あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

豆粒ほどの小さな使い魔-16




ルイズは、幾つかの魔法を使えるようになった。
けれど火や風の魔法は、やはり使うことができなくて、ルイズのことをゼロと呼ぶ人間はまだ多い。多分、あの人たちにとっては、ルイズがどう変わろうとゼロのままなんだろう。
あまりいい気持ちはしないけど、本人に気にしてないからと言われたら、私には何も言えない。
シルフィードは、タバサに許してもらえたから、と私を相手に色々な話をするようになった。
韻竜と言うらしい、とても珍しい竜なので、他の人間にはしゃべれることを知られてはいけないと。だから私もルイズには言えないでいる。
キュルケは、ルイズをよくからかうけれど、魔法が使えるようになったことは、とても喜んでくれた。ただ、囃し立てすぎて、ルイズが拗ねてしまったけれど。
私は、ちょっと苦手だ。あまり聞かれても、話せないことの方が多いから。私個人のことならともかく、コロボックルに関ることは、言いふらして欲しくない。


最近になって、行動範囲を少しずつ学院の外まで伸ばしている。
ルイズの部屋の窓の桟を少し削って、小さな穴を開けて出入り口を作ってもらった。茶色に塗った布を貼ってあるので、見た目ではわからないし、風も入らない。
この細工は、実はシエスタがやってくれた。もちろん、ルイズに許してもらった上で。
日中は殆どルイズと一緒にいるから、探索をするのは夜だ。
木の根を飛び越え茂みを走り抜けると、昨夜残した目印の蜘蛛の糸が、月の光を弾くのが見えた。
夜の動物は、視界は鈍くても、耳と鼻が鋭い。だから一瞬も気が抜けない。
誰にも見られる心配がいらないんだと気がついてから、夜は服も簡単にした。集めてきた野草の煮汁で染めた布を、胴体と、二の腕と脛に巻きつけてる。動きやすいけど、冬は寒いだろう。
今悩んでるのは靴だ。隊の靴は上質のモグラの革を重ねたものだけど、こうして毎日のように走り回っているのだから。
一人になってよく分かる。見えないところでも、皆に支えられてきたんだと。
びりっと、うなじの辺りが緊張した。考えるよりも速く落ち葉の中に潜り込んで息を止めた。
右手は剣の柄に、左手を毒針に伸ばす。
……いる。
やり過ごせるだろうか。
相手がばんと地面を蹴った瞬間、私もまた空に向かって跳ねた。
木を蹴って方向転換、黒い獣がさっきまで隠れていた茂みを抉った。悔しそうな唸り。猫よりもずっと大きい。金色の目が光を――


* *



夜中、ハヤテが探索に行くのは心配だけど、たった一人でも自分はマメイヌ隊なんだからと言われると、引き止めるのも難しくて。
気をつけて、怪我をしないようにと祈ることしかできないのがもどかしかった。
心配していても眠くなるのは、自分でも呆れちゃうけど、魔法の練習やらコルベール先生と話したりキュルケに振り回されたりで疲れてるんだからしょうがない。
そして、夜気を切り裂いて走っていく夢を見た。
夢と言うには、自分の息遣いや鼓動、草や地面の匂いまでがやけに鮮明で、
視点の低さから、ようやく、これが夢じゃなくて、ハヤテの感覚と繋がってるんだと思い当たった。
寝ていると、頭の働きも鈍るらしい。起きてたらすぐに気がついただろうに。
以前、走ってるハヤテの視界を感じようとしたときには、あまりの速さに目が眩んでしまったけど、私が寝てるときなら、平気みたい。
きっと、私の体からの五感が途絶えてるから、ハヤテだけに集中できるんだろう。
どこをどう走ってるのかなんて、分からない。
時々、木の幹に剣で傷を刻んだりして、きっと目印なんだろう。
最後に、するすると木に登って、一本の枝に、複雑によじれをつけた細い糸を結び付けてた。風に漂うように揺れると、月の光を弾くの。
トリスティンの騎士隊に、これほど巧みに動ける騎士なんていないんじゃないかと思う。
安心したら、何だか暗くなって、
ハヤテの笛の音に起こされた。
人が散々心配したのに、すっきりした顔してる。
誤魔化しながら聞いてみたら、やっぱり夢で見たのは、本当にあったことらしい。

ハヤテが無茶をしてないことが分かったのと、それから毎晩じゃなくて時々だけど、夢でハヤテと繋がれるようになったから、心配しすぎないようにしようと思った。
それに、ハヤテと一緒に走ってるみたいで、わくわくするし。

ただ、今日はいつもと様子が違った。
じぐざくに、目まぐるしく景色が変わる。ハヤテらしくない乱暴な走り方だ。
一体何がと思ったとき、すぐ側を大きな何かが掠めた。弾き飛ばされたみたいに転がって、素早く立ち上がってまた走り出した。
ちらりと見えたのは、とてつもなく大きな口と光る目。
自分なんて一飲みにされそうで。もし私なら凍りついて動けなくなるだろうに、ハヤテは全然止まらない。それどころか、右に左に、相手を翻弄してる。
ふっと、足元が消失した。違う、飛び降りたんだ。と思った瞬間、ハヤテが剣を引き抜いて、今踏み切ったばかりの足場に突き刺した。がくんと全身が引っ張られるその上を、獣が飛び越えて行った。
ばきがさとそれほど遠くない所で音がしたから、さして高くない崖なんだろうけど、でも一度落ちてしまえば、こちらにすぐ戻ってくることはできないだろう。
ハヤテは、しばらく剣にぶら下がったまま、暗い下方を見ていたけど、ようやく安心したのか、崖の上に戻った。
勘弁して欲しい、こんなに怖い思いをさせられるとは思わなかった。
頼むから、今夜はもう部屋に帰ってきて欲しい。
帰ってきたハヤテに怒ってやろうと思ったんだけど、気が抜けたせいか、そのまますとんと眠ってしまった。



