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ゼロのしもべ18



ルイズは泣いていた。
悲しくて泣いていたのではない。悔しくて泣いていた。
フーケを捕まえるときに役に立たず、基地攻撃も破壊の杖に頼ったぐらいである。
メイジだ、貴族だ、主だといいながら、自分は何もしていない。
おまけに使い魔は自分たちを脱出させて残るというのだ。
ここに来たのもわざわざ自分で言い出したことなのに……

すこし時間を遡って、ルイズたちがロプロスの背中に乗ってしばらくたった時点。
ようやく落ち着いたルイズが、まだ顔は青いものの威厳を正してバビル2世を詰問していた。
「で、その、……ビッグ・ファイアは別の世界から来たっていうの?」
その通りだと頷くバビル2世。あの魔法ではない謎の力。そしてビッグ・ファイアの命令で自由自在に動く怪物たち。たしかに
同じ世界の人間だといわれるよりも、別の世界の人間だと言われたほうが納得はできる。
眼下にはすでにトリステイン魔法学院が見えている。馬車で4時間近くかかった道のりが、ものの30分足らずだ。
ルイズはあまりの高さに目がくらみそうになる。あの広い魔法学院がようやくそれとなんとかわかる程度の大きさにしか見えない。
「じゃ、じゃあ、ビッグ・ファイアは以前いた世界のメイジなの?」
こんな使い魔を、それも3匹も自由自在に操っているのだ。(もっとも一体はゴーレムに見えないこともないが。)
世界には階級が存在し、魔法が存在しているのが当然という常識の元に生きているルイズたちにとっては当然の質問であった。
「いや、ぼくはメイジじゃない。そもそもぼくたちの世界には魔法使いはいないし、貴族のいる国のほうが少ないぐらいだ。」
目を丸くして驚く3人。
「じゃあ、全員、ダーリンみたいにこの…ちょうのうりょく?ってのが使えるのかしら?」
「ほとんどの人間が使えないよ。使える人間もいることはいるけど、普段は隠して生きている。」
腑に落ちない顔をする2人。彼女たちにとって力を行使できるものがそれを隠しているということは理解できないのだろう。
だが、バビル2世が簡単に世界情勢、歴史、文化等を説明すると、元々頭のよい3人は素直に理解した。
「つまり平民しかいなくて、かがくっていうのが発展していて…」


「じゃあビッグ・ファイアが超能力を使えるのはなぜ?」
素直に疑問を口にするルイズ。バビル2世は語りだした、自分の境遇を。
ある日両親と別れ、バビルの塔に連れて行かれたこと。バビル1世の境遇。ヨミとの出会いから戦い。101と呼ばれた日々……
そしてヨミとの最後の決戦となった北極での戦い、といった全てのことを。
「じゃ、じゃあ、わたしに召喚されたときに私たちをメイジだって知っていたのは!?」
気になっていた質問をぶつけてみる。そうだ、ビッグ・ファイアははじめからこの世界の住人であるかのような振る舞いであった。
自分をメイジと呼んだあれはなんだったのか?
「まさか……」
「そうだ。前に説明したろう。ぼくは心を読むことができる、と。」
ぞっと背中を氷の舌で舐められたような気分になった。
目の前にいるこの少年は、突然全く違う世界に連れてこられながら、はじめからその世界の住人であるように振舞ったというのだ。
それをただの人間が言えば笑い飛ばされるか気が狂ったと思われるあろう。だが、怪物を操り、恐ろしい力を使う人間が言えば、
誰が笑い飛ばすことなどできようか。
だが、恐れる以上にルイズはこの少年に奇妙な親近感を抱いていた。
聞けば元いた世界でも、少年は孤独であったという。
異常な力を突然与えられ、ただ一人強大な敵と戦い続ける。ようやくその敵を倒したと思ったら、こんどは全く見知らぬ世界に飛ば
された。少年には常に孤独という言葉が傍にあった。両親を捨て、友を捨て、ある意味で戦うということに逃避していた。
ルイズもベクトルは真逆ではあるが孤独であった。
皆が使えるはずの力、魔法を使うことができず、貴族の家に生まれた落ちこぼれとして生きてきた。家族に見捨てられ、友達と呼べる
ものはおらず、増大し続ける「自分はメイジなのだ、貴族なのだ」というプライドへある意味で逃避していた。
そうだ、逃避だ。自分が魔法を使えないと言う現実から目を背け、貴族の家に生まれたのだからいつか使えるようになるはず、という
自分を一切客観視していない妄想へと逃避していた。
だがそれはしかたのないことでもあった。メイジの家に生まれた以上使えて当然という妄執に取り付かれ孤独に陥るのは当然なのだ。
ただしルイズには理解者がいた。逃げ場があった。


