あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのミーディアム 第一章 -18


ルイズを追い、オスマン氏との話も半ばに、思わず学園長室を飛び出してしまった水銀燈だが、
彼女のミーディアムは行方をくらまし結局その姿を見つける事は出来なかった。

途方に暮れたお人形が佇んでいるのは以前の休みで居眠りをした中央塔横のベンチ。
彼女はデルフリンガーを隣に立てかけそこに座る。そして膝の上に頬杖をついて曇った顔を支えていた。

「はぁ…思いもしなかったわぁ。まさかこんな形であの子に伝える羽目になるなんて」

アリスゲームがこの地で行われない以上、水銀燈にとってはここに居る事に意味はない。
つまりアリスになると言う本懐を成し遂げるため元の世界に帰らなければならない。
……ルイズと契約を打ち切って。

「姐さん。んな大事な事、なんで娘っ子に黙ってたんだよ?」
デルフが少しだけ鞘から鍔を上げて刃を覗かせる。

「別に黙ってた訳じゃないわぁ…。気持ちの整理をしてから伝えるつもりだったのに…」
そしてブツブツ言い訳がましく、ふてくされたようにしてデルフにそっぽを向いた。

「でもこれじゃあ結果的に黙ってたも同然だぜ?今となっちゃ後の祭りってもんだ」
「言われなくても分かってるわよぉ……」
気持ちの整理とは言うが、本当はそれを伝え辛くて後回しもとい、逃げていただけだった。
今更それを認め、それを悔いる。だがもはや遅いのだ。傍らのボロボロの剣の言う通り、後の祭りだ。

水銀燈は眉間を押さえて忌々しく顔を振る。彼女はラプラスの魔から問われた2択の問題を思い出していた。

『帰りますか? 帰りませんか?』

本来なら答え等聞くまでもない。だが水銀燈はその答えに踏み切れなかった。
そして結果はこれだ。
気持ちの整理などつかずに、思いもよらぬ形でルイズに真意を伝えるハメとなった。

(だからって…この世界に残る事なんか考えられないだの、存在意義を奪っただの、そんな風に伝えなくても言いじゃないのよぉ……)
やっぱり始祖とやらは異界の者に対しては冷たいのだろうか?
そう思い、水銀燈は大きくため息をついた。
「姐さん、姐さん」

「今度は何よぉ、デルフ」
再び自分の膝に肘をついて顔を両手に預け、彼女はデルフリンガーに視線だけ向ける。
「なんかこっちに来るぜ」
デルフに移した視線をさらに奥に向けた先。そこからのっそのっそ何かが近づいてきた。
「何かしら…あれ」
水銀燈は顔を上げて胡散臭さそうにそれに目を向けた。
近づくにつれだんだんと大きくなってくるそれは、彼女にとって見覚えがある物だ。

「たしかあれって品評会で見た…」
それは大きなモグラだった。丸々とした茶色い体の上に、よく見ると誰か人がダラーンと突っ伏している。

品評会で見たジャイアントモール。それを使い魔にしていたのはたしか……

「や、やあ水銀燈」
「…ギーシュ?貴方ギーシュなの!?」
ぐったりさせた首を億劫そうに上げた金髪の眩しい少年の顔は、目元に濃い隈を浮かばせたギーシュ・ド・グラモンその人。
異常にやつれた知人の表情故に、一瞬理解が追いつかなかった。

「話は聞いたよ…フーケを捕まえたそうだね……大活躍だったらしいじゃないか……。決闘で負けた僕も鼻が高いよ……」
ギーシュは「あははは…」と乾いた声で笑い、妙なことを呟いて精気のないげっそり顔を水銀燈に向けた。

「それより何事なの?その酷い隈!」
その病人のような顔色に水銀燈は驚きを隠せなかった。
寝不足にしてはひどすぎる。一体どれだけの不眠に耐えればこのような半ば死にかけたような顔になるのだろうか?

