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ディセプティコン・ゼロ-15

厚い雲の垂れ込める、アルビオン空軍工廠、ロサイス。
先日の戦闘によって多大な被害を被ったこの町は、未だその衝撃から立ち直ってはいない。
町は蹂躙の傷痕もそのままに、喪に服す人々の嘆きの声に満ちている。
しかし一方で、奇跡の様に原形を留めていた2本の巨大な煙突からは、連日の様に灰色の煙が立ち上っていた。
そして―――――



熱で折れ曲がり、桟橋としての機能を失いつつある建造物の根元には、満身創痍としか言い様の無い、巨大な空中帆走戦艦の姿。
吹き飛ばされたマスト、折り取られた左翼、抉られ消し飛んだ後部甲板。
未だ修繕の済まぬそれらの箇所には足場が構築され、その上では無数の作業員により修復作業が行われている。
そして艦体の傍らには、それを見上げる1人の男性の姿。



サー・ヘンリ・ボーウッド。
彼の眼前に座する巨艦『レキシントン』の艤装主任であり、次期艦長である。



「此処に居たか、ミスタ・ボーウッド」

背後から響く済んだ声に振り返れば、其処には緑のローブを纏った金髪の男性。
『レコン・キスタ』総司令官、オリヴァー・クロムウェルの姿が在った。

「経過はどうかね、主任」

供の者を背後に引き連れ、ボーウッドの横に並んで艤装中の『レキシントン』を見上げるクロムウェル。
彼の問い掛けに対し、ボーウッドは素っ気無く答えを返す。

「新型砲の搭載は完了しました。運が良かった。襲撃の2日前には全基完成していた」
「ふむ、保管庫も奇跡的に無事だった事だしな。始祖は我々に微笑んでいるぞ、主任」

そう言って微笑むクロムウェルを、ボーウッドは姿勢を戻す際にちらりと横目に見遣り、再び視線を『レキシントン』へと移す。

「しかし、左舷砲甲板が使い物になりません。右舷の損傷は軽微ですが、此方に砲を集中させれば主軸が傾いてしまう」
「その為に、君がこの案を出したのではないかね? 尤も、どの様な意図在っての事か、私にはさっぱりだが」

その言葉に答える事無く、ボーウッドは艦首を見遣る。
クロムウェルもそれに倣った。



艦首に増設された、計8門の砲座。
破壊された部位を改修、半ば強引に設置されたそれらは、通常の単縦陣戦法から考えても異常な配置だった。
このハルケギニアの砲戦形態に於いて、艦首及び艦尾の火力を強化する事により得られる利などほぼ皆無であるにも拘らず、未だ見ぬ敵を打ち砕かんとばかりに艦首に突き出した、8門の新型カノン砲。
優雅な曲線を描く輪郭から歪に飛び出したそれらの影は、見る者に薄ら寒いものを感じさせる。



「……搭載が可能なのは計16門。余剰の122門は『ミルウォーキー』及び『チャールストン』に搭載する事となります」
「成程。それで君は、この僅か16門の砲で『何』を相手にするつもりなのかね?」



沈黙。
ボーウッドは答えず、クロムウェルもまた、しつこく問い質そうとはしなかった。
彼等の背後、其処に控えた黒髪の女性が、訝しげに2人を見遣る。
しかしクロムウェルは咳払いをひとつ、ボーウッドへと向き直ると、表情を引き締めて告げた。

「君も知っての通り、『あの敵』には『ウインザー』の『積荷』を充てる。当初の予定とは少々異なるが、それが最も妥当だ。『毒を以って毒を制す』だよ」

そう告げると身を翻し、軽く手を振ってその場を後にする。
返答など期待していない、ボーウッドの行動を読んでの行動だった。
供の者達もそれに続き、黒髪の女性も戸惑いながら追従する。
ボーウッドはそれらを見送る事もなく、只々、奇妙な艤装を施されつつある巨艦の艦体を見上げていた。



