あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ベルセルク・ゼロ-05


 ルイズはベッドに腰掛け、パックの話を聞いていた。
 パックからガッツの事情をかいつまんで聞かされたルイズは本日何度目かのため息をついた。
「異世界からきた…ね…とても信じられないけど……」
 先ほどのガッツの剣幕を思い出す。実際あれほどの激情を目の前で見せられては疑うわけにはいかない。
「とても嘘をついている風じゃなかったものね……その、とても怖かったし……」
「必死だったんだよあいつも。普段はあそこまで取り乱すことそんなにないんだよ…そんなに、だけど」
 苦笑いを浮かべるパックの脳裏には出会ったばかりのころのガッツが思い出されていた。
 あの当時のガッツをこのルイズが召喚してしまっていたとしたらどうなっていたか―――想像に難くない。
「不幸中の幸いってやつだね~」
「?」
 たはは、とパックは笑う。
 ルイズはそんなパックをきょとんと見つめていた。
 やがて―――
「よし…!」
 ぱんっ、と膝を掴んでルイズは立ち上がる。そのまま勉強机に腰掛けた。
 さんざん弱音は吐いた。泣くだけ泣いた。
 あとは前に進まなきゃ。
 とりあえず新しい使い魔をどうするか、自分の立場がどうなるかは後回し。
 自分の失敗魔法のせいでガッツに迷惑をかけてしまった。
 ならば、その責任をとらなければならない。
 ひょっとするとそれは償い切れないほどのものかもしれない。
 それでも、逃げ出すことは許されない。
 失敗を見ないことにして放り出すことなど到底許容できない。
 それがルイズの考える貴族の在り方―――これからも貫く、自分の生き方だった。
 どすんっ!
 机の上に「コレ頭叩き割れるんじゃね?」というほどの厚みのある本が置かれた。
 2000ページは優に超えていると思われる。
 それは古今東西、ハルケギニアに存在した、『フライ』を始めとする移動形魔法の種類とその詳細が書かれた、いわゆる『辞典』だった。
 パラリ―――とページをめくる。
 一枚一枚、一言一句逃さず、ルイズはその本を読み続けた。

 二時間後―――
「ぐぅ…むにゅ……すやすや……」
 ルイズは開かれたままの本に突っ伏して寝息を立てていた。
「ルイズ~、寝るならちゃんと布団で眠りなよ~~」
 パックが苦笑しながらルイズの頭をぽんぽんと叩く。
 完全に寝ぼけたまま、それでも何とか目をあけたルイズは椅子から立ち上がると、もそもそと服を脱ぎ始めた。
「わわわぁ~~!! ルイズ、ちょ、ちょっと待った! なななにしてんのッ!?」
「む~? なぁにってぇ~、きがえてるにきまってるでしょ~~? せいふくぅ~しわになったらぁ……むにゃ」
「はわわわわ」
 ルイズの手が下着に伸びる。緩慢な動作でそれも脱ぎ捨てると、ルイズはネグリジェを頭からかぶり始めた。
 無論、その間ルイズは丸出しである。
 エルフが人間に欲情するかは定かでは無いが―――少なくともパックはガン見だった。
 ルイズはネグリジェに着替えるとぼさっ!とベッドに飛び込む。
「むぅ~~…ん……すぅ~すぅ~」
 そのまますぐに寝息を立て始めた。
 パックはルイズの顔を覗き込み、眠りにつくのを見届けてから部屋を出ようとした。
 むんず。
「ほえ?」
 ルイズの手が飛び去ろうとしたパックを握り締める。
「んむぅ…むにゃむにゃ、ちいねえさまのつくったまろんけーきおいしい」
 そのままパックはルイズの口の中にinした。
「のおおおお!! オレの体からは栗の匂いでも出てるとですかーーーー!?」
 はぐはぐと頭頂部をルイズに咀嚼されながら、パックは心の叫びを上げた。

