あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの雷帝-03


「父上よ!そこまでオレが憎かったか!!?『バオウ』を受け継いだガッシュがそこまで大切か?」

父と弟を憎み続けた。

「やめろぉお!!こんなものを見せるな!!ガッシュは憎むべき存在なんだ!!!バオウと一緒に消しさる相手だぁあ!!!」

真実の一端を知っても、自らの憎しみに拘り続けた。

「わかるか!?オレは勝ったんだ!!恨み続けたガッシュも、バオウも、オレの力でぶち壊したんだ!!!」

苦しみ、倒れた弟の姿を見ようとも、意固地に自らが正しいと言い聞かせた。
満足など何処にもなく、ただ心には空しさのみが広がっていった。

「許せ、ガッシュ…兄が愚かだった」

バカだった。未熟な心で力を求めた自分が愚かだった。

「心の奥では負けることを望んでいた…こんな憎しみの力など、オレごと全て壊してくれと思っていた…」

そう、壊れてしまえばいい。
弟を憎み続け、苦しめ続けた自分と力。
こんな愚かな自分など、こんな憎しみの力など―――!

「……!」

眼が覚めた。マントを通して注がれる日の光に眼を細める。
寝るために長くしていたマントを元の長さに戻し、腰掛けていた窓から降りる。

「…あの時の夢か」

夢を思い出し、独りごちる。
あの時は本当に死ぬつもりだった。自分の全てが許せなかった。
だが自分は死なず、弟は苦しめ続けた自分を許し、自分と暮らすとまで言ってくれた。
あの時ほど嬉しかったことはなかった、たとえ自分に分不相応な幸せだとしても。
苦しめ続けた償いとしても、兄としても、少しでもガッシュが王になった後に助けになろうと思っていたのに―――

「何の因果か、異世界にいるわけだからな」

呟き、自分がここにいる原因を見やる。
原因たるルイズはすやすやと幸せそうに眠っており、その様子に思わずため息が出そうになる。
自分は魔界に帰る手段を探す必要があり、その苦労を思うと頭が痛くなるのだが、全くもって正反対だ。

(本当によく眠ってやがるな)

確かもうすぐ朝食の時間だったはずなのだが、そんなことは全く関係ないと言わんばかりにご主人様は夢の中だった。
普通ならここで起こしてやるべきなのだろう。が。

「さて、食事にするか」

ゼオンは全く意に介さず、ルイズを放置した。
さっさと部屋のドアに手をかけ、外に出る。
大怪我を治した後だからだろう、非常に腹が減っていた。
ルイズの記憶で見た分には質も量も随分と良い食事が出るようだから非常に期待できる。

(食堂の場所は、と…)

とことんなまでにルイズを放置し、ゼオンは食堂へと向かっていった。
桃色の少女以外誰もいなくなった部屋からはただ幸せそうな寝言だけが響く。



そしてその約30分後。

「う~~~ん、ふぁああ…よく寝たわ~。………!?嘘、もうこんな時間ーーーーーー!?ゼオンすぐに支度、っていない!?あ、ああああ、あのバカ使い魔わたしをほっていったわねー!!」

一人の少女が悲鳴を上げた。




「ゼオンーーーーーーーーーーー!!!!」

食堂に入るなり思い切りルイズは叫んだ。
一体何事かと食堂の皆が驚いているのに目もくれず、ルイズは肩を怒らせてずんずんと自分の席に座っている使い魔の元に歩いていく。
近くまで来てみると、この忠誠心ゼロの使い魔がナプキンで口元を拭っているのが見えた。
その態度にルイズの額に青筋が一つ浮かぶ。

「ようやく起きたのか。遅かったな」
「ようやく起きたのか、じゃないでしょうがあああああ!!あんたわたしの使い魔でしょ、何でわたしを起こさないのよ!」
「フン…そんなもの使い魔の仕事にはない」
「人としての良識の問題でしょうが!誰があんたの衣食住の面倒をってああ!?わたしの朝食が何もない!?」

朝食の方をふと見やると自分の朝食があるはずの場所にはひたすらに空の皿が並べられていた。
ギギギ、とまるでオイルの切れた機械のようにルイズはゆっくりとゼオンの方を向く。
先ほどゼオンがナプキンで口元を拭っていたのを思い出す。間違いない、こいつ主人の朝食を全部食いやがった…!

