に中身
まで調べておらず、ボロさ加減を知らないのか。

「旦那、何か失礼な事考えてないかい」
「気のせいだ。それよりてめェの能力、空賊共にばれてねェだろうな」
「心配すんなって。特に魔法もかけられなかったし、連中は俺が話せる事すら気づいてねーよ」
「ならいい」

 鞘のベルトを腰に巻き付けて、なおも喋ろうとするデルフリンガーを
押し込める。静かになった事に満足しながら、クロコダイルはルイズと
ワルドの様子を伺った。

「さて……二人とも、杖はどうだ」
「問題ありません。随分丁寧に扱われたみたいですね」
「ルイズは?」
「大丈夫、戦えるわ」

 杖、メイジともにコンディションは良好。後はこれ以上の面倒が起き
ないうちに、頭の首を奪うだけだ。
 クロコダイルの脳裏に、つい今しがたの嫌な感じが蘇る。

(本当に呪いでもかかってるのか?)

 原因不明の不快感は、この部屋に入ってすぐに治まってはいた。だが、
さっきも一度治まった後にぶり返したのだ。この先不意に再発するとも
限らない。
 適地のど真ん中で無様に立ち往生、という最悪の結末を迎えないため
にも、まず『マリー・ガラント』号の安全を確保し、逃げ場を用意した
上で頭探しをすべきだろう。余裕がなくなりそうなら即座に退却して、
生き残りはフネごと空の藻屑にすれば後腐れもない。

「よし、今度は甲板を制圧して逃げ道を作る。頭はその後だ」
「待ってください。それなら、役割を分担した方が効率的です」
「何だと?」

 ワルドの発言に、クロコダイルは顔を顰めた。
 三人を分散させると、何をどうしても二人と一人という構成になる。
そして、自分達は電伝虫のような相互連絡を取り合う手段を持たない。
甲板制圧と頭の捜索を並行して行うのは確かに効率的だが、仮に甲板に
頭がいて、制圧組がその身柄まで抑えた場合、もう片方にすぐさま連絡
する事は不可能なのだ。誰かを伝令に出すとしても、船内を動き回って
いるのだから居場所の特定すら難しい。
 ところが。

「もう一人増やせばいい。それも、互いに連絡ができる存在を」

 場違いなほどにこやかに、ワルドはとんでもない解決策を持ち出した。


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第三十一話


 トマスら四人を加えて総勢十一名となった頭達は、移動の前に砲甲板
前側の階段を封鎖した。魔法で鉄板を【錬金】し、物理的に塞いだのだ。
足を踏み入れたデニスが敵と遭遇しておらず、しかも後部階段には砂の
足跡が複数残っていたため、三人の貴族達は後ろから逃げたと判断した
のである。
 既に砲甲板は使い物にならないので、一同が上の階に達すると後ろの
階段も【錬金】で塞ぐ。これで、敵が調べ終わった場所に逃げ込む事は
ない。自らのフネを破壊するような行為は少なからず抵抗があったが、
頭達はあえてこの方法をとった。確実に、敵の逃げ場をなくすために。

「これは——」
「あいつら……絶対許さねぇ!」

 階段周辺の船室が荒らされていた事も、決断を後押しした理由の一つ。
特に、無惨なジョンの亡骸と休憩室の惨状は、彼らの怒りに火をつけた。
六人の死を悼む者、敵の事を口汚く罵る者、それぞれがそれぞれの思い
を抱いて、いざ敵を追いかけようとした、まさにその時。
 轟音とともに、フネが大きく揺れた。

「何だ!?」
「まさか、連中の仕業か?」

 音の出所は、フネの前の方だ。この場から移動するとして、目的地に
選びそうな所と言えば。

「まずい、第一保管庫だ!」


 駆けつけた第一保管庫は、扉が破られ、中から黒煙と火の粉が溢れて
いた。相当強力な魔法で扉を破壊したらしく、廊下を挟んだ対面の壁に
まで大穴が空いている。

「クハハハ……やっと来たか」

 保管庫から響く笑い声。杖を構えて中を覗き込んだ頭達は、炎の中で
笑う剣士を見つけ出した。隣に立つ貴族の男と共に、布を纏った小柄な
影を背後に守っている。砂粒が敷き詰められた床には、殺された六人の
死体が横一列に並んでいた。

