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ゼロのミーディアム 第一章 -19


王都トリステインの裏町にある、とある酒場。
時刻はちょうど日が西に沈んだ頃である。

酒場には仕事帰りの一杯を求めた者や、夕食を摂りに来た者、昼間っから今まで酒盛りをしているグータラ等、各々の理由で人に溢れていた。

テーブル席の客が木製のジョッキを片手に談笑している
「おい、聞いたか?あの土くれが捕まったって話」
「ああ聞いた聞いた。残念だよなぁ~。いけ好かない貴族どもを引っ掻き回す面白い奴だったのに…」
「まったくだぜ!ここだけの話。俺、密かに応援してたのに~」

国のお偉いさんが聞いたらしょっぴかれそうな事を大声で話す客達。
最悪その場で魔法で吹き飛ばされても文句は言えない。

平民にとって貴族はそう言う絶対者なのだ。
故にフーケ捕縛を惜しむ声と、周りの者の賛同具合からして、平民の貴族に対する不満はかなりの者とわかる。

威張り腐るボンクラ共にお灸を据えるフーケは彼等にとってはちょっとした憧れだった。

(その土くれが何故かここにいるのよねぇ……)
そこにカウンターの席でワインを口にしながら、心中でそう呟く目深にフードを被った妙齢の女性が一人。
その言葉が示す通り、それは今の話題の渦中の人物。

引っ立てられてチェルノボーグ監獄送りになった筈の、土くれのフーケがそこにいた。

背後で自分が話題になっているのを無視し、フーケは昨日より監獄から脱獄した経緯を思い出す。

破壊の杖の一件で水銀燈以下、
その(愉快な)仲間達の活躍により捕らえられた土くれのフーケが送られたのがチェルノボーグ監獄。
凶悪犯と呼ばれる者が投獄される、厳しい監視と強固な防備を兼ね備えた事で有名な、
犯罪者にとっては恐怖の象徴と言ってもよい場所だ。

フーケはベッドに座り険しい顔つきで俯いている。
思い出すのは自分を捕らえた禍々しくも美しい黒翼を持つ、漆黒の天使の事。
「…私の完敗だったね」
小さな体に不釣り合いな錆びた大剣を携えゴーレムの剛腕を幾度と無く切り落とし、
最後は異形の翼より放たれる黒龍のブレスで、跡形も無くそれを消滅させた人形。

「大したもんだよ……。私だって『あの子』の為に戦ってたんだけどね。この気持ちはあの人形にだって負けてないつもりなのに……」

フーケは別に水銀燈を恨もうとは思わなかった。
寧ろそのひたむきな姿は今考えれば賞賛に値する。
身を挺して主人の剣となり盾となり必死で戦っていた強い意志の浮かんだ人形の顔を、フーケは思い出していた。

「ま、盗賊なんて外れたやり方してる時点で、私の負けは決まってたのかもしれないわ……」
フーケは俯いた顔で自嘲気味な笑いを浮かべる。
「気に入らない貴族の奴らをギャフンと言わせたかったからやってた盗賊家業だったのだけれど…。
あーあ、今度は真っ当な職にでもつこうかしらねぇ……」

もっともそのチャンスは来そうにないけど。と、フーケは付け加えた。
あれだけ散々、国中の貴族をコケにしたのだ。良くて遠島、悪けりゃ縛り首。
どの道彼女の言う『あの子』を養うことなど出来なくなるだろう。

「さてと、どうしたものやら……」
むざむざ刑を受け入れるつもりなど毛頭無い。自分の大事な妹をほっておけるものか。

しかし杖が無い以上、得意の錬金を使うのは不可能。
仮にあったとしても、強力な固定化がかけられた壁や鉄格子は錬金を受け付けない。
脱獄できる可能性は0に等しい。いや、断言してもいい。――0だ。
だが……

「私は諦めないよ」
フーケは自分に言い聞かせるように呟き、爪を噛みながら脱獄の手段を模索した。

往生際が悪いと言うこと無かれ。フーケにもまた彼女を待つ人が、帰る場所があるのだから。

何か脱出に使える物が無いかと牢の中を見回していたその時。

フーケの収容された監獄の上の階から誰かが降りてくる足音がしてきた。
牢番の見回りか?と思い、急いでベッドに横たわる。脱獄の意志を見せるのは何かとまずい。
壁側を向いて目をつむり、聞き耳を立てながら狸寝入りを決め込んだ。

