あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの花嫁-02

「サン、あんた朝ご飯抜き。それとハウリングボイスは私の許可無く使用禁止」
翌朝、生徒までも動員した大手術の末、一晩で完治にまで至ったルイズは不機嫌マキシマムな表情でそう言った。
「へへぇー」
平伏して素直に言う事を聞く燦。
ちなみに今回の治療費は、医療スタッフによる致命的な医療ミスが発覚し、全額彼らの負担となっている。
今日は虚無の曜日。街まで買い物に行ける日なので、正直かなり体は重かったが、燦を連れて買い物に行く事にした。
本来はここまでしてくれた使い魔に何かを施してやるなぞありえないのだが、いつまでも女の子が衣服も下着も一着づつのみという扱いをする訳にもいかない。
「寛大な私に感謝しなさいよね!」
「へへぇー、ルイズちゃんは神様でごぜぇやす」
簡単に身支度を整えると、すぐに学園を出る。
燦は馬に乗った事が無いというので、ルイズが前で二人乗りで馬に乗る事にした。
「うっわ~、思ったより馬の背中って高いんじゃな~」
燦は後ろで上機嫌である。
風が気持ち良いだの、景色が飛んでいくみたいだの、じゃんぷしてーだのととかく騒々しい。だが、
「乗馬ってホンマ楽しいな。ありがとうなルイズちゃん」
そんな事を満面の笑みで言われると、まあ良いかという気になってしまうのだった。



キュルケが窓の外を何の気無しに覗くと、丁度ルイズと燦の二人が馬で学院を出ていくのが見えた。
召喚の儀以来、ルイズは何時も医務室でせっかくサラマンダーを自慢してやろうと思ったのに、その機会に恵まれないでいた。
どうやら今日もそれが難しいようなので、暇潰しにタバサの部屋を覗いてみる事にした。
ノックをして、タバサの部屋に入ると、予想通りタバサは椅子に腰掛け読書の最中であった。
「お邪魔かしら?」
そんな声をかけてタバサの様子を伺うと、今日はどうやら一緒に居ても良い日らしく、タバサは首を横に振って本を膝の上に置く。
これ幸いとベッドに腰掛けるキュルケ。
すると、珍しい事にタバサの方から声をかけてきた。
「キュルケ、ルイズが怪我した時、一緒に居たって本当?」
「怪我した後、だったけどね」
「その時、部屋に居たのは誰?」
奇妙な事を聞いてくるとは思ったが、別に隠すような事でも無いので素直に答える。
「召喚の時に見た平民らしい女の子が一人居ただけね。あの時は驚いたわよ、ルイズは全裸で傷だらけだし、まるで肉の塊に赤ワインでもブチマケたみたいな惨状だったわよ」
「なら決まり、犯人はその女の子。何か危険な物でも召喚したのかもしれない。キュルケも近づかない方が無難」
一回目にルイズが怪我をした時、側に居たのはコルベールと平民らしき女の子のみ。
次に怪我をした時は女の子のみ、ならば自ずと結論も出る。
「でも、それだと変じゃない? なんでコルベール先生はそれを放置しているの?」
「危険性を認識していないのかもしれない」
キュルケは昨日の事を思い出してみた。
しかし、泣きながらルイズの無事を祈る彼女に、悪意があるとは思えなかった。
「コルベール先生がどうしてルイズが怪我したのかを彼女に聞いていたけど、私には彼女が何を言ってるのかさっぱりわからなかったわ。それでも……」
タバサは無表情のまま目でその先を促す。
「そんなに悪い子には見えなかったわよ」
「ただそこに存在するというだけで危険な物もある。いずれにしても……」
そこまで言って言葉を止めるタバサ。
キュルケがタバサの唇に自分の指を当てたからだ。
「だったら、確認してきましょ。ゼロのルイズにはその判断も下せないでしょうからね」
これは憎まれ口に類する言葉ではあるが、キュルケはどうやらルイズが心配であるようだという事も理解できたので、タバサは無言で席を立つ。
「付き合う」
タバサの言葉にキュルケはタバサに抱きついて喜ぶ。
「あっりがとー! だからタバサは好きよ!」