「ゼ、ゼゼゼゼ、ゼオン?あああああ、あんた全部食べたわね?主人の朝食食べるなんて、なんてなんていけないのかしら食べ物に見境ないなんてまままるで犬じゃないの、このいいいい犬」

目を瞑って出来るだけ静かに言ったつもりだったが、どうしても怒りのあまり声が震える。
別にそこまでお腹が空いているわけではないが、主人の食事を事もあろうに無断で全部食べるなど許せるはずもない。
未だかつてないほどの怒りっぷりに周囲も不穏な空気を感じ取ったのか、少しずつルイズから距離をとっていく。
ルイズはこの怒りを思い切りぶつけるべく目を見開き、自分が魔法を使えないことも忘れて杖を振ろうとしたところで―――

「…え?」

先ほどまで自分の使い魔が座っていた席が空になっていることに気がついた。どうやら自分が目を瞑っている間にいなくなったらしい。
自分の叱責すらも無視され、更に怒りが臨界点を突破し、顔が赤く染まっていく。

「あ、あの…ルイズ?」

「ああん、何よっ!?」

おずおずと切り出してきた太った男子生徒、マリコルヌを思い切り睨みつける。
ひぃ!?と怯えた声をあげたが、マリコルヌは勇気を振り絞って告げた。

「そ、そんなに腹が減ってるのなら、そこの床に置いてあるのが残ってるから飲めばいいんじゃないかなと…」

こんなことを本気で言えるあたり、彼がモテない理由が外見だけの問題ではないことがわかろうというものである。
ルイズはゆっくりと足元の皿を見やった。
そこには申し訳程度に小さな肉の欠片が浮いたスープがあり、皿の端に固そうなパンが二切れ置いてあった。
無論使い魔用にルイズが用意したものである。
ケガが回復するまでは普通の食事をさせるつもりだったが、あの使い魔はピンピンしてるのでこっちに取り替えたのだ。

(これを食べる?私が?ゼオンは豪華な食事でわたしはこれ?逆じゃないの?ああ、やっぱり逆だわだって凄い世界が揺れてるもの…)

朝からのあまりの怒りと理不尽さにとうとうルイズはばたん、と仰向けに倒れたのだった。



一方、ルイズに倒れるほどのストレスを与えた元凶は食堂裏の厨房にいた。
既に朝食の時間は終わっているため、コックやメイドは皿を洗ったり賄いを食べている。
ここに来た理由は二つあった、一つはあの程度では足りなかったからである。
普段ならもっと少なくて済むのだが、やはり栄養が足りていなかった。

「おい、何かまだ食べ物はあるか?」

適当に当たりをつけ、メイドに話しかける。
素朴な感じのする少女で、カチューシャで纏めた黒髪とそばかすが特徴的だった。

「食べ物、ですか?すいません、足りなかったでしょうか?」

「いや、今日は例外だっただけだ。ケガの治療と一日半寝ていたせいで随分腹が減っていてな」

「ケガ…?もしかして、あなたはミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう子供ですか?」

「そういうことになってるな。オレのことを知っているってことは噂にでもなってるのか?」

「ええ、大怪我をした平民の子供を召喚したって噂になってますわ。前例のないことですし」

ケガと子供、というキーワードでゼオンが誰かを少女は察したらしい。
まあ当然といえば当然である、ここは魔法学院で、子供に見える学生はいても本物の子供は滅多にいない。