はたしてこの少年には逃げ場があったのだろうか、とルイズは思う。
前の世界ではどうかわからない。だが、少なくともこちらの世界では逃げ場などなかっただろう。
主であるというだけで理不尽に虐待を加える自分、全く生活環境や習慣の違う世界。どう考えても逃げ場などない。
いつの間にかルイズはこう考え出していた。この少年の孤独を和らげたい。契約を結んだ以上それがせめてもの償いではないか、と。
「ダーリン……どう言っていいのかわからないけど、この世界にはアタシがいるわ。だから決して孤独じゃないわ。」
ぎゅっとバビル2世を抱きしめるキュルケ。普通に先を越されるルイズであった。
ルイズがドカッとバビル2世に蹴りを入れる。
「なにデレデレしてんのよ!そんなことより、はやくミス・ロングビル……いやフーケを学院にまで運ばないと…」
チラッとフーケのほうを見る。落ちないようにロデムが拘束具のようになって固定している。
「いや、まだやらないといけないことがあるんだ。」
バビル2世が指示をすると、ロプロスが大地に舞い降りる。そして全員に降りるように促す。
「これから、ヨミの基地を叩きに行く。」
かっと目を見開いて、先ほど死闘を演じた小屋の方向を向き言い放つ。
「ヨミって、さっきビッグ・ファイアの話に出ていた男!?」
「でも、そのヨミって男は、ダーリンが倒したって…」
そうだ、北極とやらで最後の決戦を行い、氷の海の底に沈めたと確かに聞いた。
「いや、ヨミは生きているようだ。そしてどうやったのか知らないが、この世界に来ている。」
確信を持って言い放つバビル2世。その瞳はハルケギニアのどこかにいるヨミを捕らえているのか、燃えるように赤く輝いている。
「……あ。」
タバサが何かに気づいて小さく声を上げる。
「……ジャキ。」
「そうだ、ジャキだ。ぼくは布で包まれているときにあの男の心を読んで、たとえ殺しても火をかけて完全に燃やしでもしない限り、
再生し復活する不死身の肉体の持ち主であるということを。だからこそ放っておけばあの男は蘇る。どうやら再生に要する時間は
3時間あまり。今からいけばちょうど復活したころに間に合うだろう。そして後を尾行けていけば、基地まで案内をしてくれるはずだ。」


ぽかーんと口を開けてバビル2世を見るルイズ。あの短い間にそこまで考えていたのか。それでタバサの要求を断ったのにも
合点が行った。いったいどれだけの修羅場をビッグ・ファイアは潜り抜けて来たのだろう。
それにしても、なぜタバサはジャキという男のことを知っていたのか?それだけが気になった。
「万一のことを考えて、連れて行くのはロデムだけにする。ロデムはなぜかヨミに抵抗があるらしく、そう簡単には操られないからな。」
つまりビッグ・ファイアはただ一人敵の基地に乗り込んでいくつもりなのだ。
いつも、そうしてきたように。
このままこの世界でもビッグ・ファイアは孤独なままなのだろうか。いけない、そんなことはさせない。させはしない。
気づくと、ルイズは叫んでいた。
「わ、私も行くわ!」
ロデムが、何事かと、ビクッと顔を上げた。

