あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

薔薇乙女も使い魔  第三部 第3話  『アルビオンへ』



 街道を、金の冠を御者台の隣につけた四頭のユニコーンに引かれた馬車が、静々と歩ん
でいた。
 馬車の所々には金と銀とプラチナでできたレリーフ。そのうちの一つ、聖獣ユニコーン
と水晶の杖が組み合わさった紋章は、この馬車が王女の馬車である事を示していた。
 王女の馬車の後ろには、さらに立派で風格のある馬車が続いていた。先帝無き今、トリ
ステインの政治を一手に握る、マザリーニ枢機卿の馬車だ。
 二台の馬車の四方を、三つある王室直属の近衛隊が固めている。魔法騎士隊の一つたる
グリフォン隊もいた。

 街道に並んだ平民達が、口々に歓呼の声を投げかける。
「トリステイン万歳!アンリエッタ姫殿下万歳!」
 そしてたまに「マザリーニ枢機卿万歳」という歓声も。
 馬車のカーテンがそっと開き、うら若くて美しい王女が顔を見せると、街道の観衆達の
歓声が一段と高くなる。王女は優雅に微笑みを観衆に投げかけた。だが、その微笑みは、
どこか憂鬱な影を含んでいた。


 しばらくして窓から、丸い帽子を被った痩せぎすの40男、マザリーニが顔を出した。
骨張った指で、警護する騎士隊の中から腹心たる貴族を呼ぶ。
 呼ばれたのは、羽帽子に長い口ひげが凛々しい、精悍な顔立ちの若い貴族。グリフォン
をかたどった刺繍が施された黒マントを身につけるグリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。

「お呼びでございますか?猊下」
「ワルド君、殿下のご機嫌がうるわしゅうない。何か気晴らしになる物を見つけてきてく
れないかね?」
「かしこまりました。もしお許し頂けるのであれば…」
 ワルドは、枢機卿と王女に何事かをささやく。
 枢機卿は真っ白な口ひげを捻りながら頷いた。王女アンリエッタも、頬を緩ませ瞳を輝
かせた。
 ワルドは副隊長に護衛任務の引き継ぎを命じ、自らはグリフォン隊から3騎を率いて、
王女一行の行き先へ飛び去っていった。




 ところ変わって魔法学院、ミスタ・ギトーの風系統の授業中。
 漆黒のマントをまとった『疾風』の二つ名を持つ教師ギトーから、『風が最強なのを証
明しよう』と挑発されたキュルケが炎の玉を教師に放ち、それを烈風でかき消されたつい
でに風でキュルケが吹っ飛ばされていた。
 そんな中、今日もルイズとジュンは並んで座って授業を受けていた。真紅と翠星石も二
人を挟んで、机の上に腰掛けている。さすがに授業中は、ジュンの傍らのデルフリンガー
も黙っていた。
 ギトーが更になにか呪文を唱えようとした時、教室の扉がガラッと開き、緊張した顔の
ミスタ・コルベールが現れた。金髪のカツラを被り、レースや刺繍が踊るローブを纏って
いるなど、妙にめかし込んでいた。
 授業の中止を告げた拍子にカツラが落ちて笑われたり、タバサに「滑りやすい」とから
かわれて怒ったりしつつも、コルベールは授業中止の理由を告げた。

「えーおほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、良き日であります。恐れ
多くも、先の陛下の忘れ形見、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰
りに、この魔法学院にご行幸なされます」
 教室がざわめきに包まれる。
「そのために本日の授業は中止。生徒諸君は正装し、門に整列する事。それと…」
 コルベールは教室の外にいる人物に声をかけた。
「これに先立ち、グリフォン隊からこちらのワルド子爵が…」
 と言ったところで、コルベールが教室の中を見渡した。
 ルイズの横には、不自然に開いた空席がある。
 教室の後ろの扉は、いつのまにやら開け放たれていた。



 慌てて教室を飛び出して、階段を駆け下りるジュン。両手に真紅と翠星石、背中にデル
フリンガーを背負っていた。
「うひゃー、まさか王女様が直接くるなんてなー!」
「まったく予想外だわ」
「面倒な事になる前に、さっさと逃げるですー!」
「まぁ後の事は嬢ちゃんに任せて、ほとぼり覚めるまでトンズラだな」
 ジュンは彼等を抱えたまま、塔から飛び出した。

 急いで広場に出て寮塔に向かう足が、急に地面から離れた。真紅も翠星石も一緒に、宙
にふわふわ浮いてしまっていた。
「えっ!?うわ、な!なんだぁ!??」
「これは、『レビテーション』だな。捕まっちまったか」
 冷静かつのんきに解説するデルフリンガー。
「ジュン!あっちですぅ!あれですよ!!」
 翠星石が広場を指さす先には、三人の騎士がジュン達に向けてレイピア風の杖を構えな
がら駆けてくる姿があった。

