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罪深い使い魔-09

タバサとの接触から数日の間、達哉を取り巻く環境は比較的平穏と言えた。
相変わらずルイズのワガママは絶えないがそれも慣れ、シエスタの厚意で食事にも事欠かない。
昼はルイズの授業に付き合ってこの世界のことを学び、午後は図書館で調べ物をする。
そのくり返しは新鮮さに欠けるが、同時に安定した『日常』となりかけていた。

そんな日々に変化が訪れたのは元いた世界で言うところの日曜日、
『虚無の曜日』にルイズが発した第一声だった。

「街へ剣を買いに行くわよ」
「……いきなりなんだ?」

達哉は眉をひそめた。

「あんた剣が使えるって言ってたじゃない。最近よく言うこと聞くし、褒美を取らせて上げるわ。
忠誠には報いるべきところがないといけないものね」

ふふん、と得意気な笑みを浮かべるルイズ。
一方の達哉は「そんなものか」と曖昧に納得する。
最近では大分慣れたつもりだったが、まだまだ貴族的思考というものには謎が多い。

「なによ、いらないの?」

達哉の態度が嬉しそうに見えないルイズは不機嫌そうな顔になる。

「……いや、欲しいな」

今は必要ないが、この先もそうとは限らない。
それに……

『使い魔は、主人を守る存在であるのよ!』

……なんにせよ、『力』はあった方がいい。
達哉はルイズの厚意をありがたく受け取ることにした。

「ただし、粗相をしたら取り上げるからね。これからも犬のように、従順に従うのよ」
「…………」

少しばかり不安は感じたが。

それから間もなくして、達哉はこの世界に来て初めてトリステイン魔法学院の外に出た。

学院から街までは、馬で三時間もかかった。
慣れない乗馬に四苦八苦しながら達哉が辿り着いたそこは、白い石造りの街だった。
ルイズの説明によると城下町らしいこの場所では、皆が一様にマントを羽織っている
学院と違って、いかにも『平民』然とした格好の老若男女で溢れかえっている。
また通りには様々な店が立ち並び、客を呼び込む商人達の活気に満ちた声で辺りを賑わせている。
海外旅行の経験がほとんどない達哉は、そんな光景を物珍しげに見回していた。

「街が珍しいの?」

そんなに田舎から来たのか、とルイズは邪推する。

「俺のいた街とは、だいぶ雰囲気が違うからな」
「あんたがいた街ってどんなの?」
「ここよりは広くて大きい」
「嘘おっしゃい。城下町より発達した街なんてそうそうないわよ。
それより、財布は大丈夫なんでしょうね」

財布は貴族が持つものではない。下僕が持つものだ。
そう言われて、先ほど達哉はルイズから金貨の入った袋を預けられた。
今は懐にしまってある。

「ああ」
「ならさっさと行くわよ。寄り道してる暇なんてないんですからね」

そう言ってさっさと歩き始めるルイズ。達哉は素直に後に従った。


「貴族の旦那。ウチはまっとうな商売してまさあ。お上に目をつけられるようなことなんか、
これっぽっちもありませんや」

ルイズに案内されて入った武器屋の店主が、開口一番にそう言った。
……大丈夫かこの店?

「わたしは剣のことなんかわからないから。適当に選んでちょうだい」

交渉するルイズを置いて、達哉は店内の武器を物色し始める。

「昨今は宮廷の貴族の方々の間で下僕に剣を持たすのが流行っておりましてね。
その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」
「貴族の間で、下僕に剣を持たすのが流行ってる?」
「へえ、なんでも……最近このトリステインの城下町を、盗賊が荒らしておりまして……」

これじゃ切れない。
これも……期待はできないな。
……こんな錆ついた物まで売ってるのか。
これは……なんで折れた剣が売りに出されてるんだ?

