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第三部 第四話 『城が沈む時』



 正午、ワルドの風魔法で『マリー・ガラント』号はスカボロー港へ到着した。しかし、
積み荷の硫黄を下ろす船員達の中に、ルイズ達一行はいなかった。
 レコン・キスタに制圧された港湾施設にノコノコと姿を現すわけにはいかない。船が残
していた風石で港に着く前に、グリフォンで飛び立ち、港から少し離れた森へ降り立って
いた。
 森に皆とグリフォンを残し、ワルドはスカボローの街へ向かった。

「諸君、まずいぞ。状況は最悪だ」
 スカボローの港町から戻ってきたワルドが、皆にパンを分けつつ、街で集めてきた情報
を語る。
  ニューカッスル城で王軍は完全包囲されている。
  ウェールズ皇太子は生死不明。
  反乱軍は明日正午に総攻撃開始。
  戦力は王軍数百に反乱軍5万。
  スカボローからニューカッスルまで馬なら一日かかる。
  道中、反乱軍に見つからないよう、主要な街道や街を避けて進まねばならない。
  グリフォンはワルドとルイズに加え使い魔達も乗るので、重い分足も遅い。
「つまり、今すぐ出発だ」

 周囲の警戒に人工精霊達を放ち、人形達をグリフォンの頭に乗せて、前にルイズ後ろに
ジュンを乗せたワルドは、ニューカッスル目指して駆け出した。
 反乱軍は大半がニューカッスル攻城戦に参加しているらしく、街道や街の警備は主要な
地点に必要最小限しか配置されてなかった。また、人工精霊達の索敵もあり、回り道なが
ら順調に進んでいた。
 獣道を走り抜け、川を飛び越え、街を迂回し、麦畑に分け入り、森を突っ切って、グリ
フォンは走り続ける。


「ねぇ、ワルド様。どうやって皇太子と連絡を取ればいいかしら」
「…もはや、陣中突破も難しいな。
 反乱軍も、公然とトリステイン貴族に手は出せないだろうが、いくらなんでも真っ昼間
に敵陣を破れん」
「後ろから突破されるとは考えてないでしょうし、あたし達の力ならなら不可能じゃない
わ」
「だが、突破する時間が問題なのだよ、ルイズ。
 恐らく、我々が到着できるのは、総攻撃直前だ。士気も高く功を焦った兵士達が『正体
不明の連中が、突然城に突っ込んでいった』のを見たらどうするか…。十中八九、なし崩
しに総攻撃開始だ。戦闘は間違いなく一方的虐殺で即座に終わる。もう手紙の回収どころ
じゃない」
「なんとか、大陸の端を飛んでいくとかできないかしら?」
「何人も乗せて、では長く飛べん。それに、城から攻撃を受ける事も前提なのだから。い
くらなんでも、単騎で飛んでいては、城壁から見ればタダの的だよ。当然反乱軍も、監視
は飛ばしているだろうし」
「ホーリエかスィドリームを使って、城内に予め連絡してはどうかしら?」
「信用してもらえるかどうか…その光玉に攻撃をかけられるのが関の山だろう。正攻法よ
り、搦め手を考えよう」

 ルイズとワルドがニューカッスル城へ入る方法を相談している間、真紅と翠星石は索敵
と安全なルート探しに忙しかった。
 ジュンは一言も口を聞いていなかった。ただじっと目を閉じ、グリフォンの背に揺られ
るままだ。

「ジュン、どうしたのさっきから。もしかして、さすがに疲れちゃった?」
 ルイズの心配げな声を聞いて、ようやくジュンはゆっくりと口を開いた。
「うん・・・そうでもないよ。けど、さすがにちょっと疲れたかも。少しでも余計な体力
を使わないたくないかな」
「そうだな、ジュン君。いくら腕利きの剣士でも、君はまだ子供だ。体力が劣るのは否め
ない。無理せず休んでいたまえ」
「分かりました。ミスタ・ワルド、お言葉に甘えさせて頂きます」

 ジュンは目も口も閉ざし、走るグリフォンに揺られて続けていた。だが、脳細胞はフル
稼働していた。
  どうすれば、安全にニューカッスル城に入れるのか。
  桟橋で戦った後、何をおかしいと思ったのか。
  フーケ脱獄を手引きしたのは誰か。
  レコン・キスタの目的は何か。
  ルイズが王女からもらった水のルビーを有効に使う方法はないか。
  アンリエッタ姫が一番望んでいるのは、何なのか。
  手紙を回収出来れば、出来なければ、影響はどこへどう広がるか。
 説明された事象を、目にした事実を、一つ一つ思い返し考え続けていた。
 そしてワルドの背中を見上げた。このパーティのリーダー的存在、トリステイン王国の
高級軍人、マザリーニの腹心、アンリエッタから一行の護衛を任ぜられた、腕利きのメイ
ジである頼もしい男の背中・・・。

「まさか…!?」
「…ん?どうしたね、ジュン君」
 ジュンのつぶやきに、ワルドが肩越しに振り返る。
「あ、いえ、すいません。独り言です」
 そういってジュンは再び目も口も閉ざし、ワルドの背に体を預けた。ワルドも、それ以
上詮索しなかった。
 ジュンは以後、口を開かなかった。



