あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

新約・使い魔くん千年王国 第二章 水の精霊

前のページへ   /   一覧へ戻る   /   次のページへ

トリステインとガリアの国境をなす、ハルケギニア随一の名勝《ラグドリアン湖》。
王都トリスタニアから馬車で二日あまり、面積はおよそ600平方リーグ(㎞)。
琵琶湖(670平方㎞)や東京23区(622平方㎞)よりやや小さいが、淡路島(592平方㎞)がほぼ入る広さだ。
青く澄んだその水は、巨大な『水の精霊』そのものだと伝えられ、この湖を支配する生きた神とも言える。
それは死の概念も老いるという事も知らず、永久に存在するため、永遠の誓いを護る『誓約の精霊』とも呼ばれるのだ。

そして、万物の母なる《水》は生物の肉体と精神を司る。かの精霊の体は、それ自体が秘薬と言ってよい。
それこそが『水の精霊の涙』なのだ。その高級な秘薬を手に入れるため、ルイズと松下はここへやって来たのだが……。

「ああ、ようやくラグドリアン湖だわ! そろそろ日が暮れるじゃない」
「どこかで宿をとろう。流石に『魔女のホウキ』でも、結構かかるな」
『二人と四匹』が湖畔に着いたのは、出発が遅めだったので、もう夕方。しかし、急がねばならない。

「ああ、待ってモンモランシー!! まだ泳いじゃダメよ! そんなに遠くへ行かないの!
 ギーシュ!! 土の中から出てきなさい! 彼女を呼び戻して!」

怪奇『蛙女』と化したモンモランシーが湖に跳び込み、使い魔の蛙・ロビンを連れてすいすいと泳ぐ。
『モグラ男』ギーシュはヴェルダンデと一緒にまた土の中だ。もぞもぞと何か貪っている。
「まだこいつらがホウキに乗れてよかった。『ヴィンダールヴ』で操れるのはいいが、もう人間の言葉も忘れたかな……。
 あと三日もすれば魂を乗っ取られ、完全変態を遂げてしまうところだった。危ない危ない」
「……始祖ブリミルよ、私をお許し下さい……罰を受けるべきなのは、マツシタだけですので」
ルイズが涙ながらに祈りを捧げる。さして仲良しではなかったが、友人の変わり果てた姿を見ると精神的に危険だ。

ぐわぐわぐわ、ゲゲゲゲゲ、とモンモランシーが双月を見上げて、楽しげに鳴いている。
それに唱和して、ロビン、ギーシュ、ヴェルダンデ、湖の周りの蟲たちも歌い始める。それが湖面に木霊する。
「おお、なんという見事な交響楽だろう。立派な芸術の域にまで高められている!」
ルイズのしくしくしくしく、という泣き声もそれに和した。


ばちゃり、と湖面で何かが跳ねた。それは人間ほどの大きさがあり、手足もあった。
人影はすいすいと水中を泳ぎ、モンモランシーのところまで寄ってきた。
「うむ? なんだ、あれは?」
「え? …………ああ、あれは『ヴォジャノーイ』という亜人の一種ね。水の精霊に仕えていて、
 小柄だけど怪力で人間を引きずり込んだりするそうよ。彼女を仲間だとでも思ったのかしら……」

ヴォジャノーイ……確か、ロシアなどの水辺に棲む妖怪だったな。
いや、というか、あれはどう見ても……《河童》じゃあないか?
「おおい、モンモランシー! ロビンとそいつを連れて、戻って来い! 聞きたい事がある!」
松下が『右手』を挙げて叫ぶと、三匹はすいすいと岸辺に泳ぎ着いた。

なるほど、河童だ。全身は青緑色でぬるぬるしており、オカッパ頭には皿が、背中には甲羅がある。
口の突き出した猿のような顔で、指の間には水掻きがある。下品なガリア語で話しかけてきた。
「なあ人間、こいつ歌が上手で別嬪さんだなあ! あんたの使い魔か? 俺の嫁にくれよ!」
「残念だが、そういうわけにも行かない。彼女を人間に戻しに来たんだ。もう一人いるが」
「そうよ、貴方は水の精霊に仕えているのでしょう? お願いよ、案内して!」