ルイズと燦の二人はまず洋服屋に向かった。
ここで午前中のほとんどの時間を費やす。
ルイズは燦の衣類を数着揃えるだけのつもりだったのだが、やはりそこは女の子二人、姦しくも微笑ましい時間を過ごし、気が付いたら二人共両手が塞がる程の買い物をしていた。
「いっぱい買っちゃったわね~。一度馬預けた所に置いてきましょうか」
「せやね。可愛い服たくさんあったきに。ルイズちゃんかわええから、つい色々欲しなってしまう」
そう言うとにこっと笑う燦。山ほど買った服を燦が着ている所を想像しているのであろう。
「ば、ばかっ! 何言ってるのよ!」
照れて赤くなるルイズ。その様が無性に可愛らしく、燦はその頭を抱えこむように抱きつく。
「ルイズちゃんめっちゃかわええっ!」
「こらっ! や、やめなさいってば!」
二人でじゃれ合いながら、一度馬を預けている所に荷物も預ける。
燦はこれで今日の買い物は終わりと思っていたのだが、ルイズはもう一軒回る気であった。
ルイズがうろ覚えの記憶に従って向かった先は武器屋であった。
武器がハウリングボイスだけというのは、その効果範囲の関係上少々使い勝手が悪いとルイズは判断したのだ。
武器屋に入ると、主人は上機嫌でルイズ達を迎えた。
ルイズには剣の事などわからないので店の主人に任せようと思ったのだが、燦は店に入るなり目を輝かせて物色を始めたのだ。
最初は主人もこんな小娘に剣がわかるはずないと思っていたのだが、燦が粗悪な剣には見向きもしない所を見て考えを改める。
「ほ~、お嬢ちゃん剣がわかるのかい?」
「そうでもないです、こういう形の剣はそれほど詳しないんよ。おじさん、片刃の剣とかは無いん?」
「それなら……」
主人と燦とで剣談義を始めると、ルイズは手持ち無沙汰になってしまった。
どれも同じに見えるので何処を見てもあまり面白く無いのだが、それでも暇潰しにとその辺の剣を手にとって見てみる。
数本を手にとってみるが、やはり何がどう良くて悪いのかさっぱりわからない。
肩をすくめて剣を戻すと、一本の剣が目に入った。
それは、明らかにその剣だけ手入れが為されていないとわかる、薄汚い汚れだらけの剣であった。
ルイズは思わず店主に声をかける。
「ちょっと貴方、いくらなんでも売り物がこんな汚いのはマズイんじゃない?」
剣を手にとってみると、剥き身の刀身にも随所に汚れが目立つ。
「ああ、そりゃ……」
店主が何か言おうとするのを遮るように剣から声が聞こえてきた。
「おうおうおう娘っ子! 俺様に目をつけたのは褒めてやるが、汚ぇってのはなんでい!」
ルイズはいきなりの事に驚いて剣を床に落としてしまう。
すると剣からの声が勢いを増す。
「コラ! もっと丁寧に扱わねえか! 近頃のガキは刃物の扱いも知らねえのか!」
ルイズは数歩後ずさる。
「……インテリジェンスソード?」
「おうよ、デルフリンガー様だ。恐れ入ったか?」
あまりに偉そうな物言いにカチンときたルイズが、文句を言ってやろうと身構えた時、燦がその剣を拾い上げた。
「何? この剣話するん?」
「おうよ、てめえも少しは剣がわかるみてぇだが……ん? もしかしてお前さん使い手か?」
「すっごい、ホンマに話すんや。私、瀬戸燦言うんよ。デルフリンガーでええかな?」
ルイズは柄を片手に、残った手で刀身を支えるように持つ。
まるで壊れ物でも扱うかのような丁寧な持ち方だ。
「ほう、きっちり名乗りで返すあたり礼儀を弁えてるねえ。セトサン?」
「燦でええよ。凄い珍しい造りしよんね、良ければ綺麗にしてあげたい思うけど、どやろ?」
「大歓迎だ。おう、そこのくそ親父、さっさと手入れ道具を用意しな」
物凄い嫌そうな顔をする店主とルイズであったが、燦が笑顔で頼むと断りずらいのか渋々それを認めた。
手入れ道具を預かると、一つ一つ使い方を確認してからデルフリンガーの手入れを始める。
そうやって手入れしている様が、燦もデルフリンガーもとても楽しそうに見えるので、ルイズは確認の為に燦に聞いた。
「何? 燦はその剣がいいの?」
「うん、私デルフリンガー気に入ったで。でも、私お金無いから……」
「いいわよ。元々燦の剣を買うために来たんだし、貴女が気に入ったのならそれにしましょ」
「ホンマに!? ええの? でも剣て高いんちゃうん?」
ルイズは目で店主に値段を問う。
すぐに店主が提示した値段は、何とか手持ちで足りる金額であったのでルイズは即断し、店主に金を払う。
燦はデルフリンガーを抱えて、今にも飛び上がりそうな勢いで喜んでいる。
こうして何かにつけて素直に喜びを表現出来る無邪気な燦を見ていると、まるで妹が出来たような気になってくる。
出会ってから迷惑しかかけられていない気もするが、それでも放っておけないし、燦が喜ぶと何故かこっちまで嬉しくなってくる。
使い魔としてのありかたをきちっと教えなければとも思うのだが、どうにもそんな気になれない。
『燦は先住魔法の使い手なのだから、大事に扱う方がいい』
そんな言い訳を自分に言い聞かせ、ルイズは燦を促し店を後にした。