(そう言えば品評会の時点で危険な兆候が出てたわねぇ…)
彼女は光のない瞳で空を見上げアハアハ笑い続けるギーシュを見て顔をしかめた。

「ようやく…悩んでた事に片が付いたんだ……寝る時間も惜しんで考えて、ね……」
「悩み事?どんな事よぉ?」

天を仰いだギーシュの首がガクンと落ちる。彼はクワッ!と目を見開いた。
「ヒドいじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!あの時の君からの質問をずっと考えてたのにぃぃぃぃぃーーーー!」
「きゃぁぁぁ!?」
そして頭をガタガタ上下させ妙に高いテンションでギーシュは絶叫した。
その勢いに然しもの彼女も思わず後ずさる。
オマケにキモい、実にキモい。正直顔を背けて飛び去りたい。
だが、ギーシュ魂の叫びとがっしり自分の肩を掴んだ両手の前に水銀燈はそれを断念した。

「仮にモンモランシーとケティ、同時に結婚を申し込まれたらどうするかって話だったじゃないかぁぁぁぁぁ―――ーー!」

「あーそう言えばそんな話も…って、あれまだ考えてたのぉ!?」

自分がお父様とルイズ、どちらを取ればよいのかの例えとしてギーシュに聞いた質問。
確かあれは品評会よりさらに前の話だだいたい三週間近く前だっただろうか?
そんなに前から眠れぬ夜を繰り返し過ごしているのなら、ギーシュのこのアンデットな顔も納得できる。

「あの時、もういいって言ったじゃないのぉ!」
「でも頭から離れなかったんだよぉぉぉぉーーーー!」
ギーシュは両手で頭を抱え既に乱れていた金髪をかきむしって更に叫んだ。

別段水銀燈はギーシュを苦しめるためにこんな事を聞いた訳では無いのだが……
どうやら少々浮気性ながらこのギーシュと言う男、恋愛に関してはかなりバカ正直な質らしい。

「まさかここまで深刻に考えるなんて思わなかったわぁ…。貴方、ホント女性がらみだと大したお馬鹿さんねぇ……」
「フフフ…!お褒めに預かり至極光栄!拍手喝采傷み入る!」
「ほめてない…ほめてない…」

コホンと一つ咳をしてギーシュは水銀燈を真っ直ぐに見据えた。
「では!僕の出した答えを、君に聞いていただこう!!」
それに水銀燈は無言でゴクリと喉を鳴らした。
果たしてギーシュが出した答えは?自分はそれを受け止め、今後をどう考えればよいのか?
ギーシュの口から放たれた衝撃の一言は!


「……その時にならなきゃわからない!!」

「…………はぁ?」
緊張に身を強張らせ待った彼女は耳を疑った。
声高らかに宣言されたそれは「結局は分からない」と言うもの。
薔薇の杖を天に掲げて(自分では)格好いい(と思っている)ポーズをとるギーシュに、水銀燈は冷やかな視線を向ける。
「わからないって…何よそれ」
呆れ顔で突っこんだ。

「わからないんじゃないよ!『その時』にならなきゃわからないんだよ!!
仕方無いじゃないか!今の僕じゃそんな残酷な問いを答える事なんかできない!だから仮にそうなったとしてもそれは未来の僕に任せる!!
未来はまだ何が起こるかわからないんだ!!どちらを選ぶかはその時の自分を見据えて決めるべきだよ!!」

ギーシュは早口でまくし立て奇妙な持論を長々と展開する。
もそも将来だの未来だの水銀燈は一言も言っていない。
どうやらギーシュはこの難題を無理やり自己完結させたらしい。それでいいのか自称薔薇の貴公子。
ギーシュの結論・未来の自分に丸投げ
ポカンと口を空け唖然としているお人形の反応にギーシュは自分の答えにちょっと後悔した。
(あ…やっぱり納得言ってないのかな……?)

……わかってるなら、最初からごまかすような解答出すな。


(まだわからない、か…)
水銀燈は口を閉じその言葉の意味を考える。
今の自分はまだ帰れる手段はない。
だが、もしかしたら思いも寄らぬ事で、突然明日帰れるかもしれない。
反対に数十年、百年近く待ってもその日は来ないのかもしれない。

あるいは、他のドールズがこの地に呼ばれアリスゲームが始まるなんてことも……
虫の良い話だが、現に自分は召喚されたのだ。他の姉妹が呼び出される可能性だって無きにしも非ずと言える。
今、無理に決めてもいつ、何が起こるかはわからないのだ。

