あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

罪深い使い魔-06

「その使い魔の左手に刻まれたルーンについて調べたら」

トリステイン魔法学院の院長にして偉大なる魔法使い(と、言われている)オールド・オスマンは
慌しくやって来た学院の教師、コルベールがもたらした報告を聞いていた。

「始祖ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に行き着いた、というわけじゃね?」
「そうです! あの少年の左手に刻まれたルーンは、
伝説の使い魔『ガンダールヴ』に刻まれていたものとまったく同じであります!」
「で、君の結論は?」
「あの少年は、『ガンダールヴ』です! これが大事じゃなくて、なんなんですか!
オールド・オスマン!」

興奮するコルベールに対し、オスマンはどこまでも冷静だった。
オスマンはコルベールの持ってきた資料に目を通す。

「ふむ……。確かに、ルーンが同じじゃ。ルーンが同じということは、
ただの平民だったその少年は『ガンダールヴ』になった、ということになるんじゃろうな」

本当に『ガンダールヴ』が召喚されたなら、これは国を――
いや、ハルケギニア全体を揺るがしかねない大事件である。

「……じゃが、それだけでそう決めつけるのは早計かもしれん」

伝説の使い魔『ガンダールヴ』を呼び出したのは、オスマンもよく知る稀代の『劣等生』ルイズだと言う。
それを考慮すると「なにかの間違いなのではないか?」という疑惑がどうしても拭えない。

「念のため、それとなく行動を監視しておくことにする。
じゃが今の時点では他にするべきことはないのう」
「……そうですね。すみません、私も少し騒ぎすぎました」

今はまだ、事を荒立てるべきではない。
奇しくも当の本人と同じ結論に達した二人だった。

達哉は午後の授業にも同席し、最後の授業が終わった後はルイズに断ってから、
学院を探索がてらある場所に向かうことにした。
ここが学校なら、必ずあるはずだと信じて。

「……あった」

その場所は思いのほかすぐに見つかった。
というより達哉が今いる、本塔と呼ばれるこの建物の大部分がそれだったのだ。

「これが……図書館……?」

達哉の目的は図書館で、『向こう側』へ帰るヒントがないか調べることだった。
学院の教師達に聞いた方が早いかもしれないが、
『平民』の自分が聞いて満足な答えが返ってくるとは思えない。
この世界に来てからまだ一日しか経っていないが、
貴族の平民に対するものの考え方は嫌というほど理解できたからだ。
なのでそちらはルイズに頼むとして、自分は本を漁ることにしたのだが……

いくらなんでも、大きすぎないか……?

まさかこれほどとは思っていなかった達哉はその威容に圧倒される。
入り口から見える図書館内部はかなり広い空間だった。
その全体像は、ここからではとても把握できない。

「……探し出すのは骨だな」

とは言え諦めるわけにはいかない。今この瞬間にも、ニャルラトホテプはこの世界に目をつけるかもしれないのだ。
それに蔵書量が多いということは、それだけ目的の情報が埋もれてる可能性が高まるとも考えられる。
すぐに取り掛かろうと、達哉は入り口を踏み越え、中に入った。

「ちょっと」

しかしすぐに、入り口脇にいた司書に呼び止められる。

「ここは平民は立ち入り禁止よ」
「……そうなのか?」
「当たり前でしょ。中には秘薬のレシピやらなんやら、門外不出の資料でいっぱいなんだから」
「…………」

もちろん達哉はそんなことは知らない。
自分と入れ替わるようにして中に入っていく青い髪の少女とすれ違いながら、
達哉はおそらく自室にいるであろう、ご主人様の元へと歩き去っていった。

果たしてルイズは自室にいた。
しかし――

「図書館に入りたい」
「無理よ。平民は入れないわ」
「どうにかならないのか?」
「諦めなさい」
「なら本を借りてきてくれ」
「嫌よ。面倒だわ」

ルイズは達哉の要求を一蹴した。
ベッドの上で足を組んでくつろいでる様から、別に忙しくて手を貸せないと言っているわけではないはずだ。
なので達哉も当然引き下がらない。特に今回は最大の目的のためなのだ。

「ルイズ、たしかに言ったよな。俺が『向こう側』に帰れるように協力すると」
「あんたまだそんな妄想……ええ、言ったわよ」

達哉に睨まれてルイズは渋々認める。

「『向こう側』に帰るための方法がないか図書館の本で調べたい。だから協力しろ」

「してくれ」ではなく「しろ」。そこに達哉の意志の強さが見て取れた。
それでもルイズはぷい、と顔を背ける。見る者が見ればそれは可愛らしい仕草なのだが、
生憎彼女の使い魔に対してはまったく効果がない。
達哉は「ルイズ」と少し口調を強めて言った。

