あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

覆面の使い魔

“互いに代表選手を出しての時間無制限一本勝負”
それが神聖アルビオン共和国の提示した『代理戦争』だった。
自分達の戦力を損なう事なくトリステイン王国を手にしたかったのだろう。
もし敗れれば私達は無条件でアルビオンの支配下に置かれる事になる。
相手の代表は勿論、世界屈指のスクエアメイジであるワルド子爵。
その彼を一体誰が倒せるというのか? とても呑める様な条件ではない。
だけど、任務に失敗し、手紙を奪われゲルマニアとの同盟も破綻した私達に選択肢は無かった。
中には全面降伏すら已む無しという貴族までいるのだ。
この最後の機会に全てを賭けるしかトリステインの生き残る道はない。

代表選手を選抜する式典の日。
アンリエッタ姫殿下直々の命にも関わらず、
誰一人として名乗りを上げようとはしなかった。
皆名立たる実力者揃いだというのに、ワルド子爵を恐れて戦おうともしない。
姫殿下直属の魔法衛士隊の隊長達もだ。
見るに耐えかねた私が立ち上がろうとした瞬間、
それを遮って私の使い魔が自ら手を挙げた。

「手紙を奪われたのは私の責任だ。
この借りは必ずリングの上で返すと約束しよう」

そう力強く宣言する彼の背中が頼もしく映る。
でも、それは気の迷い。
だって彼はメイジでさえない、ただの平民。
野良犬に追いかけられ、子供からは石を投げられる、
私と同じで、何一つとして取り得の無いダメ使い魔。


だから、これはきっと夢なのだろう。
そんな使い魔がワルド子爵を相手に一歩も譲らずに善戦するなんて。

ラ・ロシェールに作られた特設会場。
上空には自国の応援団を乗せたアルビオンの大艦隊までいる。
場内に響き渡る、割れんばかりの大歓声。
その中心に設けられたリングで、白熱した二人の戦いが繰り広げられていた。
処刑を観賞する面持ちで来賓席に座っていたクロムウェル議長も、
ワルドの思わぬ苦戦に困惑を隠しきれずに立ち上がっていた。
その横でアンリエッタ姫殿下が祈るようにして試合の展開を見守る。
私はリングサイドに立ち尽くしたまま、使い魔の戦いを見続けていた。
如何なる苦境に立たされようとも逆転する、彼の奇跡のファイトを。

「今だ!」
多数の偏在から攻撃を受けながらも私の使い魔が突進した。
突き立てられるエア・ニードルも鉄壁の防御の前に弾かれた。
肉のカーテンと名付けられた彼のガードは鋼鉄の強度に匹敵する。
そして、彼は這うような姿勢のタックルでワルドを捕らえた。
「へへ…遂に捕まえたぜ! おまえが本物のワルドだな!」
それは実体を含む五人の中で一番後方にいた相手。
彼の攻撃をなるべく受けない位置に移動していたのか。
五人と同時に闘うのは不可能と判断し、彼はやられながら本体を探していたのだ。

「これがキン肉ドライバーじゃい!」
残された力で彼はワルド子爵を抱えたまま、天高く舞い上がる!
その跳躍の最頂点で自分とワルド子爵の上下を入れ替えた。
いや、それだけじゃない。
両足で相手の腕関節を極めながら、両腕は同じく相手の股関節を裂いていく。
腕を封じられては杖を振るう事さえ出来ない。
そして脱出不能となったワルドは脳天からリングへと叩き付けられた!

