あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの花嫁-03 C


次なる立候補を募る前に、三年の男は自らが前に出る。
「残虐非道なゲルマニアの悪鬼は、この私自らが退治するとしよう。みんな、異存は無いな?」
その勇敢な行為を集まった皆が賞賛し、そしてその人選に納得する。
彼はこの場に集まった誰よりも強いとされている人間だからだ。
トライアングル対トライアングル。
こんな決闘はそうそうお目にかかれるものではない。
観客達は固唾を呑んで二人を見守る。
「始め!」
号令と同時に二人は詠唱を始める。
詠唱の終了は同時、キュルケはファイアーボール、男はエアハンマーを唱えていた。
キュルケの放つ火球は男の放ったエアハンマーに弾き飛ばされ、ファイアーボール諸共にエアハンマーがキュルケを襲う。
まともにそれらをもらったキュルケは大きく後ろに跳ね飛ばされる。
幸い火球はキュルケを逸れていってくれたが、巨大な何かにぶん殴られたような衝撃にキュルケの表情が歪む。
どちらも初弾で崩し、次弾で大技を狙っていたのだ。
すぐに次なる詠唱に入る男。
キュルケは頭を振りながら立ち上がる。
「ウィンディアイシクル!」
咄嗟に真横に飛ぶも、襲い来る氷の矢全てをかわす事は出来ずに数発が肌をかすめる。
それでも気丈な表情を崩さないキュルケだが、内心はそれどころではなかった。
『痛~っ! ハタで見てるより遙かに痛いわよコレ!』
ちらっと自分の傷口を見てみると、皮と肉の一部が削れただけだ。
『嘘っ!? こんなに痛いのにこれだけ? それじゃあルイズはどんだけ痛かったってのよ! 信じられない! 良くもこんなの我慢出来るわね!』
観客達の歓声が耳障りだ。
だが、そんな事を考えている余裕も無さそうで、次なる魔法がキュルケを狙っていた。
再度ウィンディアイシクルが飛んできそうな気配を感じ、走って標的をぶらしにかかる。
案の定動く標的相手ではそこまでの命中精度は望めないらしい。
しかし、それでもまた数発が体をかすめ、冷や汗を掻いたのも事実だ。
反撃をしないとと呪文を唱えるが、相手の方が僅かに早い。
詠唱の為に足を止めていたせいで、またまともにエアハンマーをもらってしまう。
真後ろにごろごろ転がりながら、呪文を唱えるキュルケ。
ふらつく頭で立ち上がりざまにファイアーボールを放つ。
狙いが定まるかどうか自信は無かったが、うまい事男に向かって飛んでくれた。
が、男はキュルケの詠唱を見ていたのか、いつのまにか唱えていたウォーターシールドで水の壁を張り、火球を受け止めた。
『コイツ! なんだってこんなに戦い慣れてるのよ!』
何しろ呪文の組み立て方が見事すぎる。こちらのやる事なす事全部お見通しと言わんばかりだ。
しかもウォーターシールドであっさりファイアーボールを止める辺り、魔力もどうやら向こうの方が上らしい。
しかし、とキュルケは思う。
『どうやらタバサと同系みたいね。だったら……』
杖を構えるキュルケ。
『絶対負けられないのよ!』
次の男の一手はラインスペルと決め付け、同じくラインスペルであるフレイムボールを唱えるキュルケ。
しかし、男が唱えた呪文はドットスペルのエアハンマー。
術を唱え終わる前にまたも衝撃がキュルケを襲う。
『痛い! とんでもなく痛いわよコレ! もーどうしてくれようかしら!』
しかし、心中泣き言全開しつつ、吹っ飛ばされ、転がりながらも術を唱え終える。
「フレイムボール!」
男はすぐにウォーターシールドを唱えるが、間に合うわけがない。間に合ったとしてもぶち抜いて終わりだ。
勝利を確信するキュルケ。
だが、男の唱えたウォーターシールドはギリギリで間に合い、火球着弾直前に水の壁が現れる。
水の壁にぶつかった所で一度完全に火球は止まる。

