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ゼロの花嫁-04


決闘騒ぎから三日後、既に傷は完治していたルイズだったが、何故か彼女は自室にて全身を恐怖に震わせていた。
この事件に関して、学園側が最終的に下した判断は、両者痛み分けであった。
事情聴取の結果、貴族としてあるまじき行為に及んだのは三年生側だったと分ったのだが、だからルイズ達が悪く無いという事でもない。
三年生側にも重傷者二名を出しているのだ。決闘だから仕方ない、なぞと学園教師が考えるはずもない。
参加者全員、十日間の謹慎と奉仕活動に加え、実家に事細かに事件の詳細を報告するという事になった。
そして、実際に禁止されていた決闘を行ったルイズとキュルケ、そしてギーシュと二人の三年生には更に厳しい罰が下される。
この五人は同様の罰則に加え、家族ないし代理者の呼び出しとなったのだ。
これは、学園の処置としても異例の事である。
学園生徒のほとんどがしかるべき立場にある貴族達、その家族をいかに権威有る学園とはいえそうそう呼び出せるものではない。
しかし、オールドオスマンはこれ以上の妥協を決して許さなかった。
当初彼は怒りの余り、参加者全員の放校処分を声高に叫んでいたのだが、周り中の教師達に窘められ、渋々ながらこの案で妥協したのだ。
重傷者四名を出す決闘騒ぎ、何より集団で最上級生まで混ざって下級生をいたぶろうなぞ、到底許せる事ではない。
オールドオスマンの怒りも無理ない事であるが、有力貴族を多数含む彼ら全員の放校処分も、同じぐらい出来ない相談だったのだ。
実際の所、オールドオスマンが本気になればやってやれない事も無いのだが、貴族の恨みを買う事を教師達は恐れたのだ。
そしてオールドオスマンは経験豊かな人物である故に、それらに対したルイズ達にも非があると見抜いた。
どちらかが正しい対応を行っていればここまでの事態にはならなかったのだ。
そんなこんなでこのような落としどころと相成った訳だ。
決闘時の勇敢さは何処へやら、親族呼び出しを聞いたルイズはベッドの上で悶え転がる。
「終わりよ! 私の人生ここであうとー! 一体どう言い訳すればいいっていうのよ! ああぁぁぁぁぁぁ……」
その様があまりに哀れなので、燦が慰める。
「そんなに落ち込まんで、な? 私も一緒に謝るから」
「謝って済んだら衛士はいらないのよぉぉぉぉぉ……とにかく! 燦、こうなったら一緒に言い訳を考えましょう! 何とか、こう、怒りが少しで済むように……」
もんの凄い腰抜け発言をしている所に、同じく親呼び出しを喰らっているキュルケが入ってくる。
「あら? やっぱり落ち込んでるわね~」
ベッド側まで来ると、椅子に腰掛ける。
「キュルケ! あなた何か良い言い訳とか考えた!?」
焦るルイズと対照的にキュルケは暢気に答える。
「ああ、私実家遠いし。多分呼んでも来ないんじゃないかしら? 代理人ぐらい来るかもしれないけど、まあその程度だし」
「何よそれ! 卑怯よ! 卑劣よ! 大体あんたん所、私の実家と大して離れてないじゃない!」
八つ当たり気味に喚き散らすルイズ。
「国境挟んでるしね~。それにウチはトリステインの貴族社会とは接点少ないから、別に学園に良い顔する必要も無いし」
「ひきょおぉぉぉぉぉものおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
断末魔の声を残し、ベッドに突っ伏すルイズ。
突然、部屋のドアが開く。
驚いた三人がそちらを見ると、眼鏡をかけた気の強そうな金髪の美女が仁王立ちでそこに居た。
ベッドに居たルイズはそこから飛び起きる。
「エレオノール姉さま!」
かの金髪美女はキュルケや燦には目もくれず、一直線にルイズの元に歩み寄るとその耳を引っつかむ。
「い、痛いエレオノール姉さま!」
ルイズの抗議も無視。そのまま部屋の外まで引きずっていった。
この話をそれぞれの家族に伝えに行ったのが昨日の事であるから、エレオノールの訪問は異例の早さであろう。
キュルケと燦は呆然とそれを見守る。
「……なるほど、ルイズの所は姉が来たって事ね」
「大丈夫じゃろかルイズちゃん」
「これから二人でオールドオスマンの説教受けて、それからじゃないかしら、一番危険なのは」
人事のようにそう言うと、キュルケは燦を散歩に誘う。
ルイズが怒られているのにと遠慮する燦であったが、どうせ時間がかかるからと半ば強引に引っ張って行った。
中庭で軽食でもと思いそちらに向かうと、既に一組先客が居た。
良く見ると、ギーシュとそれに良く似た美男子が居る。