「諸君、こういう手はどうだろうか?」
 山の峰を越え、眼下に円形状の城壁と内面に作られた五芒星形の大通りが特徴的な街を
見下ろした頃、林を駆け抜けながらワルドは切り出した。

「反乱軍司令官に、『通してくれ』と頼む」
 全員、グリフォンからずり落ちそうなほど、ガクッときた。

「あ、あの、ワルド様…今は冗談を言ってる場合では」
「ははは!ルイズ、実は冗談じゃないんだよ」
「ワルドさんにはぁ秘策があるですかぁ?」
「うむ、まぁ聞いて欲しい。
 反乱軍司令官に正式な面会を求めるんだ。もちろん、公的な特使としてではなく、私的
なものとしてね。理由は『一方的な虐殺に過ぎないこの戦いを回避するため、ニューカッ
スル城へ降伏と投降を呼びかけたい』というものだ」
「うぬぬぅ!?な、なかなかの妙案かもですねぇ!」
 翠星石が感嘆の声を上げる。真紅もワルドに振り返る。
「良い案だとは思いますわ。ただ、何故我々がアルビオンの最前線に来たのか、と怪しま
れるんじゃなくって?」
「うむ、当然の疑問点だな。だが『トリステイン王家に仕える者として、始祖ブリミルが
授けし王権の一つが無為に潰える事態は、看過しえぬがゆえ』で良いだろう。トリステイ
ン王国近衛隊隊長という肩書きなら、信用も十分だ」
「そうね…少なくとも、強行突破よりはマシな策だわ。さすがグリフォン隊の隊長ですわ
ね」
「そうよねシンク!私もワルド様の案に賛成よ。他に良い案も無いし、これで行きましょ
う」

 かくして一行はワルドの案を胸に、ニューカッスルへ走り続けた。




 アルビオンの夜。
 一行は森の中、泉のほとりで野宿する事になった。
 有力貴族出身のルイズも、さすがにこの状況では文句も言わなかった。もっとも、疲れ
果ててグリフォンから下りたら即座に熟睡してしまっただけだが。ルイズの指にはまる水
のルビーだけが、星明かりでも変わらずに輝いていた。
 人形達も人工精霊と共に、明日に備えて即トランクに入り込み、眠りに落ちた。
 ジュンは見張りとして、デルフリンガーを脇に置き、泉のほとりに腰をおろしてる。
 ぼんやりと、水面に映る星空を眺めていた。

「・・・なぁ、デル公」
「ん~?」
「お前、この任務をどう思う?」
「どうって…おりゃぁただの剣だ。武器として、ただ振られるだけだ。何のために振るか
は、持ち主が考える事だぜ」
「そりゃそうだ」
「でもまぁ、あえて言わせてもらうなら、だが…いいか?これは嬢ちゃん達にゃぁ秘密だ
ぜ」
「分かってる。ハッキリ言ってくれていいぜ」
「おぅ、んじゃ…この任務は、バカげてる」
「…やっぱ、そうだよなぁ~」

 ジュンは大きくのびぃ~っとして、大の字に寝ころんだ。

「昔うっかりだしちゃったラブレターを取り返さないと、ゲルマニアとの政略結婚が、軍
事同盟が成立しない。
 その手紙は内乱の最前線にある。
 でも、頼める人が王宮内にいない。
 で、長い事会っていない幼なじみの女の子に、戦場ど真ん中に行ってくれと頼む。
 報酬として国の財産の指輪、水のルビーを勝手にあげちまう。
 兵士でもない、戦闘訓練も何もしてない女の子に、だぜ?
 でもやっぱ不安で、ワルドさんに護衛を頼む…秘密って言葉の意味、知ってるのか?
 あの王女…相当のバカだな」
「ああ、バカだよな」

 デルフリンガーもジュンも、はあぁ~…と大きなため息をついた。

「なぁ、デル公。ハルケギニアでは、これが当たり前なのか?」
「まぁ、王族とか貴族とかは、だいたいこんなモンだ。下のモンが上のワガママに振り回
される。世の常だろうよ」
「そーゆーのは僕の国でもあるけど、でも、ここまでのバカは誰もやらねーよ。信頼出来
る部下はいない、任務を遂行出来る人物かどうかも考えない、一縷の望みを託して…と言
うか、ただの特攻だよ!
 頼まれたルイズさんも、怒るどころか感激してる有様だし。これが王家への忠誠ってヤ
ツなのかぁ?」
「そうだ。それが王家への忠誠だ」
  バシュッ!
 デルフリンガーを手にし、一瞬で泉の対岸へ飛び退いた。
 さっきまでジュンが寝ていた場所近くに、杖を手にしたワルドが立っていた。

