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ゼロのミーディアム 第一章 -17


フーケが先程の水銀燈と同じように、破壊の杖を脇に抱え込むように構え暗い砲口をルイズ達に向ける。

外れはしたが、当たればそれは確実にあの巨大なゴーレムを打ち砕いていたであろうその威力。
弾が落ちた森の一角はぽっかりと荒れた空き地となっていた。
正に『破壊』の杖の名に偽りなど無い。

「全員杖を捨てなさい」
その破壊の矛先をちらつかせフーケは荒く息を吐く。命からがらあのブレスから逃げ延びたのだから仕方はないか。

ルイズ、キュルケ、タバサは苦渋の面もちで杖を放り投げた。
「お人形さん、あなたもよ。その剣を捨てるの」
水銀燈は無言のまま地に刺したデルフを引き抜きガシャンと地面に落とした。
「お、おい…姐さん…」
「デルフ、情けない声出すんじゃないの」

丸腰の三人の後ろから水銀燈がスッと前に出る。キュルケ、タバサもルイズを守るように寄り添う。
「まだ諦めてないの?あなた達」
「生憎ゲルマニアの女と言うのはどこかの国の女ほど潔い物では無いのでして」
キュルケが軽口を叩くもその顔は緊張に固まっている。その褐色の頬に一筋冷や汗が流れた。

「わわわわ、私だって最後まで諦めないわよ!この子に教えられたんだもの!」
ルイズも震えながらも声を荒げて強がる。
「いいいい生きることは、たたたた戦うことだって!!」
少々呂律が回っていないが彼女もまた恐怖には屈しなかった。タバサも無言のまま頷きフーケを見据えていた。

「……だそうよ。どうするの?土くれさん」
水銀燈は全くもって余裕の表情。この窮地に何が可笑しいのか口元に笑みすら浮かべている。

往生際が悪いとすら言える彼女達の反応。だが、フーケは顔を曇らせて憂いを込めて言った。
「……惜しいね、私のゴーレムに真っ向から挑んだその勇気と実力、そして土壇場での肝の据わった態度、実に惜しいわ……」

何を言っているのだろうか?
そんなフーケにルイズ達が疑問に満ちた視線を送った。
「私は貴族は嫌いだが、あなた達みたいなのは別よ。その姿、上でふんぞり返った無能共に見せてやりたいよ」
そして一つの取引を持ちかけた。

「頭に血が上っててね、跡形もなく吹き飛ばしてやろうかと思ったが気が変わったわ。
どうかしら?命は助けてあげるからこのまま私を見逃してはもらえない?」
その思わぬ提案にルイズ達の動きが一瞬固まる。
そんな中で水銀燈がそれに対しすぐに口を開いた。表情は変わらず口元を釣り上げたままだ。
「いいわよ」

フーケはどこか安堵したように息を吐いた。
「話がわかるじゃないか。賢明な判断だよ」

「水銀燈!何を!?」
使い魔の即答にルイズが思わず驚きに満ちた声を上げる。
水銀燈はそんなミーディアムをチラリと一目見やると途切れた言葉を続けた。

「ただし、破壊の杖は置いて行きなさい。杖の奪還が私達の主の任務なのよ。貴女も分かってるでしょ?」

フーケは眉をひそめた後に少し間を置いて口を開く。
「……あなたには馬車での件でも感心したわ。私の正体に気付いた上であんなフォローしてくれたのだからね」
馬車の件とはキュルケがフーケに身分を追われた理由を聞こうとしたのを止めた事だ。

「それはどうも…。で、答えの方は?」
「だがそれは出来ない相談ね。これは渡せないし、あの子を置いて捕まるなんて私には考えられないもの」
「……さっきの言い分といい、その言葉といい、貴女にも守る人がいるのね」
「ああそうさ、だから私はここで捕まる訳にはいかない。だからお願い。私にこれを撃たせないで」
端から見れば明らかに主導権を握っているのは破壊の杖を向けるフーケの方だ。
それなのに、フーケの方が水銀燈に対し懇願と言ってもよい表情で見逃すよう頼み込んでいる。