その足音がフーケの牢の前で止まった。どうやら彼女に用があるようだ。
「『土くれ』だな?」
年若く力強いその声。
牢番ならばそんな事は百も承知。つまり牢番ではない。
牢番以外で自分を訪ねてくるの可能性があるのはもう一つ考えられた。

「……刺客ね」
フーケは起き上がって鉄格子の向こうにいる声の主を睨む。
フーケに痛い目に合わされ貴族は数知れない。故に買った恨みも星の数。
裁判など待ってられるか。ましてや、判決で万が一生き長らえでもしたら納得いかないと思う者は少なくないだろう。

今死ね!すぐ死ね!骨まで砕けろ!
アイテムなんざ盗んでんじゃねぇぇぇぇぇぇーーーー!ぶるァァァーーーーッ!!
って事なのだろう。

「言っとくけど囚われの身と言えど、大人しくやられるつもりは無いの。最低限抵抗はさせてもらうわ」
身構えて刺客らしき、仮面を付けた長身の黒マントの男を見据えた。

それに対し男は両手を上げて敵意の無いことを示す。
「まあ待て。話をしにきた」
「話?」
フーケは怪訝な声で切れ長の瞳をさらに細める。
「弁護でもしてくれるっての?物好きね」
「なんなら弁護してやっても構わんが?」

フーケの冗談にくっくっくと含みのある笑いをもらし男は言葉を続けた。
「――マチルダ・オブ・サウスゴータよ」
「あんた…何物よ!?」
フーケは顔面蒼白になり声を荒げる。かつて捨てた…いや、捨てる事を強いられた貴族の名。それを知る者はもう、この世にいない筈なのに…。

「それを教えるのは私の話を聞いてからだ。……再びアルビオンに使える気は無いかね?マチルダ」
「……その名を知っててよくもそんな下らない事が言えたものね。家名を奪い、父を殺した王家の名前なんざ聞きたくもない!!」
「だから待てと言っている。無能な王家は間も無く滅ぶ。
有能な貴族が、ハルケギニアの将来を憂い、国境を超えて繋がった選ばれし我々が政(まつりごと)を行うのだ」
「その有能で選ばれた貴族様がこのこそ泥になんの用?」

フーケは薄ら笑いを浮かべそれを一笑に付したが、構わず男はその目的を語り出す。

「我々貴族の連盟はハルケギニアを統一するため、始祖ブリミルの光臨せし『聖地』奪還のため、
優秀なメイジが一人でも多く欲しいのだよ。協力してくれないかね?」

フーケの笑みが消えた。真剣に聞いてる訳ではなく、呆れて物も言えないといったひどく冷めた顔だ。
「馬鹿馬鹿しい事この上ないね。夢の絵は寝てから書く物よ」
時間の無駄だと言わんばかりにフーケは肩をすくめる。
「私は貴族が嫌いだし、ハルケギニアの統一なんかに興味は無い。聖地だってほっとけばいいじゃない」

フーケはそのまま、もう話す事など無いととれる仕草で男に背を向けた。

「土くれよ。お前は選択することができる」
すると男の声とともにフーケの背中に何かが突きつけられる。
背後から聞こえる呪文の詠唱、つまりこれは魔法の杖。
思わずフーケのその背に冷や汗が流れた。男は言葉を続ける。

「我々の同士となるか……」
もう一つの選択肢は背に当てた杖が物語る。フーケがあえて引き取った。
「さもなくば死…ね。そんな計画知った私を生かしてはおけないもの」
「理解が早くて助かる」
「ほんと、これだから貴族って好きになれないのよ。……他人の都合等お構いなし。何が選択できるよ、これはもう選択とは言えないわ」
「そうだ。これは…強制だ」
再び男は再びくっくっくと重い声で含み笑いをした。

(なんだか好かない奴だし、貴族の連盟なんざ興味は無い。だが…)
フーケは思う。ここを脱出するチャンスは今しかないと。
そして盗賊をやってまで生きてきたのだ。自分に残されたのはアルビオンに残した妹分のみ。

(もはや落ちるとこまで落ちた。あの子が知れば好としないかもしれない。……でもこれもまたあの子のためさ)

