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白き使い魔への子守唄 第13話 悪夢の終わり

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日の昇らぬ夜は無い。
何事にも終わりはあるという意味。
じゃあ、これは、いつ、終わる?
終わらせるために戦って、傷ついて、磨き、憎悪をたぎらせる。
いつ、終わる?
仮に日が昇ったとして、その光は何色をしているのだろう。

   第13話 悪夢の終わり

立派な屋敷の割りに少ない使用人の数を不審に思いながらも、
キュルケが「人それぞれ事情があるのよ」とけん制してきたため、
ハクオロ達はあえて何も訊ねず遅い夕食をご馳走になり寝室を用意された。
ハクオロとギーシュの男部屋、ルイズとモンモランシーの女部屋に分かれる。
タバサとキュルケは先日からすでに同じ部屋で寝泊りしていたようだ。
ふかふかのベッドに入り、深い眠りについて、朝爽やかに目覚める。
ただそれだけの、夜。

「……逆に眠れん」
夜が更けて、ふかふかのベッドの寝心地にハクオロはゆっくりと起き上がった。
何せ召喚されてから基本的に藁を敷いた床を寝床にしていたのだ。
シエスタ宅でも寝場所が無かったため、床で毛布に包まっていた。
だから、いきなりこんな上等な寝床を用意されても、寝つけない。
「むにゃむにゃ……薔薇の棘は女の子を守るためにあるのさ」
隣のベッドではギーシュがぐっすりと眠っており、楽しそうな寝言まで言っている。
苦笑を漏らしながら、ハクオロはベッドから降りた。
「……相棒、どこに行くさね?」
壁に立てかけられていたデルフリンガーが、鞘から口を出してきた。
「デルフ、起きてたのか?」
「俺は寝る必要がねーからなぁ」
「そうか。どうにも寝つけないから、ちょっと用を足しにてこようかと」
「なんでぇ、小便か。道に迷うんじゃねーぞ」
「ははは、注意するよ」

「注意していたんだがな……」
トイレから出てきたハクオロは、廊下の左右に首を向けて、溜め息をひとつ。
「ここはどこだ」
寝室を出て、ランプ片手にトイレを探して廊下を歩き、角を曲がり、後戻りをし、
階段を登って、角を曲がり、トイレらしき戸を開けて間違いに気づき、
廊下を歩き、角を曲がり、階段を降り、トイレらしき戸を開けて間違いに気づき、
角を曲がり、廊下を歩き、階段を登り、廊下を歩き、角を曲がり、ついにトイレ発見。
歩いているうちに夜の寒気もあってか尿意の増していたハクオロは、
一心不乱にトイレの中で思う存分用を足すと同時に、
帰りの道順も頭から綺麗サッパリ流してしまった。
つまりハクオロは完全に道に迷ったと言える。

「確か、右の方から来たはずだ。そして、えーと……?」
うろ覚えの記憶を頼りにハクオロは屋敷内を歩き回る。
食堂か、ロビーといった場所からなら帰り道は解るはずだ。
あるいは見覚えのある道に出れば思い出せるかもしれない。
「こんな時間に人を起こすのもな……何とか自分一人で部屋に戻らねば」

微細な空気の流れの変化、寝息にかき消されるほど小さな足音。
それらを気配として察知したタバサは、静かに目を開いた。
目の前にはキュルケのたわわな乳房があり、側頭部には一肌のぬくもり。
腕枕をされて眠っていた事を把握したタバサは、
キュルケを起こさぬようシーツが擦れる音すら無く起き上がると、
ベッドの脇に置いてあった自分の身長よりも長い杖を手に取る。
寝巻きのまま、タバサは廊下に出た。
周囲の空気が張り詰めていく。
タバサの氷のように冷たい精神が身の回りのすべてを警戒。

賊か?
だとしたら人数は?
実力は?
狙いは誰か?
キュルケ達を起こすべきか否か?
凄腕の暗殺者などと戦う場合、実戦経験の少ないキュルケ達は足手まといだ。
狙いがキュルケやルイズではないのなら、わざわざ起こして危険にさらす必要は無い。
それにキュルケ達が屋敷に来ている事を知る人間はほとんどいない。
だから、狙いはキュルケ達ではなく、自分か、あるいは――!!

