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Mr.0の使い魔 第二十九話

「た、大変です、船長!」

 ノックもなしに飛び込んで来た赤毛の青年に、頭は一瞬反応が遅れた。
危うくみっともない所を見られたかと身構えたが、青年の様子を見ると
それどころではないらしい。息も絶え絶えに「大変だ」と繰り返す彼を
前に、何か尋常ではない事が起きたのだと頭は表情を引き締める。

「落ち着け、デニス。一体何があった?」
「ほ、砲甲板に、砂、砂がッ!」

 何度も詰まりながら必死に説明しようとするデニス。最初はどうにも
要領を得ない単語が並ぶばかりであったが、話を聞くうちに頭の表情が
強張った。

「一面の砂、だと?」
「そうです! おまけに壁は壊されて、先にいた筈の先輩達も見当たりません!
 こんな事ができるのは、ジンしか、砂漠の悪魔しかいない!」

 悪魔、ときた。普通なら一笑に付されるのが関の山だ。
 しかし、頭はそれをしなかった。怯えた仕草や恐怖で引きつる顔が、
相応の異変を目の当たりにした事の証明だ。全て演技なら超一流の役者
だろうが、そもそもデニスはそういう事が得意ではない。

「デニス、全員に非常召集だ。大至急、杖と武器を手に甲板に集まれ、と」
「あの、先輩達は——」
「今は考えるな。行け!」
「は、はい!」

 なおも恐怖に苛まれているデニスを無理矢理に送り出すと、頭は棚
から杖を手にとった。
 同時に、デニスが言い残した『先輩達』の顔を脳裏に浮かべる。話
を聞く上では合計九人、デニスの前に砲甲板にいた筈だという。その
九人全員が、こつ然と姿を消した。
 彼らとて屈強な空の戦士、生半な事でどうにかなりはしない。が、
事の中心に居合わせたであろう彼らは、誰にも異常を伝えられず姿を
消してしまった。現場を離れて無事、と考えるのは楽観が過ぎる。
 右手で杖を握りしめた頭は、空いた左手を棚の上の小箱に伸ばした。
蓋を開き、中から古ぼけた便せんを取り出す。色あせた手紙を丁寧に
上着の内ポケットに仕舞い込むと、頭もまた甲板へと向かった。

「始祖よ、そして我が愛しき者よ……どうか、我らに今しばらくの御加護を」


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第二十九話


 階段を上ったクロコダイル達は、続いて近場の船室を次々と覗いて
回った。どの部屋が宝物庫かわからないので、手当り次第に物色する
他ないのである。
 誰かを捕まえて尋問する、というのは却下だ。この空賊達は、賊と
しての要領が悪い割には随分と口が堅い。砲甲板でのやりとりがいい
例だ。あの砲手は、自分の命が危機に瀕しても頭への忠誠を貫いた。
腕の悪い海賊団では大抵頭目への忠義も低いのだが、今回はそれには
当て嵌まらないらしい。
 ともあれ、尋問に時間をかけるよりはしらみつぶしに探す方が目的
達成への近道になる、とクロコダイルは判断した。ルイズやワルドと
手分けして、扉を開いては中を覗き込み、違うとわかると即座に次の
部屋を開く。ひたすらその繰り返しだ。

「あ」

 クロコダイルが三番目に訪れた部屋では、手透きらしい男達が五人、
カードで遊んでいた。が、思わぬ闖入者に唖然としている間に砂の中。
反撃どころかまともに口をきく暇さえない。

「悪いが、時間が惜しいんでな」

 五人纏めて干物に変え、クロコダイルは次の船室へと向かう。今頃
敵は総出で自分達を捜している筈だ。無駄に結束の堅そうな空賊達は、
倉庫でミイラになった仲間を見てさぞや怒り狂っているだろう。
 そんな猛獣共に包囲される前に、何としてもデルフリンガーを回収
する必要がある。現状で確認できる唯一の対魔法用装備なのだ。多数
のメイジと戦うにあたって、弱点となる水の魔法を防ぐにはあの剣が
不可欠である。
 と、余計な考え事をしていたのがまずかったか。

「てめぇ、そこで何してやがる!」

 誰何の声をかけられるまで、クロコダイルは敵の存在に気づく事が
できなかった。今しがた開いた四番目の扉を間に挟んで、廊下の突き
当たりに一人の男。
 間一髪で部屋に飛び込んだ直後、扉の上半分が水流で粉微塵になる。
飛び散るしぶきと木片が、クロコダイルの頬を浅く傷つけた。