実は今は授業中で、他に中庭に居る者もいなかったので、キュルケ達が席に着くとその気は無くとも会話が聞こえてしまう。
どうやら彼はギーシュの兄で、オールドオスマンの説教を一緒に受けてきた直後らしい。
彼もオールドオスマンの知らせを聞いてすっとんで来た口と思われる。
彼の口調はギーシュを問い詰め、責め立てるというよりは、そんなギーシュを見て嘆き悲しむといった感じである。
ギーシュに似たキザったらしい話し方をするが、ギーシュよりも洗練されているせいか、まるで嫌味を感じない。
「……直接文句言われるよりも効くわねコレ……」
「大変じゃなぁ」
案の定、ギーシュは兄の話を聞きながら終始涙目で俯いたままだ。
そして会話の流れから、ギーシュは兄を伴ってルイズに謝りに行くという話になっていく。
すぐにでも部屋に向かいそうな二人に、キュルケは声をかけた。
「ルイズなら、さっきお姉さんと一緒にオールドオスマンの所言ったわよ。その後二人っきりの説教タイムもあるでしょうし、まだしばらくかかるんじゃないかしら?」
ギーシュの兄はキュルケに礼を言った後「ご家族もいらっしゃるのなら都合が良い。終わるまで待たせてもらおう」と謝る気満々である。
まあ相手はヴァリエール家である。下手に怒らせると後で何があるかわかったものでもないので、これが当然の反応なのだろうが。
ギーシュは、兄に断るとキュルケの前に立つ。
「何よ?」
深々と頭を下げるギーシュ。
「済まなかった。君には随分と酷いことをしてしまった。どうか許して欲しい」
まさかの不意打ちに目を丸くするキュルケ。
更にギーシュは燦にも頭を下げる。
「君にも失礼な事を言ってしまったね。済まない」
キュルケは更に仰天する。まさか平民の燦にまで頭を下げるとは思わなかったのだ。
燦はにこっと笑って返す。
「私はええよ、気にせんと。でもルイズちゃんにもきちっと謝ってな。あれは私ホンマに頭来たんじゃき」
「ああ、もちろんだ」
キュルケの方に向き直るギーシュ。キュルケも燦に倣って笑ってみせた。
「あれから三日経ったけど、こうして面と向かって頭を下げてきたのは貴方が初めてよ。こっちこそ無茶して悪かったわね」
そんなやりとりをギーシュの兄は微笑ましい顔で見つめていた。


