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薔薇乙女も使い魔 第三部 第2話    『北花壇騎士 上』



 ガリア王国、王都リュティス
 トリステインとの国境部から1000リーグ離れた内陸に位置する。大洋に流れるシレ河
の沿岸に位置し、人口30万というハルケギニア最大の都市。その郊外には壮麗な大宮殿
が見える。世界中から招かれた建築家や、造園師の手による様々な増築物によって、現在
も拡大を続けている王族の居城、ヴェルサルテイル宮殿だ。
 宮殿中心の、薔薇色の大理石と青いレンガで作られた巨大な王城『グラン・トロワ』か
ら離れた場所に、薄桃色の小宮殿『プチ・トロワ』がある。そこには王女イザベラが生活
している。

 その上空を、青髪の少女を乗せた風竜が降下し始めていた。



「いったい、なんなんだい?この任務は・・・」

 肩まである青い髪の少女は、訳が分からないという風で書簡を何度も読み返していた。
その前に立つ、やはり青い髪の少女は、無表情に黙っていた。

「この前の『ド・ロナル伯爵家』の件も酷かったけど、今回は極めつけだねぇ。こんな、
そこらの平民に金渡すだけで出来るようなものに、北花壇騎士をわざわざ使うなんて。と
いうか、こっそりやる必要すらないんじゃないかい?」
 と言って長い髪の方の少女は、さらに年下であろう青い髪の少女を睨んだ。何も答えな
いタバサに、王女イザベラは、ふんっと鼻を鳴らした。
 青く細い目、絹糸のように細く柔らかい髪、大きく豪華な冠。それら全てが、彼女が魔
法先進国ガリアの王女である事を示していた。だが、その下品な仕草と粗暴な物言いが、
彼女が王女に相応しくないと物語っていた。
 タバサは、黙って立ったままだった。

「まぁしょうがないね。全くもって残念で腹が立つけど」
 王女は書簡をタバサに投げつけた。タバサは避けようともせず、頭にコツンと当たって
落ちた書簡を拾い上げ、じっと内容を見つめた。
「ま、そういうわけだ。非常に気にくわないけど、あんたが一番適任って事になっちまっ
たんだろうねぇ。だが、下らなくても任務は任務だ、手ぇ抜くんじゃないよ!」

 タバサを乗せた風竜は、『プチ・トロワ』を飛び去った。



「きゅいきゅい!ねぇお姉様、今回はどんな無茶言われたの?」
 上空3000メイルに来て、風竜―韻竜シルフィード―は、ようやくしゃべり出した。
 タバサは、本を読みながら、一言答えた。
「無茶じゃない」
「えー!やったねー!今度は痛いのないのかな?そうだといいなきゅいきゅい!ねぇねぇ
どんなのどんな命令なの!?」

 タバサは、淡々と書簡を読み上げた。

「ヴァリエール家三女ルイズの使い魔を調査せよ」






 トリステイン魔法学院、アウストリの広場にゼロ戦が置かれていた。
 運んできてくれた竜騎士隊に、コルベールが代金を払っている。
 ジュンは操縦席に座って、なにやら気持ち悪い動きをしていた。


 シエスタの唇
「にへへ・・・いや、今はこの機体を」


 シエスタの瞳
「はあぅ~・・・いかんいかん!機関砲、4丁とも、よし」


 シエスタの胸
「ぐふふふ・・・だあー!違うってんだー!」

 思春期まっただ中のジュン。彼にとってシエスタとのキスは刺激が強すぎたようだ。
 そんな彼の所へ近づく貴族が一人。ある意味、今のジュンと並ぶほど気持ち悪いキザさ
の男、造花の薔薇を口にくわえたギーシュだった。