タバサの思考がそこに至るまで一秒とかからなかった。
だからタバサは、寝室を出て一秒としないうちに目的地へと走り出した。
怒りと憎しみを振りまきながら。

「この扉……うむ、見覚えがある。この扉こそ……元の寝室のものだ!」
暗闇の中、ランプだけを頼りにハクオロは扉を確認していた。
しかもなかなか寝つけなかったための眠気が、今になって丁度いい具合に襲ってきている。
扉を開けたら一直線にベッドに潜り込んでまぶたを閉じよう、ハクオロはそう決めた。
扉を開ける。
部屋が広い。ベッドが大きい。人の気配がするがギーシュのものではない。
部屋を間違えてしまったと気づくと同時に、ベッドの上の人間が半身を起こした。
「誰?」
女性の声だ。
暗がりでも窓から射し込む月明かりのおかげで、長い髪をしていると解る。
「も、申し訳ない。部屋を間違えてしまったようで……」
「そう。そうなのね、あなたも私からシャルロットを奪いに来たのね」
「は?」
「出て行きなさい! この卑劣漢め、私達は屈しない!
 夫を殺せたように私達をも殺せると思うな! シャルロットは絶対に渡さない!」


叫び狂いながら、守るように抱きしめているそれが、
恐らくシャルロットなのだろうとハクオロは思ったが、しかしそうなると、妙な話だ。
女性の胸に抱かれている、赤ん坊ほどの大きさのそれは、
人の形をしていたが、決して人ではなかったし、それどころか生命ですらない。
人形だ。
古びた、小汚い人形だった。
「出て行きなさい! おお、シャルロット。大丈夫よ、私が命に代えても守りますからね。
 だから笑ってちょうだい、シャルロット、笑顔を見せて。シャルロット……」
ともかくこれ以上彼女に関わるのは得策ではないと判断したハクオロは、
「無礼をお詫びします、では」と言って扉を閉めた。
そして振り返ると、そこには杖を構えたタバサの姿が。
「……タバサ?」
「……どうして、ここに」
「厠に行ったのだが、道に迷ってしまって……すまない」
「そう」
ハクオロに害意が無い事が解ると、タバサは杖を下ろして自分の寝室に戻ろうとした。
その後を、ハクオロがついていく。
「……何?」
「いや、だから道に迷ってだな……」
「こっち」
振り向きもせずタバサは答え、客室へと案内する。
道中、ハクオロは悪いと思いながらも、一度だけ聞いてみる事にした。
「タバサ。先ほどの女性は……その」
「母様。心の病気」
「……すまない」
「いい」
最低限の単語だけで答えるというのは普段のタバサと変わらなかったが、
口調からできれば口にすらしたくないという意思と、悲しみと、憎しみが感じられた。
これ以上訊く必要はあるまい、と、彼は思う。
しばらく無言のまま二人は歩いた。ふと、ハクオロは窓の外へ視線を向ける。
双月の光が綺麗だ。しかし冷たい色をしているように感じられた。


風が吹く。
窓は全部閉じているはずだと、タバサは奇妙に思った。
そして、ガラスで覆われているため風が吹いたところで消えぬはずのランプが、消える。
ランプを持っているはずのハクオロの姿を確認しようと、タバサは振り向いた。
灯りが消えたとはいえ、まだ窓からの月明かりで人の輪郭くらいは認識できる。
振り返った先は、一面の黒。月明かりの届かぬ暗黒だった。
「!?」
何事かが起きた。タバサの行動は素早く、現状把握のためライトの魔法を唱えた。
光は闇に呑み込まれ、闇はタバサの方へと侵食していく。
闇の根源は、ハクオロがいた場所にある。
この現象を引き起こした何者かは、彼を最初のターゲットに選んだのか、
それとも彼を利用して何かを仕掛けてきたのか。
ともかく、ライト程度ではラチが開かない。タバサは後退しながら探知の魔法を使った。
反応は、無い。
魔法ではない? ならば先住魔法か。
あるいは、そう、探知に反応せずしかし確かな破壊力を見せた天照らすものに類するものか。
解らない。どう対応すればいいか、まったく。
ならば、今は逃げるのだ。この闇に呑み込まれるよう逃げねばならない。
友を起こし、助けを求め、母を連れてみんなでここから逃げ出すのだ。

「ソノ憎悪……晴ラシタイカ、小サキ者ヨ」

しかしその考えは、聞くだけで畏怖を覚えるほどの重圧な響きによりさえぎられた。
声は、闇の中から。
「……誰?」
「ソレトモ悲シミカラ解放サレタイカ、小サキ者ヨ」
動かない。足も、杖を振るう手も。
酷く喉が渇く。息苦しい。
尋常ではない何かが、ここに、いる。
ここに?
タバサは、それが誰であるか思い至った。しかし。
「与エラレタ機ヲ無ニスルカ、小サキ者ヨ」
「あなたは、誰?」
問わずにはいられない。
暗闇から問いかけてくる者の正体が想像通りだとしても、信じられない。
高い天井に届くほどの高さから、鋭い双眸を光らせて見下ろしてくる怪物を前にしては、
自分の推測などとても信じられない。
気がつけば、タバサに退路は無かった。
前後左右、すべてが闇に閉ざされている。
月明かりの射し込む窓すら見つける事ができない。