「るいず、ドウカシタ?」
「どうかしたって……ハヤテこそ、昨夜は何かあったんじゃないの?」
どうして平然としてるのよ。
「ン、追イカケッコ、シタヨ。アレハ、ヤマネコカナ」
そんなことよりも、こっちの方が気になるんだと、悲しそうに靴に手を突っ込んでる。
怒る気も失せたわ。
「ああいうのが、マメイヌ隊の日常なわけ?」
「ソンナコトナイヨ。タダ、アアイウコトモ、タマニアル」
そこまで来て、あれ? とハヤテが首を傾げた。
「モシカシテ、昨日モ、見タ?」
「見たわよ。繋がった途端、キシャーッて追いかけられて、めちゃくちゃ驚いたんだから」
寝てる間は、意識して繋げたり切ったりできるわけじゃないから、ハヤテのせいでもないんだけど。
「本当に、心配したのよ?」
ハヤテに掌に乗ってもらう。ここにいるんだって、安心できるから。
「アリガト、ソレニ、ゴメン。本当ハ、モット早ク振リ切レタンダケド……」
そう言って差し出したのは、さっきから弄ってた靴。
あ、靴底から、ハヤテの指が、ぴょこんって飛び出してる。
「穴ガ開イチャッテ、上手ク走レナカッタノ」
あれでまだ本気の走りじゃなかったのか。
呆れるしかない。それなら確かに、ヤマネコも怖くないかも。
「怖イノハ、最初ノ襲撃ヲカワシソコネルコト。ソレサエ凌ゲバ、大抵ハ振リ切レル」
「でもその靴じゃ難しいのよね」
だからあんな離れ業が必要になったわけだし。
「自分で直せそう?」
必要なのは、薄いなめし皮と、馬の尻尾の毛が何本か。
ただ、ハヤテは裁縫が苦手なので、失敗してもいいように、少し多めに欲しいと、すまなそうに言った。
大喰らいの使い魔に比べたら、ハヤテが必要とするものなんて、本当に僅かなものなのに。
なめし皮は、皮手袋用の豚皮でいいのかしら。あれなら薄いのもあるから。
「タバサに頼んで、今度トリスタニアに買いに行きましょうか」
風竜に乗せてもらえると楽だしあの高さから見下ろす景色も最高だから。
お願いすると、意外に簡単に乗せて貰えるんだけど、いつか本当にちゃんとお返しをしたいな。


シエスタは残念ながら来れなかったけど、代わりにキュルケが混じった。いなくていいのにとつい口の中で毒づいたら、ハヤテに指笛で叱られた。
そうね、タバサの友達なんだし、そういうこと言っちゃだめか。
タバサが魔法で風を遮ってくれるので、私たちは安心して空の行程を楽しめる。
ハヤテは小さな帳面を持ってきていた。ちょっとでいいから、人間の靴屋を見学したいから、その間私たちには時間を潰していて欲しいと。
なるほど、隠れていればばれないだろうし、全く同じ作り方ではないだろうけど、確かに参考になるかもしれない。
自分の腕に自信がないのなら尚更。
「時間はいいけど、合流はどうするの? 私たちが靴屋に迎えに行きましょうか?」
「目ヲ繋ゲバ、追イカケラレナイカナ?」
「ううん、多分だめね。通りはどこも似たような造りだし、お店に入ってたら余計見つけられないと思うわ。二時間くらいしたら迎えにいくから、それまでしっかり見学してなさい」
指を立ててハヤテを諭してたら、キュルケに笑われた。お姉さんぶってるって。
喧嘩にならなかったのは、空の上だったから。シルフィードが急降下して喧嘩どころじゃなかった。
二度とタバサの読書の邪魔はしちゃいけない。


結果として、ハヤテの靴は、本人も驚くほどいいものができた。
ここの人は、靴を手作業で作っているので、もの凄く参考になったって。
だったらハヤテの故郷ではどうだったのかと聞いたんだけど、要領を得なかった。キカイが自動で作るって言われても。
コロボックルは手作りなので、私たちに近いんだとか。
私から見てもよくできてると思う。二種類の皮を貼り合せてあって、水も漏らないそうだし。
慣れてないせいで手を少し怪我しちゃったみたいだけど、とにかく、ここしばらく靴作りに励んでいたハヤテは、嬉々として外に飛び出していった。
あの様子なら、本当に心配はいらないんだろう。
それにしても、上手く行かなくて癇癪を起こすハヤテとか、普段見られない彼女が見られたのはよかったと思う。

穴の開いた靴は、ハヤテの部屋に、大切に仕舞われている。




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