「竜騎士隊を貸してくれと言うから何かと思えば・・・これは一体何だね?」
「あ、ミスタ・グラモン。竜騎士隊を貸して下さって、ありがとうございました」
「まぁ、父上への口添えくらい楽なものだけど。君もミスタ・コルベールも、何をしてい
るのかね?」
 ギーシュはゼロ戦を気の無さそうに眺めていた。操縦席ではジュンが各部を点検してい
た。
「これは飛行機って言って、僕の国の乗り物なんです。空を飛ぶための」
「空を飛ぶ!?これがかね?」

 ギーシュはゼロ戦を見つめた。

「ヘンな平民だとは思っていたけど…まさかあのコルベール並みに変人だったとはねぇ。
こんなモノが飛ぶわけ無いじゃないか!この翼、どう見たって羽ばたけるように出来てい
ない」
 ギーシュは呆れて立ち去っていった。他の貴族も平民も同様で、すぐに興味を無くして
立ち去っていった。キュルケにしても「なぁにこれ?つまんないのー。一緒に行かなくて
良かったわ」と言って去っていった。
 ジュンは気にせずゼロ戦を点検し続けている。左手の包帯からは光が漏れっぱなしだ。
傍らにはデルフリンガーが置かれている。

「ジュン、これは飛ぶんかね」
「飛ぶさ。昇降舵も垂直尾翼も動く。どこも壊れてない。照準器も生きてる。燃料さえあ
れば、ちゃんと飛べるよ。…滑走路は、どうしようかな」
「これが飛ぶなんて、ジュンの来た世界は、ホントに変わった世界だね」
「あ、その事誰にも言ったらダメだからな!」
「分かってるって。ていうか、俺自身が信じられねぇ。お前さんの世界をこの目で見たワ
ケじゃネーし」
「あぁ、そういえばそうか。てか、その方が都合良いかも」
「おいおい、冷てえ事いうなよぉ。いつか俺も連れてけや」

 さすがに、常にジュンが携帯しなければならないデルフリンガーにまで隠し通す事はで
きないので、ジュン達が地球と往復出来る事を話していた。だが、ジュン達が鏡面から出
入りする所しか見ていないので、地球の存在までも信じると言うのは、ちょっと難しい事
だった。
 そんな話をしていると、おーい、と声をかけられた。ルイズだ。真紅と翠星石もいる。
ジュンは颯爽と飛び降りた。

     どてっ

…つもりだったが、着地の時に尻餅をついた。ゼロ戦から手を離した瞬間にルーンの効果
が切れる事を忘れていたのだった。

「あいててて…ルイズさん、ただいま~」
「おかえりー。で、今回の収穫がコレってわけね。これがあなた達の世界を飛び回ってる
ひこおきってやつなの?」
「そうです。どうやらチャンと飛べますよ」
「へぇ~。この前地球に行った時には見れなかっ」
     むぐっ
 ジュンと翠星石が、ルイズの口を押さえた。

「ぷぅはっ!ご、ごめんなさい。その話はまた後で」
「もう!気をつけて下さいですよルイズさん!壁に耳ありジョージにメアリーですよ」
 翠星石がプリプリ怒っている。だが、真紅は黙ってゼロ戦を見上げていた。ジュンが不
審がり、尋ねる。
「どうしたの?真紅」

 真紅は哀しそうな目でゼロ戦を見上げ続け、ポツリと答えた。
「…また、こんなモノを見る日が来るなんてね」

 その言葉を聞いた翠星石も、やはり哀しげに見上げた。
「そうですねぇ…出来れば、見たくなかったですねぇ」
「そっか。お前等は第二次大戦中も、その前からもずっとヨーロッパにいたんだもんな」

 学校で教わる戦争。第一次・第二次大戦の地獄絵図。ジュンにとっては遠い昔話でも、
薔薇乙女にとっては自分の経験なのだ。

「ふーん。あんた達の世界も、結構戦争があるのねぇ」
 ルイズはへぇ~っと言う感じだ。彼女には別世界の、想像のつかない事なのだから。

 彼女たちの話を聞き、ジュンは改めてゼロ戦を見直した。ルーンの力で状態が完璧なの
は分かる。弾丸も翼内20mm機銃2挺と機首7.7mm機銃2挺、全て満タンだ。おそらく
戦闘に向かう直前だったのだろう。
 そして、このハルケギニアでは各国の小競り合いが日常茶飯事らしい。