「我ガ何者カヲ知ル、ソレガ汝ノ願イカ」
怪物は問いかけてくる。どうやら、タバサから願いを聞き出したいらしい。
いや、口振りからすると、その願いをかなえようとすらしているように思える。
「あなたの望みは何?」
逆に、タバサは問い返す。この怪物の狙いを探るため。
「我ハ眷属ヲ求メテイル」
「眷属?」
「我ニ汝ガスベテヲ差シ出セ。ソノ身体、髪一本、血ノ一滴、魂ニ至ルマデ。
 サスレバソノ代償ニ、汝ガ願イ、カナエヨウ」
「……願いを……かなえる?」
「ソウダ」
暗闇の中で、それが笑う。
しかしタバサは毅然と言い返した。
「必要無い」
「何?」
「私は私の力で成すべき事を成す。誰かの力を借りるつもりはない」
昔読んだ本をタバサは思い出していた。
願いをかなえてもらうため悪魔と契約した主人公が、
最後は悪魔を含むこの世のすべてに裏切られ、後悔と絶望の淵で魂を奪われる様を。
目の前にいる怪異もその類いのものだとしたら、甘言に乗るなど愚行でしかない。
「……ソウカ」
感情の読めない声で、それは言った。
「ナラバ汝ノ母、ソノ手デ救エルトイウナラ、ソレモヨカロウ」
ハッと息を呑むタバサ。
甘言のあまりの甘さに、氷のように冷たく研ぎ澄ました精神が、溶ける。
「サラバダ、小サキ者ヨ」
「待って」
震える声で怪物を呼び止める。気配は、その場に留まったままだ。
……いる。
目の前に、杖を向ければ届きそうな位置に、それはまだいる。
自分の言葉を待っている。
「……母様を、救えるの?」
「母ヲ救ウ。ソレガ汝ガ願イカ」
「質問をしているのは私。母様を救えるの? あの毒を解除できるの?」
「汝、我トノ契約ヲ望ムカ? ナラバ、スベテヲ捧ゲヨ」
胸の鼓動が、早鐘のように打つ。
不安と、期待に。
蜜の甘さに。

「……本当に母様を救えるというなら、救ってみせて。もし、救えたのなら……」


捧げる。
私の魂を。

それは答える。

「今ココニ、契約ハ成立シタ」
「汝ガ願イ、カナエヨウ」
「ソシテ」
「未来永劫、我ガ剣トナリテ我ガ敵ト戦エ」
「未来永劫、我ガ剣トナリテ我ガ敵ト戦エ!」
「未来永劫、我ガ剣トナリテ我ガ敵ト戦エ!!」

闇が消えていく。声が消えていく。それが消えていく。
刹那、タバサは見た。光るルーンの文字を。
ああ、やはり、そうだったのか。
しかし今の自分にとって、そんな事は些細な問題。
タバサは闇が消え去らぬうちからもう、駆け出していた。

走る。走る。これほどまでに走った事が、かつてあっただろうか?
これほどまでに急いだ事が、不安に、期待に、胸が震えた事があっただろうか?

あの日から、狂ってしまった自分の世界。
その扉、震える手で、そっと開く。
月明かりの中、戸の開く音に気づいた彼女が、ベッドから身体を起こした。
こっちを見ている。でも、表情が解らない。
怖い。
拒絶の言葉が、今ならいつもの何倍もの痛みで、胸に突き刺さるだろう。

「……シャルロットなの?」
でも。
かけられた言葉は、とても懐かしくて、あたたかくて。
「母様――!!」
タバサは、母親の胸に飛び込んだ。


「――ハァッ、ハァッ」
飛び起きたルイズは、荒い息遣いで上下する胸を、自らの手で押さえた。
胸が熱く痛む。
ハクオロの夢を見た後はいつもこうだったが、こんなに酷いのは初めてだ。
それに、見ていた夢はハクオロの夢ではなかった。