 ジュンは、デルフリンガーを右手にダラリと下げている。
 ワルドも杖を手に、ただ立っている。
 泉を挟み、真顔で睨み合っていた。

「ミスタ・ワルド、どの辺から聞いていました?」
 ワルドは、わざとらしく首をひねる。
「ふ~む…昔うっかり、という辺りかな?」
「へへ…困ったなぁ、交代の時間には早いですよ」
 ジュンもわざとらしく、左手で頬を掻く。夜の闇に、包帯がルーンの光で淡く浮かび上
がっている。
「子供に負担をかけてはよくないからね」
「そうですか、気を使わせて申し訳ありません」
「気にする事はないよ。面白い話も聞けたしね」
「楽しんで頂けて嬉しいですね…」

  チャキッ
 表情はそのままに、デルフリンガーを握り直す。
「ジュン、油断するなよ。手強いぜ」
 ゆっくりと、切っ先がワルドに向く。

 だが、ワルドは微笑み、杖を納めた。
「ははははっ!そう怖がらなくて良いよ。君がこの国の人間でないのは知ってるからね。
王家への忠誠は期待してはいないよ。
 しかし君は『バカな任務』と思いながらも学院から駆けつけた。桟橋で敵を撃退した。
空賊船だって退けた。何故かな?」
「え?」

 あまりの態度の急変に、目が点になってしまう。
 相変わらずワルドはニコニコとしている

「な、何故って、そりゃ、ルイズさんのためですよ」
「そう!それでいいんだよ。
 学院でも君は『主が忠誠を誓う者に忠誠を誓う』と答え、姫殿下は満足していたろ?」
「はぁ・・・まぁそうですけど」
「なら、それでいいんだ。ルイズはこの任務に全力を尽くしてる。君は彼女を助けてくれ
る。そうだろう?」
「…もちろんです」
「では、お互い頑張ろう。君もそろそろ休みたまえ」
「あ、う…はい。分かりました…」
「おでれーたな。なんだか、怒られなくてよかったなぁ」
「そ、そだな」

 ジュンはルイズ達の所へ戻ろうと歩き出した。だが歩みを止め、ワルドを振り向く。
「ミスタ・ワルド、あなたはこの任務をどう思っているのですか?」
「『バカな任務』だ」

 あっさり言い放たれ、目が点になってしまった。

「ふふふ、驚くのも無理はない。だが、無茶と承知でもやらねばならない。それが王家へ
の忠誠というものだ」
「あなたは、それで良いと思っているのですか?」
「忠誠は、それなりの見返りがあるから成り立つのだよ。出世、領地、爵位、各自の都合
や打算だ。
 君にわかりやすく言うなら、自分の任務を、自分の都合で成功させたいと思ってる」
「…大人って、大変ですね」
「君にもいずれ分かる。守るもの、譲れないものを手に入れた時にな。
 …いや、確か君には既にあったね。シンクやスイセイセキに匹敵するガーゴイルを作る
んだって?ルイズから聞いたよ」
「えと、まぁ、ちょっと違うけど、そんなもんです」

 ちょっと頬を赤らめて、頭をポリポリかいてしまう。

「私にはよく分からないが、ルイズと一緒に魔法の勉強が出来るよう頑張りたまえよ。
 …ああ、ところで、ルイズと一緒であれば、他の国の学院でも良いのかな?」
「へ?」
 いきなりの質問に、敬語を忘れて聞き返してしまった。
「つまり、留学とかだよ。ガーゴイルならガリアが有名だ。このアルビオンにも良い魔法
学院がある」
「ああ、そういうことですか。そうですね、今の学院から離れるのは考えてません…でも
ガリアは興味があります」
「ほほう、なるほどね…うん、そうか」
 顎に手を当ててウンウン頷くワルドに、ジュンも怪訝な顔だ。
「あんの隊長さん、何か企んでるのかぁ?」
「デル公、失礼だぞ」
「ん?ああ、企んでるさ。ルイズと結婚するなら、君達の事も考えないとな」
「「なーる」」
 ジュンもデルフリンガーも、思わず声にだして納得してしまった。

「さて、話はこれくらいにしよう。明日は正念場だからな、早く休みなさい」
「はい、分かりました。後はお願いします」
 ジュンは踵を返して立ち去ろうとした。
「ああ、ジュン君。最後に確認したいんだが」
「はい、何でしょう?」
 ワルドに呼び止められ、ジュンは振り向く。
「君は結局、使い魔としてルイズの下についてくる、ということなんだね?」
「ええ、その点は間違いないです」
「そうか。いや失礼、それならいいんだ。おやすみ…ああ、私の事は、もう呼び捨てでい
いよ」
「?…いえ、そうもいかないですよ。それではおやすみなさい」
「ああ、ゆっくりやすみたまえよ」

 ほぅ…ほぅ…というフクロウの鳴き声が響く夜の森。
 ワルドは星空の下、泉を見つめていた。
 泉に映るその口の端は、禍々しく釣り上がっていた。


 ジュンはルイズの横で毛布にくるまる。そして、昼間に考えていた事や先ほどのワルド
とのやりとりを思い返していた。
  ・・・ワルドさんは、違う。でも、王女や枢機卿は多分・・・
 一抹の不安は抱きつつも、疲れ果てた肉体は、すぐに夢の世界へ彼を誘った。




 朝靄の中、朝日が森に光のカーテンを広げていく。
 朝露と緑の葉が、キラキラと白く輝く。
 鳥のさえずりに起こされ、毛布やトランクから全員もそもそと這い出してきた。