男はその隙に脇へと飛びのくと、水の壁を貫いた火球がその横を通り過ぎていった。
フレイムボールの速度はそう簡単にかわせるような速さではないが、一度止まるとわかっていれば、確かに、かわす事も可能かもしれない。
だが、言うだけでなくそれをやってのける人間はそうは居まい。
男はおそらく軍の訓練を受けているのだろう。
そうとしか思えない程の見事な技であった。
言動は癇に障るなんてものではなかったが、どうやらその技術は賞賛に値する人間らしい。
学園でコイツに勝てる奴なんて居ないのではないのか? そうキュルケは思い、そして、この男との駆け引きを放棄する事にした。
同じ土俵に上がってまともにやってはまるで勝てる気がしない。
なら、男に出来なくて、自分に出来る事で挑むしかない。
覚悟は決まった。
恐い、嫌だ、やりたくない、絶対に後悔する、途中で投げ出したら恥さらしもいい所だ。
うるさい、そんなセリフを、態度を、あのルイズの前で晒せるものか。
キュルケは杖を高く掲げ、詠唱を始めた。
男はキュルケが詠唱を始める前に既に呪文を唱え始めていた。
唱える術はラインのウィンディアイシクル。
それはキュルケの術よりも先に完成し、詠唱中のキュルケを襲う。
キュルケは詠唱を中止してこれを避け……無かった。
詠唱は続けたまま、無数の氷の矢がまともにキュルケに叩きつけられた。
命中は四本、胴体下部右側、左腕上部、右足腿、そして最後が強烈で左の側頭部に当たって矢は跳ね、斜めの方向に飛んでいった。
しかし、半ば意識を手放しながらもキュルケは立っており、その詠唱は止まらなかった。
『これ! もう絶対無理! 次来たら逃げるわ! もう全部投げ出して部屋に逃げ帰って布団被って寝る! もう決めたわよ! 誰にも文句なんて言わせないわ!』
男は、キュルケは後一押しで倒れると見た。
ならばドットスペルで充分、それにエアハンマーは行動の阻害に最適だ。
もし、この男が軍の訓練だけでなく実戦を経験していたのなら、また違った選択肢も生まれたであろう。
実戦において遭遇する死を目の当たりした人間のしぶとさを、それを腹に収めた人間の覚悟を知っていたのなら。
しかし、現実には実戦経験を得る機会も無く、また、今のキュルケのような若さ故の自暴自棄にも似た蛮勇との対戦経験も無かった。
キュルケの呪文は難易度が高く、さっきのように転がりながら唱えられる程キュルケはこの術に熟練していなかった。
そんな状況で、エアハンマーがキュルケに襲い掛かってくる。
後ろ足を引き、腰を落とす。
膝に余裕を持たせ、来るべき一瞬に備える。
もう何も見なくていい。
敵の位置は真正面、衝撃がどう襲い掛かってくるのかは体が覚えている。
後は、自分の体がその方角を向いたままで詠唱を、術の完成を終えるだけだ。


キュルケがはっと我に返った時、すぐに自分が致命的な場面で意識を手放してしまった事を思い出す。
慌てて放ったはずの自分の魔法を探す。
すぐに見つかった。
何せ真正面の芝生がそりゃもう見事な程に黒々く焼け焦げていたからだ。
その先には一人の男が真っ黒になって倒れている。
「……判別つかないけど、多分、こいつよね」
どうやら自分が一瞬意識を失った事に誰も気付いていないらしい。
だから、キュルケは当然といった顔で振り向き、後ろで見ているアイツ等に見せ付けるようにガッツポーズをしてやった。