「真紅!翠星石!」
「分かったわ!」
「騎士さん達、ちょっとゴメンですー!」
 真紅はステッキを、翠星石は如雨露を構える。同時に真紅の掌から薔薇がわき出した。
薔薇の帯が疾風のごとく騎士達へ向かっていく。
 だが、騎士の一人が杖を薔薇の帯に向けて振り、火炎を投げつけた。襲いかかろうとす
る薔薇の花びらは、ほとんど焼かれていく。
「こっちはどうですかー!?」
 翠星石が思いっきり如雨露から騎士達の周囲に水をまいた。とたんに、わさわさと草や
ら雑草やらが一面生い茂り、騎士達の体すら覆ってしまう。騎士達は視界を塞がれ足を取
られてしまう。
 しかし、もう一人の騎士が杖から『エア・カッター』を放った。周囲の草を一気になぎ
払い、視界と足場を確保する。
 『レビテーション』を、残る一人が保ち続け、ジュン達の動きを封じ続けている。

「魔力が弱まったわ、飛ぶわよ!」
「オッケーでぇす!」
 真紅と翠星石が、『レビテーション』から一気に抜けだし、左右へ飛翔した。気付いた
騎士達も、急いで次のルーンを唱える。
  『ウィンド・ブレイク!』
 二人の騎士は突風を、飛来する人形達に打ち出した!
「遅いわ!」「残念ですねー♪」
 真紅と翠星石は軽々と突風をかわし、火と風を放った騎士達へ突っ込んでいく。騎士達
は人形を迎撃しようと杖をフェンシングのごとく構えた。
 だが、人形達は騎士達の間合いに入る直前で、いきなり方向を変えた。

 カンッ!
 『レビテーション』をかけ続けていた騎士の杖が、真紅と翠星石に叩き落とされた。
 どさっと地面に落ちたジュンは、慌てて腰のナイフに手をかけた。同時に左手の包帯か
ら光が淡く漏れ出す。
「よし!」
「分かってるわ!」
「行くですよ!」
 ナイフを構えるジュンのかけ声に、真紅と翠星石もステッキと如雨露を構え直した。騎
士達を包囲するように位置を取る。
 騎士達3人も、改めて杖を彼等に向ける。
 そして!
 ジュンは逃げてった。
 真紅と翠星石も飛んでった。
 騎士達は一瞬呆然とした後、慌てて三人を追いかけていった。

「なんで俺を使わねえの?」
 背負われたままのデルフリンガーが残念そうだ。
「だってデル公抜いたら、シャレにならないじゃん。向こうも殺しに来たワケじゃないん
だし」
「いや、そりゃそうだけどよぉ…」
 そんなおしゃべりをしつつも、ジュンは寮塔に向かって駆けていた。

 ジュンが寮塔入り口を視界に入れた時、ちょうど真紅と翠星石も降りてきた所だった。
三人が寮塔入り口に集まろうとした。
 その瞬間、寮塔入り口に突然生まれた竜巻が、竜のごとく天へ駆け上る!
「うわあっ!」「たっ竜巻!?」「まだいたですかーっ!」「うひょ、こりゃでけえ」
 集まろうとしていた三人は、竜巻に巻き上げられ、宙へ投げ出された。

 きゃあ~~・・・

 人形の真紅と翠星石は軽いので、彼女らは悲鳴だけ残して、遙か高くまで一気に巻き上
げられてしまった。

 ガシッ!
 ジュンは巻き上げられながらも、寮塔の石の隙間にナイフを突き立て、逆さまで壁に張
り付いたまま下を見た。
 地上には、羽帽子に黒マントを身につけた、長い口ひげの若者が杖を構えていた。
   あいつか!?
 竜巻が弱まった瞬間、一気に壁を駆け下りた。地面に着地するや、勢いそのままでナイ
フを構えて男に突っ込んでいく!
 男も杖でジュンを突く!

 カキィンッ!

 ナイフが手から払われ、宙を飛んでいた。
「くっ!?」「俺を抜けっ!!」
 うめいたジュンが、慌てて背中のデルフリンガーに手をかけようとした。
   ガシッ
 男の手が、ジュンの右手を掴んでいた。
「なかなかやるな!少年」
「いたっ、いてて!」
 腕をひねり上げられて、苦痛に顔を歪ませる。

 まってー、みんなちょっと待ってー!