しばらくしてギーシュ兄弟がルイズの部屋へと向かうと、キュルケと燦は敷地外でここ数日の日課となった戦闘訓練を行った。
キュルケはこの間の決闘で、戦闘は魔力ではなく技術だと悟ったらしい。
燦も付き合いで剣を振るっている。
謹慎措置を容赦なくシカトするキュルケだが、それを咎める者が居そうな場所や時間帯をさりげなく外しているので、今の所は問題無いようだ。
充分に汗を流した後で、二人は部屋へと戻る。
そこで、ちょうど寮から出てくるギーシュ兄弟を見かけた。
心なしか青ざめている兄と、ぼろぼろと涙をこぼしながら歩いているギーシュ。
「あ、兄上、僕は悔しい。僕だけならまだしも兄上まで……」
「お前はそれだけの事をしたんだ。グラモン家の代表として来ている以上、そういう事もあるよ」
「で、でも兄上には……兄上があんな事言われるなんて……」
心底悔しかったのだろう、握り締めた拳と絶え間なく滴り続ける悔し涙が大層痛々しい。
キュルケも燦もさっきあんなやりとりをした後だっただけに、とても気まずかったので、顔を合わせないように物影に隠れていた。
「あのキツそうな姉よね、多分。ぼっこぼこにやられたんでしょうね……」
「……ルイズちゃんのお姉ちゃん、めっちゃ恐そうじゃったから」
二人が通り過ぎた直後、エレオノールが馬車に乗り込み、学園を去って行った。
キュルケと燦は、ルイズの部屋にそーっと入る。
「るいずー、元気ー?」
ベッドに突っ伏したままルイズは答えた。
「……無理、死んだわ。いえ殺して、お願い。もう私明日からの全ての事に希望が持てそうに無いわ」

これは重症とキュルケが肩をすくめると、燦も同じように困った顔になるのだった。


翌日早朝に、ルイズの部屋をノックする音が響いた。
まだ半分寝ぼけているルイズに代わりに燦が扉を開けると、そこには幽鬼のような顔をしたギーシュが立っていた。
「……ルイズ、少し外いいかい?」
燦が困った顔でルイズを見る。ルイズも幸い着替えは済んでいることだし、これは逆らってはいけないと思ったのかすぐに立ち上がる。
「わかったわ。ああ、燦はここで待ってなさい」
ルイズはギーシュの様子を伺う。
何かを堪えているような、今にも、そう今にも襲い掛かってでもきそうな雰囲気だ。
扉の前で待つギーシュを促し、その前をすり抜けた時、ギーシュはぽつりと呟いた。
「……あんな屈辱は初めてだった……しかも、兄上まで侮辱して……」
怪訝に思ったルイズは振り返ってギーシュを見る。
「ギーシュ?」
「兄上は何も悪く無いのに……許せない、絶対に許せるもんか……」
昨日のエレオノール大暴れを見ているルイズは、ギーシュの気持ちも痛い程わかっていた。
「あ、あのねギーシュ。エレオノール姉さまも悪気があって……」
それ以上言えなかった。
ギーシュの目がヤヴァイ。もう何か一線を突き抜けてしまっている目をしてる。
昨晩寝ていないのであろうその隈だらけの目元なんかが、その雰囲気をより濃密なものとしている。
「ルイズ、君にはもう一度、僕と決闘してもらう」
命令ですらない断定。理屈は通用しそうにない。
「ぎ、ギーシュ。それは色々とマズイから、落ち着いて……」
「さあルイズ! 決闘だ!」
ゼロと呼ばれるルイズに敗れた事。軍人の誉れであるグラモン家の人間が。女に男が。
そんな事もギーシュの妄執に拍車をかけていた。
ルイズが尚も説得しようと足を踏み出すと、ギーシュはその杖を抜き、即座にゴーレムを呼び出した。
宿舎の廊下で。
「ギーシュ! いいから落ち着きなさいって! こんな所見つかったらタダじゃ済まないわよ!」
そう言いながらゴーレムから距離を取るルイズ。
しかしギーシュはまるで聞いていない。かくなる上は実力行使で黙らせるしかない。
もう二度とやりたくはなかったが、鉄拳で黙らせる手ならばギーシュは防げまい。
そう思いゴーレムを見たルイズは全身の血の気が引いていく音を聞いた。
(……通路一杯にゴーレム出されてるじゃない。これすり抜けてギーシュ殴るとか絶対無理よ!)
「行け! ゴーレム達!」
通路一杯に広がったゴーレム達が、ルイズに襲い掛かってきた。
「待って! 待ちなさい! 待ってってばーーー!!」
殺到してきたゴーレムが剣を振り、槍を突き、斧を叩きつけにくる。
これはまともにやっては勝てない。それ以前に、謹慎期間中にまたそんな真似してたら絶対とんでもない事になる。
とにかくこの場は逃げる以外に手は無さそうだ。
何とかギーシュを冷静にさせないと、こっちまでとばっちりでまた処分を受ける事になる。
ルイズは一目につかなそうなルートを選びつつダッシュで逃げ出す。
それを追うギーシュ、ルイズの心中なぞ知った事かとゴーレム達と共に駆け寄ってくる。
「なんでこうなるのよー!」
悲鳴を上げて逃げ去るルイズと鬼気迫る表情でそれを追うギーシュとゴーレム軍団。
「朝ごはんまでには戻ってなー」
燦は、どうしていいのかまるでわからないので、とりあえず手を振って二人を見送ったりしていた。
キュルケとタバサがルイズ達を朝食に誘いに来た頃、ルイズが全身汗だくになって戻ってきた。
「おはよルイズ。一体何事よ?」
「ギーシュの奴裏庭でのびてるわ。ざ、ざまを見なさい、振り切ってやったわ」