 コルベールが燃料を練成し、このゼロ戦が飛んだ時・・・

 ジュンは、その時自分がどうすべきか、想像がつかなかった。
 もしかして自分は、何も考えず好奇心だけで、とんでもない事をしてしまったのか?そ
んな後悔が頭をもたげていた。

 そんなジュンをよそに、ルイズがひそひそと耳打ちした。
「とにかくね、ジュン。これ飛ばす時は、あたしが一番に乗るんだからね。絶対よ!」
「う、うん…分かった。通信機とか余計なモノ外すから、一人くらいは入れるよ」
 曖昧な不安を頭をふって振り払う。今はただ、のんきにルイズや真紅や翠星石を乗せ、
空を飛びたいだけだった。




 放課後の本塔図書館。
 一つのテーブルでルイズが沢山の書物を引っ張り出している。本の山に埋もれながら、
う~んこれでもないあれでもない、と唸っていた。その周囲をホーリエとスィドリームが
ふよふよ漂っている。
 いつのまにやら隣にタバサが立っている事も気付かないほど没頭していた。

 タバサがひょいっと一冊の本を取り上げ、背表紙を読む。
「始祖ブリミルと系統魔法」
「ひゃあっ!・・・あら、なんだ。タバサか」
 ようやくルイズがタバサに気がついた。タバサがルイズの姿を見て首をかしげる。
「ん?ああ、これね。ちょっと始祖ブリミルの魔法について調べてたの」
「虚無は伝説」
「ええ、まぁそうなんだけどね。どっかに何か手がかりでもないかと思ってね~。でも、
やっぱり無理みたい。はぁ…こんなところで見つかるくらいなら、6000年も伝説とか
言われないわよねぇ」

 ルイズは、タバサが自分から他人に声をかけたのを見たのは初めてだ、と思い出した。
 タバサは何も言わず、ルイズの前に立っている。

「ところで、もしかして私に何か用?」
 タバサがコクリと頷く。
「ひこおき、飛ぶ?」
「ああ、その事ね。私には分かんないけど、ジュンが飛ぶというなら、飛ぶわ」

 タバサは首をかしげ、ついで周りをキョロキョロ見る。

「ジュン達ならいないわよ。街へ用事を言いつけてあるの」
「いつ戻る?」
「さぁ?早ければ明日の朝だけど、遅かったら数日後ね」

 本当は、学校へ通うため地球に帰っている。近道を発見したおかげで、かなり気軽に移
動出来るようにはなったものの、さすがに『地球の学校で勉強する→ハルケギニアに来る
→魔法の勉強をする→地球に帰る→・・・』を毎日していてはジュン達の体が保たない。
というか、寝る暇がない。
 だからこれからは、土日祝日はハルケギニアで過ごすが、平日はジュン達の都合次第、
ということになった。

「なあに?珍しいわね、あなたが自分から他人に話しかけるなんて」
「ひこおきを知りたい」
 タバサは相変わらず淡々と言うが、ルイズはキョトンとなった。
「…信じられないわね。空を飛びたいなら、あなたの風竜に乗ればいいじゃない?」
「東の世界の技に興味ある」

 何の感情もこもらないように見える目だが、じっとルイズを見つめている。

「ふぅん…まぁいいわ。でも、私に聞いても無駄ね。あれの使い方が分かるのはジュンだ
けよ」
「乗れる?」
「ダーメ!あれはジュンが手に入れたんだからね。使い魔のモノは主のモノよ。だからあ
れはあたしのモノでもあるの。ぜーったい触っちゃダメ!」
「宝物庫」
「むぐっ・・・古い話をぉ」

