あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

罪深い使い魔-05

「…………」
「クスクス……」

掃除を終わらせた二人(実際に掃除していたのは一人だけだが)は食堂への道を歩いている。
ただ奇妙なことに、いつも怒ってばかりのルイズは口を押さえて時折ぷっ、と噴出すようにして笑い、
それに付き合う使い魔は誰が見てもわかるくらいに機嫌を損ねていた。

「くくく……タ……タッちゃ……!」
「……いい加減にしろ」
「だ……だって……あんたどう見てもそんな顔じゃ……ぶぷっ!」

『あの時』もそうだったが、別に笑うようなことじゃないだろ!
一体何が面白いんだ!

ルイズの機嫌は直ったが、その機嫌と引き換えに何か大切なものを失った気がするのは気のせいだろうか?
そんなことを思いながら達哉は不機嫌なのを隠そうともせずルイズに付き従う。
どちらかと言えばあだ名そのものよりも、そう呼ばれたときの達哉のリアクションが面白くて
ルイズは笑っているのだが当人は気づいていない。

やがて食堂の入り口に辿り着き、ルイズは食堂の中に入っていく。
しかし、達哉は中に入ろうとしない。昼食はすでに確保してある。

「なによ、そんなに気にしてるの? 食事中は言わないでいてあげるわよ。タ……」
「いいからお前一人で食って来い。俺はその辺で時間を潰す」

そう言い残し、達哉はさっさと食堂を後にする。
せいぜい食事中に噴出さないよう注意してろ。


シエスタの言っていた厨房は、食堂の裏にあるためすぐに見つかった。
ただ厨房の中はまだ忙しそうなので、頃合を見計らって中に入ろうと思っていると、丁度中から出てきたシエスタと鉢合わせる。

「あ、タツヤさん。今呼びに行こうと思ってたんです……タツヤさん?」
「いや……なんでもない」

名前で呼ばれることがこんなに嬉しいと思ったのは初めてだ。
どういうわけかこのシエスタという女性は、普段意識しなかった当たり前のことを新鮮な感動として与えてくれる。

厨房の中に通された達哉はシエスタの計らいで賄いのシチューをご馳走になった。
その味に達哉は柄にもなく感動する。

「あの……お口に合いましたか?」
「ああ、とても賄いとは思えないな」
「フフ、そういうことはマルトーさん、ここの料理長に言って下さい。きっと喜びます」
「ああ、あとで伝える。……だがいいのか、本当にこんな食事をもらってしまって」
「全然平気です。タツヤさんが食べてもまだ余っちゃうくらいですから」
「…………」

それを聞いた達哉の表情が変化する。
シエスタはそんな達哉の変化を誤解しなかった。

「あの……おかわり要ります?」
「……頼む」

大人びた雰囲気を見せる一方、子供のような反応も返す達哉がおかしくて、シエスタはつい笑ってしまう。
達哉はそんなシエスタの様子が先ほどのルイズと重なり、少しだけ苦い顔になった。


食事が終わり、皿を片付けようとした達哉を静止して、シエスタは皿を取り上げた。

「皿くらい自分で……」
「いいんですよ、そこまでしていただかなくても」
「しかしただ世話になるだけでは……」

ここまで世話になったのだ。
皿洗いなどでは足りないくらいだが、それでもなにかしらの形で報いたい。
そう思いシエスタを見ていると、シエスタはんー、となにやら考える仕草を見せてから、ぱっと顔を輝かせた。

「なら、デザートを運ぶのを手伝ってくださいな」


二人は食堂に移動した。
勝手のわからない達哉一人では配膳はできないので、
達哉がトレーを持ち、シエスタがそこからケーキを取り分ける分担作業となった。
達哉はこんなことで役に立つのかと気になったが、シエスタに十分助かると言われてしまえば黙るしかない。
シエスタの言葉が事実でも厚意でも、今の達哉には甘えさせてもらう以外の選択肢はないのだ。
ただ、いつかこの恩返しはしなければならないなと達哉は心の中で思う。
そうして作業を半分ほど終わらせたころ、すぐ隣で騒ぐ貴族の一団が目についた。

「なあ、ギーシュ! お前、今は誰とつきあっているんだよ!」
「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」
「つきあう? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」

一団の中心にいるのは、妙な貴族だった。
金色の巻き髪に、フリルのついたシャツ。そのシャツのポケットには薔薇が一輪。一人だけ明らかに制服じゃない。

「……?」

そんなことを考え何気なく眺めていると、ギーシュの懐から小瓶が落ちた。
幸い割れずに済んだようだが、どうやらギーシュは落としたことに気づいていないらしい。
達哉がシエスタを見ると、困ったような表情をしていた。彼女も気づいたのだろう。

「……行ってくる」

達哉はシエスタにトレイを預けると、落ちていた瓶を拾い上げた。
それをギーシュの元へ持っていく。

「おい、落し物だ」

達哉は話しかけるが、ギーシュはまるで気づいた様子を見せない。
相変わらず友人らしき貴族と談笑に興じている。

「…………」

仕方がないので、ギーシュの前にあるテーブルに置いてやる。
これで気づかなかったらもう知らん。
だが気がついたのはギーシュではなく、その周りにいる貴族だった。

「おお? その香水は、もしや、モンモランシーの香氷じゃないのか?」
「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」
「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたってことは、つまりお前は今、モンモランシーとつきあっている。そうだな?」
「違う。いいかい、彼女の名誉のために言っておくが……」
「……?」

