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豆粒ほどの小さな使い魔-12




シエスタと話すようになってから、ルイズの気持ちに余裕ができてきたと思う。よく笑ってくれるようになった。
怒ってるのより、その方がずっといい。
それにシエスタが厨房でよくルイズのことを話してくれるおかげか、働いてる人たちも、ルイズのことそんなに馬鹿にしなくなった。
ただ、私のことはあまり言わないでってお願いしたけど。
今日も、お日様が昇る前の、朝一番の花の蜜を集めてきて、額に一滴塗ってあげるおまじない。これをしてあげるのは、ルイズとシエスタだけ。
いい夢が見られますように。そして、気持ちよく目が覚めますように。

買い物にも行ったし、ここにも随分慣れて来た。左手の使い魔のるーんは、少しも薄くなったりしない。変わらずにここにある。
教科書とは違う文字。
違う国の文字なのかな。
ルイズに聞いてみようと思ったんだけど、別に急ぐつもりはない。
ここに繋がれちゃってる、そんな気がするから。
桃色の花びらに、鳥の胸毛で作った羽ペンで、お母さんと、隊長と、それからみんなへの手紙を書く。
隠れ家を作ったときに、ルイズからもらった宝石箱には、手紙を入れていこうって決めてたから。

きっと、ルイズが私のこと、本気でいらないって思ったら、そのときこのるーんが消えて、私は矢印の先っぽの国に帰るんじゃないかな。

* *


コルベール先生とこうして向き合うと、やっぱりまだ緊張する。
あの時の胸が痛かったのとか、まだ覚えてるから。
「読ませてもらったよ。君が、たった一人でここまで考えていたとは、正直思っていなかった。その点でも君を見誤っていたわけだ。本当にすまなかった」
どうしてだろう。謝ってもらっても全然嬉しいとかやったとか思えない。
それよりも、コルベール先生にこんな顔させちゃったことが、いけないことしちゃったみたいで。
「ミス・ヴァリエール、君には聞く権利がある。座ってくれたまえ」
座りの悪い丸いすに腰を下ろした。
「私は、以前軍に所属していた。幾度かの実戦を経験し、魔術の腕を認められて、ある部隊の隊長を任されるようになった」
抑揚の薄い、平坦でざらざらした声が、私の背中を内側から爪で引っかく。
「詳しい任務の内容を話すつもりはない。君にはそれこそ何の関係も責任もないことだからね。ただ、そこで私は……あまりよくないものを、そればかりを見てしまったような気がする」
先生の研究室は、汚くて、埃っぽくて、わけのわからないガラクタが散乱してて。
だけど先生の背中は、こことは違うどこかに、今も繋がってる。
「ミスタ・コルベールは、そこで……何の魔法を使っていたんですか?」
唾が喉の奥で粘ついて、だからこんな掠れた頼りない声しか出せないんだ。
先生が、力なく笑いながら、よく分かったねと、
「爆発の魔法を使っていたよ」
しばらくの間、私も先生も動けなかった。
「だから、だろうね。君の魔法を見ているのが辛かった。君が熱心であればあるほど、あの時の自分に重なってしまって。君がゼロと呼ばれて、追い詰められていたのも知っていた。好都合だ。君がそのまま潰れてしまえばもう見なくて済むと」
先生。
ハヤテったら、恥ずかしがって、私が見てる前ではお風呂に入ってくれないんです。だけど昨日、泡でいっぱいの湯船から気持ちよさそうに顔を出してるとこ、こっそり覗いちゃいました。
シエスタと今度遠乗りに行く約束をしました。料理長さんにお願いして、特製のお弁当を用意してくれるそうです。楽しみのために、メニューは当日まで内緒だって言われました。
何が入っているか、ハヤテと賭けをしています。
だから私は、先生に飲み込まれたりしません。
先生はいつも、私がゼロと呼ばれるのを止めようとしてくれましたよね。
去年質問をしたとき、わざわざ本を取り寄せてくれたこと、感謝しています。
「先生。私の失敗魔法は、先生の爆発魔法と同じですか?」
「いや、違う」
「でしたら、研究がお好きなミスタ・コルベールにとって、格好の研究材料だと思いませんか?」
マメイヌ隊の副隊長さんも、やっぱり髪の毛が薄いのかな。
「ミス・ヴァリエールは……それで、いいんですか?」
「いいもなにも、私の方がお願いする立場なんですけど。授業の合間を縫って、耳が痛くなるような爆発にたっぷりと付き合っていただこうとお願いに窺ったんですから」
先生のお話の殆どは、私じゃない誰かに向けて話してたと思う。
私を見てください。
私は、先生が昔どこかで遭った誰かじゃないし、鏡に映った先生でもない、ヴァリエール公爵家の三女でトリスティン魔法学校二年生のルイズなんですから。
「今日は、もう遅くなっちゃいましたね」
窓の外は沈みかけた夕日の赤。
ですから、明日こそしっかりと補習をお願いします。
頭を下げて、堂々と背中を向けて、先生の研究室から外に出る。
出た途端、空気に咽そうになって、真っ直ぐ立てない。
壁に寄りかかってずるずると滑り落ちた。口を抑えて、何か出そうになってるのを押さえる。
背中、ドアの向こうから、コルベール先生の笑い声が聞こえた。
泣いてるみたい。
「ハヤテぇ……重くて、こわかったよぉ……」
蹲る私に頬を寄せてくれるハヤテがここにいる一人だったら向き合うこともできなかった本当にすごく怖かった。
「エライ、るいず、ヨクガンバッタネ」
ここにいたら、先生が出てこられないし、他の人にこんなとこ見られるのはもっと嫌だ。
私、意地っ張りかもしれない。
涙を袖で拭って、頬を揉んで強張ってた顔を解す。よし。
これでまた一歩前進だ。
早く顔を洗いに行こう。
「ハヤテ」
「ナニ?」
「……もう一回……よく頑張ったって褒めて」