「おはよぅ…うぅ、腰痛いぃ」「んがぁ~筋肉痛いてぇ~」「おはよう諸君、さっそくだ
が朝食にしよう」「そうしましょう。ホーリエ、周りを見張っててね」「スィドリームも、
お願いですよぉ」
 赤と緑の光が、泉周囲へふわふわ飛んでいった。

 泉で顔を洗い、朝食のパンと干し肉分け合う。
 ワルドがすっくと立ち上がる。
「さて諸君!昨日急いだおかげで、正午の総攻撃前にニューカッスルへ着けるだろう。反
乱軍司令官にお目通り願うのは難しくないだろうが、我らの密命について気付かれる事だ
けは避けねばならない
 そこでだ・・・」
 干し肉を頬張るルイズに視線を移す。
「反乱軍のトップ、『レコン・キスタ』総司令官オリヴァー=クロムウェルの下へは、私
が行くとしよう。ルイズはここで待っててくれ」
  ぶっ!
 言われたルイズは干し肉を吹き出してしまった。
「待って下さい!私も行きます!」
「いや、万一姫殿下からの手紙が見つかるとまずい。『降伏と投降を勧める』という話だ
けなら、私だけで出来るからね。そして何より…」
 ワルドは、全員を見渡した。
「もしダメだったら、私が司令部で大暴れして逃げる。そのスキに強行突破するんだ」
「「「「「なっ!?」」」」」
 絶句した一同を気にせず、ワルドはジュンの肩に手を置いた。
「君達ならやれるだろう。頼んだよ」
「…はい」
 ジュンは刺すように鋭い目つきで、ワルドを見上げていた。




 丘から見渡すだけで、王軍の敗北はよく分かった。遠くに見える、浮遊大陸の突端に位
置するニューカッスル城は、包囲されていた。
 上空には10隻近い戦艦。おそらく岬の向こうや雲の中にもいるだろう。
 さらに、総攻撃まで間があるのに、既に多くの竜が飛び回っている。
 城壁前には兵士の大集団がいる。万の単位でいるのは確実だ。
 兵には人だけでなく、巨大な亞人、見るからに獰猛な幻獣なども見える。
 巨人の近くには、巨大な弓らしきものもある。攻城兵器だろう。
 獣の咆哮、傭兵達の雄叫び、巨人が振り下ろすメイスの轟音。
 すでに、彼等は勝利の祝杯を上げているらしい。
 そして、その全てが正午を、総攻撃の瞬間を待ちわびていた。

 そしてルイズ達は丘の上の森に隠れ、グリフォンにまたがり反乱軍司令部へ向かうワル
ドを、不安げに見下ろしていた。


 ワルドが反乱軍に入っていったのを見届けると、ジュンは女性達に向き直った。
「みんな、よく聞いて欲しい。これは、あくまで僕の勝手な想像なんだけど・・・」

 ジュンの話を聞かされたルイズは、手を口で被い、次第にわなわなと肩を震わせた。
  バチィンッ!
 ルイズがジュンの頬を打つ。
「あんた・・・まさか、あんたがそんな事を言うなんて!見損なったわ!」
 憤慨して顔を歪ませるルイズを、それでもジュンは真剣に見据えていた
「僕も、そんな事は無いと信じたい。少なくとも、ワルドさんにそんな気は無いと思う。
でも、王宮の他の人、例えばマザリーニ枢機卿ならどうだろう?」
「!…ッ」
 問われたルイズは言葉を詰まらせた。真紅と翠星石も顔を曇らせる。
「ジュンの考えは当然よ。これは確かにあり得る事よ」
「それじゃ、どうするですかぁ?もう、ここまで来てしまいましたよぉ」
 ジュンは顔を伏せ、しばし思考を巡らせる。そして、キッと顔を上げ皆を見据えた。
「もう、後戻りするには遅すぎる。手紙を回収しよう。ただ、気をつけるのは・・・」
 ジュンの言葉に、女性達は何度も頷いた。



 酔ってからんでくる傭兵を無視し、牙を剥く火竜の脇を通り、杖を掲げる騎士隊の間を
案内された。何回もしつこくディティクト・マジックをかけられ、散々所持品をチェック
された後、会議という名の祝勝会を通り抜け、ワルドはクロムウェルに奥の天幕で拝謁し
ていた。

「やぁ子爵!ワルド君!久しぶりじゃないか!どうだね君の、その、なんだ、件のラブレ
ターだよ!んんんっ!?ゲルマニアとトリステインの婚姻を阻む救世主は、手に入りそう
かね!?」
「あと一歩、という所です。本日はその件で閣下の助力を得たく、ここに参りました」
「おぉ!素晴らしいっ!助力か?もちろんだとも!何でも言ってくれたまえ!すぐ手配し
ようじゃないか!」
「感謝致します。実は…」

 他の貴族や将軍は皆、宴会で酒をあおっている。お付きの小姓や警護の下級士官も人払
いされた。今この場にいるのは、ワルドとクロムウェル、そして20代半ばくらいの女性
だけだ。ピッタリとした黒いローブを身にまとい、妙に冷たい感じのする細身の女性が、
クロムウェルの横に控えている。

