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風が揺らす翼と冠-01

 かつて、未だ人が神を畏れ
 世界に光と闇が混在していた時代
 それは世界に魔法が充ち溢れ、竜と人とエルフとそして悪魔達が住まう時代。
 黙示録の絶望を僅か390年後に控えた世界で一人の老人がその命を終えようとしていた。
 老人は賢者であった。
 数多くの弟子達に慕われ、その叡智で彼らを導いてきた。
 老人は聖者であった。
 神への信仰では無く、その人徳と意思で数多の人々を救ってきた。

 だが、そんな老人も死には勝てない。
 細り切った体を蝕む病に必死になって抵抗してきたが、それも敗北に終わる。

 無念だ。
 結局、私は一番救いたかった娘を、なによりも護ろうとした弟子になにもしてやれなかった。
 あの娘の蘇生にはまだまだ時間がかかる。せめてそれを見届けてから死にたかったが……ここが限界らしい。

「後の事は頼んだぞ、マーガレット……ミカエル……」

 それが、老人の……法王ラハブ一世の最後の言葉となった。
 だが、老人は知らない。
 「彼女」の眠る棺の中から忽然と「彼女」の躯が消え失せていた事を。



 空と大地を遙か遠くに移し、異変は続く。
 その場所はトリステイン魔法学院。
 一年生が進級するために行われる春の使い魔召喚の儀式で、ちょっとした騒動が起こっていた。
 簡単にかつ簡潔に言ってしまえば、人間が召喚されたのである。
 「雪風」の二つ名を戴く少女、タバサが人間の少女を召喚したのだ。
 その場にいた誰もが息をのんだ。
 召喚された少女は、余りにも美しかった。
 少女の足もとまで続く、蜂蜜のようなブロンド。
 歳相応の脹らみを魅せる肢体の、非の打ちどころのないほどに完璧なバランス。
 それは、神への叛逆心の産物か。はたまた悪魔を駆逐するための光を求めた結果なのか。
 あるいは、その両方が生み出したるモノなのか? まるで神話の女神そのままのような少女。
 その場にいる男たちは少女が全裸であるにも関わらず、欲情するよりも先に純粋にその美の虜にされている。

 額に刻まれた、翼と冠を組み合わせたような紋章らしきものが輝くと少女はゆっくりと目を開く。
 紋章が輝きとともに消えうせ、代わりに顕れたのはルビーよりも透き通った紅い瞳。

 タバサは、その少女に近づいてゆく。
 勿論、彼女が予想していたどんな使い魔とも違っていたが、不思議と落胆する気にはならなかった。
 むしろ、自分だからこそ彼女を呼出し、そして彼女だからこそ自分の呼び掛けに応えてくれた。
 そんな、運命じみた予感すら覚える。

 そしてタバサは少女に口付をし……
 天使を己が使い魔とした。



 学園の一室で、二人の少女が静かに本を読んでいる。
 一人は、短い水色の髪とめがねを掛けた少女、タバサ。
 もう一人は、長い金髪を幾つかの三つ編みに纏めてゆったりとしたローブを纏う少女……タバサの使い魔ウリエルであった。
 タバサがウリエルを使い魔としても取り立てて何か日常に変化があった訳ではない。
 あるとすれば、本を読む時間が一人では無く二人になった事ぐらいか。
 勿論、人間を使い魔とした事によってくだらない陰口をたたかれることはあったが(ゼロのルイズが同じように平民の少年を使い魔にした事も影響している)タバサはそれを全て無視していた。
 ウリエルの方も同じように……と言うよりも、タバサがそうであるようにウリエルもまた感情を表に出さず、滅多に口を開かない人物であったので、やはり同じように他人に興味を示す事はなかった。
 時々、晴れた日に思い出すように外を眺めているのは見掛けるが、ウリエルの事は主であるタバサですらほとんど知らない。

 唯一知っているとすれば、ウリエルもまたメイジであるという事。

 詠唱を必要とせず、自分が扱うより更に強大な魔法をいとも簡単に操り切る。
 彼女がいれば、ガリアから母を取り戻すことすら不可能ではない。
 だから、タバサはウリエルの事を誰にも漏らさないようにした。
 エルフでも吸血鬼でも韻竜でもない、正真正銘の「人間」が先住魔法を扱えるという事実が知られれば、アカデミーが黙ってはいないだろう。