嬉々として剣を抱えている燦を伴い、ルイズはメインストリートを歩く。
これで全ての予定は完了したので、後はのんびりと食事でも取ろうと思っていた時、いきなり燦が通行人の手を叩いた。
「何しやがんだクソ女!」
貧相な身なりと顔つきの男が燦を怒鳴りつけるが、燦も負けじと睨み返している。
「おっちゃん人の物盗もうとしてたじゃろ!」
「けっ! 何処にそんな証拠があるってんだよ! おら、俺が何処の誰の物盗んだって?」
両手を上にあげて何も持っていない事をアピールしながら殊更に大声を出す男。
「盗む前に私にひっぱたかれたから手引っ込めたんじゃろ!」
「だーから何処にそんな証拠がある? おら小娘、てめえ証拠も無しに人を盗人扱いか? どうしようもねえ女だな、親の顔がみてえや!」
「お父ちゃんもお母ちゃんも関係無い!」
周囲に人だかりが出来始める。
ルイズは眉をひそめて燦に注意する。
「ちょっと燦。何揉めてんのよ」
しかし、燦はまるで止まりそうにない。
「ルイズちゃん! このおっちゃん私のポケットに手を突っ込でてん! ドロボウじゃ!」
「だーから、そんなの俺は知らねえって言ってんだろ。なあみんな?」
男が回りに問いかけると、周り中から燦を詰り、囃し立てる声が聞こえてくる。
品の無い言葉、品の無い表情、その全てがルイズにとって不愉快極まりないものであった。
これ以上それを聞いているのも気分が悪いので、その男の前にルイズが立つ。
「この子は私の使い魔よ。文句があるのなら私が聞くわ」
学園の制服に手に持った杖、これだけでチンピラ相手には充分であろう。
現に、その貧相な男はルイズのそれを見て明らかに怯んでいる。
年齢、容姿共にガキの域を出ないルイズであったが、あからさまに貴族とわかる風体にケンカを売る程その男も愚かでは無かったのだ。
燦はまだ納得いってないみたいだが、ルイズの顔を潰すつもりはないらしく黙ったままだ。
そこに、別の男が顔を突っ込んできた。
「おいおい、何こんなチビガキ共にビビッてんだよ。飛び方が足んねえぜ兄弟」
その男は何やら乾燥した草のような物を貧相な男の口に突っ込む。
それはアップ系と呼ばれる類の麻薬の一種であった。
それを明らかに限度を越えた量、口に放り込まれたのだ。
貧相な男は、咳き込みながらそれを飲み込み、そして少しの間の後、痙攣して口から泡を吹きながらその場に倒れた。
「ありゃ? おい、そこのガキ二人。俺の兄弟死んじまったじゃねえか、どうしてくれんだ」
呆気に取られながらその様子を見ていたルイズだが、そう声をかけてくる男の目が尋常でない事にすぐに気付く。
燦もその危険性に気付き、ルイズに忠告する。
「アカン、ルイズちゃん。あいつジャンキーじゃ」
「ジャンキー?」
「麻薬中毒者じゃ。ああいう奴らに理屈は通用せん……気に入らん、ここにおる奴らどいつもこいつも似たような目しよる」