撃つのを躊躇するフーケを見やり、根は決して悪い人間ではないのだろうと水銀燈達は認識した。
「……さっきの失言は詫びるわ。貴女がただの盗人では無い事も分かった。……でもこちらも手ぶらでは帰れないわ。見逃すのは、無理よ」

だが水銀燈は譲らなかった。先程の非礼を詫びる意志は見せるも明確に逃すことは否定する。
つまり――交渉は決裂した。

「……残念ね」
フーケが悲しげな面持ちで引き金に指をかける。
「貴女の言い分は分からなくもない」
水銀燈はフーケに歩み寄るようにゆっくりと浮いたまま前に出た。
「……むしろ奪うことしか知らなかった私が、あんな事を言ったのは筋違いも甚だしいのかもしれない」
ルイズに召喚される以前。水銀燈はローザミスティカを姉妹で奪い合う宿命に姉妹の中でも特に執着していた。
それを思い出し彼女は力無く笑みを浮かべ、フーケに前進しながらも右手をかざす。ひらひらと羽が集まり細身の剣が現れた。

「さようなら……」
フーケはたった一言、そう呟く。近づいてくる人形に向け、引き金にかけられた指が引かれた。

しかしその暗い砲口は沈黙を保ち弾も、魔法も出る事はない。それどころか引き金すら落ちもしない。
「な、どうして!?」

カチカチと何度も引き金を引くが破壊の杖はうんともすんとも言わないかった。

「だけど私は退かない」
剣を手にした事で左手のルーンが輝きを放つ。ばさぁっと翼を打ち鳴らし水銀燈はフーケへと翔け出した。

「く、来るな!」
フーケは恐れるように目を見開き破壊の杖を投げ捨て自分の杖を取り出そうとする。
だがそれよりも速く、黒い疾風となった水銀燈が一瞬でフーケとの距離を詰める。そして……

「私も、あの子を守ると約束したのよ……!」
彼女は顔を俯かせフーケの腹に剣の柄をめり込ませて呟いた。

「そん、な…テ…フ……」
「……許しは乞わないわ」
最後にフーケは誰かの名前か何かを呟き崩れ落ちるが、それも言葉半ばに途切れ彼女の意識は闇へと沈んだ。

水銀燈が右手の剣を一振りするとそれは無数の黒い羽となって舞い散る。
そして地面に落ちた破壊の杖を手にとってルイズ達に向き直った。
「……フーケを捕まえて、破壊の杖を取り戻したわよ」
少し後味の悪い終わり方だけど、と心の内でそう呟いた。
そんな彼女にルイズが駆け寄ってくる。
「ええ、お疲れ様…」

水銀燈の傍らに立ったルイズは倒れたフーケを見下ろす。
「この人にも大切な人がいるのよね」
水銀燈と同じ事を感じているらしい。任務は無事完了したが素直には喜べないようだ。

「ねぇ水銀燈、この人が捕まっちゃったら、それを頼りにしてた人は……」

ルイズの悲痛な面持ちでフーケを見下ろしたまま言うが彼女の使い魔は言い終わる前に冷たく言葉をかぶせた。

「考えちゃだめよ。一歩間違えれば私達の命が危なかったのだから」
「でも!」
「月並みな例えだけど人が幸せになると言う事はその分誰かが不幸になると言う事なのよ」

自分達が破壊の杖を奪還し持ち帰るか、フーケが破壊の杖を持って逃亡するか、互いに譲れぬのなら勝った方がそれを手にするしかない。
その結果最悪どちらかが命を落とす可能性すらあったのだ。
「……みんなが幸せになるなんて虫のいい話なんか無いのよ」

もっとも、水銀燈本人も真紅達と戦っていたころには思いもしなかった事だ。
(考えもしなかったわ。戦う相手の事情なんて……)
薔薇乙女としてアリスゲームに参加していた彼女、敵対したドール達にもそれがあったであろう事を今更理解した。

(それでも私はここで終わる訳にはいかないのよ。元の世界に、戻るまでは……!)