今の自分が優先するのは故郷の妹を守る事だけだ。フーケは間をおいて男に向き直る。

「あんたらの貴族の連盟の名は?」
その言葉を肯定の意と受け止めたらしい。
仮面の下でニヤリとほくそ笑んでいるであろう黒マントの男は牢の鍵を開け、フーケの杖を投げてよこした。

眼前に投げられた杖を手慣れたように掴むフーケ。杖を取ったパシッという乾いた音が牢内に響いく。
杖を手にした事で、フーケが仲間となる事を明確に確認した男は、その連盟の名を口にした。


「我々はレコン・キスタ」


――以上、これがフーケ脱獄の経緯にして彼女がこの酒場にいる理由である。

「我々の決起までにはまだ少し時間がある。それまではお前の好きにするがいい」
そう言って男はフーケを置いてどこへ行ってしまった。

「好きにしろって……えらく大ざっぱな貴族の連盟じゃないのよ……」
呆れたようにフーケは呟いた。

「まあいいさ。ちょうどやり残した事があったしね……。本当は破壊の杖をいただいた後にやるはずだったんだけど……」

そのフードと眼鏡の奥に光る双眸が、さらに危険な光に満ちる。
獲物を見据えた仕事人の顔。トリステインの貴族達を震え上がらせた、『土くれ』が再び動き出すのだ。

「楽しみに待っていなさい」
そして口の端が妖しくつり上がった。

「……ジュール・ド・モット伯爵殿」
それが彼女の、土くれのフーケの狙うターゲットの名前だった。

手元のワインを飲み干したグラスが、音も無く砂のようにサラサラと崩れていく。
いつの間にか彼女のもう片方の手に、杖が強く握り締められていた。



一夜あけてトリステイン魔法学院。

朝の清涼な空気の中、学院の中庭でバシャバシャと洗濯桶に手を突っ込んで洗濯物をするメイドの姿があった。

――でもこのメイドさん、なんだか黒い、鳥みたいな翼が生えてるんですけど……。おまけに人にしてはえらく小さいような……。

「ふぅ、お洗濯完了よぉ~」
鼻の頭に付いた泡を拭って一息つくメイドさん。
ん~と腕を上げて背伸びをし、背中の翼も大きく広がる。

何を隠そう、このお方こそ我等が誇り高きローゼンメイデンの第1ドールにして、
ルイズ・フランソ(長いので以下略)の使い魔をしておられる我等が党首、水銀燈であらせられる!!
者共、頭が高い!頭が高ーい!!

彼女が着ているのはいつもおきまりの逆十字の刻まれたゴシックロリータではなく、メイド服。

メイドのシエスタが作業着としてくれた物だ。
本当はお父様のドレス以外のあまり着たくは無いのだが、
それ以上にお父様から頂いたドレスを汚す事を嫌い、水銀燈は使い魔の仕事はこれを着て行っていたりする。

しかし、なかなかこれが似合った物で。仕事も意外と順当にこなしているとこから、彼女にはメイドとしての資質がある。と、言ったっても良いかも知れないくらいだ。

もっとも、これに調子に乗って「銀ちゃん紅茶を入れて頂戴」なんてオーダーした日には、
ニッコリした水銀燈に、熱々の紅茶を頭から注がれ、お客様は熱さにのたうち回る羽目になる事間違い無しだろうが……。

「あ、水銀燈。いたいた!」
甲高い少女の声に呼ばれ水銀燈は振り返った。
その先には桃色の長いブロンドの髪揺らし走ってくる少女の姿。
「なぁに?ルイズ」
彼女こそが格式高きヴァリエール公爵家が息女にして、ツンデレ三闘神が一人、大平原の小さな胸!ツルペタオブツルペタ!
虚無の…ゲフン!ゲフン!口が滑った!今の無し!!

とにかく水銀燈の主にしてミーディアム(契約者)、ル(長いので以下略)様であらせられる。
者共、頭が高い!頭が高ーい!!