「閣下、あの男は何を考えているのです?」

クロムウェルに付き従う従者の1人、黒髪の女性は仮初めの主従関係を演じつつ、そう問うた。
彼女にとって、目前の男は自身の駒であり、また彼女本来の主にとっても暇潰しの玩具に過ぎなかった。
気弱で、権威に弱く、俗物的で、聖職者という化けの皮の下には惨めなまでにみすぼらしい、ごくつまらない人間性が潜んでいる事を知っている。
しかし先程、何を考えているのか窺い知れないあの軍人と話しているその瞬間、彼は気弱な独裁者でも、聖人の仮面を貼り付けた盗人でもなく、ある事柄を確信した1人の人間であった。
彼女には、其処が解らない。



あの男は『積荷』が何かを知っていながら、ニューカッスルとこの町を襲ったあの『化け物』を、自らの手で仕留めるつもりなのだ。
それは間違い無い。
しかし、この男が何故それを容認するのか、其処が解らない。
正直なところ、主の関心を根こそぎ奪って行った、あの『ゴーレムもどき』は憎くて仕方が無い。
だが、その力は認めざるを得ない事も事実。
『あれ』一体で、一国を制圧する事すら出来よう。
然るべき地へと解き放った後、ただ敵が滅び行く様を眺めていれば良い。
否、敵の戦意を挫く為にも、そうすべきだ。
だというのに―――――



「ミス・シェフィールド」

暫しの後、クロムウェルは足を止め、背後を振り返らぬままに口を開いた。
偽りの主従、偽りの口調。
しかし続く言葉には、紛う事無き確信が込められていた。



「アルビオン空軍将兵は、他者の手を以って敵を屠るを良しとしない」



そう言い放ち、再び歩を進めるクロムウェル。
その言葉が意識に浸透するや否や、彼女―――――シェフィールドは背後へと振り返り、あの男の姿を見遣る。
そして、凍り付いた。



何故だろう。
実に恐ろしきはあの『化け物ども』だろうに、自分は別の存在を警戒している。
あの男は危険だと、意識の深淵、本能の何処かが警告している。
否、あの男だけではない。
あの船に乗り組む全ての将兵、頭上を舞う幾隻もの艦の乗組員達。
彼等が自身とは異質の存在であると、全身全霊が声高に叫んでいる。
彼等の本質を見誤ってはならないと。



私達は、この国を理解したつもりだった。
その上で計画を練り、実行した。
しかし、例え国家としての在り方を理解した所で、其処に暮らす者、その全てを理解した事にはならない。
その考えは、正しく今の状況に当て嵌まる。
そう。



私達は『アルビオン空軍』という組織の本質を、完全に理解してはいなかった―――――



『レキシントン』より外され、何時の間にかシェフィールドを捉えていた、一対の眼。
彼女の意識に映り込んだボーウッドの視線は、獲物を狙う猛禽の目、氷よりなお凍て付く鋼の目だった。





「『竜の羽衣』……ですか?」

恐る恐る返された言葉に、ルイズは頷く。
厨房の片隅で交わされるその会話を、他のメイド達や料理人達が首を傾げつつ見守っていた。

「貴女がタルブの出身だと、オールド・オスマンから聞いたのだけれど。『竜の羽衣』がどんなものか、知っている範囲で教えてくれないかしら?」



事の起こりはキュルケが提案した、トリステイン国内に散在する『地球』製異物の捜索―――――と銘打った、要するに『宝探し』だった。
何処から手に入れてきたのか、大量の『宝の地図』と称された紙切れを基に、虱潰しに各地を視て回ろうと言い出したのだ。



真っ先に難色を示したのはギーシュ。
彼は、そんな何時まで掛かるか解らない事には付き合えない、アルビオンへの数日間だけでもモンモランシーの機嫌を損ねるには十分だったのに、と突っぱねた。
キュルケは不機嫌になった。

次にルイズ。
そう何日も授業を休める訳が無い、大体そう何日も姿が無ければ更に怪しまれる、只でさえアルビオンの件で色々と勘繰る者が居るというのに等々、否定的。
キュルケは涙目になった。

続いてタバサ。
面倒くさい、と一刀両断。
キュルケは幼児退行を起こした。

最後にデルフ。
全て回るというのは非効率的であり時間的損失の点からも容認出来ないが、情報を収集した上で調査地点を絞るのであれば良い提案だ、と比較的好意的。
キュルケはデルフに抱き付き口付けの雨を降らせ、自室へと持ち帰ろうとした所で気絶させられた。



