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Mr.0の使い魔 第三十話

 一足先に船倉に辿り着いたアーサーは、変わり果てた友の亡骸を前に
膝を折っていた。枯れ木のようにやせ細った体は、服がなければ元が誰
だか、それどころか人間の死体かどうかさえわかるまい。さらに積荷の
隙間へ押し込められていたせいで、手足が途中から千切れている。
 この非道な仕打ちは誰の仕業か?
 考えるまでもない。丁寧に偽装を施し、鍵までかけて姿をくらました
あの貴族達だ。

「何やってんだ、エドワード」

 もう二度と、エドワードの豪快な笑い声を聞く事はできない。

「冗談だろ、ブライアン」

 もう二度と、ブライアンにカードの手ほどきを受ける事はできない。

「——ッ!」

 遅れて駆けつけたトマス達の足音を掻き消し、男の慟哭が木霊した。


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第三十話


 近場の部屋を漁り終えたクロコダイル達は、先ほど空賊が姿を見せた
側とは反対の方向に進んだ。敵が現れたという事は、そちら側に空賊の
集合場所がある可能性が高い。戦力の不足する現状で、多数のメイジを
相手取るのは分が悪すぎる。
 従って、敵が少ないであろうルートを優先して捜索する事にしたのだ。
宝物庫が見つからなければ空賊の溜まり場の側も見て回る必要があるが、
もし途中で杖とデルフリンガーを回収できれば、残敵掃討が随分と楽に
なる。後者が望ましいのは言うまでもない。
 10メイルほど元来た方へ戻ると分岐を左折、まっすぐ伸びた廊下を
フネ前方へと向かって歩く。左は一面の板張り、右は壁一枚隔てて空と
逃げ場がないが、同時に敵が潜める場所もない。視界に入る曲がり角の
向こうにだけ注意すればいいのだ。

「ん?」

 その曲がり角から何者かの声が聞こえて、クロコダイルは足を止めた。
 まだいくらか距離があるため内容までは聞き取れなかったが、声自体
はルイズとワルドにも聞こえたようで、二人ともその場に留まっている。
目配せを交わし、三人はより慎重な足取りで前へと進んだ。


 第一保管庫に赴いたヘンリーは、無事に警備の二人と合流して、非常
召集がかかった旨を告げていた。
 緊急時の対応を定めた規則に照らせば、警備担当者はそのままここの
守りとなる。であるから、召集について知らせた事でヘンリーの任務は
ひとまず終了、この後は甲板に戻って再度指示を仰ぐ予定であった。
 廊下の角から、大量の砂が溢れてこなければ。

「召集ってのはコイツのせいか!」

 床を流れる砂に足下を掬われないよう、ヘンリーは両膝を曲げて踏ん
張りを利かせる。警備兵達が同じ体勢で短銃を構えるのを横目で確認し、
手にした杖の先を曲がり角へと向けた。

(今のは様子見だ。姿勢を崩した隙を突いて、本命の魔法を叩き込むための)

 魔法を撃ち込むにはある程度狙いを定める必要があり、従って廊下の
向こうから顔なり杖を持つ手なりを晒さねばならない。その瞬間を迎撃
しようと、ヘンリーは【ライトニング・クラウド】を唱えた。集束した
雷は、一撃で人間を死に至らしめる。かすめただけでも杖を落として、
魔法が使えなくなるだろう。
 最後の一節を残して待機するヘンリーの杖は、内に溜め込まれた雷で
青白く輝いている。後はあちらが出てくるのを待つばかり。指先、毛先
すら見逃すまいとヘンリーは目を凝らす。
 その集中が、仇となった。

「がッ」

 鈍い打撃音と、短い苦悶の声。ハッと振り仰ぐヘンリーの視界に、頭
を見当違いな方向に傾けて倒れ込む警備兵の姿が映った。彼の首をへし
折ったのは、突然現れた見知らぬ男だ。
 まるで影も形もなかった筈のそいつは、驚きに硬直したもう一人の首
を鷲掴んで吊り上げる。骨の軋む嫌な音が、呆然としていたヘンリーを
現実に引き戻した。

「貴様ァ!」
「おっと」

 突き出された杖は、雷を吐き出す寸前でピタリと止まる。

「あまり物騒な物を向けてくれるなよ」

 まだ息のある警備兵をヘンリーとの間に挟んで、男は冷笑を浮かべた。
 【ライトニング・クラウド】を放てば、男だけでなく瀕死の仲間をも
巻き添えにしてしまう。かといって今から別の呪文を唱えても、反撃の
猶予を敵に与える事になる。その間に無防備なヘンリーを殺すか、それ
とも捕まえている警備兵を絞め殺すかはわからないが。