素人の私でも一目で判った。
両腕、股関節、頭、複数の部位を同時に破壊するアレは必殺の技。
まともに受けてはスクエアメイジだろうと立ち上がる事は出来ない。
マットに崩れ落ちていくワルドの姿を見たクロムウェルの顔が蒼白に変わっていく。
しかし次の瞬間、倒れ伏したワルドの姿が消え失せていく。

「なに!?」
「フッフッフ、惜しかったなあキン肉マンよ。
お前が最後の賭けに出てくる事はお見通しだった。
五分の一の確率でやられては元も子もないので利用させてもらったよ、お前の浅知恵を」
残された四人のワルドが同時に声を上げる。
キン肉マンが仕留めたのは本体ではなかった。
あえて本体を危険に晒す事で、偏在への攻撃を誘ったのだ。
力や魔法だけではない、彼は頭脳戦においても優秀だった。

「もはや…ここまでか」
彼の片膝が力なくリングに落ちた。
死力を振り絞ったにも関わらず失敗に終わった。
その落胆が彼から気力さえも奪っていく。
そこに止めを刺さんとワルドが歩み寄る。
その光景を見つめたまま、私は言葉を発しようとした。
だけど、なんて言えばいいの?

“平民なのに良く戦ったわ”
“ワルド子爵相手に頑張ったわね”
“誰でも結果は同じだったわ”

違う、全然違う!
私が言うべきはそんな事じゃない!
アイツは言っていた。
リングの上に立つのは自分だが、一人で戦うんじゃない。
セコンドについた私も、アイツを信頼して応援する者も一緒に戦うんだって。
諦めずに最後の瞬間まで逆転勝利を信じて!

「立ちなさいよ! アンタ、私の使い魔なんでしょ!?
なら立って戦いなさい! 私が諦めてないんだから…先に諦めるなァ!!」
主人の絶叫にキン肉マンは振り返った。
そこで眼に飛び込んで来たのは涙を零すルイズの姿と、
背後の観客席で自分を応援する人達の姿だった。
風系統の魔法の対抗策を一緒に練ってくれたタバサ。
スパーリングパートナーにフレイムを貸してくれたキュルケ。
ボロボロだったキン肉一族の勝負服を裁縫してくれたシエスタ。
無理を聞いて試合前に牛丼を作ってくれたマルトーさん。
他にもギーシュや多くの仲間や知り合い達がそこにいたのだ。
ワルドに敗れ、今も生死の境を彷徨うウェールズの魂さえも。
各自、自分に思い思いのエールを飛ばしてくれている。

「そうだったぜ。これは自分一人の戦いじゃない。
トリステイン王国全てを背負った戦い、ここで投げ出しちゃ皆に合わせる顔が無いぜ」
そう言いながら彼はロープを掴み、自分の身体を引き起こす。
死に体同然だったキン肉マンの身体から闘気が立ち上っていた。
疲労が溜り硬直していた筋肉が元の張りを取り戻し膨張していく。
まるで巨人と遭遇したかのような眼でワルドは彼を見上げた。
自分が優勢の筈なのに、完全に気圧されている。
ワルドは知らない。
これこそが彼が最強と謳われた所以。
友情パワーに後押しを受けた、火事場のクソ力の存在を!

「だが風は偏在する! 誰にも風を捕らえる事は出来ん!」
負けじとワルドも声を張り上げて吼える。
互いの精神力が勝負の鍵となるならば、スクエアメイジの自分が負ける筈が無い。
過信ではない、これは自信に裏打ちされた確信だ。
だが、それをキン肉マンは笑った。
「果たしてそうかな? 今、おまえの言葉で閃いたぜ!」
「なに!?」
「行くぞ、これが最後の勝負だ!」
合図と同時に彼はワルドの周りを走り出す。
それはマッスル・ランニングという彼の戦闘技術。
相手の攻撃から逃げ惑っているように見せて、
その実、あらゆる角度から相手の構えを見て隙を探す技法。
しかし、この終盤に来てそんな事をして何になるというのか。
いずれ力尽きるか、攻撃をしてくるしかないのだ。
それを待って迎撃すれば十分だ。
動き回る相手を下手に攻撃して避けられるよりは、
残された力を温存すべきだとワルドは判断した。

しかし、止まるどころか彼の動きは更に加速していく。
その速度は、もはや突風と呼ぶに相応しい。
気が付けばワルドを覆い隠すように竜巻が巻き起こっていた。
魔法ではなく力のみで引き起こされた嵐にワルドが絶句する。
だが、これでどうするつもりだというのか。
風の壁に触れさえしなければワルドが傷付く事はない。
ここからでは相手も攻撃する手段など無いだろう。
無駄な体力を浪費するだけだと相手の行動を鼻で笑った瞬間だった。