「まあ召喚自体はおかしくないんだがな、オレがいた場所に目を瞑れば」

「え?それってどういうことでしょうか?」

「使い魔に召喚されるのは人間ではないのが普通なんだろう?そういう意味ではおかしくないということだ」

少女は首をかしげた。
疑問が少女の顔にありありと浮かんでいて、ゼオンは苦笑した。
まあ確かに自分が魔物であるとはわかるまい、自分はかなり人間に近い外見をしている。
髪に隠れているツノを見せれば、自分が魔物であるとわかるかもしれないが、今の本題はそこではない。

「それで、まだ食事はあるのか?」

「あ、はい。大丈夫です、ありますよ。少し待っていてください。えっと…」

「名前か?ゼオンだ。お前は?」

「ゼオン君、ですか。いい名前ですね、私はシエスタです。それじゃちょっと待っててください、ゼオン君」

「…君づけはやめろ」

ゼオンを厨房の片端の椅子に座らせ、シエスタは厨房の奥へと消えていった。
待っている間はやることもない、仕方なくそこらに目を向けて観察する。

(ホウ、これは…)

魔界の王宮の厨房とは比べるべくもないが、なるほどこの厨房もなかなか立派なものだ。
さすが貴族の学び舎といったところかと感心していると―――

(……!!)

ある場所に彼にとっての神が鎮座していた。

しばらく時間がかかったがシチューを皿に入れ、シエスタはそれを持って歩いていた。
時間がかかったのはシチューの量が減っており、少しとはいえ作り直す必要があったためである。
幸い、コック長であるマルトーがシチューを更に作っている最中だったので大した時間はとらなかった。
しかしお腹を空かせている子供を待たせるのは忍びない、早く戻らなきゃと自然足も早くなる。
視界に白銀の髪が見え、シエスタは謝罪した。

「すいません、遅くなってしまって。シチューでいい、です、か…」

少しずつ声が細くなっていく。
ゼオンがいる、それはいい。しかしやっていることが問題だった。
かつおぶしを口にくわえ、手に持ったかつおぶしをシャッシャッと削り節にしている。
ボールの中に積まれた削り節の量はかなりのものである。
ゼオンの表情はとても幸せそうな今までとは違う子供相応のあどけないモノで、かつおぶしにまさしく夢中だった。

(か、可愛い…!)

これは可愛い、ひどく可愛い。思わず抱きしめたくなる衝動にかられる。
しばし見入っているとゼオンが気付いたのかこちらを振り向いた。

「ん?シエスタか。ふむ、シチューか…そこに置いておけ。オレはこれで十分だ」
「え?あ、はい…」

素直にシチューをゼオンの傍に置く。

「けど、それだけでいいんですか?」
「構わん、これがあればオレは生きていける」

それだけ言ってゼオンはまた作業を再開した。
やはりとても幸せそうである、その表情からは先ほどのセリフが完全に本気であることがありありと伺えた。
彼はこの異世界に来て以来、初めての心からの笑顔を浮かべながら作業に没頭するのだった。


全て食べ終わり、満足したゼオンは食堂へと戻っていた。
シエスタは「いつでも来てくださいね」と言っていたので、かつおぶしがいつでも食えるとわかりゼオンはご機嫌である。
辺りを見回し、目的地を探す。行き先はルイズのところである。少し探すとすぐに桃色がかったブロンドが見えた。しかし。

(何をやってるんだ、あいつは?)

ルイズはテーブルに突っ伏していた。
家族が見れば目を覆わんばかりの光景だが、今の疲れきった彼女にはそんなことは関係なかった。
昨日といい食堂での一件といい、ゼオンにとことん疲れさせられているのである。
もうこのままここで全部忘れて寝てしまいたいと思うほどに彼女はふて腐れていた。

「おい、女。起きろ」

傍まで近づき、ゼオンが呼びかける。

「…何よ、今度はわたしにどんな迷惑かける気」

暗く澱んだ目をしながら、ルイズはゼオンの方を振り向きすらせずに答えた。
もうこれ以上の迷惑はゴメンだ、何か無茶なことを言い出したら速攻で無視する。
しかしゼオンの言葉は彼女にとって想定外のものだった。