「……どうせそんな資料ないわよ」
「探してみなければわからないだろ」

うー、とルイズが唸る。
なぜそんなに嫌がってるんだ?
達哉は疑問に思ったがあえて触れない。ルイズが何を言おうが彼の意思は変わらないからだ。

「……わかったわよ。ついて来なさい、タッちゃん」

ルイズはゆらりと立ち上がると、そのまま部屋を出て行った。
あだ名で呼ぶのはせめてもの嫌味なのだろうが、一体何がそんなに気に入らないんだ?
多少気になりつつも、達哉はすぐに後を追った。

「そちらの平民は――」
「私の使い魔よ」

入り口はそれだけでフリーパスだった。
門外不出の資料がどうとか言ってたが、元々ここのセキュリティはさほど厳重ではないらしい。

しかし中から見るとやはり大きな図書館だった。
本がぎっしりと詰められた本棚が上に向かって延々伸びている。高さは何十メートルあるのだろうか。
そんな図書館の中を何人ものメイジが『フライ』で飛び交う様は圧巻だった。
これだけの図書館、元いた世界にもないかもしれない。

「で、どんな本が欲しいの?」

ルイズの言葉にはっと我に返った達哉は、しばし黙考する。
適当に漁ってみようという考えだったので具体的なジャンルを決めていなかったのだ。

何が必要か? そうだな、まずは……

「……地図はないか? できるだけ広い範囲が載ったやつだ」
「そんなもの何に使うの?」
「俺はこの世界の地理を知らない。ここがハルケギニアとやらの、どの辺りに位置するのかもだ。
まずはそれを知りたい」
「あっそ」

最早つっこみすらない。ルイズは戯言と信じてる達哉の言葉を聞き終えると、
本棚のひとつを目指してさっさと歩き始めた。達哉もついて行く。
これから達哉は、なぜルイズが図書館へ行くことを渋ったのか、その理由を知ることとなる。


「……こっちじゃないわね。さ、次はあっちへ行くわよ」
「……ああ」

ルイズに言われて、達哉は階段を下りる。

これだけ高い本棚があって、なぜ上が見通せるのか。
それを考えるべきだった。

地上は良かった。床を自由に移動できるからだ。
問題は二階から先だった。

上の方の本棚を物色するため、二人は本棚脇に備えつけられた、傾斜のきつい階段を上った。
そうして二階に上がると、待っているのは本棚から突き出した、人間二人がやっとすれ違える狭い足場。
『フライ』で降り立つのに邪魔だからと、手すりすらない。
そこで背表紙のタイトルをざっと眺め、目当ての本がないと知ると上の階に移動する。
ついには頂上まで上り詰めたが地図は見つからず、今はまた階段を下りている。

「…………」

達哉は下を見下ろした。そこは絶景だ。なにせ地面までの間に遮蔽物が一切ない。
落ちれば一巻の終わりだろう。
ルイズ曰く、景観を重視しているとかで、離れた本棚と本棚を繋ぐ『橋』すらない。
だからひとつの本棚を上まで登りきって、その後別の本棚に行こうと思ったら
また急な階段を長々と下りて、地上まで戻らなければならない。

おそろしく移動が不便な図書館だが、メイジにとってはそれで問題ないのだ。
彼らには『フライ』がある。そしてこの図書館は学院にあり、ほとんどメイジ専用なのだ。
移動の整備がなされていないのも、ある意味彼らの優越感の表れなのかもしれない。

だが、それに付き合わされる『ゼロ』と『平民』はたまったものではない。

「……ダメね、次は向こうよ」
「…………」

そうしてまたひとつの本棚を制覇する。
本は一応ジャンルごとに分けられてるらしいが、
そのジャンルも大雑把で明確な区分けがされているわけではないと言う。
ひとつのジャンルだけで複数の本棚を占有しているものまであるらしい。

つまり、この図書館で目当ての本を探し出すのは非常に難しい。
これではルイズが図書館行きを渋るのも当然だった。


二人とも次第に無言になっていく。
何十メートル分の階段を上り下りするのはそれなりに体力を消耗するからだ。
ルイズなどは足元が微妙にふらついており、時折階段に躓いて転びそうになった。
そのたびに達哉は手を貸したのだが、ルイズはそれを鬱陶しげに跳ね除け、先へ進んで行く。
達哉もそれを咎めたりしない。
こんな状況を作り出したのは達哉なのだ。そして、今なおルイズに図書館めぐりをさせているのも。