そんな経緯を踏みオスマンに話を通したところ、彼は数枚の地図を見た後、学院に勤める者の中からその地の出身者をリストアップし、ルイズ達へと伝えたのである。
その情報を基にルイズ達は学院各所を巡り、『宝』に関する情報を現地出身者の口から収集し始めた。
そして彼女―――――何時だったかギーシュに絡まれ、上級生2人によって決して軽からぬ傷を負わされたメイドの少女もまた、その情報源の1人だった。



「『竜の羽衣』なんて言っても、大したものじゃありません。鉄で出来た、大きな何かの模型みたいなものなんです。それを身に纏った者は空を飛べる、って言われてたけど……」

其処でメイドの少女―――――シエスタは口を噤み、続いてはっとした様にルイズを見詰め、何事か呟き始めた。

「でも……ミス・ヴァリエールの……そんな……」
「何? どうしたの?」

そんな彼女の様子を訝しく思い、ルイズはその顔を間近から覗き込む。
すると、シエスタは慌てたのか、両の掌を振りながら早口で捲くし立てた。

「い、いえ! あの、ミス・ヴァリエールの使い魔も空を飛んでますよね? しかも鉄で出来てるし……なんか『竜の羽衣』と似てるなぁ、って……」
「シエスタ」

唐突に割り込んだルイズの声に、シエスタは身を竦ませる。

嗚呼、やはり気に障ってしまった。
貴族の使い魔と『竜の羽衣』を比べるなんて、どうしてそんな事をしてしまったのか。

己の失態を恨み、襲い来るであろう叱責の言葉に身構えるシエスタ。
しかしその直後、彼女は突如その手を包んだ温もりに目を瞬かせる。
見ればルイズが、彼女の両の掌を握り締め、真剣な表情でその目を見詰めていた。

そして、熱意の篭った言葉が発せられる。



「その話、もっと詳しく聞かせて貰えるかしら?」





「何で俺達まで……」
『まだ言ってるのか、サイト』

ルイズらによる情報収集の翌日、才人とテファは車上の人となっていた。
フロントガラスから覗く空は快晴の青、雲ひとつ無い。
これが『地球』であれば絶好のドライブ日和であったろうが、今の才人の機嫌は正しく最悪だった。

「当ったり前だ。何で俺らがあいつらの宝探しに付き合わなきゃならねーんだ」
『仕方無いだろう、それが交換条件なんだから。俺としては、学院に残るよりは安全だと思うが』
「解ってるよ。でもやっぱり気に入らねーんだッ」

そう言って、苛立たしげに拳を握る才人。
衝動のままにそれを振り上げ―――――

『プレーヤーを壊したら、俺は怒るぞ』

止めた。
ゆっくりと手を開き、膝の上に置く。

「ははは、当然じゃないか。誰もムシャクシャしてプレーヤーに八つ当たりしようなんて考えてないですよ? ギャングじゃあるまいし」
『ギャングかどうかは知らないが、折角のお気に入りなんだから丁重に扱ってくれよ』

乾いた笑いを零す才人と、何処か冷たさを含んだ音声を返すジャズ。
そんな2人の遣り取りを前に沈黙を保っていたテファだったが、意を決したかの様にジャズへと問い掛けた。

「ねぇ、ジャズ」
『何だ?』
「本当に何も、何ひとつ思い出せないの?」

その問いに、ジャズは黙り込んだ。
才人もまた、表情を引き締めてジャズの返答を待つ。

「あの剣の言った事が本当だとすればだけど……ジャズには目的が在ったんじゃないの? それに仲間も」
『……駄目だな、思い出せない』

漸く返された答えは、苦渋に満ちたものだった。

「あいつ、ジャズは『オートボッツ』だって言ってたな。『ディセプティコンズ』……だっけ。あのヘリの敵だって」

沈黙。
ジャズは答えを返さず、才人とテファもまた口を閉ざした。
ふと前方の空を見遣れば、其処には蒼穹を往く青い風竜の姿。
悠々と飛ぶその背には5つの人影。

「……まさか『竜の羽衣』ってのも『ディセプティコンズ』じゃないよな?」

またもや、車内に沈黙が降りる。
先程よりも更に重い、不安と緊張に満ちた沈黙。
しかしそれは、突如としてスピーカーから響き出したロックによって打ち破られた。
驚き、ステアリング・ホイールを見詰める才人、テファ。
そして、ジャズの陽気な音声が響いた。