 『エレオノールとルイズの大喧嘩で宝物庫の壁が壊れた。そのせいでフーケに破壊の杖
を盗まれた』。これを秘密にする事は、タバサとキュルケが、ルイズへの貸しにしたまま
だった。
 学院としてはエレオノールに弁償させたし、盗まれたモノも戻ってきたので、それ以上
責任を問うつもりはなかった。だがそれでも、表沙汰になればスキャンダルなのは変わり
ない。

「貸し借りゼロ」
「うぐぐぐ・・・わ、分かったわよ。宝物庫の件、秘密は守りなさいよね!」
「守る」
「うー、いい?杖にかけて守りなさいよ!」
「杖にかけて」
 タバサとルイズは互いの杖をかかげた。二つの光球が二本の杖の周りをクルクル回る。


 そのころ厨房では、シエスタがぼーっとしていた。
 食器を洗う手も、さっきから止まったり動いたりを繰り返している。

 あたしってば、なんてことしちゃったんだろ。そりゃ、ジュンさんは3つしか違わない
けど、見た目はまだ子供じゃないの。

「おい、シエスタ」

 確かに、モット伯から助けてくれた恩人だし、あのフーケと戦える程の剣士だし、メガ
ネ外すとなかなか可愛いし、ミスタ・グラモンの事でも恩着せがましくしなかったし、控
えめで勇敢な子よね…でも、でも、それとこれとは別じゃない?

「おい、シエスタってばよ」
「ちょっと、聞いてるの?」

 ああ、でも何年かしたら、すごい美青年になるんじゃないかしら?彼はきっと騎士にも
なれるわよね。背は低いけど学はあるみたいだし、真面目ね。ミス・ヴァリエールの使い
魔をしてるんだから、ヴァリエール家の執事とかもなれるんじゃ?

「おいこら!シエスタ!」
「ねーえ、帰ってきてよー!」

 性格だって、とっても大人っぽいし、子供扱いはないんじゃないかしら?そうよ!この
際、身長とか年下とかは気にしたらいけないわ!性格と将来性に賭けてみるべきよっ!

「おう、ジュン。来たのかよ」
「あらジュンさん、シエスタならそこに」

 ガッチャーンっ!
「ええっ!ジュンさんっ!?ど、どどどこ??どこどこ!?・・・あ」
 洗っていた皿を落として割ってしまった。

 慌てふためくシエスタを、マルトーとローラがニヤニヤ笑いながら眺めていた。
「おーっと、人違いだったようだな、すまんすまん」
 わざとらしく言うマルトーだった。そしてローラがシエスタの横にすすす~っと近寄っ
てくる。耳元でささやく。
「ねぇ、何があったのよぉ」
「な!何も無いわよっ!」
 思いっきり赤面して力強く否定しても、説得力はゼロだった。
「ぐはははははっ!まさかシエスタが年下好みとはなぁ!意外だったぜ」
「ちちっち違いますっ!どどどどどうして私があんな子供と、子供と!」
「子供と・・・なんでい?」
「えっと、その、あの・・・子供と・・・」

 マルトーに聞かれて、シエスタは顔を赤くしてうつむく。黙ったまま、無意識に彼女の
指が自分の唇をすぅっと撫でてしまう。
 その仕草を見逃すローラではなかった。
「キスしたのね!?」
「はうぉ!しししっ知らない知らない知らない!そんなのしてないしてないぃっ!!」