「よくも、よくもやりやがったな!」
「そう怒鳴るな。そんなに死にたいなら、すぐに仲間の所へ送ってやる」

 トロール鬼のような憤怒の形相で吠え立てるローワンを、剣士の男は
小馬鹿にしつつたしなめる。元々短いローワンの堪忍袋の緒を断ち切る
には、十分な挑発だった。

「【ファイヤー・ボール】!」
「【エア・ハンマー】」

 杖から飛び出した炎の砲弾を、貴族が風の槌で叩き落とす。普通なら
ここで続けざまに無数の魔法が飛び交うのだが、今回は狭い船内である
事が頭達に災いした。他の誰かが追撃の魔法を撃ち込むには、入り口の
広さが足りないのだ。今から壁を破ろうとしても、詠唱に時間がかかり
過ぎて間に合わない。
 敵もそれをわかっていて、あえて逃げ場のないこの部屋を選んだよう
である。互いの魔法が打ち消し合った一拍の合間を縫うように、剣士の
男は再び口を開いた。

「自分のフネの構造ぐらい知っておけよ。敵に利用される前に、な」

 男が無造作に右手を振り上げる。
 剣も抜かずの動作に頭達は疑問を覚えた——が、部屋の入り口に立つ
ローワンは、それどころではなかった。

「な、ぁ」

 左脇から右肩までを一撃のもとに切断され、ローワンの上半身がずる
ずると滑り落ちる。遅れて断面から噴き出す紅い飛沫に、頭達は顔色を
変えた。
 剣士だと思っていたあの男もメイジ、いや、それ以上の怪物だ。杖も
持たず、詠唱もなしに、恐ろしい威力を備えた魔法を放つ。報告の時に
聞いた『悪魔』という単語が、にわかに現実味を帯びてきた。

「さて、こちらの力のほどはわかってもらえたと思うが」

 笑いながら、男は頭にかぎ爪を向ける。

「これ以上死人を出したくなければ、てめェの首を寄越せ」
「何だと?」
「今、欲しいのはてめェの命だけだ。他の連中に用はねェ。
 大人しく捕まるなら殺す手間もかからんし、無用な犠牲も増えんだろう?」
「……本当に、私の首だけで満足するというのか?」

 頭の返答に、一同は息をのんだ。
 対峙する男達も、まさか本当に首を差し出すとは思わなかったようだ。
二人とも驚きに目を見開き、それが決定的な隙となる。

「だが、断る!」

 叫んで、頭は杖を掲げた。宝玉が一際強い輝きを放ったかと思うと、
大気が鋭い刃を形作る。怒りで増幅された【エア・カッター】の呪文は、
迎撃する暇を与えなかった。剣を携えた男の体が、一瞬のうちに正中線
から真っ二つになる。左右の半身が別々に倒れる様を、頭は冷たい瞳で
睨みつけた。

「私は、貴様達のような外道に屈しはしない。
 誇りあるアルビオン王家の名にかけて、悪漢を討ち果たす!」
「王家、だと?」

 いぶかしむ貴族の男を一瞥すると、頭は自分の髭と髪に手をかける。
付け髭をむしり、かつらを脱ぎ捨て、眼帯を取り払った。そうして露に
なった素顔は、野卑な空賊の頭目などではない。

「我が名はウェールズ。アルビオン王国皇太子、ウェールズ・デューダーだ。
 貴様にまだ僅かでも貴族の誇りが残っているなら、名乗りを上げてかかってこい!」


(どうして皇太子がこんな所にいる!?)