『考えても仕方の無い事は考えるな。これ、俺の持論。もう少し気楽にいこうぜ』



続く笑い声に車内の2人は互いの顔を見合わせ、次いで溜息を吐いた。

「はぁ……」
「何だかなぁ……」
『何だ、その失礼な反応は』

不満げなジャズ。
それに対し、才人は頭痛を堪えるかの様に眉を寄せつつ、呆れを滲ませて呟く。

「慎重になるに越した事は無いだろ」
『俺こそは慎重さの王様ですよ?』

ウソこけ、本当だって、と言い争う2人。
助手席からその様を眺めながら、テファは物憂げだった顔に優しい笑みを浮かべた。





ハーフエルフの少女の抗議によってソルスティス車内にリラクゼーション・ミュージックが流れ始めた頃、空を往く風竜の背では1人を除く女性陣一同が盛り上がっていた。
ブラックアウトは速いが乗っていて疲れる、との事で採用されたタバサの使い魔、シルフィード。
シエスタを含め、すっかり意気投合した彼女らが盛り上がる一方で、デルフとギーシュの男性陣は、その背面前方の隅へと追い遣られていた。
吹き付ける風に髪を靡かせながら、ギーシュはぽつりと呟く。

「僕は何故此処に居るんだろう」
「突っ込まねーぞ、俺は」

きゅい、と続いた鳴き声に、ギーシュは己の目に熱い水分が浮かぶのを自覚した。
自分に味方は居ないのか、どうして地表数十メイル上空を飛ぶ風竜の背で孤独を味わわねばならんのだ等々、恨み言が脳裏を過ぎる。
背後から笑い声。
『地球』のとある国家限定の格言だが、正しく『女三人寄れば姦しい』、である。

「孤独だ……」
「だったらあの娘っ子も連れてくりゃ良かったじゃねーか。恋人なんだろ?」
「馬鹿を言わないでくれ。こんな危険な事に彼女を巻き込める訳無いじゃないか」

デルフの言葉に、ギーシュは目を剥いて食って掛かる。
彼女、とはモンモランシーの事であろうが、ギーシュに彼女をこの事態に巻き込む気は更々無かった。
しかしデルフは冷徹に、そんなギーシュの希望を打ち砕く。

「何時までも誤魔化す事は出来ないぜ。どっちみちバレるなら、まだ修正の効く内が良いと思うがね」
「修正?」

首を傾げるギーシュ。
デルフは剣の状態から片方のマニピュレーターを展開、立てた1本の指で鍔の辺りを横になぞる、高速で。

「別れ話になる前に、って事だ」
「帰ったら彼女に全てを打ち明けようと思う。どうかな?」
「了承した」

再び、きゅいぃ、とシルフィードが鳴く。
それは男同士の馬鹿話に対し、着いていけないとばかりに上げられた、乙女の嘆きだった。



一方で、ルイズ達の会話内容は『竜の羽衣』についてへと移り変わっていた。
一応の確認として始められた会話だったが、しかし当初の予想に反し、その内容は徐々に深刻なものとなってゆく。
切っ掛けは、ルイズが確認の為に発した言葉だった。

「『竜の羽衣』が安置されてる寺院は、立ち入りが禁じられているのよね。理由は何なの?」

その言葉に、キュルケとタバサが目を瞠った。
2人の反応に驚いたのか、ルイズが僅かにたじろぐ。
次の瞬間、彼女は2人の拳によって頭を小突かれていた。

「いったぁーいっ!」
「このお馬鹿! 普通そういう事は前日の内に訊いておくべきでしょ!」
「常識」

叱責の言葉を吐く2人に対し、頭を押さえて涙目になっていたルイズが、猛然と食って掛かる。

「大した事無いと思ってたのよ! それに、こっちにはデルフが居るんだし、下の2人も居るんだから十分じゃない! ブラックアウトだって、呼べば1時間以内に来るわ!」
「それでも軽率な事には変わり無いでしょ! ああもう、しっかりした様で何処か抜けてるんだから、この娘は!」