 必死に否定するシエスタだったがもう遅い。わらわらと他のメイド達も集まってきた。
「なになに!?やっぱりシエスタはジュン君狙ってたのね!」
「もうモノにしちゃったんでしょ!ハッキリ言いなさい!!」
「やーんもう、これは犯罪ねぇ。子供に手を出すなんてぇ~」
「いやいやジュンちゃんって実は14歳なんですってよ」
「きゃー!ぎりぎりオッケーなの!?マジなのー!?」
「でもあの子、背は低いし子供にしかみえないよぉ」
「でもでも剣士で、魔法人形遣いで、頭良さそうじゃない?…将来性バッチリよ!」
「今からツバつけとこうっての!?やるじゃない、ねぇ」
「違うーっ!あたし、あたしそんなつもりじゃあ」
「だったらどんなつもりなのよ~?キチンと説明しないかー!」
「なななによ説明って!?カミーユもドミニックも、みんないい加減にしてよーっ!!」

 どこの世界も、いつの時代も、他人の恋愛は最高の娯楽だった。


 次の日の朝。コルベールの研究室にジュンとコルベールがいた。
「・・・というのが、僕の国でのガソリンの作り方です。その他の細かい材料とかは、素
人の僕にはこれ以上は分かりません。でも大まかには合ってると思います」
「なるほどなるほど!うんうん、そんなに高い温度で蒸留するのか…いやーありがとう。
これで、練成にもめどが立ちそうですぞ!」

 ジュンはコルベールに、ネットや参考書で調べたガソリンの作り方を伝えていた。

「ところでジュン君。前から不思議だったんだが…君の国では平民でも、そんなに学があ
るのかね?」
「学…と言われても、この国の平民がどうなのか、僕はよく知らないんですが」
「つまり、平民でも字が普通に読めたり、ガソリンなんていう特殊な油の作り方を知って
いたりするのですかな?」
「え!?…あ、そうか。う~んと、どう言えばいいのかな…」

 ジュンはネット世代。一般人がいろんな知識を持っている事が不自然、という発想が無
い事に気付かされた。さて、どのくらい話したモノだろうかと、ジュンは頭を捻って、日
本の社会のおおまかなところくらい話しても問題ないか、と結論を出した。


「平民でも皆、読み書き計算は必ず出来ますよ。外国とか社会とか、重要な産業の事とか
も習います。ほぼ全員、子供のウチは学校に行ってます。それに、図書館は誰でも使えま
すから」
「ううむ、なんと素晴らしい国ですか…そんなに教育に力を入れているとは」
「素晴らしいのかなぁ?僕にはよく分からないですけど」
「いやいやいや!君にとってはそれが当然だからわからんでしょうが、教育とはですな」

 コルベールが拳を握りしめ、熱く教育論を語り出しそうになったので、ジュンは退散す
ることにした。

「あの、僕はルイズさんの所へそろそろ行かないといけないので、それじゃまた。あ、そ
れと滑走路の件、お願いしますね」
「そう、それは国家の基礎となるべき!・・・え?ああ、分かりました。ではまた」

 研究室を出て寮塔へ向かうと、タバサが立っていた。彼の前にトコトコとやって来る。
「ひこおき、乗せて」
「え?…タバサさんが乗りたいんですか?」

 無表情なままコクリと肯く。

「あの、『フライ』が使えるし、ウィンドドラゴンまでいるのに、なんでですか?」
「東方の技に興味ある」
「…ん~別に僕はいいです。タルブへ送ってくれたお礼もあるし。でもルイズさんは」
「宝物庫の件の貸しでオーケーって」
「なーる、それなら構いませんよ。でも、まだ乗れません。先生が燃料作ってから、ルイ
ズさんと先生を乗せた後に、でよければ」
「それでいい」

 といってタバサは僅かに頭を下げて礼をした。だが、まだジュンをじっと見ていた。
 ジュンが首をかしげる。

「あの、なんでしょうか?」
「馬で街へ行ってた?」
「ええ、街へ・・・うま?」

 一瞬、ジュンは動揺が顔に出そうになるのを、必死で我慢した。感情を押し殺し、表情
を変えないよう、自分を押さえつける。

「いえ、違いますよ。僕は実は、馬に乗れないんです。僕の国の馬は、普通の人ではめっ
たに乗れないモノですから」
 今度はタバサが首をかしげる。
「…どうやって街へ?」
「それは、秘密です♪でも、タバサさんも知ってるんじゃないですか?」
「街まで走った?」
「ふふーん、どうでしょう?んじゃ、燃料が出来上がるの待ってて下さいね」