「シチューを持ってきた。食え」

コト、とシチューの入った皿がテーブルに置かれる。
その言葉に彼女は耳を疑い、思わず振り向いた。

「…え?シチュー?あんたが?わたしに?」

ゼオンとシチュー、そして自分をルイズは何度も指差す。

「何だ、いらないのか?」
「い、いる、けど…」

置かれたシチューにおずおずと口をつける。

(おいしい)

シチューには何もおかしなものは入っておらず、普通のおいしいシチューだった。
厨房にゼオンが行ったもう一つの理由はルイズに食事を持って行くためだった。
さすがに全て食べてしまったのは悪かった、予想以上に腹が減っていたため、気付いた時には全て空にしていたのである。
謝罪はしたくないが、このまま放置も後味が悪く、何か食べ物をもらいに行ったのだった。

(やっぱりこいつ、そんなに悪い奴じゃないのかしら?)

悪い奴が少しいい所を見せると実はいい人に見えてしまうのと同じ理屈で、ルイズは少しだけそう思ったが、すぐにかぶりを振った。

(だ、騙されちゃ駄目よ。元はといえばこいつが全部食べちゃったのが悪いんだし。片手で放火してもう片方の手で消火するような真似よ、全然いいことなんかじゃないんだから)

そう考えているとまた少々怒りが湧いてきたが、先程ほどではないので黙ってシチューを食べる。
と、ゼオンがルイズの傍の椅子に座る。そこはマリコルヌの席なのだが、そんなことは当然気にも留めない。

「あと言っておくことがある。午前中はオレは用がある」

ゼオンの欠勤発言にルイズはじろりと睨み、シチューを食べる手を止める。

「あんたわたしの使い魔でしょ。勝手な行動しないで」
「どうせ貴様についていっても無駄だろう?授業を受けている間、オレがやることは何もない。実際、全てのメイジが使い魔を教室に連れて行っているわけではあるまい」

確かにその大きさや環境的な問題から教室の中まで連れて行けない使い魔もいる。
ゼオンの言っていることは正しくはある。しかしそこにゼオンは含まれない、なぜならば。

「あんたは別でしょ。身体が大きいわけでも教室にいられないわけでもないんだから」

ゼオンは言ってみれば子供と変わらない存在である。教室に連れていくことに不都合などあろうはずもなかった。

「教室に入れるのに連れてこないとなると、使い魔に舐められてるように見えるもの。あんたが来ないことでの不都合はあるの」
「ならばケガの容態がかんばしくないとでも言っておけ。オレのケガは皆見てるだろう、それで通るはずだ」

それに、と続ける。

「いないのは午前だけだ。午後からは貴様についていってやる」

「まあ…それならいいけど。いったい何の用事があるのよ?」

釈然としないものを感じてはいるが、それ以上にルイズは用事とやらが気になった。

「コルベールとか言ったか、あのハゲに会いに行く。その後は散策だ。貴様の記憶だけではこの学院全ては把握しきれていない」

「ミスタ・コルベールに?何のためによ」

「奴がこの学院で最も知識のある人間だろう?貴様の記憶を見る限り、普通とは違ったモノにも興味を持ってるとか。その知識も欲しい」

帰る方法を見つけるためにな、と口には出さず胸中で呟く。

「ミスタ・コルベールのあの変な研究とかに使ってる知識を?あんたやっぱり変わってるわね…まあいいわ、行ってきなさい。ただし!!」

くわっと目を見開いてルイズがゼオンに指をつきつける。

「絶ぇ~~~っ対に粗相のないようにしなさい!傍若無人な態度とか絶対とるんじゃないわよ!」

コルベールは非常に温厚な教師だが、ゼオンがルイズにやるようにさんざんにバカにすれば、いくらコルベールでも激怒する可能性がある。
そうした場合、その責任をとることになるのは当然この使い魔の主たるルイズなのである。