タバサはルイズの耳元でキュルケが勝った事を囁く。
ルイズはもう焦点の合って無い眼で何処か遠くを見つめたままだ。
出血と激痛で意識が混濁してきていると思われる。
その癖、タバサが医務室に連れて行こうとすると、意識は覚醒させ全力で抵抗してくる。
そしてそれを諦めて、静かにさせているとすぐに上記の状態に戻るのだ。
これでは戦闘は不可能、まあ怪我の状態からもそもそも無理なのだが、なので後はキュルケが何とかするしかないが、どうやらキュルケもかなり危険な状態に陥ってる模様。

ここらが潮時である。
しかし、三年軍団はそのリーダーを倒されて尚、怒りが収まる気配は無かった。
いや、むしろ今まで彼等を制して来た男が居なくなり、本格的に暴徒化しそうな勢いだ。
だが、今ならまだ間に合う。彼等はリーダーの男が倒された事を正確に理解していない。
タバサはルイズを横に寝かせ、キュルケの元に歩み寄る。
観客達でそれを咎める者は居なかった。
「キュルケ、今が引き上げ時」
すぐ側まで来て小声でそういうタバサ。
しかしそんなタバサを叱責するキュルケ。
「ばかっ、何で来たのよ」
「引き上げる。一緒に」
「もう……遅いわよ」
最早決闘もへったくれも無い。こいつら全員ただでは帰さない。
観客達、特に三年生達は皆そんな顔をしていた。
タバサはすぐにシルフィードの居る位置を確認する。
上空待機中、遙か頭上で旋回している。
だが、安易に彼女を降ろす事は出来ない。
それが引き金となってしまうから。
不自然な沈黙は、徐々に緊張感を高め、そしていずれそれに耐え切れなくなった者が出た時が、破滅の合図だ。
そんな静寂が、本来聞き逃してしまうかもしれない音を全員の耳に届けた。
校舎の二階の窓を開く音、そして……

「そこまでじゃ!」

燦の良く通る声が広場中に高らかと鳴り響いた。


燦はデルフリンガーを手に二階の窓から広場目掛けて飛び降りる。
スカートと上着の裾が風に靡き、優雅に宙を舞うその肢体はまるで花が零れるようであった。
そのまま地面に吸い寄せられるように着地、そして僅かな停滞も無く歩き始める。
その歩みはまずルイズの側へ。
「何なら寝てても良かったのよ」
彼女に笑みを返して歩を進める。
次に広場の中央に居るキュルケの側に。
「何よ、もう来ちゃったの? こっちはその前に終わらせるつもりだったのに」
タバサは燦から目を離せない。彼女の動き次第で全てが決まるが、彼女がどう動くつもりなのか全く読めないからだ。
燦はすいっとキュルケ達から離れ、十数歩歩く。
剣を手にしたその肩が僅かに震えている。
ルイズ、そしてキュルケの怪我は燦の許容できる範囲を著しく超えていた。
「……このしょうたれ共が……」
クラスに居た時より人数が増えているではないか、一体、どういう了見なのか。
「……この……」
二人の赤黒く染まった制服は、燦の理性を粉々に砕いてしまった。

「こんのチンピラ共が! どいつもこいつも叩っ斬っちゃらぁ! どっからでもかかってこんかい!」

タバサがその場に跪く。
燦に期待した自分が愚かであったと痛感した瞬間である。
不意に隣から笑い声が聞こえる。
キュルケは爆笑しながら燦の隣に歩み寄る。

「まったく、後先考えない娘ねぇ」
タバサも仕方なく立ち上がって側に立つ。
「人の事言えない、絶対」
それを見た生徒達が何かを言う前に、最後の一人が声をあげる。
「こらそこ! なーに私を置いて勝手に始めようとしてんのよ!」
見た目の怪我とは裏腹に、しっかりとした足取りでルイズもこちらに歩み寄ってきている。
「こんだけの目に遭わされた私抜きなんて、許されると思ってんの?」
四人はお互いに背中を向け合って周囲を取り囲む生徒達と相対する。
許しがたき敵は、自分から固まってくれた。
ならば、怒りに燃える生徒達がこれを遠慮する理由は最早残っていない。
一人が詠唱を開始すると、皆が我先にとそれに続く。
キュルケ、タバサも詠唱を始め、ルイズは防御直後に踏み込もうと腰を落とし、燦は大きく息を吸い込む。