そのルイズが水銀燈を訪ねてきた理由はこれだ。
「時間が出来たから、以前お弁当作ってくれたメイドの子に一言お礼いいたくてね」

細かい説明は省かせてもらうが、ルイズは餓死寸前(少々大袈裟)のところを彼女のサンドイッチで命を繋ぎ、
破壊の杖奪還任務でも、これまたサンドイッチで空きっ腹のルイズ達の腹を満たしたと言う功績があるのだ。

「この任務が終わったらお礼に行かなきゃね?」
とはその時の馬車の中でのルイズの弁。
彼女はこれを実行すべくシエスタの居場所を知るであろう水銀燈を探していたのだ。

「貴族が平民にお礼を言うの?」
水銀燈はルイズに不思議そうに尋ねる
「そうよ。なんか悪い?」
「なんとなく貴族って「平民なら貴族に尽くして当然!」みたいなイメージがあったから珍しくって」
「大概のはそうでしょうね。間違ってるとは言わないけど、私は義理堅いのよ!」
平たい胸をえっへん!とはってルイズは言った。
良い心がけだ。貴族嫌いな平民もこういう貴族がいれば少しは変わってくるだろうに……。

だが先程言ったがこの世界、貴族は平民に対する絶対者だ。そんな考えを持つ者は極々一部いるかいないかだろう。

この時間シエスタが働いているのは厨房だと水銀燈は言う。二人は厨房へと足を運んだ。

お喋りしながら食堂の裏まで来た水銀燈とルイズだが、何やら様子がおかしい事に気づく。

「シエスタ…?」
シエスタが見知らぬメイジ達に連れられ厨房を出る所だった。
何事かと声をかけようとした矢先、水銀燈とルイズに気づいたシエスタが、こちらを向き人差し指を自分の口元に立てる。
お静かに。騒がないで下さい。と言ったジェスチャー。シエスタはどこか疲れたような表情を笑わせて目配せした。

二人はよくわからないが何か用事でもあるのだろうと勝手に判断しそれを見送る。
「なんだか忙しそうね…。仕方が無いわ。お礼を言うのはまた後にしましょ」
ルイズはそう言って来た道を引き返した。
水銀燈はせっかくここまで来たのだからと、料理長のマルトーに会いに行く。
…もしかしたら摘み食いでもさせてくれるかもしれないし。

「親父さぁん。いるかしらぁ?」
開いてあったドアをくぐり水銀燈は厨房に足を踏み入れた。
「……おう。我らの天使よぉ」
呼ばれたマルトーがずぅんと沈んだ様子でその顔を出す。
「らしくないわねぇ。なに浮かない顔してどうしたのぉ?」

日頃豪快に「ガハハハハ!!」と笑うマルトー親父らしからぬその元気のなさに水銀燈も小首を傾げる。

「ああ、シエスタがな…」
「そうそう。そのシエスタ、忙しそうだったけどいつ戻ってくるの?」

マルトーは溜め息を吐き忌々しそうに言った。
「シエスタは……もう戻らねぇよ……」
「なんですって?」
水銀燈も聞き捨てならねその物言いに剣呑な顔つきをマルトーに向けた。
「どういう事なの?説明して頂戴」

マルトーが言うにはシエスタは王宮の勅使であるジュール・ド・モット伯に仕えるためここを出て行ったらしい。
それも今朝突然、声をかけられて即決だったらしい。彼女らに面識など有るはずもない。
無論その横暴をマルトーは良く思わなかったが、残念ながら彼は平民。
文句を付ければそれは魔法で帰ってくるだろう。
自分は何もできずシエスタが連れ去られるのを黙って見てるしかなかった。と、マルトーは暗い顔で呟く。

「結局俺ら平民は貴族の言いなりになるしか無いんだよ。我らの天使……」
そう言ってマルトーは「さーて仕事仕事…」とやる気なさそうに呟き厨房の奥に引っ込んだ。

「シエスタも災難ねぇ……」
水銀燈もシエスタが居なくなったのを残念に思うも厨房を後にした。

理不尽とは思うも、それがメイジが支配するこの世界の理。異世界から来た自分がとやかく言う資格等無い。
水銀燈は勝手にそう納得した。
……少なくともこの時点では。



「モット伯爵は王宮の勅使を務める有力な貴族なの。時々学院にも来るわ。
いっつも偉ぶってるから私はあまり好きじゃないけどね」

夕刻のルイズの自室。水銀燈がシエスタの事をルイズに伝えると彼女はそのモット伯の事を、顔をしかめてそうコメントした。
「王宮の勅使?」
「王宮で決まった達しを伝えたり、各地の行事に王族の代理で出席する貴族の事を勅使と言うの。
国のトップの伝達事項を伝える時なんか、その人相応の身分で扱われるから、位の高い貴族も迂闊に手を出せないくらいの役職よ」