水銀燈は瞳を瞑り、これでいい、これでいいのよ。と、小声で自分に言い聞かせるように呟いた。
ルイズはそんな使い魔の様子を見て、ブレスの反動で痛んだ片翼を愛おしげに撫でる。

「翼、またボロボロになっちゃったわね……」
「命あっての物種よ。これで助かったのだから良しとするわ」

朽ちた翼から伝わるルイズの手の温もり、これがミーディアムを守った証だと体感する。
心の痛みを少しだけ和らげてくれるその温もりが、今の水銀燈には有り難かった。
魔法学院学園長室、部屋の主のオールド・オスマンは無事フーケを捕らえ、破壊の杖を手に帰還した四人の報告を聞いていた。

窓辺に立ち外を眺めながら重々しくオスマン氏は口を開く。
「うむ……。よもやミス・ロングビルがフーケじゃったとはな……。美人だったもので何の疑いもなく秘書に採用してしまったわい」

(どういう理由よぉ…)と水銀燈が元より鋭い瞳をさらにキツく細め、苛立つように呟く。
(抑えてよ…)ルイズも小声で耳打ちした。
「いったい、どこで採用なされたのですか?」
後ろに控えていたコルベールが尋ねた。

「街の居酒屋じゃよ。私が客で彼女は給仕をしておったのだが…そこで即決してしまったんじゃ」
(居酒屋の給仕を即決ですって!?)
場にピシッと亀裂が走ったような気がした。水銀燈の顔が凍りつく。いや、オスマン氏意外の人間達の顔も凍りついている。

「……どのような理由で?」
コルベールがジト目でさらに促う。オスマン氏はダラダラと汗を浮かべてその視線から目をそらす。
「き、給仕をしておった彼女のな?お尻をついついこの手が撫でてしまったんじゃ。
……だが彼女は怒らんかったので私の秘書をやらないか?と……」

「へぇ…お尻を、ねぇ……?」
水銀燈はわなわなと肩と声を震わせた。

――その刹那、彼女の眼前で薔薇の種か何かが弾けるイメージがよぎった。

突然、ガシャン!という荒々しい音と共に背にかけたデルフリンガーの鯉口が切られ、その刃が半ばまで抜かれた。
ルイズは慌ててそれを鞘に戻し、それまでだんまりだったデルフが鍔をガチャガチャ鳴らして騒ぎだす。
「だから抑えて水銀燈!」
「とにかく落ち着け!姐さん!」
「止めないでデルフ!ルイズ!この人のせいで!この人のせいで私達がどれだけ苦労したことか!」
目が据わっている。光を無くした紫色の瞳で、不気味な眼光をオスマン氏に向けて水銀燈はルイズの腕の中で暴れていた。
「気持ちは分かるけどよぉ!」
「そうよみんなあんたと同じ気持ちだから!でも我慢して!」
「もう我慢なんかできないわぁ!あの好色爺をジャンクにしてやるんだからぁぁぁーー!」

オスマン氏は羽交い締めにされた使い魔とそれを押さえている主人を見やりハンカチで頬の汗を拭った。
「……魔法も使えると言っておったので採用したんじゃが、やっぱりまずかったようじゃのう……」
言い訳がましく呟くオスマン氏だが、あまりフォローになっていなかった。周りの抗議の視線がグサグサとオスマン氏に突き刺さりそれを物語る。

「……死んだほうがいいのでは?」
コルベールはボソッと呟きそれを聞いていたキュルケが呆れ果ててうんうん頷く。
タバサもまたいつもの無表情でこくこく頷いていた。
ルイズは水銀燈をなだめ落ち着かせる。必死の説得のかいあって、水銀燈も不承不承で剣を納めて引き下がった。
…不機嫌な顔つきで射抜くような眼差しをオスマン氏に向けたままだが。
その視線にばつが悪そうに咳払いをし、オスマン氏が居心地悪くも厳しい顔つきをしてみせた。
「さて、君達。よくぞフーケを捕まえ破壊の杖を取り返して来てくれた」
誇らしげに三人のメイジは礼をした。黒衣の人形は無言でぶすーっとオスマン氏を睨んだまま。
「フーケは城の衛士に引き渡し破壊の杖は無事宝物庫に収まった。つまり一件落着じゃ」