「もう一度言うわよ!私も行くわ!」
どうだ聞こえたかと言わんばかりに胸を張るルイズ。一瞬何が起こったか理解できていなかったバビル2世がようやく正気を取り戻す。
「ルイズ!アンタなにかんがえてるのよ!」
キュルケが肩をつかんで強制的に自分のほうを向かせて怒鳴りつける。
「さっき、ダーリンがヨミってのはとんでもなく危険な一味だって説明してたじゃないの!だいたい、ダーリンにも行って欲しくないのよ」
そしてしなを作ってバビル2世のほうを向き、
「ねえ、ダーリン。そんな危ないことは王宮の兵隊に任せればいいじゃないの。トリステインの魔法衛士隊は強力だって言うし。
ね?」
「いや、たぶん無理だろう。」
目を瞑り、首を横に振る。
「いかに強力でも、ヨミのことだ。そういった部隊がいることは事前に調査しておいて、対策を練っているに違いない。下手をすると
返り討ちにあって全滅するかもしれない。ここはまだ迎撃準備が完全に整わないうちに進入して、自爆させるしか方法はない。」
その目の真剣さから、おそらく真実を言っているのだろうと判断したキュルケが引き下がる。バビル2世はルイズのほうへ向き直り、
「だから連れて行く事はできない。ルイズたちは安全な場所に避難してくれ。」
「嫌よ!」
あっさり拒絶された。


「他の2人と違って私はトリステインの人間よ!おまけにメイジ!つまりこの国にはひとかたならぬ恩を代々受けている身!侵略
しようと企む連中をそのまま放置しておくなんて、私にはできないわ!」
あくまで敵を倒すことが目的で、別にビッグ・ファイアが心配でついて行くんじゃないと強調し、
「せめて一太刀あびせてやらないと気がすまないの!私は貴族よ。魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃないわ!」
ビシッと効果音も決まって杖をバビルに突きつける。よく考えたら先ほどの決意と矛盾している台詞を吐いているが気にしない。
「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」

「ついてきたいならきてもいいが……」
困ったように思案していたバビル2世がようやく口を開いた。
「ぼくは万一のことを考えて、ロデムと一緒に走って行くって言ったと思うが、どうやってついてくる気なんだい?」
「………。」
「考えてなかったみたいだな。」
呆れ顔で言うバビル2世。たしかについていく手段がなければどうしようもない。
しばらく唸り声を上げていたルイズが、はっと気づいて
「なら私がロデムに掴まっていけばいいんじゃないの!」
よろしくね、ロデムと黒豹を撫でる。どうしたものかとロデムはされるがままにしている。甘えているようにも見える。
「ビッグ・ファイアは私の使い魔!使い魔のしもべってことは、私のしもべも同然よね!何か文句がある!?」
ふふん、と腕を組んで鼻息も荒く宣言するルイズ。勝った!どうだ、一部の隙もない理論だ!
「……わ、わかった。連れて行くよ。でも、こっちの指示に従ってもらうこと、わかったね?」
噛んで含めるように言う。不安だがしょうがない。紋章の強制力というのはたいしたものだ。
「というわけでルイズはぼくと行くことになったから二人は…」
「アタシも行くわ!」
「……。」
どーんと背後に東宝のオープニングのような波を背負って宣言するキュルケ。横で頷くタバサ。
「げえっ!」
「あんた一人じゃ、ダーリンが危険じゃないの。ねえ、ゼロのルイズ」
「どうしてよ?」
「いざ、あなたが一人でいるところを見つかったら魔法の使えないあなたは捕まるに決まってるでしょ?人質にされたら、ダーリンが
身動き取れなくなっちゃうじゃないの。しょうでしょう?」