ヒュンッ

達哉達の頭上を、数人のメイジが『フライ』で飛び去っていく。
彼らは階段を移動する二人を見て何事か囁きあい、クスクスと笑っていた。
それを見て達哉は鼻を鳴らし、そして視線を前に戻す。
するとそこには、達哉をじっと睨みつけるルイズの姿があった。

「悪かったわね、空飛べなくて」
「……そんなこと、言ってないだろ」
「目が言ってるわよ!」

ルイズの形のいい眉がつり上がる。
ルイズはルイズなりに尽くしてくれている。それがわかっているから達哉には何の不満もなかったのだが、
達哉の仏頂面を見ていたルイズはそう受け取らなかった。

「ていうか別について来なくてもいいのよ。あんた、下で待ってなさい」
「ルイ……」
「命令よ、とっとと下へ降りなさい!」

取りつくしまもないとはこのことだった。
達哉は大人しくルイズの言うことに従った。

まだ上り始めたばかりだったので、達哉はすぐに地上に着いた。
見上げると、肩を怒らせたルイズがドシドシと階段を上っている姿が目に映る。
その様を見て、達哉は心の中でルイズに謝罪した。


何よあの使い魔! これ見よがしに『フライ』使ってるメイジなんて眺めて!
文句があるなら言えばいいでしょ!!

ルイズはぶつぶつと、達哉に対する罵詈雑言を並べ始めた。

「大体使い魔のくせに主人を呼び捨てにするし! 平民のメイドと仲良くなってるし!
変な髪形だし性格暗いし妄想癖あるしあだ名が合ってないしあと変な髪形だし!!
なにより、全然役に立たないくせに口ばっかり偉そうにして!!」

そうして愚痴をこぼしながらも、目当ての本を探す意思はかけらも失われていない。
ただ地図を渡すだけならもっと簡素なものが他にいくらでもあった。
それを渡して済ますことも出来た。
しかし「協力する」と約束した以上、半端な対応を見せることは彼女自身のプライドが許さなかった。

色々不満はあるが使い魔は一応、使い魔としての体裁を見せている。
ならば主人である自分は、主人としての義務を果たさなければならないのだ。
ルイズは疲労を怒りで吹き飛ばし、ひたすら本を漁っていった。
そして――

「あった!」

それを見つけた時、彼女の顔に一瞬だけ喜びの笑みが浮かぶ。
しかしすぐに「なんで使い魔のためにここまで苦労しなくちゃいけないのよ!」と怒りの形相に戻る。
ルイズはそれを持ってさっさと戻ろうと、本を掴む……が、本はビクともしない。

「……何よコレ?」

本棚にはギチギチに本が詰まっていた。そのせいで本が抜けにくくなっているのだ。

「本の分際で私に逆らう気!?」

ルイズの怒りが爆発した。
両手を本にかけ、さらに片足で他の本を踏みつけると力任せに引っ張った。
とても淑女の行動とは思えなかったが、それを咎める者はこの場にはいない。
んぎぎ、とルイズは歯を食いしばって本と格闘する。

「この……早く抜けなさいよ!!」

願いが通じたのか、次の瞬間本はあっさりと抵抗をやめ、本棚から外に躍り出た。
ただ、それがあまりにも唐突のことだったので、ルイズは勢いあまって後ろに転がりこむ。

そして……背に感じるはずの足場の感触がないことに気がついた。


何を騒いでるんだ?

上からルイズの怒声が聞こえ、何事かと上を見上げた達哉はそこで奇妙なものを目撃する。
宙に漂う桃色の塊。
よく見るとそれはゆらめく髪の毛であり、マントを着た人間であり、
その顔は先ほど別れた彼の主人そのままだった。
つまり――

「きゃあぁぁあああ!?」

ルイズは本棚から転落していた。

「ルイズ!?」

達哉は驚愕した。
ルイズのいた足場からここまでの距離は10メートル以上ある。
このまま地面に叩きつけられたらただでは済まない。

故に、達哉の行動は素早かった。

――『来い』!