燦の言葉にぎょっとして周囲を見回すルイズ。
なるほど、燦の言うとおり周囲を取り囲んでいる奴らはガラの悪い連中だけになっており、近くで店を出していた者達も逃げ出し始めている。
「呆れた、ここ何時の間にこんな街になってたの?」
「ルイズちゃんは下がって。私がこいつら全員叩きのめすきに」
燦は完全に目が据わっている。
ルイズは慌てて燦を諭す。
「ちょ、ちょっと燦! いくらこいつらがバカでも貴族に手を出したりしないわよ! そんな事したら……」
「せやから!」
燦の強い口調に言葉を遮られるルイズ。
「その、判断がつかなくなるんが麻薬じゃ。大丈夫、私が左側の三人吹っ飛ばしたらルイズちゃんはその奥の扉に入って出てこんといて。残りは私が片付けるきに」
ルイズは反論したかったが、周囲の空気が変わった事に気付き、その言葉を飲み込む。
二人が言い合っている間に、ルイズ達を取り囲んでいる連中が武器を手にしたのだ。
ルイズは生まれてこのかた殺意など向けられた事はない。それがいきなりこんなに大量の人間のそれに曝されたのだ。
怯えない方がおかしい。
当人はそれと認識していないだろうが、その怯えからルイズは素直に燦の言う事を聞いていた。
まるでその先どうなるかがわかっているかのような、凛とした態度を燦がとっていた事もそれに拍車をかけていたが。
燦はルイズが納得したのを見てとると、すぐに行動を開始した。
「そこ邪魔じゃ!」
ハウリングボイスで先制の一撃、左側の数人を吹き飛ばすとルイズの手を引いてその先の家に向かう。
衝撃波の余波で半ば崩れ落ちかけている扉を蹴り開け、ルイズをそこに押し込むと自分はその扉の前に立つ。
ここまでが一呼吸の動作である。
ジャンキー達は確かに薬で気が大きくなっていたが、しかしまだ貴族を害する事に禁忌めいた思いがあったのだ。
だから包囲するだけですぐには手を出さなかった。
そのまま包囲して脅すだけのつもりだったのか、それとも本気で手を出すつもりだったのか、それは当人達にもわからないであろう。
ただ、間違いなくその中に数人は殺すつもりで居た者がいるのも事実である。
押さえつけて拉致するつもりでロープを用意している者も居たのだから。
そんな冷静さと狂気を乗せた麻薬の天秤の動きを、誰が予測出来ようか。
結局その天秤は燦の行動であっさりと振り切れる事になったのだが。
「囲めオラァ!」
「切り刻めやぁあああ!」
「まわしあげたらぁぁぁ!」
「君をぶっ生き返すうぅぅぅぅ!」
「……くぅ、静まれ俺の邪気眼……」
最初の四人は燦が一息に振るった剣撃で全員悶絶、というか文字通り吹っ飛ばされひっくり返った。
燦はデルフリンガーの背で斬るというよりも殴ったのだが、考えていた以上の打撃に驚いた。
「あれ? おかしいな、私そんな吹っ飛ぶような振り方してへんけど……」
ルイズの疑問にデルフリンガーがケタケタ笑いながら答えた。
「相棒、そりゃあんたが使い手だからだろ」
「使い手?」
「おっと、その話は後にした方がいい。来るぜ!」
次々と襲い掛かってくる荒くれ者達を迎え撃つ燦。
『足止めたらイカン。動き続けなあっという間にやられてしまう』



燦は剣が得意と言っていたが、ルイズもまさかこれほどとは思っていなかった。
まるで打ち合わせでもしていたかのように正確に、そして確実に敵の剣をかわし、一人、また一人と打ち倒していく。
その動きには不安を思わせる要素などなく、つい見惚れてしまう程である。
しかし頭を振ってそんな思いを振り切るルイズ。
何しろ敵の数が多すぎる。燦の体力は無限ではないのだ。



「燦! 私衛士呼んで来る! だからそれまで頑張ってて!」
そう叫ぶと家の裏口に向かって駆け出す。
「え? ちょ、ちょっとルイズちゃん! 危ないからそこ動かんとって!」
焦った燦がそう言うもルイズは既に走り去った後である。
囲まれている上、ここを離れればすぐにでもこの連中も後を追ってくるだろうから、一緒に行く事も出来ない。
包囲の奥の方の人間はどうやらルイズを捕らえに向かったようだ。
そうやって気を逸らされたせいであろう、荒くれ者の振るうナイフが燦の腕をかすめる。
周り中敵だらけなので一度崩れるとそこからは早い、右斜め後ろの男が大上段から振り下ろす剣を受け流しそこない、今度は左肩の先を衣服ごと切り裂かれる。
男が全力で振り下ろした剣は、ただ切り裂くのみならず、燦の体を大きく崩す事にも成功した。
剣の勢いに負けて半ばしゃがみこむように膝を落とす燦。
そこに、殺到する荒くれ者達。
そこで燦は両足に力を込め、全力で大地を蹴る。
男達は目を見張った。
燦の体が大地を離れ、男達の頭上を越える高さまで飛び上がったのだ。
空中で体を捻り、回転しつつ落下、剣を横凪に振るい一人の男の頭部を打ち抜き、しゃがみ込むように着地しながら更にもう一人の足を打ち払う。
同時に燦へと短剣を振り下ろしてきた男に、身をよじりながら逆袈裟に斬りあげて脇の下を強打した。
すぐに剣を横に突き出しながら歩き出す。
突き出した剣は牽制、目線で複数人を威嚇しつつ、数歩歩む事でそれぞれの敵との間合いを外す。
デルフリンガーはそんな燦の動きに感嘆の声を漏らす。
「あそこから立て直すか。やるじゃねーか相棒」
しかし燦には返事をしている余裕が無い。
『アカン、一瞬でも気抜いたら殺られる。集中せな……集中さえしてれば、政さんに教わった剣は無敵じゃ!』
ハウリングボイスは放つと脇が甘くなる。
一息に飛び込める距離で敵に囲まれている場合は使う訳には行かないのだ。
『このままでも戦りきれるけど、早うせなルイズちゃんが危ない。じゃったら……』
視界の片隅に入った路地、燦はそこを使う事に決めた。