「ふ、ふん。そうなったときはわたしの魔法でなんとかしてみせるわ!」
「だから使えないんでしょ!」
二人はこの期に及んで火花を散らし始めた。しかたがないのでものすごく軽くエネルギー衝撃波を食らわせる。
しばらくして立ち直った2人がいっせいにタバサに視線を向けた。
「で、どうしてタバサは行くつもりなの?」
「そういえば、あのジャキって変な男を知っていたわね。」
「……仇。」
「仇?」
「そう、仇。」
あいかわらずボーっとしているタバサ。だが目にはいつも以上に真剣な光が宿っている。
「何か良くわからないけど、因縁があるのね?まあよいわ。どうせあなたの風竜を借りなきゃついていけないんだし。」
まさか風竜まで警戒されてないわよね?とバビル2世に聞くキュルケ。それでも、万一を考えて基地の死角で待機させておくべき
だろう。
「シンメトリカル・ドッキング…」
風竜、と連呼していてなぜかタバサがそう呟いた。だが誰も「それは風龍だ!」とは突っ込めなかった。知らなかったからだ。
緑の彼の笑顔が大空で決めていた。

「な、なによ……あれ……」
バビル2世は先行してジャキを追いかけた。やがて指令があったのだろう、ルイズを乗せてロデムが駆け出した。
そのあまりの速さに今晩の下着は自分で洗う覚悟を決めたルイズであったが、シルフィードが途中でばてたらしく、ロデムが全員を
乗せてくれることになり止まったので、その間に心配をなくしておいた。
わずか1時間足らずで目的地に着くと、目に飛び込んできたのは要塞と化した岩山であった。洞窟が規則的に開き、その中から
武器らしいものが顔を覗かせている。まるであれは破壊のつ…
「ちょっとみんなはここで待っていてくれ。」
バビル2世が移動したため、考えを中断する。見ると岩に取り付けられた妙なものに近づいていく。
それにどこで捕まえたのか、ネズミを解放した。ネズミは岩山のほうへ素直に進んでいく。
そしてある地点まで行くと一瞬で焼け焦げて消えた。
バッと光があちこちから集まってきて、投げつけたあたりを照らしだす。
そして妙な格好をした軍人らしい集団がやってきて、周囲を警戒し始めた。


「どうやらまたネズミかウサギが通ったらしいな。見ろ、足跡がついている。」
たしかに、ネズミの足跡が地面についていた。それを確認して、顎の辺りを弄った。そして
「こちら警備チームK。どうやら、また動物が罠にかかっただけのようだ。」と独り言を話し出す。まるで誰かと会話をしているようだ。
「こちらで死体を見つけました。」黒焦げになった死体を指差して、中の一人が言う。
「ああ、死体も見つかった。間違いないだろう。」
さあ帰るぞ、と促す先ほどの独り言男。だが、その足が止まる。
「げ、げぇっ!」
バビル2世が目の前に立っていた。
すぐさま妙なものを向ける軍人たち。だが、バビル2世の目が妖しく輝くと、痴呆のようになってそれを下に降ろしてしまった。
そしてようやくこっちに来てもいいと呼ぶバビル2世の指示に従い、ルイズたちは走った。
「な、なによ、これ?どうなってるの?なにをしたの?」
「催眠術だ。」さらっと答えるバビル2世。
「こいつらにぼくの念波で催眠術をかけて操っているんだ。さあ、異常はないと伝えろ。」
先ほどの独り言軍人が、指示に素直に従う。
「こちら、チームKリーダー…」
『どうした、なにか叫んでいたが?』
「足元をネズミが走ったので、おもわずびっくりしたんだ。これから戻る。」
よく聞くと、男の耳辺りから声が出ている。おそらく声を伝え会話するマジックアイテムのようなものなのだろう。
まるでゾンビのようになった軍人たちに囲まれて、バビルたちは歩き出す。
だが、入り口に来たところで別の門番らしい男たちに見つかった。
「おい、どうしたんだ。なにか様子が変だぞ。それに後ろの連中は誰だ?」
だが、あっという間にバビル2世の手にかかって、同じように操られて素直に門を開けてしまう。
「こうやってまさか正面から入ってくるとは想定していなかったみたいだな。」
それはまさに別世界であった。
内部は外とは違い、涼しく快適である。いったいどんな魔法を使っているのだ。
廊下は昼のように明るく、ランプなど一切ない。代わりにけいこうとうなるものが照らしている。
床も壁もピカピカで、王宮が安っぽく見えるようなつくりだ。
キュルケもタバサも感心したように辺りを見回している。