「命が惜しけりゃ大人しく出てこい!」

 荒々しい声に似合わず、耳に届く足音のリズムは遅い。容赦のない
水撃といい一息に踏み込まない慎重さといい、かなりの手だれらしい。
さらに、部屋には冷たいもやが吹き込んでいる。魔法で霧を生み出し、
目くらましにしているのだ。狭い廊下で狙いを絞られないための策。
これだけ周到に防御を固めているのだから、のこのこと姿を見せれば
今度こそ濁流に飲み込まれるに違いない。

(よりにもよって、水系統とはな)

 僅かに滲む血を拭いながら、クロコダイルは己の不運を罵った。今、
最も出会いたくない系統のメイジだ。しかも相手は知らないだろうが、
霧のせいで砂の能力を完全に封じられた。攻撃を受け流す事はできず、
使える武器は左手のかぎ爪だけ。それも思い切り距離を詰めなければ
かすりもしない。
 せめてもの幸いと言えば、ワルドとルイズの姿を見られなかった事
だろうか。クロコダイルがこの部屋の扉に手をかけた時、二人は別の
部屋の中を探っていた。室内にいて敵の目を逃れたどちらかが、多少
でも気を引いてくれればつけ込みやすいのだが、さて。
 頭を働かせているうちに、床板を踏みしめる音はすぐそこに迫って
いた。声は半壊した扉の向こう側、隣の部屋の前辺りからだ。

「抵抗するだけ無駄だ。観念し、ッ!?」

 風を切る音、直後に肉を裂く音。
 クロコダイルはすぐさま飛び出した。急速に薄らぐ白い帳の中に、
後ずさる男と曲刀を握ったワルドの姿。床には男の左手首が、主の杖
を握ったまま転がっている。敵がクロコダイルへと集中していた隙を
突いて、ワルドが横合いの部屋から奇襲を仕掛けたのだ。
 しかしながら、相手の無力化は完全とは言えない。健在な右手には、
予備の武器であろう、小振りなナイフが煌めいている。

「下がれ!」

 叫ぶと同時、クロコダイルが床板を蹴った。まだ湿気が多く能力は
使えないが、杖を拾うチャンスを与えては勝ち目がなくなる。室内へ
引っ込むマントの裾をかすめ、鋭いかぎ爪が空賊へと襲いかかった。
 獲物の喉笛目掛けて一直線に突き出された切っ先は、しかし寸前で
ナイフに弾かれる。片手を切断されて相当な痛みだろうに、なおこれ
だけの反応を見せるのは賞賛ものだ。だが。

「くそっ!」

 悪態をついたのは空賊の方。一見しても二対一、さらに頼みの杖は
掌ごと失われた。ナイフ一本で渡り合う不利を理解した男は、素早く
身を翻して逃げの体勢に入る。
 無論、見過ごしてやる義理などクロコダイルにはない。僅かに身を
沈めて力をため、無防備な敵の背に狙いを定める。そして——一発の
銃声に、その動きを止めた。


(ちゃんと、当たった……当てられた)

 硝煙の立ち上る短銃を手に、ルイズはごくりと喉を鳴らした。紅い
水たまりの広がった目の前の床には、片目に穴の空いた空賊の亡骸が
転がっている。
 部屋を飛び出してすぐ、2メイルとない至近距離から額を狙ったが、
発射の反動で僅かに照準がずれたようだ。銃など今まで一度も使った
事がないから、当然と言えば当然か。

「やるじゃねェか、ルイズ」

 クロコダイルの声は、珍しく感嘆を含んでいた。敵の目の前に躍り
出て、即座に射殺。軍人や傭兵ならともかく、荒事とは無縁であった
貴族の子女がやってのけたのだから、彼が驚くのも頷ける。
 第一、貴族なら普通は杖と魔法があり、銃のように不安定な武器の
扱いに長ける者は少ない。ルイズの場合も、単に知識として大雑把な
使い方を知っていただけで、一発で事をなし得たのは偶然による所が
大きかった。

「大した事、ないわ」

 少しだけ声が震えた。クロコダイルに認められたという安堵の中に、
人を殺した自分への猛烈な嫌悪が混じる。
 失敗魔法で怪我人を出した経験は何度もあるが、それが原因で死に
至った者は一人もいない。大抵は打撲や擦り傷、気絶で済んでいたし、
いざとなれば学院の水メイジ達が治癒の魔法で治してくれたからだ。
桟橋の件だって、相手は生身の人間ではなかった。
 だが、今回は違う。治癒魔法が使える人間は誰もいないし、何より
明確に殺意を抱いて銃を撃った。そして、この名も知らぬ空賊の命を
奪ったのだ。