オスマン氏が一人ずつ頭を撫でていった。睨んだままの水銀燈も頭を撫でらると、一つ溜め息をついてその眼差しを緩め呆れた表情になった。

「君達に『シュヴァリエ』の爵位申請を宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。
ああ、ミス・タバサはすでに持っとるから精霊勲章が授与されるはずじゃ」

「本当ですか!」
キュルケが驚きと歓喜の混じった声をあげ顔を輝かせた。
「ああ、無論本当じゃとも。君達はそれだけの働きをしてくれたのだからの」
ルイズも喜んでいたが隣にいる水銀燈を見つめ顔を曇らせた。
「何?どうかしたの?」
その顔を見て水銀燈が首を傾げる。ルイズはオスマン氏の方に顔を向けた。
「……オールド・オスマン。水銀燈には何もないんですか?」
オスマン氏もそれに申し訳無さそうに答えた。
「残念ながら彼女は人形じゃからな……」
「そうよぉ。人形が爵位なんか貰える筈無いでしょ?それに私、そんなの別にいらないわ」
「それはそうだけど……」
今回の騒動は、この天使を模したお人形がのおかげで解決したようなものだ。(まあ事件の発端となったのも彼女なのだが)
そんな水銀燈に何も出ないと聞きルイズは納得がいかないらしい。

「すまんのう」
オスマンの言葉に水銀燈は肩をすくめて興味なさそうに言った。
「気にしなくていいわよぉ。私はただ品評会の失態を返上したかっただけだしねぇ?」

ルイズはそんな使い魔を見て優しく微笑み。
「だから私はあれが失態だなんて思ってないのに…」
そしてせめてものご褒美びに水銀燈の頭を撫でてあげた。
「ふ、ふん……」
銀色の流れるような長髪がルイズの手で解かれる。水銀燈はまんざらでもない様子で少しだけ頬を赤らめた。
オスマン氏がぽんぽんと手を打った。
「さてと、今日は『フリッグの舞踏会』じゃ。事件も無事解決したし、予定どおり執り行うとしよう!」

「舞踏会!!」
水銀燈のそれまでの表情が嘘のように晴れ、彼女もパン!と胸の前で手を合わせた。

「そう言えばそうでしたわ!水銀燈も舞踏会好きなの?」
キュルケが顔を輝かせ水銀燈に聞いた。
「いえ!聞いたことはあったけど初めてなのよぉ!ああ!夢にまで見た舞踏会!」

その一転して翼をパタパタとさせてはしゃいでいる様子にオスマン氏も満足げに微笑む。

「それは何よりじゃよ!今夜の主役は君達じゃ。是非とも楽しんいってくれ。勿論しっかりと着飾っての!さあ、早速用意してくるといい!」

三人が一礼してドアに向かい部屋を退室しようとする。
浮かれていた水銀燈もルイズの後に続くが、ふと何かを思い出したように立ち止まった。

「水銀燈、どうかしたの?忘れ物?」
それに気づいたルイズ振り向きが心配そうに見つめている。
「いいえ、ちょっとね……先に行ってていいわ」
浮かれた顔を正し、黒衣の天使はドレスの裾を優雅に翻しオスマン氏に向き直った。
「少しお時間頂きたいのだけれど。学院長さん?」
「ふむ、何か私に聞きたい事がお有りのようじゃな」
「ええ…色々とね」
「よろしい。ミス・ヴァリエール、悪いがしばしの間君の使い魔をお借りする。…かまわぬかな?」
「は、はい!」
ルイズは心配ながらもオスマン氏の真剣な眼差しに慌てて学院長室を出て行った。