 ―――夜が明ける。
 あまりにも異様だった双月はその姿を潜め、太陽がトリステインを照らし始める。
 その輝きだけは自分が見慣れたものとそう変わらないように思えた。
 ガッツは剣を抱き、壁に背を預けて座ったまま首筋を指でなぞる。
 なぞった指を確認するが―――やはり一滴の血もついてはいない。
 いつもの世界では考えられないほど穏やかな夜に、しかしガッツは背筋が凍る思いだった。
 いくら悪霊が現れず、穏やかな夜だったとはいえ、ガッツが眠りにつくことはない。
 神経が高ぶっていて寝付けるようなものではなかったということもあるが―――根本的に、ガッツはもはや夜に眠ることは出来ない。
 安全だとわかっていてもどうしても落ち着かないのだ。
 これから先も、夜に穏やかに眠れることはおそらくないだろう。
 まあこの世界に召喚された際、随分と長い間気絶していたことが幸いして、わりと頭はシャンとしているようではあった。
 太陽が覗くまで長い間自問自答を繰り返していた甲斐があって、沸騰した頭は幾分落ち着いてくれたらしい。
 ガッツはこれからの自分の行動を決めることにした。
(ルイズとかいうガキはあてにしちゃいらんねえ…やはり、自分の足で探すか)
 まだここが本当に異世界だと確定したわけではない。
 その辺のこともじっくり調べてみる必要がある。
 とすると、やはり町に向かう必要があるだろうか?
 そんなことを考えていると――――

 ぐう。

 お腹がなった。
 そういえば最後に飯を食べてもうそろそろ丸一日経つ。
「まずは腹ごしらえか……」
 さて、どこに行けば飯にありつけるのか。
 まあとりあえず適当に建物内を散策してみるか―――とガッツが腰を上げると一人の少女が目に入った。
 清楚な黒髪をカチューシャで纏めた女の子が、大量の洗濯物を抱えて歩いていた。
 その服装には少し見覚えがある。確か、貴族に仕える侍女が似たようなものを着ていたはずだ。
(この学院に居る者は―――)
 ルイズの言葉を思い出した。
 この学院の生徒とやらは全員が貴族。
 つまり、なるほど、あの少女はおそらくここで侍女として雇われているのだ。
 であるならば、彼女に聞けば飯の在り処もわかろうというものである。
 ガッツは立ち上がり、少女のもとへと歩み寄った。
「おい」
「はい? きゃあ!」
 少女はガッツの声に振り向いた拍子にバランスを崩し、抱えていた洗濯物を盛大にぶちまけてしまった。
「…悪い」
「いえ、私の不注意ですから…あら、あなたは学院の生徒じゃないですよね?」
 当たり前だ。見たらわかる。
 身の丈を超える大剣を担ぎ、黒尽くめの甲冑に身を包み、極めつけに左手は鉄の義手(大砲オプション付)だ。
 そんな生徒はどこの学校を探したって存在しない。

「あなた、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」
 ミス・ヴァリエール?
 ガッツはしばらく考えてから「あぁ、あの桃髪のことか」と思い当たった。
「ずいぶんと広まってるんだな」
「ええ、ミス・ヴァリエールは平民を召喚してしまったってすっかり噂になってます」
 まあそれはどうでもいい。噂したけりゃすればいい。それよりも。
 ガッツは少し気になったことを聞いてみた。
「あんたも魔法使いなのか?」
「いえ、私はあなたと同じ平民です。貴族の方々をお世話するためにここで奉公させていただいてるんです」
 明らかに自分を貴族より下の位置に定めている者の口ぶりだ。
 貴族がいる前ならまだしも、周りには同じ平民だと認識しているガッツしかいないのに、ここまでへりくだったしゃべり方をするとは。
 どうやらこの娘は心の底から貴族を自分より上位の存在だと考えているらしい。
(こら仕込みがいいわ)
 そんなことを考えながらガッツは少女が落とした洗濯物をひょいひょいと集め始めた。
「あ、ありがとうございます」
 ガッツの行動が意外だったのか、少女は少し驚きながら礼を述べた。
「どこまで運べばいいんだ?」
「そ、そんな! 大丈夫ですよ! ミス・ヴァリエールの使い魔の方にそこまでしていただくわけにはいきません!!」
 少女はガッツが集めた分の洗濯物を受け取ろうとするが、そうすると持ちきれない分がまた落ちるのは目に見えている。
「気にすんな。俺もあんたに頼みたいことがあるからな」
「う…それじゃあお願いします。あそこの井戸の方まで運んでもらえますか」
「あいよ」
 少女が指差した方向に二人肩を並べて歩き出す。
 少女は隣を歩くガッツを少し不思議そうに見上げてから、
「あの、お名前はなんておっしゃるんですか?」
「ガッツだ」
「ガッツさん……私は、シエスタっていいます。どうぞよろしく」
 シエスタはそう言ってガッツを見上げたまま微笑み―――
 こけた。