そのときの自分に任せる、まんざら悪い答えでも無い気がした。

「…まさかそんな答えとはね」
水銀燈は瞳を閉じて口元にフッ…と笑みを浮かべた。
「確かに答えを急ぐ必要は無いかもしれないわ。すぐに帰れる訳でも無いのだし、今決めた所でどうしようも無いもの」
どうやらこの答えを受け入れたようだ。瞳を見開きギーシュに微笑みかけた。

「前言撤回よ。なかなか面白い答えだったわ」
水銀燈はベンチから立ち上がりデルフリンガーを翼にかける、広場から飛び去った。

漆黒の天使が飛び立つと共にそよ風がサーッと広場の草を優しく撫であげる。
まるで今の水銀燈の心中を表すかのような爽やかな風だった。
「……やれやれ、どうやら納得してくれたみたいだね」
彼女の羽ばたきでひらひらと舞い散った羽を一枚手にとりギーシュは呟いた。
そしてガックリとヴェルダンデに倒れこみ体を預ける。心身ともに限界が来たのだろう。
重い瞼がだんだんと下がり眠りの世界へと彼を誘う。
「これでようやく僕も眠りにつけるよ……」
その瞼が完全に閉じられた。
まるで自らの命を賭して最期の仕事を成し遂げた戦士のような安らかな顔だった。
――こうして『青銅』のギーシュことギーシュ・ド・グラモンはその身をもって人形の少女の苦悩を解放し、深き眠りについた。
安らぎに包まれ静かに眠り続ける一人のメイジ。
――その瞳が開かれることは二度と無かった。
「待ちたまえ!生きてるから!僕まだ死んでないから!!」
さらばギーシュ!僕らは君の勇姿を忘れない!!我らの心の心で永遠に生きろ!!
アルヴィーズの食堂の上の階が大きなホールになっている。
魔法学院伝統の行事の一つ、『フリッグの舞踏会』はそこで行われていた。

その奥にあるバルコニーの枠に腰掛ける一人の人影。いや、人間にしてはそれは小さすぎる。
美しくも、どこか妖しげな空気を醸し出すそのシルエットは、普通とはちょっと変わった姿をしていた。

まるで夜闇を纏ったかのような漆黒のドレスに身を包んだ少女。
流れるような長い髪は月の光を受けて銀色に冷たく輝き、黒薔薇を模したヘッドドレスでそれをまとめている。
そして何より、一際目を引くのはドレスから大きく開けたむき出しの背から生える一対の黒い翼だった。

「これが本物の舞踏会…。いい雰囲気ね……」
水銀燈は赤い液体の注がれたグラスを傾け、絢爛豪華な舞踏会場を見つめていた。
うっとりとした瞳が艶やかにが細まっている。
どうやらこの煌びやかつ華やかな様と、一時的とは言え悩みが解決した事で気分は上々のご様子。

結局あの後ルイズを見つける事は出来ず彼女は舞踏会の開場を迎える事となった。
――だがきっとルイズは此処に来る。
水銀燈はそう信じ彼女を待つ。そして改めてミーディアムに自分の気持ちを伝えるのだ。
彼女は天を見上げ鮮やかに輝く双つの月を眺めそう思った。

「ああそうだなぁ。特に姐さん、あんたこの雰囲気にお似合いだぜ。なんつーか、ハマってると言うか……」
デルフリンガーがバルコニーの枠に抜き身で立てかけられている。

こちらも感慨深げに呟いた。決してお世辞などでは無い、率直に意のままの事を言ったのだ。

「ハマってる…悪い気はしないわぁ。…そうそう、聞きたかったんだけどその姐さんって呼び方何よぉ?」
「いやだって、俺あんたの舎弟だし」
「少なくとも私、貴方程長くは生きてないと思うのだけど。そう言えば貴方って作られてどれぐらいたつのかしらぁ?」

デルフはう~んと唸って考えこむ。この様子と、物忘れの酷さから見ると少なくとも水銀燈よりかは年上のハズだ。

「……多分、六千年くらいかなぁ?」
「六千年…そんなに生きてる癖に私を姐さん呼ばわりしてるの?」
でもまさか千年単位の言葉が出てくるとは思わなかった。
「この呼び方嫌なのか?」
「剣とは言え数千年以上年上に姐さんって呼ばれるのはどうかと思うわね」
「だって俺舎弟だし…。んじゃ、お嬢ってのはどうだ?」
「……私ヤクザ者じゃないんだけど」
デルフリンガーを相手にそんなやり取りをしている彼女に、ホールから声がかかった。
「へえ~!私も色んな女を見てきたけどあなた程あの双月が優美に映える子は見たこと無いわね!」