 ジュンは一礼して、ルイズの部屋へ戻っていった。その背中を、タバサがじっと見つめ
ていた。




 ルイズの部屋に入ったジュンは、不自然にゆっくりと扉を閉めた。

「ぶふぁあ~、危なかったあ~…なんで気付かなかったんだろ」


 ジュンは壁に背を預け、ずるずると腰を落とした。
「ジュン・・・ちょっと」
 と、声をかけたのは、制服を着ようとしていた下着姿のルイズだ。
「ひゃっ!ごめんなさい!!」
 慌てて外に飛び出した。

「もう、いいかな…?」
 改めてビクビクしながら入ってきた。
    ごすっがすっ
 入ったとたんに真紅と翠星石に脛を蹴られた。
     ばこっ
 ルイズの投げた本が頭に命中した。
「いだだだ、あにすんだよぉ~」
「あたしの着替えを覗いておいて、あにすんだも無いわよ!」
「鼻の下をだらしなく伸ばしてるからですよぉーだ!お仕置きは当然ですぅ!」
「ジュン。紳士たるもの、レディの部屋にはいる時はノックを忘れちゃダメよ」
「だははははっ!ジュンよ、ここは素直に謝っておけよ」
「うう、ごめんなさい。…なんだよぉ、前まで平気で僕の前でも着替えてたクセに…」
   ぼこすかどか
 三人に蹴られ殴られ鞄を投げつけられた。デルフリンガーがさらに大笑いしていた。


「…というような話をしたんだ。危なかったよ」
 痛む頬や脛ををさすりながら、ジュンはタバサとの会話を皆に説明していた。
「え~っとよぉ、ジュンよ。俺にはよくわからんのだが、何が危なかったんだ?」
 デルフリンガーが尋ねてくる。彼に首があれば、多分首をかしげていただろう。

 顎に手を当てていた真紅が答える。
「ここから王都トリスタニアまでは馬で2~3時間、というか学院はこんな辺鄙な場所に
あるのよ。風竜も魔法も使えないジュンがどこかへ行くには、馬を使うはずよ」
「でもですね、ジュンは馬に乗れないですしぃ、使った事もないですぅ。それは厩舎の人
に聞けば、すぐ分かりますぅ。そもそも、ジュンが一人で乗馬している所なんて、誰も見
た事は無いですよぉ」
 翠星石もトコトコ歩き回りながら、推理を続ける。ルイズもウンウンと頷きながら言葉
をつなぐ。
「そうね、つまり『馬を使ってないなら街に行ってない。ではどこに行ったのか?』と怪
しまれるワケよ。そして、学院の門を見張りだせば『学院から出ていない』ことも、すぐ
気付くわね」
「ほっほぉ~、なるほどねぇ、こりゃおでれーた。んじゃ、あの娘ッ子にはもう怪しまれ
たんじゃねぇのか?」
「いえ・・・そうでも無いと思うわ」

 真紅が推理し続ける。どこかの名探偵なノリらしい。

「私達が最初にトリスタニアへ行った日、タバサとキュルケは帰り道に私達を尾行してい
たわ。なら、『ジュンは馬並みの速さで街から学院まで走れる』事を見ているわね」
「そのとーりですぅっ!」
 翠星石がビシィッっと真紅を指さした。
「ジュンがタバサさんに『街まで走った』と暗に言ったのは、おそらく正解ですよぉ。余
計な言い訳しなくて済みますからぁ」

 これを聞いたルイズは、腰に手を当てて誇らしげに胸を張った。
「ふっふーん♪これでタバサはジュンの言葉を疑わないわね。ま!あたしのおかげね、感
謝しなさーい♪」
「いや、あれはただの嫌がらせじゃ」
    ぽかっ!
 ジュンの突っ込みにルイズのげんこつが飛んだ。