「して、この私に聞きたい事とは何かな?言ってごらんなさい、できるだけ力になろう。なに、君に対するせめてものお礼じゃよ」
セコイア造りの椅子に腰掛け優しくオスマン氏は問いかける。
ふと、その視界の片隅に期待に胸膨らませがら話を待つコルベールが映った。
「あー、わくわくしている所を悪いがミスタ、出来ればこの話は私と彼女の2人っきりで――」
「私は構わないわよ。知らない仲でもないのだし、協力者は多いのに越したことはないわ」

オスマン氏の言葉に水銀燈が口を挟む。本人が良いのならと言う理由でオスマン氏はコルベールもこの場に残る事を許した。
「とりあえずこれから聞かせてもらおうかしら?」

水銀燈はそう言って自分の左手の甲をオスマン氏に向ける。
「これは一体何なの?剣を持つと突然光り出して体が軽くなったの。知らない筈のロケット…破壊の杖の使い方まで分かったわ」

オスマン氏はコルベールと顔を見合わせ悩むような表情を浮かべるが、コルベールに説明を促した。
「これはガンダールヴの印、伝説の使い魔の印だよ」
「伝説の使い魔?」
水銀燈の疑問にはオスマン氏が答えた。
「そうじゃ。始祖ブリミルに仕えし伝説の使い魔ガンダールヴ。なんでも、ありとあらゆる『武器』を使いこなしたらしい」
「あー!そーいやそうだった!俺もようやく思い出せたぜ」
(なんでそんな重大な事忘れてるのよ…)
背負った剣のマイペースさに少し不機嫌になったが水銀燈は無視する。

「始祖ブリミルってこの世界の神様の事よね?」
「そうじゃよ。おお、もしかするとその印はブリミルから贈られたのかもしれんのう」
「ふぅん……こんな神様に喧嘩売ったような姿の人形にそんな物贈るなんて、
いい趣味してるわね。その始祖ブリミルと言うのは」
自分の堕ちた天使のような漆黒の翼とドレスを見やり水銀燈は妖しく笑った。

「これこれ、滅多なことを言ってはいかんよ。始祖はこのハルケギニアに生まれし者達に等しく慈悲を与える。君とて例外ではないのじゃよ」
「だったら尚更酔狂な神様だわ」

この左手のルーン……ガンダールヴについてはとりあえず満足な答えは聞けた水銀燈。すかさず次の話を切り出した。

「――だって私、この世界で生まれた訳ではないんですもの。その言い分だと慈悲とやらは得られそうにないわね」

この世界。と、言う単語にオスマン氏も、コルベールも眉をひそめた。
「え?姐さんどゆ事?」
デルフリンガーも彼女が言ったことをよく理解出来ずに聞き返す。

「おそらくルイズの召喚が私をこの世界に呼んだのでしょうね。
そう、私はこことは別の世界で作られた人形なのよ」

水銀燈の衝撃的な発言は長き時を生きたオスマン氏をも驚かせるには十分な言葉であった。
「あの破壊の杖……あれは私達の世界のロケットランチャーと言う武器なの」
「なんと……」
「マジか!こいつぁ、おでれーた!」

デルフリンガーが背中でおでれーた!おでれーた!と五月蝿く騒ぎ立てた。
水銀燈はそれを鞘に乱暴に押し込んで戒める。
「これで静かになったわ」
(そりゃ無いぜ姐さん……)

オスマン氏は机に肘をつき両手を組んで顔を隠すように俯かせる。
組まれた手の奥から剣呑な眼差しが目の前の漆黒の人形に向けられた。

「このルーンもそれを示したわ。教えて。あれをこの世界に持って来たのは誰?」
それでも水銀燈はその眼光に物怖じせずに問いただす。
オスマン氏は大きく息を吐き顔を俯かせたまま語り始めた。

「……今より三十年前の事じゃ。森を散策していた私はワイバーンに襲われた。まだ私も未熟な上に不意を付かれての……、あの時はもう駄目かと思ったわい」

「それと今の話に何の関係があるのよ?」
「まあまあ、取りあえず今はオールド・オスマンのお話に耳を傾けようじゃないか」
オスマン氏の突然の昔話に水銀燈の機嫌が損なったがコルベールがそれをなだめた。

