夜空を見上げるたび、奴の事を思い出せ
ナイト ライダー それが奴の名前だ
ナイト ライダー それが奴の名前だ
MADMAXより
ルイズとシエスタが争い、時に共闘し、KITTを巡って騒動を繰り返していた日々を突然の政変が襲った
ルイズの暮らすトリスティン王国、それを擁するハルケギニア大陸の上空を回遊する浮遊大陸アルビオン
最強の竜騎兵と巨大な飛行戦艦を擁する空の軍事国家が、トリスティン王国に宣戦布告をしたという
最強の竜騎兵と巨大な飛行戦艦を擁する空の軍事国家が、トリスティン王国に宣戦布告をしたという
続々と入ってくる戦局の趨勢に学院の生徒や職員は無関心で、日々の授業はいつもと変わる事無く行われた
戦地の情報を王宮に報告する伝令騎兵の中継地となっているトリスティン学院に、あるニュースが入った
アルビオン軍旗艦レキシントン号及び竜騎兵部隊、タルブ村に置いてトリスティン本土侵攻作戦開始
タルブ
ここから早馬で丸二日ほどの場所にある風光明媚な農村、王都と隣国に等距離の位置にある要衝
この学院に住み込みで働いているシエスタの出身地、彼女の父母と弟妹達が暮らし、曽祖父が眠る故郷
ルイズとはKITTを巡るライバルであるシエスタ、その帰るべき地が戦乱に踏み荒らされつつあった
ニュースを聞きながらも淡々とメイドの仕事を続け、気丈に振る舞うシエスタを見ていたルイズは
その報せを聞いた日の深夜過ぎ、祈祷書をドアポケットに放り込み、KITTのエンジンを始動させた
その報せを聞いた日の深夜過ぎ、祈祷書をドアポケットに放り込み、KITTのエンジンを始動させた
エンジン音をほぼ無音にするウィスパーモードで学院の敷地を出ようとするルイズとKITTは
門の前に立つシエスタの姿を認めた、私服のワンピースの上にマイケルの革ジャンを羽織っている
門の前に立つシエスタの姿を認めた、私服のワンピースの上にマイケルの革ジャンを羽織っている
「・・・・・・ミス・ヴァリエール・・・お待ちしていました・・・・・・さ、助手席のドアを開けて頂けますか?」
ルイズがKITTと共にタルブに向かうと聞いたシエスタは、自分も一緒に戦いに行くと言い張った
「バカっ!これから私とKITTが行くのは戦場よ!メイドのあんたに出来ることなんて何もないのよ!
あんたなんか嫌いよ、死んじゃえばいいと思ってるけど、死なせるわけにはいかないの・・・・・・絶対に・・・・・・」
あんたなんか嫌いよ、死んじゃえばいいと思ってるけど、死なせるわけにはいかないの・・・・・・絶対に・・・・・・」
KITTから出て、シエスタの両肩を掴み怒鳴るルイズの目を、シエスタは覚悟を宿した黒い瞳で見つめる
「もし本当に・・・死ぬような目に遭うんなら、なおさらミス・ヴァリエールを一人では行かせられません
私は自分の故郷とKITTさん、大切なものを全部無くして生きていけるような強い女じゃありません」
私は自分の故郷とKITTさん、大切なものを全部無くして生きていけるような強い女じゃありません」
ルイズはシエスタの一途な瞳から目をそらした、月に照らされたKITTの黒い肌を指でそっと撫でる
「KITTは何があっても大丈夫よ、でもわたしは違う、だから・・・だからこそあなたは連れていけないの!」
ルイズがもう一度シエスタの瞳を見つめる、鳶色の瞳からは高慢さは消え、ただ彼女の想いと願いを映す
「もし・・・わたしが死・・・ダメになった時・・・あなたがKITTを……お願い・・・・・・あなたにしか頼めないの」
ルイズは決めていた、使い魔として一方的に召喚したKITTを、この世界で決して一人にはしないと
ルイズは決めていた、使い魔として一方的に召喚したKITTを、この世界で決して一人にはしないと
シエスタはKITTのフロント・インジケーターを見て、それから長い間ルイズの瞳を見つめていたが
いつも着ている黒い革ジャンを脱ぐとルイズにそっと手渡した、着古した革ジャンにルイズは目を落とす
いつも着ている黒い革ジャンを脱ぐとルイズにそっと手渡した、着古した革ジャンにルイズは目を落とす
「この季節・・・タルブはまだ寒いですから、特別に貸してあげます・・・勘違いしないでください・・・
ミス・ヴァリエールが必ず、KITTさんと、この学院まで帰って来て、その手で、私に返してください
それが出来ないのはわたしへの・・・KITTさんへの裏切りですから・・・約束、していただけますね?」
ミス・ヴァリエールが必ず、KITTさんと、この学院まで帰って来て、その手で、私に返してください
それが出来ないのはわたしへの・・・KITTさんへの裏切りですから・・・約束、していただけますね?」
