あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

罪深い使い魔-04

メイジ達が授業を受ける教室は、高校の教室よりもむしろテレビで見た大学の講堂に似ていた。
そこにメイジと、どう見ても悪魔としか思えない外見の生き物達がひしめき合っている。
それらを眺めつつ、達哉はルイズが座った席の隣に腰を下ろした。



「ここはね、メイジの席。使い魔は座っちゃダメ」
「…………」



すでに文句はない。今さら文句などつけようはずもない。
出会って間もないが、もう達哉の中でルイズの評価は限りなく最低に近い。
それほど食べ物の恨みは大きかった。



ガタッ



達哉は無言で立ち上がると、つかつかと教室の奥へと向かい、壁にもたれかかった。
教室から出て行こうかとも思ったが、それよりも魔法使いが受ける授業に対する好奇心が上回った結果だ。
そんな達哉を生徒たちが好奇の目で見てくるが、当人は気にしない。
そういう人間は『向こう側』にもいた。無視するのは慣れている。



しばらく待っていると、教室の中に教師と思われるふくよかな体型の女性が入って来た。



「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に
様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」



ルイズがピクリ、と震える。
シュヴルーズは教室の奥にいる達哉を見て「おや?」と首を傾けるが、すぐに理解が及ぶ。



「聞き及んでいますよ、ミス・ヴァリエール。随分と変わった使い魔を召喚したものですね」



その言葉で、教室中が笑いの渦に包まれた。



「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いてた平民を連れて来るなよ!」
「違うわ! きちんと召喚したもの! こいつが来ちゃっただけよ!」
「嘘つくな! 『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう!」



騒ぐ声はどんどん大きくなる。
こんなところはどこも一緒だな、と達哉は呆れた。



「ミセス・シュヴルーズ! 侮辱されました! かぜっぴきのマリコルヌが私を侮辱したわ!」
「かぜっぴきだと? 俺は風上のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」
「あんたのガラガラ声は、まるで風邪でも引いてるみたいなのよ!」



マリコルヌとルイズが立ち上がり、睨み合う。場は一触即発の様相を呈していた。
達哉はシュヴルーズという教師がこの事態をどう収めるのか眺めていると、
なんとシュヴルーズは手に持っていた、小さな木の枝ほどの大きさの棒を振っただけで二人の体を席に下ろしてしまった。



今のが魔法か?
達哉は自分の知らない『魔法』に思わず目を見張る。



「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はおやめなさい」



達哉の嫌いな、教師の威厳をたっぷりと含んだ口調でシュヴルーズは言った。



「では、授業を始めますよ」





『赤土』のシュヴルーズが語る魔法の内容はどれも興味深いものだった。



「『錬金』か……」



達哉はシュヴルーズが『錬金』の魔法で、小石から真鍮を作り出した様を見て感心した。
シュヴルーズはできないと言っていたが、この世界では文字通りの『錬金術』が存在するらしい。
『土』の魔法と言っても、達哉は土塊や岩石をぶつける程度しか知らなかったが、
この世界ではもっと幅広い運用がなされているようだ。



魔法の四大系統、『火』『水』『土』『風』。
達哉の知識では、属性と言えば他にも『氷結』『雷撃』『神聖』『暗黒』など多岐にわたるが、
これらは四大系統の中に組み込まれているか、四大に比べてマイナーか力が弱いか、そもそも存在しないか。
あるいは失われたという『虚無』に属しているという可能性も考えられる。



この世界の属性を把握した達哉は、次に自分の『力』について考えた。
昨夜ルイズに話さなかった、自分の力。
言えば異世界から来た証明になるかもしれなかったが、逆にややこしい事態を招く可能性もあり言えなかった『仮面』の力。



……この世界の基準でいうなら、今の俺は『火』の系統に属していることになるな。



『付け替え』ができれば話は変わってくるのだが、残念ながら他のは
『向こう側』へ渡る際にすべて失ってしまったため、それもできない。
そのため今『呼び出す』ことができるのは、あの戦いで最後まで『降魔』していた一体のみ。
そして、そいつは所謂『火』系統の魔法しか使えない。



しかし……このことをルイズに明かすべきだろうか?



これだけ魔法が普及しているのだから、自分の能力も少し変わった魔法程度のものとして受け入れられるかもしれない。
ルイズも自分を見直し、多少は待遇を改善してくれるかもしれない。
だが、もし受け入れられなかったら?
それを思うと、まだ大っぴらに自分の力を晒す気にはなれなかった。



「……ん?」



思考に没頭していた達哉がふと周りを見ると、なぜか生徒たちが机や椅子の下に潜り込んでいる。



「なんだ?」



なにか不穏な空気を感じた達哉はルイズを見て、
次に瞬間には、その手に持った棒が小石に振り下ろされる様を目撃した。





……なるほど、それで『ゼロ』のルイズか。



小石の『錬金』に失敗し、まるで『メギド』のような爆発を起こしたルイズに向かって浴びせられる
「魔法の成功率ほとんどゼロ」という罵声を聞きながら、
どうやら自分がとんでもないご主人様に仕えてしまったらしいことを達哉は悟った。