「ガッツさん黒髪ですよね。私と同じです」
「ん…まあ、そうだな」
 ガッツはシエスタの洗濯を手伝っていた。
 シエスタが桶で洗い上げた物をガッツが木の枝同士に張られたロープに干していく。
 ガッツがシエスタに飯を食うにはどこに行けばいい、と尋ねたところ、シエスタの厚意によりいつも厨房で出ているという賄い食を出してもらえることになった。
 洗濯が終わった後に連れて行ってもらえることになったのだが―――ただ突っ立って待っているのも手持ち無沙汰なので、ガッツから手伝いを申し出たのである。
 じゃぶじゃぶと洗濯板を使って洗濯を進めるシエスタの言葉に、ガッツは自分の前髪を少し指でいじった。
 右側の前髪だけ白い。狂戦士の甲冑を身に纏った反動だ。
 ちょびっと白い剣士。
 ほぼ黒い剣士。
 パックとイシドロに叩かれた軽口を思い出す。
 まあしかし、黒髪と言って問題はなかろう。故にガッツは曖昧に頷いた。
「トリステインでは黒髪って珍しいんですよ? 私、家族以外で黒髪の方に会ったのは初めてです。ガッツさん、出身はどちらなんですか?」
「言ったってわかんねえだろうし、本当のところは俺もわからねえさ」
 実際ガッツは自分の生まれを知らない。
 昔、かつて自分の親代わりをしてくれた男は、自分のことを『死体の股から生まれた呪われた子』と言った。
 自分の出自について知っているのはそれだけだ。
 あるいはミッドランドと答えてもよかったかも知れないが、シエスタにはわからなかったろう。
 ガッツの答えに「なんですか、それ」とシエスタは笑った。


 洗濯を終え、シエスタに連れられた厨房で、ガッツは賄いのスープを口にしていた。
 ここでもガッツは驚くことになる。
 ―――スープが、うまい。
 狂戦士の甲冑の反動によって失われていたはずの味覚が戻っていた。
(つくづく魔法ってのは…すげえもんだな)
 もしかすると死者を甦らせる魔法なんてのもあるのかもしれない。
 そんなことを考えているとコック長のマルトーがガッツに話しかけてきた。
「よう、兄ちゃん! くそったれな貴族に召喚されちまったんだって!? 難儀なことだなあ! おめえの気持ちはよ~くわかるよ! 貴族たちに使った食材の余り物だってのが癪にさわるが、今日は好きなだけ食ってくれ!!」
 陽気にがははと笑いかけてくる。
 マルトー自身もがっしりとした体躯をしているためか、ガッツに対して恐れというものは抱いていないようだった。
「ところでよ~…お前さんのそれ…剣かい?」
 マルトーがガッツの傍らで壁に立てかけられたドラゴンころしを指差した。
「ちょっと持たせてくれよ」
 言いながらマルトーはドラゴンころしの柄に手をかける。
「ふんッ!! ……んぅううあ!! 無理ッ!! 剣っていうかただの鉄板じゃねえか!! こんなもん振ったら肩がぶっ壊れちまうぜ!! 兄ちゃんコレ本当に振れんのかい?」
「……ああ」
「ホントかよッ!! そりゃあすげえや! な、振って見せてくれよ!!」
 ……ここでか?
 ガッツは若干呆れながら厨房を見回した。
 広い厨房だとは思うが―――こんなところでドラゴンころしを振り回したらえらいことになる。
「なんだよ! やっぱりこりゃ虚仮脅しなのかい!? 兄ちゃん、見栄を張るのはいいが武器はちゃんと自分になじむものを使いな! その辺は剣士も料理人も一緒だぜ!!」
 否定するのも面倒なので、ガッツは適当に流して黙々とスープを口に運び続けた。
「ガッツさん、どうぞゆっくりしていって下さいね」
 貴族に出す分なのだろうデザートをトレイに乗せて、シエスタはガッツの前を通り過ぎ、生徒用の食堂だという部屋に入っていった。
 軽く手を上げてそれに応えてから、ガッツはスープを平らげる。
 マルトーに礼を言って厨房から出ようとドアに手をかけた時―――