ルイズは焦った。
すぐに魔法を使おうと懐にしまってあるはずの杖をまさぐっているのに、上手く取り出せないのだ。
しかし取り出したところで、どうにもならないことをルイズは頭の隅で察している。
自分は『フライ』が使えない。『レビテーション』も使えない。
このタイミングで都合よく使えるなどと、楽観視はできなかった。
だから偶然目撃していた誰かが魔法を使ってくれない限り、自分は地面に衝突してしまう。
そして、そうなる可能性はかなり高い。
今自分がいる本棚は奥まった場所にあり、人通りもほとんどないのだから。

「…………!」

恐怖のあまりルイズは目をつぶる。
そして心の中でとある人物を罵倒した。

あんたのせいよバカ使い魔!
あんたが私をこき使うから!
あんたが私を妄想に付き合わせるから!
聞いてるの!?
なんとかしなさいよ――タツヤ!!

ボフッ

軽い衝撃。地面に激突したにしてはあまりにも軽い。
予想外の出来事に、ルイズの思考はさらに混乱する。

何?
何が起こったの!?

ルイズは自分の身に起こったことを確認するため、ゆっくりと目を開け――

ガス!

――ることなく、意識を失った。


「ッ……!」

達哉は自分の詰めの甘さを呪った。
とっさに落ちるルイズを『受け止めた』まではよかったが、
直後に、ルイズと共に落下していた本が、ルイズの頭部に命中してしまったのだ。
達哉はすぐにルイズを『下に降ろした』。

「ルイズ……!」

ルイズは気絶していた。
頭に小さなコブができていたが、命に別状はないだろう。
しかし念のため、医務室に連れて行くべきだ。
達哉は図書館の出口を目指して駆け出した。

「……ん」

今度こそ、ルイズの目が開く。

「あれ……私……」
「気がついたのか!?」

なぜか、使い魔が心配そうな顔をして私を覗き込んでいる。
何をそんなに慌ててるのよ、変なの。
……って、あれ?

「私、たしか足場から……」
「済まなかった。俺がついていれば、こんなことには……」
「べ、別にあんたのせいじゃないわよ。私の不注意じゃない。それより私、落ちたのよね?」

妙に優しい使い魔の態度にドギマギしながら、ルイズは疑問符を浮かべた。
別段、体に痛みはない。少し頭がズキズキするけど。
あの高さから落ちてこの程度で済むとは思えないのに……

「ああ……」
「なんで無事なの?」

なぜか辛そうな顔をする使い魔。

「その……俺が受け止めたんだ。お前が落ちて来たのを見て……」

……?
わけわかんない。

「だったらそんな顔をすることないでしょ。おかげで私、助かったみたいだし……」

まあ、使い魔にみっともない所見られちゃったのはちょっと、その……アレだけど。
私の言葉を聞いて、使い魔はなぜか驚いたような顔になった。

「見てないのか……?」

見る? 何を?

「なんのことよ?」
「……なんでもない」
「なんでもないってことはないでしょ?」
「いや、大したことじゃない。……それより、どこか痛むところはないか?」
「え? ええ、どこもなんとも……!」

そこでようやく、ルイズは自分の体が地についていないことに気づいた。
彼女の体は二本の腕によって抱えられており、その腕は彼女の使い魔のもので……

つまりルイズは、助けられてから今までずっと達哉に『お姫様だっこ』されていたのだった。

「おい、あれルイズじゃないのか?」
「本当だ、何やってんだあいつ?」

しかも場所は図書館じゃない。図書館を出た先の、廊下の一角だった。
人目の多さは、図書館の比じゃない。

「そうか、だが念のため医務室で看てもらった方がいい。場所はさっき聞いた。もうすぐだ」
「あ……」

クスクスと笑いながら自分達を見つめる生徒達。

「何だ? 自分の使い魔に甘えてんのか?」
「男ができないから使い魔に手を出したんだろ」
「使い魔くらいしか相手してくれないからって、普通そこまで思い切れないよなあ」
「さすがゼロのルイズ」

「あ……ああ……」

ルイズは口をパクパクさせながら達哉を見て、周囲を見て、
そしてもう一度達哉を見た後、わなわなと小さく震え始めた。

「お……お……お……」
「お?」

やっぱりどこか痛むのか?
達哉がそう聞こうとした矢先に、ルイズの絶叫が学院を揺るがした。

「降ろしなさいよ、バカァッ!!」

キ――――――――ン

耳元で怒鳴られ、硬直した達哉の腕を振り解いて着地したルイズは、
そのまま達哉の脛をゲシゲシと蹴り始めた。

「誰が! いつ! どこで! ご主人様に触っていいなんて許可を出したのよッ!!」

衆人環視の目の前で、ルイズによる使い魔の虐待ショーが繰り広げられる。
痛みをこらえながら達哉は、ルイズが元気なことに安心するとともに、
そう感じる自分の心にわずかな戸惑いを感じていた。

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