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虚無界行-6

第5章 兵士とメイジと決闘と

結局、授業は半ばで中断された。残り時間は各々、自室で自習である。
爆発とその後の騒ぎで教室は荒れ放題。
至近で爆発を喰らったシュヴルーズは(命に別状無いとはいえ)医務室で意識不明とあっては仕方も無い。
ルイズに教えるのは初めてだったそうだが、彼女はもう少し、ルイズに関するうわさに耳を傾けておくべきであった。
気の毒な中年の女教師は、意識を取り戻したとしても今日1日は『錬金』の授業は行えまい。肉体的にも、精神的にも。

そして騒ぎの元を作ったルイズは、教室の片付けを命じられる事となった。
罰として魔法の使用は禁止―――――最も、使ったら使ったで更に状態を悪化させるだけだろうが・・・。

ああもう、何で私がこんな・・・あの使い魔にやらせてしまおう―――――などという考えは微塵も頭に浮かばなかった。
当然ではある。昨晩のルイズと同じ経験をして、まだ同じようなことを繰り返す人間が居るだろうか。
居るとすればそれは、自殺願望の塊のような人間に違いない。

よって駄目元で南雲に手伝いを頼んだルイズの姿は、
「ね、ねぇ・・・ちょっとだけで良いから、手伝ってくれない、かな・・・駄目?・・・駄目よね・・」
手を体の前で組み、体をモジモジと動かしながら問いかけるという―――――普段のルイズを知る人間が見れば、
人が変わったかと思うような様であった。

無論、それで簡単に心を動かされるような相手ではない。これまでの経緯が経緯である。
そう、ないのではあるが・・・

「―――――少しだけならな」
これには頼んだ当のルイズがおでれーた。もとい、驚いた。
自分から頼んだ事なのに、「ほ、本当に!?」と確認する始末である。
      • 精密な仕掛けで動くからくりも、時折は歯車の噛み合わせが狂う。
鉄で体と精神とを組み上げたかのようなこの男も、たまには気まぐれを起こすのかもしれない。

数十分後。
ルイズは箒で床を掃き続けており、南雲は席に座ってそれを眺めていた。
南雲がサボっているわけではない。自分の受け持ちが終わったから何もしていないだけだ。

爆風で倒れた机―――――数人が共に使う巨大なそれを、まるで積み木のように片手で引き起こした。
割れた窓―――――1人では抱えるのも難儀するだろうに、簡単に桟から外し、破片1つ落とさず運んでいった。
それらを見ていたルイズは、座っている南雲に文句を言う気にはなれなかった。まぁ、言っても平然としていただろうが。

掃除をしながら、ルイズの心は限りなく沈みこんでいた。
昨日、召喚と契約は成功した。平民の男というのは予想外だったが、とにかく成功だった。
しかし、こちらに従う気は無いという・・・抗議しようとしたら殺気をぶつけられた。
初めて知った。人を殺すのは、魔法や剣だけではないという事を。
『殺す』という意志だけで、心臓が止まりかねないなんて―――――。

続いて今日。授業に遅れるというな避けない所を見られた。
失態を取り返したくて、少しでも見返したくて、『錬金』をして・・・結果として、今の状況である。

ルイズは決して心の弱い少女では無い。
周囲の嘲笑を跳ね除け、時に噛み付き、いつかは自分も魔法が使えるように・・・と一心に努力し続けてきた。
だが、今は―――――他者からの言葉ではなく、自身の感情に。湧き上がる自虐に心が砕けそうだった。

自虐の気持ちを怒りに変えて、誰かにぶつけて発散することも出来ない。
今一番近くに居る人間にそれをやったらどうなるか、身を持って知っている。

排出されない澱みは、溜まっていくだけだ。
瞳が潤む。

ゴッ・・・、手近にあった教卓に軽く頭を打ち付けた。
そのまま動かない―――――動いてしまうと、涙が零れ落ちそうだった。

「どうした?」
南雲が声を掛けてきた。ピクッ、と肩を震わせるルイズ。
そういえば、この男は何故―――――
「な、何も言わないのね・・・私が、魔法が使えないってこと知っても・・・」
チラリと見ると、南雲は相変わらずの無表情でそこに座っている。