なにやら妙な雲行きになってきた、そう思った矢先にそれは起こった。
近くのテーブルに座っていた少女が勢い良く立ち上がり、ギーシュの元へ歩み寄ったのだ。
栗色の髪をした少女。初めて見る顔だが、達哉にはこの人物とギーシュの関係におおよその見当がついた。

「ギーシュ様……」

泣き出す少女。先ほど達哉が覚悟した光景が今、役者を変えて目の前で繰り広げられている。

「やはり、ミス・モンモランシーと……」
「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」

パァン!

ギーシュの言い訳は、ケティと呼ばれた少女の平手で遮られた。

「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」
「…………」

唐突な展開に達哉が呆然としていると、今度は遠くの席から一人の少女が立ち上がった。
眩しいくらいの金髪を、時代錯誤としか言いようのない巻き髪にしている。
少女は険しい顔つきで、ケティと同様にギーシュの側までやってきた。
達哉にはこの後訪れる展開がなんとなく読めた。

「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」
「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね」
「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りで歪ませないでくれよ。
僕まで悲しくなるじゃないか!」

ギーシュは、達哉には逆立ちしてもできないような雄弁な口で言い訳を重ねるが、モンモランシーという少女が
テーブルに置かれたワインボトルの中身を頭にかけるとそれも聞こえなくなる。

「嘘つき!」

最後にそう怒鳴って食堂を後にするモンモランシー。

「…………」

嫌な沈黙が流れた。
今や観客は達哉一人ではない。さきほどギーシュを冷やかしていた貴族達だけでもない。
食堂にいる全員の視線がギーシュという、二股に失敗した男へと集中していた。
そんな空気が読めないのか、読めたからか、ギーシュは顔にかかったワインをハンカチでふき取り、
この場にそぐわない妙に明るい声でこう言った。

「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」
「…………」

その一言で皆元の生活に戻り始める。誰もギーシュの言葉には賛同しなかった。
達哉もまた、ギーシュを無視して仕事に戻ろうとしたが――

「待ちたまえ」
「…………」

そのギーシュに呼び止められた。
達哉は内心でため息をついて立ち止まる。

「君が軽率に、香水の壜なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」
「…………」
「おい、なにか言ったらどうだ?」
「…………」
「いいかい? 給仕君。僕は君から声をかけられたとき、無視したじゃないか。
間を合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」
「…………」
「なんだ、ビビッて声も出ないのかい?」
「…………」

ガン無視。

隣でオロオロするシエスタとは対照的に、達哉はどこまでも自然体だった。
まるでギーシュのことなど、最初から見えていないかのように。

「ふん……。ああ、君は……」

ギーシュには、その顔に見覚えがあった。

「確か、あのゼロのルイズが呼び出した、平民だったな。平民に貴族の機転を期待した僕が間違っていた。行きたまえ」
「…………」

それを聞いて達哉は仕事に戻る。
その姿は、貴族相手に尻尾巻いて逃げ出す平民のそれにしか見えない。

「プ、なんだあいつ」
「澄ました顔してとんだ腰抜けだな。一言も言い返せないでやんの」
「まあまあ諸君、平民が貴族に逆らえるわけないだろ。あんまりイジメてやるな」

そう取り繕うギーシュの顔にも明らかな嘲りの表情が浮かんでいる。
とりあえず表面上、彼の機嫌は直ったようだ。

「あの……」

シエスタが達哉のことを心配そうに見つめる。

「すみません、私が手伝いを頼んだせいで……」
「……シエスタが謝るようなことじゃない。俺が自分で手を出したんだ」
「でも……」
「俺は気にしてない」
「……はい」

シエスタはまだ心配そうな顔をしているが、達哉は一言も嘘を言っていない。
ルイズ。キュルケ。そしてギーシュ。
この世界に来てから何人かの貴族と知り合ったが、その実どいつも大して変わらない。
一々相手するのも面倒なので、達哉は『向こう側』の不良同様、貴族は基本的に無視するのが一番だと判断していた。

「ちょっと!」

達哉が見下ろすと、そこには腰に手を当ててこちらを見上げるルイズがいた。
どうでもいいがルイズが自分の前に現れる時はいつもこのパターンだな、と達哉はどうでもいいことを考える。

「見てたわよ!」
「そうか……」
「まったく、余計な面倒起こして!」
「…………」
「聞いてるの!?」
「ああ」

その後ルイズのお小言は昼休みが終わるまで続いた。
戸惑うシエスタにトレイを渡して先に行かせ、達哉は黙ってルイズの話を聞き『流した』。
どうせ大したことは言ってないので一々耳を傾ける必要もない。そういう判断だ。
しかし最後に、

「まあ、変に騒がなかったことだけは褒めてあげるわ」

そう言われた時、達哉はルイズの評価を少しだけ上げることにした。

「さ、次の授業に行くわよ、タッちゃん?」

……すぐに逆戻りしたが。


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