「タバサ」

 本を読みながら、思考に没頭していたタバサをウリエルの声が引き戻す。
 視線を向ければ、ウリエルが窓を指差していた。
 そこには、誰かの……恐らくはジョセフ派のメイジの使い魔であろう鳩がいた。
 窓を開け、鳩を部屋の中に招き入れる。
 鳩の足に括り付けられていた手紙の内容を確かめると、タバサはもう用は無いと言わんばかりに鳩を外へ追い出した。
「いくの?」
「ええ」
 ウリエルが本を閉じ、傍らに立てかけてあった杖を手にする。
 彼女が師から譲り受けたモノを再現したと言って創った杖。
 やはり師のようにはいかない、と杖の出来に不満そうではあったがタバサから見れば十分優れた杖に見える。
「転移は?」
「いらない」
 ウリエルの魔法の一つ、転移魔法を使えば簡単にガリアの王城に辿り着く事が出来るだろうが、あえてそれは使わない。
 遠距離を一瞬で移動できる魔法など、ハルキゲニアには存在しないのだ。あの連中が見た事もない魔法に恐れおののく姿は見てみたい気もするが、そんな下らない事で切り札を衆目に晒す気にはならない。
 大人しく、普段通りに馬を使って移動すればいい。
 強大な力を手にしながら、それを振るう事ができないとは、この世はほんとうにままならない。
 例えば、風竜を呼び寄せたのならばその背に乗って行く事も出来ただろうに。
 勿論、今の使い魔に不満が在る訳では無い。
 力のみならず、物静かで不要な事は云わずよく尽くしてくれる使い魔に何の不満があろうか。
 あの時感じた予感は、間違っていなかったのだから。

 尤も、その確信をタバサは未だに間違えてはいたが……



 ガリアの王女、イザベラから受けた命はサビエラ村に潜伏しているいう吸血鬼の討伐であった。
 トライアングルクラスの正騎士をも葬った恐るべき妖異を相手に宛がうとは、よほど自分に死んでほしいらしい。
 だが生憎とそう思い通りになってはやらない。
 絶対に吸血鬼を討ち、生還するのだ。
 そんな決意を胸に歩くのだから、村人たちの不安げな視線や陰口など気になる筈もない。

