あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

罪深い使い魔-07

「君も忙しい男だね、ミスタ・コペルニクス」
「どこの誰ですか! オールド・オスマン! いや、それより……」

コペルニクス、もといコルベールは両手で机をバン、と叩いた。

「やはり! 彼は伝説の『ガンダールヴ』です! 間違いありません!」
「静かにしたまえ、ミスタ・コルベール」

年長者の威厳を発揮してコルベールを押しとどめるオスマン。
「ちゃんと覚えてるじゃないですか!」というつっこみも綺麗に無視し、静かに告げた。

「彼が『ガンダールヴ』だというならなおさら冷静にならねばいかん。どこに目があるかわからんからな」
「は、はい……」

これを聞いてコルベールも落ち着きを取り戻す。
それを見てオスマンは満足し、しかし悩みの種が大きくなったことに眉根を寄せた。

「まったく、監視すると決めた矢先にこれか……しかし『光』とな」
「ええ、本当に突然のことでした。私があの本を返しに図書館へ行きましたら、
そこに丁度ミス・ヴァリエールと使い魔がおりまして。
早速監視を始めるとなんと、ミス・ヴァリエールが本棚から転落を……」
「彼女でなければ起こらない不幸じゃな。普通は直後に『フライ』か『レビテーション』を唱えて
事なきを得るが、彼女の場合は貴重な本が爆発するだけじゃろうて」
「ええ、ですから私も慌てて『レビテーション』をかけようとしたのですが、
それよりも早く使い魔が……」

それは本当に突然のことだった。
ミス・ヴァリエール――ルイズが転落したのを見たコルベールが杖を構えた直後、
その下にいた彼女の使い魔――目下『ガンダールヴ』と目されている少年――の足元から青白い光が立ち上った。
直後に少年の体からルイズ目掛けて、赤い『光』が駆けて行ったのだ。
どことなく人の形をしているようにも見える『光』は落下するルイズを受け止め、
そのまま下降して使い魔の体に溶け込むようにして消え去っていった。
足元の光も消え、後にはルイズを抱きかかえる少年の姿だけが残されていた。

コルベールは自分が夢を見ているのではないかと疑った。
いや、今でも半信半疑だ。
だから見たままのことをオールド・オスマンに報告し、その指示を仰ごうとしている。

「『ガンダールヴ』は千人もの軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持ち主だと伝えられておる。
あらゆる『武器』を使いこなしたともな。じゃが……」

オスマンは自慢の髭をなでた。
そしてすっと目を細める。

「『ガンダールヴ』が『光』を放ったなどという記述はどこにもない。
しかし『ガンダールヴ』だからと言って、必ずしも伝説の『ガンダールヴ』と同じ力があるとも限らん。
所詮伝説じゃからな。わからんことの方が多いわ」
「……それで、どうしましょうか?」

コルベールの問いにオスマンは目を閉じ、考えを巡らせた。

「まず、他に目撃者は?」
「……生徒が一人、その場に居合わせておりました。こちらには気づかず、すぐにその場を立ち去りましたが……」
「誰じゃね?」
「ミス・ヴァリエールと同じ学年の少女――ミス・タバサです」

さんざん暴れまわって周囲の失笑を買ったルイズは、その後達哉の静止も振り切って図書館に戻ると、
自分と一緒に落っこちてきた本を達哉に手渡した。

「はいコレ。地図の他に、その地域に関する簡単な説明が書いてあるわ」
「……ああ、ありがとう」

足の痛みを堪えながら、達哉はルイズから本を受け取る。

色々と面倒なことはあったが、こうして本が手元に来るならそれは喜ぶべきことなのだろう。
……痛いのは簡便願いたいが。
そう思い、達哉は手元にある本を何気なく開いた。そしてあることに気づく。

「済まない、ルイズ」
「別に良いわよ。もうお仕置きは済んだもの。」
「いや……」
「ほ、本当は死刑なんだけど、ちゃんと助けてくれたし……だ、だからその……」
「そうじゃなくて……」
「忠誠にはその……何よ?」

ここでようやく達哉の異変に気づくルイズ。
一方の達哉は苦虫を噛み潰したような渋面を作り、非常に申し訳なさそうな声で、言った。

「字が……読めない」


かくして急遽『ルイズ先生の折檻授業』がスタートすることになった。

もう一度達哉の脛を蹴りつけたルイズは所謂『こくご』を勉強するのに使えそうなテキスト数冊と、
先の地図帳を図書館から借り出し、「ここじゃ集中できないから」と言って、達哉を連れて自室に戻った。
本音は……やはり、あんなことがあった図書館に長く篭るのは居心地が悪いのだろう。

それにしてもとんだ盲点だった、と達哉は考える。
普通に会話ができるので文字も読めるだろうと、勝手に思い込んでしまっていた。
しかし改めて考えてみれば、『会話ができる』というのがそもそも異常なのだ。
なぜ自分は話せるのか。そして読めないのか。
達哉はそのまま疑問をルイズにぶつけてみた。