水銀燈は空を見上げた顔を、声の聞こえたホールの方に向けて笑いかける。
「色んな女って……貴方の場合は男ではなくて?キュルケ」
「恋をするにはライバルたる女を見る目も必要なのよ」

その先にいたのはボリュームたっぷりの肢体を彼女の象徴たる炎のような赤いドレスに包んだ赤毛の女性。
「はぁい♪水銀燈、ご機嫌如何?」
キュルケもまた陽気に水銀燈に笑いかけた。
「ええ、上々よぉ。楽しませてもらってるわ」
「それは何より。ワインを傾ける仕草も様になってるわよ?初めての舞踏会とは思えないくらいに!」

「これでグラスの中身が葡萄ジュースじゃなけりゃその通りなんだけどな!わははは!」
デルフリンガーは、からかうようにガチャガチャと笑う。

「何よぉ。二十歳以上はお酒を飲んじゃだめって知らないの?」
キュルケもデルフもそんな事聞いたこと無いと言わんばかりに首を傾げる。あ、デルフはやっぱり除く。
お酒は二十歳からと言うがそもそもハルケギニアにはそんな決まりは無い。
「じゃあ姐さんは何歳なんだよ?」
どうやらデルフの水銀燈の呼び方は姐さんで変わらないらしい。

「私は…17歳よ」(自称精神年齢換算)
「おいおい」
「おいおい」
キュルケもデルフも思わずツッコミを入れた。
尚、水銀燈の以前のミーディアムもこれを聞き「流石にちょっとキツいかも……」とのコメントを残していることをここに追記しておこう。

て言うかむしろ、すいぎんとうさんじゅうなな……
ギャァァァァァァァーーーーー!!!

ハァハァ…は、話を元に戻そう。

キュルケはホールに控えて自分を待つ大勢の男子生徒達に気づき、
水銀燈に「またね♪」と一言別れを告げてその輪に向かう。

「やっぱりあの子はモテるわねぇ。ダンスの相手には困らないでしょうに」
男子達の中心で楽しそうにお喋りをし始めたキュルケを眺め、水銀燈は感心して言った。
デルフリンガーはそんな彼女に不思議そうに一つ尋ねる。
「せっかくの舞踏会だぜ?姐さんは踊らねーの?」
「流石に人形と踊るような酔狂者はいないわよ」
クスクスと苦笑して、賑やかなパーティー会場で舞踏を楽しむ貴族達の姿に溜め息をつく。

「……そもそも私の舞踏の相手を許されるのはお父様だけよ」
そしてグラスを天に掲げて中の液体を透かし、再び天上輝く双月を見つめた。


「あ!忘れちゃいけないわ!あと、くんくんもよ。と言うかむしろくんくんとは是非ともお願いしたいわ!!」

だが唐突にはしゃぎだし、途端にカリスマ性溢れる仕草が一瞬にして地に落ちた。
ここまできてくんくんは無いだろくんくんは…

水銀燈は頬を押さえ恍惚とした表情を浮かべてうとりとしている。
「ああ…素敵よぉ…くんくん……」
「……くんくんって誰だ?」
「よくぞ聞いてくれたわ!」
錆びた剣に向けられた人形の瞳に、怪しい光がキラリと瞬いた。
以後デルフは水銀燈の口から、彼女のアイドル「名探偵くんくん」についてとその素晴らしさについて延々と聞かされる事となった。

ええ、そりゃあもう、うんざりするくらいに延々と……
さて、水銀燈がデルフリンガーに「名探偵くんくん」について熱弁を振るっている頃。
料理の置かれたテーブルの前で大量の料理と格闘している少女がいた。

それは短くまとめた青い髪と澄んだ碧眼。黒いパーティードレスに包まれた小柄な少女。タバサである。
ホールで踊る生徒や教師達に我関せずと言った感じでサラダの皿に手を伸ばしたその時……
舞踏会の喧騒の中一羽の伝書梟が飛び込んできてタバサの肩に止まり。書簡を差し出した。
彼女は書簡を受け取り中を改める。

少女の、日頃感情をあまり感じさせない顔が僅かに固くなった。

タバサはバルコニーの方を凝視する。黒翼の天使が興奮したように剣に向かってオーバーアクションで何かを語っていた。
途端に彼女は全速力でそっちの方に駆け出した!!