「ヘン、リ……かま、わずッ……」

 逡巡するヘンリーの耳に、警備兵のかすれ声が届いた。彼は、自分の
命より敵の排除を優先したのだ。奇襲の仕掛け方といい、人を盾にする
非道な戦い方といい、こんな危険人物を取り逃がすわけにはいかない。
命を捨ててでもこの場で討ち取らなければ、今度は別の仲間が襲われる
かもしれないのだ。その時、倒すチャンスがあるとは限らない。

「っ、【ライトニング・クラウド】!」

 迷いを振り切って、ヘンリーは叫んだ。
 迫る雷を前に、警備兵は残る力を振り絞る。自分の首を捕らえる男の
腕を両手で掴み、逃げられないようきつく握りしめる。一瞬顔を顰めた
男は、さらに力を込めて警備兵の息の根を止めようとした。だが、もう
遅い。自分が息絶えるよりも先に、雷撃が両者の体を炭に変えてしまう
のだから。
 覚悟を決めた警備兵と、忌々しげに顔を歪める男。二人の元へ閃光が
到達——する寸前で、男の体が砂に解けた。警備兵を掴んでいた掌も、
捕われていた腕も、全てが弾けて砂礫に化ける。一人残された警備兵に
【ライトニング・クラウド】が直撃し、空気を震わす音とともに全身を
焼き焦がした。

「残念だったな」

 呆然とするヘンリーに、後ろからかけられる声。彼が最期に見たのは、
己の胸を喰い破る金色のかぎ爪だった。


 廊下を走る旗手班の三人は、今までにないほど激昂していた。途中で
見つけたのは、右手を失い頭を撃たれたジョンの亡骸と、半分ほど砂に
埋まった休憩室でミイラになっていた陸戦班の面々。
 弔ってやりたいが、今はその時間も惜しい。彼らを亡き者にした敵を
討たなければ、犠牲者がさらに増える可能性もあるのだ。元凶を早急に
排除するために、保管庫の仲間と合流して戦力を整える必要があった。
 三人は杖を抜き、呪文を詠唱しながら第一保管庫を目指す。もし敵に
遭遇した時、即座にその命を奪うか、少なくとも足止めができるように。

「ッ!」

 廊下の突き当たりを曲がった瞬間、旗手達は我が目を疑った。
 砂に覆われた廊下——デニスの説明にあった砲甲板と同じではないか。
 無惨な姿を晒すヘンリーら三人——もうここまで敵の手が及んでいる。
 そして、血塗れのかぎ爪をもつ一人の男——奴が、敵。

「「「【エア・カッター】!」」」

 三人は全く同時に魔法を発動した。三つと言わず、無数の風の刃が、
無防備な男の頭を、体を、手足を、バラバラに切断する。文字通り微塵
に刻まれ、肉片と砂の区別すらつかない。唯一、原型をとどめたかぎ爪
だけが、男の存在した証になった。
 敵を倒した旗手達は、その勢いのままヘンリー達に駆け寄った。既に
息はない。まだ温かさを残した三人の体は、間一髪で間に合わなかった
事を示唆している。

「くそッ!」

 堪えきれぬ怒りを少しでも吐き出そうと、一人が足下に転がるかぎ爪
を蹴り飛ばした。一度壁で跳ね返った鋼の爪は、廊下の端まで転がって
いく。
 そして、蹴りの勢いで舞い上がった砂——それが瞬時に倍以上に膨れ
上がったかと思うと、足を振り抜いた旗手の顔面にへばりついた。口と
鼻を塞いだ砂塵は、そのまま喉奥へと侵入して気管にも栓をする。

「なっ!?」

 驚愕する間にもう一人、こちらは全身を砂に覆われた。
 敵の攻撃だと遅まきながら理解した最後の一人が杖を構えようとする
が、寸前で誰かの足にその手を踏みつけられてしまう。痛みに歯を食い
しばって見上げた先には、自分達が細切れにしたあの男。

「生憎だが、あの程度の攻撃でおれは殺せんよ」

 嘲笑を浮かべ、男は健在な右手で旗手の頭を掴む。同時に襲った猛烈
な乾きに、彼もまた仲間達の後を追った。


 邪魔な空賊達を始末し、クロコダイルは傍らの扉に目を向けた。これ
まで見てきた船内の扉と比べ、色や形にさしたる違いはない。
 しかしながら、ここには警備の者が三人も配置されていた。つまり、
それだけ空賊達にとって重要な部屋だという事だ。例えば危険物の充満
した弾薬庫だったり、銃器や刃物を大量に安置している武器庫だったり。
 あるいは、金塊や宝石を溜め込んだ金庫室だったり。

「ここが宝物庫みたいね」

 口元を三日月のように歪めたクロコダイルの元へ、ルイズがかぎ爪を
手に現れた。右手にナイフ、左手に血だらけのかぎ爪を持つ姿は、これ
までの彼女からは考えられない。特に左手は、ブラウスの袖口まで紅く
染まっているのだが、ルイズはそれを気にもしていないようだ。
 そんなルイズを見て、クロコダイルの三日月の上下が反転した。後に
続くワルドも、やや表情を硬くしている。