「知らないわよそんなの」

ルイズ先生は横暴だった。今に始まったことではないが。
しかし、本当にこのハルケギニアはわからないことばかりだ。

自分は今日本語をしゃべっているのか?
それともハルケギニアの言葉を無意識に使っているのか?
それすらわからない。

「考えるだけ無駄か……」

こんな言葉を聞いたことがある。『気にしたら負け』だと。
ならば「そういうものだから」で納得するするしかないのだろう。達哉はそう結論付けた。

「どうしたの?」
「……なんでもない。ただファンタジーの便利さと不条理さについて少し考えていただけだ」

ルイズの言葉で達哉は思考を切り替える。
とにかく俺は文字が読めない。これでは本を読むなど雲を掴むような話だ。
ならば、覚える。普通一朝一夕で言語は学べないが、やるしかない。


今回ばかりはとルイズの机と椅子を借り、そこに先ほど借りてきた本を並べる。
達哉が本を開いてみると、なにやら絵本のような漫画絵にごく簡単なものと思われる会話文が挿入されていた。
なるほど、これなら勉強しやすそうだ。
なんとなく達哉は、中学生のときに使っていた英語の教科書を思い出す。

「英語、か……」

アメリカ人の血を引きながらも英語がまったくできず、それをコンプレックスにしていたギンコ。
怪しげな英語を使っていたミッシェル。
会話の端々に完璧な発音の英語を含んでいたエリーさん。

「……フ」

思わずため息が漏れる。
達哉自身は英語に関してこれと言った思い入れはないが、
こうして思い返してみると英語は割と身近にあるものだったと気づく。

そうやって物思いにふけった達哉の頭を、ルイズは容赦なくはたいた。

「っ!?」
「なにボケッとしてるのよ。文字を教えて欲しいって言ったのはあんたでしょ!?」
「……ああ、済まない」
「さあ、ビシバシ行くわよ!」

心なしか嬉しそうなルイズを横目に、達哉はため息をついた。


「――は、――で」
「と言うことは、――は――なのか?」
「そうよ。ここの――が――ってなって」
「――にかかるのか。なら――も……」

結果から言えば、達哉が予想していたほどの苦労はなかった。
ルイズに一度聞けば単語の意味はすぐに覚えられたし、始めて一時間ほどで簡単な文法も理解することができた。
これにはルイズのみならず、当の達哉も目を丸くする。
元々エリート高の七姉妹学園に通っていた達哉は、実は英語に関してそこそこ上位をキープしていた。
英語は体育に次いで得意な科目だったのだ。
しかしその達哉でも、自分の学習の早さがここまでとは思っていない。
それに学ぶというよりは、ド忘れしていた暗記内容を思い出すような、そんな感覚に似ていた。
達哉は「そういうものだから」のありがたみを実感した。

ペラ……

ペラ……

ペラペラと、ページをめくる音だけがBGMとなった部屋で、無言で読書する二人。

ペラ……

「……ところでさ」
「……なんだ?」
「さっきの図書館……あんた、よく私を受け止められたわね」
「ああ……」

達哉は当時の状況を思い出す。

あの時はもう、バラすバラさないという問題は頭からなくなっていた。
ただ「助けなければ」という衝動に従い、『能力』を発動させたのだ。
結局ルイズにバレることはなく、人もいなかったようで騒ぎにはならなかったが
これは運が良かったとしか言いようがなかった。
今後も隠すつもりなら、あんなことが起こらないように注意しなければ。

「まあ、鍛えてるからな」
「なんで?」
「それは……」

昨日話したのはこの世界に来るまでの大まかな経緯だけだったので、
今回はもう少し詳しい説明――戦いの日々について語る。
ただその相手である、悪魔やらカルト宗教じみた集団やら軍隊やらを説明しても
どうせまた疑われるだけなので、具体的に何と戦っていたかは適当にぼかしておく。

「ふーん」

納得したのか、してないのか。そんな微妙な返事。
しかしこちらの説明も微妙なものなので、ここはお互い様と言うべきだ。
達哉は再び手元の地図に目を落とした。


ペラ……

「……ならあんた、強いのね?」
「……どうかな」
「なによ、その曖昧な返事」
「メイジと比べて、どの程度強いのかわからないからな」

達哉のその言葉は、謙遜ではない。
見も蓋もない言い方をすれば、勝負なんて時の運だ。勝てる時もあるし、負ける時もある。
しかし人間がアリ相手に負けることなどほぼ100%ないように、絶対と言い切れるほどの確率で勝てる相手というのはいる。
そういうものの数は、多分普通の人間よりは多い。
それに戦闘時のメイジがどの程度の力を発揮するのかも未知数だ。現時点では答えようもない。
しかしルイズにとって、その答えは呆れるものだった。

