あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

豆粒ほどの小さな使い魔-19




とても暖かい雰囲気だと思った。
聞いていたのと少し違う。ルイズの態度からは、もっと緊張と不安を感じたんだけど。
この暖かさはどこから、そう思って見回してみれば、一番柔らかく笑っていたのはルイズ自身だった。
会ったばかりの、不安定なルイズのままだったら、もしかしたらぎくしゃくしてたのかもしれない。ちい姉様だけが優しかったって、いつだったか言ってたし。
見上げるルイズのお母さんは、自分にも他人にも厳しい人だって。
ルイズは正直に手紙に書いてた。こもん魔法だけだけど、使えるようになったって。
この優しい空気を壊したくないから言えないけど、どうか、ここにいる間は、ルイズに次の魔法を求めないで欲しいと思う。
精一杯背伸びをして、やっと届いたんだから。
ヒュ と、小さな口笛。他の人に聞こえないように、ルイズと二人で練習した合図。
慌てて振り返ったら、そ知らぬ顔をしたルイズが、笑みを浮かべながら私のことを見てた。
あ……そっか。
ごめんなさい。
つい勘違いをしてしまう。ルイズは妹じゃなくてトモダチなのに、泣き顔をみたことがあるせいか、それとも真っ赤になって照れてる顔が可愛いからか。
お母さんの手の上で座りなおす。庇う必要なんてないんだ。
ルイズはきっと傷つくだろう。悔しくて泣くかもしれない。
だけど、それで折れるほど弱くないんだから。
ガッコウで、何度も、悔しさに歯を食いしばりながら杖を振るルイズは格好よかった。
なら、もう心配はしない。
カトレア、さん。ルイズの二人いるお姉さんの、優しい方? 何度も繰り返し聞かされたから、もうすぐ会えると思うと。コップのお茶が揺れる。最初になんて言おう。
重い病気なのに、人に優しくできる人って、どんな目をしてるんだろう……本当に、優しいだけの人なのかな。
そうシエスタに零して笑われた。あんまりルイズがお姉さんのことを褒めるから、羨ましくてちょっと悔しいんですねって。
そんなんじゃないって、言えなかった。シエスタに、自分が子供だってまた教えられちゃった。


階段を駆け上がるルイズの肩で、ちらっとでもいいから、こっちを向いて欲しいなって思う変な気持ち。
ルイズ、私が病気だったら、同じように一生懸命になってくれる?
来るまでは平気だったのに、どうしちゃったんだろう。
大きなドアを、ルイズが叩く。この向こうにいるんだ。どくんどくん、心臓まで変になってる。

「ルイズ?」

やわらかな、女の人の声。それだけなのに優しそうって分かるのは、きっとこの人にとっても、ルイズっていう言葉がとても大切だから。
ぱぁって輝いたルイズの顔を見て、逃げ出したくなった。


* *



ドアを開けた瞬間、ちい姉様しか見えなかった。
両手を広げて、私のことを待っていてくれる、少しだけ首を傾げるいつもの仕草に、エレオノール姉様に泣かされた7才の私が駆け出してくその後姿に引き摺られて、気がついたら、抱きついて、抱きしめてた。
ああ、ちい姉様の匂いだ。柔らかくって、暖かい。
「あらあら」
そっと背中に回される腕を感じながら、ちい姉様の胸にいつもみたいに頬を摺り寄せる。くすぐったそうな笑みに、いたずらが成功した気持ち