「フン、その程度は考えている。ヘソを曲げさせて情報が手に入らなくなるのはオレとしても面白くない」

そう聞いても疑念が晴れることはないのか、ルイズはじと目でゼオンを見ている。

「約束したわよ、絶対にバカにしたりとかするんじゃないわよ」

「しつこいぞ、やらんと言ったらやらん。むこうがやってきたらその限りではないがな」

がたり、とゼオンが椅子から立ち上がる。

「確かに伝えたぞ。ではオレは行く」

マントをたなびかせ、ゼオンが食堂から出ていく。
その後姿は子供にも関わらず、王者の風格のようなものが表れていたが、見ているルイズにはそれがどうしても不吉な未来図を暗示しているように思え、不安にかられていた。

「…やっぱり心配だわ…もう、何でこんな苦労ばっかりすることになるのよ!」

もう自棄だと言わんばかりにルイズは残ったシチューをかきこんだ。





本塔と火の塔に挟まれた一画、みすぼらしい掘立小屋に炎蛇のコルベールの姿はあった。
研究と発明を生甲斐とするコルベールは自分の居室ではなく、この研究室にいる時間の方が多い。
この研究室で眠る日も少なくはないほどである。

(ふむ、『愉快なヘビくん』は…ここをこうして…)

いつものように発明に没頭している中、研究室の扉をノックする音が響く。

(誰かな?大抵の人はここに寄り付くのも嫌だとか言っていたのだが)

「空いていますよ。入ってきてください」

ドアが開かれて訪問者、ゼオンが入ってくる。
その瞬間にコルベールは思い出したくもない懐かしい圧迫を感じた。
そう、これは魔法研究所実験小隊時代に死を賭さねばならぬほどの怪物を相手にした時と同じ感覚―――

(バカな、何をわたしは考えているんだ)

相手は子供だ、どうかしている。
彼が召喚された時に念のためにディテクトマジックで調べたが、全く魔力を検知することはなかったのだ。
疲れているのだろう、と懸念を押し込み、彼はゼオンを歓待した。

「おお、君は!もうケガは大丈夫なのかね?」

「ああ。傷は無事完治した」

一言述べると部屋の中央まで入ってきて、雑多に並べられた発明品の一つをゼオンは手に取った。

「ほう…珍奇なものばかりだが、原理は面白いな。この世界ではこういった物は作られていなかったはずだが」

面白い、と言われてコルベールの目が輝く。
何しろ今までずっと評価してくれる人がいなかったのだ、喜色満面といった表情になる。

「おお!君にはこの発明の面白さがわかるのかね!これは素晴らしい!えっと君は…」

「ゼオンだ。コルベール、お前に聞きたいことがある」

「わたしに聞きたいこと?一体何かね?」

コルベールはゼオンに椅子をすすめ、自分もまた椅子に座りなおしてゼオンと向き合った。

「召喚されたものを元の場所に送り返す魔法を知らないか?」

やはり帰りたいか、とコルベールは申し訳なく思う。

「…残念だが、召喚する魔法はあっても返す魔法はないのだよ」

答えにゼオンは落胆した、それはルイズの記憶から得た知識と完全に一致していたからだ。

「教師でも知らないか…」

「しかしミス・ヴァリエールに頼めば一時的な帰郷などは許してくれるはずだよ、彼女は意地っ張りではあるが優しい子だからね」

突然召喚されたのだ、故郷が恋しくなるのは仕方ないのことだろう。
ましてやこの子は子供、親元に帰りたいと考えるのは当然だ。
コルベールは慰めのつもりで意見を出してみたが、ゼオンは苦笑して首を振った。