「そんな人がなんでシエスタを連れていったのかしらぁ…」
自分の鞄の上に腰掛けた水銀燈は人差し指を頬に当てて、疑問の眼差しをルイズに向ける。
「…モット伯は勅使をこなす有能な貴族である反面、何かとよろしくない噂が絶えない男でね、」
ベッドに腰掛けたルイズは嫌悪感丸出しな顔を使い魔に向けて苛立つように言った。

「権力を傘に若い女性を囲っては手篭めにするって言われる黒い貴族なのよ」
「そんなのがなんで王宮の顔役みたいな大役を……
って待ちなさい!手篭めって何よ!?手篭めって!!」

水銀燈が慌て聞き、ルイズはそれに顔を少し赤くして困った顔つきになって答える。

「そりゃあ、なんと言うか……。あの人好色な貴族って噂もあるし…。あんな事やこんな事をやりたい放題……」

「おおおお乙女のピンチじゃないのよそれぇ!」
まさかそんな話になるとは思いもしなかった。
知人がそんな人間の所に連れて行かれたと知って気が気でないらしい。
男は狼なのーよー!気をつけなさーい!

「ねぇ、なんとかならないの?」
「……どうにもならないわね。あいつに口出しできるのは王族や枢機卿クラスの地位の貴族ぐらいだもの」

諦めの入ったミーディアムの答えに水銀燈は呆然と立ち尽くした。

「まさかこんな事になるなんて……」
水銀燈は今朝見せたシエスタの顔を思い出す。
そうだ、あれはもう、二度と会えないと言った諦めの入った寂しげな笑顔だったのだ。

ミーディアムであるルイズを除けばシエスタは、初めて水銀燈にできたこの世界の友人。
いや、あっちの世界でも一匹狼だった彼女にとっては生涯初めての友だったのかもしれない。

シエスタは飢えている彼女に手を差し伸べ、今着ているこの服を提供してくれた気の利くやさしい友人だった。

メイド姿の堕天使の内面に、何かフツフツと激しい感情が湧き上がる。

「そう…それじゃあ仕方ないわよね」
一言そう呟いて水銀燈はふぁさぁっと翼を翻し、窓辺に飛んで引き戸を開く。
「水銀燈?どこ行くのよ」
「気晴らしにちょっと散歩してくるわ」

そう言って水銀燈はオレンジ色の光の向こうへと飛び立った。

「前みたいに遅くなっちゃだめよー」
ベッドに腰掛けたままルイズはそれを見送る。
時刻は黄昏時、振り向いた使い魔の表情は逆光で暗く見えなかったためルイズは気づかなかった。
もしそれが見えていれば止めに入っていたかもしれない。
仕方ないと言っておきながら……水銀燈のその表情は何かの決意に満ちた険しい表情をだったのだ。

散歩と称して部屋を飛び出した彼女。その目的はただ一つ。
「まさかこの私が正義の味方の真似事をする羽目になるなんてね……」

自分の性格でやる事では無いと思う。似合ってもいないと思う。
だがこの湧き上がる感情を、否定は出来なかった。

「シエスタを連れ戻すわ」
水銀燈は小さく、しかし確かに力強く、そう呟いた。



でものっけから躓いた。
「そもそもモット伯ってどこにいるのよぉ?」
場所がわからないのに連れ去られた者を助けになど行ける筈もない。

どうしたものかと腕組みする天使がアウストリの広場に差し掛かかる。
ふと目を向けた木の下に人間がいるのを見つけた。
それは水銀燈の盟友ならぬ迷友、ギーシュ。
だが様子が変だ。彼は踏み台に乗り、木の枝にかかったロープの輪っかを首にかけ…

「早まっちゃだめぇぇぇーーーー!!」
「へぶーーっ!?」
それにびっくりして一目散にそっちに飛んでいく水銀燈。勢い余ってギーシュに体当たりをかまし、踏み台を吹き飛ばす。
ギーシュはブラーンと首だけでロープにぶら下がり、手足をばたつかせた
はい!お約束その1。首を吊ろうとしてる人間を止めようとして裏目に出るケース。