それを聞いたヴォジャノーイは、吃驚して遠ざかる。
「精霊は今、お怒りだ! この湖は増水して、周りの人間どもの集落を呑み込んでんのさ!
 それもこれも、皆てめえら人間のせいだ! 恨むんじゃねえぞ!!」
彼はばしゃんと水音を立てて、湖の奥深くへ潜って行った……。
「増水ですって? そう言えばなんだか、以前より水位が上がっている気もするわね……」
「あれを見ろ。なるほど、水底に村々が沈んでいるぞ……」

注意して水面を見ると、黒々と藁葺き屋根が見える。精霊の怒りを買うような事を、彼らがしたのか?
「ともあれ、明日調査してみよう。そのあたりの大きな家を捜して、一泊だ」


二人(松下とルイズ)と四匹(モンモン・ギーシュと使い魔たち)は、村長らしき家に泊まらせてもらう事にした。
貴族の子弟『二人』とその使い魔と聞いて、小さな村では歓迎のため大騒ぎになる。

「貴族のお嬢様に御曹子さま、『水の精霊』との交渉に参られたそうで!
 いやはや、助かりました! 女王陛下も領主さまも、わしら辺境の村々をお忘れではなかったんですなあ!」
「どうか、よろしくお願いいたします! 船着場どころかお寺も田畑も持ち家までも沈んじまって、
 わしらの暮らしが立ち行かなくなってるんです! ヴォジャノーイどもは大喜びだし……忌々しい!」
下にも置かない丁重なもてなしだ。不器量な村娘や老婆までも歓迎の踊りを始める。

「そ、そうよ! この私が、女王陛下の内密の詔勅をいただき、直々に来てあげたんだからね! 感謝しなさい!
 この、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール公爵令嬢がねっ!!」
「この度、前線基地の建設監督官に任命されたイチロウ・マツシタ・ド・タルブ伯爵だ。
 事情により、こちらの調査にも来ている。協力してくれ」
へへ――――――っ、と村人全員が土下座する。まだ子供だが、公爵令嬢と伯爵さま(?)のご来訪だ。


「へえ、じりじりと水嵩が増えだしたのは、そう二年半ばかりも前になりますかねえ。
 誰が何をしでかしたのか、メイジでもなく精霊と話せぬわしらには、分かりかねます」
「前の領主のド・モンモランシさまも、数年前の領地の干拓の時にアレの機嫌を損ねて、だいぶ領地を失われました。
 代々交渉役を務めて来られた名家だったんですが、それ以来借金して没落しまして、今は別の貴族が領主さまです。
 お家は存続しておられるらしいんですがねえ……」
「新しい領主さまは、宮中でのお付き合いに忙しくって、めったにこちらには来られません。
 そのくせ、税金は前どおり取っていかれますよ。まあ、アルビオンとの戦争もありますし……」


「ふうーん、モンモランシーの実家のド・モンモランシ家が、前の領主だったのね。
 二つ名はやっぱり『香水』じゃあなくって、『洪水』じゃないの!」
いろいろと情報は入るが、やはり『水の精霊』に会わない事にはどうしようもない。
「『水の精霊の涙』かあ……確か、ご禁制の『惚れ薬』の材料にもなるのよね。相当高いんでしょ?」
「ぼくのポケットマネーでも、なんとか出せる程度にはな」

『水の精霊の涙』、小瓶にほんの少量。それだけで末端流通価格が700エキューは下らない。
年収120エキュー(月収10エキュー)の平民が一人慎ましやかに暮らして、5~6年は生活できる計算だ。
およそ現代日本での円に換算して、仮に1エキューが2万円とすれば年収240万円で、涙が1400万円。
1エキューを1.5万円としても、平民の年収180万円で、涙が1050万円。
間を取って1エキュー1.75万円とすれば、年収210万円のところ涙が1225万円。
庶民の涙がちょちょぎれたって、そうそう出せる金額ではない。


それはさておき、翌朝早く。二人と四匹は、再びラグドリアン湖岸へ向かう。
「ぼくの『ヴィンダールヴ』があれば、河童もといヴォジャノーイぐらいなら操れるだろう。
 亜人にも効くのかどうかは分からないが……さもなければ、実力行使かな」