ルイズは勝手口から家を出る。
途中その家の人間がとても怯えた目でこちらを見ていたが、申し訳ないとは思ったが無視して通り過ぎた。
路地に出て、そのまま大通りまで飛び出すとそこでルイズを探していた荒くれ者達に見つかった。
「おったぞ! ぶっ殺せおうるぁ!」
その言葉がルイズの癇に障る。こんな下賎な者達にこんな事言われる筋合いは無い。
なので、不快感そのままに大声で怒鳴りつけた。
「あんた達! 貴族相手にこんな真似してただで済むと思ってんの!」
小娘とはいえヴァリエール家の三女。貴族のなんたるかは良く理解しているのだ。
まあ薬中には通用しないのだが。
「何が貴族じゃボケカス死ねコラァ! そがーなもんワシのこの……」
男が上着を脱ぎ捨て、その腹に巻きつけたものを見せ付ける。
「腹マイトにはご意見無用じゃボケがぁ!」
ルイズはそれを信じられない目で見ている。
『何よあれ爆薬? そんなものがどうしてこの街に? ていうか普通自分に捲き付ける? 脅しとかフェイクとか?』
どうやら言葉でどうこうするのは無理のようだ。
かといって、逃げ出すなぞもってのほか。しかし、今のルイズにはやらなければならない事があった。
踵を返して駆け出すルイズ。
衛士達を呼んで来なければ燦が危ないのだ。
「待てやゴルァ! 貴様とワシとでForever with youじゃアホンダラぁ!」
火種を手に持ちながら涎を撒き散らしつつ流暢な発音で追ってくる男。
ふと振り返ってそれを確認したルイズは以後後ろを振り返るのをやめた。