ハヤテは、本当にすごかったって、そう言って、私の頬にキスをしてくれた。



「ミス・ヴァリエール、もう一度、さっきと同じところを狙って撃ってくれるかね」
「はい、ミスタ・コルベール」
そうして、轟く爆音。
何と言うか、私もだけど、先生も遠慮がなくなったような気がする。
かなり派手にあちこち地面が抉れてるんだけど、まったく気にしてないみたい。
ふむふむなんて機嫌よさそうに頷きながら、羊皮紙に何か書き込んでる。
「爆発と言う現象を取ってはいるが、君のこれは火属性ではないことがこれではっきりした」
「あ、ありがとうございます」
自分でも薄々そうじゃないかと思ってたけど、こうしてはっきり言ってもらえてよかった。
「さて、ここで君に確かめなくてはいけないことがある」
昨日の今日だというのに、先生は元気一杯だ。
「君は、タブーに踏み込む勇気があるかね?」
上から覗き込まれて、思わず唾を飲み込んで、
「あります!」
あれ? 考える前に、言葉が飛び出しちゃった。でも考えたってきっと答えは同じだと思う。
「道ははっきり言って険しい。手がかりも皆無と言っていいかもしれない」
それが何だ。
私はもう、ゼロを怖がらないって決めたんだから。
「私は、君が極めるべき道は、これだと思う」
そう、先生が差し出した羊皮紙の一番最後に、大きな走り書きで、
「虚――っ!」
指を口の前に立てる仕草に、慌てて叫びそうになったのを飲み込んだ。
本当に、無茶苦茶だ。
よりによって虚無か。誰もが伝説と謳い、始祖プリミル以外にその存在を認めないだろう虚無の属性か。
「キョ、ム?」
だけどここに、虚無を畏れないハヤテが、私の使い魔がいてくれる。
使い魔が畏れないものに、主人が背中を向けるなんてそんなみっともない真似、絶対にしてやらないんだから。
「プリミル以来6000年。誰一人として紡いだ者のない伝説の魔法だ」
「ミスタ・コルベール……私思ったんですけど、先生って本当に私のこと嫌いでしょう?」
「よく分かったね。何しろ昨日は思いっきり虐められたから」
虐めてなんかいませんっ
ああもう、笑いが止まらない。
生きてる間に辿り付けるかどうかも分からないのに、それでも挑戦したくなってる。
「やります、先生」
どうせ規格外なんだ。だったら規格外を極めて見せようじゃないか。
「それでこそミス・ヴァリエールだ。私も全力で君をサポートさせてもらおう」
「お言葉に甘えます。まずは教職員専用の図書から、虚無関連の資料を片っ端から」
「はっきり禁書と言いたまえ。分かっているとも」

そして、涙が零れるほど、先生と馬鹿笑いをした。




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