喧々諤々と、言い争いを始めるルイズとキュルケ。
その様を呆然と見詰めていたシエスタであったが、その服の裾を引く手に意識を引き寄せられる。
見ればタバサが、質問の答えを促す様に彼女を見上げていた。

「それで、どうして?」

改めて紡がれる、問い掛けの言葉。
シエスタは一度、深く息を吸い込み、答えた。



「……殺されたんです、人が」



瞬間、喧騒が止む。
ルイズらは驚いた様にシエスタを見詰め、ギーシュまでもが背後へと振り返っていた。
そんな中、タバサだけが冷静に質問を重ねる。

「いつ?」
「8年前の、夏の中頃です。夕暮れ時に寺院の方から、雷みたいな音が聴こえてきたんです。村の人が見に行ったら、一帯の地面が焼け焦げていて……寺院の扉が壊されていたんです」

風切り音の中、誰かが唾を飲み込む音が一同の耳に届く。
言葉を発する者は無く、誰もがシエスタの話に聞き入っていた。

「メイジ崩れの盗賊かも、って皆は家に篭って……その、夜中です。夕暮れの時とは違う、重い音が響いて……次の朝、トム爺さんが居ないって分かって……」
「トム爺さん?」

キュルケが問う。
シエスタが頷き、答えた。

「皆、そう呼んでました。私のひいおじいちゃんと仲が良かったんです。いろんな事を知ってて、ひいおじいちゃんと一緒に村の人達に色々教えてくれたって」
「殺されたのは、その人なのかい?」

ギーシュの問い。
シエスタは躊躇う様に一拍の間を置き、頷く。

「……はい。寺院から少し離れた草原で……『流れ星』の近くで、遺体が見つかりました。といっても、多分トム爺さんだ、としか解らなかったらしいです」
「……多分?」

一同の脳裏に、嫌な予感が走る。
そして続くシエスタの言葉は、その予感の的中を裏付けるものだった。

「バラバラだったって……胴体の一部と、右の足首しか見つからなかったって、父は言ってました。火傷の痕が在るから、多分トム爺さんだって」

誰も口を開かない。
皆、予想外の事態に凍り付いている。
そんな中、デルフだけが平然と言葉を紡いだ。

「よう娘っ子、『流れ星』ってのは何だ?」

突然割り込んだ声。
その発生源近くに居たギーシュは身を竦ませたが、既にデルフがインテリジェンスソードと聞かされていたシエスタは、驚く事も無く的確に答えを返す。

「40年くらい前に、タルブの草原に落ちてきたんです。大きな火の玉で、落ちた瞬間には物凄い音と振動が起こったそうですよ。
当時はゲルマニアとの小競り合いが起こっていたし、特に被害も無いという事で、領主の貴族様からは無視されました。トム爺さんは、その時に助け出されたんです」
「助け出された……って」

シエスタは頷き、続ける。

「多分『流れ星』が落ちた辺りに居たんだと思います。頭と腕の一部以外の全身に火傷を負っていて、殆ど瀕死の状態だったそうです。ひいおじいちゃんが先頭に立って、皆で助け出して介抱したって聞きました。記憶が混乱してて、そのままタルブに住む事になったって」

其処でシエスタは言葉を区切り、何処か悲しげな笑みを浮かべる。
そして、何かを思い出すかの様に、ゆっくりと話を再開した。

「小さい頃、色んな御伽噺を聞かされました。竜より大きい鉄の鳥が居るとか、馬よりずっと速く走る鉄の乗り物が在るとか。他にも、空のずっと上には不思議な場所が在って、其処では上も下も無いとか」

段々と熱が篭り、声が大きくなる。
悲しげな表情はそのままに、しかし口調は楽しげなものとなっていた。

「ひいおじいちゃん以外ではただ1人、『竜の羽衣』が飛ぶって信じてる人でした。自分も、似た様なものを飛ばしてたって。木で作った模型を飛ばして、どうやって飛ぶのか説明してくれた事も在ります。でも、鉄で出来たものが飛ぶなんて、誰も信じなかったけど……」

其処でシエスタは、爆音と共に地表を走るソルスティスへと目を落とす。
釣られて、他の4人もジャズへと視線を向けた。
そして何処か嬉しそうに、シエスタが声を発する。

「でも、本当だったんですね。ミス・ヴァリエールの使い魔や、あの鉄の乗り物が在るんですから。トム爺さんや、ひいおじいちゃんの言ってた事は、きっと本当だったんですね」