 程なくして、村で一番高い場所にある村長の家へと辿り着く。
 居間に通された二人を出迎えたのは、白いひげの人の良さそうな老人。
「ようこそいらっしゃいました。騎士様」
「私はガリアの花壇騎士ウリエル……状況を、聞かせて」
 今回、タバサが立てた作戦はウリエルを騎士と偽り、吸血鬼を欺く事だった。
 メイジの腕前としてのみならず、戦士としても優れたウリエルの方が騎士として説得力がある気がしたのは気のせいだ。
 それはともあれ、特に指示せずとも確実に自分の役割を果たすウリエルにタバサは満足する。
 前回の任務の時も彼女は同様に、まるで初めての事ではないかのように仕事をこなしていた。
 どうにも、ウリエルは自分に召喚される以前にも似たような事をしていたらしい。
 騎士なのかと問うと、唯の「闇祓い」だと答えたが。
 闇祓い、とは悪魔を討つ事を生業にする者達の総称なのだと言う。
 悪魔などというモノが居るのかどうかタバサ自身にも眉唾ものであったが、ウリエルが居るというのだから居るのだろう。彼女はそういう事で、冗談を言う人間では無い。
「……ならば、まずは屍人鬼がいないかどうか調べる」
「はぁ、しかしこんな田舎ですからの。畑仕事や森で、虫や蛭に刺される者も多いですしな。首に傷があるものだけでも、7人おりましたわい。なにせ山ビルは首を狙ってつきますからの……」
「問題ない」
「は? と、言われますと?」
「強い力を持つ吸血鬼ならともかく、屍人鬼程度なら一目で判る」
「そ、それは本当ですか!?」
 突然のウリエルの発言に目を見開いたのは村長だけでは無く、タバサも同様だった。
 よもや、屍人鬼を一目で見抜けるなどとは思いもよらなかった。なにせ屍人鬼は吸血鬼に送り込まれた血を活性化されるまでは只の人間と変わらないのだから。
「でしたら、調べてほしい者がおります」
「調べてほしい?」
「はぁ、村はずれのあばら家に住んでおります親子なのですが……村の者どもがあの二人こそ吸血鬼と屍人鬼だと疑っておりまして」
「何故?」
「母親の方は病気で一日中寝たきりでございますし、アレキサンドル……これは息子の方ですな。こちらも元々余所者と言う事で村の者と付き合いがあまりよくありません」
 要するに、こうした場所に有りがちな閉塞性と偏見が元らしい。
 とは言え、その二人が吸血鬼では無いとも言い切れない。ウリエルとタバサはお互いに頷きあってそこから調査を始める事にした。
「その前に、貴方も調べさせてもらうわ」
「わしが、屍人鬼だと疑っておられるので?」
「屍人鬼は、吸血鬼が力を送り込むまで普通の人間と変わらない。悪いけれど、村人全員が容疑者よ」
「……こんな老いぼれですじゃ。恥ずかしいことなど何もありませんわい。存分にお確かめください」
 そう言って、村長は服を脱ごうとするがウリエルがそれを押しとどめた。
「魔法で調べるから、脱ぐ必要はない」
「こ、これは失礼を」
 覚悟していたモノとは違う羞恥で顔を赤くした村長を無視し、ウリエルは小さく呪文を唱える。
 とは言え、呪文の内容などデタラメも良いところだ。端から聞いているタバサにはそれで魔法が起動するわけ無いと解っているが、村長はなにやら厳粛な雰囲気を漂わせている。
「貴方はちゃんと生きた人間のようね」
「おぉ、疑いは晴れましたか」
 ほっと一息つき、緊張で強張っていた体を楽にする。
「その親子の家に案内して」
「かしこまりました……では」
 村長に案内され、家をでようとする二人。
 ふと、タバサは後ろから聞こえた物音で振り返る。
 そこには、五歳ぐらいの金髪の女の子がいた。
 女の子は、タバサと視線が合うとすぐに物陰に隠れてしまう

「タバサ?」
 ウリエルの呼び声で、タバサはそちらに視線を向ける。
「おぉ、エルザ。騎士様にご挨拶なさい」
 エルザと呼ばれた少女は村長の呼びかけに応じず、そのまま家の奥へと走り去ってしまった。
 そんな少女の姿を見て、落胆したように村長は口を開く。
「……ご無礼をお許しください。エルザはメイジが怖いのですじゃ」
「メイジが怖い?」
「エルザはメイジに両親を殺されておりますのじゃ……行商が何かしらの理由で無礼討ちにされたか、それともメイジの盗賊に襲われたか。いずれにしろ、一年前に寺院の前にいたのを儂が引き取って育てることにしたのですじゃ」
 ウリエルは、少女が消え去った先を見つめる。
 勿論、そこには誰もいないのだが、彼女にはそこから視線を動かすことが出来なかった。
「儂はあの子の笑った顔を見たことがないのですじゃ。体も弱くて、あまり外に出してやることも出来ません。一度で良いから、あの子の笑顔をみたいものじゃの……」
 悲しげに呟いた村長の言葉に、ウリエルは何か感じ入る事があるのかその場から動こうとしない。
 すると、タバサがウリエルの服の袖を引き、早く調べに行こうとせっついてきた。
 ウリエルも、それで自分の役目を思い出したのか静かに頷く。
 そうして、屋敷を出る二人。
 ウリエルが振り向くと、窓からエルザがこちらを見ているのが解った。
 ……敢えてそれに気づかないふりをしてウリエルは歩き出す。
 自分がなすべき事は彼女に接することではないのだから。