「盗賊?」
「そうでさ。なんでも『土くれ』のフーケとかいうメイジの盗賊が、
貴族のお宝をさんざん盗みまくってるって噂で。
貴族の方々は恐れて、下僕にまで剣を持たせる始末で。へえ」
「ふーん……タツヤ!」

ルイズは中古の剣を眺めている達哉に声をかける。

「これはどう?」
「軽すぎる」

達哉は一目で一蹴した。
ルイズも「そうね」と納得する。

「もっと大きくて、太いのがいいわ」
「お言葉ですが、剣と人には相性ってもんがございます。男と女のように。見たところ、
若奥さまの使い魔とやらには、この程度が無難なようで」
「大きくて太いのがいいと、言ったのよ」

ルイズの言葉に不承不承といった様子で頭を下げると、主人は店の奥に消えた。

それを横目で見ながら、達哉はまた中古の剣の束に目を落とした。
ざっと見たところ、ここの剣はどれも大して変わらなかった。
『向こう側』や『こちら側』で使っていた剣や刀に比べると、明らかに質が悪い。
魔法が発達した分、鍛冶や製鉄の技術は遅れているのかもしれない。

ならば、わざわざ高いものを買う必要はない。
こういう、いかにも安そうな物で手を打とうと、達哉は考えていた。


「これなんかいかがです?」

戻ってきた主人が持っていたのは、長大な大剣だった。宝石のちりばめられた豪華な装飾に、
鏡のように輝く刀身。一見して名剣と思わせるような、圧倒的な存在感を放っている。

「店一番の業物でさ。貴族のお供をさせるなら、このぐらいは腰から下げて欲しいものです。
しかしこいつを腰から下げるのはよほどの大男でないと無理ですんで、
そちらのやっこさんなら背中にしょわんといかんですな」

にこにこと笑って説明する店主の持つ剣に、ルイズの目が輝く。
少なくとも、ルイズのお眼鏡にはかなう代物だった。

「タツヤ、これでいい?」

呼ばれて、達哉はそこに大剣が用意されていることに気づく。

「……手にとっていいか?」

達哉が興味を示したことで、ルイズはさらにその剣を気に入った。
そんなルイズを他所に、主人の「どうぞ」という言葉に従い、達哉は剣の柄を握った。
すると――

「…………?」

……体が少し軽くなった気がする。
何かの魔法が付加されているのか?
首をかしげる達哉だが、それを見ていた二人の驚きは達哉の比ではなかった。

「ひえっ!?」
「ええ!? ルーンが……!」

達哉の左手、正確には手の甲に刻まれたルーンが発光していた。
達哉自身もそれに気づき、同時にあることを思い出す。
先日読んだ、平民に人気があると評判の物語。
光る左手を持つ勇者の物語を。

「イーヴァルディ……?」

まさか、この剣はイーヴァルディ縁の物なのか?

伝承が、実話を元にしていることは決して珍しくない。
イーヴァルディにもルーツとなる『誰か』が存在したというのは、十分考えられることである。
だからもしこの剣が『イーヴァルディの剣』だと言うならなるほど、これは貴重な代物だ。
少なくとも、そこらに飾ってある剣よりは遥かに期待できる。
しかし……

「……これは駄目だ」

達哉の経験はそれを否定した。
この剣、付加効果はあっても剣としての性能は、他のより若干優れているという程度だ。
仮にイーヴァルディが使っていた物だとしても、達哉には使う気になれない。
実用的にも、心情的にも。

「こいつはおでれーた。てめ、『使い手』か」

唐突に、何者かの声がかかる。
達哉は声のした方向を振り返るが、そこには誰もいない。

「それに剣を見る目もある。悪いこたぁ言わねぇ。小僧、買うなら俺にしな」

しかし声は間違いなくその方向からする。
そしてよく見ると、錆の浮いた中古の剣が一本、震えていた。
鍔の部分がカチカチと振動しているのだ。

なんだあれは?

