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誰がために

縦隊を組んで進むアルビオン軍、総勢七万。
その全容が見渡せる小高い丘の上に、二人の竜騎士がいた。

「醜いものだな」

ウェーブがかった髪の初老の竜騎士は、アルビオン軍を見つめてそう呟いた。

「見るがいい、奴らの瞳を。血に飢え殺戮の時を待ち望む狂人の瞳だ。
 もはや奴らは己が誰のために戦っているのかすら覚えてはいまい。
 戦争は人を狂わせる。しかし、戦士たるもの己がなにゆえに戦うのかを忘れてはならぬ。
 それまで犠牲にしてきた者たちのためにもな……」

その傍らに立つ金髪の竜騎士、ジュリオ・チェザーレは大軍勢を見つめたまま、静かに頷いた。
竜を駆るものならば今やこのハルキゲニアに知らぬ者はいない、この初老の竜騎士は憧れの存在であった。
何者にも頼らず、自らの才覚と努力のみで最強の竜騎士と呼ばれるようになっただけでなく、
欲や保身にとらわれぬ『真の貴族』のあり方を体現するこの男に、ジュリオは柄にもなく惚れ込んでいたのだ。
殿軍を命じられた『虚無』をかばい、死地へ赴かんとする彼についてここまでやって来たのも、
その行く末を最後まで見届けたいという思いがあったからである。

「やはり往かれるのですか?」
「うむ……ここはわしの国ではないし、目の前に苦しむ民がいるわけでもない。
 だがな、奴らを野放しにしておくわけにはいかん。
 奴らは民から食料を奪った。戦のために自ずから民を犠牲にせんとしたのだ。
 貴族どころか、人の風上にも置けぬ、下衆どもを許す道理はない」
「ですが! あなた一人が立ち向かったところで、アルビオンの首魁を打ち倒せるわけではありますまい!」
「己の槍で守れるものの中に、未来への可能性があるならば……そこに命を賭けるのもまた、騎士だ」

竜騎士はそう言うと、翼を休めている自分の竜の背から、ひとつの包みを取り出した。
布にくるまれたそれは、実にジュリオの身長ほどもある長槍であった。
竜に跨った状態でこそ真価を発揮するそれを振るって、この男は大陸一の竜騎士となったのだ。

「これをおまえに預けておく」

無造作に槍を突き出す。
不意に重量物を渡されたジュリオは、その重さに戸惑いながらも、次の瞬間には驚愕の表情を浮かべた。

「こ、これはグングニルの槍ではありませんか!
 これから出陣なされるというときに、どうしてこれを……まさか!」
「もういい、わしは疲れたのだ。あとはおまえたちの好きにせよ。
 ルイズを頼む。わしの願いはそれだけだ」

竜騎士はジュリオに背を向け、自分の竜へと歩み去っていく。
竜――老成した雌の飛竜も、主の戦意の高まりを受けて、その翼を大きく広げた。
アルテナ、と竜騎士は飛竜に呼びかける。その声は小さく、ジュリオには聞こえなかった。
竜騎士は携帯していたもう1つの槍を握り、飛竜の背に跳び乗った。

「行くぞ。……では、さらばだ、ジュリオよ!」

飛竜は翼を羽ばたかせて巨体を宙に浮かべると、風に乗ってぐんぐんと加速する。
アルビオン軍の外郭を構成する部隊がその姿を認めたが、一瞬の後にそれらの部隊は根こそぎ吹き飛ばされた。
飛竜と竜騎士が翼と槍を掲げ、己の存在を誇示するように飛び回る。
彼らが襲い掛かった部隊は次々と吹き飛び、大軍に虫食いのような穴が形成されていく。
七万の軍勢は瞬く間に大混乱に陥り、一刻も早く迎撃しようとするあまり、同士討ちを始める者たちまで現れている。
ジュリオはその光景をぎりぎりまで目に焼きつけようと、食い入るように見ていたが、固く握り締めた槍の感触に気づき、
何かに急かされているような気がして、慌ててアズーロに跨った。


竜騎士も飛竜も、すでに虫の息といってよかった。
空を覆わんばかりの無数の魔法を、矢を、時には体当たりまがいの攻撃を受け、腕も、翼も、血にまみれていた。
だが、それでも彼らは飛んでいた。そして戦っていた。
彼らと対峙していたアルビオン軍のとある兵士が、そのあまりの威容に恐怖を覚え、思わずある言葉を口走った。
おまえはいったい何者なのだ、と。
竜騎士は、もはや見えているのかも定かではない目を光らせ、口の端を獰猛にゆがめて、言った。


はっはっは……アルビオン軍のザコどもよ

わしがトラバントだ

冥土の土産に、よく覚えておけよ!

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