「う~ん・・・。つまり―――・・で、ここは――・・・・・、・・―――?」
「少し違うわ。ここの小節の言の葉が少しニュアンスが異なるでしょう?だから、・・・―――。」
「少し違うわ。ここの小節の言の葉が少しニュアンスが異なるでしょう?だから、・・・―――。」
ルイズは自室の机で羊皮紙を広げ、羽ペンを右手に持ちつつ、唸っていた。
その隣で、ミカヤは自身で即席で作った、数枚の羊皮紙のつづりの中の1ページに記された文章を説明している。
初日の夜に約束した『古代語』を教授する為に作り上げた手製の教科書と、隣には魔導書。
それを使った二人だけの授業は、夜の就寝前の貴重な一時であった。
その隣で、ミカヤは自身で即席で作った、数枚の羊皮紙のつづりの中の1ページに記された文章を説明している。
初日の夜に約束した『古代語』を教授する為に作り上げた手製の教科書と、隣には魔導書。
それを使った二人だけの授業は、夜の就寝前の貴重な一時であった。
「う~~~・・・。」
艶のある桃色の髪を乱暴に撫でながら、眉を顰めるルイズ。
異世界の言葉であり、精霊に語りかけることが出来、先住の民達が用いたという『古代語』は、魔法学院でも勤勉と評される
ルイズでも難解だった。
知らない言語を基礎から始めるのだから、尚の事である。
そんな彼女を笑みを湛えながら見つめ、落ち着かせるように右肩に自身の右手を乗せる。
異世界の言葉であり、精霊に語りかけることが出来、先住の民達が用いたという『古代語』は、魔法学院でも勤勉と評される
ルイズでも難解だった。
知らない言語を基礎から始めるのだから、尚の事である。
そんな彼女を笑みを湛えながら見つめ、落ち着かせるように右肩に自身の右手を乗せる。
「大丈夫よ。ルイズは飲み込みが早いから、補助詠唱くらいは直ぐに覚えられるわ。」
「・・・そうかしら?」
「・・・そうかしら?」
そんなミカヤの励ましに首を捻りつつも、それを嬉しく思うルイズだった。
ファイアーエムブレム外伝 ~双月の女神~
第一部 『ゼロの夜明け』
第七章 『穏やかなる日々』
ギーシュとの決闘から早数日。
二人を取り巻く環境は大きく変貌した。
二人を取り巻く環境は大きく変貌した。
まずは朝。
洗濯物をシエスタが取りに来るようになり、ミカヤはメイド服に着替えてから彼女に続き、洗濯をしつつ、
朝の語らいをすることが日課になった。
そうした中で、彼女にアイクの縁者であるかを訊ね、シエスタはアイクの孫であることを告白した。
心を読んだことで得た推測が確信に変わり、彼や自身の故郷であるテリウスの事を話した。
祖父から、幼い頃より寝物語に聞いていた話が真実だったことが分かり、何より嬉しかったと言っていた。
洗濯物をシエスタが取りに来るようになり、ミカヤはメイド服に着替えてから彼女に続き、洗濯をしつつ、
朝の語らいをすることが日課になった。
そうした中で、彼女にアイクの縁者であるかを訊ね、シエスタはアイクの孫であることを告白した。
心を読んだことで得た推測が確信に変わり、彼や自身の故郷であるテリウスの事を話した。
祖父から、幼い頃より寝物語に聞いていた話が真実だったことが分かり、何より嬉しかったと言っていた。
彼女の故郷である村―――「タルブ」では鍛冶業が発展しており、祖父、そして共に流れついた、祖父亡き後は厳しくも優しく
接してくれた小父によってもたらされた、テリウス大陸製に近い武器が生成されている。
知っていた小父も知識のみであり、現物以外無かった為か、試行錯誤が数十年の間、幾度と無く繰り返された。
現在は、青銅や精鉄、純鋼、耐久力は低いものの、刃物にすると抜群の切れ味を持つ加工銀等で出来た―――所謂
タルブ製の武器は信頼性が高く、トリステインの平民の持ちうる最高の武器となった。
工房が小さく、出荷数は少ない為、城下町に並んだ次の日にはたちどころにに品切れになってしまうと言う。
接してくれた小父によってもたらされた、テリウス大陸製に近い武器が生成されている。