追ってきている男達は既に十人超にまで増えている。
全員上着を脱いで、それが何なのか確認する気すら起きないが、腹に何かを捲きつけていたのだ。
「マイティボンジャックァアアアアーーーーーーーーー!!」
「完全無欠のマイトガイン! 定刻通りにただいま炸裂じゃけぇのう!」
「さあ、心配しないで。僕も一緒に逝ってあげるから……だから腸ぶちまけながら消し飛べクソボケがぁ!」
「……俺、このマイト爆発させたらあの子に告白するんだ」
何があろうと絶対に逃げ切る。そんな決意を胸に抱けるような声を背にルイズは走り続ける。
通行人の間をすり抜け、道を横切ろうとする子供を飛び越え、何故か襲ってきた暴れ馬の後ろ足蹴りを必死の形相でかわし、横合いから短刀(ドス)を腰溜めに構えてつっこんでくる荒くれ者達を振り切って走る。
ようやく衛士の詰め所が見えてきた。
ちょうど十人近くのメイジが出撃の準備をしている所らしい。
隊長と思しき人が馬に跨って指示を出している。
「商店街でヤクザ共が暴れているらしい、皆の者、俺に続け!」
そう! それ! それなんとかして! と心の中で叫びながら彼らの元へと駆け寄るルイズ。
が、衛士達の所にたどり着く前にルイズはそれに気付く。
建物の上で何やらバケツを抱えている者達がいる。
「貴族がなんぼのもんじゃーい!」
そこから水を撒き散らすと、見事衛士達の頭に降りかかる。
「貴様!? 一体何の真似……これは、油?」
「地獄へ墜ちろやクソボケが! ふぁいあああああ!!」
水らしきものをかけ終えると、彼らは屋根から、火のついたたいまつを手に、飛び降りた。
あっと言う間に炎に包まれる衛士達と男達。
「火! 火だぁ! 誰か消してくれっ!」
「うおっ! 凄いぞワシ! 心頭滅却したら火もまた涼しいわい!」
「ひぃぃ! 助けておかあさーん!」
「ホンマじゃ! ワシ等は貴族のボンボンとは気合が違うせいじゃ! おら死ねダボハゼ貴族がぁ!」
「ぎゃああああ! 僕の顔がっ! 顔に火がっ!」
「涼しいのう! 涼しいのう!」
ルイズはそんな地獄絵図を見なかった事にして、横道へと逃げていく。
衛士はダメ。となると別の手段を講じなければならないが、すぐには思いつかない。
走りすぎて息も絶え絶えの現状では無理からぬ。一度何処かで落ち着かなければ。
角を三つ曲がって後ろからの絶叫が聞こえなくなると、すぐ近くにあった喫茶店へと駆け込んだ。
「いらっしゃー……」
マスターはカウンターでグラスを磨いていた手を止める。
ルイズは店に入った勢いそのままにヘッドスライディング。そして地面に突っ伏したまま荒い息を漏らしていた。
「えっと……お客様?」
全身から噴出す汗が気持ち悪い、それが床に流れ込んで水溜りみたいになっているそこに寝転がっているのは最低の気分だったが、それでも体を動かそうという気になれなかった。
「水! ボトルでちょうだい!」
怒鳴り散らすようにそう言う。
ルイズの着ているのが、そこかしこ擦り切れてはいるが一応学園の制服だとわかったので、マスターは言われた通り水を用意する。
ぶっ倒れたルイズのすぐ隣にボトルを置くと、ルイズはがばっと身を起こしてボトルの水を一気に飲み干す。
するとすぐにまた突っ伏してしまった。
「あの、お客様。そこに横になられますと……」
「うるさい! しばらく話かけないでよね!」
理不尽極まりない要求をマスターは無言で受け入れる。
彼はそのままゆっくりと歩いて店を出ると、通りを見渡す。
「クソ女がぁああああ! 何処行きよったんじゃボケがぁああ!」
通りで雄叫びをあげている男に向かって手招き。
駆け寄ってきた男に向かい、自分の店を指差してみせる。
「そぉおおおおおおこぉこここおおおおおかぁあああああ! おどれらワシに続けやぁあ!」
五人の集団が店内へと突入していった。

ルイズは男の絶叫を聞くなり飛び起きる。
店の奥に向かって走り、カウンターを跳び越す。
『あ、足が上がらな』
「だっ! おごっ! あべっ!」
カウンターの縁に足を引っ掛け、そこを基点にぐるんと回り、カウンター奥側の縁に腰が当たり、更にそこを基点に上半身がくるんと四分の一回転。
顔面をまともにカウンターの裏板に叩きつけ、そのままぐるぐるとカウンター奥に転がっていく。
ウェイトレスは口元に手をあてて注意した。
「お客様、カウンターの奥はスタッフオンリーとなっておりまして」
ルイズは転がった勢いそのままに立ち上がって走り出し、裏口から通りへと飛び出していた。
その後を追うように店内に飛び込んできた五人の荒くれ者達も、カウンターを飛び越えて裏口へと駆けていく。
「あの、お客様……」
彼らが去ると喫茶店に静寂が戻る。
ウェイトレスは何事も無かったかのように床を掃除し、カウンターの中を片付ける。
それが終わる頃、マスターが店内へと戻ってきた。
「マスター、そろそろランチメニューは引き上げますか?」
「そうだね。それと張り紙をしておいてくれないか?『ひやかしお断り。通報します』と」



既に二十人以上倒した燦であったが、敵の数は一向に減る気配が無い。
むしろ増えているのではないかとさえ思える。しかし、ようやく狙った場所へと移動する事が出来た。
最後の障害は左前方の二人、その二人さえ倒せば他の連中への間合いは保てる。
燦は剣を構えなおすと、行動を開始した。
一息で二人を倒すと、それで出来た包囲の隙間に走り込む。
その先にあるのは狭い路地。そこなら敵は一度に襲ってこれないが、そこに入ってしまうとこちらもデルフリンガーを振りにくくなってしまう。
そんな路地に燦は躊躇無く駆け込む。
奥がどうなっているのか、燦からは見えなかったが路地に入るとすぐわかった。
レンガの壁が立ち、行き止まりになっていた。
燦はレンガの壁まで走ると路地の入り口に向き直り、大きく息を吸い込む。
「超・音・波・崩壊・励起……」
鬼気迫る表情で男達が路地に殺到する。