「じゃあ、ここでいったん別れよう。ロデムは3人を護衛してくれ。ルイズたちには頼みがあるんだが、おそらくこの基地には自爆装置が
あるはずなんだ。そこをロデムと協力して見つけて、爆弾を仕掛けて欲しいんだ。爆弾はぼくが見つけてくる。」
それと、と言って、ロデムの身体の中から破壊の杖をとって渡してくるビッグ・ファイア。
「これの使い方はロデムが知っている。爆弾をセットしたら動力炉を見つけて、それにこれを使ってくれ。」
あとは地上に脱出してくれ、と言い残して駆け出すビッグ・ファイア。速い。目にも止まらぬとはこのことだ。メイジの魔法など何十発
はなっても、一発も当たらないだろう。そもそも当たる前に気絶させられる。
「と、とりあえずどうしよう……」
残された3人は途方にくれていた。
まあ、はじめからバビル2世は連れてくる気などなかったからしかたがないのだが、完全放置プレイだ。
なぜかキュルケは嬉しそうだった。新しい悦びでも見つけたのだろうか。タバサが微妙に間を空けている。
「とりあえず、ロデムについていくしかないんじゃないかしら?」
着いて来いと言いたげにこっちを向いているロデム。タバサはすたすた後を歩き出した。
「仕方がないわね。行きましょ。」
完全にお客さん状態の3人であった。ちなみにキュルケは「そうね、そっち系はまだ未経験ね」とかぶつぶつ言っていた。怖い。



ルイズは泣いていた。
悲しくて泣いていたのではない。悔しくて泣いていた。
結局最後まで自分たちはお荷物だった。
そりゃあ、たしかに破壊の杖は使った。どうりょくろ、なるものは一撃で吹っ飛んだ。
あとはこんぴゅーたーなるものを皆で破壊した。熱に弱いらしくキュルケが大活躍だったし、自分も失敗はしたが、偶然爆発のおかげで
いろんなものが吹っ飛んだ。結果的にいいので、よしとしておこう。
だがその後がよくなかった。「脱出しろ」と言われていたのに、「ここまで来てボスの顔も見ずに帰るなんてできないわ!」と、後を
追いかけて降りてきたせいで捕まってしまったのだ。キュルケはおそらくそれ見たことかなどと思っているだろう。
あとは…説明不要だ。今の自分は脱出用なる小さな部屋に押し込められた。
身体が重くなったような妙な感覚。やがて入り口が開くと、そこは岩山近くの高台だった。
あの一瞬でこんなところへ移動していたのだ。
結局、自分は何もできなかった。孤独を癒すことも、戦うことも、魔法も。
ボタンが小部屋にはついていたが、それは一つしかない。脱出用なので、戻るものは不必要なのだろう。
外に出て、辺りを見回す。横には階段らしきものが見える穴が開いている。
「……わたし、戻る。」
同じようにうなだれているキュルケと、なんとなく気分が悪そうなタバサがこちらへ振り返る。
「ここに階段があるもの。ここからなら降りられる、そうでしょ?」
じっと穴を見る2人。中には螺旋階段が広がっている。中心部は空洞になっているらしい。
「そうね。ここからなら降りられるわ。」
ただ、問題があった。それは…
「でも歩いて降りたんじゃ、間に合わない…っ!」
今ほど魔法が使えないことを恨めしく思ったことはない。フライも、レビテーションも使えないことが、ここにきて足枷になるとは。
だが、次の瞬間肩をたたかれた。
「大丈夫。」
タバサだ。
「私たちが抱えていれば、使えなくても充分でしょ?」
そしてキュルケだ。ふふんと誇らしげに笑っている。
そう、役者は揃ったのだ。