肩で息をしながらそんな事を言うルイズ。
タバサが窓から裏庭を見ると、ギーシュがそこでゴーレム達と一緒にひっくり返っていた。
倒れるギーシュの周囲の地面が変色する程に汗を掻いてる辺り、どうやら体力負けと思われた。
タバサはルイズに向かって頷く。
「正しい選択」
ルイズがやり返さなかった事を評価しているらしい。
「ありがと。あー、朝から汗かいたわ。さっさと食堂に行きましょう」


謹慎明けまでにギーシュに襲われた回数、十六回。
タバサに褒められた手前、こっちも逆ギレする事も出来ずひたすら逃げ回った。
回を重ねる毎にゴーレム扱いが巧みになっていくギーシュ、その勤勉さを別の所に向けて欲しい。
キュルケの戦闘訓練に付き合わされる事四回。
決闘では助太刀してもらう形になったので、借りを返すつもりで手伝った。
移動目標を狙う訓練だそうで、調子に乗って近距離でもかわせるなぞと豪語した結果、三度焦げた。今では反省している。
コルベール先生の説教三回。
ギーシュに襲われる所を発見されて一回、決闘直後の酒盛りがバレて一回、魔法失敗で塔にヒビ入れて一回。
キュルケに張り合って魔法使ったらこの体たらく。あれで怒られるのが私だけなんてとても理不尽だと思う。

ようやく謹慎が開けて出席が出来るようになったルイズとキュルケ。
ちなみにタバサ含むクラスメイト達はみんな素行がよろしかったので謹慎期間が短縮されていた。
さんざルイズに襲ってきたギーシュもちゃっかり素行優良組に入っている。
何か納得いかない気もしたルイズであったが、こうして謹慎も無事終わった事だし、気を取り直して授業に出る。
「おはよールイズ」
そう声をかけてくるキュルケ。
席は一番後ろの窓際。タバサもそこに居る。
何故かその周辺だけ、不自然に席が空いていた。
ルイズなりに察する所があったのか、他のクラスメイト達とは目を合わせないようにしながら席に着いた。
そうして授業が始ったが、クラスメイト達はまるでルイズ達が居ないかのように振舞っている。
(仕返しのつもり? ふん、相変わらずいけすかないやり口ね)
それが、ルイズの勘違いだったと気付くのは昼食時であった。
中庭でまたルイズ、キュルケ、タバサ、燦の四人で昼食を取る。
昼食時だというのに、四人の居るテーブル周辺だけ何故か人が来ないのだ。
みな遠巻きにこちらを見てひそひそと何事かを言っている。
キュルケはサンドイッチを手に持ちながらぶーたれた。
「何よ、言いたい事があるんならはっきり言えばいいじゃない。授業中もそうだったけど、気に入らないわね」
ルイズもキュルケの意見に賛同するが、タバサは一人首を横に振る。
「違う。文句を言いたいんじゃない」
「じゃあ何なのよ」
タバサはルイズを指差す。
「不死のルイズ」
「はい?」
次にキュルケを指差す。
「ゲルマニアの魔王、邪王炎殺拳キュルケ」
「はぁ?」
意味のわからない二人を他所に、タバサはサラダを平らげ、続きを口にした。
「二人の新しい二つ名。みんな決闘の話知ってる」
ルイズとキュルケは揃って複雑そうな顔をする。
「……不死って何よ。人をモンスターみたいに言わないで欲しいわ」
「……こ、コメントしずらい名称よねそれ」

