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新約・使い魔くん千年王国 幕間1・マザリーニ枢機卿

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「トリステインの王家には、美貌はあっても杖がない。
 杖を握るは枢機卿、灰色帽子の『鳥の骨』……」

街女にも歌われる、ないない尽くしの端唄の一節。
『鳥の骨』こと、トリステイン王国の事実上の宰相・マザリーニ枢機卿。ロマリア出身で、年齢は四十路も半ばを過ぎた。
聖職者としての球帽を被り、灰色のローブを纏った、重責のために老けて60歳近くにも見える痩せぎすの男だ。
髪も口髭も真っ白となり、伸びた指は骨張って、酒のつまみの『鳥の骨』そっくり。
そのため、誰が言うともなく、彼は『鳥の骨』と呼ばれている。若い頃は美男だったそうだが。

平民の血が入った貴族の庶子であるが、その知力は非常に優れている。
彼はハルケギニアの事ならば、火山に棲む竜の鱗の数までわきまえているという。
教皇の顧問、枢機卿という高位聖職者ではあったが、彼は大して神もブリミルも信じていない。
人間世界の事は、人間が主人公であり、神つまり自然は、生命と舞台、たまに運命を提供する程度だ。
彼はあくまでも冷徹な政治家であり、外交官・為政者としての度量も並みではない。

狡猾な性格に加え外様であるため、庶民や一般の貴族からは敬遠され、王位の空席が生じた時国を乗っ取ろうとしたとか、
マリアンヌ太后と密通していたなどという、あらぬ噂を立てられた。
今も彼には、女王の若さに付けこんで国政を壟断し、権力を利用して私腹を肥やす悪役としてのイメージが強い。
しかし、実際のマザリーニは、先王以来の有能な忠臣であり、王国の発展と繁栄のために尽力する大政治家であった。
先王とマリアンヌ太后、そして先の宰相から国政を委ねられるほどの人物なのだ。

彼の得手は、『人を篭絡し、買収し、騙す事』。
彼の信念は、『王権の拡大』と『盛大への意思』、すなわち『国家は強大にならねばならない』との確信であり、
この彼の信条に従わない者に対しては、これを『国家の敵』とみなして徹底的に撲滅をはかった。
また『立っている者は親でも使え』という有名な諺は、彼の言葉から来ている、と歴史家ミンメイは述べている。
人材登用にも熱心で、裏切られたが強力なメイジであるワルド子爵に目をかけていたし、
松下の才能、いや異能を見抜き、諸侯の反対を押し切って『タルブ伯』に取り立てたのは、彼であった。


今日も枢機卿は、女王の御名において百官を集め、国政を協議する。
アンリエッタ女王は、ゲルマニアやガリアとの折衝のため欠席している。

「しかし女王陛下にも、困ったものだ。突然誘拐されてガリアとの国境付近で保護され、ゴタゴタを起こすとは」
「なんでも敵は、ウェールズ皇太子のご遺体を、魔法で動かして操っていたそうではないか。
 汚らわしい『レコン・キスタ』め、悪魔とでも結託しおったか」
「女王を救出したのは、偶々ラグドリアン湖に来ていた、例のラ・ヴァリエール公爵家の三女と、
 その使い魔の『タルブ伯マツシタ』だと言うぞ。またぞろ莫大な報酬を要求されるわい」
「モット伯やチュレンヌ徴税官は、あいつに関わって破産したと言うぞ!」

「しかし、これを有効かつ有機的に活用すべきであろう。ラグドリアン湖周辺の諸侯をしっかりと王国に結びつけ、
 その忠誠を確かめる良い機会だ。なにしろ、かの湖には『誓約の精霊』がいるのだからな……」
「会盟か。ではガリア王にも、臨席してもらうか。アルビオン侵攻の際だけでも、不可侵条約を結ぼう。
 どうせあちらから破ってくるだろうが、信義を失うのはガリア側だ。我が国は信義で保たれてきた」

「このトリステインは、四大王国の中で最もメイジ人口の多い国。
 領土が狭く、さして肥沃ともいえぬこの国が栄えてきたのは、人的資源によるものです。
 従って、教育・法律をしっかりと整備し、外国からも有能な人材を確保せねば」
「いやいや、この非常時にメイジや貴族だけではどうしようもない。戦争準備のため、税金が高くなって平民も不満が多い。
 やはり平民にも官職への道を開くべきでしょう。それに枢機卿猊下のように、聖職者でも政治はできる」

「貴族がしっかりと王権を護り、官僚体制を充実させれば、トリステインは繁栄する。税金は国の資本だ」
「しかし少々の蓄財は、資本の蓄積と産業の発展のため、大目に見られるべきではありませんかな……」
発言者は少し白眼視されたが、今や蓄財は悪ではない。そのうち、議題は変わる。

「それより、タルブ以来アルビオンとの関係がこじれている。いや、戦争中ではあるのだが。
 女王は復讐の念に駆られてか、戦争続行の一本槍だ。どうしようか……」
「向こうから侵略戦争を仕掛けてきて、撃退はできたが今もやる気満々ですからなぁ。
 共和政、聖地奪回などと唱えているし、さっさと叩いておくのが良いといえば、そうなのでしょうが」
「あの浮遊大陸に閉じ込めておけば、まだましなのだがね。空の上の敵はやり辛い。
 いっそのこと奴らの勢力と手を結び、ゲルマニアと対抗しようかという動きもある」
「我らも貴族ではあるから、国境を越えた貴族連合にくみする輩の言い分もあろう。
 しかし、始祖の授けし六千年の王権を、ないがしろにするわけにはいくまい」