知っていた小父も知識のみであり、現物以外無かった為か、試行錯誤が数十年の間、幾度と無く繰り返された。
現在は、青銅や精鉄、純鋼、耐久力は低いものの、刃物にすると抜群の切れ味を持つ加工銀等で出来た―――所謂
タルブ製の武器は信頼性が高く、トリステインの平民の持ちうる最高の武器となった。
工房が小さく、出荷数は少ない為、城下町に並んだ次の日にはたちどころにに品切れになってしまうと言う。
「私の従姉は、王都の歓楽街の酒場で働いているんですよ。
中々お暇が合わなくて会えないんですけど、手紙の交換で近況を知らせていますわ。」
「大変ですね。歓楽街だったら揉め事も多いんじゃあないかしら?」
中々お暇が合わなくて会えないんですけど、手紙の交換で近況を知らせていますわ。」
「大変ですね。歓楽街だったら揉め事も多いんじゃあないかしら?」
手を休める事無く、二人は会話に花を咲かせる。
「ええ、この間も性質の悪い強盗を締め上げたらしくて。
衛士詰所から褒章を貰った、て書いていました。」
衛士詰所から褒章を貰った、て書いていました。」
困ったような笑みで、そんなことを語るシエスタ。
その従姉は話によれば、彼女より気が強いらしく、例えメイジ崩れの強盗の脅しにでも一歩も退かないとのこと。
大切なものを守る為ならば、シエスタ自身も同様であろう。
何より、あの『勇者』の孫なのだから。
その従姉は話によれば、彼女より気が強いらしく、例えメイジ崩れの強盗の脅しにでも一歩も退かないとのこと。
大切なものを守る為ならば、シエスタ自身も同様であろう。
何より、あの『勇者』の孫なのだから。
「彼女もそうですが、その強盗は大丈夫だったのですか?」
「はい。でも私より腕が立つから、むしろ手加減していたと思いますよ?」
「まぁ。」
「はい。でも私より腕が立つから、むしろ手加減していたと思いますよ?」
「まぁ。」
ミカヤの問いに、謙遜しつつもそう嬉しそうに話すシエスタに、彼女は苦笑を禁じえなかった。
洗濯と会話を楽しみ、それを終えると、次はルイズを起こす。洗濯を終えたままのメイド服姿で起こした時は当初、
かなりびっくりしたとはルイズの独白。
時には、朝が弱いルイズを着替えさせ、身支度をし、日頃の他愛ない話をしつつ、食堂へ。
かなりびっくりしたとはルイズの独白。
時には、朝が弱いルイズを着替えさせ、身支度をし、日頃の他愛ない話をしつつ、食堂へ。
「おはようございます。料理長、皆さん。」
「おう、『我らの乙女』ミカヤ!今日もよろしく頼むぜ!」
「おう、『我らの乙女』ミカヤ!今日もよろしく頼むぜ!」
厨房へ入り、朝の挨拶をマルトー達と交わす。
あの決闘以来、ミカヤは平民の使用人達から『我らの乙女』という称号でもって呼ばれることがある。
厳密には違えど、メイジでありながら平民達に心を砕く姿勢と、貴族相手に一歩も退かず、勝利したことを称え、
そう呼ぶことにしたと聞かされた。
全ての貴族連中もミカヤのようであれば、という愚痴を何度も聞き、それに苦笑する日々。
あの決闘以来、ミカヤは平民の使用人達から『我らの乙女』という称号でもって呼ばれることがある。
厳密には違えど、メイジでありながら平民達に心を砕く姿勢と、貴族相手に一歩も退かず、勝利したことを称え、
そう呼ぶことにしたと聞かされた。
全ての貴族連中もミカヤのようであれば、という愚痴を何度も聞き、それに苦笑する日々。
更には男子学生達を中心に、彼女のメイド姿を気に入られ、いつの間にか食堂の看板になっていた。
「ミス・ミカヤ!僕の所にも配膳を!」
「何を言うんだ!次は俺の順番だろう!」
「何を言うんだ!次は俺の順番だろう!」
そうして男子学生達が言い合う光景も、今や日常の一幕。
「はい、ただ今。」
純粋な意思でもって接する彼らに笑みを向けつつ、配膳をしていくミカヤ。
そんな光景を頬を膨らませ、ぶつぶつと不満げに文句を言いながら眺めるルイズの姿も日常と化す。