「この銃は、もう使えないわね」

 喉元まで込み上げる嘔吐感を意思の力でもって押し止め、ルイズは
弾切れになった短銃を放り捨てた。代わりに、握力の失われた空賊の
手からナイフを拝借する。短銃に比べると随分と心許ないが、“力”が
なければ戦えない。ただでさえ自分は無力なのだから、少しでも戦力
足り得る事を、無用でない事を示すために、何かしらの武器が必要で
あった。
 それに、本来の自分の得物——杖を取り戻しさえすれば、これほど
弱気にならずとも済むのだ。それまでの繋ぎになればいいのだから、
あまり贅沢を言うべきではない。
 ナイフを軽く振って重さを確かめるルイズに、幾分トーンの落ちた
ワルドの声がかかった。

「ルイズ、あまり無理をしないで」
「わたしなら大丈夫よ。さ、行きましょう。敵は待ってはくれないわ」

 気遣うワルドを直視できず、ルイズは素早く踵を返す。
 故に、僅かに歪むクロコダイルの表情を見落としていた。


 甲板では、空賊達が武器を手に二列横隊で並んでいた。正面に立つ
頭は二十五人の手下達を見て、眉をひそめる。

「これで全員か?」
「休憩室の陸戦班五人、第一保管庫の警備二人がおりません。
 医療班のジョンとヘンリーが、それぞれ休憩室と第一保管庫へ向かっています。
 予備船倉の貴族達は監視班からアーサーが迎えに行きました。
 同じく監視班のエドワードと陸戦班のブライアン、砲手班九人は行方がわかりません」
「そう、か」

 手下の一人が素早く報告する。『砲手』のところで列の中程にいる
デニスが肩を震わせたが、頭はあえて何も言わなかった。
 それにしても、エドワードとブライアンも行方不明とは。思えば、
トマスが二人を探していたあの時点で、既に犠牲となっていたのかも
しれない。
 そう考えると何ともやりきれない気持ちになるが、いくら後悔した
ところで状況は好転しないのだ。ならばこそ、今は割り切って行動を
起こさなければ。

「時間が惜しい。諸君には先に状況を説明しておこう。デニス、前へ」
「は、はい」

 緊張した面持ちで進み出たデニスは、顔を青くしながら自分が見た
光景を語る。壁を破壊された砲甲板、砲手と大砲の消失、そして一面
に広がった砂。
 あまりにも非常識な説明だが、嗤う者は一人もいない。表情を引き
締め、あるいは忌々しげに顔を顰めて、デニスの言葉を真剣に聞いて
いる。全員が、彼が真実を語っていると理解しているからだ。
 説明を終えたデニスが下がると、頭が再び口を開いた。

「聞いての通り、今、この『イーグル』号は異変に見舞われている。
 これまで諸君が経験した事のない、全く未知の脅威に、だ。
 アルビオンまでの三時間、我らはこの脅威に立ち向かい、打ち勝たねばならない。
 祖国で戦う仲間の元へ、憂いを持ち込まぬように。その事を肝に銘じておけ」
「「「ハッ!」」」

 手下達が唱和し、一糸乱れぬ敬礼を頭に返した。一介の空賊の仕草
ではない。身なりは粗野だが、それはまさしく鍛え上げられた軍人の
姿である。

「まずは部隊を四つに分ける。持ち場は予備船倉、砲甲板、第一保管庫、そしてここだ」

 言って、頭は皆をぐるりと見回した。

「トマス以下監視班七名、船倉のアーサーと合流し、貴族達の警護につけ。
 合流後は甲板に戻り、彼らを『マリー・ガラント』号に避難させよ」
「了解です」

 トマスが頷き、仲間を連れ立って階段へと向かう。

「次に砲甲板の状況を調査する部隊。これは私とデニス、陸戦班五名で行う」
「了解!」

 隊列の右端、坊主頭の大男が威勢よく声を上げた。

「第一保管庫へは旗手班三名、休憩室を経由して向かってもらう。
 ジョンおよび休憩中の五人に出会った際は同伴を伝え、合流できなければそのまま保管庫へ。
 いずれかで彼らと合流した場合、保管庫にて預かっている杖と剣を受け取り甲板へと戻れ」
「ハッ」

 敬礼を返し、三人の旗手は列から抜ける。

「医療班二名、風石班三名、操舵班四名は甲板で待機し、操船と連絡、治療を担当。
 監視班およびヘンリーが戻った際は、そのまま彼らを甲板へ配属。
 ジョンと陸戦班の者達は保管庫へ向かわせるのだ。
 貴族達の避難誘導、杖と剣の返却も忘れるな。
 避難が終わり次第『マリー・ガラント』号へ退避指示を出し、牽引索を切断せよ」
「はい」

 計九人を代表して、医療班の眼鏡の青年が頷いた。
 頷き返した頭は、デニスと陸戦班の五人を促す。

「では、我々も下へ向かうぞ。各人、気を引き締めよ」


   ...TO BE CONTINUED

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