「何やってるのよぉ!!」
背中から鋭い羽が風を切って飛び、ロープを切った。地面にぼてっと落ちて肩で息をするギーシュ。血走った眼で水銀燈を見る。

「死んだらどーするッ!?」
はい!お約束その2。首を吊ろうとしてたのにこの言いよう。通称『グッバイ デスペレイトティーチャー』

「貴方こそなんでこんな真似してるのよぉ!」
「ほっといてくれ!フリッグの舞踏会を寝過ごしてモンモランシーを誘えず、怒らせてしまった僕は死ぬべきなんだー!」
説明臭い台詞ご苦労様。どうやらあのまま起きる事無く、ヴェルダンデと一夜を共にしてしまったらしい。

「私なんかより使い魔のほうが大事なのね!最っ低!!」
と、渾身のアッパーカットを放ち、ギーシュを車田カットで天高く吹き飛ばすモンモンの様子が易々と想像できる。

「絶望した!舞踏会を寝過ごした自分に絶望した!!」
「そんな事より貴方、モット伯の館の場所を知らなぁい?」
「モット伯?ああ、知ってるには知ってるけど?」
そんな事扱いされたけど、ギーシュは丁寧にそれを教えてあげた。
聞いた話によると、少し遠いが彼女の翼でも行ける距離。

「そう、わかったわ。ありがと」
「いやいや、何を言うんだ。君は僕と同じ薔薇を愛でる同志じゃないか」
ギーシュはフッとニヒルに笑い薔薇の杖を掲げる。

「お取り込み中、邪魔したわね。さ、続けなさい」
自分に酔いしれるギーシュに構わず、彼にロープを手渡して水銀燈は飛び去っていった。
場所さえ聞ければもうどうでもいいらしい。
まさに外道!!

ギーシュはポカーンと口を開けたまま黄昏の中、小さくなっていく黒翼の天使の後ろ姿を見つめた。
頑張れギーシュ!負けるなギーシュ!生きてれば必ず良いことあるからさ!



日が沈み始め、間も無く夜が落ちてくる。東の空から、闇夜が街を覆い始めるその景色。

空を駆ける水銀燈の瞳には、まるでシエスタにだんだんと危機が迫っているように映った。
羽で造った剣を片手に飛翔する翼の生えたメイド。
少しでも早く着くようにと、ガンダールヴのルーンを発動させ彼女はモット伯の屋敷に急いだ。


一方、こちらは水銀燈を探して外をウロウロしているルイズ。
辺りは暗くなったのにも関わらず戻ってこない使い魔に業を煮やし彼女自ら探し始めたのだ。

「まったく、前も散歩だなんて言ってなかなか戻ってこなかったのよね。あの子!」
ルイズは頬を膨らましブーブー文句を言いながら黒翼のメイド服を探す。「遅くなっちゃだめって言ったのに!」

そこに、ちょっと前まで広場でてるてる坊主の物真似をしていたギーシュが通りかかった。
結局、あの世でモンモランシーにわび続けるのはやめたらしい。
「やあルイズ。どうかしたのかい?」

先程の陰鬱な表情が嘘のようにギーシュは気さくに、キョロキョロしながら何かを探している桃色髪の少女に声をかけた。
「ねえ、水銀燈見なかった?」
「ああ、さっき会ったよ。何故かモット伯の屋敷の場所を聞かれたけど」
モット伯の屋敷…ルイズは青ざめた。何故そんな事を聞く必要があるのか?
そう言えばあの時の水銀燈の口調はいつもの妖しい猫なで声では無かった。
日頃人を小馬鹿にした口調の彼女も、真剣になるとそれが無くなる。

とどのつまりは…
「あの子、シエスタを助けに言っちゃったの!?」
間違い無い。それ以外モット伯の館を尋ねる理由など考えられない。
時間も惜しいとばかりにギーシュに背を向け、ルイズは馬の納屋に駆け出す。
そこで出来るだけ速い馬を調達し、手綱を手に取るといきなり全速力でそれを走らせた。


限界まで弦を引き絞られて放たれた矢の如く、学院の門からルイズの馬が勢い良く飛び出す。

水銀燈が屋敷に討ち入りをかけるまでに止めなければならない。
「早まった真似するんじゃないわよ、水銀燈……!」
奥歯をぎりっと噛み締めミーディアムは使い魔を止めるべく、馬に鞭を打った。


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