「使えるようになるために授業を受けるのだろう。全員が最初から完璧ならば授業も教師も必要無い」
その後、今気づいたという口調で、
「それならば、失敗したからといってこの罰は少々重いかもしれんな。
 他にも失敗する者は居るだろう。一々授業を遮ってこんな事をさせていては全体の効率も悪くなる。

 それとも―――――失敗は、1人1人に徹底して実感させ、償わせるという、それが貴族の慣習なのか?」
「・・・違うわ。他の皆は失敗しても爆発なんてしない。
 私だけよ、あんな事になるのは。どんな魔法でも毎回毎回爆発して・・・、

 聞いたでしょう―――――『ゼロのルイズ』って―――――」
言葉を紡ぐうちに、だんだんと涙声になっていく。
ズルズルと頭が下がり、体が沈みこむ。髪が床につくのも構わずに。

「どうせあんたも、私の事馬鹿にしてるんでしょう・・・そ、そうよね、魔法が使えない貴族なんて、いい笑いものだわ・・・。
 勝手に呼ばれて、怒ってるんでしょ・・・?言いたい事があるなら、い、いいわよ・・・好きなように罵ったらいいわ・・・。

 へ、平民の言う事なんて・・・ぜ、全然気になんかならないんだから・・・平気なんだからぁ・・・」
南雲に向けて肉付きの無い尻を突き出した体勢のまま、涙声で言い続けるルイズ。
自虐を通り越して被虐の段階に入りかけているのかもしれない。
この後のやり取り次第では、立派なマゾヒストが1人誕生する事だろう。
勿論南雲にはそんな趣味も無ければ興味も無い。
ルイズを静かに見つめると・・・おもむろに口を開く。

「罵倒が欲しいのか。 それとも慰めか、励ましか。
 そんなものが欲しいようには見えん。それに、言ったところで何も変わらん」
「え・・・?」
思いもかけない言葉を理解できず、ルイズは南雲を見た。今度ははっきりと。

「侮蔑なり、優しい言葉なりを受け続けていたら魔法が使えるようになるのか?
 そうではあるまい。何の影響も及ぼさないというなら、それはただの雑音だ。意味など、無い」 
ルイズは無言でそれを聞いていた。

人は、それほど強い存在ではない。他者の一言に心を揺さぶられ、時に絶望し、時に希望を見出す。
だからこそ、諸々の悲劇も起これば、喜劇も起きると言える。

その点で言えば、南雲の言葉を否定することも出来る筈だが―――――
なぜかこの男には、そう言い切れるだけの物が在ると、根拠も無くルイズ思った。
―――――それは、南雲の『強さ』を本能的に感じ取ったからかもしれない。
他の者には、絶対に冒せぬ『強さ』を。

「結局―――――自分を僅かでも変えていく可能性が有るとすれば、それは他の誰でもない。
 『お前自身』を置いて他には無いという事だ。

 そしてお前も、そう考えているから努力しているのだろう?」

南雲が手を伸ばし持ち上げたのは、置かれていたルイズの教科書であった。
ページは所々擦り切れ、手垢で黒ずんでいる。人並みの使い方では10年経ってもこうはならない。

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエールという少女は、癇癪もちで、生意気で、居丈高で
―――――そして聡明で、並外れた努力家であった。

ルイズには、意外だった。自分の言った通りに辛辣な言葉が飛んでくるか、もしくは完全に無視されるかと思っていたのに・・・。
自分がやってきた事を、ちゃんと見抜いた。自分を『ゼロ』と言ってきた同級生たちが、気にもかけなかったような事を。

「違うのか?」
「あ・・・・当たり前よっ!そりゃ今は上手くいかないけど・・・すぐに使えるようになって見せるわ。
 この学園の誰よりも上手く・・・・必ず!」
「・・・そうか」

短く答えると南雲は立ち上がり、扉へと歩き出す。話は終わったと言う事だろう。
と・・・扉の前でひょいと振り返ってルイズの顔を指差すと、

「直に昼だろう。早く終わらせろ。それから―――――

 早めに顔を洗え。涙と鼻水で見れたものじゃない」
そう言い置いて、教室を後にした。

ルイズの羞恥と怒りが混ざった妙な叫びが響いたのは、その直後であった。

学園の中を当ても無く歩きながら、南雲は先ほどの自分の行動を振り返っていた。
なんともらしくない。普段からああいう事をする性分では無いし、相手は勝手に自分を召喚した人間だ。
魔法が使えまいが使えまいがどうでもいいと思っていたし、今現在も基本そう思っている。
やはり異世界に呼ばれたという事で、思ったよりも大きく情緒に乱れが出ているのだろうか。