「だが動けなかった私の目の前でワイバーンは爆散した。見ると後ろに破壊の杖をワイバーンに向けた不思議な出で立ちの男がおった。
私は彼に助けられたんじゃよ」

「その人が破壊の杖を…その人は今どこにいるの!?」

オスマン氏は口を噤んだ。沈んだ顔を上げて水銀燈の紫紺の瞳を見つめる。悲しみに染まった遠い目だった。

「お願い、教えて!」

なおも無言のオスマン氏。だが彼女の哀願の前に、ついに折れて真実を口にする。
「――眠っておるよ、母なる大地に抱かれて安らかにのう…。
いや、彼にはそれすらも語弊があるか。彼は私を助ける前から既に酷い怪我を負っていたのじゃ」

水銀燈が絶句する。オスマン氏は遠い目のままに続けた。
「手厚く看護したがもはや手遅れだった。今でも耳に残っておるわい。ベッドの上でうなされた彼の言葉を、『ここはどこだ。元の世界に帰りたい』――とな」

「間違い無いわ…その人は私と同じ世界の人間よ!」

悲しみに暮れるオスマン氏には悪く思うが彼女はさらに問いただした。
「一体誰が、どうやってその人をこの地に呼んだの?」

オスマン氏は瞳を閉じて首を横に振った。
「悪いがそれも分からなかったんじゃ…最後まで、な……」
「そんな、せっかく帰る手がかりを見つけたと思ったのに……」
水銀燈は悔しげに嘆く。見つけた手がかりはあっと言う間に消えてしまった。

そして、オスマン氏の恩人が迎えた最期に戦慄する。最悪、自分もまたこのまま二度と元の世界に戻れずこのハルケギニアの土と……
「――冗談じゃないわ……!!」
誰にも向けられる事の無い憎しみの感情、やり場のない怒りが心の内に渦巻いた。

水銀燈は鬼気迫った形相で虚空をにらみオスマン氏は再び顔を下に向ける。
何とも重々しいプレッシャーに支配された空間だが頭の眩しい第三者がその空気を破った。

「ミス・水銀燈、今の君にも色々と思うところ有るようですが、一つだけ聞かせてもらえるかな?」
図書館の時とは反対に今度はコルベールが水銀燈に向けて質問した。
「単刀直入に聞こう。君は一体何者なのだね?」

それに顔を俯かせたオスマン氏も反応する。
「うむ、私もそれは知りたかった。報告によれば土のゴーレムと互角に戦い最後にはそれを完全に吹き飛ばしたそうじゃな?」
気持ちを切り替えたオスマン氏は、浮かない顔をキリッとさせ真剣な表情となった。
「宝物庫の件といい、君がただの魔法の人形とは思えない。普通のゴーレム、ガーゴイル等では説明がつかないんだ」
さらにコルベールがオスマン氏の言葉に付け加えた。

顎に手をやり考える水銀燈。
前にも言ったが出来ることならミーディアム以外に、薔薇乙女に関する事項は話したくはなかった。

……だが相手は自分の問いに、分からないことが有るとは言え全て包み隠さず答えてくれた。
そして何より学院長のオスマン氏と教師にして研究家のコルベールの協力を得られるなら心強い。
「背に腹は代えられないわね。いいでしょう、話してあげるわ……」
(「背に腹は代えられない」。彼女がこの言葉を使うのはどうかと思うが)
水銀燈もオスマン氏と同じように大きく一つ吐息をはき、薔薇乙女に関する情報を二人に明かし始める。
水銀燈から一通りの話を聞いたオールド・オスマンとコルベールの驚きようはかなりの物だった。
滅多なことでは動じないオスマン氏も感慨深げに髭をいじっている。

「人形師ローゼンとアリスゲーム、nのフィールド……そして君のような人形があと6体もいるとは!」
研究者たるコルベールは特に興味津々のようだ。
「あの宝物庫やゴーレムを破壊した力は?君の姉妹は皆、あんな事ができるのかの?」
これはオスマン氏の質問。
「いいえ。あれはミーディアムから引き出した力を撃ちだしただけ、言ってみればあれはルイズの力よ」
「あれがミス・ヴァリエールの力じゃと?」
オスマン氏もルイズの噂は聞いている。どんな魔法をも失敗して爆発させる通称ゼロのルイズ。