 遠くから、ルイズが駆け寄ってきた。後ろにはさっきの三人の騎士がついてきている。
真紅と翠星石も上空から降りてきた。男もジュンから手を放す。
「ルイズさん、待つって何をですか!?」
「ごめんなさい、ルイズ。私達は捕まるわけにはいかないわよ」
「だ、大丈夫!ぜーぜー…、この方達は、あなた達を、捕まえに来た訳じゃないのよ!」
 ジュンと人形達は眉をひそめて、一番立派そうな姿の羽帽子の男を見上げた。
「この方はワルド子爵。王室直属の近衛隊、魔法騎士隊の一つたるグリフォン隊隊長で、
私の婚約者なの」
「え…婚約者!?」
 目を丸くして仰天するジュンへ、ワルドはきさくに語りかけた。
「君が噂の、ルイズの平民使い魔だね。僕の婚約者がお世話になっているよ」
 慌てて3人とも一歩下がり、恭しく礼をした。
「ルイズ様の婚約者とは、知らぬ事とはいえ失礼致しました。僕はルイズ様の使い魔を勤
めさせて頂いております、桜田ジュンと申します」
「同じく、ローゼンメイデン第五ドール、真紅と申します」
「同じく、第三ドールの翠星石ですぅ、初めましてですぅ」 
 頭を下げる三人を見て、ワルドも満足げに頷いた。
「お初にお目にかかる。僕はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。ルイズの婚約
者だ。あんまり、かしこまらないで欲しい。僕の事はワルドとでも呼んでくれればいいか
ら」
「承知致しました、ミスタ・ワルド。して本日の来訪は、いかなるご用件でしょうか?」

 ジュンの口調は礼儀正しくても、視線は鋭くワルドに向けられていた。真紅と翠星石も
ステッキと如雨露を手放してはいない。

「ふふふ、そう怖がらなくて良いよ。君たちを捕らえるとか分解するとかいう気はないの
だから。
 実は本日、殿下が君たちの拝謁を許して下さるのだよ。だが話では君たちは、王室や魔
法研究所に誤解を抱いているらしいからね。だから先に僕たちが来て、君たちに害が及ぶ
事はない、と伝えに来たんだ」
「そういう事なの。だから、みんな安心して一緒に来て欲しいのよ」
 ジュン達は不安げに視線を交錯させたが、ルイズの言葉に従ってそれぞれの武器を収め
た。



 学院長室では、ソファーに座るアンリエッタ姫の前に、オスマン氏はじめ全教員が跪い
ていた。その最前列にはルイズとジュンがいた。
 アンリエッタが伸ばした左手に、真紅と翠星石が口づけていた。

「なんと愛らしいお人形でしょう。ルイズ、大儀でした」
「光栄至極にございます、殿下」
 普段はおてんばなルイズも、さすがに姫の前では礼節を尽くしている。
 真紅と翠星石はアンリエッタに頭を下げたまま、ジュンの横まで下がり、跪く。
 そしてアンリエッタは、涼やかな笑顔をジュンに向けた。
「そなたが、ルイズの使い魔ですね?」
「はい。桜田ジュンと申します」
 ジュンは平静を装いつつも、手に汗を握っていた。
「噂では平民ながら、数々の東方の技を身につけ、メイジに並ぶ力を示す、とのことです
ね」
「恐れながら、噂には尾ひれがつくモノです。僕はただの平民に過ぎません」

 内心、あんまり突っ込まないでくれー、と必死で祈ってた。

「これはこれは、大きな力を持ちながら、謙虚な少年ではありませんか。そちらの美しく
も高い魔力を秘めた人形達といい、ルイズはよい使い魔をお持ちですね」
「はい、身に余る程に素晴らしい使い魔達にございます」
「使い魔はメイジの力を示すもの。あなたはいずれ、ハルケギニアに名を知らしめる立派
なメイジになるに違いありませんわ。私も、幼き日を共に過ごしたそなたを誇らしく思い
ます」
「もったいないお言葉にございます。その時が訪れた暁には、殿下のしもべとして忠義を
尽くす所存にございます」
「期待していますわ。ところでその時には、そなたの使い魔達も共に忠義を尽くしてくれ
るのでしょうか?」

 アンリエッタの言葉に、使い魔達には一瞬緊張が走った。

 ジュンがゆっくりと、必死に言葉を選びながら、言葉を紡ぐ。
「我らはルイズ様の使い魔にございます。ゆえに、ルイズ様が忠誠を尽くす方には、我ら
も忠誠を尽くします」
「よろしいですわ。その時には期待しています」
 ルイズと使い魔達は、どっと汗をかきながら安堵した。

 その後マザリーニに時間を告げられたアンリエッタは、少し名残惜しそうにしながら、
来た時と同じように静々と学院を去っていった。



「ぐはぁ~、つっかれたぁ」
 ジュンはルイズのベッドに大の字で寝っ転がっていた。

「やれやれ、俺もその美人の姫様とやらを見たかったな。そんなにべっぴんさんだったの
かい?」
「そりゃーすごい美人だったよ。つーか、ホントにお姫様って感じだったよ。清楚で、可
憐で、青い瞳なんかそりゃあもう!」
「あーくそ、そんなんなら俺も持ってってくれりゃいいじゃねぇか」
「しゃーねーだろ、王族の前に出るのに武器なんか持てるかよ」
「しょうがないですよデル公さん。でも、本当に綺麗ですよねぇ。しかもルイズさんと幼
なじみなんですってねぇ」
「ええ、あの美しさは素直に認めるしかないわね」
「ところでルイズさん、さっきからどうしたですか?」
「本当に変ねぇ、ぼんやりしたままだわ」