そして、そんな達哉を見つめる人物が一人。



「…………」
「あら、どうしたのタバサ?」



この授業に出席し、近くにいた男を使って爆発を回避していたキュルケは、彼女の友人があらぬ方向を見ていることに気づいた。
なぜか教室の後方――あのヴァリエールが呼び出した使い魔を見ている。
使い魔は自分の服をはたいて土ぼこりを落としているが、先の爆発にも関わらず怪我らしい怪我はしていない。
上手く物陰に隠れたのだろう。



「…………」



キュルケの問いに、タバサと呼ばれた少女は何も答えない。
ただぽつりと、キュルケにも聞こえないくらい小さな声で、呟いた。



「光った」




授業は中断され、達哉はルイズの失敗魔法で散らかった教室を黙々と掃除していた。



「さっさと片付けなさいよ!」



達哉の記憶が確かなら、片づけを命じられたのはルイズのはずだ。
それがなぜ机に腰掛けてふんぞり返っているのか。
このことについてルイズに聞いてみると、



「私の不始末はあんたの不始末。あんたが後始末するのは当然でしょ」
「…………」



元々我慢強い方ではない達哉の不満は当然大きい。
それでも、現状ルイズという『保護者』を失えば自分が路頭に迷い、
結果『向こう側』に帰る方法を探すのが難しくなってしまうことを予想し、黙って従っている。
ただ少しだけ、この世界を守るために帰ろうとしてるのにこの扱いは理不尽じゃないか、とは思っていた。



「……わかったでしょ」



表面上大人しく掃除している達哉にルイズの声がかかる。
達哉は無視してやろうかとも思ったが、これ以上機嫌を損ねると何が起こるかわからないので一応相槌を打つ。



「なんのことだ?」
「なんで私が『ゼロ』って呼ばれてるのかよ」
「……ああ」
「どうせあんたも心の中じゃ笑ってるんでしょ。散々偉そうにしておいて、魔法もロクに使えないのかって」



……そういうことか。
何かと思えばバカらしい。
それが達哉の素直な気持ちだった。



「失敗したなら練習すればいい。笑う連中なんて無視すればいいだろ」
「簡単に言わないでよ!」



半ば予想していたことだが、ルイズはやはり怒り出した。



「練習なんてもうずっと繰り返してきたわよ! 何度も、何度も、精神力が切れて気絶するまで!
それでもどうにもならないのよ! 由緒正しきヴァリエール家の生まれなのに、全然成功しないのよ! 私は自分が情けないわ!」
「『サモン・サーヴァント』とかいうやつは成功しただろ」



達哉としてはむしろ失敗して欲しかったが、そこは口に出さない。



「あんたなんか成功なんて言えないわよ! ていうかなんであんたが出てくるのよ!?」
「知るか」
「この――」
「心配しなくても」



達哉はルイズの言葉を遮る。



「ここにずっと留まるつもりはない。方法がわかればすぐに『向こう側』へ帰ってやるさ。
俺だって好きでここにいるわけじゃないし、お前が俺を必要としていないのも、わかってる」



そう言って達哉は再び掃除に戻っていった。
これ以上話すことはない。話しても、お互い苛立ちが募るだけだ。
おそらくこの後ルイズの怒声が飛んでくるだろうが、達哉はそれをすべて無視することに決めた。
しかし――



「…………?」



いつまで経ってもルイズの声が聞こえてこない。
不審に思った達哉はルイズの方を見て……後悔した。



「グス……」



ルイズは……目いっぱいに涙を溜めて震えていた。
達哉はここでようやく、自分が失態を犯したことに気づいた。



……これは、俺がなんとかしなきゃいけないのか?
俺は、何も悪いことはしてないのに。
いや、罪は犯したけど、でもそれとこれは無関係だ。
……っ



「……ルイズ」
「……なによ」
「俺は……バカにはしてない」
「見え透いた嘘つかないで」
「本当だ」
「気遣いは無用よ。私は……ヒック……全然気になんてしてないんだから」
「お前がどう思おうが勝手だが、俺は嘘は言ってない。魔法が失敗続きだからってバカになんてするか」
「…………」
「さっき自分で言っただろ、何度も練習したって。俺は理想を追い求める人間を決してバカにはしない」
「…………」
「ゼロなんてあだ名も気にするな。俺も以前あだ名で笑われたことがあるが別に気になんてしてない」
「…………」
「……ルイズ?」



見ると、ルイズは俯いてしまっていた。
ダメだったか、と達哉はこれから来るであろうルイズの泣き声に備え身構えた。
しかし達哉の予想はまたも裏切られる。



「……あんたのあだ名って、なに?」
「…………」




よりによってそこに反応するか……!



「教えなさいよ、使い魔」
「……断る」
「命令よ、あんたのあだ名を今すぐ教えなさい」
「嫌だ」
「教えなさいよ! これからあんたのこと、ずっとそう呼んでやるんだから!!」
「…………!」



それからしばらくの間、教室で何事かを言い争う声が響いていたと何人かの生徒が証言する。
その声がやがて、甲高い女性の笑い声に取って代わられたということも。



「…………」



教室で笑い転げるルイズを無視して掃除を続ける達哉は、
やはり使い魔なんてやるものじゃないな、と苦渋に満ちた表情で呟いた。


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