ルイズは自分のマントを外し、マイケルの革ジャンを着込むと、メイジのマントをシエスタに投げつけた
「これ洗っときなさい!わたしはちょっと竜騎兵と戦艦落っことして夕食までには帰る予定なんだから
あんたがそのナマイキな体でKITTをいやらしく洗う時みたいに、丁寧に洗って私に届けなさいよ!」
あんたがそのナマイキな体でKITTをいやらしく洗う時みたいに、丁寧に洗って私に届けなさいよ!」
ルイズはリトラクタブル・ライトをポップアップさせると、ヘッドライトの白光と暗視装置で夜道を照らし
グッドイヤーのタイヤで芝を蹴りたてながら学院を飛び出した、バックミラーを見ることは出来なかった
ミラーに映る学院と掌を合わせ祈るシエスタを見てしまうと、自分の決心が鈍ってしまいそうだったから
グッドイヤーのタイヤで芝を蹴りたてながら学院を飛び出した、バックミラーを見ることは出来なかった
ミラーに映る学院と掌を合わせ祈るシエスタを見てしまうと、自分の決心が鈍ってしまいそうだったから
「・・・・・・帰ったら・・・・・・あんたと一緒に、KITT洗ったげなきゃいけないんだから!」
KITTは緊急走行のパースート・モードで平原を飛ばし、馬で二日かかるタルブまで3時間で着いた
夜が明け、陽の光の下に晒された戦地、美しい風景を誇っていたタルブの村はひどい有様だった
村人の多くは森に逃れていたが、家々は焼き尽くされ、村の自慢である葡萄畑は無残に踏み荒らされていた
「ルイズ、戦線は草原地帯の東端に展開されています、どうやら状況は当方に不利なようです」
ルイズはタイプライター式にキーの並んだKITTのセンターコンソールをブラインドタッチで操作した
メインモニターにイージス艦のCICに似た三次元図が表示され、地形と移動物の位置をルイズに教える
それらの装置とこれから必要になるであろう装備の操法はここに来るまでに速成でKITTに教えられた
メインモニターにイージス艦のCICに似た三次元図が表示され、地形と移動物の位置をルイズに教える
それらの装置とこれから必要になるであろう装備の操法はここに来るまでに速成でKITTに教えられた
攻めるアルビオン勢と守るトリスティン兵士はほぼ同数、しかし戦艦の支援を受けた50騎の竜騎兵の
波状攻撃により、トリスティンの少数の火竜は地上に釘付けにされ、騎兵はその数を減らしつつあった
波状攻撃により、トリスティンの少数の火竜は地上に釘付けにされ、騎兵はその数を減らしつつあった
モニターに赤く表示される小さな三角形、ルイズはズームカメラを起動させ、モニター画像を切り替えた
肉眼の356倍に拡大しモニターに表示されたデジタル画像の中に、ルイズは見紛うはずもない姿を認めた
白いユニコーン、短く切ったドレス、水晶の杖で臆すことなく劣勢の自軍を指揮するトリスティンの王女
肉眼の356倍に拡大しモニターに表示されたデジタル画像の中に、ルイズは見紛うはずもない姿を認めた
白いユニコーン、短く切ったドレス、水晶の杖で臆すことなく劣勢の自軍を指揮するトリスティンの王女
アンリエッタ姫の姿がそこにあった、ルイズはこの凛とした風格を持ち、しかし誰よりも繊細な姫が
戦場で危険に身を晒している様に胸を千切られるような気持ちになった、敬愛する王女、幼馴染のアン
戦場で危険に身を晒している様に胸を千切られるような気持ちになった、敬愛する王女、幼馴染のアン
この戦場で、一人のメイジと一台の移動機械に一体何が出来るというのだろうか、ルイズは考えた
貴族の名の元に参戦する戦、使い魔のKITTじゃなく、このわたしが判断し実行しなきゃいけない
貴族の名の元に参戦する戦、使い魔のKITTじゃなく、このわたしが判断し実行しなきゃいけない
「ねぇKITT、あんたの分子結合殻はこの世界のあらゆる物にも破壊不可能なんだったわよね」
「ええ、火竜の火炎放射も、魔法と称される自然現象兵器も、私の前には無力です、しかし・・・」
「ええ、火竜の火炎放射も、魔法と称される自然現象兵器も、私の前には無力です、しかし・・・」
「それなら・・・方法はあるわ!」
ルイズは身を隠していた森の縁から急発進し、トリスティン王国軍の屯す陣地にKITTを突っ込ませた
「KITT、あんたがするべき事はわかってるわね?、遠慮はいらないから思いっきりイっちゃいなさい」
KITTはルイズの求めに応じステッペンウルフの「Born To Be WILD」を大音響で流した
アンリエッタの乗るユニコーンまで真っ直ぐKITTを走らせる、目視で確認出来る距離まで近づいた
途端にトリスティンの騎兵隊が動き出し、アンリエッタ姫を守るようにKITTの前に立ちふさがる