 ルイズの部屋に戻ると、皆アンリエッタの美しさを口々に讃えていた。
 だがルイズは椅子から立ったり座ったりと落ち着きが無く、視線も宙に彷徨わせている
ばかりだ。
 ジュンが頬をつついても無反応。
 翠星石が頭の上に乗っても気付かない。
 真紅が薔薇の花びらを顔にペタペタ貼り付けてもぼんやりしたまま。

 三人は、大きく息を吸って、ルイズの耳元に口を寄せて…
「「「「わっ!」」」」
「うわっひゃあっ!?・・・な!なによ、ビックリさせないでよ」
 ようやくルイズは我に返った。

「ルイズ、どうしたの?ぼーっとするなんて珍しいわね。せっかく幼なじみの姫様に会え
たのに」
「あ、うん、真紅…あのね、ワルド様の事を考えてたから」
「ああ、あなたの婚約者の事ね」
「こいつはおでれーた!お前さんみたいなおてんばにも婚約者がいたのか!」
「デル公!もう、茶々入れないでよね。
 でも、婚約したのは10年前だし、お父様も戯れにしただけだから、もう反故になった
と思ってたわ。・・・まさか、覚えててくれただなんて」
 腕を組んでツンとすましてはいても、顔はちょっと赤かった。そんなルイズを見たジュ
ンは、ちょっと複雑な表情だ。

「そっかぁ~、ルイズさんには婚約者がいたんだぁ…そうだよなぁ、貴族って普通そんな
もんなんだよなぁ」
「あら、なあに?ジュン、もしかして、妬いてるんだあ♪」
 ルイズにツンツンつつかれて、ジュンも焦ってしまう。
「そ、そんなワケないだろ!?からかうなよ」
「そーだぜ!なにせジュンにはあのシエス」
「わーっわっわっわー!」
 ジュンは慌ててデルフリンガーを押さえつけようとした。でも、どこが口か分からない
ので、とりあえず剣を抱きしめていた。
 その様を女性陣はニヤニヤしながら眺めていた。

「な、なんだよ!ほら、遊んでないで、そろそろ帰るぞ!」
「あらあら、いいのですかぁ~?でも早く帰らないと、地球では巴さんも待ってるですも
んね~♪」
「す、翠星石!バカ言ってないで、ほら、急ぐぞ!」
「そうね、それじゃ私達はそろそろ帰らせてもらうわ。また明日」
 そういってジュン達は、輝く鏡面から地球へ帰って行った。
 ルイズの部屋にはルイズとデルフリンガー、そして二つの光玉、ホーリエとスィドリ-
ムが残った。


 その日の夜。
 ルイズの部屋をノックする者がいた。初めに長く二回、それから短く三回…。
 はっとしたルイズがドアを開けると、真っ黒な頭巾をすっぽりと被った少女がいた。




――そして次の日の朝、ルイズの部屋。
 カーテンが引かれて薄暗いルイズの部屋を、鏡台から生じる光の波が淡く照らす。
「ルイズさーん、こんちはー・・・って、誰もいないや」
「おいおい、俺はいるぜぇ」
 壁に立てかけられたデルフリンガーに出迎えられ、鏡から出て来たのはジュン達だ。
「デルフリンガー、ルイズはどこへ行ったの?」
「おう、実はお前等に急ぎの伝言があるんだ。」
「どうしたです。何かあったですか?」
「おう!俺もおでれーたよ、いいかよく聞け、実はな・・・」

 デルフリンガーから語られた事実と伝言の内容に、一同言葉を失った。


――学院長室
「うむ、そうじゃ。ミス・ヴァリエールは姫殿下の密命を受けて、今朝アルビオンに向け
て旅だったのじゃ」
「すまねぇな、なにせ急な事でよぉ」
「そ、そんな!ルイズさん、無茶だよ…」
「あーに考えてるですかぁ、あのちんちくりんはぁ!人工精霊だけ連れて行ってもだめで
すよぉ」
「困ったわ、どうやって追えばいいのかしら」

 鏡から出てきたばかりの三人は、ルイズが昨夜アンリエッタ姫から『以前、アルビオン
王家ウェールズ皇太子にしたためた手紙を回収して欲しい』という密命を受け、ワルド子
爵とギーシュを共にしてアルビオンに向かった事を告げられた。三人には『後から飛行機
で追いかけてきてね』というルイズの伝言がデルフリンガーに託されていた。
 しかも学院長から伝えられたアルビオンの状況――反乱軍レコン・キスタの『革命』に
より、王軍は敗北寸前――という事実が、更にジュン達の顔色を青く塗りつぶしていく。
ルイズ達は、既に敵軍が完全包囲しているであろう王軍のウェールズ皇太子と接触しなけ
ればならないのだから。
 第一、追えと言われても行く方法が無い。