 食堂の方が騒がしいことに気がついた。



 食堂ではシエスタが金髪の少年に頭を下げていた。平伏し、頭を地面にこすり付けるほどに。
 そのシエスタを、薔薇を片手に見下ろす金髪の少年の顔はなぜかワインまみれだった。
「君のおかげで二人のレディーの名誉が傷付いてしまったよ。どうしてくれるんだい?」
「申し訳ございません、申し訳ございません…!」
「申し訳ないですんだら銃士隊はいらないんだよ! 僕はどうするのかと聞いているんだ平民!!」
「ひっ…! ごめんなさい…! ごめんなさい……!!」
 金髪の少年は別に償いを求めているわけではない。
 こうやってシエスタを追い詰めることでストレスを発散しているだけだ。
「なにあいつ、かんじわる~~。今の悪いの完全にあいつじゃん!」
「ギーシュのやつ…朝っぱらから見苦しい真似してるわね…」
 そんな二人の様子をルイズとパックは苦々しげに眺めていた。
 事の顛末はこうである。
 デザートを配膳していたシエスタは金髪の少年・ギーシュが香水のビンを落としたことに気がついた。
 元々奉仕精神の強い彼女である。当然それを見過ごすことは出来ず、ビンを拾い上げるとギーシュに差し出した。
 しかしギーシュはそのビンを受け取ろうとはしなかった。その真意を彼女に汲み取れというのは酷な話だ。
 結局その香水がきっかけで彼の二股が明るみになり、彼は二股をかけていた少女二人から見事な制裁を受けた。
 ギーシュはその責任をこともあろうかシエスタに押し付けたのである。
「まったく、これは教育が必要なようだね……」
「お許しください…お許しください…!」
 シエスタは目に涙を浮かべている。
 ギーシュはそんなことお構いなしとばかりに彼が魔法の杖として使用している薔薇の花を高々と掲げた。
 ひい…!とシエスタは頭を抱えて蹲る。
 ギーシュはそれを見て大変ご満悦な様子だった。
「もう許さん! この怪傑スパックが制裁を与えてくれる!!」
「こら! 面倒なことに首突っ込まないの!!」
 どこからか毬栗を取り出し突貫しようとするパックをルイズは捕まえる。
 ちょうどその時だった。