精強と聞くマンティコア騎兵隊が展開するのを見て、そりゃそうだ、と思いながらルイズは頭を掻いた
自分達の姫様に向かって奇怪な黒い物体が突っ込んでくれば、普通は敵方の魔法か何かだと思う
途端にトリスティンの騎兵隊が動き出し、アンリエッタ姫を守るようにKITTの前に立ちふさがる
精強と聞くマンティコア騎兵隊が展開するのを見て、そりゃそうだ、と思いながらルイズは頭を掻いた
自分達の姫様に向かって奇怪な黒い物体が突っ込んでくれば、普通は敵方の魔法か何かだと思う
ルイズはジョン・ケイのギターにリズムを合わせるようにKITTを前後左右に動かながら騎兵陣を見渡す
「ルイズ、まずは斥候兵と接触して、書面か伝令で本部に着任をお伝えしたほうがよろしいのでは」
「悪いけどそんな時間は無いのよ、姫様にはちょっぴり『ろっくんろーる』な方法で挨拶しましょうか」
「悪いけどそんな時間は無いのよ、姫様にはちょっぴり『ろっくんろーる』な方法で挨拶しましょうか」
ルイズはKITTの進路を左に振る、統率の取れた騎兵隊が即座に左に集り、厳重な防御陣を敷く
今度は右に振ってみた、向こうもこちらから見て右側に騎兵を集中させ、銃を持った歩兵も同調する
厄介なのは軍勢が左に集中した時には右に数騎残り、右に集中した時には左に残る騎兵だった
防備の主力が他所に偏っても絶えず持ち場を守り、自分の側が重点になった時は騎兵が集まる中核となる
同様の警備は全方位に敷かれているらしく、士気の高いトリスティン兵士達の堅固な守りには穴が無い
今度は右に振ってみた、向こうもこちらから見て右側に騎兵を集中させ、銃を持った歩兵も同調する
厄介なのは軍勢が左に集中した時には右に数騎残り、右に集中した時には左に残る騎兵だった
防備の主力が他所に偏っても絶えず持ち場を守り、自分の側が重点になった時は騎兵が集まる中核となる
同様の警備は全方位に敷かれているらしく、士気の高いトリスティン兵士達の堅固な守りには穴が無い
ルイズは目視とKITTのレーダー画像を見比べて少し考え、その防備の中央にKITTを突っ込ませた
火竜の炎と騎兵の魔法攻撃が届きそうになる距離までKITTを近づけた、騎兵の顔がはっきり見える
一応、姫の女官として知られてたこっちの顔も見えたんだろうが、怪しい乗り物への警戒は解かれない
まともに兵士と接近していたら今ごろ疑われ殺されていただろうと思いながら、操縦桿を素早く切った
火竜の炎と騎兵の魔法攻撃が届きそうになる距離までKITTを近づけた、騎兵の顔がはっきり見える
一応、姫の女官として知られてたこっちの顔も見えたんだろうが、怪しい乗り物への警戒は解かれない
まともに兵士と接近していたら今ごろ疑われ殺されていただろうと思いながら、操縦桿を素早く切った
ルイズはアクセルを全開にしながら前輪の駆動をカットし、ほぼ一回転のスピンターンをした、爆音が響く
普段ルイズが好む、アクセルの微妙な操作で草原上をスケートのように四輪で滑り抜けるドリフトではなく
KITTの後輪のトルクを思い切り地面に叩きつけるパワーターン、大量の草と土と小石が跳ね上げられる
機能のひとつであるテールからの煙幕も作動させ、KITTの姿を一瞬の間、兵士達から隠したルイズは
前方を見ずモニターの赤外線画像だけを見ながら、盲となった防備陣の隙間にKITTを突っ込ませた
普段ルイズが好む、アクセルの微妙な操作で草原上をスケートのように四輪で滑り抜けるドリフトではなく
KITTの後輪のトルクを思い切り地面に叩きつけるパワーターン、大量の草と土と小石が跳ね上げられる
機能のひとつであるテールからの煙幕も作動させ、KITTの姿を一瞬の間、兵士達から隠したルイズは
前方を見ずモニターの赤外線画像だけを見ながら、盲となった防備陣の隙間にKITTを突っ込ませた
騎兵達の間を斜めに滑りながら通過したKITTは、そのままアンリエッタまで一直線に駆け抜けた
姫の乗るユニコーンを直近で守るグリフォン近衛隊の最終防衛線の頭上をターボジャンプで飛び越える
姫の乗るユニコーンを直近で守るグリフォン近衛隊の最終防衛線の頭上をターボジャンプで飛び越える
「ルイズ、私は故郷のデトロイト・ライオンズに、あなたをクォーターバックとしてお招きしたい」
アンリエッタ姫の目前で着地したKITTをスピンさせてスピードを殺した、軽い草が少し舞い上がる
ルイズは立ち上がり、足で操縦桿を回しながらTバールーフを開いて上半身を出すと、手を振って叫んだ
「ルイズ・フランソワーズ・ラ・ヴァリエール、使い魔のKITTと共に、ただ今馳せ参じました!」
……Born To Be Wild……
……Born To Be Wild……