 行く方法がない、と困っているのを見て、ジュンの背中のデルフリンガーが不思議そう
に聞いてきた。
「なぁジュンよ、あのぜろせんってヤツで飛べばすぐじゃねえのか?道分かるヤツを後ろ
に乗せればいいだろ。ルイズもそう言ってたぜ」
「それダメ!飛行機は滑走路の無い場所じゃ離着陸できないんだ…そうか!ルイズさんは
それを知らなかったんだ」
「なんと!そうか、そうじゃった、じゃから『かっそうろ』を作ったンじゃった。うむ、
ではどうするか」
 頭を捻ったオスマンが、声を上げた。
「よし、ここはひとつ風竜の出番じゃ」


――タバサの部屋
 既にもぬけの殻だった。ついでにキュルケの部屋も。
「ううむ、留守です。困ったですねぇ」
「うむ、困ったのぉ…良い手はないじゃろか」
「コルベール先生に燃料が出来てるか聞いてみよう。もしかしたら、ラ・ロシェール近く
に、ゼロ戦で着陸できる場所があるかも知れない。無ければ、ちょっと離れるけどタルブ
の草原へでも」
 ジュンの提案に一同頷いた。


――コルベールの研究室
 研究室の前には、エンジンが取り外されたゼロ戦があった。
 機首のエンジンは地面に降ろされ、見事バラバラにされていた。
「そ、その・・・どうしてもこの、『えんじん』というのが知りたくて・・・」
 ぼそぼそと言い訳するコルベールの前に、全員がっくりと膝をついた。
「だ、大丈夫ですぞ!ミスタ・グラモンに頼めば、竜騎士隊を貸してくれますぞ!」
「コルベールよ…ギーシュ君なら、ミス・ヴァリエール達と一緒に出て行ったんじゃ」
「・・・申し訳ない!」


――結局、再び全員学院長室へ戻ってきた。
 オスマン氏はずっとウンウンうなっている。
「うーむ、これは密命じゃからのぉ。学院から竜騎士隊とかに依頼する事は出来ん。同じ
ように姫殿下とも連絡はとれん。フーケの件もあるし…」
「フーケ?」
 ジュン達がキョトンとなる。
「おお、そういえば話しておらんかったか。実はの・・・」

 オスマンから語られる『フーケ脱獄。恐らくはレコン・キスタ派貴族の手引き』という
事実に、ジュン達はもはや青いというより白い顔だ。
「と、ゆーことは・・・王宮や軍に『飛竜貸して』なんて頼んだら」
「おそらく、そのまま暗殺されるじゃろ。少なくとも合流はできんな」
 オスマンの冷酷な予想に、ジュン達は力が抜けていく。
「ど…どうするですかぁ?」
「こうなったら、最後の手段ね!」
 真紅の言葉にぎょっとして、ジュンが耳打ちする。
(おい真紅、まさかnのフィールド通って行く気か?)
(まさか、それこそ無理よ。だって、どこを通ればラ・ロシェールに着くか知らないもの。
それに、nのフィールドから出てくる所を、誰かに見られでもしたらやっかいよ)
「ふむ、ミス・シンクには何か妙案がおありか?」
 身を乗り出したオスマン氏に、真紅が胸を張って答えた。
「馬よ!」



――そんなこんなで、もうお昼の正門前。
 馬に跨ったシエスタは前に真紅と翠星石、後ろにジュンを乗せていた。
「それじゃシエスタさん、急いでお願いします!」
「分かったわ、ジュンさん!みんな、急ぐわよ!」
「頼むですぅ!」
「おでれーた…やれやれ、馬でグリフォンを追いかけようだなんて、俺はおでれーたよ」
「手段は選んでいられないわ。私達だけじゃ道が分からないし」
 四人を乗せた馬は、ラ・ロシェールに向けて駆けだした。


 さほど乗馬が上手くない田舎出のメイドと、乗馬の経験すらほとんど無い少年と、人形
達を乗せた馬は、それでも必死に南へ駆けていた。魔法学院からは馬で2日ほどの距離に
あるラ・ロシェールを目指し、休みもほとんど取らず、宿場町の安宿で泥のように眠り、
きしむ関節と悲鳴を上げる筋肉に鞭打って、どうにかこうにか次の日の夜にラ・ロシェー
ルへ到着した。

 そして丘の上に昇った彼等の目の前には、いや頭上に、『桟橋』があった。東京タワー
並の枯れた巨木に、巨大な木の実のごとき『船』がぶら下がっていた。
「な・・・なんでこんな山の中に港が、て思ったら、こういうことだったのか・・・」
「さすが魔法の世界ですねぇ・・・ビックリですぅ」
「なんでえ、お前等の世界じゃ船ってこういうのじゃねえのか?」
「地球の船は、みんな海に浮いてるわ…全く驚きだわ」
 使い魔達は天を突く巨木を見上げ、口をあんぐり開けっ放しだ。