「なるほどなるほど!そういうことなら話は簡単だ、早速通すとしよう!ニューカッスル
にも手紙を投げ込むとしようか。なぁに!無駄な死人が出ずに済むなら結構な事だ。本当
に投降する者がいれば、王族以外は受け入れるとしよう!決して不利な扱いはしないと伝
えてくれ!」
「ありがとうございます」
 ワルドは恭しく礼をした。
「造作もないことだ!期待している!ところで、その王女からの密書は今持っているのか
ね?是非拝見させてくれないか!」
「いえ、私の共が所持しています」
「おやそうか、残念だね。だが、まあ良い!もう正午まで時間がない、急いで行ってくれ
たまえ!」
「ははっ!」
 ワルドが踵をかえして天幕を出ようとした時、女性がクロムウェルに耳打ちした。
「…ほほう!?ほうっ!それは面白い!
 あ、ワルド君!ちょっと待ってくれ!実は、こういうのはどうだろうか・・・」


 グリフォンに乗ったワルドは丘の上へ舞い戻って来た。
「諸君!話は通ったぞ、急いで城門へ!」
 一同は急いで丘を降りていった。


 丘の上から反乱軍の威容は見ていた。だが、やはり間近で見ると迫力が違う。
 凶悪な光を放つ攻城兵器、巨大な弓―バリスタが城壁を向いている。
 5メイルを超えるトロール鬼が、ふいごのような呼吸音を響かせている。
 荒くれ者の傭兵達が、子供達連れでニューカッスル城に向かうワルドを笑っている。
 彼等の装備、剣や鎧のほぼ全てが、どす黒い染みをつけていた。こびりついた血だ。

 グリフォンに乗ったワルドは、前にルイズを乗せている。
 ルイズは毅然とした態度で胸を張っていた。だが小刻みな震えが止まらない。
 ジュンは背にデルフリンガー、両手にトランクを抱えグリフォンの横を歩いている。
 真紅と翠星石は目立つのを避けるため、また切り札として、トランクに待機している。

 一行はレコン・キスタ軍を通り抜け、ニューカッスル城門へたどり着いた。
 城門は軋む音を響かせて、重々しく開けられた。
 彼等が城内に入ると同時に、再び軋む音を響かせて、厳重に門は閉じられた。


 城門内では、数百人のメイジ達が一行を出迎えた。それだけのメイジがいれば、本来は
大戦力だ。旅団クラスの傭兵を相手に出来る。だが城外の敵は5万、メイジの数も桁が違
う。敗北は目に見えていた。
 にも関わらず、出迎えた者達に怖じ気づく様子は微塵も見られなかった。

 先頭に立つワルドの前に進み出たのは、凛々しい金髪の若者だ。
「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。アルビオンへようこそ、大使よ」
 ワルド初め、一行は跪く。
「皇太子、お初にお目にかかります。私はトリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊
長、ワルド子爵。
 ですが、私は大使ではなく、ただの護衛に過ぎません。真の大使は、こちらに」

 優雅に指し示されたルイズの前に、皇太子は歩み寄った。

「ヴァリエール家三女、ルイズにございます。閣下、アンリエッタ姫殿下より、密書を言
付かって参りました」
「密書と申すか?降伏勧告ではなかったのか?」
「いえ、その件は城内に入るための偽装にございます。真の任務は、この密書を渡す事に
ございます」

 密書を胸元から取り出したルイズは、受け取ろうとした皇太子の手を見て、一瞬躊躇し
てしまった。
「どうかされたか?」
「い、いえ、失礼ながら、この密書はウェールズ皇太子に直接手渡さねばなりません。ゆ
えに、証を示して頂きとうございます」
 それを聞いた長身の老メイジが「そなた!無礼であろう!」と怒声を上げた。だが皇太
子は手を振り部下を制した。
 自分の薬指に光る指輪を外すと、ルイズが姫から受け取った水のルビーに近づけた。
 二つの宝石は、共鳴し合い、虹色の光を振りまいた。
「水と風は虹を作る。王家の間にかかる橋さ」
 ルイズは頷いた。
「大変、失礼をばいたしました」

 ウェールズはルイズから受け取った手紙を愛しそうに見つめ、花押に接吻した。それか
ら慎重に封を開き、中の便箋を取り出して読み始めた。

「姫は結婚するのか?あの、愛らしいアンリエッタが。私のかわいい…、従妹は」
 ワルドは無言で頭を下げ、肯定の意を表した。再びウェールズは手紙に視線を落とす。
最後の一行まで読むと、微笑んだ。
「了解した。姫は、あの手紙を私に返して欲しいと告げている。何より大切な、姫からも
らった手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう。
 それでは、ついてきたまえ」
 一行は立ち上がり皇太子の後を追う。

「お待ち下さい、閣下」
 ワルドが皇太子を呼び止める。
「反乱軍司令官クロムウェルは、王族以外の投降は受け入れる、との事です。もし城を去
る者や暇を与えられた者がいるなら、正午までに城を出て頂きたい。決して不利な扱いは
しない、との言伝です」
「おお!そうか、それは助かる。パリーよ!」