投げつけられたのは手裏剣であった。
クナイである。
それを間一髪避けるバビル2世。だが構わず四方八方にジャキはクナイを投げ飛ばす。
「なんのつもりだ!?」
見るとクナイには何かが取り付けられている。それは…
「そうだ、ダイナマイトだ。」
「なに!?」
火はついていないが、何十本ものダイナマイトが部屋にばら撒かれたのだ。
「天井を見ろ。先ほどからの爆発で、すでに崩壊寸前だ。もし念動力でも使えばおぬしも生き埋めだ。」
天井から砂となってコンクリートが落ちてくる。地響きが唸りをあげて、建物全体が鳴動している。
「地下600mで生き埋めになれば、いかにおぬしといえども助かるまい。」
「くっ!」
たしかにその通りだ。1週間、2週間は持つだろうが、これを掘り返そうにもここまで掘るには2、3週間では間に合わない。
「そして、ダイナマイトで火炎放射は封じた。あとはエネルギー衝撃波だが……」
刀を振るうジャキ。近くのパイプが切れて、中から液体が噴出してくる。
「げぇっ!この臭いは!」
鼻奥を刺激臭が貫いた。
「そうだ、ガソリンだ。ガソリンは知っての通り気化しやすい。下手にエネルギー衝撃波を使えば、火花で引火し黒こげだ。おまけに
ダイナマイトに火がつき、おぬしはわしもろとも地下600mに生き埋めだ。」
フフフ、と笑うジャキ。
「これでおぬしの武器はなくなった。あの飛び道具も金属製である以上、刀で受ければ火花が出るため使えまい。さあ、大人しく
わしの刀の餌食となれ!」
ガソリンが床一面に広がっている。その中をまっすぐに進むジャキ。ジャキ得意の相打ち戦法だ。
追い詰められるバビル2世。もはやジャギの間合いに入るというところで、
「ふっふっふっ」
バビル2世は不適に笑った。
「ジャキ、素手のぼくになら勝てると思ったか?」
「なに!?」
「ぼくにはまだ、超人的な身体能力が残っていることを忘れたか!」
勢いをつけて、ジャキに突っ込むバビル2世。
拳がジャキの身体を貫いた!


だが、
「うわぁ!」
ジャキの体が風船のように破裂した。中から糸のように細く長い布が何百何千と噴出した。
布はザーッと広がっていく。
「こ、これは!?」
布から逃げようとするバビル2世。だが一瞬早く布が足に絡まり、転げる。
「うっ、うわあ!」
布が全身に絡まる。布砦同様かと思うとさにあらじ、布は手の指をすり抜け、喉に食い込み、全身を締め付ける。
首は搾られ、関節は逆方向に捻られ、手足は曲がらぬ方向へ曲げられていく。
その様子を、刀を抜いた場所から一歩も動かず見ているジャキ。
「忍法、奥義蜘蛛乃巣城!」

びちゃびちゃとガソリンを踏みながら歩くジャキ。
「どうだ、精神集中をすることもできないだろう。」
糸目が片方見開かれる。懐に手を入れる。
「このまま、刀で刺し殺しても構わないのだが。それだけでは何が起こるかわからぬからな。」
懐から取り出したのはライターであった。
「わしもろとも、地下600mで焼け焦げて埋まってもらおう。火葬と埋葬の手間が省けてちょうどよいではないか。」
そして、ライターを開こうとした瞬間――
「そこまでよ!」
勢いよく非常階段のドアを開けて、ルイズたちが入ってきた。そして何かを投げつけた。
「くらいやがれってんだベラボウメ!」
「ぐわあ!」
デルフリンガーだ。デルフリンガーはジャキの手を切り裂き、バビル2世に当たる。ジャキの指からライターがこぼれ、飛んでいって
しまう。
「オデレータ!なんだこりゃ!?ぐるぐるまきじゃねーか、相棒。」
ぶちぶちぶち、と布の切れる音。そして布の中から腕が飛び出し、落下寸前のデルフリンガーを掴む。
「あいつらがオレをすっかり忘れてやがるからよ!もってけ、おまえらよりも戦闘経験多い分役に立つぜって言ってやったんだ。
フーケのときから馬車に乗っかってたのに、ようやく出番って酷くないか?」
饒舌にしゃべるデルフリンガー。ジャキはきょろきょろとライターを探している。
「あった!」