 枯れた大樹の根元をくりぬいたホールから、シエスタが小走りで戻ってきた。
「ついてるわ!船はまだ出てないって。明日の朝にならないと船は出る事が出来ないんで
すって!」
 その報告に一同安堵のため息をついた。
「良かったわ。ならルイズ達は、どこかの宿に泊まっているわね」
「シエスタさん。この街に貴族向けの高級な宿屋って、幾つかありますか?」
「ああ、それなら『女神の杵』亭ね。ほら、あそこの・・・あれ?」
 ラ・ロシェールの街を指さしたシエスタは、怪訝な顔で目をこらしていた。
「どうしたですかシエスタさん・・・なんですか?あれは」
 街の灯りにぼんやりと浮かび上がるのは、巨大な人型だった。街の建物より背の高い人
型が、一際立派な建造物の前に立っていた。

 どぅん・・・
 地響きの様な轟音と共に、人型が建造物の入り口を吹き飛ばした。

「あれは、フーケですぅ!フーケのゴーレムですよぉ!」
「ということは…あれが『女神の杵』亭!?」
「ルイズ達が襲われているんだわ!」
「シエスタさんはここにいて下さい!僕らはルイズさんの所へ行ってきます!」
「はっはい!」
「おっとジュンよ、その必要は無いようだぜ。こっちに走ってくるのはルイズと、ああ、
ワルドって隊長さんじゃねえか?」
 デルフリンガーの言うとおり、月明かりに照らされた丘を駆け上ってくるのは、ルイズ
とワルドだった。赤と緑の人工精霊が人形達の下へ飛んでくる。

「おーい!ルイズさん、大丈夫だった~!?」
「みんな!まったくもう、一体どうしたのよ!?ずっと待ってたんだからね!」
「諸君!話は後だ、今は船へ!」
 そう叫ぶや、ワルドはホールへ駆け込んでいった。
「分かったですぅ!それじゃシエスタさん、ありがとでしたよ」
「は、はい!皆さんも、どうぞご無事で!」
 手を振るシエスタを残し、一同はワルドに続いてホールへ飛び込んでいった。

 ワルドは各枝につながる階段の中で、目当ての階段が示されたプレートを見つけると、
一気に上り始めた。ワルドとルイズに続いてジュンもデルフリンガーを握って駆け上る。
真紅と翠星石はトランクに乗ってジュンの後ろを飛んできていた。

  木の階段をきしませながら、途中の踊り場に差し掛かった時、きしむ音にもう一つの
足音が混じっていた。ジュンが振り向くと、黒い影がさっと翻り、人形達とジュンの頭上
を飛び越し、ルイズの背後に回った。長身で黒いマントを纏った、白い仮面の男だった。
「ルイズさん!?」
「きゃあっ!」
 一瞬で男はルイズを抱え上げる。
 ジュンは男を斬りつけようとした。だが、ルイズが邪魔で剣を振れない。
 男はそのまま地面に向けてジャンプした。

「翠星石!行くわよ!」「オゥですぅ!」
 真紅と翠星石がステッキと如雨露を構えてトランクから飛ぶ。
 燕のように宙を舞い、急降下で仮面の男に襲いかかる。
 だが、仮面の男は落下しながらルイズを離した。軽やかに身を翻し、ステッキと如雨露
をかわす。ルイズは地面に真っ逆さまで落下していく。
 間髪入れずにワルドは階段から飛び降り、急降下して落下中のルイズを抱き留め、空中
に浮かんだ。
 男はそのまま階段の手すりにつかまったが、更に真紅の薔薇が襲いかかる。『フライ』
で高速飛行しながらかわし、ジュンから少し離れた場所に降り立った。そして薔薇に向け
て杖を振る。
「『ウインド・ブレイク』!」
 突風に薔薇が吹き飛ばされてしまう。
「うぉあっ!」ジュンは間合いを一瞬で詰め、仮面の男に向け突きの連撃を放つ。
   カカカカキィンンッ!
 だが男は黒塗りの杖で華麗に突きをさばいていく。
 その男の口からは、一定のリズムでつぶやき声がもれていた。男の頭上の空気が、ひん
やりと冷え始める。
「ジュン!構えろ!!」
 デルフリンガーの叫びに、とっさにジュンは剣を正中に構えた。
「『ライトニング・クラウド』!」
 空気がパチンッっと弾け、男の周囲からジュンへ稲妻が伸びる。
 だが、電撃は全て刀身に吸い込まれていった。
 仮面の男も、ジュンも予想外の事に一瞬たじろいでしまう。


「スキ在りですぅっ!」バゴッ!
 仮面の男は、飛んできた翠星石の如雨露で思いっきり頭をどつかれた。
「終わりよっ!」どすっ
 さらに、真紅のステッキが男のみぞおちにめり込んだ。
「とどめだぜっ!」「応!」
 ジュンは、上段突きで一気に踏み込む。
   ぼごんっ!
 だがデルフリンガーが突き立つ前に、破裂音と共に仮面の男は消滅してしまった。

「あ、あれ?…デル公、どうなったの?幻影か?」
「いきなり、消えた、です。…もしかして、逃げられたですか?」
「遍在、だよ」
 口にしたのは、『フライ』で飛び上がってきたワルドだった。
「風のユビキタス(遍在)。風の吹く所、何処と無くさ迷い現れる。敵は極めて強力な風
系メイジのようだね。
 そして、君の剣は魔法を吸収できるとはな、驚いたよ」
「デルフリンガーってんだ、よろしくな!」
「ああ、よろしく。さて、おしゃべりはここまでだ。次の追っ手が来ると不味い」
 一同はさらに階段を駆け上る。