薄らと涙さえ浮かべ、本当に嬉しそうに言葉を紡ぐシエスタ。
その様子に胸が詰まる様な感覚を覚えた4人だったが、其処に無粋な横槍が入る。
デルフだ。

「娘っ子、そのトム爺さんとやらの本名は分かるか?」

その瞬間、4対の視線が非難するかの様にデルフへと向けられる。
しかし、彼に堪える様子は無い
シエスタは数度、目を瞬かせていたが、やがて頷き、答えた。



「『ジェイコブ・トンプソン』です」
「爺さんは『流れ星』について、何か言ってなかったか」



シエスタは小首を傾げ、暫し思案した後―――――小さく手を叩き、その名を口にした。
歴史の陰に葬られた、呪われし名を。



「『亡霊』―――――トム爺さんは、そう呼んでいました。『ゴースト1号』、と」






アルビオン空軍工廠の町、ロサイス。
その宿の一室で、フーケと男は酒を酌み交わしていた。
しかし、2人の間には張り詰めた空気が漂い、その様子は逢瀬からは程遠い。
やがて、フーケが痺れを切らした様に口を開いた。

「わざわざ戦場くんだりまで行って、どうしようってんだい。あの化け物が仕留められる様を見学しようとでも?」
「そのつもりだ」
「はん、御苦労なこったね。それで、何の用が在って此処に? 言っとくけどね、私は―――――」
「共に来い、マチルダ」

フーケの声を遮り、男の言葉が部屋に響く。
瞬間、フーケは予備の杖を抜き、男へと向けた。
男は反応しない。

「……」
「ふざけんじゃないよ……私はあの娘等を取り戻しに行く。邪魔するのなら……」
「邪魔などしない」

つと、男は重力を感じさせない動きで立ち上がり、フーケの杖を押さえ込む。
流れる様な動き。
フーケは反応出来ない。
思わず舌打ちするが、杖を抑え込む力は驚くほど緩やかだった。
男は言葉を続ける。

「お前は気にならないのか? あの化け物が何なのか。あれだけの存在を従えるルイズは何者なのか」
「そんな事が私に何の―――――」
「ウエストウッドを護っていたゴーレムは、間違い無くその同類だ」
「―――――!」

杖が放される。
フーケの手に杖の重みが戻るが、その先端が男へと向けられる事は無かった。

「……」
「共に来い。あれらが何なのか、見極める必要が在る……違うな。俺は、知りたい。あれが何なのか、何故ルイズの使い魔なのか。それを知りたい」

その言葉に、フーケはまじまじと相手の顔を見遣る。
男は真剣な表情でフーケを見詰め、返答を待っていた。

「何で? 何であんたは、そんな事を?」

フーケから男への問い。
男は軽く目を伏せ、首を振った。

「あれは、二万もの兵を殺めた。民間人さえ巻き込んで。躊躇無く、いとも容易くだ。彼女が、そんな命令を下す筈が無い。あれは自身の意思で、あの殺戮を行ったのだ」

そして窓の外、発令所の先に在る、船着場へと視線を向ける。
其処には『レキシントン』には及ばないものの、巨大な船が停泊していた。

クロムウェル直属の兵が乗り組んだ、1隻の空中帆船。
輸送艦『ウインザー』号。



「……クロムウェルも、同じ力を手にしている」
「……!」



今度こそ、驚愕を露にするフーケ。
そんな彼女を見遣り、男は更に続ける。



「あの船が何処から来たのか? 知る者は居ない。『積荷』を何処で手に入れたのかについても同様だ。クロムウェルが召喚した? それも違う。恐らく、他国が絡んでいる」
「他国?」
「ガリアか、ロマリア」