「――そこでペロリーナ男爵にくんくん必殺のハイパー銀色の肉球スペシャルが炸裂!!あの後の決め台詞は忘れもしないわぁ!
彼はこう言ったの!『君に足りない物。それは情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ。そして何より速……』」

「姐さん楽しそうなとこ悪いけどよ」
くんくん大活躍の場面を語っていたところにうんざりしたデルフが水を差した。水銀燈はそれに不機嫌に顔を歪ませ文句を言う。

「何なのよぉ。せっかくこれからがいいとこなのに」
「なんかすっげぇ勢いでこっちに来る奴がいるんだけど」
「んー?」

ホールを一瞥した彼女が見た物は、いつもの仏頂面ながら全速力で走って突っ込んでくる青髪の少女だった。

「ああ、タバサじゃないの」
顔見知りともあって、おそらくキュルケ同様自分に声でもかけに来たのだろうと楽観する水銀燈。
だがそのスピードは全く落ちずむしろ加速している。

「でも何をそんなに慌ててるのかしらぁ?」
そんな折デルフリンガーがハッと何かに気づいた。
「姐さん!わかった!アイツの目的はあんたの翼だ!!」
「翼ぁ?……はぁっ!?」
水銀燈は思い出した。知り合ってまだ間も無いながら、タバサが自分のフカフカの黒翼に只ならぬ執着を持っている事に。

以前とある騒ぎで、「抗い難い誘惑」とすら言って黒翼の心地よさに味をしめたタバサ。
それ以来、水銀燈の翼をモフモフせんと虎視眈々とその機会を狙っているのだ。
どさくさに紛れて顔を埋められた事もこれまでに数回。

まさに、モフモフハンタータバサと言っても過言ではない。
タバサはバルコニーへと入ると同時に水銀燈の翼にダイブした。

「わぁ!?」
「待て!今避けたらヤバい!!」
デルフの注意もむなしく、無表情でかっ飛んでくる少女を水銀燈は思わず身を引いて避ける。

……水銀燈はバルコニーの手すりに腰掛けているのであって。当然その後ろにあるのは足場も何も無い空間である。

タバサはバルコニーから身投げして重力に引かれて落下していった。

突然のタバサの読んで字の如くの自殺行為を前に流石に水銀燈とデルフも大慌てした。
「どどどどどうしましょ!?タバサが飛び降りちゃったわぁ!?」
「おおおおお落ち着け!!こんな時は素数を数えてだな!?」
「そ、そうね!落ち着いて素数を…イー・アル・サン・スー・焼き・ビーフン……」
「素数じゃねェェェェェェーーーー!?」

どう見ても漫才にしか見えない。だがバッサバッサと何かが羽ばたく音を聞き、水銀燈もデルフもそちらを見た。
バルコニーの枠の向こうでタバサが彼女の使い魔の風竜に襟首をくわえられ、相も変わらぬ冷めた顔でこっちを見てる。
いや、よく見ると頬が少しだけ膨れていた。どうやら彼女なりにちょっとご立腹の様子だ。

「次は必ず…モフモフ」
タバサは小声でそう呟くとシルフィードを反転させ夜空の向こうに消えていった。

「…何だったのかしらぁ?」
「…さぁ?」
残された二人(?)はその様子を呆然と見送った。
無論、一体タバサがパーティーを抜け出してまで、何を胸にここを去ったのかなど知る由も無い。
風竜を駆ったタバサは双月輝く夜の彼方に溶けるように消えていった。
そして姿が見えなくなってもそちらを見続けている水銀燈。

左手のルーンが少しだけ疼いたような気がした。
「……ようやく主役のご登場のようね」
彼女は背後を振り返り、ここと対角にある壮麗な扉に目を向けた。

その扉がゆっくりと開き姿を現したのは使い魔としての主であり、そしてミーディアムでもある少女。

門に控えた呼び出しの衛士が到着を告げその名を名乗り上げた。
「ヴァリエール公爵家が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~り~~~!」