答えの出ない問い掛けを一旦切ると、南雲は厨房の方へ足を向けた。
これからも定期的に食事を分けてもらう以上、こちらも色々と手を貸すべきだろう。
今頃は生徒たちの昼食が終わった頃だろうか。皿洗いをするか、薪でも割るか。

厨房では、昼食後の片づけの最中であった。
「おう、秋人か!ちょっと待ってな、今一段楽した所だからよ。簡単で悪いけど、昼飯だ」
「有難い。 それから、手伝いに来た。何か出来ることはあるか?」
「はっは・・・本当に義理堅いやつだなお前さん。 
 ま、手伝ってくれるってんなら後でシエスタの手伝いに行ってやってくれ。さっきデザートの配膳に行った所だ」
「分かった」
「急がなくてもいいぜ。いつもシエスタだけでちゃんとやってるしな」

その後。高級な肉と野菜を挟んだ豪華なサンドイッチを食べ終え、南雲は食堂へと向かった。
食堂ではデザートの時間であり、生徒たちがあちこちに寄り集まって談笑していた。
シエスタは、すぐに見つかった。テーブルの1つの傍らだ。
      • だが、様子がおかしい。

「君が気を遣わなかったせいで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」
「もっ…申し訳ございませんっ!」
「ふん・・・最も平民如きにそんな機転を期待する方が間違いだったかな!」
生徒の1人が、顔を赤くして怒っている。
金色の巻き髪に、フリルのついたシャツを着たメイジである。
顔立ちは悪くないが、服装のセンスと相まって『気障』と表現するのが一番しっくりくるだろう。
金髪から時折何かが滴り落ちている。水も滴る良い男―――――というわけではあるまい。
そのメイジに向かって、シエスタが頭を下げているのだ。

何だ?僅かに困惑の表情を浮かべた南雲の傍らに、少女が1人近寄ってきた。
情熱を現実に表して植えつけたかのような髪―――――キュルケであった。
「お久しぶり・・・ってほどでもないわね」
「どういう事だ、アレは」
相変わらず、名前も訊かずにいきなり本題に入る南雲であった。
キュルケは顔を顰めると、それでも律儀に答える。
「キュルケよ・・・憶えてよね、おじさま。
 あそこのはギーシュ・ド・グラモンっていう女好きなんだけど―――――」

キュルケの説明を要約するとこういう事らしい。
ギーシュが落とした香水をシエスタが拾い上げ、ギーシュに渡そうとした。
だがそれが切欠でギーシュが二股をかけていた事がバレてしまい、その女2人から引っ叩かれるわ
ワインをかけられるわという修羅場になったらしい。すると、滴り落ちているのは水ではなくワインだったか。

「なら、そのギーシュとかいう種馬は八つ当たりでシエスタを怒っているわけか」
「た、種馬・・・?まぁ、そうなるわね・・・。ホント、バレないように上手くやるのも恋愛だってのに・・・」

少々時間が経ったが、未だギーシュの怒りは収まりそうに無い。
テーブルの上にワインの瓶が乗っている辺り、どうも昼間から一杯きこしめしているらしい。
酒が気を大きくし、理不尽な怒りを後押ししているのか。

この騒ぎに、周囲にはギャラリーも集まっていた。
しかし誰もギーシュを止めようとしたりシエスタを助けようとはしない。
むしろニヤニヤとした笑みを浮かべ見物している物が大多数であった。
他人の不幸は蜜の味とは良く言ったものだ。

南雲の元の世界での、オーストラリア・南北アメリカ―――――歴史上で、
先住民たちを虐殺しまくった征服者の、その根底にもこれと同じような思想が流れていたのだろう。

相手を自分たちと同じ人間と認めなくなった時から、人間はその相手に幾らでも残酷に、理不尽になれるのだ。

南雲の、貴族という連中に対する思いは「どうでもいい」という考えで占められていた。
それがまた、少しずつ変化していった。

決して、穏健なものではない変化に。
腹の底に湧き上がったモノ。それの名称は―――――?

