あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

豆粒ほどの小さな使い魔-7




ルイズが今から先生に、魔法について聞きに行く。
昨日のあれ、適当に言ったわけじゃないけど、魔法について何も知らない私の思いつき。
本当は止めた方がいいんじゃないかと、そうも思った。
だけど、真剣なルイズを見てたら、止めるなんてできなくて。
もしも私の間違いだったら、それでルイズが泣くことになったら、許してくれるまで何度でも謝ろう……

* *


「ミスタ・コルベール、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「おお、ミス・ヴァリエール、どうしましたか? もしや使い魔のことで何か?」
誰に聞きに行くか、頭に浮かんだのはコルベール先生だった。
ギトー先生は問題外だし、シュヴルーズ先生は、昨日の今日で爆発について尋ねるのは気が引けたから。
「いえ、ハヤテのことではなくて」
感情的になりすぎないように、授業中にノートに纏めたことを思い返す。
「魔法の、失敗についてお聞きしたいんです」
「ミス・ヴァリエール、それは……貴女が努力を重ねていることは、私たちはちゃんと分かっています。ですから諦めずに――」
「違うんです。そういうことじゃなくて、私は、自分がどういう原理で魔法を失敗させているのかをはっきりさせたいんです」
む、と先生が押し黙る。
「私だけでなく、他の生徒たちだって、魔法を失敗することはあります。新しい魔法を習ったときや高度な魔法に挑戦するときは、誰だってそうです。ですが、私の知る限り、誰一人として、私のように爆発を伴うことはないんです」
一息にそこまで言ってから、先生の顔色を確かめる。
私の言ってることが的外れの、ただの現実逃避なのか、それとも考慮に値することなのか。
まだ分からない。コルベール先生にしては、珍しく無表情。
けれど止める気もないみたい。少なくとも、話を聞いてくれている。
だったら続けよう。
「それで、長年教職にあった先生方にお聞きしようと思ったんです。今までの在校生の中に、私のように失敗魔法で爆発を起こす生徒がいたのかどうか。そしてもしいたとすれば、彼はどうやって魔法を会得したのか」
これは、前振りのようなもの。
最初から期待していない。だってもしそんな前例があったなら、先生たちだって教えてくれただろうし、指導法だってちゃんとあったってことなんだもの。
ただ、余計な可能性……先生たちが心底私に関ることを疎ましがっている……を、潰したかった。
「確かに……君の言うとおり、失敗魔法を爆発させる生徒は、当学院では君が初めてだ」
はぁ
溜め息が震える。一歩進んだけれど、それは奈落への一歩かもしれない。
「では、もう一つお聞きします」
これが本命。
「ミスタ・コルベールは、私の失敗魔法を再現できますか?」
教師を馬鹿にするなと怒鳴られるだろうか。そんなつまらないことを考えるくらいなら、まともな魔法が使えるようになるまで杖を振れと追い出されるだろうか。
だけど、コルベール先生が爆発魔法を再現してくれたら、そこから先生が理論立てて逆算してくれたなら、私は大きく前進できる。
何も今すぐ成功したいなんて言わない。どんなに難しくても、ただ手がかりが欲しい!
握った手に、どうしても力が篭る。

「……私には、できません」

え?
ちょっと待ってください。先生は火のメイジでしょう? 爆発なら専門じゃないですか。それに、私は生徒ですよ。ドットですらない。それが先生に再現できなくてどうするんですか。
頭の中が、一瞬ぐちゃってなって、言葉にならない。
「あ……の、それは、どういうことでしょうか?」
落ち着け。落ち着け。
「先生、は、今までに何度も、何十回も、私の失敗魔法を見てきましたよね」
一番最近だと、そうだ、ハヤテを召喚した時。あの時先生は私の後ろにいた。
「どうして私が失敗しているのか、私の魔法がどういう原理で爆発しているのか、検証されたことは……?」
返事がない。
考えてもいなかったの?
ただ、私が失敗しているのを、見ていただけ?
一番親身になってくれていると思ったコルベール先生も、無関心故の優しさだった?
ふざけるな、この部屋今すぐ吹き飛ばしてや――