「『水の精霊』は強いわよ。風で凍らせたり、火で蒸発させたりすればダメージは行くでしょうけど、
 規模の桁が違いすぎるもの。あの湖全体が、一つの生き物と考えていいわ」
「ほう、博識だなルイズ」
「まあね。アレは『全にして個』なるモノで、私たち人類とは根本的に違う存在なの。
 争いを好まないから神代以来あそこにじっとしているけど、怒らせたら怖いわよ。
 少しでも水に触れたら一瞬で精神を支配され、永久にアレの下僕よ。ヴォジャノーイもきっとそうなのかも……」

ふうむ、と松下は思案する。モンモランシーの実家が前の交渉役だと言うなら、彼女を利用すればいいのでは?
「よし、『第三使徒・モンモランシー』よ。きみを『ヴィンダールヴ』の力で操り、交渉役とする。
 ロビンの方は残しておいて、連絡係だ。手に負えないようなら水面まで呼び寄せるのだ」
「グワッグワッグワッ、ゲロゲロゲロ」
モンモランシーから『蛙女』になりかかっているソレは、肯いてちゃぽんと水中に跳び込む。
ルイズとギーシュが心配そうに水面を覗き込む。

やがて、ロビンがクワックワッと鳴きだした。
「おお、ようやく連絡がとれたか。よし、『水の精霊』が出てくるぞ」
ルイズが緊張する。あのタルブでの『虚無』の覚醒から、簡単なコモンマジックは使えるようになったが、
いまだに系統魔法では爆発しか起こせない。強敵には敵わないのだ。

やがて、岸辺から30メイル沖の水面が、虹色に輝いてぐねぐねと動き始める。
それはざばりと持ち上がって蠢き、色と形を変えながら様子を伺っている。
「我、汝を求め、会う事を得ん! 『水の精霊』よ、汝がここに来たれるは嬉し!!」
松下が両手を掲げ、言霊で歓迎する。
「我らに似たる姿を取りて、我が要求に答えよ!」


『水の精霊』はそれに応え、粘土細工のように自ら姿を変化させ、『蛙女』の形となる。
モンモランシーは役目を果たし、岸辺に戻ってきた。

《……我を呼び出したのは貴様か、単なる者よ。この『蛙女』の体を流れる液体を、我は覚えている。
 月が52回交差するほど以前、この女は我と接触した。そして今、我の『欠片』も混ざり合っている……》

「ようこそ、『水の精霊』よ。その女と、ここにいる『モグラ男』の心身を元の人間に戻すため、
 新たな《涙》が欲しいのだ。きみがその女から『欠片』だけを分離できれば、やってみせてくれ」
精霊の表面に、ざざざざざと細波が立つ。

《我にはできぬ。この者の心身と、異様な媒体によって結び付けられ、溶け合っている。
 我の『欠片』を再び与えれば、確かにこの者は元に戻るであろう……》

「では、頼む。できる範囲でのお礼はするつもりだ」
《条件がある。我は今、水を増やす事に力を注いでいるが、そのゆえにか襲撃されている。
 対岸、貴様たちがガリアと呼ぶ地の岸から、ここ数日、毎晩メイジが水底まで来て襲ってくるのだ。
 手下のヴォジャノーイも数体殺された。奴らを撃退すれば、『欠片』を与えよう》

「メイジが襲撃ですって? あ、あの、なぜ貴女は水嵩を増やしているの? そうしなければ、襲われないですむわ」
《汝ら単なる者には、我の価値判断が理解できまい。条件をのめば教える》
ルイズはむっとするが、敵に回せば恐ろしい相手だ。うかつに攻撃は出来ない。

「分かった、『水の精霊』よ。我々がその者たちを捕らえ、二度と害をなさないようにすれば、《涙》をくれるのだな。
 そして、それを実行するに当たって、もう一つ。我々が撃退に成功した場合、水嵩を元に戻してくれ。
 周辺住民に被害が出ており、いずれはきみをまた騒がせる事になるからね」
《よかろう。まずは、奴らを追い払うのだ。この我が、己の誓約を破る事はない》

かくして、二人と四匹はガリア側の岸辺へ向かう事になった……。

(つづく)

前のページへ   /   一覧へ戻る   /   次のページへ

新着情報

取得中です。