その疑問には、驚きから立ち直ったルイズが答えた。

「それって、インテリジェンスソード?」
「そ、そうでさ、若奥さま。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。
一体、どこの魔術師が始めたんでしょうかねえ、剣をしゃべらせるなんて……。
とにかく、そいつはやたらと口は悪いわ、客にケンカは売るわで閉口してまして……」

店主も平静を取り戻す。
しかし当たり前のようなやり取りをくり広げる二人をよそに、達哉は当惑していた。

しゃべる剣?
使い手?

三者三様のリアクションを取る面々を無視して、剣は言葉を続ける。

「そいつぁ剣の力じゃねぇ、おめーさんの力だ。試しに他の剣を握ってみな」
「…………」

達哉は剣を店主に返す。店主は恐る恐る受け取ったが、剣は渡した時と何も変わってない。
そして達哉が剣を手放した瞬間、左手の光は消失し体の変化もなくなる。
次に達哉は、その辺に立てかけてあった量産品とおぼしき剣を手に取る。
ルーンは再び発光した。

「どうだ、『使い手』。それがおめーさんの力だ」
「…………」

達哉はそのしゃべる剣を手に取る。またしてもルーンが発光するが達哉はもう気にも留めない。

「んん!?」

剣が疑惑の声を上げる。

「……てめ、何もんだ?」
「……なんのことだ」
「おめーさんの中に『誰か』いる。そいつがおめーさんの力を『既に引き出している』ぜ。
これじゃ剣握っても握らなくても大差ねーやな」
「ッ!?」

達哉の目が見開かれる。

「驚いたか? 俺は触れた人間や道具のことがなんとなくわかるんだ。その俺が断言する。
おめーは『使い手』だが『使い手』じゃねぇ。それ以上の『何か』だ」
「何言ってるのよ、このボロ剣」

剣の言ってる意味がわからないルイズは呆れる。
しかし剣にルイズの声は届かない。

「ますます気に入ったぜ! それにおめーさん、相当修羅場潜ってるな?
若けーのに大したもんだ。なあ、俺買ってくれよ。損はさせねぇからよ」
「…………」

どこまでも軽口を叩き続ける剣を達哉は無視し、両手で握る。
グリップはよく馴染んだ。重量も悪くない。
一見するとボロだが、見た目ほど状態は悪くない。酷使しなければ問題なさそうだ。

「……ひとつ聞きたい。『使い手』とはなんだ?」
「忘れた。なにせ作られてから随分長い時間が経ってるんでね。
でもおめーさんと一緒にいれば思い出すかもな」
「そうか……」

色々な意味で放置できない剣だった。
達哉はルイズに向き直る。

「ルイズ」

達哉の言いたいことはルイズにも理解できた。
しかし、それでも聞かずにはいられない。

「……本当にそんなのでいいの?」
「ああ」
「まあ、あんたがそれでいいって言うならいいけど……これおいくら?」

結局、店主からも厄介払いだと言われた魔剣は破格の安さで買い取られることになった。
こうすれば大人しくなると、鞘に入れられた剣を受け取って二人は店を出る。

「何もそんな安物買わなくったっていいのに」
「……不満なのか?」
「使い魔にボロい剣持たせてたら私がケチだと思われるじゃない」

見栄か。
達哉は呆れた。

「……こいつには色々と聞きたいことがある。それに、あの店の剣はどれも大して変わらない」

達哉は背中に背負った剣を軽く抜く。

「ひでーぜ相棒。少なくともそこいらの剣よりかは、いい働きしてみせるぜ」
「……期待してる。ところでルイズ、剣を握った時にルーンが光ったのはどういうことなんだ?」

『コントラクト・サーヴァント』で左手に刻まれたルーンが、使い魔の証だというのは
達哉も知っている。要するに奴隷の焼印かと、それを聞いた時は不快になったが、
害はないし今さらどうにもならない。
おまけに右腕にはもっと厄介な物が残っていたのですぐに気にならなくなった。
しかし、ただの印でないというなら話は変わってくる。

「私にもわからないわ。使い魔のルーンが光るなんて、聞いたことがないもの。
動物が使い魔になった時に何かの能力が付加されることがあるけど、それかしらね」
「昔俺を使ってたやつは、俺を握るとべらぼうに強くなったぜ。
ただ、そいつがどんなやつだったか覚えてないんだがな」