 ギーシュは床に大きな影が差していることに気がついた。
 何事かと後ろを振り向き―――
「うわあ!」
 いつのまにか現れていた巨躯の男に、驚きの声をあげた。
 驚いたのはギーシュだけではない。
「ガッツ!?」
「あいつあんなとこでなにしてんの!?」
「ガッツさん……!?」
 ルイズも、パックも、シエスタも思いがけない乱入者に思わず声をあげていた。
 ギーシュはその男がルイズの召喚した平民だということに遅まきながら気がついた。
「何のつもりだ…平民。貴族である僕を見下ろすなどと随分と不遜な態度じゃないか」
「何があったか知らねえが……もう勘弁してやっちゃくんねえか?」
 ガッツとしては一応、シエスタには恩がある。
 シエスタがここまで追い詰められているのを放っておくのは、さすがに夢見が悪かった。
「頭が高いと言っているんだ平民ッ!!」
 ギーシュが一喝する。
 自分を見下ろすこの男は貴族に対してなんら敬意を払っていない。
 それどころか―――この男は自分を見下してすらいる。
 ギーシュはそう感じていた。
 ガッツは―――ギーシュの傲岸な態度に、抑えていたものが噴出しそうになっていた。
「やれやれ…貴族ってなぁどいつもこいつも……聞くが、お前はそんなに偉いのか?」
「よかろう。名乗ってやる。我が名はギーシュ! ギーシュ・ド・グラモン!! かのグラモン伯爵家の第三子だ…わかったら平民! さっさと頭(こうべ)を垂れるがいい!!」
 両手を大きく開き、ギーシュは大仰に名乗りを上げた。
 グラモン家は最近お金の面で苦労しているとはいえ、それでもトリステイン有数の大貴族だ。
 平民に対するその威光、推して知るべしである。
 しかしガッツはそんなことは知らない。否、たとえ相手がミッドランドの大諸侯だったとしても、その態度は変わらない。
 ふっ…とガッツの口が皮肉げに笑いの形を作った。
「俺は『お前』が偉いのかと聞いたんだ。啖呵をきるのに親の名前がいるってんならずっとママと手をつないで一緒にいてもらえ、ガキ」
 シン…と食堂の空気が凍った。
 もはやガッツを敵視しているのはギーシュだけではない。
 ガッツの今の発言はギーシュの家名を馬鹿にした―――だけではない。
 親から子へと連綿と受け継がれていく貴族の名誉、その在り方そのものをあざ笑ったのだ。
 家名に誇りを持つ全ての貴族たちがガッツを睨み付けていた。
 シエスタの顔は蒼白だった。
「よかろう……そこまで貴族を馬鹿にするんだ。覚悟は出来ているだろう! 決闘だ!! 平民ッ!!」
 ギーシュがそう言い放つと周りの生徒たちから歓声が上がった。
「ヴェストリ広場に来い! ここを君の血で汚すわけにはいかないからな…!」
 そう言い捨てるとギーシュは食堂を出て行った。
「ギーシュが生意気な平民に粛清を与えるぞ!!」
「あいつは貴族を馬鹿にした!! 八つ裂きだ!!」
 食堂にいた生徒たちは是非決闘を見物しようとギーシュの後について続々と食堂を後にする。
 2,3人ほどの生徒は残り、どうやらガッツが逃げないか監視しているようだった。

 普段のガッツであればこんな決闘に乗ることは無い。どれだけギーシュ達がわめこうがまったく取り合わないだろう。
 しかし今回ばかりは―――事情が違った。
 胸のうちから噴出す黒い炎を誰彼構わずぶちまけたい気分だった。
「ガッツさん……だめ、殺されちゃう……」
 シエスタはガタガタ震えている。
「あんた何馬鹿なことしてんのよ!!」
 ルイズがガッツに駆け寄ってきた。
「早く謝ってきちゃいなさい!! 確かにギーシュにも悪いところあるけど、今のは絶対にアンタが悪いわ!!」
 ルイズとて典型的な貴族だ。先ほどのガッツの発言は正直度し難い。
「メイジとやりあっちゃ、無事じゃすまないわ…! ほら、早く―――ッ!?」
 ルイズはそれ以上続けることが出来なかった。
 ガッツの目を見て、続けられなくなった。
 ガッツがルイズに向ける目は、ギーシュに向けていたソレとはレベルが違う。
 その目が直接ルイズに語りかけてくるようだった。