「何をやっとるか貴様等!」

その怒声は、この学園に居る者ならば誰もが恐れ敬う人物、オールドオスマンの怒声であった。
皆が学園最強人物の登場に驚く中、タバサは一人安堵の吐息を漏らす。
オールドオスマンの後ろにはモンモランシーが控えていた。
当のオールドオスマンは憤怒の表情で広場に歩いてくる。
ここまで怒った彼は、誰しも見た事が無かった。

「この馬鹿者共が! 仮にも貴族を名乗る者達が何たる醜態か! 恥を知れ愚か者!」

オールドオスマンの後を追うように教師陣も広場に駆け寄って来る。
教師達の指示で強制的に解散させられる生徒達。
主犯格と思しき人物達は別室へと連れて行かれた。
そしてこの騒ぎの元凶たるルイズ、キュルケ、燦、そしてタバサの四人の前には、オールドオスマンが怒り顔を隠そうともせずに立っていたのだ。
「ミスタバサ!」
「はい」
「事の次第を我々に報告するよう動いたのは、まあ良い。だが! 何故こんな騒ぎになる前に報告せなんだか!」
「申し訳ありません。私が生徒間のみで解決出来ると勝手に判断した結果です」
「その挙句がこのザマか! 愚か者めが!」
次にルイズ、キュルケの順に睨みつけるオールドオスマン。
「貴族を名乗り、大いなる奇跡、魔法を操る学園生徒が! 私闘に魔法を用いるとは何事か! その上相手に大怪我まで負わせるなぞと言語道断じゃ!」
しかし、オールドオスマンの怒声はそこまでだった。
コルベールがルイズとキュルケの怪我を理由にこの場を収めてくれたのだ。
あくまで一時的な事であり、怪我の治療が終わったら嵐のような叱責を受けるのは必定であったが。
不貞腐れた顔で医務室に連れて行かれるルイズとキュルケ。
燦とタバサはその場に残り、状況を詳しく説明する事になった。

ルイズ、キュルケの治療が終わる頃には燦もタバサも事情説明という名の地獄のような叱責から開放されており、四人は医務室内、ベッドルームにて再び合流した。
「……どないしょ、オスマンさんめっちゃ怒っとった」
「当然。あそこで手が出なかっただけ、理知的な人物」
「じゃきに、オスマンさん学校で一番偉い人なんじゃろ? 私達どないなってしまうん?」
タバサにもどんな罰則が下されるのか想像できない。
最悪、放校処分も覚悟しなければならないだろう。
ちなみに、ルイズとキュルケの二人はベッドに入ったまま一言も無い。
中途半端な形で終わらせられてしまったのが不満だったのだが、そんな思いも頭に上った血が落ち着いてくれば、変化してくる。
キュルケはぼへーっと天井を見つめたまま呟いた。
「ねえルイズ」
「何よ」