 ウェールズは先ほどの老メイジを呼び、何事か指示を出した。老メイジは数人を連れ、
城内へ駆けていった。
「実はニューカッスル城下の秘密港から脱出する船があるんだが、どうしても乗り切らな
くて困っていたんだ」
 老メイジ達は、ぞろぞろと疲れた様子の人々を、恐らくは城で働いていたであろう人々
を連れてきた。
「彼等はただの平民だ。反乱軍とて投降する彼等を害する理由はあるまい。感謝するよ。
さぁて、正午まで間がない。急ごう」

 皇太子に連れられて、一行はグリフォンまで伴い、城の奥へと駆けていった。



 ウェールズの居室は、天守の一角にあった。
 王子の部屋とは思えない、質素な部屋であった。木で出来た粗末なベッドに、一組の椅
子とテーブル。
 窓からは、投降した人々が反乱軍の横を通り抜けていくのが見える。

 王子は机の引き出しを開き、宝石のちりばめられた小箱を取り出す。首のネックレスに
付いた鍵で蓋を開けると、蓋の内側にアンリエッタの肖像が描かれていた。
「宝箱でね」
 王子は中から手紙を取り出した。何度も読まれたらしい手紙は、すでにボロボロであっ
た。ウェールズは手紙をたたみ、封筒に入れてルイズに手渡した。
「ありがとうございます」
 ルイズは深々と頭を下げ、その手紙を受け取り胸元に入れた。
「それでは皆、すぐに城の地下に行き『イーグル』号に乗って」
  ドゴゴゴゴンッッ!!
 王子の最後の言葉は、一同には聞こえなかった。大音響でかき消された。
 天守の窓から、城壁の大砲が火を噴くのが見える。そして上空からは、艦砲射撃が全方
位から城へ向けて撃ち込まれていた。

 城の天守は、いい的だ。
 黒い鉄の塊数十個が、放物線を描いて飛来。そして、着弾した。
 全員、衝撃で床に壁に叩き付けられた。

  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
 城へかけられた強固な固定化魔法をもってしても、多量の大砲弾が着弾した衝撃をしの
ぎきれなかった。
 もうもうと巻き上がる煙とホコリの中、ウェールズとワルドのルーンのつぶやきが、も
し耳が聞こえるなら聞こえたろう。残念ながら全員、着弾時の衝撃で聴覚が一時的に麻痺
していた。
 二人の魔法で部屋の中に突風が吹き、視界をクリアにしていく。
 窓と、壁に開いた穴からは、飛来する火竜に跨る竜騎士が数騎見えていた。

「出番よっ!ホーリエ!!」
「行くですよっ!!スィドリーム!!」
 真紅と翠星石が、トランクから飛び出した。それぞれの人工精霊を火竜の前に放つ。

  カッ!
 二つの人工精霊達は突如激しく輝き、火竜と竜騎士の目をくらませた。

「薔薇の戒めを受けなさい!」
 真紅の薔薇が飛来する竜騎士の火竜達に、小さな針となって襲いかかる。火竜は突然の
痛みを翼一面に受け、怯んで天守から離れていった。
「さぁお前等!さっさと逃げるですっ!」
 叫びながら、翠星石は周囲に水をまき散らしていた。凄まじい勢いでわき出したツタが、
天守を覆い尽くし砲弾を防ぐ。
 ワルドはルイズを、ウェールズはジュンを助け起こし、階段へ飛び出した。目を回した
グリフォンも、主に蹴られて目を覚ます。
 ウェールズに先導され、一行は地下へと駆け下りていった。トランクに乗った人形達も
後ろを飛んでくる。

 ずずずず・・・
 階段を駆け下りる彼等を追うように、上から振動が響いてくる。

 グリフォンに乗せられたルイズが上を見ると、見たくないものが見えてしまった。
 崩壊した天守が、崩れ落ちてきていた!しかも、崩れた下の階と階段を、次々と潰し巻
き込みながら!!
 ワルドがルーンを叫び、杖を上に向けた。
   ドウンッ!
 それは『ウィンド・ブレイク』だった。ただし、彼が生み出せる最大最強の、だ。
 崩落してきていた瓦礫の山は、一気に吹き飛ばされ、噴火するが如く吹き上がる。
 もの凄い轟音が壁の向こうから聞こえる。城の外側へ吹き飛ばされた瓦礫が、外壁や屋
根に衝突する音だ。
「早く!もう城が保たないわ!」
 真紅の叫びは、彼等の未だ麻痺した耳では聞こえなかった。だからとて急がない者はい
ない。むき出しになった城の内部に向けて、天を覆い尽くすほどの竜と幻獣が降下してき
ていたからだ

 先頭のウェールズが1階に降り立った時、ホールで炎と氷の矢が飛び交っていた。襲来
した火竜のブレスと、迎撃するメイジの『氷の矢(ジャベリン)』だ。だが数十本の氷の
矢は、火竜が吐く煉獄の炎で瞬時に蒸発した。その炎がメイジに達した瞬間、メイジ自身
が大爆発した。
 メイジの自爆に巻き込まれ、ホールの竜騎士達が消し飛ばされる。ホールはもはや火の
海だ。
 皇太子に続いて降りてきた一行、特に女性達が悲鳴を上げ目を背ける。