「全力全開! ハウリング・ボイス!」



キュルケ、タバサの二人は街の上空からシルフィードに乗ってルイズ達を探していた。
そんな時に聞こえた大音量、そして宙に舞う建造物らしきものの欠片。
キュルケとタバサは顔を見合わせるとそちらへと向かっていった。
案の定、騒ぎの中心にはあの使い魔、燦が居た。
燦は路地からゆっくりと出てくると、剣を背負って片足を倒れた男の上に乗せる。
「これがルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔! 瀬戸燦のケンカじゃあ! まだ文句のある奴ぁかかって来んかい!」
大見得をきった直後、空から舞い降りてきた竜が後ろ足で燦の両肩を掴んだ。
「何? 何やの?」
そのまま滑空しつつ高度を上げていく。
「え? ちょ、ちょっと待って。一体何が……」
大きく何回か羽ばたくと、高度は一気に跳ね上がった。
「なーにーごーとーじゃー!」
燦はちらっと上を見る。
竜の腹、そしてその先に下顎が見えた。

竜は羽ばたきながら自分が掴んだ燦の様子を見る。
そこで燦と竜の目があった。
「か、怪獣じゃーーー!! わ、私なんて食べてもおいしないでーー!!」
先ほどまでの勇敢さは何処へやら。真っ青な顔でがたがた震える燦に、上からキュルケが声をかけた。
「サン、キュルケよ。ほら、医務室で一緒だったでしょ。何が起こったか教えてくれない? ルイズは何処?」
「私怪獣に食べられてまうんじゃー! おーたーすーけー!」
キュルケはタバサに向かって首を横に振る。
速攻で意思疎通を諦めた模様。
それを了解したタバサは強硬手段に出た。
シルフィードは燦を空中に放り投げる。
悲鳴をあげて落っこちる燦、それを下に回りこんでシルフィードが背中でキャッチした。
「いらっしゃいサン」
手をあげて燦を迎えるキュルケ。
燦はきょとんとした顔でキュルケとタバサを見ている。
タバサは騒ぎ出さない燦を見て、これなら安心とばかりに下へと視線を移す。
先ほどちらりと見た先にルイズと思しき者が見えたから。
そして、それは程なく確信へと変わる。
「あそこ」
タバサが指差す先、大量の土煙のその先に、ピンクの髪が走っていた。



もうどれだけ走っているのだろう。
足は震え、腕もロクに上がらない。
走っているだけなのに、何故かお尻やらお腹も痛い。
最後にまともに息を吸えたのはいつだっただろうか。
視界がとても狭くなっている。もう通りの脇に何の店があるのかすらわからない。
それでも足は止めない。
何故?
理由はとうに忘れた。
ただ、足を止めてはいけない、それだけは覚えていた。
しかし、人間誰しも限界があるものだ。
それまでに……何をすればよいのだろう?
それも覚えていない。
なら何時まで走るのか?
わからない。ただ、何をすれば走るのをやめられるかを思い出せない以上、最後まで走り続けるしかない。
最後とは?
そうだ、走れなくなるまで、体が動かなくなるまで、つまり、死ぬまでだ。
ならば、早く死んでしまいたい。
そうすればもう苦しくなんてないのだろうから。
足を止めた瞬間、この世のものとは思えない幸福が私を包むだろう。
この苦痛から逃れるという事は、私にとっては最早最高の幸福と同義である。
ええい、何故私の足はまだ動くのだろう、何故私の腕は振り上げられるのであろう。
さっさと止まってしまえば、私はこれ以上苦しむ事は無いのに。
そうだ死だ。死こそ今の私に許された最後の終着点、ゴールなのだ。
そこに向かってひた走る。走る。走る。
もうわからない。死にたい。走る、死にたい、走る、死ね、走る死ね走る死ね走る死ね走る死ね……
何故だろう?
おかしい、私は空に向かって駆け上がっている。
ならば私は死んでいるはずだ。
なのに何故まだ私は走っているのか?
神よ、始祖ブリミルよ、貴方は死して尚私に苦難の道を歩めというのですか。