「もしかして、私達ってとんでもないバカなんじゃない?」
「そうね」
そこでしばしの沈黙。
今度はルイズも同じくのへーっとしながら天井を眺めて言った。
「ねえキュルケ」
「何よ」
「救いようが無いぐらいバカよね、私達」
「そうね」
考えれば考える程に自分の馬鹿さかげんを思い出してヘコんでしまいそうになる二人。
キュルケはベッドから身を起こす。
「ルイズ、いつまでもここに居てあいつらと顔合わすなんて事になったら不愉快よ。さっさと出ましょう」
ルイズもそれが気になっていたのか、すぐに同意してベッドから降りる。
タバサと燦が慌てて止めるも、二人は平気な顔ですたすたと医務室を出る。
途中でシエスタとすれ違うと、包帯まみれの二人を見て驚き、心配してくれた。
そんなシエスタにキュルケもルイズももう大丈夫と笑って見せた。
『大丈夫? そーんなわけないじゃないの! 歩くだけで振動でもう泣きそうなのになんでキュルケは平然としてるのよ!』
『ルイズ! あれだけの怪我しておいて何平然とした顔してんのよ! なんて腹の立つ子! おかげでタバサの肩借りたいのに言い出せないじゃない!』
二人の内心はさておき。
そして四人はルイズの部屋に集まった。
キュルケは部屋の主よりも先にルイズのベッドに倒れこむ。
「キュルケ! それ私のベッドよ!」
「うっさい、私は疲れたの」
ムカっと来たルイズは実力行使に出る。
「そこをどきなさいタックル!」
ベッドに横になるキュルケに自分も横になりながらベッドに飛び込んで体当たりするルイズ。
「っっ!!」
「っっ!!」
二人してベッドの上に横になりながら痛みに震える。
タバサは言いたい事が山ほどあったので一緒に部屋に入ってきたのだが、二人が馬鹿やってるのでとりあえず落ち着くまでは待つ事にしているらしい。
ベッドの上で顔を付き合わせる二人。
「じ、自分の部屋で寝ればいいでしょう」
「も、もう一歩だって歩くの嫌なのよ」
そのままぐでーっと体を伸ばすキュルケ。
「あ、もうダメ。私今日ここに寝るわ。ルイズ、あんた私のベッド貸してあげるからそっちで寝なさい」
「意味がわからないわよ!」
燦はそんな二人を苦笑しながら見ていた。
「晩御飯はどうする? 今日はやめとく?」
キュルケは首だけそちらを向けて答える。
「ああ、それならさっきシエスタに頼んでおいたからもう来ると思うわよ」
タバサは心配そうにしている。
「……食べれる?」
ルイズはベッドに突っ伏している。
「私はいらない。少し気持ち悪くなってきたわ」
そこにノックの音が聞こえ、シエスタが台車の付いた台に食事を乗せて持ってきた。
その食事の内訳を見た燦が怪訝そうな顔になる。
タバサは、それを見てキュルケを少し睨んだ。
シエスタも困った顔でベッドの脇まで食事を運んできている。
「一応、ご依頼通りですが……その、お酒はあまりお勧め出来ませんよ」
食事というよりつまみの一品料理ばかりで、台車の下段には夥しい量の酒が載っていた。
キュルケはベッドの端に腰掛けるように座って、酒の瓶を引っ張り出す。

「体中痛すぎて、酒でも無いと眠れそうにないの」
タバサがそれを横からひったくる。
「駄目」
「えー! いじわるしないでよタバサ~!」
「絶対、駄目」
その隙に横からひょいと顔を出したルイズが酒瓶を手に取り、封を開ける。
「あー! イカンてルイズちゃん!」
「良い考えね。酔えばこの痛いのも何とかなるでしょ」
コップを取って注ぎ、燦が何をするより早く一息に空ける。
慌てた燦が止めに入るが、ひらりと後ろを向いてかわし、コップに酒を注ぐ。
すると、横からそれをキュルケが奪い取り、文句を言われるよりも先に飲み干す。
「ん、おいしっ」
タバサがルイズから瓶を奪おうとするが、ルイズはその瓶をキュルケにパス。
キュルケはルイズを壁にしてベッドの奥でコップに酒を注ぐと、ベッドに乗り出してきた燦をかわしながらルイズにコップを渡す。
ルイズは片手でタバサの頭を押さえながらそれをぐいっと飲み干し、キュルケは瓶ごといった。
「もー! 二人共怪我人なんじゃからお酒なんてイカンて!」
「大丈夫、大丈夫。ねえキュルケ、傷痛くなくなってきたと思わない?」
「そうそう、やっぱりお酒っていいわよね~。タバサ~、量は考えるから見逃してよ」
タバサはじーっとキュルケを見るが、諦めたようにベッドから降り、自分も酒瓶とコップを手に取った。
許可が降りたのが嬉しかったのか嬉々としてタバサに擦り寄るキュルケ。
「手酌は無しよ、ほらほらぐいーっと」
うきうきでタバサのコップに酒を注いでいる。
それを見た燦もしょうがないとばかりにベッドから降りた。