オスマン氏もルイズの潜在する力があれほどの物とは見抜く事は出来なかったのだ。

「何となく君がミス・ヴァリエールに呼び出された理由が分かった気がするよ」
コルベールが感心するように言った。
「うむ。君のその不思議な能力は、彼女に秘められた力を導くにうってつけと言えるしのう」
まあ、それが何かはわからんがの。とオスマン氏は付け加える。

勝手な事を言ってくれる。水銀燈は内心そう思って苦々しく笑った。
もっとも、それに対し悪い気がしないのをさらに不思議に思う。

……だが彼女がこのままここにずっといるわけにも行かないのもまた事実。
「ラプラスの魔が言っていたわ。確かにこの世界と私の世界は繋がっている。
だけどその間に存在する鏡のような境界を越えることが出来ないらしいの」

実際にラプラスは彼女の目の前に立った。
だが会話すら可能な一見薄っぺらなその境目の正体は、全く通り抜けることの叶わぬ、見た目とは裏腹に分厚い代物だったのだ。

「フィールドを我が物顔で飛び回る悪戯兎ですら通るのが無理ならあの鏡は使えないと見て良いでしょうね。
つまり私は自分の手で帰る手段を探さなきゃならないの」
「野暮な事を聞くようじゃがこの世界に留まろうという考えは無いかね?」
「ええ、きっとこちらの世界も住めば都ですぞ?」

双方聞いてみるが、水銀燈は首を横に振った。
「アリスゲームが行われない以上、考えられないわね。
貴方達は召喚の儀式は神聖だと言ってたけど、私にとってアリスゲームもまた神聖不可侵な物よ。
……その輪から外される事は私達ドールにとって死に勝る苦痛だわ」

「言うなればミス・ヴァリエール……いや、我々は君の存在意義を奪ったも同然と言う訳じゃな」
オスマン氏の言葉に、水銀燈は少し間をあけて、ためらうように答える。
「……あの子を悪く言うつもりは無いけど、否定はしないわ。――だってそれが事実なのだから」
ミーディアムはこの場にいない、水銀燈は本心をそのまま口にした。

直後、彼女の後ろでガタンと扉が揺れる。

「誰だ!」
コルベールが杖を引き抜き扉に向けて振った。魔法によりバタン!と開かれる重厚な学院長室のドア。
そしてその先にいたのは桃色のブロンドの眩しい少女の姿。

ルイズだった。彼女は水銀燈の事が気になりこっそりとドア越しに話を聞いていたのだ。
ところが、今の話を聞いて動揺し、大きな音をたててしまったのだろう。
「ル…ルイズ、も、もしかして今の話を!?」
「え、えっと…その……」
水銀燈の青ざめた表情と震えた声にルイズはもごもご口ごもって後退りする。
そして、それに耐えられなくなったのが無言のまま慌てて走り去ってしまった。

「待ってルイズ!!」

彼女は立ち竦んだ。いずれ話そうと思っていたがまさかこのような形で伝える羽目になろうとは……。
だが、走り去ったルイズが気になり、気を取り直すとオスマン氏との話が途中にも関わらず部屋を飛び出しルイズを追いかけていった。


異邦の人形もまた部屋を去り、ここに残るはオスマン氏とコルベールの二人。長い沈黙の後オスマン氏はコルベールに顔を向ける。
「彼女は…私の恩人じゃ。ミスタ・コルベール、お主もあの子が帰る手段を調べてほしい。無論私なりにも調べてはみる」
「もとよりそのつもりです。……それに彼女のいたという世界の事も興味深いですしね」

水銀燈の助けとなる。それが彼女の神聖な儀式、アリスゲームに横槍を入れた我々の務めだと。
義を重んじる彼らはそう胸の内でつぶやいた。


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