そんな光景を頬を膨らませ、ぶつぶつと不満げに文句を言いながら眺めるルイズの姿も日常と化す。
「全く、ミス・ミカヤと私がお話出来ないじゃないのよ・・・。」
「あらあら、妬いてるの?大事な「お姉さま」が引っ張りだこになって。」
「うるさい!」
「あらあら、妬いてるの?大事な「お姉さま」が引っ張りだこになって。」
「うるさい!」
あれからルイズとキュルケ、タバサの3人はよく会い、つるむようになった。
食事中は二人が良く、ルイズの隣に掛けるようになり、こうしてキュルケがルイズをからかい、それをタバサが眺めることも
また日常。
ルイズの拗ねた姿も実に愛らしいらしく、母性本能をくすぐられるとはキュルケの談。
食事中は二人が良く、ルイズの隣に掛けるようになり、こうしてキュルケがルイズをからかい、それをタバサが眺めることも
また日常。
ルイズの拗ねた姿も実に愛らしいらしく、母性本能をくすぐられるとはキュルケの談。
「・・・。」
独特の匂いと苦味がある、食べる人間を選ぶハシバミ草のサラダをついばみながらミカヤを眺めるタバサ。
しかし、彼女に向ける視線には、何か迷いを感じさせる。
―――まるで、胸の内に抱える悩みを話すことを躊躇うかのように。
しかし、彼女に向ける視線には、何か迷いを感じさせる。
―――まるで、胸の内に抱える悩みを話すことを躊躇うかのように。
「いい加減にしないか、諸君!僕達は貴族なんだぞ?
そのように下心丸出しな、粗野な振る舞いは為すべきではないだろう?」
そのように下心丸出しな、粗野な振る舞いは為すべきではないだろう?」
騒ぐ同期達を戒めるように一喝するギーシュ。
あの決闘で、人間的な意味合いでミカヤに惚れ込んだ彼は、自身を見つめ直し、心と魔法の研鑽の日々を送っている。
かつての傲慢さは鳴りを潜め、真の貴族たらんとする振る舞いは、今までより多くの少女達の心を掴んだ。
あの決闘で、人間的な意味合いでミカヤに惚れ込んだ彼は、自身を見つめ直し、心と魔法の研鑽の日々を送っている。
かつての傲慢さは鳴りを潜め、真の貴族たらんとする振る舞いは、今までより多くの少女達の心を掴んだ。
「申し訳ありません、ミス・ミカヤ。貴族らしからぬ姿をお見せしました。」
「いいえ、気にしてはいませんよ。
このくらいは大目に見る度量もまた、貴方の目指す「貴き一族」と思いますが?」
「いいえ、気にしてはいませんよ。
このくらいは大目に見る度量もまた、貴方の目指す「貴き一族」と思いますが?」
頭を下げるギーシュにそう返すミカヤ。
それに苦笑いをうかべつつ、彼は頭をかいた。
それに苦笑いをうかべつつ、彼は頭をかいた。
「変われば変わるものねぇ。」
そんな様子を見つつ呟くモンモランシーは、ギーシュに惚れ直したという。
同時に、彼を変える切欠を作ったミカヤに感謝していた。
同時に、彼を変える切欠を作ったミカヤに感謝していた。
食事が終わり、装束に着替えると、次は授業。
系統の魔法から地理、歴史、国語に至るまで、テリウスとの相違を検証する日々。
その過程でハルケギニア語と文字を学んだが、基礎から習得するにはかなり苦労した。
ミカヤ自身は今まで気がつかなかったことだったが、学習の過程で、自身が話していた言葉はハルケギニア語に、聞き取る
会話はテリウス語に変換されていたことが判明した。
文字の綴り等を学び、ハルケギニア語の文章作成をもって魔導書の解読を行い、ルイズとの就寝前の授業に当てている
のである。
系統の魔法から地理、歴史、国語に至るまで、テリウスとの相違を検証する日々。
その過程でハルケギニア語と文字を学んだが、基礎から習得するにはかなり苦労した。
ミカヤ自身は今まで気がつかなかったことだったが、学習の過程で、自身が話していた言葉はハルケギニア語に、聞き取る
会話はテリウス語に変換されていたことが判明した。
文字の綴り等を学び、ハルケギニア語の文章作成をもって魔導書の解読を行い、ルイズとの就寝前の授業に当てている
のである。
午前の授業が終わり、昼休み。