 そうして、目的地に辿り着いた訳であったが……
 なんと言うべきか、さっそく問題が起こっていた。
 あばら家を取り囲む、殺気立った村人たち。
 吸血鬼という災厄が、何時自分自身にふかかってくるかその恐怖と緊張に耐えきれなかった人々の群れ。
 みすぼらしい小屋に住む親子を口汚く罵倒し、引きずり出そうとするその様は普通の人間が見れば、心を痛めるのかもしれない。
 だがタバサもウリエルも、それを見ても眉根一つ動かす事はなかった。
 「こういうこと」に関わっていれば、こんな事態は珍しくも何とも無い。
 二人にとってはそれなりに見慣れた事態なのだ。
「やめて」
 短く、静かでいて歳不相応な威圧感をもったウリエルの声が村人達の間を奔る。
 大の男の罵声を退けるそれは、村人たちの怒りと不安を消し去ることこそ出来なかったが、彼等の注意を自分達に向けさせる事には成功した。
 村長に連れられた、見慣れない二人の少女。
 頭に血が上っている村人には、彼女たちが何者なのかという思考に至る事が出来ない。
「なんだよコラ! 女は引っ込んでろ!」
 貴族である(と言ってもウリエルは貴族ではないのだが)事に気づけなかった男が二人にくってかかろうとする。
 だがタバサはそれを無視し、ウリエルは一瞥するだけであった。
 自分よりも年下の、どうみても小娘にしか見えない二人組の態度に男は血管がはち切れんばかりの形相をしたが、それは別の村人の一言で逆転する。
「貴族!」
「お城からいらした騎士さまじゃねぇか!」
 幼く見えようと、貴族の持つ魔法の力は人々にとって畏怖の対象だ。
 気付かなかったとは言え、この国の支配階級に向かって暴言を吐いた男は顔を真っ青にする。
「……どいて、その人が本当に屍鬼人なのか調べる」
 ウリエルが一歩を踏み出すと、村人たちはしずしずと道を空ける。
 年端もいかない子供二人に見えるが、こうした事態に全く動じていない事が彼等にある種の安心感を与えているらしい。
 そうして、ウリエルは男の……アレキサンドルの前に立つ。
「お、俺は屍鬼人なんかじゃない。おふくろだってそうだ……」
「黙ってて」
 ウリエルは、小さく呪文を唱える「振り」をする。
 多分、傍からみれば魔法を使って男の事を調べているように見えるだろう。
 紅い瞳で、じっとアレキサンドルを見つめていたウリエルが不意に口を開く。

「お母さんは家の中?」
「あ、あぁ」
「調べるわ」
 そう言うと、ウリエルはタバサに目配せをした。
 それが「ここで待っていろ」という意味だと悟ったタバサは頷く。
 アレキサンドルと共に、家の中に入るウリエル。
 村人達は声を潜める事も無く、各々に勝手な憶測ばかりを話あっているが、そんな事はタバサには関係ない。
 興味があるのは、いかにして屍鬼人や吸血鬼を見破るのかという事だけだ。両者ともに普段はただの人間と変わらない、それが討伐を難しくしている。
 だが一目でそれと判る方法があるのならば、それがどれほど有効な事か。
 しばらくして、ウリエルが出てくる。
 村人達を見渡すと、静かに事実を告げた。
「彼女は、吸血鬼ではないわ」
 アレキサンドルが安堵するのとは対照的に、村人たちは予想とは全く違う結果にどよめく。
 彼等にとって、騎士が調べる事はあの親子が吸血鬼と屍鬼人であると断定し自分達の予想を証明してくれる筈であって、それを否定される事ではない。
「どうしてそんな事が解るんだ!」
 当然上がる疑問。
「彼女には、負の力が無かった」
 それに対するウリエルの答え。
 勿論、「負の力」など言われても村人に判るはずもない。
「他の家を調べるわ」
 疑問符で頭が一杯の彼等を無視して、ウリエルが言うとタバサは頭を下げる。
 演技ではあるが、それは本当に騎士と従者のようであった。
 少しばかり早足で、村人から一刻も早く離れ、それを気取られないほどの速さで歩く。
「タバサ」
 タバサの耳にだけ届くようにウリエルが話す。
「彼は、屍鬼人だった」
 タバサは視線だけを後ろに向ける。
 騎士が吸血鬼では無いと断じたためか、それぞれの家に帰っていく人々。
 それを背に、小屋に入るアレキサンドルが見える。
 やはり、あの親子が吸血鬼だったのかとタバサが考えたが、それはウリエルに否定された。
「母親の方は、人間だった。彼だけが屍鬼人」
 ……どうやら、予想していたよりも遙かに手ごわい相手である事を、タバサはその肌でしっかりと感じ取っていた。

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