沈黙。
フーケには、男が言った事を理解する為に、時間が必要だった。

余りにも危険な力を秘めた使い魔。
暴走。
同じ力を用いようとするクロムウェル。
ガリア、若しくはロマリアの介入。

其処で、フーケは気付いた。
余りにも単純な事実に。
そして若干の呆れを声に滲ませ、それを言葉に乗せた。



「要するにあんた、あの娘の事が心配なんじゃないか」



後にフーケは、笑いと共に語る。
己の言葉を聞いた、その瞬間の男の顔を忘れる事は、生涯無いだろう、と。



男―――――ワルドは一瞬にして赤面し、椅子に掛けられていた羽帽子を被るや否や、鍔を深く下ろして顔を隠したのだった。





捻れ潰れた鉄塊の前で、ルイズ達は呆然と佇んでいた。
大地に刻まれた、長大な爪跡。
巨大な質量を持つ物体の落着痕の中、微かに原形を留めるだけのその物体は、それでもなおその威容を失う事は無かった。
その側でシエスタが、自ら知り得る限りの情報を並べ立ててゆく。

「これ、鉄のようですけど、どんな事をしても表面を削るのがやっとなんです。よっぽど強力な固定化が掛けられているんでしょうか」

次いで、少し離れた落着痕の一画を指し、言葉を繋げる。

「あそこに建っているのは、トム爺さんが立てたお墓です。一緒に巻き込まれた人達のものらしいですけど、見た事も無い字で、誰も読めないんです」

その言葉が終わるや否や、ギーシュがデルフを持って歩み寄り、墓の前に翳す。
シエスタは訝しげにその様子を見詰めていたが、直後にデルフから発せられた声に驚愕した。



「『サム・ウォーカー、ゴースト1号船長』」



ギーシュが、次の墓へと歩み寄る。
すぐさま、新たな名が読み上げられた。



「『マリア・ゴンザレス、通信士』」



その後、残る2つの墓の名も、同様にして読み上げられる。
どちらもやはり、このハルケギニアでは馴染みの無い響きだった。



「『マイケル・エイヴリー、科学主任』、『クレイグ・クラークソン、システム・エンジニア』」



そして最後に、4つの墓標の下、半ば地面に埋もれる様にして据えられた石碑に刻まれた文面を前に、デルフは僅かな昂りさえ滲ませて音声を発する。



「『我がクルー、我が戦友達の魂の安らぎの為。卑劣なる敵と戦い、誇りと共に死した英雄達、その故郷に遺されし家族の為。我、此処に友の名を記し、その偉業を讃えん。合衆国特務機関《セクター7》アルファ基地所属ゴースト1号副操縦士、ジェイコブ・トンプソン』」



読み上げるや否や、デルフは亜人型へと変形。
突然の事に驚き、唖然とするシエスタを余所に、ジャズまでもが変形する。
彼等は『流れ星』へと歩み寄り、その全体をスキャン。
次の瞬間、今度こそ昂りを隠そうともせず、デルフは叫んだ。



「おでれーた! こいつは『宇宙船』だぜ! 『セイバートロン』の技術を流用した、『地球』製の船だ!」



その叫びに、一同の思考が目まぐるしく動き出す。
懸命に状況の把握を行おうとする彼等を尻目に、デルフはシエスタへと呼び掛けた。

「娘っ子、寺院ってのに案内してくれ。ほれ、急げ! 『竜の羽衣』が何なのか、見てみようじゃねぇか!」





『それ』は落胆の内に在った。
僅か8年の歳月で、宇宙を彷徨った数千年と同程度の忍耐を要求され、しかし現状の打開には時間の経過を待つ以外の手段が存在しないと知り、酷く憔悴―――――比喩的な意味で―――――していた。

恒星系の探索は無為に終わり、解った事といえば、かつてこの惑星には『地球』とほぼ同程度の機械文明が存在していた事、それらが既に何らかの要因で滅び、現在では一部地域を除いてエレクトロニクスが存在しない事、その程度。
復讐の完遂に対する感慨は既に薄れ、今や如何に時間を潰し、この惑星の各所で僅かに稼動する電子システムの成熟を待つか、それだけが感心事となっていた。

いっその事、短絡回路に切り替えて状況の変化を待つか?
いや、それでは詳細な判断が要求される局面に対応出来ない。
では積極的に知性体郡とコンタクトを取り、エレクトロニクスの発達を促すか?