ことりの、さえずり

『るいず』と呼んでくれる、小さなハヤテの。
真っ赤になってた視界に、少しだけ色が戻る。
胸ポケットの小さな温もり。コルベール先生に顔を合わせたくないからって隠れてるハヤテが心配してくれてる。
私にはちゃんと味方がいる。
コルベール先生は、強張った顔で杖に手を掛けてた。
「……ミス・ヴァリエール?」
「すいません、ミスタ・コルベール。改めてお願いしたいのですが、私の失敗魔法、どういう原理で爆発しているのか、検証して欲しいんです」
泣き喚いて逃げ出さなかったのは、本当に最後の矜持だった。
「今日はちょっと……無理みたいですから、後日改めてお願いします」
勢いよく頭を下げて、コルベール先生の研究室を飛び出した。
走って、向かうのは練習場。
練習にならないのは自分でも分かってる。だけど、このぐちゃぐちゃをぶつけたかった。涙も全部吹き飛ばしたくて、杖を殆ど叩きつけるみたいに振り下ろした。



「……あー……」
喉が痛い。頭もずきずきする。
完全に、風邪引いちゃったみたい。
昨日は、我ながら凄かったなぁ。
泣いてるんだか笑ってるんだか、自分でも分からなくなってたし。
コルベール先生にも悪いことしちゃった。
先生にだって、ちゃんと言い分はあるだろうし、それなのに話聞かないで一方的に決め付けちゃだめよね。
はふと溜め息をついたら、枕元で笛を吹いてくれてたハヤテが、心配そうに覗き込んでくれた。
「るいず、ウルサカッタ? ジャマナラ」
「ううん、そんなことないわ。もっと聞かせて」
「ウン」
ハヤテが草の茎で作った笛で、静かな曲を吹いてくれるのを、目を瞑って聴く。
コロボックルって、器用なんだな。
本当は、ショックを受けてる私を慰めようとして、作ってくれたんだよね。
風邪引いて弱気になってるときに、そんなに優しくされたら、泣きそうになっちゃうじゃないの、ばか。
もうどのくらいの時間吹いてるのか、ハヤテだって疲れるのに。
でも甘えちゃう。ちい姉様とは違うけど、ハヤテも同じくらい優しいね。


ふと、ドアをノックする音で目が覚めた。控えめな音。
「ミス・ヴァリエール、お目覚めですか?」
この声って、シエスタ?
ああもう、アンロックが使えたらいいのに。しょうがないから、ベッドからのたのたと這い降りてドアに向かう。
「お休みのようですね、では――」
そんな小声じゃ中の人は気がつかないわよ。
がちゃりとドアを開けたら、やっぱり。
「あっ お、起こしてしまって申し訳ありませんっ」
「ううん、ちょっとうとうとしてただけなの。それは?」
シエスタが両手で持ってるトレイには、小さな蓋つきの鍋。ほのかにいい匂いがする。
「ハヤテさんから、ミス・ヴァリエールが風邪を引いて寝込まれていると窺いまして、それで軽い物をお持ちしたんです」
「ハヤテが?」
いつの間にか肩に乗ってたハヤテが、私とシエスタの両方に見られてどきまきしてた。
「少シ、食ベタ方ガイイト、思ッタノ」
「おかゆに卵を落としてあります。具合が悪いときには、食べやすくていいんですよ」
ベッドに戻って、膝の上にトレイを置いて、蓋を開けたら、立ち上る匂いに思わず頬が緩んだ。
くすって小さく笑ったシエスタに恥ずかしかったけど、わざわざここまでおかゆを届けてくれた彼女には感謝したい。
「ありがとう、頂くわ――おいしい」
薄い塩味だけ、だけど、それが腫れた喉にはよかった。
ほんのり渋めの緑色の、シエスタの故郷のお茶も美味しかった。
「そうだ、お礼に、ハヤテの笛を聴いて行かない?」
にこにこしていたハヤテが、驚いたみたいにぴょんって飛び上がる。
「ルッ、ルルルルッ」
なに言ってるか分からないもんね。ハヤテには感謝してるけど、こんな照れくさいことしてくれた御礼しなきゃ。
「え? ハヤテさんって笛も吹けるんですか?」
シエスタにそう言われたら、流石に断れないのか、ちょっと赤くなったハヤテは、さっきまでとは違う、明るい曲を吹いてくれた。


私が食べ終わると、仕事があるからと名残惜しそうにシエスタは空になった食器を下げて行ってくれた。
朝よりも、かなり楽になった気がする。
私は、ハヤテの吹いてくれる子守唄を聞きながら、目を閉じた。




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