しかし燦は何故か嬉しそうだ。
「ドスの効いたええ二つ名じゃ、良かったなルイズちゃんもキュルケちゃんも」
ナプキンで口元を綺麗にしたタバサは更に続けた。
「みんな恐れてる。しばらくは文句言ってくる人居ないと思う」
二人共、それはそれで楽といえば楽なので、文句を言うのは止める事にした。
そこで燦は、不意に何かを思い出したように立ち上がる。
「ほうじゃ、私デザートもらってくる」

がたん

立ち上がった拍子にテーブルが揺れ、上に載っていた水の入ったコップが傾く。
咄嗟に動いたのはタバサだ。
コップに素早く手を伸ばす。
しかし、既にコップは大きく斜めになっており、そこから滴る水が燦の両足に向かう。
ルイズは燦の腕を引き水からかわさせようとするも、燦はそれが解っていないのか、中途半端にその力に逆らって更にテーブルを揺らす。
他のコップも大きく揺れる。それらは何故か吸い込まれるように燦へと向かって行った。
燦が水を被ったら人魚に戻ってしまう。みんなにそれがバレたらマズイのだが、このままではフォローは不可能。
かくなる上は、最終手段。
キュルケは速攻で呪文を唱える。ドットやラインではダメだ、範囲が狭すぎる。
トライアングルスペルで、このテーブル一帯を……

幸い、目撃者達が一様に口をつぐんでくれたおかげで、中庭のテーブル群の色を全て黒に変えてしまった事へのお咎めは無かった。
中庭は燦が芝の張りなおしも含め、罰として一人で綺麗にさせられた。
夜、何処から聞いてきたのかモンモランシーに何故中庭でいきなり魔法を? と問われ、返答に困ったキュルケは、
「……そういう事もあるのよ、私の側に居ると」
と答えた。その返答と中庭事件の内容は、その晩の内に学園内を駆け巡っていた。
キュルケは、これが更なる事態を呼び起こす事に、まだ気付いていなかった。


ルイズ達四人は翌日も同じように中庭で昼食を取っていた。
そこに、にぎやかな下級生達の集団が歩いてくる。
彼らはみな話しに夢中で、とても楽しそうだ。
すると、調子に乗った女子が一人、後ろを向いたまま小走りに走り、ついバランスを崩してしまう。
「きゃっ」
なんとか立て直したが、持っていたお盆の上の紅茶が零れ、キュルケの服の裾にかかってしまった。
あらら、とそんな微笑ましい下級生を見守っていたキュルケだったが、突然周囲が蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「あの下級生! 何やってんだ!」
「まずい、まずいぞ……絶対マズイ!!」
「お、俺ちょっと用事思い出した!」
「お前等! 早く避難しろ! 周囲一帯昨日みたいに火の海にされちまうぞ!」
いきなりの騒ぎにキュルケもルイズも声のした方を一々振り向く。
そして、キュルケに紅茶を零してしまった女の子は、その場にぺたんと座り込んでしまった。
「あ……あ……わ、私……なんて事を……」
彼女のその声を合図に下級生達は一斉に逃げ出す。
「うわー! お、俺関係無いっすよー!」
「近づいちゃダメ! 巻き込まれちゃうわよ!」
「馬鹿! お、お前が悪いんだからな! 俺はしらねーぞ!」
椅子に座ったままのキュルケは何とリアクションしてよいのか困り、とりあえず倒れた女の子の方に手を伸ばし……
「ゆ、許して……お願い、殺さないで……殺さないで、私、まだ死にたく……」
その手を合図に、もうぼろぼろ泣き出している。