 階段を駆け上がった先の枝には、一艘の船が停泊していた。枝からタラップが甲板に下
ろされている。一行は甲板に駆け降りた。甲板で寝込んでいた船員達が、驚いて飛び起き
た。
「な、なんでぇ?おまえら!」
「船長はいるか?」
 ワルドが船員達と交渉する。
 その間にルイズ達は、この二日間の事を伝え合っていた。
 襲い来る傭兵達とフーケを、ギーシュ・キュルケ・タバサが食い止める間に、桟橋へ向
かった事も。
「おでれーたな、あの貴族の3人がフーケを足止めしてくれてたとはよぉ」
「みんな大丈夫ですかぁ?無事だと良いですけど…」
「だーいじょーぶよ!タバサのウィンドドラゴンもいるんだから、危なくなったらさっさ
と逃げるわよ」

 だがジュンは、浮かない顔で考え込んでいた。
「うん、キュルケさん達は大丈夫と思う…けど…」

 何かにひっかかっているジュンに、真紅が怪訝な顔をする。
「ジュン、どうしたの?何か気になる事があるの?」
「あ…うん、大したことじゃないんだ。
 うーん、何かヘンな感じがしたんで、なんだろうって思ってたんだけど、やっぱりよく
わかんないや」
 そこへ船長との交渉を終えたワルドが駆け寄ってきた。
「すぐに出航だ。ただ、今出航すると、途中で風石が足りなくなる。だから僕の魔法で補
う必要がある。その間は僕は戦う事が出来ない」

 ワルドはジュンの肩に、ぽんっと手を置いた。

「その間は、君達がこの船『マリー・ガラント』号を守って欲しい」
「え…僕たちが、ですか?」
「そうだ。学院で剣を交えた時といい、さっきの戦いといい、君と人形達なら十分に戦え
る。話に聞いたとおりだね。君達なら、トライアングルクラスのメイジも相手にならない
だろう」
 ワルドの言葉に、3人は誇らしげに胸を張った。
「分かりました。頑張ります」「承知致しましたわ」「任すですよー♪」

 ワルドは口笛を吹き、飛来したグリフォンを甲板に呼び寄せた。
 帆が張られ、もやいは放たれ、風に乗って船は出航した。
 二日間の馬での強行軍に、桟橋での戦闘。疲れ果てていたジュン達は即座に熟睡してし
まった。



「アルビオンが見えたぞー!!」
 鐘楼の上に立った見張りの船員が叫ぶ声で、ジュンは目が覚めた。
 早速、舷側から下を覗き込む。船の下には白い雲が広がっている。トランクからもそも
そと出てきた人形達も下を覗き込むが、見えるのは白い雲海だけ。どこにも陸地など見え
はしない。
 3人の隣に立ったルイズが「あっちよ」と空中を指さした。
 ルイズが指差す方向を振り仰いで、ジュン達は息をのんだ。
 巨大な…まさに巨大としか言いようのない光景が広がっていた。雲の切れ間から、黒々
と大陸が覗いていた。大陸は遥か視界の続く限り延びている。地表には山がそびえ、川が
流れていた。
「驚いた?」
 ルイズがジュン達に言ったが、3人とも声が出ない。
「すごいわ…」「…信じられんです」「うん。こんなの、見たことないよ…」
 ようやく声になったものの、口はあんぐりと開きっぱなしだ。

 使い魔達が『アルビオンは白の国と呼ばれてて…』と聞かされている時、鐘楼に登った
見張りの船員が大声を上げた。
「右舷前方の雲中より、船が接近してきます!」
 ルイズは言われた方を向く。なるほど、大きな黒い船が一艘近づいてくる。後甲板でワ
ルドと並んで操船の指揮を取っていた船長は、見張りが指した方角を見上げた。
 黒くタールが塗られた船体、片舷側に突き出た二十数個の大砲。その全てがこちらをピ
タリと狙っている。

 後甲板からは「返信無し」「旗を掲げて無い…!」「空賊!?」「逃げろ!」と言った叫
び声に近い報告と命令がが飛び交う。
 ぼごんっ!と鈍い音と共に、黒船が撃った大砲の弾が青空に消えていく。
 黒船の威嚇砲撃数発を見た船長は、助けを求めるように、隣に立っているワルドを見つ
める。
「魔法は、この船を浮かべるために打ち止めだよ。あの船に従うんだな」
 ワルドは落ち着き払って言った。

 ジュンはデルフリンガーを構えた。左手の包帯から光が漏れる。真紅と翠星石も手にス
テッキと如雨露を構えた。
「ちょ、ちょっとあなた達!まさか、戦艦相手にやり合う気!?」
 使い魔達の行動に、ルイズは驚きを通り越して呆れてしまう。