 炎に炙られ熱気渦巻く1階ホールだが、一瞬だけ彼等の頭上に冷気が降りてきた。
「右ぃっ!」
 デルフリンガーの叫びに、ジュンは反射的に剣を掲げた。刹那、右から放たれた雷光が、
彼等の網膜を焼くほどに白く爆ぜる。その雷撃全てが、デルフリンガーの刀身に吸い込ま
れた。
 右に、マンティコアに乗った騎士がいた。必殺の雷を難なく受け止められ、慌てて次の
呪文を詠唱している。
「『エア・ハンマー』!」
 ウェールズが杖をふり、騎士は空気の塊に弾かれ後方の壁に激突した。
   ぐろおおおおっっ!!
 主を失ったマンティコアが咆哮を上げて襲い来る!
   どごんっ!
 いきなり、マンティコア近くで何かが爆発した。爆風で吹っ飛ばされた幻獣に杖を向け
ていたのは、グリフォンに跨ったルイズだ。

「急げ!こっちだっ!」
 走るウェールズに皆必死で追いすがる。
「そぉれそれそれですぅっ!これでも喰らいやがれですぅーっ!!」
 翠星石は、彼等が通った後の通路や階段に、無茶苦茶に水をまいていた。デタラメに生
えた植物が通路を塞ぎ、落ちてくる瓦礫や敵兵・幻獣の進路を閉ざしていく。
 皆、飛ぶような速さで地下へと駆け下りていった。



「くそ…すまない。」
 ウェールズは皆を城の地下、秘密の港まで案内した。真っ白い発光性のコケに覆われた
鍾乳洞だ。だが、岩壁に船の姿は無かった。
 既に『イーグル』号は出航した後だった。

  ずん…ずずぅん…
 頭上からは地響きが聞こえてくる。パラパラと天井から土が落ちてくる。
 入り口から、翠星石が飛んできた。
「ふぅ~道はぜーんぶ塞いだですよぉ。これで、そう簡単にはここまで来れんですよ」
「うむ、ご苦労だった、スイセイセキ君」
 ワルドは皇太子に向き直り、優雅に頭を下げた。
「閣下、ご協力感謝致します。我らは、グリフォンにてトリステインへ帰還致します」
「地上まで行けるかね?」
「滑空するだけですので、問題ありません」
「そうか、それは良かった」

 ほっと胸をなで下ろしたウェールズは、ルイズに微笑む。

「可愛い大使よ、任務ご苦労であった。アンリエッタには、こう伝えてくれ。ウェールズ
は勇敢に戦い、勇敢に死んでいった、と」
 その言葉に、ルイズの顔は色を失った。
「まさか・・・まだ戦うおつもりですか!?」
「当然だ。本当は真っ先に死ぬつもりだったんだがね。最期に君たちの役に立てて、光栄
に思う」
 ウェールズの爽やかな笑顔に、迷いや恐怖は微塵も無かった。

 ルイズは、熱っぽい口調で叫んだ
「殿下!亡命なされませ!トリステインに亡命なされませ!」
「亡命?どうやってかな?」
「それは、グリフォンに乗れば」
「はははっ!それは無理だ。人間を四人も乗せては、いくらなんでもトリステインに着く
前に、海に落ちてしまうよ。そもそも翼が重量に耐えられないだろうね」
「そ、それは、ワルド様の魔法で補えます!ジュンは、人形達に掴まって飛ばしてもらえ
ばいいのですし」
「賭だな、危険すぎる。
 いずれにせよ、これは王家に生まれた者の義務なのだ。内憂を払えなかった王家に、最
後に課せられた義務なのだ」
「それに!姫殿下からの密書にも、亡命を勧める末文があったはずです!」

 興奮するルイズの肩に、ぽんっとワルドが手を置いた。

「ルイズ、無理を言うものじゃない。我らは姫殿下の命を果たしたのだ。今は早く王宮へ
戻るんだ」
「し、しかしワルド様!」
「ルイズ、ルイズ、よく考えるんだ。姫殿下は我らに何を命じたか、王家に仕える我らが
すべきは何なのか」
「ワルド様・・・」
 大粒の涙を流し、嗚咽するルイズを抱きしめる。
 そして、ワルドはウェールズの正面に立ち、深く礼をする。
「閣下、これにて我らは故国へ帰らせて頂きます。姫殿下よりの任を果たせ、我らも胸を
張って…胸を…うぅ…」

 ワルドは言葉を詰まらせ、肩を震わせていた。
「子爵殿・・・」
 ウェールズは、ワルドの肩に手をおいた。

「御免っ!」どすっ!「ぐほぉっ!」

 ウェールズの鳩尾に、ワルドの杖の柄が、めり込んでいた。一瞬で皇太子は気絶し、地
に伏した。
 ルイズも、ジュンも、真紅も、翠星石も、グリフォンまでもが目を丸くして言葉を失っ
ていた。