其処まで思考し、憤りと共にその案を却下する。
思考中枢を過ぎるのは、7年前の忌々しい記憶。



各種センサーを妨害しようと間断無く放たれる、出所不明のジャミング波を調査する為に赴いた砂漠地帯。
そのほぼ中央で『それ』は、巧妙にカモフラージュされた対空迎撃システムにより損害を被った。
科学技術文明の崩壊したこの惑星に於いて、高度な機械的迎撃システムを有する存在が在った事には驚かされたが、それに対する学術的好奇心よりも、コンタクトの試みひとつ無く迎撃手段を行使した知性体に対する警戒心が上回り、即座に撤退を選択したのだ。
『それ』は自身の能力の絶対性を確信してはいたが、同時に慎重さをも持ち合わせており、何より現実を捉えていた。

あれだけ厳重に構築された迎撃エリアに踏み込んで、五体満足で生還出来ると考えるほど、自惚れている訳ではない。
例え原始的な兵器であろうとも、それよりも遥かに進化した機械生命体を打倒出来るという事実は、8年前に確認済みだ。
正確には、更にその三十数年前に一度、その事実を嫌と言う程この身体に刻み込まれているのだが。
兎も角、あの危険な連中を相手取るには、単独では心許無い。
かといって、戦力として用いる事の出来る機械知性体がこの地域に発生するまで、どれ程の時間を要する事か。
『魔法』という未知の技術体系が科学技術の発達を阻害している以上、1世紀や2世紀では済むまい。
八方塞とはこの事か―――――



そんな事を延々と思考していた、その時。
『それ』は己の根城としている建造物に歩み寄る、複数の有機生命体の存在を探知した。
即座にマスターアーム・コントロール・システムを起動し、破壊された入り口の隙間から覗く、外部の空間を探る。



―――――8年前のあの日からというものの、此処への来訪の足は途絶えた筈だが。
有機生命体の幼生が、遊戯の延長として踏み入ったのか?
それともオークとかいう、あの醜悪にして下等な知性体が迷い込んだのか?

まあ、良い。
どちらにせよ、やるべき事は一緒だ。
推進装置を少々稼動させて脅かし、追い払う。
それでも立ち去らないのなら、面倒だが数発ばかり、20mmを撃ち込んでやれば良い。
すぐに静かになるだろう。



そうして、透過スキャンを開始し―――――





『……!』





―――――次いで『それ』は驚愕し、その発達したシステムからは考えられない程の間を置いた後―――――歓喜した。



有機体の側を歩く、自身と同じく高度に発達した機械知性体、その姿。
それを擬似視界に収め、理解した。



『機』は訪れた。
行動の時がきたのだ。



ゆっくりと抉じ開けられる壊れた扉を見遣りつつ、『それ』は閉鎖されたシステム内で電子の嗤いを上げる。



『オールスパーク』よ、これは天啓か?
俺にこの世界を支配せよと、新たなる段階への進化を促せと、そういう事なのか?

良いだろう。
俺がこの『ハルケギニア』の支配者となってやる。
時間など、幾ら掛かろうと関係無い。
当て所無く宇宙を彷徨った数千年に比べれば、積極的且つ建設的な行動を伴った数万年など、取るに足らない労苦なのだから。



そして遂に、開かれた扉を潜り、5つの有機生命体と1つの機械生命体が建造物内へと踏み入った。
『それ』は直ちに、過去幾度と無く用いた手法を選択。
実に四十数年振りに、他知性体との欺瞞に満ちたコンタクトを開始する。



楽しかった。
実に楽しかった。
この世界に来て、初めてともいえる享楽的な感覚だった。
そして、自身が常に意識しておくべき事柄を確認しつつ、『それ』は最初のフェイズへと移行する。



無知と恐怖こそは、他者を操る為の最適な餌である。
情報は自身のみが秘めるべきものである。
そして、最も肝心な事。
『この宇宙は望みを捨てぬ者を助ける』―――――否。



『それ』は嘲笑と共に、その認識を修正する。
四十数年前、名も無き宇宙の片隅でそうしたように。
憐れな遭難者達を、下等な有機生命体郡を貶めた時のように。



『この宇宙は自らの為に捻じ曲げんと慎重に配慮する者をこそ助ける』、だったな。



嘗て『欺瞞の民』を率いた存在は、陰謀に彩られたその銃口を覆い隠すべく、擬装の言葉を紡ぎ出した。





『始めまして―――――君達はトムの友人かな? 紳士淑女諸君』

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