思わず手を止めてしまったキュルケ。
救いを求めるようにルイズ達を見る。
「私不死のルイズだから知らなーい」
「あー、えー、と、とりあえず助け起こしたらどうじゃろ」
タバサは無言で食後のお茶を楽しんでいる。
仕方ないので椅子から立ち上がって誤解を解こうとするキュルケ。
その動作がきっかけであった。
「ヤる気だ! 魔王が! 魔王が動いたぞ!」
「上級生蒸し焼きにして喰っちまったぐらいだ! あの女の子なんざ炭にされたあげく悪魔の庭の肥料にされちまう!」
「出るぞ邪王炎殺拳! マジパネェってあの人!」
そんな声に絶望しながらキュルケは数歩前に出る。
そこで、座り込む女の子の前に、一人の男子生徒が走りこんできた。
「こ、こいつをヤるんならお、おおおおお、俺が相手だ!」
いきなりの行動に呆気に取られる一同。
しかしこの流れに乗っていた外野は一様に驚きの声をあげた。
「ばっきゃろー! 死ぬ気かてめえ!」
「勇気と無謀を履き違えるな! 無駄死にだぞ!」
男子生徒は、これが最後とばかりに、震えながら後ろの女子生徒に告げた。
「お、俺さ、お前の事……入学した時からずっと……」
何やら盛り上がっている外野と下級生。
全てが嫌になりテーブルに突っ伏してしまうキュルケ。
急かすようにタバサがつつくが、キュルケはもう何をする気も起きなかった。
仕方が無いのでタバサが二人の下級生に言う。
「魔王は貴方の勇気に感銘を受けた。今回は見逃すそうだから早く行って」
驚いた顔でキュルケとタバサを見つめる下級生二人。
そんな二人にキュルケはそちらを見ようともしないで手だけを振ってみせた。
それを見た男子生徒はまだ呆けている女生徒の手を取ってその場を去ろうとする。
燦は、一段落ついたのでほっと一息。
テーブルの奥にあったパンを取ろうと手を伸ばし、手前にあったコップを肘にひっかけ零してしまった。
「あ」

びしゃびしゃー

瞬時に、お互いの役割を理解する三人。
視界を遮る事の出来る魔法を唱えるキュルケと、それ以外の二人という組み合わせだ。
ルイズとタバサが同時に動き、テーブルクロスを二人で持って一気に引っ張り燦にかける。
しかしこれでは不十分。何せ中庭に居る全員の視線がこちらに向いているのだ。
最後の仕上げ、絶対やりたくなかったが、キュルケはその魔法を唱えた。


「魔王は助かったと一瞬希望を与えておいて、地獄に落とす。そんな冷酷サディストだそうよ」
モンモランシーはルイズの部屋でそんな話を聞かせていた。
「へー、そー」
あんにゅいな顔でやる気なさそうにそんな返事をするキュルケ。
「それでね、あの二人タバサが炎から助けてあげたじゃない。だからタバサは魔王配下にありながら人の情けを知る唯一の人物って事になってるわね」
「…………」
これもまた返答のしようが無い内容なのでタバサは黙っていた。
燦は自分が原因なので、部屋の隅で申し訳無さそうに小さくなっている。
そしてさっきから笑い転げているルイズが続きを促す。
「そ、そうなの、く、くっくっく……で、それで?」
「そんな良い人が魔王配下に居るなんておかしい。きっと魔王に家族を人質に取られているんだ。ってのが大半の意見」
噴出してしまい、みっともなく大笑いするルイズと、複雑な表情のタバサ。
「もうダメ。お腹痛い……最高よそれ。今年のベストヒットだわ」
そこまで言うとモンモランシーは真顔になってキュルケに聞く。
「で、実際の所。キュルケはなんだってあんな所で邪王炎殺黒龍波なんて撃ったの?」
「知らないわよ! もう放っておいて!」
以後、キュルケの元を訪れるボーイフレンドは絶無となったらしい。


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