「ルイズ…」
水銀燈は小さくその名前を口にし視線を飛ばす。「水銀燈…」
ルイズもまたその視線に気付き使い魔の名を口にする、受けた視線を真っ直ぐそのままに返した。
その後、無言のまま見つめ合う二人。双方共に何を思っているのかは読み取れない。

ルイズが硬い顔つきでゆっくりとした足取りでこちらに歩いてくる。
その途中、彼女に周りに男達が群がり、しきりにダンスの相手を申し込みだした。
日頃ゼロだの言ってからかっていた癖に、何という変わり身だろうか?
ノーマーク故に今のうちに唾付けておこうとしているらしい。

だがそれもまた致し方ないのかもしれない。
何より、本日のルイズはそれくらい魅力的な姿をしているのだから。

ルイズは長い桃色がかった髪をバレッタにまとめ、ホワイトのパーティードレスに身を包んでいた。
肘までの白い手袋が、その高貴さを嫌になるくらい演出し、胸元の開いたドレスがつくりの小さい顔を、宝石のように輝かせている。

その美貌が男達を引き寄せているのだ。だが彼女は差し出された手を誰一人として取ることなく断っていく。

そして月下のバルコニーに優雅に佇む水銀燈の前に立った。
「ふぅん…流石は貴族のご令嬢とでも言ったところかしら?」
水銀燈は機嫌良さそうに膝に頬杖を付いて、まじまじとルイズを見ている。

その様子にルイズはちょっとだけ安堵した。
学院長室での一件からの気まずい雰囲気で水銀燈に合うのが怖かったからだ。

「意外ね。あんたでも人を誉める事あるんだ…。フリッグの舞踏会、楽しんでるみたいね」
ルイズもまた固い顔つきを崩して少しだけ笑った。
「ええ、御陰様で。今日の私は機嫌がいいのよ」
「いや、姐さんが誉めるのも無理はねぇさ!馬子にも衣装とはよく言ったもんだなぁ!」
デルフリンガーが茶化すように柄を鳴らす。
誉めてるのか、からかってるのかわからない剣の言葉に対しルイズは「うるさいわね」と一言文句を言った。

そんなルイズに水銀燈が聞いた。
「せっかくの舞踏会なのに貴女は踊らないの?」
「相手がいないのよ」
ルイズはわざとらしくそっぽを向いて答えた。

勿論ルイズがたくさんの男に誘われている様子を水銀燈は目の当たりにしる。
「いっぱい誘われてたのに?」
水銀燈の更なる疑問にルイズも質問で返した。
「あんたはどうなのよ?」
「あいにくとこっちも、私と釣り合う殿方は見当たらなかったもので」
肩を竦めて苦笑して返答した。

「そっか。それじゃ、余り者同士で踊るしか無いわよね」
「はぁ?」

疑問の表情を浮かべる水銀燈にルイズが手を差し伸べる。
「踊ってあげても、よくってよ」
ルイズは照れたように言った。

「ねえデルフ。この世界の舞踏会って女の子同士で踊ったりする物なの?」
水銀燈が傍らのデルフリンガーに問う。
「さあ?俺こういう常識に疎くってなぁ~。だって俺剣だもん」
「私だって人形よぉ。それも異世界の」

あーだこーだ言っている人形と剣を、手を差し伸べたまま見ているルイズ。
呆れるようにしてその話に割り込んだ。
「そんな訳ないでしょ?別に悪くは無いけど原則、ダンスは男女一組でやるものに決まってるわよ」
「貴女の方が誘ってるんだけど」
ルイズの言葉に益々意味がわからないと水銀燈も戸惑った。