「メイジ相手に勝てるわけないでしょ。あんた平民なんだから」
「ああ……」

気のない返事をする達哉。ルイズもそれっきり何も言わなくなる。

ペラ……

「……でももしかしたら、傭兵には勝てるかもしれないわね」
「傭兵?」

どうでもいいが、さっきからやたらと話しかけてくるな。
そう思いつつもしかし、本を読む片手間に会話するのは苦じゃないので、達哉も普通に相手をした。

「金で雇う兵隊よ」
「そいつらも魔法を使うのか?」
「使うのもいるけど、大半は使えないわ。使えるのは貴族崩れの傭兵だけね。
魔法が使えるのは王家か貴族の生まれだけだもの」
「そうか」
「で、どうなの? 勝てそう?」
「魔法が使えない傭兵相手なら勝てると思うが、実際に戦ってみないとわからないな」

魔法が使える傭兵については触れない。その答えは先ほど聞いたばかりだ。

「まあそうよね」

ルイズもそれで納得した。


ペラ……

「……でもあんた、戦うって言ったって武器持ってないじゃない」
「……こっちへ来る時に武器も防具も置いてきたからな」

正しくは「持って来れなかった」のだが、この際どちらでも一緒だろう。

「ああ、でもひとつだけ持ってこれたものがある」
「なによ?」
「これだ」
「なにコレ?」
「カルマリング。持ち主の攻撃力を増強させる、まあマジックアイテムみたいな物だ」

理屈はわからないが、なぜかこれだけは持って来ることができたのだ。本当になぜだかわからないが。

「ふーん。ちょっと貸して」
「ああ」
「……えい!」

どっかん

「っ、いきなりなんだ……!?」
「いや、本当に効くのかと思って、でも凄いわねコレ。あんたの体が吹っ飛ぶなんて」
「遊びで使うな! さっさとそれを返せ!」
「嫌よ。使い魔の物は主人の物。これはあんたへのお仕置き用に使わせてもらうわ」
「ルイズ!」
「心配しなくても、戦う時には返してあげるわよ」
「……本当だな」
「あんたがお行儀良くしてたらね」
「…………」

……言うんじゃなかった。

達哉のSTRが15下がった。
ルイズのSTRが15上がった。


ペラ……

「……それでさ」
「……なんだ?」
「睨むんじゃないわよ、生意気ね。それはそうと結局、あんたは何で戦ってたの?
この、カルマリングっていうの持って」
「…………」
「……素手?」
「いや……剣だ」
「何よ、今の間?」
「なんでもない。『主に』剣だ」
「……なんか引っかかる言い方だけど、まあいいわ。ふーん、あんた剣使えるんだ」
「ああ……」

ペラ……

「……そう言えばさ」
「……今度はなんだ?」
「あんた、一緒に戦ってた仲間がいたって言ったじゃない。
やっぱりみんなで剣持って突撃、とかやってたの? 傭兵みたいに」
「剣を使っていたのは俺と、あと二人だけだな」
「じゃあ他は何使ってたのよ」
「……まず一人は、拳」
「素手!?」
「あと……銃」
「……ああ、あの平民が使うやつね」
「この世界にも銃があるのか?」
「だからこの世界って……ええ、あるわよ。もっとも弓より射程が短いし、
一発一発撃つのに時間がかかるからあんまり人気ないけど。それで他には?」
「他には……銃」
「銃はさっき聞いたわ」
「結構多いから、仲間になった順に思い出してるんだ。次は……また拳」
「……お金なかったの?」
「いや、その方が戦いやすかったらしい」
「ふーん、変なの」
「次は……花」
「花?」
「花を投げて使うんだ」
「花なんて投げたって痛くもなんともないでしょ」
「いや、ちゃんと茎が刺さるんだ。威力もかなり高かった」
「……どうなってるの、それ?」
「俺にもよくわからない。他は……そうだな、一気にいこう」
「あら、どうしたの急に?」
「一度に仲間になったんだ。残りは拳、銃、コインだ」
「……コイン? ていうかまた拳が含まれてたわよ」
「二人ともそういう武器だったんだ。そして、とても強かった」
「……で、コインやら素手やら花やらで戦ってる人達がいる中で、あんたは剣振り回して戦ってたわけ?」
「ああ」
「…………」
「どうした?」
「どんな集団よそれ!?」
「…………」

…………

「どうしたの?」
「…………」
「なんとか言いなさいよ!」
「…………」
「あーその、仲間のことを悪く言ったことは、謝るわ。そうよね、あんたにとっては大切な仲間だもんね」
「…………」
「……タツヤ?」


「……改めて考えるとわけがわからない。本当、凄い集団だ」
「……あんたもその中に含まれてることを忘れるんじゃないわよ」


ペラ……

ペラ……

ペラ……

「ていうか剣使う二人はいつ仲間になったのよ?」

この日はそんなやり取りが、二人が夕食を食べ損ねたことに気づくまで続けられた。

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