シエスタが燦のコップに果汁ジュースを注ぐ。
燦は夢中になってキュルケとルイズの話に聞き入っていた。
話題はさっきの決闘の事。
途中参加の燦は二人の勇姿を見ていなかったのだ。
ルイズとキュルケが交互に聞かせてくれる話に感動して涙を流す燦。
怪我を意に介さず戦い続けるなぞ、燦のストライクゾーンど真ん中である。
「漢前じゃー! 二人共めっちゃ漢前じゃー! うわー、傷の手当私がしたかったー!」
黙々と杯を重ねるタバサ。
文句も山ほどあるが、溜飲が下がったのも確かではあった。
正直な話をするとタバサも、キュルケが自分の得意魔法で傷つけられていく様を見ていた時は、自制をするのに苦労していたのだった。
良い感じで酔っているせいもあり、ルイズもキュルケも楽しそうに笑いながら決闘の話をしている。
やれあの時の連中の顔は見物だっただの、パンチを入れた時はスカッとしただの、あの戦闘のやりとりは参考になるだの、まあ結局最後に勝ったのは私だけどねだの。
シエスタはあまりの話の派手さに目を白黒させていたが、みんなが楽しそうにしているので、つられて笑っている。
キュルケは座ったまま真上を向いて目を閉じる。
「あー、本当に良い気分よね~。もう何処も痛くなくなってるわ~」
ルイズは酒瓶からコップに酒を注ぐのに苦労している様子。
「何よ……やりずらいわね……」
ふと、シエスタはキュルケの服の汚れに気付いた。
そこら中破けて血だらけになった制服はとうに医務室備え付けパジャマに着替えてあるのだが、それに黒い染みがあったのだ。
「ミスツェルプストー、その染みは……」
はたと気付く。
染みが徐々に大きくなっている。そして、それは一箇所だけではなく複数個所に及んでいる。
「み、みみみミスツェルプストー? もしかしてもしかして……傷口開いてません?」
ルイズが酒をうまく注げずに居るのを見て、燦は代わりに注いでやった。
「ありがとサン。なんでこんなにやりにくい……」
自分の左腕を見てみる。酔っ払っているのか何やら常より太く見える。

「る、るるるルイズちゃん! 腕がめっちゃ太うなっとる! それ腫れとるんちゃう!?」
言われてみれば、なんだか左腕が痛い気がする。
いや、気のせいどころか本気で痛い。脂汗出てきそうなぐらい痛い。
「ご、ごめんサン。ちょっと……痛いこれ……」
「あー、何言ってるのよ。私は全然痛くないわよーん」
腕を押さえて倒れこむルイズと、ケタケタ笑いながら血塗れになっていくキュルケ。
悲鳴をあげるシエスタ。
わけがわからなくなり、ばたばたと駆け回る燦。
タバサは、静かに酒を飲んでいる。
そこにあまりの騒々しさに頭に来たのか、モンモランシーが文句を言いに来た。
「ちょっと! あんた達少し静かに…………何よこの地獄絵図?」
そこらに転がる酒瓶と、ルイズ、キュルケの怪我の状態から全てを察するモンモランシー。
大慌てで医務室へと駆け込み、救急隊員がまた、ルイズの部屋に走りこんできた。
彼らは嵐のように怒鳴り散らし、罵声を浴びせながらルイズとキュルケを連れ去っていった。
燦は二人に付き添って医務室へ向かう。
残されたシエスタは、もう一人残った彼女へと声をかけた。
「あの……ミスタバサは行かなくてよろしいんで?」
タバサは、顔色一つ変えず杯を重ねていた。
「知らない」
どうやらタバサは、見逃したのではなく見捨てたという事らしかった。


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