ハクオロと契約してから、ずっと見ていた、黒い夢。
もう随分それを見ていなかった事をルイズは思い出した。
「……何だってのよ、もうっ!」
苛立たしげに呟いたルイズは、隣のベッドで寝るモンモランシーに視線を向けた。
「むにゃむにゃ……私を恨んだりは絶対にしないでよね……」
何の夢を見ているやら。
「……はぁっ。寝直そ」
ルイズは布団の中に潜り込み、目を閉じた。まだ、胸は熱いまま。

この屋敷の執事、ベルスランが戸をノックする音でキュルケは目を覚ました。
「う~ん……なぁに?」
「ツェルプストー様、朝で御座います。シャルロット様はまだお眠りでしょうか?」
「タバサ? まだ寝て……」
と、ベッドの上を見回して、キュルケの眠気が急速に覚めていった。
「ない、わね。あれ? タバサ、もう起きてるみたいだけど」
「妙ですな、お見かけしておりませんが」
どうやらベルスランは、いつも早起きのタバサが一行に起きてこないので、
様子を見に来たらしかった。が、すでに寝室にはいない。
「どこ行ったのかしら、あの子」
キュルケは手早く着替えをすますと、ベルスランと一緒にタバサを探した。
すると、廊下の壁に背を預けて眠りこけるハクオロの姿を発見する。
なぜこんな所で眠っているのか。
まさか賊に魔法で眠らされたのでは、と最悪の想像が二人の脳裏をよぎる。
「ダーリン! ダーリン起きて!」
平手打ちを受けたハクオロはすぐに目を覚まし、
なぜ自分がこんな所で眠っているのかをキュルケに訊ねた。
当然キュルケが知る由もなく、逆に何でここで寝ているのかを問いただされ、
ハクロオは昨晩の記憶を手繰る。
「確か……厠に行って、道に迷い、タバサに会って、案内をしてもらって……」
「タバサに会ったの? そんな夜中に?」
「あ、ああ。それで、急に眠気が襲ってきて、途中から記憶が曖昧だ」
キュルケとベルスランの顔が蒼白になる。
間違いない。ハクオロはスリープ・クラウドで眠らされたのだ。
そしてその犯人の狙いは当然、タバサか、あるいは。


「お嬢様……奥様!」
真っ先にベルスランがタバサの母親の部屋へと駆け出し、キュルケも後に続いた。
ハクオロもただ事ではない様子に、慌てて後を追う。
走りながらキュルケは毒づいた。
一昨日、ほんの一昨日、誓ったばかりなのだ。
王弟の娘として、王女として幸せに生きていたタバサ。
しかし謀略により父が殺され、母はタバサをかばって毒薬を飲み、心を壊した。
タバサが、いや、シャルロットがタバサと名づけた人形を自分の娘と勘違いし、
今もなお人形を愛娘シャルロットとして愛し、
実の娘を、自分から娘を奪おうとする者と思い込んでしまっている。
だからシャルロットは人形の名前タバサを名乗り、
母を守るためガリア王家からの命令に従っている。
もうあの子は十分苦しんだ。
だから自分の『微熱』でタバサのすべてをあたためて上げたい。
力になりたいと、誓ったばかりなのに。
「タバサ……無事でいて、タバサ!」
目的地に到着したキュルケ達は、部屋の扉がわずかに開いている事に気づき、
何者かが部屋に侵入したという推測から最悪の絵を頭で描いた。

扉を開けた瞬間、そこには、すでに息絶えた母娘が。

「そんな事、あってたまるもんですかっ」
キュルケはベルスランを押しのけ、部屋の扉を突き飛ばすようにして開けた。
「タバサ!」
部屋に飛び込んだキュルケが見たのは、ベッドで眠るふたつの青い髪。
そのうちの一方が身を起こすと、ベルスランの姿に気づいた。
「静かに。シャルロットは、まだ眠っているのですよ」
そう言って、彼女は、人形ではなく、かたわらで眠る少女の青い髪を撫でる。
「お、奥様……何と、これは……」
「何事かありましたか? そちらの方々はどなたです?」
「解るのですか。奥様、お嬢様の事がお解りになるのですか?」
彼女は不思議そうに首を傾げた。
「当然でしょう? この子は、私に残された唯一の愛しい娘なのですから」
母のかたわらで眠る娘、シャルロット、あるいはタバサは、
とても安らかで幸せに満ちた、あどけない寝顔を無防備にさらしていた。

日の昇らぬ夜は無い。
タバサの見ていた長い長い悪夢は、ようやく終わりを迎えた。
でも。
昇った日の色は、何色をしているのだろう。
それは、タバサが目を覚まさなければ解らぬ答え。

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