隅に転がっているのを見つけたジャキ。その背後から、
「動かないで!」
と制止する声。
「動けば、攻撃するわ!」
キュルケだ。だが、
「フッフフ、できるものならやってみろ。」
「よすんだ、キュルケ!」
「油…」
タバサが床を占める液体を示す。
「そうだ。その上、火を直接当てなくても引火する特殊な油だ。火を使えば、5人まとめてバーベキューだ。」
勝ち誇ったように嗤うジャキ。
「さあ、バビル2世。ヨミ様の約束を破るが、一度は見逃したものが帰ってきた以上覚悟してもらおう。地下で5人仲良く眠ろうでは
ないか!」
ジャキの指が動く。

そのとき―――
「ぐわあ!?」
ジャキの手が爆発した。
「あ、当たった…」
ルイズが杖をジャキに向けている。魔法を使ったが、失敗したのだ。
バビル2世が、その瞬間には跳んでいた。ジャキの腹にデルフリンガーの柄を叩き込む。ジャキの身体が崩れ落ちた。
「な、何故だ!?何故、爆発したのに火がつかない!?」
息も絶え絶えに叫ぶジャキ。ライターを握っていた右手は吹っ飛んでいる。
「ちょっと!アンタ、聞いてなかったの!?油があるのよ!」
「で、でも引火しなかったじゃない!」
「油に当たらなかったからよ!ラッキーなだけよ!今頃本当ならみんな黒こげよ!」
「結果的によかったんだからいいじゃない!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ3人。さっきまでの雰囲気はどこへ行ったのか。まあ、怒って当然だが。


「なぜだ、なぜ引火しない…」
「おそらく。」
ルイズのほうをちらっと見るバビル2世。
「純粋な爆発だからだろう。火薬を触媒にするとかいうものではなく、純粋な爆発なんだろう。だから引火しなかったとしか考えられ
ない。あるいは超高温の爆発でプラズマ状態になり、周囲の原子が分解されてガソリンじゃなくなったのかもしれないな。」
なぜ爆発しても引火しなかったのか。ひょっとするとこれが虚無の魔法なのだろうか?
理屈はわからないが、ガソリンの上で爆発させても引火しない魔法、というのがわかっただけでも充分だろう。
もっとも、本当に引火しないのかはわからない。ただの偶然かもしれない。
「仇。」
タバサがジャキの傍による。
「フフフ、ようやく思い出したぞ。たしかガリアという国にいた娘だな。あのとき他の連中が身体を張って守っていた娘か。あの連中の
仇討ちということか。」
ガリア北花壇警護騎士団。タバサが所属する公式には存在しない騎士団。かつて、王はメイジ殺しとしてガリアを荒らしまわっていた
ジャキの討伐に、殺されることを目的として送り込んだことがある。そのとき、偶然にもオルレアン公を慕っていたものたちが察知し、
タバサをかばい全滅したことがあった。そのことを仇と呼んでいたのだ。
最優先すべき仇ではない。しかし、両親につき従う家臣を皆殺しにしたことは、タバサにとっては紛れもなく許しがたいことであった。
それ以来、ジャキのことを調べ、焼き尽くせばよいということを知っていたのである。
「もうこうなっては焼き殺されるだけだろうな。敵はバビル2世が取ったというわけだ。」
だが…とジャキが目を見開いた。
「おぬしらはわしの道連れだ!」
いつの間にか、落としたライターを無事な手で拾っていたのだ。
「しまった!」
「ヨミ様、あとは頼みます!」
バビル2世は一切ジャキのほうを見ず、タバサを脇に抱えて非常階段入り口へ走った。
途中、ん?とジャキの声で振り向いた2人を捕まえて、キュルケを脇に、ルイズを肩にかついで駆け抜けた。
ライターに火がつく。
ごうっと渦を描いて炎が広がり、あっという間にダイナマイトに引火して爆発する。
バビル2世は螺旋階段をジグザグと斜めに跳んで昇っていく。
爆発で階段が捻じ曲がり、業火が下から吹き上がってくる。