 その様子を見たワルドも駆けつけてきた。
「やめておけ。既にこの船は敵の大砲の射程範囲内だ。メイジだっているかもしれない。
確かに守ってくれとは頼んだが、勝てない戦いをする必要はない。20以上の大砲を同時
に撃たれたら、終わりだよ」
「はは!なるほどそいつぁごもっともな意見だぜ。けどな…」
 正中に構えられたデルフリンガーの刀身は、心なしか輝きを増していく。
「あんたと嬢ちゃんは敵だけじゃぁなく、味方の力量もしっかりとわきまえてた方がいい
ぜぇ?」

 ジュンの左薬指の指輪が、紅く輝き出す。そして、真紅と翠星石の体からも、紅と緑の
光があふれ出す。

「ミスタ・ワルド。船をお願いします。…それじゃ、頼むぜ!」
「ええっ!」「ぶっとばすですよっ!」
 叫ぶが早いか、真紅の手の平から紅い竜巻の如く薔薇が舞い上がる。翠星石は緑に輝く
光の尾を残して、上空に舞い上がった。


  ゴウッ!!
 薔薇の巨大な竜巻が、一気に黒船へ襲いかかる。異常事態に気付いた砲手が、大砲を発
射しようとした。
 だが、出来なかった。全ての大砲が沈黙した。
 大砲の砲身に、飛来した薔薇の花びらが一瞬でギッチギチに詰め込まれ、その勢いで砲
身もあさっての方向を向いてしまったからだ。
 間に合わずに導火線へ火を移してしまった数名の砲手が、慌てて曲刀で導火線を切り落
とす。
 黒船の舷側に並んだ空賊数名が、魔法を放とうと杖を構えた。
   ドドドドドッ!!
 しかし魔法が発動する前に、その全員が頭部を鈍器で殴られたような衝撃を受け、甲板
に倒れてしまった。黒船の上空から、翠星石が如雨露から水をまいたのだ。ただし、甲板
に穴が開くほどの水圧だ。
  ぶううぅおおおっっ!!
 翠星石が水をまいた箇所から、ツタのような植物が一気に生え育った。甲板はおろか、
舷側にも飛び出したツタで穴が開き、マストも傾く。
 重量バランスが崩れ、黒船は大きく『マリー・ガラント』号側へ傾いてしまった。

 空賊船内は既にパニック状態だ。甲板上の箱や空賊達が、傾いた甲板を滑って行く。雲
海へ落ちそうになる者もいる。
 それを見ている『マリー・ガラント』号の人々も、開いた口が塞がらなかった。

「ミスタ・ワルド!」
「…え?」
「逃げるんですっ!!」
 ジュンの叫びに、あっけにとられていたワルドが我に返った。同じく呆然としていた船
員達も。
 大混乱に陥る空賊を尻目に、船は再びアルビオンへ向けて走り出した。


 空賊船が見えなくなった頃、ようやくアルビオンの港、スカボロー港が見えてきた。
 近づいてくる港を見つめるジュンの背を、ワルドがぽんっと叩いた。
「まったく、大したものだ。恐らく君たちの力は、スクウェアクラスにも引けを取らない
だろう。目的を忘れず、敵の足を止めてすぐに立ち去るという冷静さも、若いのに大した
物だ」
「お褒めにあずかり光栄です」
「はははっ!かしこまるのはよしてくれ!僕とルイズが結婚したら、君とも家族の様なも
のになるんだからね」
 バンバンと背中を叩かれて、ゲホゲホとむせてしまう。
「ぐへごほっ…あ、あの、結婚って、結局、婚約の件は、今はどうなっているんでしょう
か?」
「まぁ、ルイズが卒業した後の話だ。
 実はラ・ロシェールで泊まった時にプロポーズしたんだが、卒業まで待って欲しいと言
われたよ」
「卒業まで…待つ…」

 ジュンは、しばし考え込み、次第に顔を伏せていく
「多分、おめーら使い魔連中に気ぃ使ったんじゃねぇか?」
 背中のデルフリンガーの言葉に、ジュンは何も答えられない。

「はっはっはっ!君が気にする必要なんか無いよ!」
「ごふっ!げふぅっ!」
 バンバンバンバンッと背を叩かれ、更にむせこんでしまう。
「僕もルイズも10年くらい会っていなかったからね。婚約者とはいえ、今すぐ結婚と言
われても困るだろう?ルイズもまだ書生の身だしね。お互いの事を分かり合う時間に丁度
良いよ。
 そういうわけなので、ジュン君。君の人形達、シンクとスイセイセキと共に、これから
よろしく頼むよ!もちろんデルフリンガー君もな」
「は、はい!こちらこそ、よろしくお願いします」「おう、よろしくな」
 ジュンはワルドに深く頭を下げた。ワルドはジュンを笑顔で見下ろしていた。

 だが、目が笑っていなかったことには、船上の誰も気付かなかった。


                第三話      アルビオンへ   END


新着情報

取得中です。