「だから!きょ、今日は特別なのよ!いいいい、いいから早く手を取りなさいよ!!」
ルイズはぷいっと横を向き目をそらして催促する。

「ねぇルイズ~。貴女言ってたわよねぇ~?」
お人形はニヤニヤと意地悪げな小悪魔的笑いを浮かべて自分のミーディアムを見た。

「人に物を頼む時の態度は?」
「うっ…」
いつぞや言った事をルイズはそのまま返されたのだ。それを言われるとルイズも立つ瀬がない。

「まったく…。本当に今日は特別なんだから……」
ふっと息をついてルイズはドレスの裾を恭しく持ち上げ、膝を曲げて一礼した。

「わたくしと一曲踊ってくださいませんこと?」
そう言って顔を赤らめ片目だけ開いて水銀燈に目を向ける。
「はい、良くできました」
水銀燈はその愛らしく清楚な様子に満足げにパチパチ手を叩いた。
「違うだろ?姐さん」
「そうよ。あんたも人の事言えないじゃないのよ…」
二人いや、一人と一本の鋭いツッコミに水銀燈も腰掛けた手すりを離れ、ルイズの前でコホンと一つ咳をする。

「光栄ですわ。レディ」

水銀燈は大きく手を回して胸元に持って行くと、彼女もまた恭しく一礼をして首を少し傾けてルイズにウインクした。

「姐さん、あんたと踊れるのはお父様とくんくんだけじゃなかったのか?」
「ええそうよ。…だけど私も今日は特別なのよ」
デルフにそう言って水銀燈は差し出されたルイズの手に自分ね手を重ねる。
ミーディアムはその手を掴み意気揚々と使い魔をホールへと引っ張っていった。
さて、ルイズは小柄な部類に入るものの、それは人間の中ではと言う話。
ダンスパートナーたる水銀燈の体長は1メイルより程なので身長差はかなり大きい。
そのためお人形の足は床でステップを踏めずダンスは成り立たない筈なのだが…
端から見ればまったくそのような事は無かった。
ルイズのステップに、宙に浮いた水銀燈は体中でリズムをとってそれに合わせる。
純白のドレスと漆黒のドレス。
対照的な衣装が互いに映えて魅力的かつ優雅な雰囲気を演出。それはフーケのゴーレムとの戦いで互いに助け合ったあの時の事と思い起こさせた。

しばらく無言で踊っていたがルイズが意を決したように口を開く。
「ねえ…水銀燈。いつかは帰っちゃうの?」
不安を含んだその物言いに水銀燈は少しだけ目を閉じて顔を険しくする。
「ええ。帰るわ。貴女も聞いてたでしょう…。私には成さねばならない事がある。帰らなければならない理由がある」
強い意志が込められたその言葉にルイズの顔が少しだけ陰る。
そうよね…、と一言だけ呟いて彼女はシュンと意気消沈な面持ちとなった。
「でもこの先何が起こるかは分からないわ。ずっと貴女と一緒かもしれないし、
明日にも帰る事になるかもしれない。だけどただ一つだけ言えることがあるの…」

そんなミーディアムの様子にフッと口元を柔らかくして水銀燈は言った。
「少なくとも今すぐいなくなったりはしないわ。黙って消えたりもね?
その時までは貴女に付き合ってあげるから、そんな顔しちゃ駄目よ」

ルイズの悲しげな顔に小さな笑みが浮かび出す。
「ま、どれだけの付き合いなるのかはまだ見当もつかないけど……これからもよろしく。ルイズ」
これからもよろしく。その言葉にルイズの顔が日が射したように明るくなった。
「ええ!よろしく水銀燈!!それまではたーくさんこき使ってあげるんだから!!」
水銀燈はそれに困るように笑ってて言った。
「それはちょっと御勘弁願いたいわぁ」


水銀燈もルイズも互いに見つめ合い笑顔を交わし幻想的な舞踏を続けていた。


「ほお…。こいつぁーおでれーたぜ」
そんな様子をバルコニーで眺めていたデルフリンガーがこそっと例の口癖を呟く。
「人形が貴族のダンス相手なんか務まんのか?って思ってたが……」
鍔を頷かせるように上下させた感心したような口調だ。
「十分立派にこなしてるじゃあねーか。いや、流石は俺が認めただけの事はあるぜ!こいつはおでれーた!」
でも結局はいつもどおり、おでれーた!おでれーた!と、うるさく騒ぎ出した。


二つの月がホールに月明かりを送り、蝋燭と絡み神秘的とすら言える様子を醸し出している。
その中央で寄り添うようにして踊る漆黒の天使と純白の貴族の姿を、舞踏会の面々は決して忘れる事はないだろう。

――それはその場の誰よりも美しく、幻想的な舞踏であったのだから。


新着情報

取得中です。