「ルイズ! もう走らなくっていいのよ! 聞いてるの!」

急にそんな声が聞こえたが、よくわからなかった。



キュルケ、タバサ、燦の一行はシルフィードで逃げるルイズを上から捉まえると、そのまま街の外まで飛んで一息ついた。
ルイズは完全にグロッキーで意識すら怪しい状態のまま、荒い息を漏らしている。
一応、事情は燦から聞いたためキュルケもタバサも現状は把握した。
「とりあえず、ルイズが乗ってきた馬には私が乗って帰るわ。ルイズがそんな状態じゃ馬に乗るの無理でしょ?」
「ありがとうなキュルケちゃん。ほいでもルイズちゃん大丈夫じゃろか?」
さっきからルイズの様子を見ていたタバサが不意に立ち上がった。
「危険。すぐに運ぶ」
タバサの言葉にぎょっとしたキュルケと燦は同時にルイズを覗き込む。
ルイズは胸のあたりを掻き毟りながら足を交互に動かしている。
息の荒さは相変わらず、全身から流れ出る汗は最早尋常のものではなかった。
「ル、ルイズちゃん! どないしたん! どっか痛いんか!」
「ちょっとタバサ! ルイズはどうしたのよ!」
説明する暇すら惜しんで、タバサはルイズをシルフィードに乗せる。
「キュルケは馬と荷物お願い。サンは一緒に来て。至急学園での治療が必要」



その医師は全ての希望を断たれて椅子に座り込んでいた。
担当患者は男性のみに限定され、最早生きる希望も残っていない。
「さあ、死のう」
手首に当てたメスを引こうとしたその時、部屋の扉が開かれた。
「お主はそれでいいのかな?」
神々しい輝きを背に、杖をついた老人は、医師を試すようにそう言った。
「あ、貴方はもしや……エロ師匠!」
「いかにも。お主のエロ魂はその程度のものだったのかな? たかが規制の一つや二つで諦める、そんな侠だったのかお主は」
何かに気付いたように立ち上がる医師。
「確かに……確かに! 私が間違っていました! そう私は愛よりエロを選んだ男! 目の前の添え膳婚約者よりも道端を歩く幼女誘拐を選んだ男!」
部屋を飛び出し、大またに手術室へと向かう医師。
何の迷いも感じられないその背中は、まるで子が仰ぎ見る父の背中のようであった。
そんな医師の前に立ちはだかる女の影。
「貴方は謹慎中だったはずですよ。余計な事してこれ以上仕事を増やさないで下さい」
そう、誰あろうオールドオスマンの秘書、ミスロングビルである。
「黙れ下郎。私の前に立つなぞ十年遅いわ。その無駄に育った乳削ってから出直せ屑めが」
心底呆れたロングビルが実力行使に出ようとした時、彼女の真後ろから声がした。
「ほほう、貴様は炉の道を逝くか。それは我らエロ者達の中ですら理解を得にくい修羅の道。人の親全てを敵に回して尚歩み続ける覚悟があるというのか」
ロングビルの真後ろから至福の表情で彼女の胸を揉みしだいているのはオールドオスマン、もといエロ師匠だ。
「おーるどおすまん! ちょ! いきなり胸って! ……いいかげんにしてください!」
「隙あり!」
ロングビルが動揺している間にその横をすり抜ける医師。
「ありがとうエロ師匠! 何時までもそのままの君でいて!」
「なっ、何逃げてんですか! そしてオールドオスマンもいつまで触ってんですか!」
ロングビルが真後ろのガラスにオスマンの後頭部を叩きつける頃には、既に医師の姿は見えなくなっていた。



ようやくルイズの容態が落ち着くと、燦、キュルケ、タバサの三人は一息ついた。
後は問題無いので燦が抱えて部屋まで運びベッドに横たえる。
キュルケもタバサも色々と燦やルイズに聞きたい事があったのだが、もうそんな事聞く気力も残っておらず、素直に退散する事にした。
実際、燦も二人を見送った後、ベッド側に置いた椅子に腰掛けたままベッドに上半身を預けるように眠ってしまった。
昼間の大騒ぎが嘘のように静かに眠るルイズと燦。
学園も既に消灯の時間である。
他の生徒達も同じく夢の世界、それを邪魔する者は少なくとも宿舎には存在しない。

「ドクターは一体何やったんです? はい、生食2リッターです」
「なんでも女生徒の治療に乱入しようとして、その友人達に本気で魔法打ち込まれたらしいよ。腹部縫合開始する」
「この火傷と凍傷と裂傷はそのせいですかね? ああっと、待って下さい。足も一緒にやっちゃうんで」
「トライアングル二人と剣の達人が相手だってさ、良くもまあ生きてたもんだよ。テンブレード」
「そりゃすごい。はい、テンブレード。すみません、足、元に戻すんで一緒に引っ張って下さい」
「せーの! 良し。これで踵が前向いてるなんて気分の悪い物見ずに済むな」
「それじゃ私は裂傷の治療にうつりますので、腹部はお願いしますね」
「あいよー。悪い人じゃないんだけどねぇ……誰だよ、この人煽ったの」

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