 ワルドは傍目にもわかるほど狼狽していた。
 何故、皇太子が空賊のフネに乗り込んでいるのか。何故、空賊の頭目
なのか。何故、この場で自分と対峙しているのか。考えても考えても、
その理由には辿り着けない。
 嫌な汗が頬を伝い、顎を離れてぽたりと落ちる。普通ならば気づきも
しない微かな感触、それでワルドは我に返った。

(違う、こんな事を考えている場合じゃない)

 自分に与えられた任務は、ウェールズの確実な抹殺だ。外様の自分が
『レコン・キスタ』で重用されるため、幹部連中の信用を得るためにも、
失敗は許されない。
 そのためにどうにかしなければならないのは、眼前の標的ではなく、
視界から消えた味方であった。ウェールズを殺す事ができようと、その
事実をルイズが知れば、可愛い妹分とは二度と顔を合わせられなくなる。
そして、自分が愛する女性とも永遠の別離となろう。
 それでは駄目なのだ。自分は死んでも構わない。だが、それは彼女を
救う手段を見つけてからだ。ようやく見つけた希望の光を、こんな所で
見失うわけにはいかなかった。

(逃して、たまるか!)

 怯えたような姿から一転、猛烈な闘気を纏うワルド。
 相対するは、水晶の杖を構え義憤に燃えるウェールズ。


「クク——クハハハハハ!!」

 両者の均衡は、突然の高笑いによって破られた。


(馬鹿な)

 ウェールズは自分の耳を疑った。記憶に新しい声の出所は、対峙する
貴族の背後。次第に色濃くなる煙の奥に、揺らめく人影が見える。

「まさか、空賊の頭がアルビオンの皇太子殿とは」

 果たして、姿を見せたのは剣士の男であった。だが、奴は確かに切り
捨てた筈。ウェールズの視線が、僅かに下を向く。

(死体が、ない!?)

 床に転がっていた躯が、こつ然と消え失せていた。半分ほどが砂中に
埋まった剣が残っているから、幻影だったわけではないようだ。魔法が
直撃した手応えもあった。
 だが、何をどうしたのか、男は平然と佇んでいる。相変わらず、薄ら
寒い嘲笑を浮かべたまま。本当に、悪魔だとでも言うのか。

「これは少し面倒な事になったな。悪いが——」

 呟く男の目が、凍えるような殺気を帯びた。同時に、右手を腰の鞘へ
伸ばす。
 またしてもあの魔法の斬撃が来るかとウェールズは身構え、気づいた。
男の腰にあるのは鞘“だけ”だ。中身は、床。

「皆殺しだ」

 ぞぶり。
 砂とともに宙を舞った抜き身の剣が、寸前で身を退いたウェールズの
肩を引き裂いた。所々欠けた刃は、鈍らのノコギリのように獲物の肉を
削ぎ落とす。ウェールズはたまらず悲鳴を上げた。

「ぐ、ああぁああッ!」
「ウェールズ様!」

 激痛に杖を落としたウェールズを援護しようと、トマスが一歩部屋に
踏み込む。その頭頂を、再度飛んだ剣がスイカのように叩き割った。

「ひっ」

 恐怖で棒立ちになったデニスの胴を貫いて、やっと剣は動きを止める。
 生き残りが何とか魔法を放とうとするも、杖を振るより早く風の刃に
喉笛を切り裂かれた。貴族の男が唱えた【エア・カッター】が、障害と
なる壁を回り込んで獲物だけを切断したのだ。熟練した風のメイジは、
大気の揺らぎから相手の居場所を特定するといわれるが——今の魔法は、
まさにその体現であろう。
 宣言して一分もしないうちに、ウェールズの率いていた部下は全員が
床に倒れていた。言葉通りの皆殺しだ。
 ざっと死体を眺めると、男は呆れたようにため息を零す。

「雁首揃えてこの程度か。これなら、上もすぐに片付きそうだな」
「十二……いや、十三人ですね。三分ほどで終わりますよ」

 ウェールズは激痛に顔を歪めつつも、会話の内容に違和感を覚えた。
口ぶりからして「上」とは甲板の事だろう。しかし、どうして人数まで
知っているのか。それも、まるで現場を直接見ているかの——。

 爆発音。

 頭上から轟いた聞き覚えのある音に、ウェールズの顔が青ざめた。


   ...TO BE CONTINUED

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