キュルケは、目の前の公開処刑を決して快く思っていなかった。
いいかげん、ギーシュに対し一言言ってやるべきか・・・キュルケがそう思い始めた時だった。

ゾクリッ―――――。
全身を、悪寒が震わせた・・・キュルケは一瞬、死神に抱かれたのかと思った。
抱かれたのが一瞬ならば去るのも一瞬だ。吹き出た汗と共に、傍らを見る。

さっきと同じ、南雲秋人の姿形であった。そして・・・・さっきと同じでは、なかった。

「あ、あなた・・・?」
言うに先んじて、南雲が歩を進め始めた。ギーシュと、シエスタの方へ。
止める間もあればこそ、というような早足であった。

見る間に近づく。5メイル、4メイル、3メイル・・・ギーシュが気づいた。2メイル、1メイル。

「・・・ん?何だね君は」
少年―――――ギーシュ・ド・グラモンは、最後まで誰何する事が出来なかった。
下から掬い上げるように伸びた南雲の手が、下顎を押さえ―――――
「!!??」
そのまま、ギーシュの体は宙を舞った。
誰が信じよう・・・顎に掛けた片手の力のみで、人間の体を3メイル余りも投げ上げるなど!
跳んだからには着地せねばならない。ギーシュの体もそれに従った。すぐ後ろにあったテーブルの上へと。
ガシャーンッ、パリンッ・・・。
ケーキの乗った更の割れる音。瓶の転がる音に、
「がっ・・・!」
ギーシュ自身が上げた叫びが混じった。
派手な音が合図だったかのごとく、数秒間周囲が静寂に包まれた。
目の前で起きた、信じられない凶行を理解するためのタイムラグであった。

「あ・・・・秋人さんっ・・・!?」
驚愕に硬直しているシエスタに向けて、南雲は目で「行きなさい」と合図する。
硬直しきっているシエスタは、その意味を理解しても体が動かない。
自分を助けようとしてくれたのは分かる・・・・ああっ、でも・・・!

しかし、そのまま居たとしてももうシエスタに罵倒が飛んでくる事は無いだろう。
なぜなら―――――

「う・・・ごほっ・・・」
「お、おいっ大丈夫かギーシュ!?」
友人の手を借り、ようやくギーシュが立ち上がってきた。そして・・・睨み付ける。南雲秋人を。

なぜなら、憎悪の対象は今、完全に変わったからだ。

「き、貴様・・・っ!?確かゼロのルイズのっ・・・。
 平民の分際で、貴族にこんな真似をしてただで済むとっ」
「やかましい」
相手の台詞を最後まで聞かず、バッサリと切って捨てる。ギーシュも含め、回りの全員が絶句した。

 この男は、一体何だ?平民の分際で、こんなふざけた真似を・・・。もしや、どこか狂っているのか?

「他人の名を出す必要など無い・・・俺が、お前が気に入らなかった。それだけだ」
ギーシュを見るその瞳は、今は全く何の感情も見出せない。
ただ淡々と言うその口調だけは、嘘の無いことを証明して余りあったが。

そして、こんな言葉を聞かされた相手がどう出るか?
貴族と平民という立場を抜きにしても・・・・流れの予測は実に容易であろう。

「!!・・・・・きっ・・・貴様―――――!!」
ギーシュの顔は赤く染まりきっている。これほどの屈辱を受けたのも、怒りを感じたのも初めてに違いない。
周りの大多数の生徒達も、面白いわけはない。
言葉はボソボソとしか語り合わないが、疑いようも無い敵意が高まりつつあった。

しばらくして何とか落ち着いたのか、荒い息を吐きながらもギーシュは薔薇の造花を取り出し、突きつける。
「良いだろう・・・貴様には、言葉では身の程という物を分からせるのは不可能なようだ・・・・。

 決闘だ! いいか、ヴィストリの広場でだっ!必ず来たまえ・・・!逃げだせるなどと思うなよっ!」

流れは、実に予想通りの形を作り、動き始めた。
流れに乗れず、激流に飲まれるのは果たして―――――?

第5章―――――了

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