「こりゃおでれーたわ!なるほどなー、俺の頭じゃぁそこまで考えられネーわな。ホント
におでれーた!」
 デルフリンガー以外の全員が、あんた頭どこ?と突っ込みたいのを耐えた。

「さて、そろそろ朝食の時間よ。お話はここまでにしましょ」
 話を切り上げようとするルイズに、真紅が口を挟んだ。
「でも、私達が地球に行ってる間の不在を、どうやって誤魔化そうかしらね」
「まぁ、『秘密よ』『ナイショ♪』とかでいいんじゃない?それでダメなら『学院の中に
いると思うわ、多分だけど』で、どうかしら」
「そうですねぇ。ヘタにウソつくと、バレた時がやっかいですよぉ」
 ルイズの言葉に、翠星石も頷く。だが真紅は、まだ考え込んでいた。
「そうね、それで行きましょ。…でも、タバサという人は、そこまで疑ってジュンにカマ
をかけたのかしら?」

 真紅の疑問に、ジュンも考え込んでしまう。
「うーん、あのタバサって人は無表情だから、何を考えてるのか分からないよなぁ。…で
も、単に世間話のつもりだったんじゃないかな?」

「まっさか、そこまではあるめぇよ。お前等の考え過ぎじゃねえのかい?」
「ん~、そうねえ。確かにあのタバサって娘は何考えてるか分からないけど、そこまで疑
う必要はないんじゃない?」
 デルフリンガーのノンキなセリフに、ルイズも同意した。
「ん~、やっぱそうかもな」
「そうね、とにかくこれからも気をつけましょう」
「ですねぇ。それじゃ、朝ご飯に出発でーすっ」

 ルイズ達は陽気に食堂へ歩いていった。




 アルヴィーズの食堂は、貴族達の朝食中。
 ジュン・真紅・翠星石は、いつものように入り口横のテーブルで食べていた。
 そんな彼らの姿を、パンをほおばりながらタバサが見つめていた。
 ジュン達を見つめるタバサを、取り巻きの男達と談笑するキュルケが見つめていた。
 そしてキュルケもジュン達を見た。シエスタが飲み物を注ぎに来ていた彼らを。

 --あら、あれってこの前言ってたメイドの、えと、シエスタって言ったっけ。あら、
何かモジモジしてるじゃないの。あらやだ!ジュンちゃんまで顔真っ赤にしちゃって!
あ、メイドが走って逃げた。あらあら、ジュンちゃんたら、お人形さん達につねられてる
わ。これは、恋ね!やーん、やっぱり一緒に行けば良かったぁ~。こんな面白いの見逃す
なんてぇ~。
 …あれ?ちょっと待ってよ、それをなんでタバサがじぃ~っと見てるのよ。この子がこ
ういうのに興味を持つなんて、初めてじゃないの?・・・ま、まさか!タバサにも春が来
たって言うの!?
 そういえば、タバサとジュンちゃんって、年は一つしか違わないのよね。背格好も似た
ようなモノだし。それにジュンちゃんって、やたら勉強熱心だわ。魔法も使えないのに、
魔法の勉強なんて何故だろって思ってたけど。あの真面目さ、不思議さは、タバサと合う
んじゃないかしら?
 でもタバサに限ってそんな事・・・ああでも、もしそうなら!きゃー!なんて面白そう
な三角関係なのぉ!!

 キュルケの興味は恋愛ごとだけのようだった。



 午前の授業中、ジュンと使い魔達はルイズの周りで座っている。ルイズはジュンに授業
の内容を、小声でわかりやすく説明し、ジュンは熱心に聞いている。その様子を、やっぱ
りタバサがじっと見ていた。
 そして、そんなタバサをキュルケがワクワクしながら見ていた。


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