「なんだと!?」
自分の偏在が解かれて風の中に消えていく。
精神力が尽きたのではない。
では、どうやって魔法が解除したのか?
その疑念の答えは竜巻の向こうから聞こえてきた。

「嵐の中心は空気が巻き上げられ、真空に近い状態になる。
空気が無ければ風も吹かない、つまりは偏在も出来ない。
どうやら私の予想は的中したようだな」
「貴様…!!」
「今度は私の“風”を受けて貰うぞ! 48の殺人技の一つ、風林火山!」

直後、風を裂いてキン肉マンがワルドへと駆ける。
杖を振るう腕を絡め取り、サイクロンホイップを仕掛ける。
そのまま腕をロックした状態でリングを縦横無尽に駆け巡る。

「迅き事風の如く!」
最大限に加速をつけた所でワルドをロープへと投げ飛ばす。
腕が自由になった瞬間、ワルドは杖を振ろうとした。
だが完全に平衡感覚を失った状態では抵抗さえ儘ならず、
その衝撃で跳ね返ってきた所を今度は両脚を絡め取られる。

「静かなる事林の如く!」
転がりつつ相手の股関節を破壊するローリングクレイドルを掛けながら、
相手の勢いを利用してキン肉マンが再び天へと昇っていく。

「侵掠する事火の如く!」
最頂点で再びワルドの頭を下に向けたまま両膝で固定。
天地を射抜く雷のように彼がリングへと舞い戻る。
放たれたツームストンパイルドライバーが今度こそワルドの脳天を貫いた。
腕、両脚、頭と相手の体を流れるような連続技で完膚なきまでに破壊していく。

「動かざる事、山の如く!」
そして倒れたワルドに最後のフィニッシュが決まった。
両腕を掴み後ろへと極め、両脚にも自分の脚を絡ませて極めたその技は、
残虐超人をして本当の殺人技と言わしめたロメロ・スペシャル。
両腕、両脚、背骨を破壊する複合関節技。
吊り上げられたワルドの背骨が弓の如く曲がり軋みを上げた。

「が…はっ……」
苦悶を上げてワルド子爵はリングに倒れ込んだ。
その横には彼を見下ろす私の使い魔。
勝敗は誰の眼にも明らかだった。
予想だにしなかった結末に、会場がしんと静まり返る。
その沈黙を破ったのは高らかに鳴り響くゴングの音。
大歓声と共に、勝者の名が告げられた。

「両国の運命を賭けた世紀のデスマッチ!
それを制したのはトリステイン王国代表、キン肉マンだァァー!!」
舞い散る紙吹雪の中、第三国から選抜されたジャッジが彼の腕を掲げる。
だが彼の視線は倒れたワルドへと向けられたままだった。
そして呟くように彼は言った。
「いい勝負だったぜ。いつかまたやろう、次は国の将来なんか抜きにしてな」
「…………」
ワルドは何も答えない。
代わりに来賓席から悲鳴のような声が上がった。

「バカな…! こんな筈はない! この勝負は無効だ!」
叫び声を上げているのはクロムウェルだ。
万に一つとて敗れる事はない。
そう信じていた彼には目の前の出来事が悪夢に映った。
自分の敗北を認めず、見苦しく喚き散らす姿にワルドさえも呆れる。

「…皇帝陛下。恐れながら、この結果は我が未熟が招いた事とはいえ負けは負け。
ここは約定を違える事なく潔く軍を退かれるのが宜しいかと…」
キン肉マンの肩をを借りて立ち上がったワルドが諭す。
この会場には両国のみならず、ゲルマニアやガリアの王族も来ているのだ。
こんな所で決まりを破ればどうなるかは明白。
ましてや不正の戦に兵達の士気が上がる筈もない。
しかし、それを受け入れずクロムウェルは全軍に指示を飛ばす。
「ええい黙れ! 茶番は終わりだ!
どうなろうと構わん! 全軍攻撃を開始しろ!」
「陛下!」