「はい、これ」
「ああ……」

 受け取ったかぎ爪を左手に接合しながら、クロコダイルは覚えのある
不快感に内心舌打ちした。胸焼けに似た感覚は、つい先ほど、ルイズが
空賊を撃ち殺した後にも一度感じている。すぐに治まったのでその時は
気にしなかったが、それと全く同じ感覚が、再びクロコダイルを蝕んで
いた。
 原因は不明。気づかぬうちに毒を吸い込んだか、それとも『呪い』と
でも言うべき魔法をかけられたか。あるいは腫瘍や病原菌を体内に作る
魔法など、存在そのものが不確定——故にないとは言い切れない魔法を
使われたのかもしれず、可能性は考えだすときりがない。

(面倒臭い)

 鬱屈したものを抱え込んだまま、クロコダイルは宝物庫の扉に右手を
押し当てた。ルイズが人殺しに慣れて厄介事が一つ減ったかと思いきや、
次の問題が発生するとは。できれば、これ以上余計なトラブルが起きる
前に引き上げたいものだ。当然、やるべき事は済ませてから。

「さっさとデル公を回収して、残りを片付けねェとな」


「それは、本当か?」

 砲甲板にて、頭はトマスの報告に声を震わせた。調査の最中、船倉へ
向かった筈の監視班からトマスら四人がやってきたのが三分ほど前の事。
彼らのもたらした情報は、頭が予想だにしなかった内容であった。
 捕らえていた貴族達が、エドワードとブライアンを殺して脱走、船内
を徘徊しているというのだ。しかも、相手は人間をミイラにする魔法を
使うらしい。

「はい。船倉には、樽を三つ布でくるんだものが残っていました。
 自分達が逃げた事に気づかれないよう、偽装したと考えられます。
 我々は班を二つに分け、アーサー達が甲板への報告へ向かいました」
「何と言う事だ……」

 ギリ、と奥歯を噛み締める。
 三人の中で、頭がまともに相対したのは桃色の髪の少女一人だったが、
彼女の持つ高潔さ、気概は素晴らしいものだった。貴族派とは根本的に
違う雰囲気を纏った少女は、おそらく何か事情があってあの商船に乗り
込んでいたのだろう。ならば他の二人も彼女の仲間、従者だと考えて、
人質としての体裁だけ繕って船倉に入ってもらった。三人が自ら杖と剣
を差し出し、しかし媚びる様子を見せなかった時には感動もした。
 だからこそ、この混乱の渦中から一刻も早く脱出させようとしたのだ。
本来なら無関係だった筈の異変に巻き込んで、彼女達には申し訳ないと
心中で詫びた。無事に顔を会わせられたら、自分の口から謝罪の言葉を
述べたいとも思っていた。
 それがどれほど滑稽な道化芝居か、まるで気づかずに。

(私のミスだ)

 彼女の態度、もう一人の貴族の仕草、そして従者の男の行動。全てを
見誤っていたのである。

「諸君」

 よく通る声で、頭は砲甲板にいる一同に呼びかけた。

「この異常の元凶は、私が安易に招き入れた貴族達だ。
 本来ならば、私は事の責を負い、この命を捨ててでも彼の者達を葬らねばならない」
「な、何を仰るんです!?」

 慌てるトマスを手振りで制し、頭は皆を見渡す。誰もが驚きと困惑を
隠しきれず、動揺が顔に表れていた。
 一呼吸置いて、頭は続ける。

「だがもし、もしも許されるのであれば、今一度だけ私の指示に従って欲しい。
 これ以上の狼藉を食い止めるため、力を貸して欲しいのだ。
 無論、諸君が無能な指揮官に失望し、別行動を取るなら、もはや私に止める権利はないが——」
「水臭い事は言いっこなしですぜ、船長」

 腕組みをしていた坊主頭の男が、不敵な笑みと共に口を挟んだ。

「俺達は、船長のためなら命だって惜しくない。
 どんな危険な事でも喜んでやりますぜ。ああ、尻尾巻いて逃げ出せ、なんて命令は勘弁ですが」
「ローワン……」
「なあ、お前らだって、頭のために命賭けるぐらいできるだろう?」

 男——ローワンが呼びかけると、他の者達も口々に同意した。丁寧に
意見を述べる者も、荒っぽく答える者も、頭への厚い忠義は本物だ。
 意見が出揃い、ローワンは頭へと向き直る。

「てな具合です。一度と言わず、何度だって命令してくださいよ」
「すまないな。いらぬ気遣いだった」

 苦笑した頭は、自分の杖を握り直した。アルビオンに到着する前に、
何があろうともあの三人を殲滅する決意を固めて。


   ...TO BE CONTINUED

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