要するに二人(一人と一本?)にもわからないらしい。

「なんなら、トリステインのアカデミーに問い合わせてみる?」
「アカデミー……?」

ルイズの口から、達哉が聞いたことのない単語が飛び出してくる。

「王室直属の、魔法ばっかり研究している機関よ」
「そこでわかるのか?」
「かもね。あんたを実験体にして、体をバラバラにした後でだけど」

にぃ、と意地悪く笑うルイズを見て、達哉は顔をしかめる。

「おいおい、やっと出会えた相棒をいきなり殺されちゃたまんねーぜ」

……俺だってたまらない。

ルーンと、アカデミー。
調べなければならないことと、隠しごとが増えて達哉は気が重くなった。
億劫になり、剣を鞘に収める。剣は何か言いかけたが、相手にしない。

「さてと」

ルイズはん~、と伸びをする。

「剣は安く手に入っちゃったし、日はまだ高いし、少し街を見て行こうかしら」
「……寄り道する暇はないんじゃなかったのか?」
「何よ、嫌なの?」
「……いや」
「だったらつまんないこと言うんじゃないわよ。さ、田舎者のあんたに街を案内してあげるわ」
「ああ……頼む」

達哉は苦笑した。


休日の午後を、達哉は主人と共に街で過ごした。
街には色々な物が溢れ、それ珍しそうに見て回る達哉をルイズが笑った。
その内案内すると言ったルイズが道に迷ってしまい達哉に八つ当たりをし、
仕方なく休憩のため入り込んだ店のウェイトレスが、胸元の開いた
きわどい格好をしていて達哉を赤面させた。
それを見てルイズが不機嫌になり、達哉の脛を思いきり蹴った。
店を出ると日がだいぶ傾いており、怒るルイズと一緒に馬の元まで急いだ。
途中、帰り道で食べる軽食を購入し、二人は街を離れた。
街にいた間ルイズは怒ったり、笑ったり、怒ったり怒ったりで達哉は忙しかったが、
不思議と悪い気はしなかった。

それもそのはず。この時達哉は、すべてを忘れていた。
『向こう側』も『帰る方法』も『這い寄る混沌』も忘れ、ただルイズの相手をしているだけで
騒がしくも穏やかな時間に身をゆだねることができたのだ。

『虚無の曜日』は達哉にとって、この世界にきて『最初の休日』となった。

ただし、それは達哉の主観による話である。

その日の夜。

「確かに『固定化』の魔法以外はかかってないみたいだけど……」

暗闇の中、影が値踏みする。
対象は、壁。
張りついた壁に垂直に立ち、足元の壁を見下ろしている。

「これじゃ私のゴーレムの力でも、壊せそうにないね……」

影――年齢、性別一切が不明の盗賊、『土くれ』のフーケは今、トリステイン魔法学院に身を寄せている。
目当ては宝物庫の宝だったが、その防犯性は調べれば調べるほどにフーケの頭を悩ませていった。
頑丈な錠前とフーケお得意の『錬金』を阻む『固定化』の呪文、そして厚さ5メイルにも及ぶ石の壁。
さすがのフーケも、盗み出す手立てを見出せないでいた。

「やっとここまで来たってのに……」

学院への潜入、そして宝物庫に関する情報収集のためにフーケが費やした時間や労力は少なくない。
その見返りとして、なんとしてでも宝は盗み出してやりたかった。
フーケは歯噛みした。
そんな折――


「己が無力さを嘆くか、魔術師」

突如、声が響き渡る。
フーケは弾かれたように辺りを見回した。

見られた!?
どこから!?

そんな内心の戸惑いを見透かすかのように、声の主は答える。

「汝が後ろに」

フーケが振り返ったそこには、宵闇の中で奇妙なほどはっきりと浮かび上がる、
白いシルエットが立っていた。


かくして達哉の『最後の休日』は終わりを告げる。

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