 ―――てめえはこんなところで何をしてやがる

 ガッツの目はそう言っている気がした。



 ヴェストリ広場で、ガッツとギーシュは向かい合って立っていた。
「ギーシュー!! 遠慮はいらねえぞーー!!」
「身の程知らずの平民め!!」
 向かい合う二人に周囲の生徒から歓声と野次が浴びせられる。
 ギャラリーの数は学院中の生徒たちが集まったのではないかというほどの人だかりだった。
 そのギャラリーの中にルイズはいた。その頭の上にはパックが立っている。
 いざとなれば、自分が出て行って決闘を中止させるつもりだった。
 こんなことになったのは、大本を正せば自分のせいなのだ。
 パックからガッツの事情は聞いている。
 大事な旅の途中であったろうガッツに、こんなところで怪我をさせるわけにはいかなかった。
「よくぞ逃げずに来た! 平民!!」
 ギーシュは胸のポケットに挿しておいた薔薇の花を抜き取り、振るった。
 そこから零れ落ちた花びらが宙を舞うと―――甲冑を纏った女剣士を模したゴーレムへと変化した。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
「……好きにすりゃあいい」
「……いい度胸だ。改めて名乗ろう! 我が名はギーシュ! 『青銅のギーシュ』!! 名乗れッ! 平民ッ!!」
 ギャラリーの歓声が絶え間なく聞こえている。
 ガッツは一拍の間を置いて―――
「ガッツ。ただのガッツだ……ガキ」
 そう、名乗った。


 二人の様子をルイズはハラハラしながら見守っていた。
「ああ、もう、またあんな挑発して……しおらしくしてれば、ギーシュも本気出さないかもしれないのに……」
「ルイズさあ……」
 ルイズの頭の上でパックが口を開く。
「何? パック」
「相手のほうの心配したほうがいいと思うぞ」

「え?」
 なにか、いま、パックが信じがたいことを言ったような―――ルイズがパックの言葉の意味を理解しようとしていると、周りの喧騒がそれを妨害した。
「何だアレ!! ホントに剣なのかよ!!」
「あんなもん振れるわけがないぜ!!」
「わかったぞ! あれは剣じゃなくて盾なんだ!!」
「な~るほど!! 戦いが始まったらすぐさまあれの後ろに隠れるわけだな!!」
「そりゃあい~や!! 身の程知らずの平民にはふさわしい戦い方だぜ!!」
 ガッツの背中に担がれたドラゴンころしを指差して生徒たちは口々にガッツを罵った。
 実のところ、ルイズもガッツに対する認識は周りの連中とそう変わらないものだった。
 大剣を持ち上げているのは見たけれど、とてもアレを普通の剣のように振り回せるとは思えなかった。
 せいぜい、振り上げて、落とす。
 その程度の使い方しか、ルイズには想像することが出来なかった。
 無理もない。アレは、剣の範疇に収まりきるものではないのだから。

 ―――決闘が開始される。

「行け! ワルキューレ!!」
 ―――ギーシュの号令と共に青銅の女剣士が動き出す
「「「やっちまえギーシュ! ヴァリエールに遠慮はいらねえぞ!!」」」
 ―――ワルキューレがガッツに迫る
「「「あいつは全ての貴族を虚仮(こけ)にした!! これは粛清だ!!」」」
 ―――ガッツの足が一歩前へ
「「「おいおい平民がなんかやる気だぞ!」」」
 ―――ワルキューレがランスを振りかぶる
「「「無駄な努力ごくろーさんだぜ!!」」」
 ―――ガッツの手がドラゴンころしの柄を握り


      ボ ォ ン ! ! ! !


 ワルキューレの胴が舞った。


 きれいに上下に分かたれたワルキューレの胴が宙を舞う。
 一回、二回、三回。
 ぐるんぐるんと回ったワルキューレの残骸は、そのままドシャリとヴェストリ広場に転がった。
 ヴェストリ広場に静寂が満ちる。
 誰も声を出すことが出来なかった。
 目の前の光景が、自分たちの知る常識からあまりにかけ離れすぎていて。
 ルイズも、目を大きく開き、固まって。
 目の前に対峙するギーシュは最も信じがたく。自らのゴーレムが宙を舞う姿を呆然と見送っていた。

「振った………」

 誰かが漏らしたその声を皮切りに。
 ヴェストリ広場に歓声とも悲鳴ともつかない叫びが木霊した。


新着情報

取得中です。