「生憎と、あの女が許可を出そうとも帰れない。どうやらとんでもなく遠い所へ来てしまったようだからな」

「遠いところ…?一体君はどこから来たのだね?」

あの公爵家令嬢の許可を得ようとも帰れない場所、となると東方のロバ・アル・カリイエだろうか?
訝しむコルベールに対してゼオンは告げた。

「オレは別世界から来た。ここ、ハルケギニアとは違う世界からな」

ぴたり、とコルベールの動きが止まる。

「なんと言ったね?」

「別世界から来た、と言った」

内容のあまりに突飛さにコルベールは固まっている。
ゼオンともっと交流を持っていたなら信じたかもしれないが、ゼオンとは今回が初対面と言ってもいいほどだ。

「まあ信じられんのも無理はない。頭を貸せ、見せてやる」

頭を出してどうなるのか?と思いもしたが、言われるままにコルベールは頭をゼオンの方に傾ける。
鈍く輝く手をゼオンはコルベールの太陽のような頭に置いた。

「こ、これは…!」

コルベールの頭に直に映像が流れ込んでくる。
自動に動く機械、トリステインの都市など問題にならぬほど巨大な都市、そしてたった一つの月―――!

もう十分だろう、と判断してゼオンは手を離す。

「これでわかったか?」

「た、確かに…なんと…まさか別世界が存在するとは…」

コルベールはあまりの衝撃に半ば放心している。
しばし呆然としていた後―――水を得た魚のようにはしゃぎだした。

「まさか!まさか異世界とは!面白い!ハルケギニアの理だけがすべての理というわけではないのだな!ゼ、ゼオン君、是非とも先のをもう少し見せて―――!」

抱きついてきかねない勢いのコルベールにゼオンは落ち着け、と促す。

「生憎とお前に見せた以上のことはもうないぞ。お前が本当に見たい物を見たいなら、自分で行きでもしなければ無理だ」

「そ、そうか…しかしこれは本当に素晴らしい!いや、十年は若返った気分だよ!世界にはまだまだ大いなる謎が満ちているものなのだな!」

少しは治まったようだが、まだ興奮冷めやらぬといった風にコルベールは叫ぶ。

「まあそういうわけだ、オレは帰らねばならんが、方法がない。一番当てにしていたのは返還の術式をお前から聞くことだったのだが」

ないのなら仕方ない、別の手段を講じるとゼオンは代案を出した。

「お前は発明だの何だのとやっているんだろう?ならば何か珍しい物や情報をよく入手するはずだ、手に入れたらそれをオレに見せてくれ」

ふむ、とコルベールは黙考する。確かに自分の元にはそういった物や情報が入ってきやすい。

「しかしそれを見てどうするんだね?」

「オレのように異世界から来た物や情報があるかもしれん。そいつを足がかりに帰る方法を探す」

なるほど、とコルベールはうなずいた。
非常にか細い希望だが、現状では確かにそれ以外あるまい。
また、ゼオンが別世界の存在だとすると、恐らく先ほどからゼオンから感じる圧迫感は彼が異世界人だから感じているものなのだろう。
先にゼオンから見せられたあの映像は異世界の機械とかそういったものだとコルベールは考えており、ゼオンは普通の子供だとコルベールは思っていた。

(しかしやはり気になる、もう一度確かめるかな)

どうしてもこの感覚が気になり、もう一度ディテクトマジックをかけてみる。
もう一度見て、彼がただの子供と確認すればこの感覚も取り越し苦労の笑い話にできるだろう―――

(…!?何だコレは…っ!)

