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ワイルドの使い魔-7(3)

コルベールが放った魔法、それは彼がかつて人を殺傷する為だけに編み出したものだった。
人体はかなりの比率で水分を含んでいる。
その為、相応の火力を以ってしても、人を瞬時に焼き尽くすには至らない。
無論ある程度の火力なら、致死の火傷は負うだろう。だが、息絶えるまでには時間がある。
戦いの場・・・一瞬が生死を分ける世界では、相手の命を一瞬にして奪えなければ、反撃で容易く命を奪われかねない。
故に、人だろうと何だろうと一瞬で燃やし尽くす魔法を、かつてのコルベールは望み、考案した。
水分が炎の力を弱めるなら、その水分自体さえ燃やしてしまえばいい。
『焼滅』と名づけたその魔法は、その炎に触れたものを同時に可燃物へと練成する。あらゆる水分を揮発性の油へと・・・
それが故に、一度この炎に触れてしまった犠牲者は、瞬時にして生きた松明へと姿を変え、何も出来ず燃え尽きる事となる。
かの最後の任務の折に、幾人もの罪の無い村人たちの命を奪った、業深い魔法。
だがその少年は炎に包まれた今も、熱さを感じないかのように立っていた。

「こ、これは一体!?」
「無駄だよ。もう、僕に炎は、例えどんなものだろうと通用しない」

驚愕に目を見開くコルベール。その視界に映る少年の従えた揺らめく幻影が、何時しか姿を変えていた。
竪琴を持つ少年の顔を持ったゴーレムから、燃えさかる炎の剣を手にした黒き肌の巨人の姿へ。
ペルソナ『スルト』・・・かつて神々と巨人族との最終戦争において、手にした炎の剣『レーヴァティン』をもって世界を焼き尽くした存在。
ムスペルヘイム・・・炎の国の王たるスルトには、いかなる炎も通用しない。
それどころか

「!?・・・なに、あれ・・・傷が、治っているの!?」
「再生?・・・違う、炎が傷を癒してる」

コルベールと二人の少女が見つめる中、少年のこれまでの戦いで負った火傷やが、『焼滅』を受けた瞬間に焼かれた部分が、見る間に艶やかな傷一つ無い肌へと戻っていく。
炎の巨人にとって、熱は生きる活力そのもの。
やがて、少年を包んだ炎は火勢の全てを吸収され、消え去った。
あとに残ったのは、無傷の少年・・・もっとも、流石に衣服は再生できなかったのか、いささか黒焦げていたが。

「こ、これが私の感じたモノ!?」

彼を見下ろす巨人に、コルベールは戦慄を隠せない。
あれは、炎と言う概念そのものが形になったような存在だ。
炎を知り、かつて炎蛇の二つ名を轟かせたコルベールだからこそ、その絶対的な力の差を肌で感じてしまう。
あの音を操る幻影だけでも本来特筆すべき所を、まだこんな力を隠しているとは・・・
何より、もしその炎の力が振るわれたのなら、一体どれほどの破壊がもたらされるのか。
コルベールは、自分が見えざる脅威として危惧し攻撃した相手が、想像以上の脅威・・・眠れる竜であった事を知った。
感じていた物の対象が、今現れた炎の巨人だと勘違いしてしまうほどに。

「す、凄い・・・ダーリン・・・貴方って・・・」

同じく炎のメイジであるキュルケも、その圧倒的な炎の化身と、それを従える少年に目を奪われていた。
(あの炎・・・なんて力強いの・・・それに、あの目。何を見てきたら、そんな深い瞳になるの?)
この深夜の戦いで、キュルケはまた新たに二つの恋を見つけていた。
昼行灯の仮面で、その下の強烈な戦闘力と哀しみに満ちた横顔を隠した・・・彼女の教師。
そして、その教師さえ容易く超える力を秘めながら、この反撃を良しとしない・・・神秘的な少年。
特に少年への思いは、一層強烈に燃え上がってしまった。只でさえ、昨日の決闘で心奪われたのだ。
月明かりの下で炎の巨人を従えた姿は、決定的な一歩を彼女に踏み込ませてしまう。
『微熱』が、本当の意味の『恋の熱病』へと姿を変える。

炎のメイジ二人が、現れた炎の巨人に目を奪われる中、水色の髪の少女・・・タバサだけが、更に現れようとする存在に気がついていた。
(・・・あれは、何?巨人の後ろの・・・影?・・・違うわ。あれはもっと深い・・・闇?)
タバサが見つめる先、揺らめくスルトの炎に照らされ、踊るように浮かぶ影。
それが、剣を持った漆黒の何かと気付いた時、タバサは、シュバリエの称号を持ち幾多の死線を潜り抜けた少女は・・・あろうことか恐怖で硬直した。
あれだ。
少年が現れた時から感じていた、絶対的な死の気配。
今、炎の巨人と共に現れたあの存在こそがその源なのだと。
同時に、それを従える少年そのものも炎の魔法を受ける前とは様子が違って見える。
あれは、数え切れない戦いを乗り越えた戦士の瞳。
自分と同じくらいに・・・いや、それよりも過酷な何かを受け止めて、乗り越えた者だけが持ちうるモノだ。
今までは、不思議な力や死の気配そのものに関心はあっても、彼自体には興味は無かった。
しかし、ここで初めてタバサは少年そのものに興味と、運命と言う名の理不尽に抗う者同士の共感を感じはじめていた。