突然の命令に困惑しつつも軍船が砲撃を始めた。
次々と撃ち込まれる砲弾に、観客席にいた民衆が絶叫を上げて逃げ惑う。
その光景を眼に焼き付けながらアンリエッタが警護の兵に逃がされる。
代理戦争の意味は無く、無抵抗な者達を踏み潰す侵略者がそこにはいた。

「おのれー! 生かしては帰さんぞクロムウェル!」
知り合い達を避難させながらキン肉マンが怒号を上げる。
その彼の視界の端に一人佇む影があった。
見れば、その人物はリングに立ち尽くすワルドの姿。
まさかダメージを負い過ぎて動けなくなったのかと駆け寄る。
しかし、それを手で制しながら彼は詠唱を始めた。

瞬間。ラ・ロシェールの空に暗雲が立ち込め稲妻が走った。
続けて礫のように雨が降り注ぎ船の視界を奪った。
加えて吹き荒れる風が航行を妨げ、互いの船を衝突させる。
雷鳴が轟き、雷に打たれた軍艦の火薬庫が誘爆した。
この天候では、もはや戦闘の続行など不可能であった。
引き上げていくアルビオン艦隊を見届けた後、
ワルドはゆっくりとその場に倒れ伏した。
駆け寄ってきたキン肉マンが彼の身体を抱える。
触れた身体には体温は感じられず氷のように冷たくなっていた。

「何故じゃ、ワルド!
あれだけ精神力が残っているなら、何故もっと魔法を使わなかった!?」
「フフ…。キン肉マン、お前は不思議な男だ。
平民に傷を負わされるなど屈辱でしかない筈なのに、
お前と戦う度に少しずつ忘れていた貴族の誇りを思い出したよ。
だから、どうしても対等の勝負で決着をつけたかったのさ。
互いの全てを出し切る戦いとは、かくも素晴らしいものだったとは…」
使い魔と同じく、ワルドに駆け寄っていたルイズが見下ろす。
憑き物が落ちたような穏やかな微笑み。
そこには今までの彼ではない、幼き日に出会ったワルドがいた。

「…これを」
ワルドが懐から指輪を差し出す。
それはクロムウェルの『アンドバリの指輪』だった。
戸惑う私達にワルドは説明する。
「その指輪ならウェールズ皇太子を生き返らせる事が出来る筈だ」
「何故じゃ!? 何故、敵だった私達にそこまでしてくれる!?」
「聞け、ルイズは今、途方も無い敵に狙われている。
僕はルイズを守る為に、已む無くクロムウェルに協力する事で彼女を守ろうとした。
だが、それも過ちだった。僕は戦いから逃げようとしたに過ぎない。
頼む、彼女の使い魔として…ルイズを…守っ…」
それがワルドの最期の言葉だった。
使い魔に向けて伸ばされた手は力尽きて地面に落ちた。
ワルドの名を叫びながら、わんわん泣く彼の背中で私は泣けずにいた。
悲しいのに、どうしてか涙は零れなかった。

「…もう大丈夫なの?」
「ああ。いつまでも泣いてちゃワルドに笑われちまう。
それに誇り高い貴族として死ねたんだ、アイツも満足してるさ」
やがて涙を出し尽くしたのか、泣き終えた彼に問いかける。
それに答えながら彼はワルドの遺体を抱き上げた。
指輪と共に懐から零れ落ちたロケット。
それを開いたまま、私の使い魔は彼の胸の上に乗せた。

「さあ、帰ろうワルド。
お前の父と母が愛し、そしてお前が愛したトリステインに…」

ラ・ロシェールから麓を見下ろす。
そこには見渡す限りに広がるトリステインの大地。
嵐の過ぎ去ったそこには天国に届かんばかりの七色に輝く虹の橋が架かっていた。






新着情報

取得中です。