前回調べた時とは全く違う結果がそこにはあった。
以前コルベールが調べた時は、ゼオンはガッシュに全魔力を渡していた。しかし今では空になっていた魔力も回復している。
ゼオンの身体の隅々まで溢れる、荒れ狂う雷のような暴悪なまでの魔力。
コルベールでさえ、未だかつてここまでの魔力は見たことがなかった。

(そして…血の、臭い…)

その力故に自然と目も鼻も注意深いものに変わる。
コルベールはゼオンから確かな血の臭いを感じ取った、人を殺したものだけが身に纏う血臭を。
冷汗を浮かべるコルベールを見てゼオンがニィ、と笑みを浮かべる。

「オレを『見た』な。フン、物好きな奴だな。ただの子供と思っていた相手を『見る』など」

「君、は…ゼオン君…」

コルベールは荒く息をつき、悲しそうに顔を歪めている。
力を見たからだけとは思えないコルベールの様子にゼオンは怪訝そうな顔をしたが、すぐに得心がいったのかまた笑う。

「ほう、そこまでわかったか?疑問に思っているようだから答えてやる。お前の思っている通り、オレは人を殺したことがある」

あっさりと認めたゼオンにコルベールが苦しげな顔をする。

「…なぜ…君のような年端もいかぬ子が…」

「簡単だ。そいつらがオレの家族を苦しめ、殺そうとしたからだ」

憎しみ、怒りの空しさを確かに実感したが、それでも許せないことはある。
少なくとも奴らを殺したことについては後悔していない。





豪華な調度品のある一室に死の気配が充満していた。
多くの人間が倒れ、事切れている。共通しているのは皆一様に恐怖の顔を浮かべていることだった。

「た、たす、助けて…ひ、ひ…!」

色白な白衣の男が命乞いをする。
しかしそれに白銀の子も、髪を逆立たせた青年も答えることはなかった。

「バルギルド・ザケルガ!」

「ひ、ぎ、あぁあああぁぁあああああぁあああ!」

またもう一人、雷の拷問にかけられる。
髪を逆立たせた青年、デュフォーを閉じ込め、苦しめていた研究員のメンバーの一人だ。
デュフォーの全てに答えを出す能力、アンサートーカーの力により、研究に中心として携わっていた全員がこの一室に集められていた。

「ゼオン、とめろ」

心が壊れる寸前で雷の拷問から解放する。
白衣の男が助かったと思ったと同時にデュフォーは足を男の首に振り下ろした。
鈍い音が鳴り、男は永遠に動かなくなる。
もはやこの場にいた者達もゼオン、デュフォーを除けばたった一人しかいない。

「ま、まて…待てD!ややめろ、やめろ、やめてくれ!」

デュフォーと長年一緒にいて、ずっと苦しめてきた老人の研究者だ。

「わ、私がその力を開発したんじゃないか!その力があれば君は何でもできる!私のおかげなんだ!だ、だから…だから…!」

もはや自分の命惜しさに正常な判断ができなくなっているのだろう。
自分の支離滅裂な言動に気づいていない。

「デュフォー。こいつだけはお前の手で最初から最後までやりたいだろう?」

ゼオンは髪の毛を抜き、それを剣に変えてデュフォーに手渡した。
デュフォーはその剣を携え、無言で老人に近づいていく。

「ひ、ひ、ひ…!ディ、D!D!!Dーーーーーーーーー!!」

無言のままデュフォーは剣を振りかぶった。



チ、と舌打ちする。
不愉快な記憶だった、あんな吐き気のするゴミの最期など覚えていても苛立つだけである。
コルベールを見やり、告げる。


「フン、どうでもいい話だったな。気分が悪くなる」

もう話は終わったとゼオンは立ち上がった。

「邪魔をしたな。もし何か見つかったら教えてくれ」

そのまま研究室の扉へと向かっていく。と、その背中をコルベールが呼び止めた。

「ゼオン君。もしも…もしも、ここでその許せない存在ができてしまったら。君は、どうするかね?」

その声には特に何の力もこもっておらず、淡々と響いた。

「さあな。今と昔では違う」

振り返らずに答え、ゼオンは研究室から出て行った。

ただ一人となったコルベールは天井を見上げる。
もしも。もしも…彼がそんな存在を見つけてしまったとしたら。もしもその昔と同じならば。

「わたしが彼を…ゼオン君を、止めなくてはならないのだろうね」

声の大きさに反し、その言葉には固い決意が込められていた。


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