「はぁっ!」
「ふっ!」
「ふっ!」
金属同士を幾度も打ち鳴らす快音が広場の裏庭に響く。
シエスタが刃を溢した訓練用の大剣を両手持ちし、胴目がけ右横一文字に払い抜けるが、ミカヤは体を左に流し、右手の杖で
逸らす。
逆に脳天を打ち据えようとするが、その場で彼女は勢い良く回転し、大剣を横にしたまま頭上に上げたことにより、阻まれる。
鍔迫り合いを嫌って後退したミカヤを追撃をかけず、そのまま間合いを取った。
シエスタが刃を溢した訓練用の大剣を両手持ちし、胴目がけ右横一文字に払い抜けるが、ミカヤは体を左に流し、右手の杖で
逸らす。
逆に脳天を打ち据えようとするが、その場で彼女は勢い良く回転し、大剣を横にしたまま頭上に上げたことにより、阻まれる。
鍔迫り合いを嫌って後退したミカヤを追撃をかけず、そのまま間合いを取った。
「・・・・・今日はここまでですね。」
「何時も・・・、ありがとうございます・・・。」
「何時も・・・、ありがとうございます・・・。」
そう言い合うと、二人は各々の得物を収める。
互いに肩で息をしていることから、激しい打ち合いだったことが見て取れる。
互いに肩で息をしていることから、激しい打ち合いだったことが見て取れる。
昼休みの時間を利用し、ミカヤは毎日欠かさぬ精霊との対話の後、シエスタと白兵戦の鍛錬をしていた。
テリウス大陸の、大賢者以上の魔道士や神官は杖術を習得出来、杖を行使した直後の護身、迎撃に使う。
更に実戦を積んだ強者になれば、ミカヤのように魔法との連携も駆使する。
自身の実戦訓練になるとシエスタが快諾してくれ、現在、この鍛錬で戦場で培った反応や勘、体力を取り戻すべく奮闘
している。
その後は、平民用のサウナ風呂で汗を流しつつ、会話を楽しむのであった。
テリウス大陸の、大賢者以上の魔道士や神官は杖術を習得出来、杖を行使した直後の護身、迎撃に使う。
更に実戦を積んだ強者になれば、ミカヤのように魔法との連携も駆使する。
自身の実戦訓練になるとシエスタが快諾してくれ、現在、この鍛錬で戦場で培った反応や勘、体力を取り戻すべく奮闘
している。
その後は、平民用のサウナ風呂で汗を流しつつ、会話を楽しむのであった。
―――――こうして、かつてミカヤが経験したことの無い、賑やかで穏やかな日々は流れる。
ある日、何時ものようにシエスタと共に、早朝の洗濯に勤しんでいた時だった。
ミカヤの背後から、きゅるきゅると鳴きつつ、近寄ってくる大トカゲ。
キュルケの使い魔であるサラマンダーのフレイムだった。
ミカヤの背後から、きゅるきゅると鳴きつつ、近寄ってくる大トカゲ。
キュルケの使い魔であるサラマンダーのフレイムだった。
「あら、あなたはフレイム?どうしたの?」
向き直るミカヤに、フレイムは口に銜えている長方形の包み―――手紙の封筒を見せるように、此方に向ける。
自身に当てたものであることを言いたげに向けてきたものだったため、それを受け取ると、フレイムは踵を返し、そのまま
去って行った。
自身に当てたものであることを言いたげに向けてきたものだったため、それを受け取ると、フレイムは踵を返し、そのまま
去って行った。
「どうしたんです?」
「ミス・ツェルプストーからの使いで来たみたいですが、この手紙を私に・・・。」
「ミス・ツェルプストーからの使いで来たみたいですが、この手紙を私に・・・。」
そう言いつつ、開封すると、『錬金』で作ったであろう、一枚の鉄のプレート。
そこにはツェルプストー家の家紋のレリーフと、焼付けで描いた、ハルケギニア語の一文で、こう記してあった。
そこにはツェルプストー家の家紋のレリーフと、焼付けで描いた、ハルケギニア語の一文で、こう記してあった。
―――――親愛なるミス・ミカヤへ。今夜互いの親睦を深め合いたいと思うので、是非お時間を。
灯火の晩餐へご招待致します。 『微熱』のキュルケより友愛を込めて―――――
灯火の晩餐へご招待致します。 『微熱』のキュルケより友愛を込めて―――――