枢機卿が立ち上がる。
「売国奴は、『国家の敵』です。厳正に処分せねば、我が国はかつてのゲルマニアのように空中分解してしまう」
「そして、ゲルマニアかガリアか、クロムウェル率いるアルビオンの属領にされてしまいますな。
 なにしろ大国の狭間の小国ですからね、現在のトリステインという国は……」


「おお、リッシュモン閣下ではありませぬか」

アンリエッタ女王とガリア王ジョゼフの名代が、諸侯と誓約した『ラグドリアンの会盟』が済んで、数日後。
ある夜、枢機卿の執務室を、銀髪を戴く初老の貴族が訪れた。
トリステインの司法関係機関の最高責任者、高等法院の院長である、リッシュモン。
先々王フィリップ以来30年間王国に仕える譜代の重臣であり、アンリエッタ女王もご生誕の頃から知っている。
いろいろと黒い噂は聞くが、そう大仰な不正を行っているわけではない。大貴族は誰もそうだ。

「夜分わざわざこの部屋までおいでとは、何用でしょうかな?
 生憎このマザリーニ、国家への反乱の準備はまだしておりませんが」
「ははは、そんなご用ではございませんよ。高等法院の参事官たちからの、大方の意見が纏まりまして。
 女王陛下にも後ほど御進言いたしますが、此度のアルビオン遠征軍編成案には、承服しかねる点が多々あるのです」
「ほう、何ゆえでしょうか」

リッシュモンは書類を持って溜息をつく。
「新造の戦列艦50隻、傭兵2万。国軍兵は諸侯数十から召集して1万5千。
 加えて、ゲルマニアからの同盟軍の艦隊と将兵がおそらく同数! 建造費も武装費も、糧食費も相応のもの。
 これを一体どこから掻き集めようと言うのです? 民衆は重税に喘ぎ、貴族も苦しみますぞ」
「共和政アルビオン打倒は、今やトリステイン王国の国是です。反乱は叩き潰すまで」
「しかし、枢機卿猊下。かつて大陸の諸王が、幾度となく連合してアルビオンを攻めたものですが、
 そのたびに敗北を喫しております。空の上までの遠征は、ご想像以上に難事でしょう」

枢機卿は、平然と言い放つ。
「しかし、これは我らが成さねばならない事。財務卿からは『不可能ではない』と報告がありました。
 ……国家の重責を担う高官、大貴族が、団結して倹約に努めれば、とね」
「これは、これは。猊下も結構、蓄財に努めておられますからなぁ。この部屋も金ぴかですぞ。
 枢機卿ゆえ、俸給は国庫からではなく、教会財産から出る形式になっておりますし……。
 まあ、我らの生活は確かに、平民からは贅沢と思われるやも知れません」
平民の血が混じった、『鳥の骨』を揶揄した口ぶりであった。

マザリーニに、にやりと笑われながら睨まれ、リッシュモンは苦笑して手を振る。
「いや、失敬。とりあえず、猊下には以上の旨、お伝えしましたぞ。
 ……それともう一つ、お耳に入れたい事がございます。多分、大した事ではありませんが」


「『薔薇十字団』?」
「然様、この頃城下の盛り場に、このような張り紙が盛んにされております。
 張り紙だけでなく、まだ入手しておりませんが、小冊子も密かに配布されておるようです。
 どうやら、ゲルマニアでは30年ほど前から流行していたようでして」
司法・警察権を担う高等法院では、貴族の裁判のみならず、民衆の風紀矯正や市場の取り締まりなども行う。
リッシュモンが差し出した粗末な張り紙には、おおむねこのような文章が書かれていた。

《今と言う時代は、宗教的にも学問においても、人間の素晴らしさが明らかと成って行く恵みの時代である。
 にもかかわらず、人々は「自然という本」を読もうともせず、醜い中傷、嘲笑、悪口に明け暮れ、
 学者達ですら奢り高ぶり、古い権威に寄りかかり、無益な議論に明け暮れている。
 そんな中で、我ら『薔薇十字団』は新たな学問的認識にもとづき、世界の革命を目指すのだ……》

「……ああ、あれか。私も少し噂を聞いた覚えがあります。新教関係の異端思想だとか。
 ゲルマニアの魔法学院を追い出された貧乏メイジどもが、反権力闘争の一環として怪文書をばら撒いたという噂ですが」
「俗世を批判している事は読み取れますが、教義の内容は支離滅裂で、何が言いたいのかもよく分かりません。
 ただ、奴らは『世界の革命』を望み、それを説いているようなのです……」

マザリーニは、危険人物リストの上位に名を連ねる、かの異能児を思い浮かべる。
タルブという前線基地をしっかり構築し、戦争準備を着々と進めるあのマツシタ少年を。
有能であれば使うが、国家に害をなすようになれば容赦なく切り捨てる。今のうちに対処法を検討しておこう。

「30年前か。私も貴方も若く、フィリップ3世陛下が御在世で、ゲルマニアではあの長い戦乱が始まろうとしていた。
 ……私はまだ、ロマリアで学んでおりましたが」
「然様ですな。更に、今から20年前、このような教義を説く集団が、我が国内にも存在しました。
 私が、ロマリアから逃亡した新教徒の弾圧命令を下した、『ダングルテール(アングル地方)』です……!」
「ダングルテールか。アルビオンからの移民が多く、自治組織もあった土地ですな」

リッシュモンは肯く。マザリーニはふと、ある事を思い出した。
「『薔薇』は、獅子や竜とともに、アルビオンを治めてきた『テューダー王家』の紋章の一つ。
 我がトリステインが、純潔を表す『百合』を紋章としたように……」

(つづく)

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