コンコン

はっと我に返って、振り返ってみたら、呆れた表情でドアに片手をついたキュルケと、両手で口を覆ったシエスタ。無表情のタバサ。
私一人じゃなかったんだ。それに7才でもないしっ
「お取り込み中のところ申し訳ありませんが――ルイズ、そちらのお方に、私たちを紹介していただけないかしら?」
うあ、キュルケの声に小さなとげとげがいっぱい。からかってやろうっていう気満々のあの目。
あうあうと言葉が出なくて、抱きついたまま動けなくなってるのに、ちい姉様はふわりと微笑んだまま、
「可愛いルイズの、お友達の方?」
益々顔に血が昇っちゃったけど、ちい姉様に悪気はないんだ。深呼吸を一つして、抱擁を解いた。
「カトレア姉様。学院での私の友人たちをご紹介します」
キュルケは優雅に、シエスタはお父様たちで慣れたのかさっきよりも滑らかに。
それにタバサも、普段の無口を知ってる私からすると、相当頑張って挨拶をしてくれた。
ようやく部屋の中を見渡す余裕ができた。動物が、また増えてる。どうして仲良くしてられるんだろうという疑問は部屋に入るたびにどうでもよくなって、部屋を出るとまた頭を擡げる。ああ、そんなことはいいんだ。
ハヤテが肩にいない。どうしてと思った時には、もう戻ってきてたけど。
びっくりさせないで。一瞬心臓が止まるかと思った。
「まぁ そちらがルイズの?」
「はい、ちい姉様。手紙にも書きましたけど、彼女が私の使い魔になってくれたハヤテです」
ぴょこんと頭を下げるハヤテ。下にいたときよりも、緊張してるみたい。大丈夫よ、ちい姉様はとても優しい方なんだから。
「姉様、お休みになってなくてもいいの?」
熱があったから、休んでいたと聞いてたから。
「大したことないの。ほら、もうすっかり元気。だからベッドに戻れなんて言わないでね?」
両腕を曲げても、力瘤なんてできないでしょう。
でも、よかった、本当に大丈夫そう。
「お客様を立たせたままにはできないわ。どうぞ中へお進みになって」
メイドたちは怖がるだろうと、私がお茶を用意しようとしたら、シエスタが買って出てくれた。ここではお客様なのにと思ったんだけど、させてもらえる方が気持ちが楽だからと押し切られた。
流暢な手つきで、私が淹れるのより美味しそう。
シエスタが最後に自分の分を淹れて、ソファーに座ってから、他愛ないお話をする。
ちい姉様の雰囲気のお陰か、先ほどの応接間よりも空気が穏やかだ。
ハヤテと遠乗りに行ったこと。シルフィードから見下ろす景色のこと。
靴下のハンモックには、ちい姉様、ころころと笑ってくれた。


気が満ちた。
ティーソーサーをテーブルに戻したら、キュルケがやっとお披露目する気になったのねと笑った。
分かっちゃうんだろうか。
「ちい姉様。ここにいる友人や先生に、何よりもハヤテに支えられて、私は魔法の徒としての一歩を登ることができました」
杖に触れたとき、指先にぴりと痺れるような心地よい痛み。
「初歩の初歩、ですけれど、見ていただけますか?」
「ええ、喜んで」
立ち上がって、部屋の真ん中、ちい姉様の正面に回る。
ハヤテにも、今回ばかりは肩ではなく、テーブルに残ってもらった。
たった数歩。それだけなのに、心細さを感じてしまうのはどうしてだろう。
以前は感じることもできなかった寂しさ。ハヤテの存在は、こんなにも大きい。
教室では、今も私が前に出ると、机の下に隠れる人たちがいる。だけどここにいる人たちはそんなことしない。私を信じて、僅かな不安もない微笑で見守っていてくれる。
「それでは、行きます」
幾百回繰り返した通りに、杖を振り上げた――



ビスケットの盛られたお皿が、ゆっくりとテーブルに戻る。
ほぅ、と、息を吐いた。どの魔法も、今までで一番よくできたと思う。
「以上です」
ぱちぱちぱち
ちい姉様が、一生懸命拍手してくれてる。ぽろぽろと涙を零しながら。嬉しいなら笑えばいいのに。袖で目元を擦る。皆も一緒になって。
まだ、たったの5つしかできないのに、そんなにしなくてもいいじゃない。そんなんじゃ、私が虚無を使えるようになったときに大変なんだから。
「頑張ったじゃないの」
くしゃくしゃと頭を撫でられる。うるさいキュルケ。いつも通り憎まれ口の一つでも叩きなさいよ。シエスタも、学院で何度も見たでしょうに。
「おめでとう、ルイズ……本当に」
もう小さいルイズじゃないのねと嬉しそうにでもどこか寂しさを滲ませるちい姉様。
いいえ
多分私は、ちい姉様の前では、ずっと小さなルイズだと思います。
だから、いつもみたく、ぎゅってしてください。




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