地下基地を焼きつくしながら、炎はバビル2世を追いかける。
そして魔手でバビル2世の足を掴もうとした瞬間―――
「ロデム!!」
バビル2世が叫んだ。
ロデムがロープのようになり垂れ下がってきていたのだ。
それを掴むと、ゴムのように一気にバビル2世の身体を引き上げた。
出口から飛び出て、遠く駆け逃げる。炎が出口から吹き上がった。
「きゅる?」
様子がただならぬためか、場所をここまで移動していたシルフィードに飛び乗る。シルフィードは待ってましたとばかりに飛び上がった。
そして、大地が沈むような轟音と共に、光の玉が岩山を砕いて、きのこ雲がわきあがった。

「対トリステイン攻略用基地『SBC』の爆発を確認!」
「基地で働いていた人間は7割が脱出。残りは不明!」
「不死身のジャキ、行方不明!基地司令官ゲイフは残る人間を救助に向かったまま連絡不能!」
「おそらく2人とも生きてはおるまい…」
ヨミが苦みばしった表情で立ち上がる。
「バビル2世の生存不明!」
「基地の爆発の影響で近隣に騒ぎが起こっています!」
「ヨミ様、爆発の影響で電磁波が発生し、国境付近基地のシールドをしていないコンピューターが壊れました!」
「ヨミ様!」
「恐れていた事態が現実となりましたな。」モニターの中の一人。白髪の老人が言う。
「あっという間に我らの基地に攻め入り、完全に破壊してしまうとは…想像以上です。」
ヨミの傍に、先ほど到着したばかりの白仮面が資料を携えて立っていた。
「その通りだ。これで諸君もバビル2世がいかに危険な存在であるか、理解していただけたと思う。」
ヨミにとっては経験済みだが、ここにいる大部分の人間はバビル2世を目の当たりにするのははじめてである。おそらくかなりのショック
だったはずだ。だが、逆にこれにより組織の引き締めをヨミははかった。
「今までのように油断をしていてはやられる、ということだ。以降、我々はバビル2世の抹殺を作戦の機軸にする!よいか、バビル2世
さえ倒せば、この世界は我々のものだ!」
ウオー!と歓声が上がる。ヨミの演説により、恐怖心はあっという間に吹き飛んだ。
「呂尚!」
先ほどの老人を呼ぶ。
「呂尚はA作戦に参加し、バビル2世に備えよ!A作戦はバビル2世のおびき出しと抹殺を加え、人員を拡大する!全員、心せよ!」


ロプロスの上に、バビルたちは乗っていた。
軽い火傷こそ負ったものの、全員無事である。即座に飛んできたロプロスにシルフィードが捉まり、そのまま急上昇して事なきを
得たのだった。さすが主人公補正である。
誰一人として口を聞くものはいない。あまりにも激動の一日であった。
空には月が二つ。すでに時間は真夜中である。
「ルイズ。キュルケ。タバサ。」
とようやく初めてバビル2世が口を開けた。
「わかったと思うが、ぼくはああいう戦いを続けてきたし、これからも行っていかなければならない。それがヨミの野望を砕くための
唯一の方法だからだ。」
ルイズは顔を下に向け座ったまま何も言わない。ショックがよほど大きかったのだろう。
「だから、ぼくはこのままヨミを追って行こうと思う。使い魔としては失格だが、新しい使い魔を呼び出して、それと契約をして欲しい。」
頭を下げるバビル2世。はたしてそんなことができるのか知らない。だが、もはやそれしか方法はないだろう。これ以上ルイズたちを
戦いに巻き込むわけにはいかないのだから。
ルイズが、立ち上がった。
「だが、断る。」
スレを間違えたような返答であった。
「一度呼び出した使い魔は変更できないのよ!それに、使い魔の世話は主人の責任!きちんと呼び出した以上、きっちりとるわ!
だいたい、世界征服されそうなのにほっとけるわけないでしょう!」
そして大きく息を吸い込んで、叫んだ。
「ご主人様の命令につべこべ言わない!罰として朝食抜き!」



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