 ワルドはゆっくりと、一同に振り向き、にんまりと笑いかけた。
「・・・王家に仕える者としては、何が姫殿下の一番の望みかを、常に考えねばならんの
だよ」
「ワルド様…」「ミスタ・ワルド!」「ワルドさん、やるですねぇ!」「全く、無茶をする
ものだわねぇ」
 ルイズが満面の笑みに輝く。ジュンも人形達も、最高の笑顔で手を取り合った。

  ずぅんっ!
 その時、後方から重低音が響いてきた。バラバラと土や石が吹き飛ぶ音も混じる。翠星
石が塞いだ通路を、爆薬で開けたのだろう。
「さぁみんな!逃げるですよ!」「ジュン!君は人形達と!」「真紅!翠星石!頼むぞ!」
「任せなさい!ルイズも急いで!」「わ、分かったわ!」
「はぁ~い♪そろそろぉ、あたし達の出番かしらぁ?」

 突然、なんの緊張感もない女性の声が、岩壁から響いた。
 岩壁からひょっこり顔を出してるのは、シルフィードに乗ったキュルケとタバサとギー
シュだった。シルフィードは、でっかいモグラをくわえていた。
 あまりに唐突な登場に、ワルド達は唖然としていた。

「あ…あ…、あ!あんた達、なんでここにいぃー!?」
 ルイズの絶叫は、洞窟入り口から近づいてくる兵士達の喚声と重なった。
「話は後だ!諸君、急いで乗ってくれたまえっ!!」
 ギーシュの叫びに、グリフォンにはワルドとルイズ、シルフィードには乗ってきた三人
に加え、ジュンと気絶したままのウェールズが乗せられた。

 グリフォンとシルフィード、そしてトランクに乗った人形達は、岩壁に群がる兵士達を
尻目に、悠々と飛び去った。




 グリフォンとシルフィードは、学院へ飛んでいた。人形達もシルフィードの背に乗り、
休息を取っている。
 もはやアルビオンは遙か後方、遠い雲の彼方だ。前に遮るものは白い雲のみ。
 風が全員の頬に当たる。

 アルビオンを後にした一行は、シルフィードの上で大きな安堵のため息をついた。後は
陽気に、この数日間について語り合っていた。
 タバサは相変わらず、本を読んでいた。

「へぇ~、そのモグラ、ヴェルダンデがルイズさんの水のルビーを」
「そうさ!僕の可愛い使い魔、ヴェルダンデはとびっきりの宝石が大好きだからね。水の
ルビーを追っていくヴェルダンデのおかげで、我々はあの隠し港についたのさ。すると、
どうだい!君たちが皇太子に亡命を勧めてる真っ最中じゃないか!
 どうやって声をかけたものかと、手に汗握っていたよ!」
 その巨大モグラは、シルフィードの口にくわえられ、抗議の鳴き声を上げていた。
「はぁ~あ、せぇっかくフーケぶっ倒して、必死で追いかけてきたのにぃ…。到着したら
全部終わってましただなんてぇ~」
「まだ、終わってませんよ」

 ジュンの沈んだ声に、シルフィードの上の一同は少年の顔を見た。
 彼は、未だ気絶したままのウェールズを見つめていた。

「目を覚ましたら、怒るでしょうね」
「そうだねぇ…貴族は名誉を重んじる。ましてやアルビオンの皇太子だ。君たちは皇太子
の最高の名誉、王族としての矜恃を胸に栄光ある戦死、を妨げたのだから、それはそれは
怒りを買うだろうね」
 ギーシュも腕組みしてウンウン唸る。キュルケが深くため息をついた。
「はあぁ~…全く、男ってどうしてこう不器用なのかしらねぇ。女のために生きようって
考えないのかしら?
 というわけで、ここはその『女』に来て頂きましょう!」
「え・・・キュルケさん、もしかして?」
 尋ねるジュンに、キュルケは小悪魔っぽいウィンクをした。
「彼をぉ、こっそり学院で匿いましょう!んで、目が覚めたらお姫様と、感動のごたーい
めーんっ!」
「それだよっ!いやはや、さすが『微熱』の二つ名は伊達じゃないねぇ」「お~!それは
良いアイデアですねぇ。チチオバケは頭冴えてるですよぉ!」「ち…ちちおばけって…あ
のねぇ」「じゃ、この王子様には、お姫様が来るまで眠って頂こうかしら」

 若い貴族と人形達は朗らかに、王族二人の恋を成就させる方法を語り合っていた。
 そんな中、ジュンだけは真顔だった。真剣な顔で、グリフォンの方を見つめていた。
 羽ばたくグリフォンの背には、ワルドとルイズがいる。ルイズは既に眠っている。
 彼は、任務終了の喜びもなく、ただワルドとルイズを見つめていた。

 そんなミーディアムの姿に、真紅と翠星石が気付いた。二人もグリフォンの方を見る。
 三人は頷きあった。これから起こるであろう、更なる波乱を乗り越えるため。

 アルビオンから帰還する彼等の前に、遙か遠くの草原の中、懐かしい学院がポツンと見
えていた。

     第四話   城が沈む時    END

第三部  終


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