「其処までにしてくれないかな?彼は大切な友達なんだ。これ以上傷つく所は見たくないよ」

その声が響いて、ようやくコルベールとキュルケは、新たな幻影が現れた事を知った。
タバサのみが気付いていた、剣を持った闇。それは異形だった。
全身を黒い衣でおおい、背には無数の棺を、頭には獣の頭骨のような白い兜を、手には鋭い白い刃を。
それは、死を具現化したような姿だった。

「こ、これは!?・・・い、いや、それよりも話を!?」
「喋った?」
「話せるの!?」

死そのものを形にしたような影が、その恐ろしい姿とは似つかない穏やかな声を出すに至り、コルベールと観戦者ふたりは思わず驚きの声を上げる。
そう、隠れているはずの二人も。
声に反応して振り返るキタローとコルベール。
其処には、驚きのあまり立ち上がったキュルケと、そ知らぬ顔をして隠れようとするタバサの姿が。

「・・・?・・・キュルケさんと・・・誰?」
「ミ、ミス・ツェルプストーに、ミス・タバサ!?どうしてここに・・・いや、それよりも今までずっと見ていたのかね!?」
「え、いえこれはその・・・ちょっと、タバサも何かいい訳考えてよ!」
「・・・考えるだけ、無駄。戦いをずっと見ていたのは、事実」

キタローは、キュルケは面識はあるが、もう一人の少女は流石に記憶に無い。
誰だろうと首をかしげるキタロー、隠してきた自分を見られたコルベールと動揺するキュルケ、そして淡々と少年と二つの影を観察するタバサ。
シリアスだった空気は様子を変え、一気に爆音とは違った騒がしさが演習場に満ちる。

「・・・そういえば、食堂で見かけたような・・・気のせいかな?」
「こ、これは・・・ミス・ツェルプストー、此処で見たことは他言無用ですぞ。さもなければ今期の単位を・・・」
「ちょ!? 少しはカッコイイと思ったのに単位を盾に取るなんて、見損なったわよ、ミスタ・コルベール!」
「そういえば、さっきの影、どこ?あの音を操るほう・・・消えた?」

「・・・えっと、僕の事、忘れられてるかな?」

そして、折角出てきたタナトスは、見事に忘れ去られて所在無さ気に途方にくれていた。
何となく遠い目(と言うか、空洞っぽい孔)で彼方を見て・・・絶句する。
空が、異質な色に変わっていた。


演習場を取り巻く古い城砦には血のような粘液が滴り、静寂が世界を覆いつくす。
それは、彼・・・タナトスにして望月綾時の記憶にも深く刻まれた時間。
鍵たる彼が世界を飛び越えたが故に、二度と現れないはずの魔性の時。

「これは・・・まさか・・・」

振り返れば、キタローは、信じられないといった顔で、しかし周囲を油断無く警戒する。
タバサも同じく周囲を見回し、油断無く杖を構えている。
そして、目の前で棺桶・・・具象化したコルベールに目を丸くするキュルケ。

「・・・影時間!?」
「・・・これは、何?世界が変わって・・・」
「な、何よこれ!?ミスタ・コルベールはどうなっちゃったのよ!?」

見上げれば、二つある月の片方がやけに巨大に見える。
あの、夜の女王を内にはらんだ満月のように。

「そんな・・・僕はニュクスを感じないのに・・・何故!?」

タナトスが驚きの声を上げると同時に・・・

「・・・だから、これは止む無い処置でっ!・・・どうしました、皆さん?」

再び音が蘇る。
一日と一日の狭間の時間は過ぎ去り、影時間は過ぎ去った。
棺桶と化していたコルベールは、反論の続きを続けようとして、その場の異様な空気に気付く。

「な、何よ?今の・・・今の世界は一体何なのよ!?」
「判らない」
「・・・影時間だよ」
「こっちの世界にもあるなんて・・・ね」

混乱するキュルケとタバサ。それに答えるように、キタローが、タナトスが口を開く。

「影時間・・・いい機会だから、僕の事と綾時の事も一緒に説明するよ。少し長くなるけどね」

そしてキタローは語りだした。
かつて居た世界の事、自信が宿した力の事、彼とその仲間たちの死の運命との戦いの事を。


ちなみにその頃、キタローの主たるルイズは・・・

「スシュムナー・・・を念じて・・・めざっめよ~・・・ガッカリーニ・・・」

使い魔の危機も、一瞬変貌した世界の事も知らず、相も変わらずヨガのアサナもビックリなステキポーズで熟睡していたのだった。

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